花火大会



今日は、夏の風物詩、大花火大会。
こんな楽しいイベントを逃すべくもなく、有閑倶楽部の面々プラス1は、
浴衣で花火見物としゃれ込むことと相成った。

「よぉ、美童!」

龍之介に声を掛けられた美童は、浴衣姿の可愛い女の子の2人連れを口説いているところ。
長い金髪を束ねた浴衣姿は外国人と言えどもなかなか似合っている。

「あ、龍之介君、早かったね!仕事終わったの?」
「あぁ。どーにか、抜け出してきた。オーナーには睨まれたけどさ」
「でも、浴衣じゃないじゃない」
「浴衣はこの中。どっかで着替えようかと思ってな」

龍之介はそう言うと抱えていた大きな鞄をポンと叩いた。

「あ、着替えするんだったらね、悠理達が、そこの剣菱ホテルに着替え部屋借りてあるから、
その部屋で着替えるといいよ。3207号室。
多分もう、オンナノコ達の着替えは終わってるだろうからきっと入れてくれるよ」
「んじゃ、そうするよ。ところで、魅録と清四郎は?」
「あの2人はね、ジャンケンで負けて、花火見物の場所取り」
「なるほどな。それで、美童は優雅にナンパに励んでるってわけか」
「まぁね~♪」

まったく悪びれる様子のない美童に龍之介は苦笑した。

「あんまり欲張るなよ?それじゃ、オレも着替えてくるよ」
「じゃぁ後でね~」

美童に手を軽く上げて剣菱ホテルに入っていく龍之介を見て、
女の子の一人が一言。

「今の人、超カワイくない?
ねぇ、あの人と美童さんと、私とこの子で男女2人2人で遊びましょうよぉ」
「だ~め、彼の彼女、めっちゃくちゃやきもち焼きですっごく恐いんだから。
それに、彼は彼女にベタ惚れだしね。大丈夫、僕が2人ともエスコートしてあげるからさ♪」





龍之介はエレベーターでホテルの32階に付くと、
七つ目の部屋のドアをノックした。

「どちら様ですの?」
「龍之介。浴衣に着替えるのに来たんだけど」

ドアが開いた。
開けたのは野梨子。
シンプルな藍染めのほおずき柄の浴衣。
さすがに和服に着慣れているだけあり、
浴衣姿も堂に入っている。

「どうぞ、お入りになってくださいな。早かったですわね」
「おかげで、今後一週間の仕込みを引き受けることになったんだけどな」
「あら、それは大変ですわね」
「何の。浴衣美人で目の保養ができると思えばこそ、さ」
「まぁ!龍之介さんたら」
「なぁに、美童みたいなこと言ってんのよ。さっさと入ってあんたも着替えなさいよ」

野梨子の後ろにいた可憐の声に龍之介は部屋の中に入った。
可憐はカラフルでゴージャスな蝶柄浴衣。某ブランドから出たばかりの新作浴衣だ。
このゴージャスさに負けず着こなせるのは可憐ぐらいのものだろう。

「龍之介っーーー!」

部屋の中から猫のように龍之介に飛びついてきた悠理は、
タマとフクの絵がちりばめられた少々子供っぽいが可愛らしい浴衣。
部屋の中の3人の浴衣姿は三人三様、それぞれ美しい。
しかし、龍之介にしてみれば、当然ながらこの悠理の浴衣姿が一番。

「悠理、浴衣似合うじゃないか」
「ホントかー?」
「うん、すげぇ可愛いぞ」
「えへへ・・・」

悠理も、龍之介に褒められてすっかり顔を綻ばせた。





「ちょっと、そこのバカップル。いちゃついてんじゃないわよ!」

可憐のやけにいらいらした雰囲気に、龍之介はこっそり悠理に聞いた。

「可憐、どーしたんだ?」
「髪型が決まんないんだってさ。そんなん、どうだっていいじゃんなぁ」
「・・・ちょっと!聞こえたわよ、悠理!
この可憐さんが浴衣を着るのよ!?頭から爪の先まで完璧じゃなくてどうするのよ!」

可憐は鏡の前でああでもない、こうでもないと、
その綺麗なウェーブヘアを持ち上げてみたり、束ねてみたりと、忙しい。
その様子を見て龍之介は言った。

「髪型、オレがやってやろうか?」
「何よ。龍之介、できるわけ?」
「髪を結うのは、よくいおりのをやってるからな。結構得意だぞ」
「・・・ホントぉ?」
「論より証拠。それ貸してみな」

