だだあまーいエロ。
綺麗なお兄さんは、好きですか?(古)
04:昨日の続き
「やったことないのか、もしかして」
彼の言葉に、僕は、えーとォ、とかあのぅ、とか、一生懸命ごまかしの返事を考えてみたんだけど、彼は、僕の様子で納得したみたいだった。
うわ、どうしよう。呆れた顔してる。
「あ、あの!でも僕一生懸命頑張るしっ…」
どうしよう。どうフォローすればいいのか。焦れば焦るほど、うまく言葉が出てこない。彼はいつも通りの、冷静な顔で、僕をじっと見上げている。昼間に比べて涼しい筈の、初夏の夜の空気すら、僕の赤面を抑えてはくれない。
ちょっと、緊張でボタンを外す手が震えて、服を脱がせるのにもたついただけなんだけど、彼は、判断が速い。というか、割合に短気だ。
「えっと、その…ごめん」
ふうー、と彼は肩で溜息を吐いて、むっくりと腹筋だけで起き上がった。脱げかかったシャツをさっさと脱ぐと、身体を捻ってベッドの柵に引っ掛ける。その様子を、僕は彼の膝の上から、じっと目を離せずに追った。厚い胸、太い腕。背丈は同じくらいなのに、体重は僕の方が重いのに、彼のこの、男っぽい見目良さは一体何なんだろう。
そんな彼が暮らしているとは思えない、狭い部屋だ。狭い部屋に、ここで眠れるのかと思う程狭い寝台。小さなチェスト。サイドボードには水差しと酒瓶と、コップが一つきり。勿論この部屋の手前には、もう少し居心地のいい居間があるのだけれど。
彼はあの赫と金の目でじろりと僕を睨んで、ちょっとだけ笑った。
「一度だけだからな」
************
彼は良く町外れの草ッ原なんかにいて、ただ座っていることが多かった。僕が彼を見つけたのは、ほんの偶然で、直ぐ側を通るローカル線に乗っていた時、彼が見えたのだ。普段町で見掛ける時には、不機嫌なのかと思うくらい鋭利な雰囲気が、まるで郊外に拡がる薄曇りの空のように、くすんでぼんやりとした顔に変わっていた。さわさわとなる草叢の中、風に嬲られる彼の金色の髪がとても印象的だった。
そんな様子を、僕は何度も何度も、列車の中から見ていた。町から遠離る時、近付きつつある時。彼が居るのはさまざまで、夕方だったり朝方だったりする。何となく気になって、彼の佇む側まで行ったのは、何と半年も経ってからだ。彼は、突然現れた僕に、酷く驚いた。当然だろう。
半年前から、ずっと見ていたのだというと、彼は眉根を顰めていた。一体あの時、彼は僕に、どんなことを思っていたのだろう。きっと、鬱陶しい奴だと思われていたのに違いない。僕はと言うと、こんなところで半年間、幾度も幾度も見掛けた彼に、すっかり親しみを覚えていた。彼は、普段からあまり人付き合いをしない。たまに見掛けるのは、ランパスと一緒のところぐらいだ。
ランパスとは仲良いんだね。そう言うと、彼は、妙な笑い方をして、幼馴染みだから、と呟いた。そして帰ろうとする彼を、半ば無理矢理引き留めて、僕は1時間程、つまんないことを喋りまくっていた。まず僕の名前、僕の職業、僕の好きなこと。そして彼の名前や(そう、僕は彼の名前すら知らなかった!)彼の職業、彼の好きなこと。そして何故ここにいるのか。
プラトー、と言う名前以外のことについて、彼は黙して語ろうとしなかったけれど、でも何故この場所に通い詰めるのかについては、話してくれた。気持ちいいから。彼はそう言った。風が吹いて、空が広くて、気持ちいいから。長い両脚をのびのびと伸ばして、後ろ手に両手をつき、寛ぎながら彼が、そう言った。確かにそこでそうしていると、気持ちよかった。暫く黙ってそうしていて、本当だね、と言うと、彼は初めて微かに、でも穏やかに微笑んだ。それで、まだ女の子への初恋すらしたことの無かった僕は、これまで経験したことのない感覚、ぎゅっと胸の中の気管を鷲掴みにされたような感覚を、体験した。
