吹けよ風、呼べよ嵐
ある所に旅するオオカミがいました。
ある日オオカミが川で水を汲んでいると、川上から やせたキツネが どんぶらこどんぶらこと流れてきました。
泣きわめく双子の話を解釈すると、木の実を取ろうとしていたら、枝が折れて落ち、そのまま流されたらしい。
ずぶ濡れだったので、服を全部脱がせて毛布でくるんだ。初めて出逢った時と同じだ。
懐かしい気もするが、今回は双子が目を光らせているという点が違っていた。
見たところ幸い骨折はないようだが………なかなか意識が戻らないZロリの手当てをするために、Gオンは城に戻ることにした。
(母上が留守でよかった)
誰にも見られずこっそりと部屋へ入ろうとしたのだが、警備員と出会ってしまった。
「王子、そのお方はもしやZロリ王子では?」
飛び上がるほど大きな声にあっという間に人が集まってきて、囲まれてしまった。
「おおお…Zロリ王子だ!!」
「Zロリ王子よイヤーン!!」
城には王様大会の時 一度しか来たことがないのに。みんなの記憶力とZロリの人気に少々驚いた
「Zロリ王子またあの服なんですか?」
一人が言い出すと大騒ぎになった。それで納得した。…………かいけつ服の印象が強烈だったらしい。
だが、この騒ぎの中でも目を覚まさないZロリを見て、さすがにみんな異常に気がついた。
「医者を呼んでくれ。Zロリ…王子はケガをしているんだ」
「腹が…腹が減った」
数日後目覚めたZロリの第一声に、Gオンはあきれながらもホっとした。
疲れることや危険なことが大嫌いなZロリが、危険な場所の木の実を取ろうとしたほど飢えていたのだ。
山のように盛られた料理がすさまじい勢いで消えていく。
それに伴ってハデに汚れていくパジャマに、メイドたちの疑惑の視線が注がれていた。
(王族だということになっているのに…そんなに下品な食べ方をするんじゃない!)
「いやぁ〜Zロリ王子は昔から細かいことにかまわないんだからなぁ…こんなに汚して。子供かキミは!!」
なぜだか少し頬を赤らめながら、GオンはZロリの口もとや服をすばやく拭いてやった。
「ん、悪いねキミ」
「キミ…だと?」
「見ず知らずのおれにこんな親切にしてくれて……きっといいことあるぜ」
時間が止まった。Zロリの食事している空間だけが、忙しく動き続けていた。
「…冗談はよせ」
Gオンは絞りだすような声を出した。…何が起こったのか認めたくなかった。
メイドたちに声をかけて下がらせた後、もう一度確かめるように、話しかけてみた。
「キミは…私が誰だかわかっていないのか?」
「わからん」
あっさりと言い放った後、さらに信じられない言葉が続いた。
「ングング…実はおれもむもむもむ…自分が誰なんだかわから…ごくん…。ガリガリバリバリ…とりあえずんんっ食ってから考えるさズズ〜」
「んだんだ!食ってから考えるだ!」
「こんなごちそう、別のこと考えながら食うなんてもったいないだ!!」
IシシとNシシも次々と皿を空にしていく。
「ん?お前ら誰だ?…………ま、いっかぁ!!こんなにあるんだもんな。…あ、それ、おれも食べる!!」
(なぜ……なぜ平気なんだキミは?!)
ポンポンに膨らんだお腹を満足そうになで、とろんとした目をしているZロリの横で、もう双子は大いびきをかいていた。
Gオンはこの状況をそのまま受け入れることにした。
「考えても無駄なことは考えない…ってことかい?Zロリ」
…………その問いかけに返ってきたのは、双子に負けない音量のいびきだった。Gオンは…もう笑うしかなかった。
目を覚ましたZロリは、王子服(もちろんGオンのお下がりだ)を身につけ、鏡に見入っていた。
GオンはそんなZロリの姿をほれぼれと眺めていた。何を着ても似合う。似合ってしまう。
Zロリは窓辺に歩み寄り、いつもGオンがしているように外を見た。今は星が輝いている。
GオンはZロリの隣に立って、一緒にしばらく星をながめていた。
「自分が誰だかわからないのは、不安じゃないのか?」
「まあ、そのうちわかるさ。…しかしおれは誰かってことより、何をしようとしてたか、の方が気になるんだが…」
Zロリはひと息ついて、独り言のように言った。
「……なんかこう…胸がドキドキ…いやワクワクするんだ…」
今、王子服を着て、お城にいるのだ。あんなに叶えたかった夢をまさに体感していると言っていい状態だ。
記憶はなくてもZロリの魂の奥に眠るものが、それを感じているのだ。わくわくするのも当然だろう。
だが、Zロリには、自分の気持ちがなぜこんなに高揚するのかわからず、戸惑っていた。
…………そのあげく、少々カン違いをした。
やさしく降り注ぐ星明りの下、並んで立っている王子は理知的で美しく…そして細く引き締まった体は力強い。
カン違いするには十分すぎた。
カン違いすると、今まで平気で受け止めていたGオンの視線を意識して落ち着きがなくなってきた
「どうかしたのか?」
声をかけられるとますます息苦しい気がしてきて、外へ飛び出した。
部屋にいてはわからなかった…満天の星のもとへ。
