補習
(1)
「なあ、進藤。ちょっと話したいことがあるんだけどさ」
ヒカルにそう声を掛けたのはクラスメイトだった。
昼食をとろうと弁当を広げようとしていたヒカルは手を止め、クラスメイトを座ったまま見上げる。
クラスメイトの名前は鈴木だったか田中だったか。
3年になりプロの世界に入ってからは、学校への関心はあまりなくなり、半年経った今もあまり名前を覚えれていない。
みんなも受験で他人にかまけてはいられないのか、業務的なこと以外でクラスメイトと話すのは久しぶりだった気がする。
「なに?」
「今はちょっと話しにくいんだ。放課後、教室で待っててくれないか?」
「放課後?それって時間かかる?オレ、約束があるんだけど」
アキラと碁会所で打つ約束をしている。
あまり遅くなってグチグチ言われるのも癪だ。
「すぐ終わるよ」
「じゃあいいよ」
ヒカルが首を縦に振ると、彼は自分の席へと戻って行った。
一体なんの話だろうか。
弁当の蓋を開けると、おかずに大きめのハンバーグが入っている。
ヒカルはわっと目を輝かせると、嬉々として箸をのばした。
放課後になり、掃除が終わると教室は生徒が誰もいなくなり、静まり返る。
みんな各々塾に通ったりしているのだろう。
ヒカルは先程のクラスメイトが来るまで棋譜を眺める。
これは以前アキラと打った時のものだ。
見ているとアキラと打ちたくて打ちたくてそわそわしてくる。
早く来ないかと廊下に視線を向ければ、ガラガラと扉を開けて彼が入ってくる。
ヒカルがいるのを確認すると、彼は笑顔でヒカルに駆け寄ってくる。
「ごめん、待たせた?」
「いいよ。話ってなに?」
彼は一瞬目を背けると、ヒカルをじっと見据える。
「俺、進藤が好きなんだ」
「へ?」
「俺と付き合ってください!」
ヒカルの頭の中にはまず罰ゲームという言葉が浮かんだ。
クラスに馴染めず高校にも進学しない進藤ヒカルに告白しろ、と言われているのかと。
笑い飛ばすのが正解なのか、真面目に答えるのが正解なのか。
ヒカルが戸惑っていると、彼の腕がヒカルの肩を掴んだ。
呆然としたままのヒカルに覆い被さるように口付ける。
慌てて抵抗しようと胸を叩くが、椅子に座ったままのヒカルは力がうまく入らず、あまり効果がない。
蹴飛ばしてやりたかったが、脚は机の下にあり、机を支える棒のせいで出すことができないのだ。
彼が満足するまでヒカルは吐き気がしそうになる口付けに耐えた。
解放されるとヒカルは立ち上がり、彼の鳩尾に拳を入れた。
「うぐ……ッ」
「ふざけんな!オレは男なんかお断りだ!」
気持ち悪いと続けると、名前も知らないクラスメイトは走って教室から出て行った。
ショックだったのかは知らないが、無理矢理ファーストキスを奪われたヒカルの方が余程ショックだ。
クソと口をゴシゴシとシャツで肌が赤くなるまで拭う。
さっさと忘れたくて鞄を取り教室を出ようと脚を動かすと、五人のクラスメイトが教室に入ってきた。
中にはさっきのやつもいる。
嫌な予感しかしなかった。男達はニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「進藤くぅん。こいつのことフったんだって?」
「気持ち悪いだなんて酷いなあ」
ゲラゲラと下品に笑う。
逃げようともう一つの扉へと足を向けるが、咄嗟に前を塞がれる。
「進藤ってさ、可愛いよな」
「はあ?」
「女みてえにひょろひょろしてるしなあ」
不躾な視線を向けられ、ヒカルは居心地悪げに眉間に皺を寄せる。
男として不当な評価をさせている。バカにされているのはヒカルでもわかる。
(2)
ふざけるなとそのまま押しのけて出て行こうとしたが、ドンと突き飛ばされる。
机にぶつかり大勢を崩し、床へと尻を強かにぶつける。
文句を言おうと顔を上げると、すぐ側に男の顔があり、ヒカルはヒッと声を上げる。
