Remorse




愛しさと、後悔と。




Remorse




ぼんやりとしていた頭が、徐々に覚醒していく。その中で一番最初に気付いた異変は、冷たい空気に晒されて、寒いと思った事だった。寒いのは当たり前だ。何も着ていないのだから。
そして、このままでいては風邪をひいてしまうと考え、着るものを持って来ようと動いた時に、周りを見渡すと、ここがアニスの部屋である事に気付いた。そこから、ある一つの考えが頭に浮かんだジェイドは、焦りを感じながらも、先程までいたベッドを見る。
そこには、今の自分と同じように何も身に纏っていない状態で寝ているアニスと、無残にも着れなくなったアニスの軍服だった。そこまで確認して、漸く自分のした事の全てを思い出したジェイドは、溜息を吐いた。
すると、アニスが僅かに身じろぎをする。どうやら、腕が縛られている為に、寝返りを打ちたくても出来ないらしい。そっとアニスに近付いて、自分が縛った腕を解放した。そして立ち上がると、湯で濡らしたタオルを用意し、アニスの身体へと放ってしまった自分の欲を全て拭う。
余程疲れているのだろう。どれだけ触れようが、アニスが目覚める気配はなかった。
「アニス…」
呼んではみるが、もちろん返事など来る筈もない。だが、返事をするかのようにアニスの眉が僅かに動いた。自分に応じてくれたのかと思い、ジェイドはアニスの顔を見る。そこには、うなされるかのように苦しむアニスの姿があった。
苦しませるよりは起こした方が良いのかもしれない、と思い、アニスに触れようとした時、アニスの口が開いた。
「ごめ…なさ…。イオン、様…」
起こそうとした手をそのまま引っ込め、そして立ち上がると部屋を後にする。暗く、冷たい廊下でインナーだけを着て出てきた自分が酷く滑稽に見え、自嘲の笑みが漏れる。やはり、自分は想われていなかったのだ。
先程、アニスが見ていた夢はおそらく、自分に犯され、それを知ってしまった想い人に謝ったのだろう。ならば、その夢をずっと見て欲しい。そして願わくば、こんな仕打ちをしてしまった自分を憎んで欲しかった。
そうすれば、自分はこの先ずっと、罪の意識を背負い、生きて行ける。それ程までに彼女に心を折られなければ、自分の想いは消えてはくれない。そう、それ程までに彼女を愛してしまった。
「願わくば、今夜だけは…彼女と、一緒に…」
心の中で一言、思い浮かべた少年に向かって謝罪の言葉を告げた。そして、再びアニスの部屋へと戻る。
彼女の表情は、先程の苦しそうな物とは違い、穏やかな物だった。だが、ドアが開いた時に、吹き込んだ冷気に、ほんの少し震えていた。その仕草に目を細めて、ベッドへ座ると、身に何も纏わない彼女にインナーをかけてから、床に落ちてしまっていた毛布を肩まで引っ掛けた。
明日から、全てが変わる。彼女の笑顔も、声も、温かさも、何もかもが自分の目の前から消えてしまう。だが、自分が傷付く事以上に、自分と共に生活する事で、アニスの心に負担をかけてしまう事の方が、苦痛だった。
おそらく明日、アニスは休まざるを得ない。その間に荷物を纏めさせて、ガイの元へ連れて行こう。ガイならば、グランコクマのどの家よりも信用出来るし、アニスも安心出来る。
これから先の事が全て決まってしまうと、疲れは自分の身にも訪れた。急に眠気が襲う。だが、その眠気に少しだけ反抗し、寝てしまう前にと、目の前にいるアニスに覆いかぶさるとそっと口づけた。
「愛しています。だから、今日までは私の事を許していて下さい」
そして、アニスの寝ている布団の中へと潜り込むと、アニスを抱き締めて目を閉じた。










いつもよりもベッドが狭い事で、寝返りが打てずに目を覚ました。暫くは、自分のベッドの中にいたのがジェイドだとはわからずに、ただ触れ合う身体の熱が心地良くてぼんやりとしていたが、時間が経ち、温かさの元がジェイドだという事がわかると飛び起きた。
情事の際に放たれた欲の不快さもなく、ジェイドが脱ぎ捨てた筈のインナーや、床に落ちた毛布が、自分の身体へかかっている事で、全てジェイドがやってくれたのだと理解する。
その時、外気に触れて身体の熱がなくなったのか、急に寒さを感じ、ジェイドのいる布団の中へと再び潜った。そして、先程の夢を思い出す。
――泣いていたのだ。死んだ彼が。
その涙は、どの涙よりも悲しそうに感じられた。そして、一度でも抱かれる事が幸せだったと思った自分を責めるようにすら感じられた。
それを見た自分は気が付けば、謝っていた。何度も何度も泣きながら。だが、それを遮るように頭の中へと響くのは、自分の声。
『ほら、泣いちゃった。貴女が幸せになろうなんてするから』
「私が…泣かした」
『そう、貴女のせい。貴女のせいで幸せになれなかったのに、貴女は一人で幸せを手に入れようとするから』
「幸せに…なっちゃ…いけなかったのに…」
『やっとわかったの?貴女は、幸せを手にしてはいけなかった』
影と対峙した自分の肩を、彼は叩く。それに気付いてから彼を見ると、首を横に振っている。まるで、先程の会話を否定するように。
そして、夢から覚めた――。
気付くとジェイドの腕に抱かれ、そして優しく引き寄せられる。広い大きな胸へと顔を埋めると、夢の中での少年の涙がフラッシュバックする。まるで、離れろとでも言うように。
だが、それも今日で終わる。だから、今だけは。
「…許して、下さい」
決して消える事のない少年に、何度も謝罪の言葉をかけ、許しを請う。その一方で、目の前で眠っているジェイドの頬へそっと手を伸ばし、優しくキスをする。欲望と、罪悪感の二つが混じり合い、胸が押し潰されそうな程苦しかった。
その苦しみは、涙へと変わり、頬を伝ってからジェイドの身体を僅かに濡らした。




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