祝ヒカル誕28th
(1)
脚に重みを感じ、アキラは意識を浮上させる。
腕の中で眠っていたはずの恋人が何故か自分の上に跨り、顔を近づけてくる。
抱きしめようかと腕を伸ばそうとして、自分の腕がベッドヘッドに括り付けられていることに気づく。
「進藤…?」
微かにだが香るアルコールの匂いに、アキラは眉間に皺を寄せる。
今日はヒカルの28歳の誕生日のため、日付が変わる瞬間に二人で盛大にお祝いをした。
普段はぶっきらぼうなヒカルも嬉しそうにしてくれ、二人だけのパーティは成功に終わったはずだ。
アキラはやる気満々で、酒を飲ませたらすぐに寝てしまうヒカルのために酒は一切用意しなかった。
だが、とうのヒカルはもう三十路なのにセックスはしたくないと拒否してきたのだ。
普段なら問答無用で襲い掛かるところだが、ヒカルの誕生日だ、今日は我慢しようと二人でベッドに入ったはずだ。
だから、ここで縛られる理由がわからないのだ。
「進藤、一体なんのつもりだ」
「なんのつもりはこっちのセリフだバカ!」
年をとり、年々落ち着いてきたヒカルだったが、酒が入り気分が高揚してしまっているらしい。
検討以外で彼の大きな声を聞くのは久しぶりだった。
「オレを放ってさっさと寝やがって。嫌だなんて、照れ隠しに決まってんだろ!わかれバカ!」
「なッ、わかるわけないだろう!」
「いつもオレが嫌だっつっても襲い掛かってくるバカはどいつだ!」
どうやら、打つ手を誤ったらしい。
ヒカルはアキラの寝間着に手を伸ばすと、ズボンをベッドの外へぽいと投げ、上は釦を全て開ける。
これは、襲い受というものだろうかとアキラは興奮してくる。
ヒカルは淡白で、性的なことに興味はないと思っていた。
いつもアキラの熱烈な行為を受け入れてくれたが、一緒にいるだけで満足なのだと。
下着も放り投げたヒカルに、アキラは抵抗することなくごくりと息を飲む。
せっかくヒカルが積極的になってくれたのだ、邪魔をするだなんて野暮な話だろう。
「塔矢の、勃ってる…」
ちゅっと先端にキスをされ、アキラはゾクゾクとしたものが背筋を走るのがわかった。
まさか、と期待した目で見つめる。
舌を這わせ、口で包み込む。
フェラなど、今までお願いしても一度もやってくれることはなかった。
ヒカルが自分のを咥えているという事実だけでイってしまいそうだった。
いつもアキラがヒカルにするように、舌と唇と使い、アキラを絶頂へと追い詰めて行く。
もうダメだ、と「進藤」と切羽詰まった声で呼べば、ヒカルはアキラの亀頭をちゅっと吸い上げた。
アキラは耐え切れずにヒカルの口内に放つ。
ごくりと飲み込むヒカルに、アキラは押し倒して貫きたい衝動にかられる。
頭上に縛られていなければ、今にも押し倒していただろう。
(2)
「は…、塔矢の濃い。浮気してなかったんだ」
「ボクがキミ以外で勃つと思っているのか?」
「んーん。…大好き、塔矢」
アキラは血液がどっと流れるのがわかった。
ヒカルの口から好きだなどと聞いたのは何年ぶりだろう。
ギシギシと腕を拘束しているものを外そうと動かせば、それに気づいたヒカルがアキラに口付ける。
「だめ、今日はオレがしてやるから、塔矢は動くな」
よく見れば、ヒカルは下半身は何も身につけていなかった。
勃ちあがりつつあるアキラのそれにゴムを被せると、ヒカルの解されたそこにあてがう。
アキラが眠っている間に自分で解したのだろう。
ぐちゅ、と音をたてながら膝立ちだったヒカルは下がって行く。
根元まで入り込むと、ヒカルはアキラの腹筋に手を起き、淫靡な笑みを浮かべる。
アキラをもっと欲しがるように締め付けるそこと視界的な刺激に、アキラのそれはパンパンに膨らんでいた。
「し、んど…」
腰を動かそうとすれば、喘いだヒカルにぺしぺしと腹筋を叩かれる。
「動くなって、ん、言ってんだろ…」
ヒカルは腰を浮かし落とす行動を繰り返し喘ぐ。
たまに休憩を挟むことはあれど、殆ど絶え間無く続けられている。
「あ、あん、う、ん、ぁっあ」
「ッはぁ、進藤…ッ、ん、そろそろっ」
「お、オレ、も、んんっ、は、あうっあ、あん」
ヒカルの勃ちあがったそれはヒカルの白い寝間着を押し上げ、先走りで湿らせている。
びくびくっとヒカルの体が跳ね、中のそれが締め付けられる。
搾り取るような動きに、アキラは耐え切れずに達した。
ヒカルの吐き出した白濁は、アキラの腹に撒き散らされる。
「ん、んん…」
絶頂の余韻に浸っているのか、ヒカルは中にいれたままアキラの胸の上へと倒れる。
ひくひくと動く中に、アキラは快感をなんとかやり過ごす。
「と、や、もっかい、いい?」
「もちろん」
首をこてんと傾げるヒカルに、アキラは首を縦に何度も振る。いつも行為はヒカルの身体を考え、一度しかやらなかったので新鮮だ。
ヒカルは一度上半身を起こすと、中からアキラのそれを抜き、ゴムを取る。
そのまま縛って捨てるのかと思いきや、ひっくり返して舌に垂らす。
苦いと目を細め、ゴミ箱に投げ入れたが、アキラは頭が沸騰しそうなくらい顔を赤くする。
ーーあの天邪鬼な進藤が、拗ねてお酒を飲むだけでこんなに淫乱になるだなんて!
