1- 100- 200- 300- 400- 500-

おまいら漢ならヒカルたんハァハァだよな?Part69

1 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 01:48:14.89 ID:???
つい先日、御年28になられたヒカルたん。
成熟した甘い果実を味わおうとしているメイツよ集え。
我らが永遠の天使「ヒカルの碁」のヒカルたんに、24時間、年中無休で(;´Д`)ハァハァするスレッド。
ヒカルたんに振り回される人生を堪能しようぜ…
過去ログ、関連サイト、お約束は>>2-5辺り参照。

前スレ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1323440788/

2 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 01:50:04.75 ID:???
過去ログ〜〃ヾ▼  ノ
     ⊂(゚▽゚⊂⌒ヽつ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
【Part1】 http://school.2ch.net/campus/kako/1014/10140/1014095514.html

【ログ保管庫】 http://hikarutan.chu.jp/makyo/ (過去ログは全部ここ!)
【魔境避難所】 http://jbbs.shitaraba.com/movie/1361/ (困ったときやハァハァ以外はこちら!)

<兄弟スレ>
○趣味の部屋『塔矢愛好会』Part139●
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1317139891/

3 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 01:50:55.10 ID:???
【関連スレ】
●ヒカルの碁 和谷12
 http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1263022539/
●筒井くんと囲碁を打ちたい子が集うスレ(dat落ち)
 http://hobby6.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1031681695/

【倉庫番さんありがとう!】
●小説倉庫 ※まだ入ってない分はログ取り屋さんの小説倉庫で続きが読めます
 http://ime.nu/blue.ribbon.to/~hikalog/akira/index.php
●魔境避難所 (修正・要望はこちら!プチ避難所、ヒカルたんAA達もこの中に)
 http://jbbs.livedoor.jp/movie/1361/
【ひろたんありがとう!】
●魔境共同お絵描き掲示板(閉鎖) http://cat.oekakist.com/luck7/
 ※今までありがとう、そしてお疲れさまですた。

4 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 01:51:48.89 ID:???
(旧・1)http://fox.oekakist.com/ha2hika/ (旧・2は終了しました)
【ヒカルたんハアハアアプロダ】 http://hikarutan.chu.jp/makyo/up/ (春たんの妖艶春画もここに)
【魔境大辞典】 http://hikarutan.chu.jp/makyo/dictionary/h/ (お節介たん、ありがとう!)
【お下劣しりとりログ】 http://hikarutan.chu.jp/makyo/log/shiritori.html
【ムービー宝箱】 http://f22.aaacafe.ne.jp/~kaizo/ (改造たんの力作!)
【ブロック崩し】 http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Pen/7331/haahaa.html
(ボールマターリ版) http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Pen/7331/haahaa2.html

5 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 01:52:20.02 ID:???
オヤクソク〜 〃ヾ▼  ノ
     ⊂(゚▽゚⊂⌒ヽつ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
キモ男なら黙ってヒカルたんにハァハァしようぜ!
煽りや荒らしは大歓迎!
女の子は漢になりきってヒカルたんにハァハァすると(・∀・)イイ!!かも☆

6 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 01:55:08.97 ID:???
取り急ぎ立てたので、閉鎖してるとことかチェックしてなくて済まぬぅ
でもって誘導すらできないほど容量みっちりだったので、ここに無事メイツが
たどり着けるか心配だ…

100%俺のせい、ごめん
てなわけで投下再開しまつ

7 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/09/26(金) 01:56:29.17 ID:???
※※※

声変わりしたばかりと思しき少年の、訝しむ声が聞こえたのは。
見も知らぬ白い部屋だった。

自分という存在は、とうに役目を終えて消えた筈だった。
それがまたも呼び戻されたなら、神が許した証だと思った。もう一度目指してよいと。
では。あの子は届かなかったのだ。私の目指した高みに。
失意のうちに生涯を閉じたか、はたまた人の身に及ぶ限りを尽くし、満ち足りて逝ったか。

千年の昔。私は冷たい水に身を委ね、己が命を現世から切り離して碁盤の中に仮宿を求めた。
誰のものなど知りはせぬ。死して尚、妄執に縛られる魂には似合いの宿であった。
幾度もの戦乱にて碁盤は焼け、割られ、瓦礫に埋まって朽ちた。
仮宿を失うたび、次の碁盤を探して彷徨う日々に倦み、心は徐々に腐れていく。
最初の子との出会いに九百年を要した。
その子が若くして鬼籍に入ってから。
次の子とは百有余年で出会えた。
それを考えれば、あの子の許を去ってのち。
十年ほどしか経過していないやも知れぬ。
そのような短い期間で、あの子が生を終えていたなら痛ましい。最初の子よりも短命ではないか。

自分を三度、蘇らせた少年を見る。歳の頃は、別れた頃の次の子より少しく上か。いや、あの子は年
齢より幾分幼い見かけであった。何れにせよ似たようなものだろう。十四か五。
服装から、やはり時間の経過が然程ではないと推し量る。否、判りはせぬ。徳川の御世は変化が緩や
かであった。あの頃から現在に至るまでの間も同じでないとは云いきれぬ。人が月に行ったなどと荒
唐無稽な話とともに流行り廃りの巡りが目まぐるしいと聞かされたが、あれからも日々変化したとは
確かめねば断じられはせぬ。そう、傘が千年を経ても傘であったように。

少年は、頭を抱え苦痛に呻いているように見えた。
『私の声が……聞こえるのですか』
この子が此方を認識できるか。もう大概慣れても良い筈だが、いまだ緊張が私を支配する。
しかしこの苦しみようは妙だ。私を宿らせるのが余りに負担なのか。そう云えば、次の子は倒れたの
だった。それに比しても尋常ではないように見える。
「……やかましい」
いらえがあった。歓迎的ではない。
最初の子も、次の子も、驚きはしたがここまで敵意を向けてはこなかった。
幼ければ幼いほど、妖しのものをするりと受け容れる傾向があるのやも知れぬ。
最初の子は十に満たなかった。次の子は十二であった。得心がいった。この子は十四、五。空想で遊
ぶよりも現実に生きねばならぬゆえ、了見が狭くなるのは当然。
「頭が割れる。あんた、相方をいい加減黙らせてもらえませんかね」
相方?そのようなものは居らぬ。居た事もない。
「何とぼけてんです?さっきから頭の中でギャンギャン泣き叫んで、鼓膜が破れそうなんだけど」
『……私、そんなに派手に泣いてました?』
「違う!話が通じないな!幽霊だか宇宙人だか知らないけど、ガキだろこれ!泣いてんの!保護者な
らちゃんとお守りしろよ!」
子供?私は耳をそばだてる。

襲い来たのは、慟哭の暴風。
自らを責め、呪い、心を引き裂かんばかりの声で喉も枯れよと。
子よ、子よ。何を泣く。私は宥めようと泣く子を探す。
聞こえるのは声ばかり。姿はない。そなたはたれか。

叫びの合間、切れ切れに聞こえる断片を繋ぎ合わせれば、それは深き悔悟であった。
全部打たせてやればよかった。
自分など不要な存在だった。
ただの肉の器であればそれでよかった。
最初の子のように、と。

8 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/09/26(金) 01:59:28.04 ID:???
何処から聞こえてくる?私は部屋のあちこちに跳ね返って残響する声の出処を探す。
三人目の子が持っている和綴じの古びた本が目に入る。棋譜のようであった。その片隅に見えるのは
……涙の染み?
棋譜に憶えがある。これは百年以上前、他ならぬ私が打ったもの。
泣く子がこれを見たのはいつだ。私が去った後?

