小悪魔ヒカルたんリベンジ

(1)
 この子を覚えているだろうか?
 大きな瞳に、ニョキっと小さな牙のある口元、産毛も桃のようなお尻
の先にはハート型の尻尾が揺れている。
 そう、小悪魔とも言われている、淫魔のヒカルだ。
 ヒカルは人間の魂を奪うために、相手を誘惑して性交を行う。その相
手は圧倒的に野郎が多い。元々この国には、お稚児趣味だとか、色子と
か陰間とか、そういう男同士の色事の風土が根付いている。加えて自分
の手練手管には自信満々なヒカルだった。千年以上の間、今までヒカル
の色香に堕ちなかった野郎は片手どころか小指の数ほどもいない。
 しかし、時にはその自信が徒となることもある。人間の中には、悪魔
や妖に対抗できる力を持つ者もいるのだ。そのため、油断して痛い目に
あうこともないとはいえなかった。
 特にヒカルが精神的にも肉体的にも痛いしっぺ返しを喰らったのは、
平安時代と呼ばれた頃、賀茂明と対峙したときだった。
 いつものように、稚(いとけな)い幼子の姿で狙い定めた相手の寝所
に潜り込んだまでは良かったのだが、たまたまその屋敷を訪れた賀茂明
に正体を見破られた。
 淫魔と知られるやいなや、調伏という名目の下、口にするのも憚れる
ような折檻を受けた。もちろん、殴る蹴るの暴行を受けたのではなく、
夜通し、その身体を蹂躙し尽くされたのだ。
 ちょっと、いやかなり気持ちが良かったのは否定しないが、やらせて
やるのは、無理矢理やられるのでは、かなり心情的に違うのだ。

(2)
 平成の世になり、そんな若かりしき頃の失敗もちょっぴり苦い思い出
に変わった・・・というか、忘れかけていた頃、宿敵賀茂明の生まれ変
わりを見つけてしまった。名を、塔矢アキラという。
 本人は前世の記憶も力もないようだが、触らぬ陰陽師に祟りなし。
なるべく近寄らないようにしようと決めたヒカルだった。
 とは言うものの、人の集まる帝都東京は、ヒカルの絶好の狩り場だ。
会おうとは思わなくても、街中でアキラの姿を見かけることもあった。
気になって様子を伺ってみたが、半年が過ぎた今も、アキラの中の賀茂
明は目覚める気配さえないようだった。
 そうなってくると、昔の仕返しをしてやりたくなる。上級悪魔として
のプライドがどうこうというよりは、単にヒカルは負けず嫌いなのだ。
 そうと決まれば、話は早い。アキラは今、囲碁にその全身全霊を傾け
ているらしい。狙うとすればこの辺りだろう。幼い頃からこつこつと積
み上げてきた自信と誇りを一気に打ち砕いてやれば、さぞすっきりする
に違いない。
 囲碁の名人といえば、都合のいいことに、ヒカルには心当たりがあり
まくりだった。平安時代、帝の囲碁指南役を務めた、藤原佐為。ヒカル
が寝所への夜這いに成功したにも関わらず、賀茂明に魂を奪うことを阻
まれた、張本人でもある。
 アキラは今、人間の年で言えば小学六年生。十一歳くらいだ。

(3)
 ヒカルも同い年くらいの子供に化け、かの藤原佐為の魂を呼び出した。
普段は面倒なためあまり搦め手を使わないヒカルだが、そこは腐っても、
いやピチピチ新鮮でも悪魔だ。いろんな術を心得ている。
「あなたは?ここはどこです?」
 呼び出されたはいいものの、当の佐為は辺りをキョロキョロと見渡し、
訳が分かっていないようだ。まぁ、当たり前か。
「オレの名前は、ヒカル」
「ヒカル?」
「そう、お前、自分のことを覚えてるか?」
「私・・・私は藤原佐為と申します」
「そうそう、ちゃんと覚えてるな」
「ですが、私は、悲観のあまり入水したはずなのですが・・・」
 その辺もしっかりヒカルはリサーチ済みだ。卑怯な策謀に乗せられ、
囲碁指南役の名誉、内裏での地位、知人からの信頼を一挙に失った佐為
は、一族郎党に咎が及ばぬよう、その身を果てるしかなかったのだ。
 例え、心はどんなに碁を打ちたいと願ってはいても・・・。
「お前、まだ碁を打ちたいだろ?」
「えぇ、それは、とても打ちたいです。しかし、今の私は魂だけの存在
になってしまっているようですね・・・」
「ん、だからさ。お前の代わりに、オレが石を置いてやるよ」

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