「ん……っ」
ここは、どこだろう?
目が覚めて、少年はぼんやりとする頭で考えてみたが、何も思考が浮かんでこなかった。
今まで何をしていたかも、自分の名前すらも、何も思い出せない。
ただ、何か、ぴちゃぴちゃとした水音だけが聞こえるのがわかった。
「あ……?」
肌に触れる冷たい空気。
少年は裸だった。
艶やかな白い肌の、細い体。宝石のような緑色の大きな目。
柔らかな金髪は、物乞いをするような女よりずっと短いのが勿体無く思えるぐらい美しい。
「ひあ…ッ!」
内股を、何かがさすっていった。
よく見えないけれど、それは赤い半透明の細長い物体だった。
冷たくて、ぬるぬるしている。
びゅるびゅると動いて、少年の肌の白い股の間をのたくっている薄紅色のそれが、気味悪かった。
それが分泌している濡れた体液が、きめ細かい肌をぬめぬめと濡らしていく。
心なしか、その先端は、自分の股間からぶらさがっている男性器のように見えた。
「んん…っ!」
辺りを見回しても、それらの蠢く触手以外、何も見えない。
ただ、触手に腕を頭上で縛られて、足を大きく開かされて触手に固定され、宙に浮いている自分の体だけが見える。
「いや……ッ?」
不安でその触手を、翠緑玉と同じ色の瞳でじっと見ていると、別の細い触手がいきなり、陰茎の根元に絡まり出して、彼は思わず甲高い声を出した。
「あ…あぁ……っ!」
絡まっている肉色の触手とは、また違う触手が催淫効果のある液を出しながら、空気に触れてひくつき始めた彼の鈴口を、つつき始める。
ぴちゃぴちゃと、水音が響く。
「んん……ッ!」
触手から分泌される液が、彼の陰茎についた瞬間、少年は喉を反らせてひくつかせた。
陰茎から先走った液と、触手の先から溢れ出る液が混ざり合う。
快感の刺激を受けて、剥き出しになった少年の亀頭を、いつのまにかさらに数の増えた触手が、くねくねと蠢きながら突付き始めた。
性器の最も敏感な部分を弄り回されて、少年は華奢な体をひくひくと震えさせながら、喘ぎ続ける。
「ああ…ん……嫌……ッ!」
催淫剤を出しながら最初に絡まってきた触手が、今度は尿道に侵入し、その液を少年の内側に流し込んだ。
刺激が強すぎて、彼は背を弓なりにびくんと反らせた。
「あ…はあぁ……ッああ……イきた……ッ!」
彼はたった数分で、快楽の虜となっていた。
ひくりと震える内股や尻、じとりと汗ばむ背や胸を、ぬめぬめとした触手の吐き出す体液に濡らし、白い肌が興奮に染まっていた。
快感に、荒い呼吸を繰り返しているせいで、胸が大きく上下に動く。
甘い喘ぎの漏れる口からは、涎が筋を作って流れ出し、顎まで伝っていた。
陰茎だけでなく、乳首まできゅうっと触手に縛られて、膨らんだ先端をまた別の触手がつついたり、なでたりして刺激を与え続ける。
体中に快感を与えられ続け、射精の欲求が高まっていく。
触手に根元を縛られているせいで、びくんびくんと張っているのに達せないのが辛い。
それで十分辛いのに、端で静かにしていた、先端が男性器に似ている触手が、少年の瑞々しい尻をつつき始めた。
それは、少年の性器と同じぐらいの太さだった。
「ん…ふ……っ」
少年はぬめぬめと濡れ光った触手に突付かれるのを感じたが、前に与えられる快感が強烈すぎて、たいして気にはならなかった。
だが、それが尻の肉を割って、肛門の中に粘ついた体液を吐き出した時は驚いて、さすがに尻をきゅっとすぼめた。
しかし、触手は、すぼめた尻の肉をもう一度押し広げて、彼の中に一気に入りこむ。
「い……あああぁぁ…!」
孔が裂ける痛みに、少年の快感は一気に掻き消えた。