「あの」
「何だ」
「好きです」
彼は、慌てもせず驚きもせず、戸惑いもせず、淡々と同じ顔のままだった。聞こえなかったのかと思って、もう一度言い直す。
「あの、好きです」
ポーカーフェイスのままなのに、まるで吹き出す寸前の様な気配を秘めて、彼が言う。
「そうだな、俺もここでこうしてるのが好きだが」
「そうじゃなくて!だから、その」
あなたが、と言う言葉が出てこない。ええい、もどかしい。僕は、彼の片手を地面から奪うように取ると、その手指にキスをして、彼を見上げた。笑うのを、堪えてる。意地が悪い。彼は、解っていてワザとはぐらかしたのだ。
「すまない。笑うつもりじゃなかったんだが」
まだ笑ってもいないのに、そんな風に言われるのは、笑われてから言われるのよりも、一層タチが悪い。気持ちよい秋風が、鼻先を擽る。恐らくは、自分で思っているよりも、うんと情けない顔をしている僕の頭を、彼がぽんと大きな手で撫でた。
「気持ちだけ、ありがたく貰っておこう」
きもちだけ、ありがたくもらっておこう。耳の奥で、彼の低くて抑揚の穏やかな声がこだまする。呆然と彼を見上げる僕を余所に、彼はゆったりした動作で立ち上がると、さくさくと枯れ草を蹴って、行ってしまった。
気持ちだけ、ありがたく貰っておこう。こだまが漸く意味を成す。ああ、ふられたのだ。何はともあれ、僕の初恋は出発から約5分で、終着駅に入ってしまったのだった。ああ、青い空も、気持ちの良い草ッ原も、大嫌いだ。
と、思った。その時は。
それが、凡そ半年前の話である。初めて彼を草ッ原で見つけてから、計一年。まさかここまで漕ぎ着けるとは、自分でも思わなかった。
「何をニヤニヤしてるんだ」
「えー」
結局彼が全部リードしてくれることになった。けれども彼のキスは、何だか車両が連結する時みたいに、結構乱暴だ。僕の服だって、あっさり彼が全部脱がせてしまった。お陰様で、まだ碌に何もしていないにも関わらず、勃起したものを彼の目の前に放り出す羽目になっている。その僕自身の様子を、真っ暗い夜を塗り込めた、小さな硝子窓に映して見て、年の功には敵わないなあ、と内心で呟く。
「うん。僕って幸せだなあって」
「…そりゃお前は満足だろうよ」
幾らかうんざりした様子で、彼が溜息を吐く。そんな彼の顔を見るのも嬉しくて、思わず抱き付いてしまう。
「大好き、プラトー」
「でかい図体でじゃれつくな。馬鹿」
頚元に顔を埋めていたのを、がっつと頭を掴まれて、引き戻されたかと思うと、そのまま勢いよくぽーんと寝台に投げ倒された。彼の部屋の質素な寝室の天井が、視界に広がる。石灰塗の天井は、長い間の煤だの埃だので、変色してしまっていた。そこにランプの灯火に照らし出された、彼の影が長く伸びている。
「一回天井の掃除しようか」
「面倒だからいらん」
「あ」
僕の太腿に、彼の手が乗る。僕が緊張で熱くなっているせいか、いつにも増して、彼の手が冷たく感じられる。無造作に、実に無造作に、彼は僕をひょいと口に咥えた。
「え、あ、あの」
「良く見とけ」
言われなくとも、目が離せない。寝台に投げ倒された上半身をもそもそと起こして、仕事場の休憩室に放置されていた、ポルノ写真集そのままの光景に、釘付けになる。