言うが早いか、龍之介が側にあった野梨子の柘植櫛を手に取ると、
疑り深い可憐の視線は徐々に感嘆の眼差しへと変わっていった。

「すっごいじゃない、龍之介!ヘタな美容師より上手だわ!」
「ふふん、まぁな」

龍之介は柘植櫛の先を器用に使って、可憐のロングヘアを少しずつ束ねながら、
見事、うなじにわずかに後れ毛を残した、しっとりと大人っぽい編み込みを結い上げた。
野梨子が感心してため息をついた。

「龍之介さん、やっぱり手先が器用なんですのね。可憐、とても素敵ですわ」
「ホントね・・・なかなかいいわ!やっぱり元がいいからかしら?」
「ばーか。龍之介の腕がいいからに決まってんだろぉ?」
「ま、その両方だろ。我ながら、なかなかいい出来映えだな」

可憐はすっかりその髪型が気に入って、大きな姿見の前でいろいろとポーズを取った。
先程の機嫌の悪さは微塵も伺えない。

「うん。いい感じ!気に入ったわ。
野梨子、あんたもやってもらえば?たまにはおかっぱ以外の髪型もやってみたらいいじゃない!」
「わたくしはいいですわ。龍之介さんだってお着替えしなくちゃいけないのに・・・」
「オレは別に構わないよ」

龍之介は鏡の前に野梨子を座らせると、
同じ柘植櫛で烏の濡れ羽色と賞される野梨子のつやつやの黒髪を梳き、
後ろでまとめ上げてアップに仕上げた。
可憐の持っていた浴衣の色に似たバレッタを飾ると、
今までの野梨子のイメージとはまたひと味違う、どことなくおきゃんな雰囲気に仕上がった。

「あら、いいじゃない!何となくアクティブな感じで、素敵だわ!
とても運動音痴には見えないわよ?」
「可憐、失礼なこと言わないでくださいな!
でも、わたくし、こんな風にしたの初めてですわ・・・」
「気に入った?」
「ええ!とても!」

野梨子の笑顔に、龍之介も満足げに頷いた。





「野梨子も可憐も色白だからさ、うなじを見せた方がいつもより色っぽくてなかなかいいよ」
「あら、何よ。あたしと野梨子が普段は色っぽく無いってわけ?」
「浴衣は普段の3割り増しで美人に見えるって言うだろ?これでそれが5割増しってこと」
「まぁ、褒め言葉として受け取っておきますわ」

3人はにこやかに笑った。

「さ、あたしたちは先に下に行ってるから、龍之介もさっさと着替えて降りてくるのよ」
「おう。」
「それじゃ行きましょ、悠理」
「・・・・・・・・・・・・・」

背後から刺すような視線を感じ、龍之介が振り返ると、
悠理がどことなく恨めしい目つきで龍之介を睨んでいた。

「・・・どーした?悠理」
「・・・あたい、行かないっ!」

そう言うと、悠理は部屋の奥の寝室に飛び込むとガチャリと鍵を掛けてしまった。

「おいっ!?悠理!?」
「あー・・・もしかして」
「・・・もしかしますわね」

ドアをノックして悠理を呼ぶ龍之介を横目に、可憐と野梨子が顔を見合わせた。

「悠理ったらヤキモチ妬いちゃったわけね。
龍之介があたしと野梨子の髪をいじって色白だとか色っぽいとか言うから」
「オレ、世間一般の感想を言ったまでなんだけどなー・・・」
「それはわかってますけど、悠理は根が単純ですもの」
「しょ~がないな、わかった。オレがどうにかするよ」
「じゃぁ、がんばってね!」
「それでは、先に行ってますわね」

龍之介は部屋を出ていく2人の浴衣美人に軽く手を振ると、
もう1人の浴衣美人の立てこもった部屋の前に座った。





・・・龍之介のバカぁっ!
何だよ何だよぉっ!可憐と野梨子の髪なんかいじって!
あたいがいる前で、うなじが色っぽいだのなんだの言いやがって!
・・・どうせ、あたいの髪じゃどーやったってうなじなんか見せられないよ。
・・・それより、何より、ひとっかけらも色気なんかないよ。
・・・・・・う。
龍之介の・・・ばか。

悠理は、閉じこもったドアに背を預け、膝を抱えて小さくしゃがむと、
急に熱くなってきた目元をぐんぐんと擦った。
手の甲がちょっぴり濡れた。
すると、背中でドアがコンコンと音を立て、声がした。
龍之介の声だった。