ああそうか。
私の存在を惜しむ余り、あの子は碁を捨ててしまったのか。
去るのが突然すぎたのか。否、随分前から『私は消える』と告げていた。あの子が取り合わなかった
のだ。
些事に過ぎぬ。あの子は碁に背を向けて齢を重ね、この世を去った。私は今、ここにいる。それだけ
のこと。なのに胸が掻き毟られる。捨て置けぬ。
『あなたは碁打ちなのですか』
「このうるさいのを何とかしてくれるのが先です」
『……これは、私にはどうしようもありません。その棋譜に零された、涙に宿った念ですから』
少年は顔を顰め、開かれた一葉に改めて目を落とす。
「迷惑な。一体誰のなんです?」
『ヒカル……いえ、かつて碁打ちだった子供です』
私の返答に対する、少年の反応はいささか奇矯であった。
「それ、どれくらい昔の子供です?」
『今がいつなのかわからないことには』
「その格好じゃあ西暦で言っても無理か。……平安貴族に元号言っても同じですかね」
酷い頭痛に蟀谷を押さえながら、彼は言う。
『私が知っている元号で一番新しいのは平成です』
「そりゃラッキーです。今も平成ですよ、十九年」
今上が現在も御在位であらせられる。その事実よりも、あれからわずか六年、もしかしたらもっと早
く。
あの子が逝ってしまったことに愕然とする。
『そんな……ヒカル、二十歳まで生きられなかった?』
自分を卑下し、私に全てを委ねなかった事を悔い、落とした涙の粒に慟哭だけを残して。
碁だけでなく我が身まで捨ててしまったのか?

「まさかと思うけど。それ、進藤ヒカル八段のことじゃないですよね」
『え』
私が新たな子に宿る時は、前の子は死んでいるはずでは。
「もしそうなら、『勝手に殺すな』って文句言ってきますね絶対」
どういうことだ。混乱する。どうなっている。
「碁をやめて自殺?あるわけない。あの人、一昨年に棋聖戦の最年少挑戦者記録を塗り替えてます。
でもって今年は本因坊戦の挑戦者ですよ?獲れたら新入段から最短じゃないんですかね」
一体どうなっているのか。

※※※

最大ボリュームで甲高い泣き声を延々とループで聞かされるのは拷問に等しい。
棋院の資料室で「特別に」と借り受けた昔の棋譜に、幽霊のひとつやふたつ取り憑いていたところで
驚きはしない。しかし生霊、いや残留思念なのか、こっちは全く以ていただけない。
しかも現役の若手トップ棋士だと?冗談も大概にして欲しい。
先刻からおろおろ、あたふたする幽霊は、そんな馬鹿な、どうして、ありえないと繰り返すだけ。
同じ科白をこいつに叩きつけてやりたい。超常現象の類は信じてないんだ。ありえない。
早くこの騒音から解放して欲しいのだが、自分にはできないと言う。無能が。
本から遠ざかればいいのかと、割れそうな頭を抱えて外に出てみる。幽霊も泣き声もくっついて来た。
この分では本を返却しても同じだろう。
遅ればせながら幽霊に名を訊いた。取り憑いたのなら除霊でもしない限り当分離れないのだろうし、
その間名無しでは不便だと思ったからだ。
そういえば、このやかましい泣き声もこいつの名前を呼んでたっけ?いちいち聞き取っていられない。
驚いたことに、幽霊が口にしたのは数年前にネット碁で暴れ回ったハンドルと同じ音を持つ名だった。
塔矢行洋との対局を最後に、音沙汰がなくなった打ち手。。
おまけに千年前の藤氏だと?宮中で時の天皇に碁を指南していたなら藤原北家の人間じゃないのか。
系図に名が残っていてもおかしくはない。

9 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/09/26(金) 02:00:23.89 ID:???
『私は、いないことにされてしまった者ですから』
指摘してやると一瞬だけ嬉しそうにしたが、すぐ顔を曇らせた。
歴史とは争い事を時系列に記録したものだ。往々にして勝者の側が己に都合のいいように書き記す。
都合の悪いものは残さない。千年前はそういう時代だったのだろう。
この幽霊は権力争いが不得手なゆえに奸計に陥れられ、存在をまるごと記録から抹消された。
藤原北家の系図にすら名がないなら、一族内での足の引っ張り合いも考えられる。
何も残っていないゆえに、今になって実在したか否かを検証する術がない。

混乱から少し回復すると、今度はヒカルヒカルとやかましい。
本当に生きているのか、碁を続けているのか、さっきしたタイトル挑戦の話は本当なのかと。
進藤ヒカル。
全くの独学で碁を初めて一年足らずで院生試験に合格し、院生となったその年の秋にはプロ試験合格。
飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち星を上げ続け、新しい昇段基準の適用で一気に二段から七段へ。
師匠はいない。公式には。
「あんたがその師匠だってわけですか」
幽霊は首がもげんばかりにこくこくと頷く。貴族様の割には仕種が俗臭い。
再三の要求に、立ち上げっぱなしのPCが置いてあるデスクに向かい、ブラウザを起動する。
『これも“ぱそこん”なのですか?この平たい板が?箱ではなく?やけに横長ですよ?』
液晶モニターではなくブラウン管が主流だったのはかなり昔だと思っていたが、そうでもないのか。
ワイドモニターも見たことがないようだった。
『もっと小さい板なら見ました。今カチャカチャやってるそれがくっついてるの』
ノートを見たことがあるならまだ違和感も少ないだろう。
棋院公式サイトの棋士プロフィールを開けて見せてやる。嘗ての弟子が確かに生きていて、いまだ碁
打ちであり続けている証拠を。
幽霊は、はらはらと涙を落とした。安心したのだろう。
と思ったら。こいつはド厚かましかった。弟子の現在の姿を見たいとせがみだす。
プロフィールのページには写真がなかったのだ。
進藤八段、あんたこんなのと何年いたのか知らないけど大した忍耐力ですよ、尊敬します。
ボクの頭の中で止むことなくキンキン響く常軌を逸したスクリームさえなけりゃあね。
はたと思いついて、写真を探すよりこちらの方がいいだろうと動画投稿サイトを開く。
相変わらず、騒音のせいで頭がどうしようもなく痛む。鎮痛剤を飲んだが、いっかな効く気配がない。
病院で処方される優れもののはずのロキソニンが役立たずとは。
こんなのが続くようでは日常生活に差し障る。いや、今後の人生に関わる。
幽霊はこちらの事などお構いなしでせっついてくる。
目当ての動画を探してやれば、今度はPCの中にテレビがあるのかと質問攻め。うんざりした。
再生が始まると、成長した弟子の姿に感無量なのかやっと静かになってくれた。と思いきや、それは
一時だけだった。これはテレビなんですよね、返事してくれないんですよねとマシンガン。
幽霊に付き合いがてら動画を見ていて思うが、天才級の碁打ちでなければ渋谷あたりで屯する頭の悪
い連中と同類項だ。
よくもこんなのに碁を仕込めたものだ。今度は幽霊に感心する。
囲碁教室に通い始めてわずか二回目にして素行不良で出禁を食らった伝説を持つ糞ガキだぞ。
幽霊は、和谷・伊角あたりも知っているようだった。考えればそうか。院生時代につるんでいた奴ら
を覚えていて当たり前だ。四六時中ついて回っていたのなら。

