緒方コスプレ
(1)
朝から雨が降っていた。電気をつけなければ夕刻のように部屋の中は薄暗い。
珍しく何の予定も約束もない、暇な休日となった。
目を覚まし、シャワーを浴びてバスローブ一枚でしばらくリビングでぼんやりと
煙草を吹かしていたがふとある事を思い立ってベッドルームに戻った。
ベッドの下にある秘密の抽斗を引っ張りだし、そこからイベントで行った香港の
土産物屋で見つけた“それ”を手にとってみる。
後部が黒髪、前がメッシュが多めに入ったような金髪のウィッグだ。
おそらくショーの踊子が付けるような類のものだろうが、髪の量のバランスといい
“彼”を連想させるそのアイテムをオレは手に入れてしまった。
なんの気なしにオレはそれをかぶってみた。冗談半分のつもりだった。
ちょうど自前の髪を気持ち短くした直後だったので、大して手間がかからずそれは
ごく自然にオレの頭部に装着された。
そして鏡に映し、彼がよく見せるポーズをとってみた。
俯き加減で、上目遣いで見上げる。
だがどうも違和感があり、自分が眼鏡をかけたままなのを思い出してそれを外した。
薄茶の長い前髪が顔のラインを隠しているせいもあって、意外と彼に近い表情がそこにあった。
彼がもう少し成長するとこういう感じになるだろうか…。
そのまま鏡に顔を近付け、彼との冷たいキスを交わす。
(2)
彼はキスをする時いつも固く目蓋を閉じてしまう。だが逆に彼が目を閉じている間は
キスをし続けていいものと解釈し、長い抱擁を繰り返す。
キスをしながら彼の体に触れる。
唇を塞がれた彼が、苦しげに鼻にかかった吐息を甘く繰り返す様子を楽しみ味わった。
彼の中に指が深く浅く行き来する度に彼の体の震えが変化し、若い肉体のあらゆる部分が
刺激に対し素直に反応し熱く脈打った。
彼の胸の対の突起と、下腹部の熱を抱えた中心を同時に愛撫するとそれだけで急激に彼は
到達してしまう事が多かった。
高まりへ導くと同時に痙攣し脈打つ彼の内部に侵入する瞬間が至上の快楽であった。
当然彼はその時悲鳴をあげて抵抗を見せる。高く空中へ投げ上げられた意識を地に戻さぬまま
そのまま更に上空へと彼をさらに高く投げあげ、突き上げ、追い詰める。
行き着くところにまで、全てを吐き出し切るまで何度でも。
そしてオレも彼のいる所にたどり着く。大抵その頃には彼は失神している…。
激しくなった雨音に我に還る。自らの手の中に放ったものをティッシュで拭き取る。
自分で自分の行為に舌打ちする。
乱れたウィッグを外し元の抽斗に放り込み、再度シャワー室に向かう。
雨の日の独りの午後は魔の刻になりかわる――。
髪を乾かして整え、スーツを着込んで何事もなかったように夜の街へと繰り出す。
今だ消えない彼の感触を、余韻を早く拭い去るために。