真夜中、あたいはふと目を覚ました。
そこは、龍之介の腕の中。そして、裸。
・・・静かだな。
さっきまで、2人でいいだけセックスしてた寝室とは思えないや。
あたいと龍之介の2人しかいないこの寝室で今、音がしそうなものと言えば、
2人の心臓の鼓動の音ぐらいだ。
龍之介は寝ている。同じく、裸。
あーぁ、相変わらず無防備で可愛らしい寝顔をさらしちゃって。
あたいは龍之介の寝顔を間近で見つめながら、そっとその頬から顎を指先でなぞってみる。
この時間の龍之介はよくよく見ると、男っぽい。
うっすらとヒゲなんか生えて、ちょっとワイルドな感じ。
あたいの大好きな王子様・・・なんてね・・・ぅぁ、今のなんかすっごくテレクサイ・・・。
うぅん・・・
寝息を漏らしながら龍之介の腕が自分の胸にあたいを引き寄せる。
大きな手があたいの髪の毛をまさぐる。
気持ちいい。
・・・どうしよう。
あたい幸せだ。
世界で一番大好きな男とこんなに近くにいられるなんて。
温もりを感じていられるなんて。
なんか・・・満たされ過ぎて少し不安になりそうだよ。
増幅する幸せが、あたいを泣かせようとする。
だけど、この寝顔はそんな不安をすぐに吹き飛ばしてしまう。
もうどんな夜だって一人じゃないんだ。
今も・・・これからも、ずっと。
あたいは龍之介のヒゲで少しだけざらざらする頬に軽く濡らす程度のキスをして、
首筋に鼻を擦り付ける。胸に顔を埋める。龍之介の鼓動が身体に響く。
安心する。すごく安心する。
シュワちゃんみたいなムキムキ筋肉もカッコイイけど、
龍之介のこういうしなやかな感じ、すごく好き。
龍之介の筋肉の硬さが心地良い。
いっつもこの身体に抱かれてるんだな、あたいは。
あたいと龍之介の身体ってすごく合うんだ。
肌と肌を合わせるとしっとり溶けるような感じでさ・・・うふふ。
あたいは暗闇の中でこっそり笑みを浮かべながら龍之介の胸にぴったりと頬を寄せて、
その滑らかな身体に指をすべらせた。
皮膚一枚の下に、誇示するためではなく生き抜くために何気なく存在している強さのシルシ。
物理的な強さだけが龍之介の強さの全てではないのだけど。
でも、触り心地も寝心地も最高にいいあたいだけの枕に違いはない。
・・・龍之介の匂いがする。あたいの好きな匂い。
数時間前、あたいは龍之介と重なりながら聞いてみた。
あたいとセックスするとき、あたいは龍之介の何なんだ?
あたいって、もしかして龍之介に料理されてる?
ん~、料理するときってさ、特に生ものを扱うときは、絶対に体温を食材に移してはいけないんだ。
それだけで生きが下がるから。
だから、どんなに最高の食材を目の前にしても、興奮してはいけない。
頭から指先まで、自分には血が通ってないと思いこむんだ。
そうやって、あくまでクールにさばくのがプロの料理人ってもんなんだ。
へ~、なるほどねー。
って、おい!てことは、あたいは、龍之介にとって食材なのかー?
あたいの声は少し拗ねた。
肉や魚と同じように扱われているんじゃ納得いかないぞ。
それを感じ取って、龍之介は笑みを浮かべた。
バカだな。
誰も悠理を肉や魚と同じになんか扱ってねぇよ。
オレがお前に触るとき、体温を感じないのか?
オレは素直に男として興奮してるだろ。
龍之介の体温?
・・・そうだ、感じる。
龍之介に触れられると、そこからじわじわと龍之介の体温があたいの身体に移って、
だんだんあたいの身体を熱くしてくんだ。
・・・今みたいに。
悠理、お前はそのままがいいんだ。
オレはそのままのお前を味わいたい。
小さな花みたいなくちびるも、小振りで柔らかな可愛いおっぱいも、綺麗な果物のようなあそこも。
オレをぎゅっと受け止めてくれるその心も。
オレはお前の前じゃ料理人だなんて気取っちゃいられない。
オレはただの男になる。腹ぺこの男にな。
だから、お前のすべてを食べてしまいたい。いつも、お前を抱く度にそう思っているよ。
あたいは、セックスの度に龍之介に食べられてるのか?
