僕はいつも、お気に入りのケースを一つ側に置いている。
シルバーとブラックを基調としてデザインされたアタッシュケース。
ただ、側面に銀の文字で”Ilze Lidicruss Psyha”と、僕の名前を刻印している。
移動時は、組み込まれた装置の働きで浮遊し、僕の持つコントローラー一つで移動できる。
「これがあれば、どこでも食事が取れるし、どこでも用が足せる。便利でしょう?」
家臣達にそれは何かと聞かれても、いつもそれだけ返事する。
中身を他の人間に教える必要なんてない。
これは僕だけのものだから。
自室で勉学に励む。
催しても、僕はトイレには行かない。
側に置いているケースのロックを解除した。
中で眠っている彼がぴくんと身を震わす。
このサイハ国の小さな属国、タージットの第三皇太子リーヴァ。
リーヴァは幼い頃に、忠誠の証として僕の国に献上された。
彼はすぐに、サイハ国の第一王子である僕の身の回りの世話係、そして遊び相手となった。
家族は皆、この国の技術促進の研究のために忙しく、僕の相手をする間はなかったから。
僕に対する振る舞い一つで、リーヴァの祖国の運命は天国にも地獄にも成り得た。
だからリーヴァは僕に尽くした。僕はそんな彼を気に入った。
彼の国の人間、特に王族は、流れるようなプラチナブロンドの髪に、深い紫水晶色の美しい瞳が特徴的だ。
僕の国の人間のような、金の髪に碧の瞳が持つ華やかさはないけれど、
リーヴァは整った顔立ちであまりにも可愛かったから、二度と祖国に戻れないように、今は両腕両足はレーザーメスで切断してある。
どの道、ずっと僕が運んであげるから、もう四肢は必要ない。
その時に遺伝子も操作してあるから、彼は16歳のまま歳をとる事はない。
リーヴァはほとんど僕の部屋を出たことがなく、この皇居の人間の目に触れる機会が少なかったから、弱小国の王子の事など皆忘れていた。
「リーヴァ」
薄紅色のきれいな両乳首につけた、彼の瞳と同じ紫水晶のピアスを引っ張る。
「あ…っん……」
か細い鳴き声。
眠っていた彼が目を開ける。
「ほら、飲んで」
下着を脱いで、陰茎をリーヴァの口に当てた。
小さいが形良い唇で従順にしゃぶりはじめる。
その口の中に放尿した。
「ん…っん……」
用を足したくなったら、彼に飲ませてあげている。
最初は抵抗したけれど、彼が眠っている間に、知り合いの科学者に頼んで、すでに脳を弄って味覚を変えてもらっていたから、実際に飲み込ませると、美味しそうに飲み干した。
便を食べさせても同じ反応をする。
「ありがと、リーヴァ」
頭をなでると、瞳を潤ませて、僕の名前を呼んだ。
「イルゼ……っ」
「まだ今日の課題が終わってないんだ、もう少し待ってて」
もの欲しそうな彼の額にキスをして、ケースを閉めた。
その中以外の景色をリーヴァが見る事はほとんどないけれど、彼が僕以外を見る必要なんてない。
そろそろ、夕食の時間だ。
食事は自室でとる事がほとんどだ。
僕も、両親も、弟や妹達も、それぞれの研究や仕事で今も忙しいから、食堂に集まる事はほとんどない。
召使にも、食事は運んでこなくていいと伝えてある。
この世で一番美味しいものを、僕はいつでも持っているから。
再びケースを開けた。
あざや染み一つないリーヴァの白い肌がルームライトに照らされる。
引き出しの中のナイフを出して、リーヴァの腹のしなやかな肉を切った。
「んうぅ…っ」
眠っていたリーヴァが、呻いて目を覚ました。
痛覚は無くしているけれど、何か感じるものはあるようだ。
「ごめんね、すぐ終わるからね」
ゼリーをすくうように、柔らかな肉をすくう。