10 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/09/26(金) 09:44:49.16 ID:???
ひとしきり弟子の近況を知ることができた幽霊は、次に『今どんな碁を打っているのか知りたい』と
要求してきた。いい加減にしろ。頭が痛いと言っているのが理解できないのか。
おまえ、致命的に空気読めないから失脚したんだろ。絶対そうだろ。
言い出したら引っ込めることを知らない。求めれば際限なく相手が呑んでくれると思っているフシが
ある。誰がここまで付け上がらせた。進藤か、その前の憑坐か。
『虎次郎はね、私のわがままを全部聞いてくれたんです。できた人でしたよ』
犯人はその人格者とやらか。幽霊の主張していたマイ理論から類推して、すでに墓の下だな。
『私のために、自分の碁を殺して。名も体も全て貸してくれたのです。命尽きるまで』
では、その虎次郎の棋譜が残っていたなら。その実態は幽霊が打ったものということになる。
進藤を鍛え上げたのが真実なら。間違いなく相当の打ち手として名も棋譜も残っている。
……待てよ。
頭の中でずっとヒステリックに泣き喚く声に負けまいと、なけなしの思考力を総動員する。
PCの前から一旦離れ、ソファー前のローテーブルに置かれたままの和綴じの本をもう一度手に取る。
「いや……まさかね。そんなことないでしょ」
進藤八段は、自他共に認める秀策フリークだ。その打ち筋にも影響が色濃く反映されている。
フリークが嵩じて、秀策の臨書までやっている。
それから、ネットの海に生息し、塔矢行洋を引退に追い込んだとまで言われる正体不明の打ち手。
あれは何と評されていた?
そうだ確か、秀策が現代の定石を覚えたかのようだと。
じゃあ。
「あんたが秀策の『中の人』だって?いやもうこれ以上のトンデモはカンベン」
『ええ。御城碁も全部。虎次郎は私に打たせてくれたんです』

絶え間ない頭痛と、理解の範疇を軽く飛び越えた幽霊の暴露話にいっそ気絶でもできないかと願った。
幽霊はやはりマイペースで、六年前まで一緒に過ごした愛弟子の棋譜を見せろの一点張り。
引き下がる気配がないので、渋々PCの前にまた戻り、棋聖戦七番勝負の棋譜を検索して開いてやる。
第六局までイーブン、あと一勝というところで惜しくも最年少タイトルを逃した一昨年のもの。
『相手は緒方先生ですか、何とまあ、あの子が』
はしゃぐ幽霊に対して、もう詮索するのもしんどい。何しろ頭が痛い。
静かになった幽霊は、棋譜に没頭しているのだろう。
『次を。七番勝負なのですよね?』
その声音は、予想に反して嬉しげではなかった。
第二局の棋譜を開いてやる。第三局。第四局。次を要求する幽霊の声が泣きそうになっている。
嬉し泣きではない。
『……違う』
最終、第七局まで見終えた時。性別不詳な幽霊の綺麗な顔が歪んでいた。
『違う。これは、あの子の碁じゃない』

11 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/09/26(金) 09:47:05.56 ID:???
連投規制くらったorz
仕方ないのでルーター再起動したでつ

Aさん(仮名)「ヒカルたん被害者の会・会員番号1番です」
メイツにはご褒美です(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたん「オレは放置かよ」
放置プレイは嫌いかいヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

教科書だかに載ってた『醢(ししびしお)』が凌遅刑の親戚というのをうっかり知ってしまって
フラッシュバックする学生時代のトラウマorz
孔子の弟子をナマスに切り刻んで塩辛にしたという話を授業で習って、以降塩辛を食い物だと思えな
くなったのはいい思い出ナリ

このSSいつ終わるんだよ!というツッコミはなしの方向でひとつどうか…どうか
ちゃんと終わりに向かってるよ嘘じゃないよ

12 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 10:00:16.43 ID:???
○趣味の部屋『塔矢愛好会』Part140 ●
http://toro.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1326557865/

ヒカルの碁 和谷13
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1354569060/

スレ更新されてたので追加、次のテンプレに使ってね

13 :名無しさん@ピンキー:2014/09/26(金) 13:27:22.99 ID:???
前スレ書き込めなくて焦ったぜ…
盆たん乙!
メイツならきっとまた現れるさ…

14 :名無しさん@ピンキー:2014/09/27(土) 17:06:55.33 ID:???
ほす

15 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/09/28(日) 04:24:03.77 ID:???
次の要求は既に予想がついていた。案の定、幽霊はかつての弟子に会いたいと言い出し。
「会ってどうするんです?復活しましたー、って挨拶でもする気ですか」
あからさまな皮肉が通じたようで、幽霊は拗ねたようだった。
ロキソニンの消費量がとんでもないことになっている。服用間隔は最短六時間なのだが、申し訳程度
の効き目がすぐ切れてしまうためにラムネ菓子でもボリボリやるような感覚で飲む羽目になっている。
もっときつい鎮痛効果のある薬にしなければ。最悪、モルヒネか。流石に入手しづらい。
「動画で首実検もしたでしょうに、今更別人もないもんです」
幽霊はそうじゃないそうじゃないともどかしげに否定する。今度の皮肉は通じてないのか。
金属質に近い泣き声による音の暴力と、幽霊の騒ぎ立てる声との相乗効果で背筋に怖気すら感じる。
要求を呑むのは業腹だったが、このままでは今夜から眠ることもできなくなってしまう。
せめて睡眠だけは確保したい。

目当ての人物とコンタクトをとる手段は、至ってオーソドックスなものを選択した。
但し、成功する確率は低めだと見ていた。北斗通信システムとの関わりを持って以来、一般的な普及
の仕事からはここ何年か遠ざかっているという話だからだ。露出が増えたせいでファン層が変化し、
頭のいかれたドルオタにイベントで負傷させられた件も一因だろう。その時は右肩を脱臼させられた
とか。
モテるのも考えものだ。
電話で申し入れた棋院の返事は『院生なら仲介しても構わない』だった。思った通り、原則お断りだ。
本人の都合を聞いての折り返しになるとのことで、暫く待つ。
長くかかるかと思ったが、案外返答は早かった。しかも了承がとれたという。
朗報のはずなのに、幽霊は辛気臭いままだった。脳内に黴が生えそうだからやめて欲しい。

幽霊が待ち焦がれた、来訪を報せるインターホンのチャイムが鳴る。
玄関のドアを開けた途端、後頭部を鈍器で思いさま殴られたような衝撃に呻き声を漏らし、頭を抱え
てその場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
来客があわを食って同じようにしゃがんで目線の高さを合わせてくる。さらに頭痛が酷くなる。
理解した。頭で響く泣き声とその主が近すぎて、派手にハウリングを起こしているのだ。
「頭痛いのか?そんなんで指導碁、受けられる?」
こいつの打つところを見せなければ幽霊が陰気に泣いて、今度はゲロゲロ吐く羽目になる。どう転ん
でもろくなもんじゃない。
「……大丈夫です。よろしくお願いします」
ろくな碁にならないし、指導も耳に入るかどうか判らないが。

