髪の黒と胸の痛み

(1)
どうしてオレはいつも、コイツと寝てしまうのだろう。
塔矢の体の下で汗に濡れながら、冷え冷えとした心が呟いた。
いや、答はもう知っているのだけど。
その答は激しい自己嫌悪をもたらすだけだから、違う答を求めてオレは毎夜自分に問い続ける。
ざらついた柔らかな肉が胸の紅点を這う。もう一つのそれをなぞっていた指が起立した中央を摘み上げて、
くりくりと弄んだ。硬くなっていくそこを唇できつく吸われて熱い吐息がこぼれる。
「やっ、ダメ!」
塔矢の長い指がオレの中心に向かうのを感じて、慌てて手でさえぎった。
心とは裏腹に体は炎のように熱く、繰り返される愛撫に自身はもうぬめり始めている。
それを知られたくなくて、伸ばされた指を再度拒む。
「…さわらせて、くれないの?」
責めるでもなく優しい声で問われて、だけどオレは答えずに首を横に振った。
さわらないでとも、さわっていいよとも、どちらとも取れる反応を。
後者の解釈をした塔矢が、強引に脚の間に入って俺に指を絡めた。

(2)
「…っはあっ…」
熱い手がオレを擦り上げる。軽く爪を立てられ、つま先が空を蹴った。
完全に濡れてしまった先端に指が食い込むと、鋭い快感が背筋を伝って脳まで走った。
くちくちと音を立てて滑る指の滑らかさに自分がどれほど
濡れてしまっているかを知らされる。恥かしさに噛み締めた唇が痛い。
「ふ…うっ…ん」
塔矢の体が後ろに下がった。太ももにさらりと髪の感触。中心に吐息を感じた。
直後。熱い舌がからみついて、オレは息を呑む。
「あ…ああっ…塔、矢!」
これをされるのが、一番苦手だ。だって、恥かしいし、汚い。
塔矢はいつも、汚くなんか無いよ奇麗で可愛いよと言ってくれるけれど、
やっぱりそんな風には思えない。
完全に立ち上がってしまったそこにねっとりと舌を這わせ、
唇で幾度も吸い上げられる。ちゅうっと、湿った音が大きく響く。
軽く唇で挟み込まれた先端がとろりと溶けた。
「くっ…んんっ」
流れる雫の後を追って根元に降りた舌が、ちろちろと肉を刺激しながら
先端へと再び上り出す。完全に立ち上がったそこまで上がりきって、
音を立てて吸い上げ舌が離れた。
これで終わり?安堵と、少しの不満がかすめる。だけどそれら全てが
吹き飛んでしまう衝撃が体を駆け抜けた。

(3)
「――――――っ…!」
塔矢の口が、オレをすっぽり咥え込んでいた。
舌よりももっと熱い肉が絡みつく。
突きぬける快感。太ももが引き攣る。はあはあと浅く短い呼吸で
身体の熱を逃がしても、逃しきれない熱に全身が煮えたぎって汗が噴き出した。
「やめて、やめ…て、いやだっ」
震える唇で拒絶の言葉を吐いても、塔矢の口の中で
先端からごぷりと溢れ出してしまって、あっさりバレてしまう。
やめてほしくないってことが。もっとしてほしいってことが。
オレの体からの求めを正しく受け取った塔矢が、一層激しく口を動かす。
きつく、きつく。何かが引きずり出されそうなほどに吸い上げられ、体が反った。
口腔をすぼめて上下にしごかれるともう声を抑えられない。
感じる快感のままに高い声が上がって、ベッドの軋みとともに
薄暗い部屋に満ちていった。
気持ち良過ぎて、だから少し怖くて、きつく目を閉じる。
「…進藤、目を開けて…。ボクを見て…。」
ゆっくりと開けた目が、雫を滴らせる塔矢の唇をまず捉えた。
そして熱く濡れた瞳を。艶めく黒髪を。
暗い部屋でもその黒は美しく輝いて、俺の目をつんと痛ませた。

(4)
痛い。胸が、痛い。無視しようと努めてきた答が、心ではっきり響くから痛い。
この黒の輝き故に、塔矢に抱かれているのだと。消えてしまったアイツと同じ、
その黒故にと。
忘れられるわけが無かった。ずっとずっと、寄り添って生きてきて。
碁を教えてくれて。支え続けてくれて、けれど突然消えてしまった大切な人。
好きで、大好きで、もう一度会えるなら死んでも良い。
もうけして叶わない、たった一つの望み。
アイツと同じ美しい黒髪をもつ塔矢に求められて受け入れたのは、
そんな未練のせいなのだ。
何度もこれで最後にしようと誓った。こんな情けない理由で、
いつまでも抱かれていてはいけない。大好きなアイツも、
オレを大好きだといってくれる塔矢も、裏切ってしまってるんだから。
だけど夜になり、アイツのいないがらんとした部屋で碁盤に向かうと、
涙が溢れてどうしようもなくなる。誰か助けて、アイツの影を俺に見せて。
ひとかけらでいいから。
そうして塔矢の部屋を訪れては、黒い髪に慰められる。
抱かれるほどに悲しくなっても、もう塔矢無しでは長い夜に耐えられない。
こんなにも弱い自分がいっそ憎かった。