足が速い。Gオンが追いついた時、Zロリは草に寝転んで空を見上げていた。
「おれは…本当に王子なんだろうか?」
ぼんやり空を見たままZロリはそうつぶやいた。
「なぜ?」
「こうしてて…なんだか思い出したんだが……旅をしていた気がするんだ。
星を見ながら野宿していた気がするんだ」
今度はGオンがどきりとした。記憶が戻る。そうしたらZロリはすぐに旅立ってしまうだろう。
(行ってしまうのか)
「世話になりっぱなしで悪いが、おれは明日発つことにする」
記憶が戻ろうが、戻るまいが、彼は旅立ってしまうつもりだと思うと やりきれなくなった。
(もう行ってしまうのか)
隣に座ったGオンが無言でうつむいているのをちらと見て、少し言いにくそうにZロリは続けた。
「その方が早く思い出せる気がするんだ。……思い出したらきっと礼をしに来る」
「礼はいらない。…当然のことをしたまでさ」
その言葉に、Zロリの中の何かが揺れた。
「…なぜだろう?…どこかでその言葉を聞いた気がする」
「そうかい」
そしてまた 長い長い沈黙。
Gオンは理解した。
この漂泊の者を止めることはできない。いくら望んでも、再び風が吹くのを止めることはできない。
理解はしたが、感情は別物だった。行かせたくない。
GオンはZロリの両脇に手を置き、その目を覗き込んだ。
それはすばやく行われたのだが、Zロリにはスローモーションのように感じられた。
二人はそのまましばらくじっとしていた。
「キミの目は空の色をしているんだな。おれ、その色が大好きなのを思い出した」
唐突にZロリにそう言われ、Gオンはそのまま固まってしまった。
(何気ない自分の一言が、相手をこんなにときめかせるなんて、キミはまるで意識していないんだろうな…)
いつだってそうだ。…………記憶がないのに いつもとまったく同じじゃないか。
Gオンの目を見つめ返すZロリの双眸は、星を映して濡れたように輝いていた。
「キミの目も…夜空の色をしている。私の好きな色だ」
GオンはZロリの目にそっとキスをし、襟元に手をしのばせた。
Zロリは一瞬びくりと動いた。Gオンの手に、激しい動悸が伝わってくる。体に力が入っているのがわかる。
頬を染めて目をそらしているZロリを見て、Gオンは少し急ぎすぎたかと反省した。
記憶をなくしているのだ。彼にとってこれから起こることは初めてなのだ。いつものはにかみ方ではない。
まるでZロリじゃないみたいな感じで痛々しくなってきた。
「すまなかった。……ここまでにしておこうか?」
「いや」
Zロリは目をそらしたまま、ぼそりと言った。
「続けてくれ。…………なんだか………なんだかとても大切なことをしようとしている気がするんだ」
声が少しふるえている。Gオンはやさしい声でこの緊張をほぐしてやろうとした。
「こわがらなくてもいい」
「ふ、ふん、だ、だ、だだだれが……こわがってるって??」
口の端を不自然に曲げて言う。笑っているつもりらしい。
(ああ…………やはりキミだ。間違いなく、これはキミの強がりだ)
Gオンはすごく安心した。もうすぐZロリは戻ってくると、確信した。
「やさしくするから」
Zロリは何も言わなかった。ただ、Gオンの背に手をまわし、ギュっと力をこめた。
しんとした庭に互いの息づかいだけが聞こえていた。
やがてそれは切なげなZロリの喘ぎとなり、そして交接音となった。
「あ…っ…な…マ……あ、あ、き……ミ……の……」
Gオンの動きに合わせて揺れながら、Zロリは何かを言おうとしていた。
Gオンは少し速度を落とし、それに耳を傾けた。
「名前…………を…キミ…………の…名前……を…………」
(名前?…………私の名前…だと………?)
Gオンは気がついた。
Zロリが今回ここへ来てから、Gオンは一度も名のっていない。その必要さえ感じていなかった。
城の者たちからも、ただ“王子”と呼ばれていた。
Gオンは再び速度を上げながら、Zロリにささやいた。
「Gオン」
とろけるような表情で、Zロリはそれを聞いていた。やがて絶頂を迎えるまで、何度も何度もその名を呼んだ。
Gオンが目を覚ますと、そこにZロリの姿はなかった。
(行ってしまった)
探す必要はなかった。…………行ってしまった。風はまた動き出したのだ。
ふと見ると、傍らに赤い薔薇が一輪置いてあった。
Gオンは少し震える手で、それを拾いあげた。
(私との別れのあいさつを…………キミは思い出したというのか?)
喜びと期待にはげしい動悸を感じながら、Gオンは薔薇の香りをかごうとした。
その時、ばちん!!と音がして、鼻に痛みがはしった。
Gオンは思わず声をあげ、鼻を押さえた。…………せんたくばさみがはさまっていた。
戻ってきたのだ。Zロリが戻ってきたのだ。Gオンは痛みよりも笑いがこみあげてきて仕方がなかった。
「どこへでも行くがいい。私はきっとキミを見つけて…おしおきしてやるぞ!!」
おそまつさまでした。(2005年7月29日)
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