痩身に、白衣を羽織った科学者と思われる男が、隠された自分の研究所に向かっていた。
口元は歪んだ笑みが浮かんでいた。
その研究所のさらに地下の、暗証番号、網膜照合、指紋照合によって厳重に警備された一室に入る。
「調子はどうだ?」
中にいる、ただ一人の生物に向かって話しかけた。
猛りきった雄の証を刺激しながら。
「……っ!」
部屋の中央の金属製の台に横たえられて、幾本ものコードに繋がれているのは、
約一年程前に捕らえられた、この国でスパイ活動をしていた男だ。
この男は、故郷の優れた科学技術で、身体の半分を機械にされて、生きながらえていたようだ。
脳も操作されて痛覚は感じないようにされていたが、それをさらに改造して、
快楽中枢を弄って常に快感を与えるようにしてやった。
それはもう、自分にも二度と元に戻すことはできない。
だからこの男は、生きているだけで快感を感じるようになっている。
しかも、優良なサイボーグということが逆に災いして、死ぬことはできないし、眠る必要はないし、
また理性を失うこともできないのだ。
常に乳首と性器の先端にコードを繋いで、電流を通している。
身体を震わせて、身悶えて、ただ襲い来る快楽を受け入れるしかない。
半分機械と言っても、男の愉しみをもたらす機能は残っていた。
今は勃起し続ける根元に金属の輪を嵌めて、先端もコードで埋めているが。
恐らく愛する人がいて、その人との子供でも欲しかったからなのだろう。
それはもう永遠に適わない、幸せな夢だけれど。
「……」
男は、今は両手両足は切断して、金属の板で切断面を塞いだ。
喘ぎとなった悲鳴はうるさいので、声帯は切除した。
声は出せない。
ただ、唇が何かを訴えかけるように、動いた。
ゆ、る、し、て
こ、ろ、し、て
読唇すると、おそらくそう言っているのだろう。
自分が男の所に行くと、必ずそう唇を動かす。
眉をひそめて、見上げてくる。
しかしその願いをかなえることはない。
声が出せずに、ただ低い呻きを洩らす頭を、気まぐれに優しくなでた。
この男は、捕らえられた時に初めて見たときや拷問した時には、張り詰めた表情で気づかなかったが、
今のように大人しくしていると整った顔立ちだとわかる。
おそらく自分よりは年下だろう。
「……っ」
なでる手にさえ、快感を感じて、ぴくりと身を震わせる。
「今日はいいことをしてやろう」
そう言うと、瞳に怯えが見えた。
左足を奪った日も、右足を切り取った日も、左手を失わせた日も、
右手を切断した日も、喉を潰した日も、どの日も初めにそう言ったからだ。
「…っ」
首にメスで切れ目を入れると、快感に男が身をよじる。
もう声は出せないが、荒い息を吐いていた。
「お前は本当に淫乱だな」
もちろんそんな体に造りかえたのは自分なのだが。
首の皮膚を切断すると、幾本もの電気コードが見えた。
コードを一本づつ切断しては天井から伸びた長いコードに繋いでいく。
そのコードはさらに男の身体の神経系にも繋がっている。
「……っ」
全て繋ぎ終えた時、男の首は完全に身体から離れ、天井からぶらさがるような形になっていた。
「ほら、こうすれば、自分の身体が見下ろせるだろう?」
首を両手でつかんで、下を向かせて見せる。
男にもし、涙を流す器官が残されていれば、きっとずっと涙を流していただろう。
その首に繋がれたコードはかなり長く、下肢の方にも首を移動することができた。
首を、股間の前へ持っていった。
「折角男の楽しみは残っているんだからな、自分で舐めろ」
固く閉じた口を無理矢理空けさせた。
金属の器具をねじ入れて、閉じられないようにする。
「……!」
性器に取り付けた拘束をはずし、舌をひっぱり出して、口の中に睾丸や性器を突っ込んで舐めさせた。
あふれ出したり、乾いてこびりついたりしている精液を、なめとるように舌を動かす。
一度舐め出したら、その快感のせいで、止めることができないのだろう。
「…っ」
苦しそうに、しかし恍惚とした表情で、手も足もない肉塊と化した自分の身体に、欲望をそそぐ。
すぐに射精し、頭は上から押さえてあるので口が股間から離せずに、飲み込んだ。
「美味いか?」
それから5回程イかせ、精液を全て飲み込ませると、首に繋がったコードの隙間から雫が垂れた。
それが面白く、しばらく観察した後、もう一度性器を拘束した。
「……ッ!」
だが、首は股間のすぐ前で固定した。もちろんたとえ勃起しても性器に舌は届く。
「それで一人で遊んでいろ」
冷たく言い放って、扉に向かう。
またすぐに、醜く膨らみだした性器はもちろん視界に入ったが、
せき止めている輪やコードははずさずに、そのまま部屋を出た。
何日も射精させなくても、腐り落ちることはないようにしてあった。
「………!」
四肢も首もない男の身体は自分で動かして、感情を表現できる部分が全くない。
もがくことすらできない。
だから、去り行く自分に何も訴えることはできない。
またあの部屋に行くかどうかはわからない。
今日の前にあの部屋に行ったのは喉を潰した日で、今日はその日から一ヶ月ほど経っていたし、
左足と右足を切断した時も、左手と右手を切り取った時も、その間は数ヶ月程あったのだから。
そして行っても行かなくても、あの男にとってはたいした違いはないのだから。