そうだよ。いっつも、咬んだり舐めたりしてるだろ?
悠理が美味しいからだよ。いい匂いもするし。
だからオレはいつも、お前を抱きながらお前を食べている。わかるだろ?そこら辺は。
そこら辺って?
・・・つまりは、オレはお前が大好きってこと。
さりげなく、そんなことを言われたらあたいは照れてしまう。
でも、嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい!!!
あたいは龍之介のことをぎゅーーっと抱きしめた。
こら・・・悠理、そんな力いっぱい抱きしめられたら、嬉しいけどくるしいー・・・!
やだー!離さないっ!
あ。ところで、あたいってどんな味がするんだ・・・?
ふふ、それは秘密。
何で秘密なんだよぉ。
いいの。悠理は代わりにオレの味を好きになれよ。
悠理にしかわからないオレの味をさ。
龍之介はあたいの口に自分の指を含ませた。
あたいは赤ちゃんみたいに、それを吸う。
・・・もう、とっくに大好きだよ。龍之介の味なんか。
そう言えば、龍之介はよくあたいのあそこを舐めたがる。
恥ずかしいといっても聞いてくれない。
そして、舐められているうちにあたいの恥ずかしさは、
どんどんいやらしい声へと変わり、あっと言う間にイッてしまう。
そんなあたいを龍之介は満足げに見つめて、それからおっきくした自分をあたいの中に埋める。
あたいの中に埋めた自分を擦りつけながら、あたいのおっぱいを舐めたり咬んだり吸ったりする。
それであたいはまた、イッてしまうんだ。
・・・あ。もしかして、あたいの味って、あたいのあそこのことー?
やだぁ・・りゅうのすけのえっちぃ♪
龍之介とのセックスのことを考えていたら、龍之介が欲しくなってしまった。
あたいはいつも龍之介にいやらしいことをされると、
つい照れ隠しで“スケベ”とか“バカ”とか言っちゃうけど、
結局あたいもして欲しいんだ。龍之介に食べられたい。あたいを全部。
で、あたいも龍之介を食べたい。それこそ、全部。
そう思った瞬間、あたいの中に龍之介の指が侵入してきた。
その感触にあたいは僅かに吐息を漏らした。
起きてたのか?
あたいが様子を伺うと龍之介は目を閉じたまま答えた。
起きてる。今、起きた。
ん・・・ぁ。
龍之介の指はあたいの最も感じる部分を犯して、
あたいの中からたっぷりと溢れてくる体液で擦り上げる。
あたいは龍之介の指がもっともっと中に入るようにぴったりと龍之介に身体を寄せ脚を開く。
りゅう・・・すごく気持ちいい・・・。
あたいはセックスの最中は龍之介のことをりゅうと呼ぶ。
あまりに感じすぎてる時は声が掠れて龍之介の名前を全部呼べなくて、
いつの間にかそう呼んでいた。
漢字の“龍”ではなく、ひらがなの“りゅう”。
同じ時、龍之介はあたいのことを、ゆうりと呼ぶ。
漢字の“悠理”ではなく、ひらがなの“ゆうり”。
“りゅう”と“ゆうり”は似ている。
感じ合ってるときに、この名で呼び合っていると、あたいと龍之介は同じ種類の獣へと変わる。
同じ種類の獣の雄と雌。
どんな種類の獣かというと、猫かな、やっぱり。
2人とも猫が好きだし、周りにも、じゃれ合ってるとつがいの猫みたいだとよく言われるし。
・・・りゅうって、ロシアンブルーみたいだ。
へぇ、いいな。オレ好きだぞ、ロシアンブルー。
龍之介は嬉しそうな笑みを浮かべた。
そう言うゆうりは、アビシニアンみたいだよ。
元気良くて、可愛い感じなんかそっくりだ。
じゃぁさ、あたいがもしも猫だったら、りゅうはあたいのこと飼ってくれる?
んー、それはやだな。
えーなんでー?
だって、ゆうりが猫なら、オレも猫がいい。
じゃ、あたいとりゅうの2人で、じゃなかった2匹で最強の猫王国作っちゃおう!
