残酷なヒカルたんと自販機の罠
(1)
とある手合の後。
予想以上に検討の外野が増えて、あーだこーだ勝手なことを言い出した。
もー!こんだけ人数多いと収拾つかねー!
……ってちょっとキレてみたら、皆様ドン引きでいらっしゃいまして。
そうだね、別室でやったほうがよかったね。
って、違う!オレが言いたいのは!
対戦相手には悪いけど、とても検討になんかならなそーなアレだったんでブッチした。
ごめん。えーと。初めてA予選に出てこれたんだっけ?
そんで相手がオレだからって必要以上に萎縮して負けたって?
オレがリーグ戦だの最終予選だのの常連だから?
あのね。それ理由になるかな?
ただのイイワケだよな?
あー、いや。オレも森下先生に初めて負けた時はなんかグダグダ言ったけど。
うん、アンタほど後ろ向きじゃなかったと思うよ、少なくとも。
「相手がアンタじゃなきゃ勝ててたかも」なんて言ってませんよ、ハイ。
てゆか、アンタ、オレより何年もデビュー早いんじゃん。
オレが碁を始める前からプロだったんじゃん。
え?あと一年遅く生まれてたら北斗杯の予選に出れてた?
そんなボケキャラ許されるのは伊角さんくらいのもんだから。
いや、ねェ。オレがとっくに北斗杯卒業してるんですよ?わかってる?
え?挑戦者手合まで出た飛び級の八段にオレの気持ちがわかるかって、わかりませんよ?
頂点立ってないのはオレだって一緒なんですゥー!
アンタと仲のいい外野連中はオレの態度にものすごーくナンか文句言いたそうだったけど!
だから検討にならないっつったの!
なーんかーこーさー。
こんなの愚痴れる相手って実はあんまいないワケさ。
塔矢さん?ムリムリ!あれは世俗とは関わったことのないヒトだから!
で、んな時に限って、聞いてくれそうな伊角さんとか門脇さんとかがいないんです。
越智なんて開いてもない傷をグリグリ開けてきそうで。
和谷……聞いてはくれるけどそれだけで終わるな。
本田さんはー……向こうの肩を持つな、多分。
だんだん、気持ちがダウナーになってきて。
やっべぇ。明日、指導碁の仕事入ってんじゃん。
こんなんじゃマトモな仕事になんねー。
くっそー。
ガコン。プシッ。
ぷっはー!仕事帰りの一杯はたまりませんなー!ってオッサンかよ!
……んん?おまわりさん?オツトメ、ゴクローサンデス!
え?オレ?未成年飲酒?いやいやいやいや!待って!違う!
うあ!トシ証明するモノ?なんも持ってねええええええ!
だって棋院行くのに定期買うと逆に損だし!
ええ?証明できんなら棋院で証明してもらえって?
ソレはいくらなんでも!カンベンしてもらえませんか!
さっきの検討したいヒトらが残ってたら超ハズカシー!
やめてやめてゴメンナサイかんべんして棋院はやーめーてー!