「あ…ぁ……っやあぁ……ッ!」
涙をぼろぼろと流して、今度は痛みに喘いだ。
裂けた箇所から流れる血を、尻を支配している触手が、悦んでいるようにくちゅくちゅと吸い尽くす。
「ん……!」
その傷跡に、粘液にまみれた触手が新しく体液を浴びせた。
すると、血を流していた箇所は、すぐに癒えてしまった。
尻の痛みが消えるとすぐに、少年は前に与えられる快楽に再び支配される。
「は……っく…ぅ…」
後孔の裂けた部分が治ってしまうと、尻の穴の中に侵入したままの触手に、なにかむずむずするような感覚がした。
しかし、その疼きをかき消すように、腸を遡り、腹の中に入ってきた触手と、そこで腸内に流し込まれる冷たい液体。
少年の体が、ひくんと跳ねた。
「あぐ……ッああ……ッ」
無理矢理流し込まれるその体液と、腹まで入り込んでくる触手は、孔が裂けた時とはまた違う、鈍い痛みを体にもたらした。
「んう…ふう……ッ」
下腹部がぽっこりと膨らむぐらい、触手に腸内に液体を流し込まれ、少年は呻いた。
触手に束縛されて宙に浮いた体が、みしみしと軋んで動くたびに、腹の中で揺れる液体と触手が気持ち悪い。
今すぐにでも入れられたものを出したいのに、触手が肛門を塞いだままだ。
ごろごろと腹がなるのを感じる。
「くう…うぅ…や……ッう…」
苦しくて、ぽろぽろと涙を流しながら嗚咽を洩らした時、尻から触手がひゅるりと抜かれた。
「はあ……ああ……ッ!」
少年は一瞬、羞恥を感じたが、過去も記憶も今以外何も思い出せない彼は、すぐにその感情は消えていった。
ただ、尻が解放されたことが気持ちよくて、腹に力をいれ、中に溜まっていた便を吐き出していく。
「んう……ふ…っ」
ぶしゅりと、綺麗な彼の尻から汚い音がした。
茶色の汚水が最初に勢いよくあふれ出し、焦げ茶の塊が零れ出した。
柔らかくなった便がぼたぼたと、宙に浮いた彼の体から垂れていく。
「はあ…ぁ……ッ」
汚れた臭いも、前に与えられる快楽と、便を放出する快感に夢中になり、苦しまされてもいる彼には、あまり気にならなかった。
ぶしゅぶしゅと、少年が吐き出し続け、床に溜まった便も、触手達が肥やしとして吸い取って、きれいにしていく。
便を全て出し終わった少年の尻の孔には触手が入り込み、腸の中で再び体液を噴出し、彼の中を洗浄した。
「んふう…ああ…ッ」
再び膨れる彼の腹。
だが、今度は触手はすぐに抜き出され、少年は洗浄のために入れられた体液を勢いよく噴出した。
「ん……!」
尻の中がきれいになると、再びあのぬめった触手が彼の尻に入り込んだ。
侵入しても、ただ動かず、体液を出していく。
だが、その体液が吐き出されるたびに、彼はざわざわとした快感を尻の中に感じた。
「んん……っ」
同じように、今度は少年の愛らしい唇からも触手が入り込み、口内に甘い体液を出していく。
気持ちよいから、少年はそれをごくごくと飲み込んだ。
頬に朱が差している彼の顔の、今度は瞳が焦点を失いだした。
「ん…んぁん……っ?」
だが不意に、口にも尻にも吐き出されていた、気持ちの良い液体が出なくなった。
「んん……ッ!」
もどかしくなって、少年は腰を振った。
興奮に赤く染まっている尻の肉が震える。
前後に振って、左右に振って、すると、動かない触手に前立腺がすれ、強い快感を少年に与えた。
「んあ…ん……ッ!」
自分の体の中に、すれると気持ちよくなる場所が存在する事に気づいた少年は、自分から必死に腰を振り出した。
汗のついた細い金髪が揺れる。
「ん……ッふ、あ……くっ……んぅん……!」
甘い声を洩らしながら、汗と触手の体液にまみれた尻を震わせる。