いいね、それ。なら、いっぱい子供作らないとな。
ん・・・だって、王国だもんね・・・。
くちゅくちゅと身体の芯をいじられながら、
あたいは龍之介の耳元で、どんなにあたいが感じているかをささやく。
龍之介の柔らかな耳朶を咬む。
髪の毛をまさぐる。
いやらしい声を聴かせる。
龍之介が歓んでるのがその指先から伝わって、あたいはまた嬌声をあげる。
やっぱりあたいたちは猫だ。獣だ。
龍之介の指は繊細で大胆だ。料理人の指ってみんなこうなんだろうか。
あたいがどのタイミングでイクのか、ちゃんと指先でわかってる。
あたいは腰をそっと揺らして龍之介の指先をあそこで感じる。
龍之介は料理の天才でもあるけど、あたいをイカせる天才でもある。
龍之介があたいのおっぱいを口に含んだ。
その歯や舌の感触が、あたいの気を遠くさせる。
ぼんやりとした意識の中、龍之介の声。
ゆうり、もうちょっと太れないか?今のままじゃ細すぎるよ。
この辺とか、この辺。
龍之介はあたいの腰回りとおっぱいに触ってそう言った。
あたいは不服だ。こら、さっき言ってたことと違うじゃないか。
さっきのエッチの時は、あたいはそのままがいいって、言ったじゃないかぁ!
おっぱいだって小さい方が好きって!
うん。ゆうりはオレにとって最高の女だよ。オレの女としてはそのままがいい。
龍之介はあたいのおっぱいのさきっぽをつまんでくりくりと玩びながら言った。
・・・あぁ・・ん。
あたいは気持ちよくてちょっとエッチな声をあげてしまった。
龍之介は指を動かしながら言葉を続ける。
でもな、オレたちの仔猫のママになるんだったら、もうちょっと太った方がいいと思うんだ。
・・・ママ?
そう、ママ。
あ、でも、お前食ってるよなぁ。
あれだけ食っててよく太らないなぁ。オレも似たような体質だけど。
結局オレがもっと努力しなきゃだめなのかな。
もっと美味いモン食わせて、もっとおっぱい揉んで。
・・・おし、これからもがんばらないとな。
もぉ・・・可愛いな、龍之介は。
あたいは自分が龍之介の子供を宿すことを思った。
何という幸せな未来。
大きくなったあたいのお腹に、嬉しそうに耳を寄せる龍之介。
これはきっと、確かな未来。あたいと龍之介の幸せな未来。
あたいは笑って言った。
りゅうの赤ちゃんできたら、今よりもっと食べるようにするよ。
龍之介はあたいの言葉を嬉しそうに噛みしめ、くくっと笑ってキスしてきた。
柔らかなその感触にあたいがそっとくちびるを開くと、龍之介は舌を入れてきた。
あたいはそれをそっと咬んで吸う。
龍之介の舌は敏感だ。料理人としての最高の舌を持ってる。
そんな人並み外れた味覚を持つ舌を味わうのは不思議だ。
しかも、龍之介の舌は美味しい。
あたいが味わっているように、龍之介もあたいの舌を味わってるんだろう。
お互いの口を満たす唾液を奪い合うように飲み込む。
あたいと龍之介の深いキスはそれだけでセックスとして成り立ってしまう気がする。
いやらしくて、神聖で、すごく気持ちいい。
あたいは、半分イキながら、龍之介に聞いた。
な、りゅうがあたいに惚れたのって、いつから?
うーん、いつかなぁ。お前があいつらと初めてオレの部屋に来たとき、
みんな飲み潰れて、オレとお前だけが残っただろ?
お前が眠たそうな顔をしたから、オレはお前を抱き上げてソファに寝かせた。
お前はすごくいい匂いがして、その時いつかお前を抱くんじゃないかって思ったな。
きっとその時に、オレはお前に惚れたんだと思う。覚えてるか?
覚えてるに決まってるだろぉ。
でも、そんな頃からりゅうはあたいに惚れてて、いつか抱くかも、なんて思ってたくせに、
どーしてなかなか手ぇ出してこなかったんだよぉ。
そーきたか。
まぁ、いろんなしがらみがあったってのも否めないけど、
いつか本当にお前を抱くことがあるんだったら、それまで大事にしてやろうって思ってた。
じゃぁ、あたいが抱いてって言わなかったら、ずっと抱かなかった?
ふふ、さぁね。
さぁねぇ?こら、ごまかすなぁ!