「・・・悠理、怒ったのか?」
「怒ってなんかいないっ!龍之介のバカっ!」

・・・うーむ、そういうのを怒ってると言うんじゃないのかな。

「悠理、本当に花火行かないのか?あんなに楽しみにしてたのに」
「・・・・・・・・・・・・・」
「とにかく、ここ開けてくれないか?」
「・・・・・・・・・・・・・」





かちゃり。

ドアの鍵が開いた。
龍之介が素早く部屋の中に身体を滑り込ませると、
少しだけ赤い目をした悠理は、くるりと後ろを向くとベッドの上に体育座りをした。
怒っているというよりは、どことなくいじけた背中だ。
龍之介はそっとその背中の後ろに腰掛けた。

「悠理、せっかくの浴衣、しわになっちゃうぞ?」
「・・・いいんだもん、もう花火大会なんか行かないから」
「どーして?」
「・・・どーせ、あたいなんか、浴衣着たって野梨子や可憐みたく色っぽくもなんともならないもん」
「おいおい、誰がそんなこと言った?」

悠理は少しふくれた顔で振り向き、龍之介の顔を睨んでから、
プイとそっぽを向いて、再び背中を向けた。

「・・・可憐と野梨子には色っぽいって言ったのに、
あたいには可愛いとしか言ってくれなかったじゃないか。」

・・・やっぱりオレかい。オレが悪いんだな?

「可愛いだけじゃだめか。」
「・・・だめだ。」

龍之介は俄に苦笑した。
しかし、そんなことで拗ねている悠理が、めちゃくちゃ可愛くて愛しくてどうしようもない。

「・・・あのなぁ、悠理は色っぽくなくていいんだよ」
「どぉいう意味だよぉ!?」

そっぽを向いた顔がさらに強い視線で帰ってきた。
その視線を逃さないようにして、龍之介は言葉を続けた。

「いーか?悠理が色っぽかったら他の男の目を引くだろ?
そんなことになったら、オレのヤキモチが止まらなくなっちゃうじゃないか」
「へ・・・?」

思ってもみなかったその言葉に、悠理のふくれっ面がきょとんと不思議そうな表情に変わった。
今までどちらかと言えば、いつもヤキモチを妬くのは悠理の方で、
龍之介がヤキモチを妬くというのは意外なことだった。

「・・・りゅうのすけが、ヤキモチ妬くのか?」
「当たり前だろ。・・・オレの大事な悠理が誰よりも色っぽくて可愛い女だなんて、
オレは他のどんな男にも知られたくない。悠理は、オレの前だけで色っぽければいーんだ・・・」

龍之介はそう言って、悠理を優しく抱きしめた。
悠理は龍之介に抱かれながらその顔を見上げた。

「・・・ほ・・んと?ほんとにあたいは・・・龍之介の前では色っぽいのか?」
「あぁ、すげぇ色っぽいよ。浴衣美人は沢山いても、
悠理以外にこれほど浴衣を脱がせたくなる女は他にいないもんな」

龍之介の真っ直ぐな優しい視線と一瞬絡みあったあと、
悠理は恥ずかしげに目を逸らし、小さな声でささやいた。

「・・・じゃ、脱がしてみる・・・か?」
「ん・・・そうしてみる」





龍之介は悠理を自身の両腿で挟むようにして抱えると、ゆっくりとくちびるを重ねた。
悠理もその両腕を龍之介の首に絡ませながら、身体を押しつけた。
仄かに悠理の首筋から香る爽やかな柑橘系の香りに、龍之介は訊ねた。

「悠理、もしかして香水付けてる?」
「・・・あ、わかった?
さっき、可憐が持ってた香水の瓶がさ、変わった形してて面白いから、ちょっと触ってたんだ。
そしたら、可憐に“何、あんたも香水に興味あるの?”って、
手首と首筋に付けられた・・・龍之介はいやか?こーいう匂い」
「・・・いや、悠理に合ってる。すごくいい匂いだ。
可憐にその香水の名前聞いておけよ。今度、オレが悠理に買ってやるから」
「ホント?」
「ほんと。」

龍之介は左手で悠理をしっかりと抱え、浴衣の合わせから手を差し込むと、そっとその胸に触れた。
その胸の柔らかさを楽しめば楽しむほど、悠理の吐息は乱れ、
その眉間がせつなげに歪む。
龍之介は浴衣の裾を割り悠理の太股に触れる。
さらに悠理のため息のような吐息が漏れる。
龍之介は悠理の胸元を乱した右手を悠理の背後にまわすと、腰の兵児帯を掴むとするりとほどいた。
途端に浴衣はため息をついたようにするりと弛み、
その弛んだ襟元からは鎖骨から胸元にかけて白い肌が覗いた。
龍之介は躊躇わずにそこに顔を埋めた。