後頭を掴まれ、そのまま男にキスをされる。
口を必死に閉じ、舌をねじり込もうとする動きをなんとか阻む。
「おい、なに一人で楽しんでんだよ。代われ」
「ゃ、やめ、…んんっ」
「進藤、口開けろよ」
「んんんっ」
友達がフられた腹いせにしては酷すぎる。
ヒカルは絶対に開けるものかと歯を食いしばった。
男達は代わりがわりにキスをすると、ヒカルの腕を掴み、制服を脱がしていく。
嫌だと抵抗するが、一人で適うわけもない。
黄色のシャツ一枚になり、下着とズボンは足首まで下ろされた。
シャツを捲り上げるとピンクの突起が二つ現れる。
指でなぞられると、背筋がぞわぞわとする。
「ん…、んううっ」
抓られ、こねくり回すと爪でかりかりと引っ掻く。
胸を押され仰向けになると、男がヒカルの頭の上からヒカルへと口付けてくる。
白い脚を撫でられ、胸の突起をいじられ、ヒカルはじわじわと溢れてくる快感に脚をもぞもぞとさせた。
「感じてるな…。見ろよ、ひくひくしてるぜ」
ヒカルの小ぶりな自身を衝突に触れられ、ヒカルは体を跳ねさせる。
その反応に気を良くしたのか、勃ちあがりつつあるそれを扱きあげた。
「いやっいやだっ!ん、んんっあう、んうう」
開いた唇に、舌をねじり込まれ、舌を絡まれる。
ヒカルがフった男がヒカルの下半身に顔を近づけたかと思えば、ヒカルのそれをぱくりと口に含んだ。
根元から吸い上げられ、ヒカルは唇を塞がれていなければ、叫び声をあげてしまっていただろう。
胸にも舌を伸ばされ、ヒカルは耐えられずに男の口の中に熱を吐き出した。
最後の一滴まで吸うと、男は満足げに口を離す。
口付けからも解放され、ヒカルは赤らめた顔で息を荒げた。
「や、やだぁ…。もうやめてよ…」
他人より成長期を迎えるのが遅かったヒカルはクラスメイトに比べたら体は細く、声変わりもし切れていない。
顔も幼いヒカルは、まるで少女のようだった。
男達はAVを思い出し、ごくりと唾を飲む。
「俺、知ってるぜ。男同士ってケツに突っ込むんだってよ」
「マジかよ。ていうか、それ気持ちいいのか?」
「やられた方は前立腺ってとこ弄ると、目ん玉飛び出るくらい気持ちいいらしいぜ」
そのセリフとともに、ヒカルの中に指を一本挿入される。
ヒカルは思わず暴れるが、両足首を押さえつけられ、動けなくなる。
指を一旦抜くと、体を反転させられ、うつ伏せの体勢にさせる。
床が埃っぽくて、涙がじわと溢れた。
乱暴に指を突き入れられ、探るように中を掻き回す。
「前立腺ってどこだよ」
「わかんねえよ。探せって」
「うっ、う…んんっ」
痛みに声を堪える。
ヒカルは抵抗できない自分が悔しくて悔しくて堪らなかった。
暫く顔を伏せ耐えていたが、突然電撃が走るような快感が走り、体がびくりと跳ねる。
男達は顔を見合わせると、にやりと笑い、先ほどのポイントを探し当てるように動く。
そこを集中的に狙うと、ヒカルは全身に衝撃を受けたかのように体を跳ねさせ、甘い声を発した。
「あっ、ああ、いやっ、うっあ、あん、やあっ」
「いい声で啼くじゃねえか」
「やべ、俺も勃ってきた」
「進藤ってこんなにエロかったんだな」
「なあ、もういれようぜ。我慢できねえよ」
なにを入れるかは、男が下半身を曝け出したことで一目瞭然だった。
(3)
指の数を増やし、二本の指がヒカルの中で蠢く。
「まだやべえって。フェラでもしとけよ」
「しょうがねえなあ」
文句を言いつつ、ヒカルの前髪を掴み顔をあげさせた男はにやにやと嬉しそうだ。
今度こそ口を開けてなるものかと歯を食いしばったが、ぐりと二本の指が前立腺を挟むように刺激され、ヒカルは悲鳴をあげると同時に口に男の熱を突っ込まれた。
まるで口が性器のように出し入れを繰り返す。
息が上手くできず苦しくとも、くぐもった喘ぎ声は出る。
酸欠で目は虚ろだった。
「ははっ、いいぜ、こいつの口の中…っ、あっあっ、でるっ」