それより、悠理はいつからオレに惚れてた?
あたいは・・・初めて会ったとき。“ホントに”初めて会ったとき。
・・・あの時?
そーだよ・・・あの時。初めて会ったあのときからずっと大好きだったんだから。ずっと・・・ずっと!
・・・そうだな。オレもあの時からかもしれない。
あの時から、悠理のことが好きだった。ずっと忘れられなかった・・・。
愛してる・・・悠理。世界で一番愛してる。 あたいは、記憶の中の小さな龍之介の今と全然変わらない優しい笑顔を思い出しながら小さく喘いだ。
あたいは龍之介の指と、その愛の言葉でイッてしまった。
イッた?
・・・イッた。
よかった?
・・・よかった。
入れていい?
入れて・・・
素直に答えるのがだんだん恥ずかしくなってくる。
もぅ、わかってるくせにいちいち聞いてくるな!
龍之介の端正な顔がにやりと笑う。
ばか。そんな顔すんな~!スケベ!何考えてるんだよ!
ん?こんなに濡れて可愛いな、ってさ。
ばかぁ・・・
あぁ、もぉ~聞くんじゃなかった・・・。
あたいはかなり恥ずかしくなって身体をくねらせた。
でも、龍之介がこういう風になるのは、さっきちょっとロマンチックなことを言い過ぎたと思ってるからだ。
つまりは照れ隠し。バレバレだっての。
でも、あたいはこういうエッチな龍之介もすごく好きだったりする。
あたいの上に龍之介がのし掛かる。少し重い。でも、平気。
入れるよ。
ん・・・
いつの間にかおっきくなってた龍之介のあれが、
すっかりぐちょぐちょに濡れちゃってるあたいの中に少しずつ入ってきた。
あ・・・入ってくる前に、手で触って可愛がってあげたかったな。
あたいは両腕、両脚で龍之介を抱きしめて、龍之介を受け入れる。
しばらくはその一体感を楽しんでから、ゆっくりと龍之介は動きだす。
優しい動きがあたいを揺らす。
あたいの身体と一緒にあたいの意識も揺さぶられる。
あたいと龍之介にしか作れない官能的なリズム。
この素敵なリズムであたいの身体をつつきながら、甘いささやきを言う合間に、
たまに龍之介はあたいに息を吸うように、と言う。
あたいはあまりにこのリズムが気持ちよくて、
息をすることを忘れるぐらいおかしくなっちゃってすぐ失神しちゃうからだ。
ほら、吸って・・・吐いて。レントゲン写真でも撮るみたいだ。
あたいは少し大げさに息を吸って吐く。深呼吸するみたいに。
そうすると龍之介はよくできましたって感じでほっぺたに、ちゅっ、とキスしてくれる。
それがすごく嬉しい。
龍之介は次第に動きを速め、あたいを激しく突き動かし始める。
こうなると、あたいは一生懸命全身で龍之介にしがみついてることしかできなくて、
そんなときは本当に息をするのが大変だ。喘ぐのだってやっと。
龍之介って見た目と違ってむちゃくちゃタフだから・・・
普通より体力があるハズのあたいでこうなんだから、
他の女の子じゃきっと身が持たないだろうな。
雄の習性なんだ、と龍之介は言う。
愛してる女を組み敷いて、出せる限りの精液を受け止めて欲しくなるんだ。
ごめんな、ちょっと乱暴になっちゃって。
・・・ううん、いいんだ。
最初はびっくりしたけど、最近はこれを少し期待しているあたいがいる。
こういう風に求められた後は、いつもあそこがしばらくじんじんして、
いっぱい愛されたな、って実感が湧くんだ。実際今もすごく感じてしまってるし。
もちろん、優しく愛されるのも大好きだけど。
あたいにだけすることだから、龍之介にはどんなふうにされても平気。
・・・だから他の女にしたら、即刻コロス。
本気・・だぞ?あたいは・・・・
あたいは、龍之介の身体に張り付きながらまたもやイッてしまった。
だけど、今度は龍之介も一緒。龍之介はあたいの中で一休みしてる。
あたいと龍之介は乱れた呼吸を合わせるように、お互いの体温を溶かす。
耳元でお互いに愛してるとささやく。
他にもいろいろささやき合うけどそれは秘密だ。あたいにだって一応恥じらいというものはある。
