そんなワケで…
「散歩だよ」
そう言い残して一人になった。
だからといって、別にどこに行くあてもないし、することも思いつかない。
居心地のよさそうな木陰を見つけてごろりと横になった。
心の中には後悔と、甘ずっぱいような気持ちがうずまいている。
激しい吹雪の中で青ざめて倒れている彼を見つけた時のことを…
車の中で少しずつ血の色を取り戻す彼に触れていた時のことを想った。
名はなんというのだろう。どこから来てどこへ行くのだろう。
手が彼の感触を覚えている。抱き上げた体の軽さを覚えている。
この町を出たら、二度と会えないのか?
自己紹介も必要ない、なんて、どうして言ってしまうのだろう。全く…私は…。
空気の乱れを感じて顔を上げると、小さなイノシシが息をはずませていた。
「ハァ、ハァ…やっと追いついただ……」
(…??…………誰なんだ??)
Gオンの表情など全く気にせず、Iシシは続けた。
「流れ者さん、あんたカッコいいだなぁ。オラ、あこがれちまうだ!!」
(ああ。一緒に倒れていた子供か)
「キミは?」
あんな無茶につきあっているからには、ただの関係ではないだろう。
Iシシは思いっきり胸をはり、小さな体をぐっと反らした。
「オラは双子の兄のIシシ。オラたちはせんせの弟子だ。どこに行くにも一緒だ」
「弟子…か。あんな無茶につきあうのも大変だろうな」
「オラたちはせんせのあんなガムシャラなところも好きだ。せんせといればいつだって間違いねえだ」
(遭難していたのに?)Gオンはおかしくなり、少し鼻を ふん、と鳴らした。
「確かに今度ばかりは危なかっただな。流れ者さんが通りかからなかったらオラたちもうダメだっただ。
でも、せんせガンコだから、あれでやりかたを変えるとは思えねえ。…でもオラたちはせんせについて行くだ。
地獄の底までついて行くと誓っただ!!」
「地獄の底とは…………穏やかじゃないな」
「オラたちはそんだけ覚悟して旅をしているだ!…それに……それに…………」
なぜかIシシの顔にだんだん締まりがなくなっていった。
何か思い出しているらしい。興奮してきて、聞かれもしないことを口走りはじめた。
「夜は…………天国なんだぁ…………うへっ、へへへへ…………」
Gオンは寝転んだまま、Iシシの話に全神経を傾けた。
「寝てるときのせんせは何やっても起きないだ。しかも、どこ触ってもカワイイ声出すだ」
(確かにあの時もなかなか目を覚まさなかった…)
「こないだもウトウトしてる所があんまりカワイかったんで、ちょこちょこっとかわいがってたら、
ウトウトしたまんまでだんだん気持ちよくなってきてる所がまたイイんだぁ〜
あまりイイもんだからつい最後までやっちまった……エヘヘヘ…イク所がまた最高にカワイイんだぁぁ〜」
GオンはIシシの話にあわせて車の中の出来事を反芻していた。
とても感度のよい動きと声。抱き心地のよい体。しかも、どんなに触れても目を覚まさない………
(ああ。そうだな…………)
「でも、なんって言ってもかいけつZロリのせんせが一番だな!」
(かいけつ…Zロリ…?…………なんだ…それは??)
Iシシは幸せそうにへへへへ…と笑って続けた。明らかに鼻息も荒くなっている。
「せんせは特別はりきったりすると、別の姿になるだ」
「別の…姿……??」
「顔を黒いマスクで隠して、青ムラサキの薄〜いピッタリピチピチの全身タイツ着て…」
(顔をマスクで隠す??あっ、あっ、青ムラサキ…………しかもピッチリ。あの体にピッチリ……!!)
「そんで あばれ回るだよぉ!!」
「あっ、あばれ回る…………!!!」
「そのたんびにあっちがキュッ、こっちがキュッ!!て食い込むところが見られるだ!」
(おお…………)
「一緒にいればその姿がまた見られるだ!!…………と、いうワケでぇ〜…………
オラたちはZロリせんせと旅をしているだ!」
Gオンの脳内では、まだ見ぬかいけつZロリが青ムラサキピチピチ全身タイツで軽やかに踊っていた。
血が。Gオンの若い血がたぎる。
でも、なに食わぬ顔をして…
「そう…かい……」
そう言うと、ふんっ、と小さく声を出して起き上がり、天を向き始めたものを隠すように膝を立てた。
あくまで…あくまで平静をよそおいながら、つぶやいた。
「先生…………ねぇ…」
おそまつさまでした。(2005年7月11日)
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