ちうわけでスリル・ミーについて。あ、ネタバレには全く配慮しません!


粗筋は http://www.sankeihallbreeze.com/list/drama/2014/06/post-425.htmlにて。
1920年代シカゴで実際に起きた犯罪史上に残る事件を題材にしている。逮捕されたのは2人の天才少年(19歳)。
ニーチェの超人思想にかぶれた「彼」とその「彼」に執着し愛されたい「私」の物語。

「私」「彼」は共に飛び級で大学へ行き、法学部の学生をしていると見られる。
恐らく4年か。舞台機構はシンプル。登場人物はその「私」「彼」と伴奏のピアノを弾き続けるおじさん(台詞無し)。

彼(以下春日と呼ぶ)は自らの天才性に溺れ、自分をニーチェの超人であると信じ込み、周囲や似た環境、似た知能の私(以下小塚と呼ぶ)を自分の才覚で翻弄し、意のままに出来ると思い込んでいる。
小塚と春日は幼少時から一緒に仲良く育ってきたと周囲には思われている。

どちらも家は表向き金持ちだが、春日の父は事業に失敗気味なのか、最近あんまり金をくれないらしい。
春日は自らは超人なので凡人に対して犯罪行為を行っても自分は免責或いは見逃されると小塚に豪語している。
その割にやることは窃盗と放火でしょぼいのだけど、それらの見つかるか見つからないかのスリルを感じないと、人生的にも性的にも興奮できない体質。
その犯罪行為に、小さい頃から春日を慕い、いつしか執着に変わった小塚の愛情を利用し、自分の意のままに行動させている。
小塚は穏やかな両親に愛され、真っ当な完成で育っており、犯罪行為に震え怯え抵抗しながらも、春日に逆らえない。
逆らおうとすると春日が自分を捨てることを示唆する。それだけは避けたい。
ある日遂に二人は、お互いの欲することに絶対に従い合うという契約書を作成し、自らの血で契約の署名をする。
春日の犯罪行為はエスカレートするに伴い、より過激な犯罪でないと興奮できなくなり小塚の求めにも応じられなくなる。
フツーに小塚「抱き締めて!!」春日「今は出来ない!!」と言いながらも小塚がぐいぐい押してくるので仕方なく春日も上着を脱ぎネクタイを解きサスペンダーを外しどうみても同性愛ベッドシーンです本当に有難うございました。
内容をよく知らずに見に行ったので割と吃驚したw

最終的に春日は殺人しかない!!俺の一番嫌いな奴を殺してやる!!と思い詰め、嫌がる小塚を巻き込み子どもを誘拐して殺し、死体を隠してその親に身代金を請求する。
見つかるはずのない完全犯罪だったが、小塚が現場にメガネを落としたことにより、また死体が思った以上に早く見つかったことにより犯罪は明らかになる。
春日は小塚一人に罪を被せようとするものの、当初は錯乱状態だった小塚が、自分一人に罪を被せようとした春日を告発し、二人はついに殺人への終身刑と誘拐への懲役99年を宣告される。
そして刑務所への護送中に、小塚は春日に向かって、「これで死ぬまで一緒に居られるね?」と全ては小塚の手の内だったのだ。
春日に支配されているように見せかけながら、自身は結局手を汚さず、捨てるように言われていた春日の殺人の証拠を全て保管し、共に死刑になることさえ覚悟の上で、小塚は春日を手に入れるために動いていたのだった――というオチです。
すごい真っ正面ホモ。

殺人現場にメガネを落としたのも、死体を隠しきらなかったのも全部小塚の故意。
端から一緒に堕ちるつもりだったんですね−。キャラ的には弱気な優等生が実は超ヤンデレだったという。
反して春日は、満たされぬ自身の空白を埋める犯罪への衝動も、弟への殺人も、飽くなき支配欲も全ては、弟にばかり愛情を注ぐ父親への、自分も愛して欲しいという深く絶望的な渇望から来ていて、まだ理解が出来る人物でした。
超人に憧れたのも、何をしても凡人を超越する優れた人物だから、というよりは、無条件で抜きん出いられる存在(無条件で愛して貰える存在)に憧れたからではないかと。
反して小塚。小塚は何がどうしてそんな幸せに育ってきたのに、何が悲しくて春日みたいな変質者に執着して春日以上の変質者に成り果てたのか、全く不明です。考えたらこいつの方が恐い。
獄中で春日は早々に別の囚人に刺し殺されて死に、その後三十数年経って、小塚は仮釈放請求しその審問でこれらの取り調べを受けた当時は沈黙していたことを話し出すのですが、もうこの五十数歳の時点で全く変わってない。
反省していないのが明らかになるのですが刑務所が満杯だから、また犯罪を犯した当時は未成年だったからと釈放が決まります。
まあ春日死んでるからもうなんもしないだろうけどさ…釈然としないw
春日がもう窃盗や放火では満足できない!殺人だ!俺が嫌いな奴を殺す!と息巻いた時にも、小塚は「それぼくのこと?」ってフツーに聞き返し、春日がやや狼狽して「いや弟だ」と返事したら、えーみたいな顔してたのだよね。
一番でないと我慢ならないのだ。憎しみも、愛情も、春日が向ける感情は全て。