手は冷たいのに、口の中は温かい。ぬるぬると這い回るのは、きっと彼の舌なんだろうと想像すると、堪らなかった。薄い頬が、口腔内に納めたものの形に歪んでいる。あ、もう駄目。そう思った瞬間、つ、と彼が視線を上げて、口を離した。零れた唾液を親指ですくい上げる。そうして根本の辺りをぎゅっと掴んで、僕の股座に頭ごと突っ込むみたいにして、更に下の、陰嚢をそろりと脣でなぞった。腰が抜けたかと思う程、下半身から力が抜ける。その抜けた力の代わりに、じわじわと快感が染み渡ってきた。
「情けない奴だな」
「だって」
だっても明後日もない。必死に息を詰めながら、達しそうになるのを我慢している。そんな僕をちらりと見上げて、彼はフン、と鼻を鳴らした。下の方から、じりじりと舐め上げてきて、脚の付け根に寄り道をしたかと思うと、カリリと内股に歯を立てられ、思わずはァンと声を出してしまった。
「随分可愛らしいじゃないか」
明らかに揶揄する声音に、僕は黙り込むしかない。けれども彼は、僕を揶揄ったことで、だいぶ機嫌を良くしたみたいだった。ちゅっと音を立てて、僕の先端にキスをくれる。
「いちいち拗ねるんじゃない。子供かお前は」
「拗ねてなんかッ…っぁ」
またも彼に飲み込まれる。今度は深い。喉の奥まで行ってるんじゃないか、と思う程だ。真下に見える彼の項の白さが、目にちらちらする。つと彼の身体に目を遣ると、ベルトすら外していなかった彼のズボンは、いつのまにか前を寛げられていて、彼の右手がその中へ潜り込んでいるのが、僅かに見え隠れしていた。
自分で弄ってるんだ、と理解した瞬間、僕は彼の口の中に、予告もなく思い切り射精してしまった。うぶ、と一瞬噎せるような呻きが聞こえたけれど、どうしようもない。
ごくり、と喉の鳴る音がして、暫く。ゆらり、と彼が顔を上げた。
「この…」
「ご、ごめんなさいっ!つい」
謝りながら、僕は彼の口許を凝視していた。白く濁ったあれは、僕の、あ、舐めた。ぺろりと彼の舌が、脣に零れていた精液を、舐め取った。彼の目がすっと細くなる。視線は、下に。下?
「あ」
「お前、元気だなあ…」
出したばかりだというのに、僕のものはまた意気揚々と頭を擡げている。彼は半ば呆れ、半ば感心したように、僕のものの先端に指をぐりぐりと押し付けていた。
「あ、や、駄目だってば。そんな」
「ま、頃合いか」
ひた、と彼が僕を見た。巫山戯た色はない。揶揄いの色もない。熱っぽい眼差しだ。
「ホントに大丈夫か?いいのか?」
「も、勿論!」
「何が勿論だ。雄は初めての癖に」
軽く俯いて、彼が呟く。けれどその姿は照れ臭げで、どちらかと言えば、彼が躊躇しているように見えた。
「は、初めてだけどさ、ちゃんとやる。やれるよ。だから…」
脱がしても良い?彼の腰に手を掛けて、お伺いを立てる。すると彼は慌てたように、待て待て、と僕の手を押さえた。
「いい、自分で脱ぐから」
「やだ。僕にさせて」
彼の手をすり抜けさせて、僕は彼のズボンに手を掛けた。
「駄目だッ…って、こら手を放せ!」
「僕がやるって!」
有り余る全体重をかけて、彼を押さえ付ける。彼が自分でくつろげていたズボンの前立てを除けると、下着越しに彼の昂ぶりを感じた。何を考える間もなく、そのまま口に咥えてみると、びくりと彼の身体が強張った。布一枚向こうに、彼の形を辿る。さっき彼にしてもらったのを思い出しながら、僕も懸命に愛撫らしきモノを実践してみた。
「馬鹿が…」
小さい、彼の声が聞こえた。困っているような、照れているような。下着がじゅわ、と唾液で濡れてきたので、一旦口を離すと、今度はもう、彼も抵抗しなかった。大人しく腰を浮かせて、僕が彼の着衣を剥ぐのを手伝ってくれる。紺と灰色の、チェックの靴下も脱がせると、漸く彼の全身が明らかになった。