愛の行為の直後ってのは結構恥ずかしいことを平気で口走るから。
っていうか、龍之介の愛のささやきはあたいだけのものだもんね。うふふ。
龍之介はあたいに負担を掛けないようにあたいを抱いたままで自分の身体を下にした。
あ、龍之介眠そうだなぁ。
そりゃそうだ、さっきまでぐっすり眠っていたんだから。
りゅう、寝ていいよ、とあたいは言った。
ありがと・・・と言って、龍之介はあたいの中に入ったままでコトリと寝てしまった。
あたいはしばらくこのままでいたかったけど、何度もイッたせいですごく喉が渇いてしまった。
ちょっと名残惜しい気持ちを残して龍之介から身体を外し、
そばに置いてあったティッシュを数枚抜いて、龍之介同様眠そうにしてるアレを拭いてあげる。
きれいにしてあげてから、あたいは自分のも拭った。
それから、裸のまま寝室を出てキッチンへ行った。
冷蔵庫を開け、ペットボトルのミネラルウォーターを取りだして口に含むと、
飲み込んだ冷たい水が喉から食道を通って胃に落ちる感覚がはっきりとわかる。
喉の渇きは収まったけど、龍之介に暖められ火照った身体の体温が少し下がってしまった。
・・・もったいないな。
ふと、内股に生ぬるい感触を覚えた。
あたいのずっと奥から流れてきた龍之介の精液だった。愛おしい男の体液。
これからどれだけ、あの男の体液をこの身体で受けるのだろう。
そして、いつか、あたいは龍之介の子供を生む。
あたいは太股をつたう白い液体をそっと指にとった。
これは、龍之介の命の迸り。
指先のその白い液体にたまらない愛おしさを感じて、あたいは口に含んだ。
龍之介の味がした。
あと何日かしたら、あたいと龍之介の結婚式がやって来る。
悠理の匂いと温もりが消えた。
途端に眠りかけていたオレの意識が再び覚めた。
悠理はきっと寝室を出て何かを飲みに行ったんだろう。
あれだけ汗をかいて気をやったから喉が渇いたんだろうな。
目を閉じていても、悠理のことは全てわかる。
怒っているのか、喜んでいるのか、悲しんでいるのか、楽しんでいるのか、
オレを求めているのかさえも、わかってしまう。
匂いをかいで、その肌にくちびるを寄せただけで。
人よりも少々五感が優れているからとは言え、
今まで人の喜怒哀楽までわかってしまうことはなかった。悠理以外は。
はっきり言って、悠理の喜怒哀楽は誰が見てもわかりやすい。
だが、悠理の姿を見なくても、声を聞かなくても、
匂いや気配や温もりだけでその気持ちがわかるのはオレだけではないかと思う。
悠理以外の女を抱いたことも、抱きたいと思ったこともないから、
他の女はどうなのかは知らない。
だが、これほど甘く、よい匂いと味のする女はきっと他にいない。
他人に言えば、惚気だとか、惚れてるからだと一蹴されるかな。
ドアがそっと開く音と共に、再びよい匂いの女が戻ってきた。
悠理は、オレに冷たいくちびるを寄せてきた。
わずかに口を開くと、少しぬるくなった水が流れてきた。
オレも喉が渇いてると思って、口移しで飲ませてくれているのだろう。
オレは目を閉じたままゆっくりと飲み干した。
オレの目には見えないけど、オレが水を飲んだのを見て、
悠理が満足そうに笑みを浮かべているのがわかる。
オレは“おいで”と言う代わりに自分の胸に悠理の場所を作る。
悠理は再びオレの懐に滑り込むと、規則正しい鼓動をオレの身体に響かせた。
オレも悠理の身体に腕を回し、悠理の少し冷えた身体を暖め直す。
2人の体温がまた一つになる。
オレと悠理は互いの指先を絡め合わせ、握った。
悠理が呟くように言った。
・・・もうすぐ、結婚できるんだね。
オレも答える。
・・・ん。そうしたら、ずっと一緒だ。
・・・そうだね、ずっと一緒。
愛してる。
あたいも、愛してる。
さ、もう眠ろう。
うん、眠ろう。
お休み、ゆうり。
お休み、りゅう。
2人は互いの温もりの中で夢を見る。
夢の中で2人は二匹の猫となる。
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