喉奥に温かく生臭いものが吐き出される。
ヒカルは反射的に飲み下し、喉にまとわりつく感覚に吐き気がした。
気づけば指が3本入っている。
勃ちあがった自身が腹に当たる。
こんなところを刺激されて勃起してしまっている自分が恥ずかしくてたまらなかった。
ポロポロと零れる涙を先程までヒカルにフェラをさせていた男が舐めとる。
衝突に指を引き抜かれ、ヒカルはぐったりと床に頬をつけた。
両脇に腕を入れられたかと思えば、身体を持ち上げられる。
机に上半身を乗り上げさせられ、尻を突き出す体勢にさせられた。
「へへ、俺、ゴム持ってるぜ」
「六つしかねえじゃん。一回ずつか…ナマは怖いしなあ」
五人なので余った一つをヒカルのそれに被せる。
尻に薄いゴム越しの肉棒を押し付けられ、ヒカルがそっと振り向くと、一番目はヒカルに告白してきた男だった。
男のそれは興奮しきっているのか、今にも弾けそうだった。
尻にあてがわれるだけでどくんどくんと脈打っているのがわかる。
「ゃ、やだ……」
首を横に何度も振るが、彼は容赦無くヒカルを貫いた。
あまりの痛みに前へと逃げようとするが、腰を掴まれ引き戻される。
腰を何度も押し付けられると切れてしまったのか、滑る感覚がある。
動きが止まったかと思えば一度引き抜かれ、ヒカルの目の前に携帯を持った男が現れる。
赤いランプがつき、この状態を撮影しているのだとわかる。
「撮るなッ!あっ、や、やめ、んんっ」
自分の快感だけを追いかけていた男が不意にヒカルの感じるところを性器で刺激する。
細い指とは違った質量のものでぐりぐりと刺激されると、目の前がチカチカと白くなる。
痛みと快感の狭間で彷徨っていると、ヒカルの中途半端に勃ちあがったそれに手を伸ばされ、何度か扱かれると耐えきれずに射精した。
(4)
中を締め付ける感覚に男も獣のような声を発し、ビクビクと震わせながらゴムの中に熱を吐き出した。
萎んだそれを抜くと、違う男のものが挿入される。
敏感になっている中を擦られると、再び下半身が熱を持つのがわかる。
口では嫌だと言いながら感じている自分が滑稽で仕方がなかった。
五人の相手を終えた頃には、ヒカルにつけられたゴムは精液の重みでずれ落ちそうになっていた。
ヒカルに告白してきた男はそれを取ると、中に溜まっていた精液を飲み干した。
おおーっと歓声をあげる男達に、ヒカルは信じられないものを見るような目をしていた。
「じゃあ、後始末は俺に任せてよ」
「おー。またやろうな、進藤クン」
ゲラゲラと笑いながら、精液を飲み干した男だけを残して他は帰って行った。
「なあ、俺の名前知ってる?」
「え……?」
不意に尋ねられ、ヒカルは目を逸らす。
曖昧な記憶の中で必死に思い出そうとするが、どうしても出てこない。
男はそれに対して怒ることなく、にこりと微笑むとヒカルの肩を掴み、そのまま口付けた。
ヒカルには抵抗する気力は残っておらず、されるがままになる。
「俺は佐藤だよ」
田中でも鈴木でもなく佐藤だったか。
ヒカルはポーッとした頭でインプットする。
「進藤、これ見て」
ヒカルの目に映ったのは、ヒカルが男達に犯される映像だった。
思わず手を伸ばしたが、ひょいと避けられる。
「俺と付き合ってよ、進藤」
「ぃ、嫌だって、言ったら……?」
「ネットに公開するかな。知ってるか?一度ネット上にアップすると、消えることはないんだよ。その動画自体は消されても、誰かがダウンロードしていたら?わかるよな」
ヒカルは囲碁のプロだ。
もしこんなものがネットに晒されて、それが棋院の目に入ったとしたら。
そうでなくとも、北斗杯などで顔は割と知られてしまっているヒカルだ。
噂になるだけでも謹慎。
事実だとばれてしまったら最悪、除名は免れないかもしれない。
選択肢はあってないようなものだった。
床に落ちたヒカルの鞄から、電子音が教室に響き渡った。
つづく