チェンジ・ザ・キャラクターズ!


 ある日、それは起こった。

「ふ〜んふふ〜ん♪ いやぁ…いい魔道書が手に入りましたぁ♪」
 鼻歌を歌いながら歩いているのは軍内唯一の闇魔道士、カナスである。嬉しそうに歩くその手には古めかしい本があった。
「あ…あそこにいるのはセインさんではないですか! 体力高いし…大丈夫そうだなぁ。ちょっと、これの効果を試してみますかね」
ちょっとした悪戯を思いついたカナスは楽しそうにニィッと笑う。
「あぁっ! 美しいお嬢さんっ! お名前をっ!!」
「え? えぇっ!? あの…」
 当のセインはライフワークの真っ最中。食料を差し入れに来ていた女性に声をかけていた。
 …あっという間に逃げられたが。
「えいっ!」
 カナスは慣れた調子で魔道をかける。
 魔道書から放たれた『力』は何の気配も立てず、セインの緑色の鎧を伝い、ついにはうなだれる彼の全身を包み込んだ。
「くぅ…なんか最近調子悪いなぁ、俺…」
 彼は全く気づいていない様子。どうやら上手くいったようである。
 だが…
「………あれ?おかしいな…効果が出てこない…」
 失敗したのだろうか、とカナスはがくっと肩を落とした。
 それからしばらく様子を見ていたが、魔道の効果はいっこうに現れない。
 うなだれるカナスをよそに、セインは気を取り直して輸送隊の方に歩いていった。
「…ふう…傷ぐすり補給しとかなきゃな…」
 空になった傷ぐすりの袋をふりながら歩いていた。すると…
 ずるっ!
「げっ!」
 そうだった。
 ここは丘の上に続く道。こんな所から足を踏み外せば、間違いなくふもとへ真っ逆さまである。
(しかもケントが居るしっ!)
 とはいえ「よけろ〜!」という暇もなく、ただただ落ちていくだけなのであった。
 ドスン!!
 …やっぱりぶつかった。そうだよなぁ…誰が自分の頭上から人が落ちてくるなんて思うだろう。
「う…ってて…」
 一応生きている。ケントの方はどうだろうと周りを見た。
 そして自分と同じように倒れている男を見つけたセインは我が目を疑った。
 倒れていた男は赤ではなく、緑の鎧をまとっている。ちなみに自分の方は…
「あ…赤っ!? 赤の鎧!? おいおい…そんなことが…!?」
 思わず声を出して気が付いた。自分の声ではない。そう…この声はいつも横にいる相棒の…!
(こっ…こんなことが…!?)
「う…」
 どうやらケントも気が付いたらしい。同じく自分の鎧を見て唖然とする。
 ぱっとこっちを見て目が合い、また更に目を丸くする。あいつも、もちろん俺も。
 何度見ても信じられそうにない。自分の目の前に、驚いてこっちを見ている自分が居るなんて。  
次の瞬間、思い出した様に叫ぶ。
 
「ど…どうなってるんだこれは――――――っ!!!」


 その叫びは風に乗り、軍の指揮官が集まるテントにまで届いていた。
「…どうしたの? セインはともかくケントまであんな大声で…」
 驚いて駆けつけたリンディスが不思議そうな顔で問う。
(俺はともかくってひどいよな…)
 反論したいが今はケントだ。その上自分の姿をした相棒が横目でこっちを睨んでいる。
 …おお怖っ…
 セインはちょっと肩をすくめた。
 ふと見ると、見覚えのない女性が…! 思わず体がぴくっと動く。
「おぉっ! 美しいお嬢さん! お名前をっそしてお茶でもっ!!」
 一通りいつもの台詞を言った後、はっと我に返った。
 …しまった…やってしまった。あぁ…ケントが睨んでる。俺の顔だけど。でも眉間にしわが…しかもすっげー恐い顔…あんな顔できるんだな、俺って。
「ケ…ケント…?」
 リンディスが目を丸くし、おずおずと話しかけてくる。その顔は幽霊にでも会った様な顔だった。
「あ…いや…その…」
 助けを求めてケントの方に目をやる。だが返ってきたのは恐ろしく鋭い視線だった。
「お、やってるな。リンディス、さっきの絶叫の理由は分かったのか?」
「…なんだか楽しそうだな、ヘクトル」
 エリウッドとヘクトルがやってきた。どうやらさっきの行動を見ていてらしい。ヘクトルの顔は悪戯っぽく笑っていた。
「よく分からないわ。ただ、さっき…」
「い…いやあれは日々の習慣っていうか…」
 慌てて口を挟むが、すぐに逆効果だと気づいた。
「日々の…習慣…!? ケント…??」
「お…おい…冗談だろ…!?」
「ケント…君が!?」
 三人の冷ややかな目が俺を見る。そして隣ではケントの怒りボルテージが満杯に…