きれいな赤い色。
彼はもちろん普通の人間だったけど、ゼナの友人に手伝ってもらい、彼が眠っている間に、第一等位の食用人間に改造してあげた。
消化器と泌尿器を切除した代わりに、損傷しても無性生殖を繰り返していく人工の生物が融合しているから、何度でも彼の肉を味わえる。
ゼナはその昔、人間以外の生物が滅んでしまい、飢餓を乗りきるために食用の人間を作ったぐらいの国だから、その手の技術が優れている。
「やっぱりリーヴァは美味しいね」
口に入れた瞬間に溶けるとさえ思える柔らかな肉。
何度口にしても、飽きた事はない。
愛する人をいつまでも食べて、生きていけるなんて、こんなに幸福な事はないから。
食事をとっている間にも、融合させた生物のお陰で傷口はすぐに治っていく。
肉を食べた後は、グラスをとって、リーヴァの性器に当てた。
そこにはカテーテルが通されていて、鈴口の蓋をはずすと、体液がグラスに溜まった。
リーヴァの膀胱だった場所に移植された人工の生物が作り出す栄養価の高い飲料。
「ん……っ」
もう尿はなくても、満たされていた膀胱が解放され、リーヴァが気持ち良さそうな顔をする。
それは一瞬で、空になるとすぐに、いつでも飲めるようにこの飲料は作られるけど。
「リーヴァ」
汗をしっとりと滲ませ、肌を震わせている美しい体。
そっと肌をなぞって、彼をケースから出し、膝の上に抱いた。
胴だけの彼は、腕の中にすっぽりと納まる。
四肢の切断面は皮膚移植を施しているから、まるで最初からそこに腕や足はなかったようにさえ思える。
「ぁう…イル…ゼ……っ」
甘えるような声。彼が知っているのは僕だけで、彼を知っているのも僕だけ。
「可愛いリーヴァ…ご褒美だよ」
再び引き出しから、今度はローションを取り出した。
リーヴァの後孔を十分に解していく。
「ぁん…欲し…ぃ…はやく…っ」
腕の中で快感に震え、ねだる姿が愛しくて、素早く性器を入れた。
「んあ…ん………!」
甘い声が漏れる。
彼が手足を失う前から、愛しあうためのこの行為は何度も繰り返してきた。
最初は泣き叫ぶだけだったリーヴァも、最後には甘く鳴くようになった。
「あ…ぁん…っ」
後ろから手を回して、乳首のピアスを弄り、彼の性器を優しくすく。
「はあぁ…ッ!ぁん…」
彼の体の中は人工生物が満たしているから、彼の精巣で作られた精子も、その生物が餌としてすぐに吸い取っていく。
だから彼が射精する事はない。
僕に抱かれて何度も達していたリーヴァを思い出すと、それは可哀想に思えたから、彼の脳は、僕の性器を受け入れている時が一番幸福を感じられるようにしている。
性奴隷の脳に施す手術と同じもの。
だから、いつもこんなに欲しがる。
「はぁん…ッぁ…ん…」
よがるリーヴァの口から涎が溢れ出した。
「…ふ…っ…気持ちいいね、リーヴァ…」
僕も彼の中に出した。
体内を支配しているその生物が、直腸に吐き出された精液も取り込んで、食べていく。
僕の排泄物と精液がリーヴァの食事。
「…イ…ルゼ…っもっとぉ……」
僕の名前を呼ぶ声。
たくさんの名前が存在するこの世界の中で、今、彼の脳が覚えている唯一の名詞、僕の名前。
リーヴァの祖国は、僕の国を始めとする、生物科学の最先端の成果を、非人道的で人間の倫理に反する行為だとして研究しなかった。
その結果、技術は発展せずに先進国の属国となった。
非人道的だなんて、笑わせる。
僕はこんなにリーヴァを愛しているのに。
僕はいつか、この広大な国を統べる。
だけど、君の世界は僕一人だけ。
それがとても嬉しくて、今はもう僕しか存在を知らない生きものを抱きしめた。
