双子恐怖症

生まれたときから、国を背負うことを運命づけられていた王子が、“何か”を求めて独り、生まれ育った城を抜け出した。
あてもなく、その“何か”を探しているうちに、自分の意志で決めた道をまっすぐ進む旅人に出会った。
王子には旅人のそんな姿がまぶしかった。風まかせの旅がうらやましくもあった。

何度か出会うたびに、旅人のことを少しずつ知った。
彼がおたずね者でもあると知った時は、なぜかうれしかった。自分も幼い頃から謀反人に命を狙われている。
追われている者という、自分との共通点を見つけたような気がしたから。というのはおかしいかもしれないが。
彼とは住む世界が違うと思っていた王子には、そんなうれしくない共通点でも大切なものに思えて仕方がなかった。

そう、Gオンは幼い頃から命を狙われていた。何度も危ない目に会ったが、あるときは知恵で、あるときは強運で切り抜けた。
そして今度は技術で切り抜ける方法を考えていた。

城を抜け出したことがわかれば、すぐ奴らが追ってくる。気付かせないうちに、できるだけ城から離れてしまいたい。

Gオンは、機械で自分の身代わりを作った。何度もテストを繰り返したが、もう一つ納得できなかった。表情や動きの自然さに欠けるのだ。
いくらがんばっても、それが機械であることは明白だった。これではたいした時間かせぎにならない。
自分よりすぐれた技術を持つ者に、教えを請う必要があった。…………思い当たる人物がいないわけではないのだが…。
少し、いやだいぶ迷ったのだが、…………結局その人しか思い浮かばなかった。


「どうじゃ、こんなところで」
Kンロン博士はいくらか修正を加えたメカGオンを連れて現れた。Gオンは思わず身震いした。

「すばらしい!!鏡を見ているようだ」

メカGオンはふっ、と鼻で笑った。
「おかしなものだな。自分が二人いるというのは。…もういいだろう。私はこれから行く所があるのでね」
「あ、ああ…こんなことまで言うのか」
「フォフォフォ、なかなかじゃろ〜。では最終チェックといくかの」
「最終チェック…?」

メカGオンは、優雅なしぐさで薔薇を投げると、どこかへ去って行った。

「ちゃんと戻って来るんですか?」
「心配いらんよ。あれが行く所はこれに映るんじゃ」
博士の言葉と同時に、目の前のカーテンがスルスルと開き巨大スクリーンが出現した。
「ワシの趣味じゃよ。ちょっとした劇場みたいじゃろ」
博士は、口を開けて見ているGオンを振り返りにっと笑った。

スクリーンには外の景色が映しだされていた。歩調にあわせてわずかに揺れていることが、メカの視点カメラであることを示していた。

やがて画面に現れたものにGオンは身を乗り出した。…………Zロリだった。
目を閉じてじっと動かない。やすらかに、規則的に呼吸している。
「なんじゃ。昼寝中か…」
どこかの日当りのいい丘らしかった。あたりに人の気配はない。いつも一緒にいるイノシシの双子もいない。
「おつかいにでも出かけておるんじゃろう。今がチャンスじゃ」
(チャンスって、何の?) Gオンは思ったが、神経の大部分がZロリの寝顔を愛でるために使われていたため、あまり他のことは考えられなかった。

「いい顔で寝とるの〜」

博士もZロリの寝顔をうれしそうに見つめている。
ほどなく画面にはGオンの手が映り、Zロリの体のあちこちに触れ、撫でたり揉んだりし始めた。自分が触れているような気分だ。
Zロリは目を開けた。
「んん…あれ、なんでこんな所にいるんだGオン…………ん〜?何してんだ??……あ……ぁ…ふ……ぁ……」
Gオンが、(なんかおかしい!!)と、気付いた時にはもう遅かった。Zロリの息が荒くなってきているのがわかる。
「いつもながら見事な流されっぷりじゃな」
「え?!なんで抵抗しないんだ??」
「ハッキリ目が覚める前に、気持ちよくなってきたようじゃな〜」
やがて、黄色い毛皮の中から顔を出した、かわいい塔から透明な液があふれるのが見えた。
視点カメラがそれにズームインし、画面が暗くなった。
「あ…あぅ……んっ…………うっぅ………」
真っ暗な画面に、Zロリの声と、チャプチャプという水の音がしばらく続く。
またZロリの顔が映ったと思ったら、常にわずかに揺れていたメカGオンの視界が、規則正しく、上下に大きく揺れ始めた。
画面に映し出されたZロリの顔はますます紅潮し、途切れ途切れに、

