奇跡の森
Gオンは今日も書類の山にかこまれていた。目を通してサインしなければならないものが後から後から積み上げられる。
このあと剣と格闘技の稽古も入っているし、隣国の王にも会わなければならない。
ひと段落ついたので、首を回し、背伸びをした。
窓に近付き、愛用の双眼鏡を目に当てた。城から出られないとき、これで外を眺めるのが唯一の楽しみだ。
庭一面に春の活気がみなぎっている。
Gオンは庭をすみからすみまでゆっくりと眺めていたが…………やがて一点を見て動きが止まった。
みずみずしい緑色の庭の中に、鮮やかな黄色を見つけたからだ。
「…Zロリ…!!……また逢えるとは……フ、どうやら 私の庭に迷い込んだようだな」
Gオンは必要に迫られていろいろなことを習得している。
読唇術もその一つだ。離れていても、相手の話していることが理解できるのだ。
しばらく話を読んでいると、Gオンが子供の頃から“庭”と呼んでいる場所を、Zロリたちは別の名前で呼んでいた。
「ずいぶん森の奥に来ちまったな。出口はどっちだ?」
「せんせ、ところでハラへっただよ」
「オラも。このへんで一休みしたいだ」
「ハラへったか。そうだな……これだけの森だ。さがせば食べられるものがあるにちがいないぞ」
Gオンは部屋のすみに控えているサングラスの男を呼び寄せた。
「あの一帯の木には食用の果実は ならないんだったな」
「さようでございます」
Gオンは男にいくつか指示を出し、男は携帯通信機ですばやく伝達をすませた。
そこは奇跡の森だった。
「せんせ、こっち来てみてくれだ!!こんなのオラ見たことないだよ!」
そこらじゅうにキノコが顔を出していた。軽くつまんだだけで簡単に地面から取れる。
「せんせ、ここも!」
近くを流れる川には水が真っ黒に見えてしまうほど魚がいる。
木には果物が鈴なりだ。
「こりゃすっごいぞ!!………そうか、ママだ!ママがぼくたちをここへ導いてくれたんだね?!」
もうZロリは泣けてしかたがなかった。
「うぅぅ…………ママぁ…………ありがとう…………」
双子は泣いているZロリをそっとしておいた。あわてることはないのだ。
この森では食べたいものが取り放題、食べ放題ヨロレイヒ〜なのだ。
双子は川にざぶざぶと入り、思う存分魚を獲った。キノコを両手いっぱい抱えてZロリの所へ戻った時、
Zロリは大きな木の下で、リンゴの山に埋もれていた。
Iシシは、はた、と気がついた。
「せんせ………こんなことを言うのもなんだが…時期はずれの食べ物もたくさん取れるだ。不思議な森だな」
「そうかぁ〜…………ん〜……カリコリ……まっ、シャリシャリ…細かいことは気にせ…あむあむングング…ハラいっぱい食っとけゴックン!!」
「………食べるかしゃべるかどっちかにして欲しいだ………」
「Gオン様、もう少し放流しますか?」
魚がいっぱい入った袋をかかえてたずねる男たちに、Gオンは言った。
「もう十分だろう。木の実班もキノコ班もよくやってくれた。ありがとう。戻っていいぞ」
「はっ、ありがたき幸せ!…………あの、Gオン様はお戻りにならないので?」
「少し散策してくる。気分転換だ」
「では、我々もご一緒に!!」
「………いや。しばらく一人になりたい。いいか、ついてくるなよ」
Gオンは森の中へ消えていった。
「Gッ、Gオンさまぁぁ〜…………」
「まあ、いつものことだなあ…………」
Gオンはにぎやかな歌にさそわれるように歩いて行った。やがて目の前が開け、山の恵みに囲まれている三人に出会った。
「やあ。………また逢ったね。Zロリ」
「Gオン?……なんでおまえがここに?」
なんでと言われても、ここはGオンの庭なのだ。だが、それを言うわけにはいかない。
「風が私を呼んでいたのさ」
「あいかわらず わかんねぇヤツだ」
「まー、いいじゃないかIシシ」
Zロリは自慢げに鼻をつんと上に向けて、とてもご機嫌だ。
「今日おれさまは気分がいいんだ。食べ物がこんなにあるんだからな。Gオンもこっちに来てなんでも食べていいぞ」
GオンはZロリに歩み寄った。果汁で濡れた体から甘い香りがただよっている。
こんなに汚れるほど夢中で食べて。…………そんなに空腹だったのか。
そのまま鼻先を寄せて、すっと目を細めて……ささやくように言った。
「そうかい…………では、…まずキツネから…………」
おそまつさまでした。(2005年4月27日)
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