ここはエトルリア連合軍のキャンプ地。
 大きめで簡素なテントの中には、調理場とは言えないが、それなりの設備が整えられていた。その中にあるテーブルで何やら作業をしている人影がひとつ。
「ふふふ…よぉし、完成!!」
 その人影は嬉しそうな声と共に顔を上げた。踊り子独特の衣装と両側で団子に結われたオレンジ髪の少女――ララムだ。大きめの瞳を達成感と感激で輝かせながら、満面の笑みでテーブルの上の箱を見つめている。
 嬉しそうに箱のふたを閉め、大事そうに抱えながらテントを後にした。

 彼女が消えてしばらく後、慌てて一人の女性が駆けつけた。西方三島のレジスタンスのリーダー、エギドナだ。
「しまった!遅かった…」
 テントの惨状を見た女勇者は、体中から冷や汗が出た。
 ――ララムの居たテントから火が出ていたというのは、本人の全く知り様もない事実である。



弁当必殺仕事人!



 激しい戦いと共に各地を転戦してきたリキア同盟軍。彼らはエトルリア王宮の奪還の後、次なる戦いの地を目指す途中で、しばしの安らかな時間を得ていた。

 新たにエトルリア連合軍の指揮官となったロイもまた、その一人であった。

「ん〜っ…平和だなぁ。いつもこうならいいのに…」
「ロイ様、お茶が入りました」
 いつもなら様々な仕事に忙殺されていた、のどかな時間。彼は一時の平和を噛み締めていた。気を利かせたウォルトが淹れてくれたお茶を啜り、舌鼓を打つ。
「うん、美味しい。のんびり飲むお茶は格別だね」
 嬉しそうにお茶を飲むロイを見て満足そうに微笑みながら、ウォルトはテントに開いた小さな窓の外を見た。その先には珍しくチェスをしているアレンとランスの姿がある。
「しばらく強行軍を続けていましらからね。きっと他の方々も、ロイ様のようにのんびりしていらっしゃいますよ」
「あはは、そうだね。誰か同じ台詞を言っている者も居るかもしれない」
 そんな他愛も無い会話が続く。今日一日こんなのんびりした日を過ごせるのかと期待していたロイの予想は、思わぬ来客によって突き崩されるのであった。

 不意に、足跡が聞こえてくる。それはこのテントの前で止まった。

 二人はあれ、と思った。このテントに来そうな人々は皆外出しているのだ。
 マリナスは輸送隊の買い出しで、マーカスもそれについて行っている。アレンとランスはウォルトの見ている窓の外でチェス、リリーナは最近ヴァルキュリアになったクラリーネと共に、セシリア将軍に魔道を教わりに行っているはずだ。
 誰だろう。マリナス達はこんなに早く帰ってくる事はないしな…
 ロイが不思議に思っている間にも、ウォルトは入り口に向かう。外に立っていたのは一人の少女だった。
「あれ、ララムさん…?」
 ウォルトが間抜けな声を出した。ロイも尋ねてきた意外な人物を見、少し驚いた。
「ロイ様! お弁当作って来たの〜食べて食べてっ☆」
「お弁当?」
「うん、そう! 一生懸命作ったんだから〜!!」
 そう言いながらスタスタとテントに入り、中央のテーブルに抱きしめるように持って来た箱を置く。サッとウォルトの顔色が悪くなった。
 パカリと箱のふたが外されると、中身が露になった。
 丸や三角からは程遠い歪な形のおにぎり、表面が綺麗に黒く焼け焦げた卵焼き…その他色々、ユニークなお弁当の具がギュッと詰まっていた。
「…えっ…と、美味しそうだね、見た目は…」
「そうでしょ!? きっと美味しいんだから!!」

 何処から来るのだろう、その自信…
 ウォルトは以前エギドナから少し話を聞いていた。ララムの弁当には気をつけろ、と。だがどう割って入ろうか考えている内に先手を打たれてしまった。
「ね、ね? 食べて食べて♪」
「え、あ…うん…」
 呆然と箱の中身を見ながら、ロイは恐る恐る箸を持った。
 ウォルトは慌てて止めに入ろうとしたが、口を開きかけた所ララムに「うるさい!」とぴしゃりと制された。彼には恐ろしく思いながら、主を哀れむ事しか出来なかった。
 箸で卵焼きを持ち、恐る恐る口に運ぶ。パクリと一気に頬張った。
「あ、結構…………」
 そこまで言って、ロイは口を噤んだ。
「や、やっぱり…! 大丈夫ですか!?」
 ウォルトが小声で声をかける。ロイはララムのキラキラとした眼差しを受けつつ、必死に首を動かしてウォルトの方を見る。視線が合うと、引き攣った笑顔で、ウォルトの肩をガッシと掴んだ。
「うぉ…ウォルトもどうだい?」
「え、ええッ!?」
 やはり「やっぱり」という節をしっかりと聞いていたのだろう。こめかみに怒りマークでもついていそうな凄みのある顔で、ロイはもう一度尋ねた。
 
「ウォルトも、どうだい?」

 一応疑問形ではあるものの、本質は「食え」という事だろう。幼い頃から一緒に居たウォルトなら、ちょっとした表情の変化ですぐに分かる。知りながら止められなかったという事もあるため断れるはずも無く、泣く泣く頷くしかなかった。
 ロイはララムの笑顔に圧され、ウォルトはロイの笑顔に圧されて恐る恐るおかずを取ると、思い切って口に放り込んだ。

 そして、指揮官のテントから謎の呻き声が上がったという…


 ララムがテントから出てくると、渋い顔の女勇者が立っていた。
「あ、エギドナさーん!」
 笑顔で手を振りながら近付いてくるララムに、エギドナは真剣な声で言った。
「ララム…まさか、食べさせたのかい? アレを」
「うん。ロイ様綺麗に食べてくれたよ♪」
「そうかい…気の毒にねぇ…」
 ララム特製弁当の威力を知るエギドナは、深く深く溜め息を吐いた。その後しばらく、エトルリア同盟軍の行軍は遅くなったという―――
あとがき
花見という事で作り始めたのですが、桜が散ってしまった事もあって方向転換。
ララムの弁当をめぐるお話になってしまいました。
被害者はララムとエギドナの支援で話題に出たロイ様。
そしてコンビとして定着してしまっているウォルトも道連れに…ごめんよウォルト…
彼らがどうなったかはご想像にお任せします★
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