てっきり、お馴染みのストカジで来るのかと思ったが、流石にスーツだった。服が違うと佇まいもど
ことなく違う。いや、生身の実物とまともに会うのは初めてだが。
「ここ来る前に棋院に寄る用事があってさ、篠田師範にちょっと聞いてきた」
検討の手を止めて何を言い出すのかと思ったら。
「すげぇアタマいいんだって?何でも苦労なくできちゃうから、逆に努力が必要な局面で弱い、と」
器用貧乏だと言いたいわけか。
「ボクが万年Aクラスの下位だとも聞きました?」
「まぁね。本当はもっと上にいて、院生一位の枠でプロになれるのにって言ってた。もったいないっ
てさ」
「篠田師範に買ってもらってるのは嬉しいですけど、碁の才能は、まあどうですかね」
相も変わらず、泣き声とご本尊との強烈なハウリングは続いている。

16 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/09/28(日) 04:26:25.47 ID:???
短いけど即死回避のために…
20レスだっけ判定基準

17 :名無しさん@ピンキー:2014/09/28(日) 18:36:20.99 ID:???
大人なヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

18 :名無しさん@ピンキー:2014/09/28(日) 18:40:15.94 ID:???
さっき何故かプロキシが云々で書き込めなくてこれからpc使わないといけないのかと思っちまったぜ…(;´Д`)
だが今やったら書き込めたからこれでまたいつでもヒカルたんへの溢れんばかりの愛を語れるな(;´Д`)ハァハァ

19 :名無しさん@ピンキー:2014/09/28(日) 20:05:36.74 ID:???
チビヒカルたんに美味しいお菓子を与えて目を輝かせる姿が見たい
そして毎日餌付けして懐かせるのだ(;´Д`)ハァハァ

20 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 00:00:14.27 ID:???
大きいつづらと中くらいのつづら、そして小さいつづらがあります
その中にはそれぞれヒカルたんが一人ずつ入っています
つづらは一つしか選べません

さあ大中小、どのヒカルたんを選びますか(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

※つづらの大きさとヒカルたんの大きさはシャッフルされている可能性があります

21 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 01:31:46.04 ID:???
小さいつづらにおっきなヒカルたんが縮こまって入ってるのを想像するだけで
涎が止まらないので大きいつづらでお願いします(;´Д`)ハァハァ

22 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 01:32:47.54 ID:???
何を言ってるんだ俺は…小さいつづらでお願いします……

23 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 16:11:14.10 ID:bn3C5Q03
>>前スレ773の続き
悪霊に取り憑かれた者が絶頂を迎えることで、射精と同時に悪霊が吐き出される。
それを自らの身体で受けることで悪霊を封印する事ができるのだ。
ヒカルは佐為のサポートの元、悪霊封印が始まる。

ここまでがプロローグ。

ここから性知識が余り無いヒカルを佐為がサポートし悪霊封じが始まる。
佐為が悪霊に取り憑かれた男を探し、ヒカルがその男とセックスし、悪霊を封印するという行程を繰り返す。
しかし、佐為はヒカルがまだ幼いのもあってなるだけ清いままでいさせようと本番だけは避けようとする。
絶頂すれば悪霊は出てくるのでフェラや手淫ですませようとさせる。
封印作業を繰り返していくことでヒカルの技術は上がっていき、封印作業も安全になっていく。
しかし、技術が拙いときに技術が格上の相手から封印作業を行おうとすると、相手が満足せずヒカルはお持ち帰りされてしまう。
そうなったら最後、ヒカルは清い身体でなくなってしまい、封印し終わったあとでもその男の物になってしまう可能性も。
また、何度も連続で同じ相手から封印作業を行うとその相手に親近感を持ちヒカル自らに惚れてしまいヒカル自ら身体を開いてしまう可能性も。
そうならない事を望む場合は、ヒカルの技術を上げ、同じ相手から封印作業を行う際には期間を置く必要がある。
ヒカルは全ての悪霊を封印するまで清い身体でいられるのか?それともその花は散ってしまうのか?
全ては佐為の行動にかかっている!

………途中からギャルゲの説明文みたいになっちゃいました。
文才は無いので設定だけ投下しました。
このネタは煮るなり焼くなり自由に調理してください。

24 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 17:13:48.93 ID:???
いやいやいや文才ないとか冗談はナシでいこうぜ
プロットだけで(;´Д`)ハァハァさせられれば本文でも絶対(;´Д`)ハァハァだ!
しかもID:bn3C5Q03たんはIDの出ないこの板でIDを見せる勇者!

快楽に翻弄されながらも処女を失うか否かのギリギリを渡り歩くヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
た、たまらん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

25 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 17:49:05.42 ID:???
文才なんて書けば上がっていくものだぜ!
これを機に小説の世界へ(;´Д`)ハァハァ
お持ち帰りされてしまうヒカルたんも(;´Д`)ハァハァだがそいつのものになってしまうのはゆるせんな(;´Д`)ハァハァ

26 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 18:46:24.06 ID:bn3C5Q03
>>23
ちなみに初期の状態で相手にすると危険な男達

緒方
言わずとしれたヒカルたらし。未熟な状態で相手したら確実に食われる。
日常でもヒカルの好感度が上がっていると簡単に緒方に付いていってしまうので純血を守りたいなら注意が必要。
座間
ある意味緒方よりも危険な相手。捕まったら最後、未熟なヒカルでは弱みを握られは決して逆らえなくなってしまうだろう。
椿
ヒゲゴジラと呼ばれるヒカ碁のモテない男性のイメージがあるキャラ。
技術は無いが勢いはある。例えヒカルの技術が上でもその時の状態(精力が有り余っている)によっては
そのまま勢いで食われてしまう。

27 :名無しさん@ピンキー:2014/09/29(月) 22:06:09.09 ID:???
プレイヤーが佐為を操ってヒカルたんの操をいかに護るかのゲームみたいだな(;´Д`)ハァハァ