「このっ…馬鹿者があああぁぁぁっっっ!!!」

 あ〜…やっぱり…でもちょっと待てよ?なんか三人の目が…

「…二人とも…どうしたの!?」
 どうしたのか俺も知りたいです…
「頭でも打ったんじゃねーのか!?」
 頭どころか全身…そのせい?
「なんだか二人が入れ替わったみたいだな…」
 そう!それなんですっ!
「…実は…」
 ケントが神妙な面もちで説明を始めた。…セインの顔だが。


「…とすると、ぶつかって気が付いたら入れ替わっていた。そう言うこと?」
 こくり、とそろって頷いた。
「ンな事あり得るのか?信じらんねえぜ」
「とはいえ、次の出陣は明日だ。君たちに抜けられると辛いな…」
 エリウッドは少し困った顔をした。すると横で話を聞いていた軍師が口を開く。
「なら、このまま出陣してもらいましょう。彼らの機動力と戦闘力は重要ですし。多少不便だとは思いますが…」
「おぉ〜いっウィート君! んな無茶苦茶なっ!」
「…分かりました。やりましょう!」
「…ってケント君!」
 抗議したがケントの一言でかき消されてしまった。結局軍師ウィートの言う通りに、入れ替わったままで出陣する羽目になってしまった。
 話に取り残されたセインはボソッと呟く。
「…マジですか?」
「マジです。頑張って下さいね。腕の見せ所ですよ!」
 くぅ…あっさりと言ってくれちゃって。
 何となく嫌な予感を抱きつつも、準備は進んでいくのだった。


「…いよいよだな」
 セインの姿をしたケントがぐっ、と手綱を握る。その顔には明らかに不安が満ちていた。
 手が細かく震える。こんな事は滅多にない。いつもと違う環境に戸惑っているようだ。
 無理もない。何せ自分が隣にいるのだから。
「二人とも大丈夫ですか? 顔がこわばっていますけど…」
 いつもはエリウッド達と念入りに話し込んでいるウィートがこちらに歩いてきた。
「…大丈夫です。ウィート殿こそお話の方は…」
「一通り終えました。後はお二人がどの位動けるか、ですね」
 プレッシャーかけるなよぉ〜…
 
 そんなこんなで戦闘が始まった。
 馬の蹄の音、金属のこすれる音、魔法による爆発の音…様々な音が混じり合う戦場…そこに、彼らがいた。
「…そろそろか?」
 真剣な顔でヘクトルが言う。何も気配のない草むらで、カサッと音がした。
「そろそろですね。突撃しちゃ駄目ですよ、若様。」
 その声の主はオスティアの密偵、マシューであった。その台詞を聞いた瞬間、セインはぷっと吹き出したが、すぐさま槍を構え直した。
 …敵がすぐそこまで来ている。微かな足音が、敵の増援部隊の足音が近づいてくるのが分かる。
 皆、一斉にそれぞれの武器を構えた。しばらく沈黙がその場を支配する。
 次の瞬間…
 
