ぷにぷに

(1)
部屋の鍵は預けてあった。
仕事で帰るのは夜になるから、いつものように勝手に入って構わないと言ってあった。
アパートの近くで彼が好みそうな食べ物と飲料水をコンビニで吟味し調達する。
以前奮発して高級中華料理店のテイクアウトをお土産に持って帰ったが彼の口には
合わず不評だったことがあった。
帰宅すると彼はオレのベッドの上で熟睡していた。
まだ夜間は冷房をつける程の暑さではないが、部屋の中はほんのりと
昼間の熱を宿している。それに加えて彼の存在が――彼がこの部屋に居るというだけで
そのせいでこちらの体感温度が若干上昇している部分があったと言える。
無機質な空間が、彼が居るというだけで、その空気を血の通った生命感的なものに変質させる。

疲れているのか、彼はオレが部屋に入る物音にもまるで反応しなかったようだった。
奥の寝室で電気をつけっぱなしでスヤスヤと寝息をたて、白いTシャツを胸元近くまで
自らの手で引き上げた格好で仰向けに横たわっている。
呼吸する度に薄い胸板より膨らみ加減の幼い体型の腹部が上下する。
薄い色彩の前髪がふわりと掛かった顔立ちは少女のように一つ一つのパーツが小さく可憐だ。

(2)
その彼の額や首元、腹部にうっすらと寝汗が張り付いていた。
タオルで拭ってやろうかと迷ったが、それで起こしてしまうのも可哀相だと思ってやめた。
神経質なつもりはなかったが、外出着のGパンのままでベッドに上がるのは――彼の世代は
その格好であらゆる場所に躊躇なく座り込む習性があったので――勘弁してくれと
一度だけ言ったことがあった。
その時「うん、わかった」と素直に答えたはずの目の前の彼は、トレードマークのような
いつものブカブカのGパンをしっかり履いたままだった。
まあいい。そろそろシーツも替え時だった。
彼はGパンのベルトを外しファスナーを下ろし、その中に無造作にもう片方の手を突っ込んでいる。
思わずその部分を注視してしまった。
股間を押し包んだ指の隙間から薄いトランクスの生地が見える。
腹を剥き出しにして股間に手を置くと言うこれ以上ないという無防備さで
彼は安心しきったように眠っている。
白地にストライプの模様の、その中央の窓の部分が僅かに左右が開いて
淡い素肌の何かがピクリと蠢くのが見えた。
オレはごくりと息を飲んだ。男の寝姿として珍しい光景でもなかったが、
その夜の彼の素肌が妙に艶かしく輝いていたからだ。
彼にはそういう時がある。何気ない仕種や表情で前触れなく強烈な色香を放つ事があるのだ。
天性の魔性的な資質というものだろう。

(3)
だが警戒され必要以上に何もかも閉じられると無理矢理押し開きたくなるものだが、
こうまで野方図に晒し出されると逆に手を出し難いものだ。
特に彼の場合は、時折別人のように他者をシャットアウトし
自分の世界だけに入り込んでしまう時があり、そのギャップが激しかった。
思いつめたような表情で、周囲の景色から切り取られたように全てを閉ざしてしまう様子は、
痛々しくも悲しく儚な気で愛しかった。
そういう時に彼はかたちばかりの、ただ肉体的なつながりだけの激しを求めてきた。
断れば他の者の処へ行くとわかっていたが、そんな状態の彼を抱く事はオレには出来なかった。
………つまり結局オレはどちらにしても彼に手を出せないわけだが。

少なくとも今の彼の寝顔は、何かに囚われているような悲愴感はなかった。
オレのテリトリーの中で彼が少しずつこういう表情を見せてくれるようになった機会が増えた。
「――うーん……」
眠ってはいても人の視線を感じたのだろうか、彼が少しだけ身を揺すり、手を動かした。
彼の指先の隙間で彼の分身がムクリと動いた。先端に滲み出した透明な液体がキラリと光っている。
限界だった。
オレはそっと顔をその部分に近付けて、彼の指の隙間に軽くキスをした。
ふわりと彼独特の匂いがした。
特に彼の反応はなかった。ただ一瞬、呼吸が止まったような気がしたが、すぐにまた
穏やかな呼気を繰り返した。
今度は若干長くキスをし、舌先でチロチロと先端をくすぐった。彼の味がした。

(4)
「ん…っ」
何らかの感覚を受け取ったように、彼が指を動かして股間をごそごそ弄り、
指の間から僅かに顔を覗かせていたその部分を掴み出ししっかりと握り込んだ。
その部分はすっかり様相を変えて大きく膨張を始めている。
本人の意識とは関係ない生理現象ではあるが、心無しか彼の呼気が速まり
熱を帯びているように感じる。
ネクタイを外しながらベッドを揺らさないよう、彼を起こさないよう慎重に彼の身体の上に
四つん這いに被い被さり、彼の唇に自分の唇を触れ合わせる。
再び彼の呼吸一瞬止まる。一度唇を離し、今度は深く押し当て重ね合わせる。
彼の目蓋がゆるゆると開かれる。まだ半分夢の中を漂っているようだった。
「……あ…、お帰りなさ…」
そのまま彼の身体の上にこちらの身を下ろして体重をかけ、力一杯抱き締める。
彼が驚いたように目を見開き、ぱちぱちと瞬く。
「…おもっ」
一瞬苦しそうに顔を顰めるのにも構わず力を込める。
そうしないではいられなかった。勢いのまま彼に力ずくで何か酷い事をしてしまいそうだった。
「…んーーっ…」
苦し気に2、3度息を大きく吐くと、「仕方ないなあ」と言いたげに彼は溜め息をついた。
それでもオレの身体の下から両手を左右に抜け出させると、その手をこちらの胴体に
回して来た。

(5)
このまま一気に彼の身体から全ての衣服を剥ぎ取って組み敷こうとした。
だがじきに彼の手や全身から力が抜け落ちて、すぐにスースーと
彼の寝息の続きが聞こえて来た。
オレの下で、大の字で眠っていやがる。
今日のオレはこれ以上のことをしてこないだろうと悟られてしまっているのだ。
こちらの力も抜けてしまい、彼の額や頬にそっとキスを繰り返した。そうしてもう一度今度は
軽く彼の身体を抱いた。
「ん…」
彼はうっすらと目を開けて首を持ち上げ、軽くオレの唇を「チウ」と吸うと
一瞬だけニコリと笑ってまた眠りに落ちた。
それでようやくオレの中で爆発しそうだったものが落ち着いた。
彼の隣でオレも大の字になり、彼の柔らかく温かな呼吸のリズムを聞きながら
オレも目を閉じた。大きく伸びをし、息を吐いた。
――まあ、いいか。
今この空間に彼とオレの2人きりだった。
ただ2人だけ、一度味わったらニ度と手放せない至福の時空がそこにあった。
ちらりと隣を見ると、彼の下肢でその部分がすっかり露出したままになっている。
「おやすみ、ヒカルたん」
ぷにぷにとそれを優しく撫で、手で包んでオレも眠りに堕ちた。   (おしまい)

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