28 :補習 ◆FvK.L8.adE :2014/09/30(火) 03:29:20.78 ID:???
「なあ、進藤。ちょっと話したいことがあるんだけどさ」
ヒカルにそう声を掛けたのはクラスメイトだった。
昼食をとろうと弁当を広げようとしていたヒカルは手を止め、クラスメイトを座ったまま見上げる。
クラスメイトの名前は鈴木だったか田中だったか。
3年になりプロの世界に入ってからは、学校への関心はあまりなくなり、半年経った今もあまり名前を覚えれていない。
みんなも受験で他人にかまけてはいられないのか、業務的なこと以外でクラスメイトと話すのは久しぶりだった気がする。
「なに?」
「今はちょっと話しにくいんだ。放課後、教室で待っててくれないか?」
「放課後?それって時間かかる?オレ、約束があるんだけど」
アキラと碁会所で打つ約束をしている。
あまり遅くなってグチグチ言われるのも癪だ。
「すぐ終わるよ」
「じゃあいいよ」
ヒカルが首を縦に振ると、彼は自分の席へと戻って行った。
一体なんの話だろうか。
弁当の蓋を開けると、おかずに大きめのハンバーグが入っている。
ヒカルはわっと目を輝かせると、嬉々として箸をのばした。
放課後になり、掃除が終わると教室は生徒が誰もいなくなり、静まり返る。
みんな各々塾に通ったりしているのだろう。
ヒカルは先程のクラスメイトが来るまで棋譜を眺める。
これは以前アキラと打った時のものだ。
見ているとアキラと打ちたくて打ちたくてそわそわしてくる。
早く来ないかと廊下に視線を向ければ、ガラガラと扉を開けて彼が入ってくる。
ヒカルがいるのを確認すると、彼は笑顔でヒカルに駆け寄ってくる。
「ごめん、待たせた?」
「いいよ。話ってなに?」
彼は一瞬目を背けると、ヒカルをじっと見据える。
「俺、進藤が好きなんだ」
「へ?」
「俺と付き合ってください!」
ヒカルの頭の中にはまず罰ゲームという言葉が浮かんだ。
クラスに馴染めず高校にも進学しない進藤ヒカルに告白しろ、と言われているのかと。
笑い飛ばすのが正解なのか、真面目に答えるのが正解なのか。
ヒカルが戸惑っていると、彼の腕がヒカルの肩を掴んだ。
呆然としたままのヒカルに覆い被さるように口付ける。
慌てて抵抗しようと胸を叩くが、椅子に座ったままのヒカルは力がうまく入らず、あまり効果がない。
蹴飛ばしてやりたかったが、脚は机の下にあり、机を支える棒のせいで出すことができないのだ。
彼が満足するまでヒカルは吐き気がしそうになる口付けに耐えた。
解放されるとヒカルは立ち上がり、彼の鳩尾に拳を入れた。
「うぐ……ッ」
「ふざけんな!オレは男なんかお断りだ!」
気持ち悪いと続けると、名前も知らないクラスメイトは走って教室から出て行った。
ショックだったのかは知らないが、無理矢理ファーストキスを奪われたヒカルの方が余程ショックだ。
クソと口をゴシゴシとシャツで肌が赤くなるまで拭う。
さっさと忘れたくて鞄を取り教室を出ようと脚を動かすと、五人のクラスメイトが教室に入ってきた。
中にはさっきのやつもいる。
嫌な予感しかしなかった。男達はニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「進藤くぅん。こいつのことフったんだって?」
「気持ち悪いだなんて酷いなあ」
ゲラゲラと下品に笑う。
逃げようともう一つの扉へと足を向けるが、咄嗟に前を塞がれる。
「進藤ってさ、可愛いよな」
「はあ?」
「女みてえにひょろひょろしてるしなあ」
不躾な視線を向けられ、ヒカルは居心地悪げに眉間に皺を寄せる。
男として不当な評価をさせている。バカにされているのはヒカルでもわかる。

29 :補習 ◆FvK.L8.adE :2014/09/30(火) 03:31:05.21 ID:???
ふざけるなとそのまま押しのけて出て行こうとしたが、ドンと突き飛ばされる。
机にぶつかり大勢を崩し、床へと尻を強かにぶつける。
文句を言おうと顔を上げると、すぐ側に男の顔があり、ヒカルはヒッと声を上げる。
後頭を掴まれ、そのまま男にキスをされる。
口を必死に閉じ、舌をねじり込もうとする動きをなんとか阻む。
「おい、なに一人で楽しんでんだよ。代われ」
「ゃ、やめ、…んんっ」
「進藤、口開けろよ」
「んんんっ」
友達がフられた腹いせにしては酷すぎる。
ヒカルは絶対に開けるものかと歯を食いしばった。
男達は代わりがわりにキスをすると、ヒカルの腕を掴み、制服を脱がしていく。
嫌だと抵抗するが、一人で適うわけもない。
黄色のシャツ一枚になり、下着とズボンは足首まで下ろされた。
シャツを捲り上げるとピンクの突起が二つ現れる。
指でなぞられると、背筋がぞわぞわとする。
「ん…、んううっ」
抓られ、こねくり回すと爪でかりかりと引っ掻く。
胸を押され仰向けになると、男がヒカルの頭の上からヒカルへと口付けてくる。
白い脚を撫でられ、胸の突起をいじられ、ヒカルはじわじわと溢れてくる快感に脚をもぞもぞとさせた。
「感じてるな…。見ろよ、ひくひくしてるぜ」
ヒカルの小ぶりな自身を衝突に触れられ、ヒカルは体を跳ねさせる。
その反応に気を良くしたのか、勃ちあがりつつあるそれを扱きあげた。
「いやっいやだっ!ん、んんっあう、んうう」
開いた唇に、舌をねじり込まれ、舌を絡まれる。
ヒカルがフった男がヒカルの下半身に顔を近づけたかと思えば、ヒカルのそれをぱくりと口に含んだ。
根元から吸い上げられ、ヒカルは唇を塞がれていなければ、叫び声をあげてしまっていただろう。
胸にも舌を伸ばされ、ヒカルは耐えられずに男の口の中に熱を吐き出した。
最後の一滴まで吸うと、男は満足げに口を離す。
口付けからも解放され、ヒカルは赤らめた顔で息を荒げた。
「や、やだぁ…。もうやめてよ…」
他人より成長期を迎えるのが遅かったヒカルはクラスメイトに比べたら体は細く、声変わりもし切れていない。
顔も幼いヒカルは、まるで少女のようだった。
男達はAVを思い出し、ごくりと唾を飲む。
「俺、知ってるぜ。男同士ってケツに突っ込むんだってよ」
「マジかよ。ていうか、それ気持ちいいのか?」
「やられた方は前立腺ってとこ弄ると、目ん玉飛び出るくらい気持ちいいらしいぜ」
そのセリフとともに、ヒカルの中に指を一本挿入される。
ヒカルは思わず暴れるが、両足首を押さえつけられ、動けなくなる。
指を一旦抜くと、体を反転させられ、うつ伏せの体勢にさせる。
床が埃っぽくて、涙がじわと溢れた。
乱暴に指を突き入れられ、探るように中を掻き回す。
「前立腺ってどこだよ」
「わかんねえよ。探せって」
「うっ、う…んんっ」
痛みに声を堪える。
ヒカルは抵抗できない自分が悔しくて悔しくて堪らなかった。
暫く顔を伏せ耐えていたが、突然電撃が走るような快感が走り、体がびくりと跳ねる。
男達は顔を見合わせると、にやりと笑い、先ほどのポイントを探し当てるように動く。
そこを集中的に狙うと、ヒカルは全身に衝撃を受けたかのように体を跳ねさせ、甘い声を発した。
「あっ、ああ、いやっ、うっあ、あん、やあっ」
「いい声で啼くじゃねえか」
「やべ、俺も勃ってきた」
「進藤ってこんなにエロかったんだな」
「なあ、もういれようぜ。我慢できねえよ」
なにを入れるかは、男が下半身を曝け出したことで一目瞭然だった。

つづく

30 : ◆FvK.L8.adE :2014/09/30(火) 03:32:48.81 ID:???
おじさんとヒカルたんの絡みばっか書いてたので
たまには若い精気もヒカルたんには必要だなとおもったんだ(※若゛は除く)
ただそれだけだ…(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