「いくぞっ!」

 すぐ近くに気配を感じたヘクトルが手に持っている『鉄の斧』を一振りした。小さな悲鳴と共に、血にまみれ屍がどっと倒れてきた。
「うへぇ…さすが若様…」
 マシューが顔を歪める。マシューだけではない。その場にいる面々が、改めてヘクトルに畏れを抱いた。
ガサッ!
「!!」
 背後から物音がして、ケントは振り返った。するとそこには鈍く光る『銀の斧』の刃があった。
「くっ!」
 反射的に後ろへ飛び退き、体勢を立て直そうとする。が、馬はそのまま反動で前へと動いた。
「なっ!?」
 その一連の動きでバランスを崩し、ケントは草むらへ放り出されてしまった。そこへすかさず敵の刃が襲いかかる。
「ちょっとまてっ! それ、俺の体だぞっ!」
 慌てて槍を剣に持ち替え、攻撃を仕掛ける。
 が、元々ケントは力より技の方が高い。それに対して自分は力任せなところがあるとよく周りに言われている。
 ケントの力の低さとセインの技の低さ、お互いの欠点が完璧にでているのだ。
 そんな状態でも攻撃を当てようと身を乗り出して攻撃する。
 しかし攻撃は掠った程度、しかも無理な体勢で攻撃したためにセインもケント同様草むらへ放り出されてしまった。

「ミィル!」

 落ち着いた声が響く。すると敵兵が現れた闇に飲み込まれて絶命した。
「いやぁ〜危なかった。お二人とも、大丈夫ですか?」
「ああ…何とか生きている」
「うひぇ〜…死ぬかと思った」
 むくっと起きあがる。落馬したにも関わらず、奇跡的にかすり傷程度で済んだ。
「…セイン。反撃の時、いつも反動で攻撃しているだろう」
 いきなり何を言うかなぁ。どうしてそんな話になるのやら…
「まあな。その方が威力高くなるし」
 一応笑ってい言うが、ケントは深いため息をついた。そしてこう続けた。
「その代わり命中率が悪いということだな」
「うっ…」
「威力はデカイけど当たりやすいって事っすね」
 マシューもあっさりという。
 …なんで俺の評論会になってるのかなぁ?
「あのぅ…どうなっているんですか? 今の状況が読めないんですけど…」
 カナスが不思議そうに訪ねてきた。
「ああ、お前は知らないんだっけか」
「…はい?」
 そう言ってヘクトルは戦闘中にも関わらず今までのいきさつを説明し始めた。
 その彼が原因だとは知らずに…

 それからカナスの目の色が変わるのに数分とかからなかった。嬉しそうに瞳を輝かせながら話を聞いている。
「そうですかぁ…成功してたんですね」
 満足げに笑いながらカナスがいった。途端に周囲の顔色が変わる。
「…成功? どういうことだよ」
 ヘクトルが眉をひそめる。
「…カナス殿。説明して頂こうか」
「まさか魔道書の実験を味方でしてたんじゃないだろうなぁ?」
(ぎくっ…)
 セインに図星を突かれて顔がひきつるカナス。そんな彼の様子をケントは見逃さなかった。
 首筋に槍を突きつけ、脅す様に言い放つ。
「…後できちんと元に戻してもらおう」
 さすがにこれにはセインも驚いた。
 目が据わっている。
 いい加減なことをいえば本当に首が飛びそうだ。ごくっ…とカナスは息を呑んだ。
「みんなご苦労様。もう制圧し終わっ…」
 本隊にいたリンディスがねぎらいの言葉をかけにやってきた。(どうやら説明している内に戦闘は終わっていたらしい。)そんな彼女の目に映ったのは、カナスの首に槍を突きつけているセインの姿だった。
 あまりの声に呆然とするリンディス。しかしすぐに我に返り、止めにはいる。
「セイン! 何やってるの!」
「セインは俺です」
 横でケントの姿をしたセインが訂正する。ややこしい、とリンディスは思った。