彼が僕にしてくれたことを忠実になぞる。自分のを手で触るのと、他人のを口で咥えるのでは、随分と感触が違うんだな、と新しい発見をしたような気分だ。脣で挟むと、とろりと苦い味が広がった。
「もう、いい」
「え、でも」
「いいから」
ぐいい、と肩を押されて、またしてもシーツの上に押し倒されてしまう。のし、のしと彼は僕に覆い被さった。
「痛かったり、やっぱり嫌だと思ったら言え」
「相手がプラトーなら大丈夫だよ」
「ほざけ」
僕の胸辺りに視線を落としながら、彼が言った。彼の手が、僕のものを支えるように掴む。まるで挑発するように、ぺろりと僕の胸板を舐めてから、彼は僕の躯を跨いで上半身を起こした。くっと、彼の眉間に皺が寄る。トン、と僕のものが彼の躯に軽く接触したかと思うと、ギリギリと重圧を感じた。
「あ、うぐゥ!」
思わず呻きを噛み殺しそびれる。けれど彼は――プラトーは俯いて、細く、細切れに息を吐きながら、ずぶずぶと僕を体内に飲み込んでいった。ひとつになるって、こーゆー感覚なんだなと、痛みと快感の綯い交ぜが大勢を占める頭の片隅で、思う。彼の表情を隠す、硬い彼の前髪の金色が、ゆるゆると滲んだ。
「、おい――…」
「ん、あ、だ、大丈夫。一寸こう、イタ気持ちよくて、涙が」
それよりも、肩で息をする彼の方が心配だ。そう言えば普通は、前戯で色々慣らしたりとか、するのではなかったけ?
「プラトーの方が、痛くて辛いんじゃないの?」
「平気だ」
にべもない。けれども額には汗の粒が浮いている。せめてそれを拭えたら、と手を伸ばすと、彼の額に届く前に、彼の口に捉えられてしまった。人差し指の爪に噛み付かれる裏側で、指の腹を彼の舌が擽る。
「ン…焦るな。直ぐ慣れる。静かにしてろ」
腰に、彼の体重をずっしりと感じる。体重だけではない。触れ合っている皮膚の体温も、噛み合っている肉の感触も、だ。削ぎ落としたような下腹部の奥を、今、僕の一部が射し貫いている。いや、違うな。どちらかと言えば、食べられてしまっている、と言う方が、近い表現かも知れない。
ふう、と彼が息を吐いて顔を上げた。辛そうだった表情は、微かな、けれど不敵な色の笑みに取って代わられている。目元の赤みと相俟って、何というか、猥らな表情に見える。猥らな、なんて前時代的な死語だと思っていたけれど、実際こうして言葉を充ててみると、成る程こういう表情が猥らと言うのだな、と納得した。
「さて。そろそろ動くが――」
含みを持たせて、言葉を句切った彼の、次の声を、どきどきしながら待つ。彼が脣を開く――。
「――出来るだけ、我慢しろよ」
言われた次の瞬間、もう僕は、それは無茶だ、と内心で叫んだ。
************
一人用の寝台は、プラトー一人が寝るにしても狭い。そこに彼のみならず、僕も一緒に寝転がっている。半ば折り重なっているせいで、僕は思いもかけず彼にぴったりと寄り添う好機に恵まれ、ほくほくとしている。その傍らで、彼はいつものポーカーフェイスに戻っていたけれど、二人で俯せになって、一つの枕をぎりぎりで分け合いながら、取り留めのない話に興じるのは、楽しいらしかった。ぽつりぽつりと、他愛ない話題を繰り出しながら、ふと彼がにやりと片眉を上げた。
「そう言えば、お前、雌と寝る時も、あんな声を出すのか」
「えー…」
どう答えたモノか。僕は一寸口籠もって、でもまあそう隠し通せることでもないかと、観念した。
「あのさ、実は僕、女の子とはまだなんだ」
「は」
あ、予想通り。彼が絶句した。突っ込まれたのが、事後で良かった。これは、下手をすれば今日の出来事は、無期限延期になっていたかもしれない。
「お前、シーズンは、どうして」