「んぁぁっ・・・だめぇ・・りゅぅー・・・」

そう言いつつも悠理は、自分の胸元にくちびるを這わせる龍之介のシャツをしっかりと掴み、
自らの身体と龍之介の身体がわずかでも離れることを拒んだ。
龍之介の左手と口の中に含んだ2つの半球の中心がそれぞれ徐々に固くしこり始め、
悠理の吐息も荒くなっていく。

「あぁんっ!あはぁ・・・」

右手を浴衣の中に忍ばせ、悠理の内股を探ると、下着のその部分はすでに湿り気を帯びており、
龍之介がその脇から指を入れると、そこは絡みつくように迎えた。

「悠理・・・もうこんなに・・・」
「ゃぁ
・・・言うな・・・言わないで・・・」

龍之介にしがみつきながら啜り泣くような声で悠理はふるふると頭を振る。

「・・・じゃ、言わない」

言葉の代わりに指先を少しだけ奥へ進めた。柔らかな悠理の襞の感触が指先から伝わる。

「・・・くぅ・・・りゅうぅ・・・」
「ゆうり・・・」

はらりと悠理の浴衣が床に落ちた。
香水の爽やかな香りが、甘く情熱的な香りへと変わった。





ベッドの上でぴったりと龍之介に寄り添い、悠理が聞いた。

「・・・ところで、龍之介の浴衣ってどんなの?」
「それが、まだ見てないんだよな。
ばーちゃんに頼んで縫ってもらったんだけど、受け取ってすぐにこっちに来たから。
まぁ、あの人はそれなりに趣味はいいから、悪くはないと思うけど」
「へぇ!五十鈴ばーちゃんが縫ってくれたんだ!
・・・ねぇ、やっぱり気が変わった。花火大会行こ!」
「どうした?急に」
「うふふ。龍之介の浴衣姿、見たくなった~」
「まったく、悠理は気まぐれだな。んじゃ、着替えるとするか」
「ん!」

悠理はベッドから飛び上がると、先程自分が脱がされた浴衣を手にした途端、大きな声を上げた。

「うあぁ~っ!!!」
「どーした!?悠理っ!?」
「・・・しわになってる。あたいのタマフク浴衣ぁ・・・」
「あーぁ、ホントダ。フロントに電話してアイロン借りよう。オレがかけてやるから」
「うん・・・ごめん。あたいが電話するから、龍之介、先に浴衣着てていいよ・・・。
花火・・・始まっちゃうな」

少し、落ち込んだ風に電話をかける悠理を横目に、
龍之介は鞄の中から五十鈴が縫ってくれた浴衣が挟まれた包みを取りだした。
それを開いてみると、中から何かが書かれた小さな紙が落ちた。
それ拾って読んだ龍之介は受話器を持つ悠理の手を止めた。

「・・・悠理、電話やめ」
「・・・?なんで?」
「これ。見てみ」

龍之介は浴衣に挟まれていた小さな紙を悠理に見せた。


 悪童へ。

 男もんの浴衣は色気が無くてつまらないからね、
 あんたの可愛い跳ねっ返りの彼女の分も縫ってみたよ。
 着せてやりな。
                             五十鈴


そっけないが、五十鈴らしい書き方である。

「・・・浴衣、二枚入ってた。あの人も、なかなか味な真似するよなぁ」
「五十鈴ばーちゃん、あたいにも浴衣、縫ってくれたんだ・・・」

龍之介の渋い草木染めの浴衣の下から、黒地に赤い彼岸花が描かれた女物の浴衣が出てきた。
おそらく、五十鈴が反物から選び仕立て上げたのだろう、なかなか粋な浴衣である。
さらには、同じく彼岸花をモチーフにした髪飾りまで入っていた。

「うっわぁー・・・」
「う~ん、やっぱりいい趣味してんな。これ絶対悠理に似合うぞ」

悠理は一目ですっかりこの浴衣が気に入ってしまった。

「あたい、これ着るっ!」
「じゃ、オレが着せてやろう」
「うんっ!それから、この髪飾りも、飾ってくれる?」
「もちろんさ。ばーちゃんにここまでお膳立てされたらな」
「あー・・・でもあたい、髪の毛こんなんだから、うなじ出すような髪型ムリだよね・・・」
「いいんだよ。悠理のうなじが綺麗なのはオレだけが知ってる秘密だから。
他の誰にも見せたくない・・・」

