ながでんわ

(1)
 ビィ――… ビィ――… ピッ
 もしもし。え、金子さん?携帯買ったんだ?どこ?au?
うん、本当久しぶり。最後に会ったのいつだろう?
――――――…
あー、そうだったそうだった。あの時以来ね。うん。元気だよ。
金子さんも、どんな感じ?
――――――…
そっかぁ。バレーもしてるんだったね。すごいなぁ。
…え?…ヒカル…?んーと、まあ…頑張ってるんじゃない?
――――――…
わかんないんだ。会ってないから。全然。
――――――…
うん、近いよ。いつでも会える距離。
――――――…
だから…会いたく、なくて。 …あのね、私、うん…

振られたのよ。
――――――…
ううん、全然謝らなくていいよ。うん、そんな。
んー、告白した…っていうか、まあしたんだけど。その前に、んー…
キスしてるとこ、見ちゃったの。うん、ヒカル。
――――――…
…ううん、大丈夫よ。だから…良かったら、話してもいいかな?
すっきりできそうだし。うん、ありがとう。

(2)
あのね、公園あるのよ。ヒカルも私もその前通るんだけど。
冬の夜で寒いから、人なんて全然いなかったの。…私は部活の話し合いで遅くなって。
でね、公園通ったら、ヒカルがいたの。…そう、そこで、キスしてて。
その時もう、身体中の皮膚がこう、びりびりって感じ。凄いショックよ。
――――――…
それも勿論あるけど、それ以上に、相手の人がね…
――――――…
えっ?!どうして?知ってたの?
――――――…
そう…鋭いね。誰も想像もつかないだろうと思ってたけど。…それから?
走って逃げたわ。うん、気付かれなかった。塔矢君には。
――――――…
そう、ヒカルは気付いてて、次の日に家に来たわ。
「お前、昨日の見た?」って。
うんって言ったら、そうかって。
「オレ、アイツと真剣なんだ。すげー好きでアイツもそうで、真剣だから、
 だから。まだ親には言わないでくれ。」って。
何がショックって、全部なんだけど、「言わないでくれ」が一番キたわ。
告げ口すると思われてたのね。しかも「まだ」よ。
私ずーっとあの光景が頭から離れなくて、眠れなくて、疲れてたの。
だからかな、怒鳴っちゃった。言うわけ無いでしょって。
ごめんて言うからもっと嫌になって、言っちゃった。
バカじゃないのって。男同士で何やってるのよ、バカじゃないの。どうしてよって。
――――――…
それが顔色一つ変えないでまっすぐ私を見るのよ。
「オレ、アイツじゃなきゃ駄目なんだ。男だけど、そんなこといいから
 離れたくない。愛してるんだよ。」

(3)
あんまりまっすぐで、もっと嫌になった。で、そんなことって何って言ったの。
男同士なんて変態じゃない。あんたの将来めちゃくちゃよって。
わかってるって言うからまた怒鳴っちゃった。わかってないって。
ヒカルなんて、何もわかってないよ。バカだもん。

――私がずっと好きだったことも、知らないくせに!

はぁ。もうボロボロよ。
私ね、いつかは告白するつもりだったから、何度も頭の中で思い浮かべてたの。
何て言おうか、どうしようか。何度も何度も。ああ、でも…まさかねぇ。
あんなポイ捨てするみたいに言うことになるなんて思わなかった…
――――――…
泣いてないよ、大丈夫。ありがと。ヒカルはね、初めて顔色変えたわ。
本当に気付いてなかったからね。鈍くて鈍くて、そこも好きだったんだけど。
で、「ごめん」って。何がごめん?知らなかったから?塔矢君が好きだから?
って言ったら…んー、もう怒鳴れなくて、下向いて言ったんだけどね。
「ごめん、オレ塔矢がいなくてもあかりには応えられなかった。」
手が震えたわよ。
「チビの頃から一緒で、オレは…お前といる時はいっつも子どもの気持ちだった。
女だって思ったこと無いんだ。お前は幼馴染で…あかりだった。女の子じゃなかった。」
…まっすぐって残酷よね。

(4)
身体中強張ったわ。内臓捻られるみたいに苦しかった。
そう、わかったって言うのがやっとよ。もう帰ってって言ったの。限界だったわ。
おばさんにも言わないしもう2度と会わない。もう帰ってって。
あかり、ごめんって言って帰ってった。最後の後姿、とても見られなかったよ…

はぁ。それからは…何してたかなぁ。ずっと泣いてたかな。閉じこもって泣いてた。
初恋だったしずっと好きだったし…凄く好きだったし。
――――――…
大丈夫よ、もう落ち着いた。ご飯も食べてるよ。
はぁ。そんな訳で、もうずっとヒカルとは会ってないの。

……あのね、金子さん。私、本当は男同士だとかで嫌だったんじゃないの。
ただ塔矢君だから、あんなに取り乱したって言うか。嫉妬…したんだ。
知ってるよね? 1年のときあの人がヒカルに会いに来たって話。
うん…、あの時から、本当は気付いてたのよね。二人とも、お互いに恋してるって。
物凄い眼してたから…
あの時ヒカルはあの人を拒んだのよね。私結構ほっとしてたと思う。
大会で塔矢君がヒカルの前に来た時は、だからびっくりしたわ。
そこまでですかって感じ。でもそこで塔矢君は切れちゃって。
――――――…
そう、ふざけるな。結構有名よね。
これで塔矢君とヒカルはもう会わない。そう思ったのにね。
ヒカルはあの人を追って遠くに行っちゃった。

(5)
どんどん遠くに行って本当にプロになっちゃって。でもね。
あの頃、まだ望みはあると思ってたの。あの人がもう一度学校に来るまでは。
――――――…
そうよ、その時。
図書室に向かって歩き出した時、一瞬あの人の眼が見えた。
初めて見たあの眼よりもっと、凄かったわ。
敵わないって思ったのはその時ね。
あの人、ヒカルのことだけ見てるのよ。周りも自分自身もどうでもいいの。
だからね、ヒカルが辛いときはあの人も芯から辛いんだよ。
…私とは違いすぎる。
――――――…
違うの。私はそうじゃない。あの人みたいになれない。
私は、どうしたって「ヒカルを好きな自分」を見てしまうから。
あの頃、私が何考えてたと思う?びっくりするわよ。
ああ、これでやっと私の所に帰って来てくれる。そう思ってたの。
ねえ、信じられる?ヒカルがどん底で苦しんでた時に、私 幸せな夢見てたのよ…

(6)
――――――…
泣いてないって。本当よ。
だから、本当はとっくにダメな事わかってた。金子さんがさっき言ったように。
ヒカルと生きていけるのはあの人しかいないって、私もどこかで感じてたわ。
ああ…わかってたのにねぇ…どうしてあんなボロボロになっちゃったのかな…

恋人どうしになったこと知ってたら。平凡な帰り道で突然見たんじゃなかったら。
せめて私がもうちょっと大人だったら、良かったのにね…
――――――…
うん…そうね、これが私だもんね。そうね、仕方ないのよね。ありがとう…
――――――…
大丈夫よ。当分恋はしたくないけど。
――――――…
うん…いつかそんな風になれるのかな?痛くも無くなって、普通に喋って…
そうね、いつかそうなったらいいな。

長くなっちゃってごめんね。聞いてくれてありがとう、すっとした。
今度会おうよ、おごるから。金子さんの話も聞きたいな。
――――――…
うん。じゃあ、またね。…ありがとう。



ピッ

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