31 :名無しさん@ピンキー:2014/09/30(火) 11:36:09.19 ID:???
同級生にマワされるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
処女なの?このヒカルたん処女なの?ぐへへへ(;´Д`)ハァハァ

輪舞曲たんのレスのせいで
「っか────!やっぱ若いヤツの精液はたまんねーなー!ぷはぁ」
ってなオヤジ風ヒカルたんが脳裏に浮かんだ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

今更だがスレタイが69…えっちなヒカルたんにぴったりだよ(;´Д`)ハァハァ

32 :名無しさん@ピンキー:2014/09/30(火) 12:19:06.09 ID:???
処女なのにお尻で感じちゃうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

ヒカルたん、69をしよう。
え、69が何かわからないって?
そこのベッドに横になってくれたらおじさんが教えてあげるからね(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

33 : ◆FvK.L8.adE :2014/09/30(火) 12:42:35.33 ID:???
読み返したら誤字が…
ああっ、ヒカルたん、お仕置きは、お仕置きだけは…っ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
とりま、>>28の「男として不当な評価をさせている」→「男として不当な評価をされている」

このヒカルたんは処女でお付き合いもキスもしたことのなかった初心っ子ヒカルたんでつ(;´Д`)ハァハァ
未開発ヒカルたんを虐めてい…あっ、ヒカルたんいたんだねいや違うんだよヒカルたん待ってヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

34 :名無しさん@ピンキー:2014/09/30(火) 18:29:11.03 ID:???
若゛「完全純潔だと!(ガタッ)許せんちょっと葉瀬中行ってくる(ダッ)」

35 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/01(水) 00:40:18.63 ID:???
「痛っつ……でも、意外だな」
脈絡なく続く言葉に、相手は首を小さく傾げた。
「何が?」
「天才ってヤツは壊滅的なまでに教え下手ってのが相場です。理詰めじゃなくて感覚だから、相手に
伝えられないってね」
「はあ。で、それが?」
とぼけているのか、それとも本当にピンと来ていないのか。顔を見る限り後者だ。
「丁寧で分かり易いうえに、事前に院生師範から指導する相手の情報を仕入れるほどマメな先生って
そういませんよ」
そこまで聞いて、やっと自分の話だと理解したらしい。
「言ったろ。用事のついでだって。でもってオレのこと言ってんなら、残念だけど天才でも何でもな
いから」
「新入段から四年で七大タイトルに手が届きそうだった人が、ご謙遜ですね」
「……頑張れば頑張るほどドツボにハマるタイプなんだよ実際は。全然だよオレなんか」
自嘲する科白とともに長い睫が伏せられて、快活な表情に少し陰を差す。
自己評価が低いのか。てっきり逆だと思っていた。
「そのドツボからどうやって脱出してるんです?」
「もっと、頑張るのさ。それだけ」
地頭の良さにかまけて努力しないヤツは論外ですか。婉曲にディスってきやがる。
「相当痛そうだな、頭。これ以上は無理そうだ」
話を長引かせて検討の再開を先延ばしにしようとしていると解釈したらしい。指導しても無駄だと判
断されてしまったか。図星だから仕方がない。幽霊が帰らせるな続きをやれとジタバタしているがス
ルーだ。
さほど碁に真剣なわけじゃない。それで食いたいという目標は持ってないし、他のことで既に収入を
得ている。たまたま誘われて、筋がいいと褒められて、ちょっと身を入れてやってみたら院生になれ
てしまっただけで。
頭痛を押してまで指導の続きを請うほど思い入れはない。
「んー……あのさ。院生研修の他に、研究会とか行ってる?特定の師匠いないって聞いたけど」
「いいえ」
院生になってからは、プロの指導碁を受ける頻度もめっきり減ってしまっている。除籍にならない程
度の実力をキープできれば充分だからだ。学校に行かずとも、将来性のありそうな習い事をしていれ
ば親がちょっとは安心する。そんなくだらない理由。
幽霊の弟子だった男は、腕時計をちらっと見る。細い手首には少々ごつすぎるダイバーズウォッチ。
TPOを弁えているようで、こういう所の詰めが甘い。
「ちょっと待ってて」
今度は上着の内ポケットから携帯を取り出し、どこかに連絡をしようとしている。何なんだ一体。
「あー和谷ぁ?今時間いい?ひとり、十四年会に誘いたいんだけどいいかな……ああ、うん。違う、
院生。どーも、研修だけじゃヌルいみたいなんだけど、どこの研究会にも行ってないってゆーから。
どーかなーと思って」
通話が始まった途端、スイッチが切り替わったみたいにノリが軽くなる。人間誰しもそんなものなん
だろうが。
研究会と聞いて、行きたい行くんだ行くと言え、と幽霊が強制してくる。そうだよな。碁への妄執の
塊ならそうくるよな。
十四年会は若手プロばかりで立ち上げた研究会だ。名前は知っている。院生を受け入れ始めたのは最
近。進藤を筆頭に、門脇や伊角、越智といったネームバリューに釣られて参加したはいいが、ハード
モードすぎて脱落する院生が後を絶たないという。
そんなところに人を放り込もうってか。真っ平ごめんと断りたいが……そんなことをしたら夜通し吐
きまくりコース確定だ。忌々しい幽霊のせいで。
「ま、一回だけでも来てみたら?次の土曜ならオレいるし、指導の仕切り直しできるぜ」

36 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/01(水) 00:40:50.57 ID:???
こっちの頭痛に配慮してくれたというわけか。だけど生憎、この頭痛はあんたが近くにいると余計に
悪くなるんだ。親切のつもりが仇になってることに……まあ普通は気づかないか。

はからずも師匠と弟子の絶妙なコンビネーションで、十四年会への参加がほぼ問答無用で決まってし
まった。本人達が無自覚なのが、また悪質だ。

百聞は一見にナントカ、とは良く言ったもので、あのエンドレスな泣き声と実際に見た進藤との共通
点が少し浮き彫りになった気がする。
実績とイメージに見合わない自己卑下は、恐らく師匠を失ったトラウマを引きずっているせい。
六年熟成モノだから相当キてるはず。秀策フリークなのも、どうやら罪滅ぼし的な意味合いが強い。
幽霊に名義貸しして全部打たせようが、無視して自分が全部打とうが、憑かれた本人の勝手だと思う
のだが。
『では、あなたならどうしますか』
「迷わず、あんたとサヨナラできる方法を日々模索しますよ」
院生になって、もう三年目。今更、碁に夢など抱く可能性はゼロだ。
秀策のように幽霊に名義貸しする気も、進藤のように幽霊を師匠にする気もない。
おまえと縁が切れるまでは、体にダメージが少ない方がいいに決まっているから付き合ってやるまで
だ。さっさと次の憑坐を探せ。
『……ヒカルの時も、何故こんな子の元に蘇ったのだろうと嘆いたものです』
「ちゃんと結果が出てよかったじゃないですか。でもボクには期待しないで下さいよ」
『ですから……あなたにも、きっと何かがあるはずなんです』
「今回は大ハズレ。二度あることが三度もなくて済みませんね……で、久々の再会、ご感想は」
さっきまで饒舌だった幽霊の口が、やけに重くなった。折角会わせてやったのに。
『私は……恥知らずです』
幽霊はそれ以上を語らない。まあ、どうでもいい。

