Dinner




少しでも、一緒にいたくて。




Dinner




平たい皿に盛られたカレーをスプーンで掬い取って口に運ぶ。そしてチラリと横目で同じ物を口に運ぶジェイドを見た。
ジェイドの言う『いつもの店』とは、旅をしていた頃にもジェイドと何度か来た経験のあるバーだった。ジェイドと、とは言ってもアニスの場合、ジェイドに無理矢理ついて行っていたような物である。だがジェイドは一度も拒んだ事はなかった。
「お子様の来る場所ではないんですがねぇ」
等と言うものの、帰れとは言わなかったし、一緒にいれば今のようにカレーをご馳走してくれた事もあった。こんな事を思い出すのは、きっとこのカレーの味が懐かしいからなのだろう。
ふと気がつくと、紅い眼と視線がぶつかる。数秒が経過し、見られていると気づくと、顔を赤くして視線を再び前に戻す。すると、微かな笑いが隣から零れた。それを聞くと、先程の自分の行動が更に恥ずかしくなり、再び顔を赤くした。
「…笑わないで下さい」
「すみません。貴女の顔が余りにも面白かったので。…それより、何か言いたい事があったのではないですか?」
「あぁ、何か懐かしいなぁと思って。旅をしていた頃もこうして、よく二人で並んでたじゃないですか」
「…そうですね。覚えていますよ。カレーを食べさせた私に、貴女が必ず言った言葉も」
「あたし、何か言いましたっけぇ?」
アニスが首を傾げたのと同時にバーのマスターが、頼んでいた酒を持って来る。そのグラスを煽ると、アニスの耳元へと顔を近づける。
「『大佐、だーい好き』…と言っていましたが?」
顔を離してアニスを見れば、耳まで赤くしているのがわかる。それを見て、可愛いですね。等と声をかけてしまいそうになる自分は重症だ、とジェイドは考える。もちろん、考えているだけで、それを実行する事はないのだが。
「私は覚えているというのに…アニスは忘れてしまったようですね」
「…今、思い出しました」
マスターを呼び止めて、水を持って来るように頼み、溜息を吐く。手に持っていたスプーンを皿に置くとガチャ、と独特の音が二人しかいない静かなバーに響く。
ジェイドはテーブルの上に置かれていたグラスを再び手に取り、先程のようにぐい、と煽った。すると、水の入ったグラスを持ったマスターが戻って来る。
渡されたグラスを受け取りお礼の言葉を告げると、先程のジェイドと同じように水を飲む。ジェイドは、アニスを見ながら笑顔を崩さない。そんな事でさえ、大人と子供の差を感じてしまい、その差にどうしようもないもどかしさを感じた。
「ところでアニス、この一年貴女は何をしていたのですか?」
「あぁ。大佐に手紙を送ってからすぐ後に、ちょっといろいろあったんです」
「いろいろ、とは?」
「前々からレプリカの差別問題があったじゃないですか?それをどうにかしようと思って会議で発言したんですけど…あたしが昇格する事をよく思ってないジジイ達が『発言した本人が動かなきゃ…』とか言うから頭にきて。一人でも動こうと思って、ダアトを出て行ってこの一年間ずっと動いてたんです。どうしても、差別の現状を知りたくて世界各地を回って、現状を纏めてキムラスカ、マルクト両国に報告しようと思って。だけど、教団の人達に報告しても信じてもらえなくて」
「結局、両国に報告も出来ずに自ら差別を消そうと各地で活動していたという事ですか。なるほど…」
「でも、ここ最近レプリカ達が自ら差別を受けているって報告してくれるようになって、証人が現れるようになったから、両国にも報告が許されるようになったんです。あたしがマルクトに来たのもその報告です」
笑顔を見せるアニスに、ようやく真意を知る。この一年、嫌な思いを沢山した事だろう。信じてもらえないもどかしさに腹を立てた事もあっただろう。それを知り、ジェイドはアニスが自分に会いに来た理由は、甘えに来たのだと理解する。
だが、他人が見てわかる甘え方ではない。長い間、アニスと一緒にいたジェイドだからこそわかるものだ。
旅をしていた頃からそうであったが、アニスは決して素直に甘えたりはしない。それは、自分の弱さを見せたくないという、アニスなりの防衛策であったのだろう。
こういう時、自分はどうしていた?と、旅をしていた頃を思い出してから、自らの手を伸ばし、頬へと触れた。
「た、いさ…?」
「たまには、ガス抜きでもした方がいいんじゃないですか?」
その言葉に、泣きそうな表情を見せたアニスが立ち上がる。ジェイドはポケットから金を出し、マスターへ渡すと二人で店を出る。随分長い間ここにいた事で、時刻は遅く、辺りには誰もいない。
細い腕が伸ばされたと思えば、以前よりも成長した身体が触れる。暫くはされるがままでいたが、腕を動かすと、身体をそっと引き寄せた。
絶対に涙を流さないというのがアニスらしいと感じながらも、自分にだけ甘えるという特別という事への喜び、そして熱く感じる自分の身体に、酔っている、と自覚するのはそう遅くはなかった。




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