すべてがアホになる

Gオンはぼんやりと美しい月を眺めていた。
きれいな満月だと思っているうちに、同じ月の下にいるZロリに、たまらなく逢いたくなった。
逢いたい。すぐに。そして、彼のツヤツヤした体やふわふわしたシッポをあーしたりこーしたりしながら、
彼の声をいつまでも聞いていたい。………でも、今どこにいるのかわからない。
ただ一つだけの心あたりを思い出した。
そうすると、いてもたってもいられなくなった。


ただ一つだけの心あたり。それはKンロン博士の研究所だ。KンロンはGオンを覚えていた。
「おお、あの時の……。久しぶりじゃな。Zロリに用かね?」
「ウ…いえ、あの…、時空移動マシンのことで、わからないことが出てきたので…………」
「あれか。うん、おまえさんも大したものじゃな。その若さであれほどのものを作るとはのう。そこの部屋で待ってなさい」

Gオンがドアを開けると、部屋の中のソファに、Zロリがダラッと寝転んでいた。
「Zロリ!いたのか」
「んん〜……?」
とてもけだるそうな様子をしている。返事さえ面倒だというように。
(体の調子でも悪いのか?なんだかいつもと違うな…しかし、こういうアンニュイな姿もまたいいよ……)
「はぁぁ…腹へった……」
(なんだ。相変わらずだなキミは)

Gオンががっかりしていると、Kンロンがなにかチューブのついたタンクのようなものを持って入って来た。
そのタンクを見たZロリの様子が変わった。目を輝かせてソワソワしている。
「そろそろこれが欲しいんじゃろ」
Zロリは首がちぎれるかと心配になるくらいはげしくこくこくとうなずいている。しかもよだれを滝のように垂らして。
「よしよし、ホレ」
そう言われてZロリが取ったポーズを見て、Gオンはその場に倒れそうになった。
Zロリは四つん這いになり、お尻を高く上げ、博士の方に向けて…言ったのだ。
「うう…………は、はやく…はやくして…くれ」
「まあ、そう急くな。Zロリ」

「ちょ、ちょっとま、待った…………あの〜…私の目の前で何をなさっているので?!」

KンロンはGオンの方を見て、細い目をさらに細くし、にまっと笑った。そしてZロリのシッポを持ち上げて、
その下にチューブを挿し込んだ。

「んんっあ!!…………は…ぅ!!…………」

Zロリの体が反り返るのを見ると、Gオンはたまらずドアの方にダッシュし、開けようとあせってガリガリ引っかいた。

「うああっ!!いかんいかん!!こんな所見ちゃいかん!!」

取り乱すGオンにKンロンはのんびりした調子で言った。
「フォフォフォ…そう興奮せんでもいい。エネルギー補給じゃ」
「はっ…?!では、これは、あの…………??」
「冷たいパパじゃの〜。もう自分の子を忘れていたのか〜?」
よく見ると、目の前のZロリは確かにGオンが作ったものだった。しかし当時の面影はないと言ってよかった。
Kンロン博士の手によって、さらに進化をとげた彼は、表情も動きも本物と見分けがつかない。
唯一ちがう所に気がついた。Zロリがいつも見せる恥じらいを、ロボットの彼は持たない。
Zロリの恥じらう姿がどんなにいとおしかったのか、今さらのように確認するGオンだった。

「これもZロリと呼んでは本物と区別できないようですが?」
「そうじゃな〜。ZロリとZロリではKンロン混乱するからの。…………こっちはゾRリと呼ぶとしよう」
(わかるようでよくわからない区別の仕方だが、字ではわかるから…、ま、いいか……)

そう言っている間にもゾRリは切なげな声をあげている。当然だが、Zロリとそっくりな声を。

「ん………うぅ……はぁ……」

体内の燃料タンクが満たされていくうちに表情が恍惚としてくるようになっているらしい。
おかしな気分になってきて、とても正視できない。


数分後、ゾRリは小さく呻いて再びグッタリとなった。Kンロンはチューブを抜いた。
「よし、満タンじゃ」

「あの、なんでエネルギー補給をこんな風にしたんですか?」

「カワイイからじゃ〜!」

(くうぅッ!……Kンロン博士…………!!あなたという人はッッ……!!)
Gオンが作った時はエネルギー補給口は背中にあったのに。
Zロリにこんな所を見られては、Gオンが変○だと思われてしまう。
その時、タイミング最悪なことに廊下からZロリの声がした。