※※※

十四年会の会合は、主宰である和谷四段の自宅で行われる。最初はボロアパートの一室だったが、回
を重ねるうちに騒音問題が勃発。隣や階下の住人とモメて、広めのワンルームマンションに越すこと
になったのだとか。
「それにしても凄いな、進藤さん直々の推薦だなんて普通ないよ」
隣を歩く院生が羨ましげに話しかける。知らない場所にいきなり一人で行くのは抵抗があるんじゃな
いか、と院生研修日に顔を合わせた際に同行を申し出てくれたのだ。一人だろうが何だろうが全く気
にならないのだが、善意を突っぱねると後々面倒だ。
「大袈裟だって。ボクの体調不良で指導碁が切り上げになったから振り替えてくれただけ」
「あれで面倒見のいい人だからなあ。でもさ、何で進藤さんに指導碁頼んだの」
棋士のスケジュールなど斟酌する気もない一般人じゃあるまいし、か。そうだろ?
「……ちょっとした興味」
相手はその返事にむっとした顔を見せる。チャランポランな人間を嫌う、典型的マジメ君だ。
院生になれたはいいが、努力で才能のなさを補えないまま数年。プロ試験に落ち続け、ズルズル未練
を引きずっている。北斗杯に出るという目標は立派だけど、タイムリミットまであと二年だ。こいつ
は多分、プロになる前に北斗杯の年齢制限に引っかかる。諦めて高校生活を満喫すればいいのに。
目的地が近づくにつれ、頭の中で泣き声のボリュームが増幅される。進藤はもう来ているということ
だ。
ロキソニンでは間に合わず、メフェナム酸のカプセルまで調達して普段は頭痛を抑えているが、共鳴
の元凶との距離が縮まれば焼け石に水というわけか。くそ。
幽霊と泣き声が封印されていた秀策の忌まわしき棋譜を返却しても、現状は変わらなかった。
歩きながら、本来は頓服にしか使ってはいけない薬を鞄から取り出してペットボトルの水で飲み下す。
ないよりはマシだ。

37 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/01(水) 00:41:21.70 ID:???
目的の部屋のドアを開けるなり、ぐわん、という衝撃が頭を襲う。脂汗が背中を伝う。
脳内での泣き声の増幅とともに、外部から怒号のおまけ付きだった。
何かが碁盤を叩く、カン!という音が耳を刺す。
「だぁから!何でココ!気づかないんだっつの!」
「これからトラップ仕掛けますよってあからさまなのは判ってんだよ!けどそれが落とし穴かトラバ
サミか地雷かまで読めるかよ!」
「それが言い訳かよダッセェな和谷。何仕掛けるかわかんねーから右辺ズタボロ放置でもいーってか
?あ?」
「そっち守りに行ったらこっち潰しに来るだろーが!」
「行くに決まってんだろ潰して下さいって看板立ってんだから!」
カンカンカン!強く碁盤を叩いているのは真っ直ぐ立てられた扇子の先端だった。
口汚い罵り合いを、ここでは検討と呼ぶらしい。
聞いている限りでは進藤が一方的に和谷をやり込めているようだが。
「よお、岡。そいつ?進藤が言ってたの」
喧騒から少し離れた場所で、碁盤を挟んで対峙していた二人のうち一人が声を掛けてくる。
「ちわす小宮さん。そうです」
「どうも」
「まあ楽にしてなよ。飲み物とかお菓子とかはセルフ。その辺の勝手に飲み食いしていいから」
「……はあ」
気乗りしない返事を、向こうの罵り合いにビビったと勘違いしたのか。小宮……プロだっけ?はフォ
ローするように笑った。
「あー和谷と進藤のアレな。ここじゃ通常運転だから気にすんな。終わったらケロッとしてんだから
アイツら」
そういうもんなのか。
「そうか、進藤に用事だったな。おーい、例の院生、来たぞ」
「だからなんでそこノビ……っと、あ、ごめん待たせた?」
猛禽の目で盤面を睨んでいたのが、一瞬で柔和なものに変わる。意識をこちらに向けられたせいか、
脳内の泣き声とのハウリングが一層凶悪なものになる。
空軍基地の間近で引っ切り無しの爆音に曝されるのと、どちらがマシだろう。
一時間も経っていないが、鞄の中の薬に手が伸びる。それを見た進藤の表情が気遣わしげなものにな
る。
「……体調、良くなってなかったんだな。もうちょっと後の方がよかった?」
いや、いつあんたに会っても多分一緒だから。
「え、何、病み上がり?岡、研修日に聞いてなかったのかよ」
恐らくこちらもプロなのだろう、小宮の対面にいた男が口を挟む。
「いえ、ボクもよく知らなくて……そうなんだ?」
「ここ何日か頭痛なんです。今は大したことないんで気にしないで下さい」

ギャラリーに囲まれて指導を受けるのは落ち着かない。十四年会の連中は、遠慮会釈なく検討に割り
込んでくる。ヌルいだの甘いだのラクをしてるだの全体的に緩んでるだの、言いたい放題だ。
「刺激が足りなくて退屈してるって碁に出ちゃってる感じかなあ。進藤がここ来いって誘った理由、
それだろ」
和谷が結構鋭いところを突いてくる。
「んー、ま、そんなとこ。向き不向きがきっぱり分かれてる研究会だから、合ってないと思ったら挨
拶ナシで抜けていいしね」
「確かに、ウチは出入り激しいからそういう後腐れはないわな……よし、リーグ表に名前、追加しと
くから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
形だけ頭を下げる。どうせ、幽霊の機嫌取り以上の意味はない。

38 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/01(水) 00:41:53.52 ID:???
「おまえ、悠長に指導なんかやってて大丈夫なのか?本因坊戦までもうひと月ないだろ」
付箋に新会員の名前を書いてPCのモニター脇に貼り付けた和谷が話を変えた。
幽霊はそれを聞き逃さない。思う所があるのか、どことなく感慨深げに見える。
「だからこそ、ってのもあるよ。ピリピリしっぱなしは逆に良くない」
「ならいいけど。初戦は白浜だっけ?緊張ほぐすんなら前泊してパンダ見てこいよ」
「パンダ?上野以外にいねーだろ」
「白浜には日本が誇るパンダ生産工場があるぞ。中国へ輸出してるくらいだからな」
「アハハ、うっそでー。オレがモノ知らずだからってデタラメ言ってんじゃねーや」
気の置けない友人だからこそ、冗談の応酬も罵り合いの検討もできるってわけか。そういえば新入段
も同期だっけ。
「第一局って来月の十・十一でしたっけ。若獅子戦見に来て欲しいけど次の日じゃ無理ですよね」
岡が話を振る。
「岡ァ、いつまで院生側で若獅子戦出るつもりだ?庄司に先越されて悔しくないのか」
和谷に茶々を入れられ、岡は見るからに不機嫌な顔になる。
庄司というのは今年の新初段だ。去年まで院生研修で一緒だったから知っている。岡と違って十四年
会には参加していない。
「院生一位枠には毎年漏れる、外来と一緒に試験受けても毎年落ちる。焦ってますよ」
高い目標と、それに手の届かない現実か。
「オレの時には院生一位枠なんてなかったからなァ。今はチャンス多くて羨ましいよ」
「試験の改正がもっと早かったら、伊角さん苦労しなくて済んだよな、ハハ」
「シャレになってないから笑うな和谷!」
この空気。慣れ合いで出来上がってしまっている人間関係に平気で斬り込んでいける図太さがないと
疎外感に潰される。フランクなようで排他的。正直、無理して付き合いたくはない。
しかしバックレたら幽霊の恨み事と、それに伴うリバースが漏れなくついてくる。そっちの方がキツ
い。
岡の他にも、小学生の院生が若獅子戦を観戦しに来いと進藤にせがんでいる。
そしてもう一人。
おい幽霊。南紀白浜がどこなのか知ってて無茶言ってるのか。本因坊戦第一局が終わって、翌日の朝
イチにチェックアウトしても鉄道じゃ無理ゲーだぞ。飛行機で二回戦に間に合うかどうかだ。いや、
そもそも間に合うような時間の便があるかどうか怪しい。
『白良浜、牟婁の湯でしょう?歴代の大君が行幸あそばした。有間皇子終焉の地です。宮中に出仕し
ていた私にとって常識です』
万葉集がどうの日本書紀がどうのとごちゃごちゃうるさい。だからといって電車で何時間かかるか把
握できてないのを帳消しにできるかよ。

