Realize




間違っていたのだ、自分は。




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「――アニス」
誰かが呼んでいる。その声は、酷く懐かしい。
旅をしていた頃や、ダアトに居る頃は頻繁に聞いていたような――懐かしい声。
「アニス!」
「はぅあ!び、びっくりした…って、イオン様?」
「はい。こうして話すのは久しぶりですね、アニス」
呼んでいた声が強くなった事に驚き、目を開けると、そこには緑の髪の少年――死んだ筈であるイオンが立っていた。驚きの表情を隠せずにいると、イオンは微笑みながらも隣へと座った。
その横顔に、今まで伝えられなかった数々の想いが一気に込み上げて来た。
――とにかく謝りたくて。隣のイオンの方へ身体を向けると、頭を下げた。
「イオン様、ごめんなさいっ!パパやママの為とはいえ、イオン様を裏切るような真似をして…」
「良いのですよ、アニス。貴女が裏切らずとも、あの時僕はティアを助ける為に、自分の命を引き換えにするつもりでしたから。それに、僕は自分が裏切られるよりも、アニスが自分の両親であるオリバーとパメラを裏切る姿を見る方がもっと苦しかったと思います。アニスは正しい選択をしたのですよ。だから、自分をそんなに責めないで…」
毎晩のように見ている寂しそうな、哀しそうな笑みを浮かべると、頬を伝う涙をそっと拭ってくれたのだが、優しく、一言一言がアニスの心の奥まで届くようにゆっくり伝えるイオンの口調に、また泣きたくなった。
そんな姿は見せたくなくて、照れ隠しも含めてイオンに抱き付くと、イオンは腕を背中へ回し、軽く叩いてくれた。すると、先程の涙が嘘のように止まり、心も落ち着いた。それを確認してから、イオンは再び口を開く。
「貴女が、僕に対して本当に償おうとするのなら、僕の分も幸せになって欲しいのです。…出来ますね?アニス」
その言葉にゆっくりと頷くと、満足そうに笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。それが心地良くて目を閉じると、次第に眠気が襲ってくる。
消えて行く意識の中で、イオンの声だけが鮮明に頭の中に残った。


「――もう、大丈夫ですね。これで僕は安心して消えていける」








次に目を開けた時には、ジェイドの客間だった。身体を起き上がらせて、ベッドサイドのテーブルに置いてあったコップに水を注ぐと、一口飲んだ。おそらく、ジェイドが用意してくれたのだろう。
その冷たさが心地良くて目を閉じる。その時、ノックの音が部屋に響いたかと思うと、ジェイドが部屋に入って来た。
その右手には、夕食が乗せてあるトレーがある。寝る前に言っていたように、夕食を作って来てくれたのだと理解する。
「おや、起きていましたか。気分はどうです?」
「寝たら結構調子良いです。多分もう大丈夫ですよ」
ジェイドはサイドテーブルへ夕食を置くと、額へと手を当てる。暫くして、その手を離すと、今までに見た事もないような優しそうな笑みを浮かべていた。
その笑顔に、この人はこんな風に笑ったっけ?などと考えていると、再びジェイドが口を開いた。
「熱もないようですから、大丈夫そうですね。…とは言っても、今日はゆっくり休むんですよ。さ、夕食を食べましょうか?」
その言葉に頷くと、ジェイドはトレーに乗っていた小さな器に雑炊を盛り付けて手渡した。それを受け取ると、ジェイドは何かに気付いたように口を開く。
「一人で食べられますか?もしかして、食べさせた方が良かったですか?」
「ううん。大丈夫。一人でも食べられますよ」
「そうですか。では、食べ終わった頃に食器を取りに戻って来ます。よく噛んで食べるんですよ」
そう告げると、立ち上がったジェイドは部屋を出て行く。開かれたドアが完全に閉まってから、先程受け取った雑炊を口へと入れた。その温かさに、夢の中で出会ったイオンを思い出す。
イオンは夢の中で、幸せになる事が、自分に対する償いだ、と言っていた。それに、自分を責めるなとも。
もしもそれが、イオンが今まで思っていた気持ちなのだとしたら――。
その時、不思議と夢の中のイオンの言葉が嘘だとは思わなかった。それは、あの温もりと笑顔は、昔からイオンに感じていた物と同じだったからなのだろう。
そこで、漸く気付いた。自分は今まで間違った事をしてきたのだと。
イオンの為にと思い自分の気持ちを抑え付けて生きている事は、イオンを悲しませていたのだと。




――ずっと、苦しめてばかりでごめんなさい。イオン様。




自分の気持ちはずっと前から決まっている。後は、ジェイドの気持ちを聞くだけだ。
もし、自分の思っている事が正しいとするならば、きっと今度は素直に告げられる。
『愛してる』と――。
顔を上げ、前を見据えたその顔に、もう迷いなどありはしなかった。




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