「だから、発情期自体、まだなんだってば」
なるべくニコニコと笑みを浮かべて、大したこと無い風を装う。しかし彼は、みるみる眉間に皺を寄せた。勿論、表情は情事の最中に見せたモノとは、まるで違うけれど。
「一寸待て。お前、…歳は幾つだ」
「今年の誕生日で十六になるよ」
ボッフリ。プラトーが枕に頭をぶつけた。大人しく冗談だと言え、と呟く声が聞こえる。しかし、冗談ではない。
「そういうプラトーは、幾つなの。あ、ランパスと幼馴染みってコトは、同い年?」
だとしたら、僕との年の差は、ざっと考えて――
「結構凄い年の差だね。僕ら」
「歳はアイツの方が二つ上だ。でもそんなこと」
「二つだと、あんまり縮まらないね。差」
約、十四年差。プラトーがいつ産まれかは知らないから、断定は出来ないけれど。
「何故、先に言わない」
漸う枕から額を上げて、僕を睨む。睨むのだけれど、怒っているのではなさそうだった。これは自己嫌悪、だろうか。
「聞かなかったでしょ、プラトー」
「…お前が、そんなデカイ図体してるからだ馬鹿!」
八つ当たりだぁ、と僕は口を尖らせて見せた。まあ、実は半分はランパスの入れ知恵による、作意なんだけど。僕が十五だと知ったら、彼は、僕なんて端から眼中に入れてくれない。
「ああ、もう。忌々しい奴だな」
「うん、ごめん。でもどうしても好きで好きで、仕方なくて」
僕よりも広い彼の肩を抱いて、お詫びを込めて、頬にキスをする。彼は、馬鹿がと呟いて、僕の脣に噛み付いた。本当に怒っているのか、容赦なくがしがしと噛み付かれる。それすらも僕は幸せなんだけど。
ボーン、ボーンと居間の時計が鳴り始めた。ボーン、ボーンと、全部で十二回。日付が変わった合図だ。
「十二時過ぎちゃったね」
「それがどうした」
「日付が変わったところで、気分も新たに昨日の続き、していい?」
「昨日の続き?」
「さっきの続き」
馬鹿言え、とプラトーは今度は、僕の頭を枕に押し付けた。
「次は、お前が成人するか、初シーズンが終わってからだ。それまではお預けだ」
「うん、だからさ、しよう?」
「お前、俺の話を聞いてるか」
あ、怒ってる怒ってる。そんな彼の顔を見ながら、僕は取って置きの鬼札を出す昂揚で、笑い出しそうになっている。
「聞いてるよ。今十六になった。十六からは成人だよ」
「出鱈目を言うと、殴るぞ」
全く信じた様子無く、彼が切り返した。ますます嬉しくて堪らない。
「出鱈目じゃないよ」
僕は、よいしょと躯を起こすと、さっき脱ぎ散らかされた上着のポケットから、鉄道の乗務員証を取り出して、見せた。そこには生年月日が載っているのだ。彼は、乗務員証と僕を矯めつ眇めつし、更にまじまじと乗務員証を凝視した。
「ね、良いでしょ。今度は、ちゃんとプラトーの抱き方、教えて。さっきは、色々省略したでしょ。僕が知らないと思って」
彼の手から、乗務員証を取り返すと、今度は僕が、彼の背中にに躯を重ねる。のっしりと体重をかけて、肩越しに顎を埋めてみた。首筋の髪の生え際を舐めると、やっと彼は僕の方を振り返る。まるで急いでいるのに、列車が延着している時の人みたいな顔だ。
「この…糞餓鬼が」
言いながら、彼の両腕が伸びて、僕をぎゅうっと抱きしめ、いや、締め上げる。
「痛い痛い、痛いってば」
「煩い。黙れ」
「やぁーだぁーン」
彼の腕を逃れようと躯を捩りながら、僕も彼を力一杯抱きしめて、そうして、昨日の続き、に取りかかったのだった。
終
英国の成人は16歳からです。
20060720
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