妻が死んだ。
私をおいて逝ってしまった。
罪深い自分の、たった一つの救い。
妻がいたから、私は世界を狂わせずにすんだのだ。
私はこれから、どうすればいいのだ…
「お父さん…」
恐る恐る部屋に入って来た子供の顔に、私は息を飲んだ。
妻が逝った直後というのも間が悪かったのだろう。
愛しい、妻との子供。
長男が自分に容姿も精神も似ているのに反して、この次男は妻に似ていた。
容姿も、その心も。
妻も生前から似てるとよく口にしていた。
しかし、その時の私にはそれは妻そのものに見えた。
「…お父さん…?」
そっと、頬に触れてみる。
温かい、血の通った体。
埋葬する前に触れた妻の体は、陶器のように冷たかったのに。
そして、私はやっと世界が自分に戻って来たのを知った。
目の前の『 』とともに。
「…………ャ」
それが、全ての始まりだった――――。