風邪ひいた若゙
(1)
「ハァハァ…38℃か…」
ボクとしたことがこんな日に風邪を引くなんて。
明日は進藤との久々のデートだ。なんとしてでも朝までに治さねば!
無理でした。煩悩のせいか熱は下がらず関節は痛み肌もカサカサです。
涙を飲んで進藤に電話をする。というわけで今日は…うん…ごめん…え?いや、でも、あ…分かった、じゃあ。
キター(゚∀゚)と言う表現がぴったりだろう。進藤がお見舞に来てくれることになった。
とりあえずシャワーを浴びて寝巻きを着替えねば!
汗臭いなんて言われたらたまらないからな。ボクは進藤の汗の臭いは大好物だが。
フンフンと鼻歌まで出てきたが、やはりボクは病人だった。
普段なら絶対にあり得ないが、ボクは風呂場で滑って頭をしたたかに打ち小一時間気絶していた所を進藤によって救出されていた。
カッコ悪いなんてもんじゃない。
だが進藤の膝枕が気持ちいいからイーブンにしておこう。ああ…進藤の太もも…。
(2)
「ばっかじゃねーの、お前」
「……」
少し湿ったままの髪を漉きながらオレは言った。
馬鹿って自覚があるのか塔矢からの返答は無い。
目を閉じてる癖に、オレの視線から逃げるように顔を逸らして身じろぎした。
……くすぐったいから太ももの上でモゾモゾ動くのは止めれ。
「熱でてフラフラしてんのに、無理に風呂入る馬鹿いるかよ」
あの衝撃を思い出して、ついオレの語調が険しくなる。
シャワー出しっぱなしで風呂場の床に大の字に倒れてる塔矢。
……一瞬死んでいるのかと恐慌に陥ったのは一生の秘密だ。
心臓が引き攣れて、息が出来なくなった。
佐為、助けて、佐為。
口の中でブツブツ佐為を呼びながら、慌てて風呂場から塔矢を引っ張り出して、
呼吸している事を確認して安堵した。
――引っ張り出すときにオレの服まで濡れちまったけど。
脱衣所でぬれてる塔矢の身体を拭いて、
救急車呼ぼうとした所でコイツは眼を覚ました。
パジャマを着せて、塔矢のふらつく身体を支えて部屋に戻り、
何故かオレは今コイツに膝枕をさせている。
何でだか塔矢と離れたくなかった。どこか身体を引っ付けて居たかった。
――その理由は考えたくない。
「……だって」
「だって、何」
だから太もも撫でんじゃねえって。
オレはピシャリと塔矢の右手を叩いた。
「キミが来るって、言ってくれたから、その」
「その、何」
「キミの前で汗臭いのは嫌だなと思って」
(3)
普段『進藤の汗美味しい!』とか言ってオレの汗(どころか『アレ』も)舐めてる奴が、
自分の汗でもじもじすんじゃねえよ。
いつものオレならコイツのこういう所可愛いなんて思っちゃうのに
今日はオレは駄目だった。神経がビリビリしてるのが解る。
「……チッ」
オレが舌打ちすると、塔矢が驚いたようにオレの顔を見上げた。
「……進藤、怒ってるの?」
「当たり前だ馬鹿」
怒らない訳があるか。あんな思いさせやがって。
まだ胸の奥がブルブルと恐怖に震えてる。
声まで震えそうで、オレは口の中の唾を飲み込んだ。
また潤みかけた眼を激しく瞬きさせる。
もう二度と、あんな気持ちなりたくなかったのに。
「お前、明日にでも病院行けよ。頭打ってんだから」
目蓋が熱い。やばい、泣きそうだ。オレ男なのに。
オレは右手で両目を隠すように顔を覆った。
ふと、衣擦れの音と共に太ももに乗っていた筈の塔矢の頭の重みが消える。
身体を起こしたらしい。
「行けよ、絶対」
重ねて言ったオレの声が、弱弱しく擦れてて自分で驚いた。
喉の奥が痛い。ギュウギュウする。
塔矢がじっと手で顔を覆ったオレの顔を見てる。
コイツの眼力は半端ねえから眼を瞑ってても解る。
「――うん」
うんじゃねえよ馬鹿。
訳もわからず頭にきて言い返そうとした途端に抱きしめられた。
熱がある所為か塔矢の身体がいつもより熱い。
「ごめん、進藤。ごめん。ボクが悪かった」
そう塔矢に耳元で囁かれて、オレの身体が震える。
――違う、泣いてない。泣いてなんかない。
オレはギリギリと奥歯をかみ締めて、塔矢のパジャマを握り締めた。
その日は一日ただ抱き合って眠った。見舞いに行ったのに何してんだオレ。
結局その後塔矢の風邪がオレに移って散々だったけど、
今度はやけに優しく塔矢に看病されて、オレはまんざらでもなかった。
おわり