(5)
塔矢はどう思っているだろう。気づいていないはずは無い。
あの目の前で隠し事は出来ないのだ。自分が、他の誰かの代わりなのだと。
気づいているのだろう。
それでも何も言わずに俺を抱くのは、どうしてだろうね。
目の前にある顔は、変わらず優しい。それに罪悪感が増す。
見ていたくなくて、唇を寄せた。
「進藤…」
俺のほうからするキスは滅多に無いから、塔矢の顔が綻んだ。
ごめんね。こんな理由でしたキスなのに。
「進藤。キミが好きだよ。誰より愛しているよ。」
ごめんね。オレは一度もお前に好きだと言ってない。
「アイツの身代わりにしてるだけだろう」と冷たい声が俺の中でして。
その言葉を口にしようとする度、胸が痛くて死にそうなんだ。
ごめんね。どんなに愛してもらっても、オレから返せるものは何も無い。
「ごめん。塔矢。」
「どうして?」
わかっていて、そう聞くんだね。ありがとう、知らない振りをしてくれて。
「なんでもない。…ねえ、ちょうだい?」
塔矢の首に腕を絡めて、脚を大きく開いた。黒髪から目が離せないまま。
少し笑った塔矢は、いいよ、いくらでもキミにあげると囁いて脚を抱え上げ、
灼熱の塊を押し当てるとゆっくり捻じ込んでいく。
塔矢自身もぬめりを帯びていたから先端は楽に入ったけれど、
乾いたその先は引き攣れる痛みをもたらした。
「うっ。ふ…ん、はあ、あ…」
「痛い?一度抜こうか?」
優しい塔矢に、首を振る。
「いいから。やめ…ないで…」
痛い思いがしたかった。快楽は、嬉しいけどそれ以上に辛い。
そんなものを、もらう資格が無いから辛かった。

(6)
「うう…ん」
塔矢が、肉を掻き分けて最奥まで辿り着いた。荒い息と、もっと荒い鼓動。
熱くて熱くてたまらない。
「あうっ、…ん、ん…はあ…」
ゆっくりと掻き回されて、痛みと痺れが沸き起こる。
ぐちゅぐちゅと濡れた音は途切れることを知らず。
繋がったそこから雫が落ちてシーツに沁みた。突き上げられて、
身体の奥の弱いところの肉に熱い塔矢が強く突き刺さった。
「あああっ…!あっ、待って…」
弱いそこを集中的に突かれて、身体が激しく跳ねた。
感じる快感のまま、自身からまた熱い雫がこぼれ落ちた。
「進藤、可愛いね…。」
快感をこらえて掠れる声。塔矢も、自分と同じく感じているのだ。
この目もくらむ快感を。
それを嬉しいと感じる自分がバカだと思う。
深く、浅く、熱い肉壁を擦られて限界が近い。眉をしかめて快感に耐える。
目の前で、揺れ続ける黒髪。心が叫ぶ。
愛しているよ 佐為
愛しているよ 塔矢
二つながらに心を裂かれている。
だから、身体が裂かれているこの状態に安心するのかもしれない。
「あ、ああ!」
塔矢が熱いものをオレの中に吐き出す。
その熱さに身体が震え、オレも同じものを放出した。

(7)
「進藤…」
塔矢の息が荒い。気持ちよかった?…オレとするの、いい?
せめてもの罪滅ぼし。この身体が、彼に少しでも良いものをもたらしますように。
背中に腕を回して、黒髪に顔を埋める。
ごめんね、塔矢。こんなに気持ちいいのに、涙が浮かぶんだ。
オレが、悲しみを伴わずに塔矢と寝られる日はきっと来ない。
だから、塔矢もそうなのだろう。
それでも、お互いを離し難くて強く抱きしめてしまうこの衝動は何――?
目の前の黒に目を伏せ、唇を求める。
唇の甘さがいつまでも消えなくて、オレは塔矢の腕の中、
朝を迎えるまで唇を舐めていた。
ひそやかにひそやかに。 決して消えない つみのあじ。
―了―

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