ぴんとそそり立つアキラのそれに、ヒカルは「興奮した?」と意地の悪い笑みを浮かべる。
人差し指でアキラのそれの周りをくるくるとなぞる。
あくまでアキラのそれには触れない触れ方に、アキラは思わず腰を動かしたが、ヒカルの手が離れてしまうだけだった。
今度はまた膝立ちになると、入口にアキラのをぴとっと押し当てる。そのまま挿入するかと思いきや、入口でアキラの先端をきゅっと挟み込み、アキラの反応を見て楽しんでいるようだ。
「進藤…ッ」
「塔矢いっつも意地悪するから、オレもお返し」
ケラケラと笑うヒカルに、次の行為では絶対にいじめ尽くして泣き叫ばせてやると決意する。
(3)
目を閉じ歯を食いしばり、快感になんとか耐え凌ぐ。
ヒカルはつまらなさそうな顔をすると、一気に奥まで貫いた。
「ぁっ、くぅ」
「ん、……はぁ、塔矢の、すげ。オレの中でびくびくして、熱い」
うっとりするように話すヒカルに、アキラは今すぐ動きたくて仕方がなかった。
だが、また動けばヒカルが怒ってしまうだろう。ヒカルが動き出すまで待っていると、やがて満足したヒカルが腰を動かし始める。
とめどない快感にヒカルは善がり声をあげ、全てをアキラに曝け出す。
「ぅっ、しんど、…はっ、ん、出るッ」
「オレの、ッなかに、いっぱい、出して?」
「……ッ!」
アキラは耐え切れずにヒカルの中に吐き出す。
そんな誘い方をされれば、堪えられるはずもなかった。
ヒカルも熱を吐き出したようで、アキラの熱を感じながら息を吐いている。
「とーや、もっかい」
「え、また?」
アキラの返事を待たずに、ヒカルは動き始める。
男の下半身というのは単純なもので、刺激を与えられればすぐに復活してしまう。
「あ、あ、あう、えへへ…とぉやのまたおっきくなった…」
子供をあやすように、いい子いい子と頭を撫でられる。
ぐちゅぐちゅと何度も刺激を与えられ、アキラは再び射精した。
ヒカルは物足りないと言わんばかりに「もっかい」と腰を動かす。
「進藤、さすがにもう、出ないよ…ッ」
「塔矢は体力ねえなあ」
普段は主導権はアキラにあり、玩具などでヒカルを虐めていたからか、ヒカルがここまで絶倫だとは思わなかった。
アキラが気絶した後もヒカルの行為は続き、アキラがふと目を覚ましたときにも腰を振っているヒカルと目があい、明日は動けないかもしれないと悟った。
翌朝、目を覚ますとヒカルはいなかった。
縛られていた腕も解放されていたが、シーツは精液塗れだった。
痛む下半身をなんとか動かし、シーツを剥がすと洗濯機のある脱衣所まで持って行く。
今日は休みでよかった。もし仕事があれば痛みに耐えながら働かなければならなかっただろう。
そういえば、ヒカルも休みだったはずだ。
そっとヒカルの部屋をノックすると、「入ってくんな」と声が聞こえ、アキラは問答無用で部屋に入った。
「入ってくんなっつっただろ!」
部屋ではシングルベッドにヒカルが毛布に包まった状態でいた。顔を真っ赤にしながらアキラを睨む。
「昨日のことは忘れろ」
「昨日?」
わざとらしくトボけてみれば、ヒカルはわなわなと唇を震わせ、毛布に顔を隠してしまった。
「知らなかったよ。キミがあんなに淫乱で絶倫だなんて」
「ッ淫乱なのはお前の所為だろ!」
絶倫というのは否定しないようだ。
毛布に包まるヒカルの横に腰掛けると、身体を撫でる。
「身体は辛くないかい?」
「……腰が痛いけど、他は別に」
唇を尖らせながら顔をひょこりと出すヒカルが可愛くて、ついくすくすと笑ってしまう。
怒り出そうとしたヒカルに「かわいい」と耳元で囁けば、「三十路の野郎に何言ってんだ!」とまた顔を隠してしまった。
「進藤」
「……なんだよ」
「誕生日おめでとう。ボクもここで寝てもいい?」
ヒカルは無言で毛布の端を持ち上げる。
狭いシングルベッドの中で、二人はくっつきながら眠りにつくのだった。
おわり