「じーさん、こないだ借りた工具、返しにきたぜ」

(うわっ!!…い、今入ってこないでくれ…!!)
Gオンは祈るような気持ちだった。
「おお、Zロリか。今取り込み中で手が放せん。ちょっとそこでオ○ニーでもしながら待っとれ」
「わかった。……くっ……んんっ!…………………はぁ…っ…………って、やるかぁぁッッ!!」

勢いよくドアを開けて入って来たZロリと、ゾRリの目が合った。
カミナリベタフラをバックに、竜と虎が絡み合う図の前でにらみあう二人に、Gオンの喉が、ごく、と鳴った。
「今さら来たってもう遅いぜ!!博士はオレさまのものだッッ!!」
「なにィ?!ニセモノのくせして何言ってんだ?!本物がニセモノに負けるわけないぜ!」
(い、いきなり何を言い出すんだ二人とも?!)
混乱するGオンの横からKンロンが出てきて、二人にスイカくらいの大きさの物を手渡した。

「ほれ、これで勝負せい」
「なんだこれ?」
不思議そうな顔をするゾRリにZロリが勝ち誇ったように言った。

「ふふん!やはり子供時代のない作りモノだなぁきさま!教えてやろう!これはオッ○イアイスというものだ!!
子供なら必ず一度は食べなければならない、通過点というヤツさぁ!!…しかも、特大だぜ!!」

どうだ!という顔で声を張るZロリ。そしてますます混乱するGオン。
(どうしてここでオッ○イアイスなんだ?!……な…謎だッ!!)
「あの二人を本気で対決させてみい。巨大メカ作って破壊のかぎりを尽くすぞ。だからこれで勝負させるんじゃ」
「はっ…!!」

Gオンの脳裏に、燃え盛る街と逃げ惑う人々を前に高笑いする悪の貴公子、Zロリの姿が浮かんだ。
王子として、国民が巻き込まれるような事態は避けねばならない。
しかし……だからといって、なぜオッ○イアイスなのかは謎だ。謎のままだ。

そんなGオンをよそに、Kンロンは二人に、言い渡した。
「オッ○イアイスいやしんぼ食い一本勝負!始めッ!!」

「いやしんぼ食いでニセモノに負けるわけがないぜぇぇ!!」
「きさまなんかに博士を渡すわけにはいかないぜぇぇ!!」
ZロリとゾRリは特大オッ○イアイスにかぶりつき、いやしんぼ食いを始めた。
んぐんぐペロペロチュパチュパ、……そして(Zロリだけ)ハァハァ…という、淫靡な音で部屋が満ちていく。

Gオンはその様子を魅せられたように見つめることしかできなくなっていた。
(なんて…なんて姿だ………“いたずらの王者になる”だと?……キミの存在がすでに神のいたずらだ…!!)

「ん〜、いいのう〜。いい勝負じゃのう〜」

確かにいい勝負なのだが、生身の悲しさ、Zロリは、顔がだんだん紅潮し息が乱れてきた。

「んっ…くっ…ふ………んん………っふ…………」
(負けるもんかぁ!!…………負け…………っく…ダメだ……息が続かんッッ!!)
息継ぎのために思わず口を放してしまった瞬間、風船がキュッと縮み、Zロリは顔一面に、溶けかけのアイスを浴びてしまった。
その冷たさでZロリは我にかえり、急激に羞恥心がこみ上げてきた。

(何やってんだおれさま…………Gオン…あきれてるんだろうな…)
なんだか潤んできた目を、そのまま流して、Gオンに向けた。
GオンもずっとZロリを見つめていたので、顔面アイスまみれで目を潤ませるZロリの流し目の直撃を受けてしまった!!
(うっ…………!!)
体がカッと熱くなった。その熱が一点に集中し、膨らんで爆発しそうになるのを感じた。

「くぅぅッ!!……ああぁぁぁッッ!!…(母上、もうしわけありません―――――ッッ!!)」

「お手洗いはあっちじゃよ」

示す方向に全力疾走するGオンを見送りつつ、Kンロンはつぶやいた。

「んん〜…若いって……イイのう〜……フォフォフォ…………」

すっかり意気消沈しているZロリに向かって、ゾRリが勝ち誇ったように言った。

「どうだ!これで博士はオレさまのものだぜ!…ねっ、Kンロン博士」

「はぁっ?!………博士って………じーさんの方かよ!!」

(おれさま…何で意地になってたんだ…………)
Zロリは、激しい脱力感で気が遠くなっていくのを感じていた。





おそまつさまでした。(2005年2月17日)

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