「えっと…魔道をかけて、お二人がぶつかって入れ替わっちゃったんですよね。だったら、もう一度ぶつかってみてはどうでしょう」
「ちょっと待て。もう一回俺に落ちろって言うのか?」
 戦いも終わり、一息ついた頃にカナスが提案した。が、セインに本気で睨まれ肩をすくめる。
「でも、それぐらいしか思いつきませんよね」
 ウィートが言う。それを聞いて皆考え込んでしまった。あらかた危険だがそれ以外の方法は考えられない、とでも言うのだろう。
(なんか、うまいことウィートに踊らされているような…)
「それしか方法がありません。このままでは迷惑をかけてしまいますし、やってみましょう」
 またしてもケントの一言。しかも顔が本気である。慌てて止めようとするが…
「よーし! 駄目だったら他の手を考えようぜ!」
 死んだらどうするんですかっ!
「一応、杖の使い手も待機させておくよ」
ケガ前提っスか。
「二人が決めた事なら仕方ないわね…」
 い、いや…それはケントの独断…
「大丈夫。セインさんの幸運なら即死はありませんよ。多分」
 こら〜っ!! 笑顔でそんな…しかも多分って!!!
 結局反論できず、もう一度あそこから落ちる羽目になってしまった。
「…とほほ…なんでこうなるんだろ…」
「何してる。さっさといくぞ、セイン」
 ケントに引きずられながら、セインは何度もため息をついた。空には美しい星空が広がっている。下手してあの星の一つにならないことを心から願うばかりだ。

「それじゃ、かけますね。 …えいっ!」
 最初と同じように魔道をかける。それは入れ替わる前と同じように、しかしケントの赤い鎧をつたって、入れ替わったセインを包んだ。
「OKですね。さ、セインさん飛び降りて下さい」
「ウィート…そんな笑顔で言うなよな…」
 多少むっとしながら言う。
「あれ、真顔の方がいいですか? それじゃあ、気を付けて…」
 笑顔を消し、真剣な顔で言う。しかしセインはそれに何だか不吉な予感を感じた。
「…やっぱやめて」
「でしょう? じゃあ、いってらっしゃい!」
ドンッ!
ぐらり、と体が傾く。そしてそのまま真っ逆さまに落ちていった。
ドスン!
 …くそう。心の準備ってのがあるじゃないか。『うわ、高いな〜』とか思う間もなく落としやがって…
「ウィートっ! 不意打ちなんて卑怯だぞっ!」
 怒って拳を振り上げる。自分の声を聞いてはっとなった。
 声が元に戻っている。鎧も緑色。向こうに倒れているケントも赤色の鎧をまとっている。
「も…元に戻った…のか。やったっ! やった――――――!!!!」
 感激のあまりに飛び上がるセイン。その声は丘の上にいるウィートとカナスの耳にも届いた。彼らの顔にもふっと笑みが浮かぶ。
「元に戻ったようですね」
「ええ、そのようですね。さて、カナスさん。お説教はたっぷり聞いていただきますよ」
 ウィートの言葉に、カナスは苦笑した。

早朝、セインとケントは早速訓練を始めていた。
「あ〜、やっぱじぶんの体が一番だよなぁ」
「ああ。セインの体では命がいくつあって足りん」
 そう言いつつ激しい剣撃を交わしている。お互いの剣がぶつかり、キィン、と澄んだ音が鳴る。そんな音に誘われてか、リンディス、エリウッド、ヘクトルの三人もでてきた。
「お、朝っぱらからやってるな」
「先を越されてしまったな。 …ヘクトル、久しぶりに手合わせ願えるかい?」
「あ、その次私ね」
 三人も手合わせを始める。時間がたつにつれ、だんだんと稽古の輪は広がっていく。
 青空の下、沢山の音と、沢山の笑顔がそこにあった。しかし、昨日の出来事を知る者、カナスがあの後指揮官達にたっぷり説教されたことを知る者は、その中のほんの一握りしかいない。
 これは、確かに大事件でありながらも、他の者は何も知らないと言う奇妙な事件であった。しかしそれは皆に動揺が走らないようにするための、指揮官達の思いやりである。
 一人の闇魔道士が引き起こした、何とも恐ろしく、何とも間抜けな事件であった。
あとがき
かなり前に書いた初の小説。友人との他愛無い雑談がきっかけで生まれたネタです。
それ以外にも幾つかその友人からアイディアを頂いていたりします。
完璧ギャグ路線で行こう!と心に決めて書いたため戦闘そっちのけに…
無茶苦茶な文章ですが、気に入っていただけると幸いです。
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