腰を振って、後孔の中の触手をきゅうっと締め付けると、あの気持ちよくなる液体が出る事に気付いた。
尻の中の触手は、彼が締め付けるたびに徐々に膨らみ、今はもう最初の彼の性器の太さではなく、彼の腕よりも太くなり、どくどくと脈打っていた。
口の中の触手も、全体を舐め上げたり、先端の割れ目に舌を入れて舐めたりすると、あの甘い液が出る事がわかった。
「ん…あ…!んあ…ふ、ぁ……ッん……!」
口と尻だけではなく、彼の体中に触手がすりよっていった。
びちゃびちゃと体液を分泌して、少年の体を舐め回していく。
先端から液体を噴出しながら、彼の体を舐めるように這いまわり、粘液を、その震える体にすりつけるように。
少年の体中にかけられる触手の体液は、毛穴から肌に染み込んで、彼の全身を性感帯へと変えていた。
「んんう……!んんー…ッ!」
今や少年の頭にあるのは、与えられ続ける強力な快感と、止められる続けている射精への欲求だけだった。
イきたくて、イきたくて、彼は髪を振り乱して、腰をむちゃくちゃにくねらせた。
「ぁ……あん……ッ!」
その動きに満足したかのように、先程からずっと陰茎を縛っていた触手が、離れた。
「ああぁぁぁ…ッ!」
射精の瞬間、口を犯していた触手も離れ、彼は大きな嬌声をあげた。
たくさんの蠢く触手と、淫らに喘ぐ華奢な少年が入れられているショーケースの上には、”蠢動の間”とプレートがかけられていた。
その前には、色とりどりの美しい衣装をまとい、きらびやかな仮面をつけて素顔を隠した人間達が立っていた。
「育ちが良さそうだな、綺麗な肌をして、綺麗な髪をして、そしてあの美しいエメラルドのような目」
見物人の一人が、感嘆のため息を洩らした。
「これは先日崩壊した小国の、一貴族の子息にございます」
客と同じように、素顔を隠し、白い制服を着た従業員が解説をする。
「一から性の奴隷である事を仕込むため、記憶は全て消しました」
「今後、客にさせる事もあるのかね?」
また、別の見物人が尋ねる。
「お客様からご要望があれば、そのようにもさせて頂きますが…あの触手に仕込まれた以上、人間のサイズでは、あれはもう満足しないかも知れません」
そう聞くと、その場の客達は卑猥な笑みを洩らした。
深い夜の限られた時間だけ開店しているこの店―Paraphilia―では、夜な夜な、男女問わず様々な性癖の持ち主が集まる。
彼のショーケースの前に集まったのは、少女のようにも見える少年が、快楽に堕ちていく様を好む者。
あるいは、美しい人間が、醜い生物に犯される様を観察するのを好む者。
入店時に店が貸す衣装を着る事が義務で、マスカレイドのように扮装し仮面をつけて、正体を隠す。
互いに素性を明かしたり、また追究することは、決してしてはいけない秘密だらけの店。
「はあ……ッあ……ああぁ…ッ!」
先程は、動きすらしなかった尻の中の触手は、今度は激しく少年の後孔で抽出を繰り返していた。
それも、一本ではない。何本もの触手が、彼の後孔を拡張し、侵食していた。
それぞれの触手が、彼の中で別々の動きで、少年をよがらせ、身もだえさせた。
「く…ふう…うぅ……ッ!」
触手達は時には再び腸まで入り込み、少年の腹の中で蠢き、うねり、彼の腹を膨らませ、その表面の皮膚をびくんびくんと波打たせた。
前立腺を擦られ、乳首を突付かれ、陰茎や睾丸をさすられ、なでられ、全身に快楽を与えられながら、少年は何度も何度も射精した。
まるでそれだけのために生まれてきたように。
過去の記憶も、自分の名前も記憶から消え去っている彼は、今は触手に快楽を与え続けられる事だけが存在意義だった。