龍之介は、悠理の髪の毛をかき上げると、現れたうなじに口付けた。
悠理はくすぐったそうに身を捩った。





「野梨子、なかなか素敵ですね」
「可憐も、大人っぽくっていいじゃねぇか」

普段滅多にこんなことを言わない清四郎と魅録の言葉に、
野梨子と可憐は驚いたように顔を見合わせた。

「・・・やっぱり5割り増しみたいね」
「・・・ですわね。この2人が言うんですもの」

そしてくすくす笑う2人の浴衣美人に、清四郎と魅録は不思議そうな表情で顔を見合わせた。

「ところで、悠理と龍之介はまだなのか?もうすぐだぞ、花火の打ち上げは」
「あの2人、遅いわねぇ。余程、悠理を引っ張り出すのに手間取ってるのかしら・・・?」
「何かあったんですか?2人に」
「・・・知らないよぉ、そんなこと」

先程あんなにも、意気揚々とナンパに励んでいた美童が、
うって変わってすっかりといじけた顔でぼやいている。

「どうやら、ナンパした女の子の2人組に、『二股なんてサイテー』って振られちゃったらしいわよ」
「そりゃ・・・自業自得だな」
「同情の余地はありませんね。・・・で結局、悠理と龍之介はどうしたんですか?」
「さっき、ちょっとくだらないことで、悠理がヤキモチ妬いちゃってね。
花火大会行くのやめるってごねたのよ」
「それで、龍之介がなだめてるって訳ですか」
「そんなところですわ」
「お、噂をすればなんとやら・・・だな。
・・・何だよ、あいつら思いっきり仲良さそうじゃねぇか。しっかり手なんか繋ぎやがって~」
「あらっ!悠理ったら、さっき着てた浴衣と違うじゃない!」
「でも、素敵ですわ。あの彼岸花の浴衣。髪型も少し変わってますわね。
きっと、龍之介さんにしてもらったんですのね。可愛らしいわ」
「よっ!ご両人~~!」

魅録は、こちらへ歩いてくる浴衣姿のカップルに向かって、からかうように声を掛けた。
聞こえてるのかいないのか、2人は気にもせずにいちゃつきながらこちらに手を振り返してきた。

「どうやら、龍之介さん、うまく悠理のご機嫌を直せたようですわね」
「そのようですね。ほら、そろそろ最初の花火の打ち上げが始まりますよ」

川岸で半被を着た男達が花火の大筒に火を点ける。
一つ目の花火の音が鼻を切ると、次々に大きな花が夜空に瞬く。
花火が人々の顔が照らす。幸せ色に染めていく。

夏はまだまだ終わらない。





おまけ。

「悠理、その浴衣どうしたのよ?」
「龍之介のばーちゃんが、あたいのために縫ってくれたんだ!いーだろぉ!」
「あぁ、あの恐そうな綾菊の大女将ね。
・・・ところで悠理、あんた確か一人じゃ浴衣着られなかったハズよねぇ~?」
「そっ、そんなのどーだっていーだろっ!?なぁ!?龍之介!?」
「ん?何?」
「あらぁ?どうしてそこで龍之介が出てくるのかしら?(にやにや)」
「うるさいなっ!あたいが龍之介に浴衣着せてもらおうがどうしようが、
別に可憐にはカンケーないだろぉっ!?」
「なーんだ、やっぱり龍之介に着せてもらったんだ。
なんか首筋に“愛のシルシ”みたいなのが付いてるから、そーなのかなーとは思ってたんだけど」
「うそっ!?どこっ!?どこだよ~っ!?」
「・・・ばかね。冗談に決まってるでしょ?」

からかうような表情で、可憐は2人の元から他のメンバーの方へ戻っていった。
残された2人は何とも形容しがたいようなばつの悪い表情で顔を見合わせた。

「や、やられた・・・」
「悠理は可憐の誘導尋問に引っ掛かりすぎだぞ?
・・・オレはいつもそんな目立つところには付けてないって」
「う~、ごめん・・・りゅう」
「ま、バレたらバレたで。それはそれ、さ」

そう言って龍之介は悠理の手をきゅっと握って自分の方に悠理を引き寄せると、
その頬に、回りに気付かれないくらいの軽いキスをした。
悠理は嬉しそうにはにかむと、龍之介の肩に自身の身体を預けるように寄り添った。

「ほら、また花火が上がるぞ!」
「すっげー!綺麗だなっ!龍之介!」
「あぁ、綺麗だな」
「な、龍之介・・・」
「何?」
「・・・後で、この浴衣も脱がしてくれるんだよな?」
「・・・・・・・・・」

どーーーーーーん!

一際大きな花火が夜空を覆った。




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