「あ、あ…ぁ………G、Gオ…ん…ん…………」

などと、声をあげている。………その意味するところに気がついたGオンを仰天と当惑が襲った。思わず立ち上がり、叫んだ。

「な、何だっ!!これは…どういうことだ!!」
KンロンはGオンの剣幕に驚いた。
「ん??こうして、うちのモニターで堪能する、こういう目的じゃろ。ワシもよくやるぞ。ほれ、こっちに今までのが」
Kンロンが指し示した棚には、今まで撮りためたディスクが、ばばーん!!と並んでいた。

「いいじゃろ〜、ワシのライブラリーじゃ。……もちろん誰にも見せんが、キミになら1泊2日1000円で貸してもいいぞ」
「なっっ、なにをバカなっ!!」
と言いつつ、Gオンの目は知らず知らずにディスクに書かれたタイトルを追ってしまうのだった。

(それにしても、メカがあそこまで動くとは…Kンロン博士は天才だ)

そう思おうとしたGオンは、Kンロンがさっきから何か持っているのに気が付いた。

「何ですか?その、手に持ってらっしゃるモノは?!」
「あ、ウ〜ム、こ、これはだな〜………」
「ひょっとして…………コントローラー!!」

ばれたか!!という表情を見せる博士から、Gオンはそれを奪おうとした。
「待て待て。これはなかなか難しいぞ。…自分でやってみたい気持ちはわかるがの」
「やってみたいのではない!!止めたいんだ!!(こんなもので動かしていたのか!天才じゃなくて変態だ!!)」

画面に映っている一大事を、早く止めなければ。

「止める?……ならば、どういう目的で、自分なんか作ったんじゃ??」
「そ、それは……(言えない。王子だということは秘密だ)……とにかくそれを渡して下さい!!」
「イヤじゃも〜んだ!!」

奪い合ううちに、コントローラーは宙に舞い、ガチャンと音を立てて砕けた。

二人の間に流れた沈黙はすぐに破られた。…………Zロリの悲鳴によって。

二人が見た画面はメチャクチャに揺れていた。コントローラーの破壊によって、制御できなくなったメカの視点には
激しく振り回されているZロリが映っていた。

「あ、あそこはどこなんですか!!」

「う〜ん、あそこに着くまで何分じゃったかな〜。方角は…と」
もどかしい。Gオンは走り出していた。


やっとのことで探しあてた時、エネルギーを使い果たしたメカは動きを止めていた。
汗やオイルや白いものその他でぐしょぐしょに汚れた体をメカから外して、すこし揺り動かした。
「Zロリ、…大丈夫か!?」
一目見ただけで、大丈夫じゃないことは明白なのだが、こういう時にはついそう言ってしまうものだ。
激しく抵抗したらしく、全身ボサボサのズタズタという状態だった。
涙で濡れた虚ろな目が、すぅっ…とこちらに動いた。そして視界にGオンをとらえた瞬間、そのまなざしが驚愕と恐怖の色に染まるのを見て
Gオンは胸が押しつぶされそうだった。そんなつもりじゃなかったとは言え、自分の手でつくったもので大切な友達を傷つけてしまったのだ。
服が汚れるのもかまわず、その震える細い体をきつく抱きしめた。 それだけが、今できることの全てだった。









IシシとNシシは困っていた。

「せんせ、せんせってば」

「あぁぁっ!!おまえたち、おれさまの前にそろって出てくるなって言ったろう!!…いいか、ひとりずつだぞ。ひとりずつだからな」

同じ顔が二つ並んでいることが、平気になるにはしばらく時間がかかりそうだった。



おそまつさまでした。(2005年3月27日)

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