プレゼント

(1)
夢を見た。
とても幸せな夢。
目が覚めても、この胸の高鳴りはおさまらない。
こんなことは初めてだ。
静まり返った闇の中で、ボクは一人心の中で叫んだ。
愛する人の名を。


「和谷ん家でクリスマスパーティー」
棋院で休憩をとっていた時にクリスマスの予定をさりげなく聞いた。
すると進藤は面倒くさそうにそう言った。
ボクはそうなんだと愛想笑いをした。
それが気に障ったのか、進藤はボクを一瞥するとふてくされたような顔をして
どこかに行ってしまった。
彼女がいないうえに男友達とクリスマスを過ごすということを笑われたと思って
いるのだろうか。
ボクは反省した。でも仕方なかった。許せなかった。
進藤がボク以外の誰かとクリスマスを過ごすということが。
といっても、進藤はボクの恋人でも何でもない。
ただボクが一方的に進藤を好きなだけ。
だからボクは進藤に対する独占欲を抑えるためにも、笑うことしかできなかった。

(2)
時計の針はすでに夜中の1時をさしている。
ボクはカレンダーを見つめ、刻一刻と迫るその日に焦りを感じていた。
どうすれば進藤とクリスマスを過ごせるのかと、ボクは悩みに悩んだ。
けれど答えはいつも同じで、「わからない」だった。
そして答えの出ないまま床につく。
囲碁とは違う難しさに頭を抱え、せめて夢の中で会えたらいいのにと、
妄想を膨らませることでしか、救いはないとさえ思えた。
「くだらない。こんなことで悩むなんて」
自分に言い聞かせるように女々しい自分を叱咤した。
だが頭の中は既に妄想でいっぱいだった。
進藤の服を一枚一枚脱がす。裸になった進藤を想像する。
触ったらどんな感触なのか、どんな体臭なのか、どんな反応を見せるのか。
ボクは何度も何度も想像してみた。
そうする度に進藤に対する想いは更に膨れ上がっていった。

(3)
その後、何度か棋院で進藤を見かけたが、口をきくことはなかった。
正確に言えば、進藤と話す機会をつくれなかったのだ。
年末になるにつれて、ボクは毎日のように忘年会などに呼ばれた。
誰なのか、名前どころか顔すらも知らない大人達の相手を、これも仕事だと
割り切って付き合った。
そうこうしている内にクリスマス・イブは訪れた。
ボクは自室の窓から、凍えるように冷たい光を放つ夜空を見上げた。そして
進藤が今何をしているのか気になりながら、早々に床についた。


窓を何かが叩く音がする。
ボクは眠い目をこすりながら布団から出て窓を開けた。
すると黒いものが飛びこんできた。
驚いて叫ぼうとしたが、その黒いものはボクの口を塞いだ。
「シーッ! 騒ぐなよ」
抵抗しようともがくボクは、その声に耳を疑った。
灯かりなど全くなかったが、ボクはそれが誰なのか察した。
間違えるわけがない。それは進藤だった。
「和谷んとこのクリスマスパーティー最悪。みんな飲めない酒をムリに飲んで
ゲロ吐きまくってて。これじゃ寝れねーと思ってさ」
進藤はそう言うと上着を脱いで、勝手にボクの布団の中に入っていった。
ボクはその様子を呆然として見つめている。
「あぁ、オレのことは気にしないでいいから、塔矢も寝ろよ」
彼なりに気を使っているのだろうか。
だがボクは気にせず進藤と同じ布団で寝ることはできない。
なぜならボクはその布団の中で何度も進藤を陵辱する妄想を抱いていたのだから。
ボクはもう一つ布団を持ってこようと立ち上がった。
その足を進藤が止める。
「気にすんなよ。これはおまえの布団だろ。さっさと入れよ」
進藤はそう言うと無理矢理ボクを寝かしつけた。

(4)
時計の秒針を奏でる音と進藤の呼吸音が静まり返った部屋に響く。
ボクは進藤に自分の荒い吐息と鼓動を聞かれないよう、必死で眠ろうと努力した。
あれから30分くらい経ったのだろうか。いつもよりも時が経つのが長く感じる。
夢にまで見た進藤が、クリスマス・イブの夜にやってきた。
夢なのか、サンタクロースからのプレゼントなのか、よくわからないが
進藤が隣で寝ていることは確かだった。
幸せだった。けれど今は自分の汚い部分を知られるのが怖くて、ただただ
苦しかった。
「なァ…」
進藤が突然声をかける。
ボクは身体がビクッと震えた。進藤が寝返りを打って、ボクの身体に寄り添って
きたからだ。
ボクは寝たふりをした。今は無視することしかできない。
そんなボクに、進藤は更に擦り寄る。
「…どうして、…どうして何もしてこないんだよ」

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!