だが春日が欲しているのは小塚の愛情じゃなくてほんとはお父さんの愛情だったのだ。
お母さんは言及されなかったのでしらん。
お父さんに認めて貰って、お前は凄いヤツだって褒められたかったのだ。飛び級しても成績上位をとっても決して得られなかったそれを、弟は恐らく何の努力無しに得ている。
小塚と春日の話で言及される春日弟は、ちゃっかりしててちょっと人に意地悪で、それというのも自分が無条件に愛されることを知ってるからなんだなーと思わされる人物像で、それはもう春日みたいなタイプからは蛇蝎の如く嫌われるだろうなと見てるこっちも思うくらい。
個人的には春日の気持ちは良く解る。解るよ。多分世界中の長男長女の過半数は春日に同情するのではないか。
何も努力せず結果も出さずただ存在するだけで愛される年下の兄弟に対する憎らしさは良く解る。
小塚は兄弟居たっけなあ…言及されてなかった気がする。
ヤツは一人っ子な気がしている。だからこそ、兄弟のように育った春日を、半ば自身の分身・半身のように彼我の境界が曖昧になり、執着して自分自身のように思考をトレースし何を考えているのかを先回りして関知し、自身の望む方向へ動かしたのでは。
兄弟というのは尤も身近なわかり合えぬ他人で、兄弟がいると自分と他人の境界が確固としてあることを肌身で解るだろうと思うのだけど、小塚はその辺があいまいなまま育っている気がしている。
個人的には恐らく中学くらいの性の目覚めの頃に、先に知識を仕入れた春日に小塚は手ほどきを受けたか或いは犯されたかしていると思うのだけど、小塚はそれを自分へのレイプとは感じ(られ)ずに逆に春日と自分の一体性と執着を強めるきっかけになったのではないかなあと妄想しました。
あくまで妄想です。本編ではそんなこと全く描かれてません。

そういう濃ゆい二人の関係を1時間45分休憩無しで描いた、クッソ濃いい芝居でした。
個人的にBL馴れしているから、この関係性自体は私的には「あーあるねージュネとかでありそうねー」て感じでそんなにツボでもなかったのだけど、だからこそ演劇としてはのめり込んで見ることができたかなと。
まあ春日のニーチェへの入れこみ方があんまりニーチェ読めてないガキの中2な戯言に思える感じがして最初はちょっと、うう…だったし、何度もリフレインされる「衝撃的な犯罪」はたった一人子どもを誘拐して殺しただけで、同じ実話でイギリスのムーア事件に比べたら変態性も猟奇性も不足で物足りんし。

なのだけど、何せ曲と伴奏のピアノと演者がもの凄くよくて!その辺を帳消しにして夢中にさせてくれる力演というか快演ちうか。
次回があれば是非見て、今度は違う演者ペアも見て、考察してみたいなあと思いました!
同行者とは、犯罪のエスカレートと性行為のエスカレートをシンクロさせて欲しかったし猟奇的事件というなら子どもの2,3人は殺して、どんどん殺し方をエスカレートさせて死体損壊写真撮ってばらまくぐらいはやってほしいよねーと言い合っておりましたが、まあ、まあその辺は。
ライブ音源CD買おうかなあと思ったんだけど余りにも舞台の衝撃が強くてこれCDで聞くのしんどい感じがしたので、CDは買いませんでした。
もしDVDが出たら買うかな。何せ、二人とも感情の爆発を頻繁に起こして凄い音量で怒鳴ったり歌ったりしたかと思えば静かな声で過去を振り返るので、テンションのアップダウンが凄いんですねーあれよく引きずらずに演技・歌唱できるなあと。素晴らしいです。

あとカーテンコールで春日が序盤に放火に使ったガソリンタンクで客席にエアガソリンまき散らしてたのが面白かったです。
何してんねん!って小塚に止められて頭を無理矢理下げられていたのが、あ、この演者達にとって、この二人の関係はそういう理解なのかって思った。
客サービスもあるだろうけど。
そんでピアノ伴奏のおじちゃんも何でかノリでwガソリンばらまいて小塚に止められていたのが面白かったですかわゆい。

スリル・ミー、全体を通して、ああアメリカの話だなあと言う感想も。
あの人物造形はほんと、イギリスでもフランスでもなくアメリカ。イギリスの話ならもっと二人に距離があり、フランスだとそも成立しないイマゲ。
で、演じるならやはりこの話は日本人か韓国人だろうと。二人の関係性の情念的な部分が。

イギリスでもホモソーシャルで自我の境界が曖昧な男二人のドラマっつーと、かの有名なモーリスがありますが、あれもそういえば受け男の方が結局後まで引きずっちゃうんだったよなあ…同性愛に巻き込んだ方はさっさと女と結婚しちゃって二人は破綻していくのだ。

何というかこの辺は男女関係における創作上のレイプファンタジーに通じるところもあるのかな。
犯された方が犯した男に親近感を抱き心酔し執着する、という。犯した男は決して犯された方にのめり込まない。或いはストックホルム症候群か。
あと、海外文学・映画で「乙女の祈り」がちょうどこれの女子高生バージョンで、二人で一緒に居たいが為に女子高生が殺人を犯す、と言う実在の事件を小説にしたもの。
作者のアン・ペリーはこの殺人事件の犯人でもあるという。犯人が自伝的小説を書いた事例。面白いのでスリルミー見た人に勧めたい。

ところでスリルって日本語だと何になるんですかね。
スリルミー、直訳すると「私をぞくぞくさせて」なんだけど、そんな安易なあれじゃなくってもっと心の底から震え上がらせて興奮させて、という意味を持たせたいのだけど日本語に適した言葉がない。






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