39 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/01(水) 00:42:24.84 ID:???
このSSは、時系列スイッチバック方式でお送りしております。
箱根登山鉄道と同じだよ!ちゃんと終点まで行くよ!(超言い訳)

というわけでまだ元気な20歳ヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

40 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 01:39:00.22 ID:???
こっから急降下するのか…
元気なヒカルたんを見てると涙が出てくるぜ…(;´Д`)ハァハァおっと涎が

41 : 【だん吉】 :2014/10/01(水) 13:14:23.41 ID:???
俺とヒカルたんのこれからの愛のゆくえ

42 : 【大吉】 :2014/10/01(水) 13:16:16.52 ID:???
むがー!大吉と幼妻ヒカルたん来い!

43 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 13:35:48.36 ID:???
幼妻ヒカルたんといえば、「あいさいべんとうだぜ!」って言いながら
弁当箱の中にインスタント麺いれてきそうだな、かわいいぜ…(;´Д`)ハァハァ

44 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 13:43:37.41 ID:???
「きょうはがんばったぜ!」と差し出された弁当箱の中には白米と生卵。
ヒカルたん…生は危な…エッ食べないわけないよ!
喜んでいただきます!(;´Д`)ハァハァ

45 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 14:01:32.03 ID:???
ナマは

46 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 14:02:07.31 ID:???
途中で送っちったorz
ナマは危ない(意味深

47 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 19:14:42.25 ID:???
幼妻ヒカルたんも夜は妖艶ヒカルたんにレベルアップするのだ(;´Д`)ハァハァ

ナマ(意味深)は俺も少し考えた、すまん

48 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 19:41:58.92 ID:???
俺はどっちかっつーと夜もおぼこい方が…(;´Д`)ハァハァ
こう、初々しい反応と恥じらう表情に対して、感度のいいお肌(;´Д`)ハァハァ
このギャップが犯罪臭くてたまらんわい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

俺んとこにお嫁においでヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

49 :名無しさん@ピンキー:2014/10/01(水) 20:05:40.45 ID:???
ちっこいおくちでたどたどしく俺のをくわえてくれるのか…(;´Д`)ハァハァ
確かにおぼこいヒカルたんは素晴らしい…素晴らしく扇情的だ…(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

ヒカルたんは渡さん

50 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 02:01:54.87 ID:???
※※※
態々慣れない場所まで足を伸ばしたのいうのに、ボクへの指導碁以外に弟子が打つのを見られなかっ
たおかげで幽霊はご立腹だった。
うだうだ文句を垂れるな。持ってたメフェナム酸をあっという間に消費してしまって、頭痛を誤魔化
せなくなったんだ。
和谷の家を出て進藤と距離が取れるほどに凶悪なハウリングは小さくなり、泣き声のボリュームも体
感的にほんの僅かだけ下がる。
思考を言語にして相手に伝えるには、口に出すのが圧倒的に容易い。
しかし如何せん、人目のある往来でそれをやるとアブナイ中学生いっちょ上がりだ。
脳内で思考を未整理と整理済みに分け、後者を文法に沿った形に整える。頭痛に唸りながらなので余
計に面倒だ。
(あんた、進藤といた頃は『虎次郎と比べるな』ってウザがられてたでしょ)
『……どうしてわかるんですか』
ぶすくれた声音。わからいでか。
(一から十まで。碁だけじゃなくて人間性から何から全部。前の憑坐と比較して今の憑坐を腐す悪癖
がね、あんたにはあるんですよ)
『あなたと虎次郎を比較した事なんてないでしょうに』
(ええないですね。虎次郎とはね)
恐らくこいつは、進藤といた時は虎次郎虎次郎と鬱陶しかった。
今、ヒカルヒカルと鬱陶しいように。
この調子で四六時中じゃあ精神汚染もされるわ。洗脳と言い換えても構わないけど。
それで碁打ちとして形になればまだマシだ。新入段早々こいつにトンズラされた進藤がモノになった
のって奇跡じゃないのか?実は師匠が打ってましたってなイカサマ疑惑が晴れたのだけがプラス要素
か。
(奇跡の大安売りは値崩れの元です。だからボクには何も期待しないで頂けます?)
『あなたに体を貸せとも、プロになれとも強制しません……十四のヒカルが、あなたの中で泣き止ま
ないのですから』
まだ大人の体でない少年に負担をかけるのは本意ではない、と幽霊曰く。
『けれど知りたいのです。あの子は今もなお泣いている。どうすれば泣き止むのか、それを』
(知って、それからどうするんです?)
幽霊は答えに窮する。
(ボクを介して『泣かないで』って慰める?マヌケでしかないな)
真っ先に思いついたであろう具体案を潰してやる。ざまあ。

幽霊に体を貸して打たせてやる気など、さらさら無かった。
そう。あの日までは。

昔は院生上位十六人に出場資格があったらしいが、院生のクラス編成が変わったのに加えて出場資格
を満たす若手プロが減ったとかの理由で、Aクラス全員、しめて十人が若獅子戦に出る。
事前に組み合わせ表を貰っていたから、自分がどのプロ棋士と当たるかは判っている。
一回戦の相手は越智四段。数回通った十四年会で顔を合わせたが、ろくに会話もしていない。院生に
構わない主義なんだそうで。六段・七段昇進のチャンスを悉く塔矢だの進藤だのに潰されてギスって
るんだとか。おーコワ。早々に負けておこう。
思った通り、投了したら「やる気のない院生と打つ以上の時間のムダはない」との仰せ。

51 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 02:02:29.74 ID:???
「キミさ、あの研究会に来てもイミないよ。誘った進藤の目が節穴なんだ」
全くもって同感です。
でも行かないと霊障があるので目障りなのはご容赦を。
一回戦でプロに勝つ院生は毎年ごく少数。今年もご同様で、成績一位のヤツだけが残った。
昼休みを挟んで二回戦だ。相変わらず脳内の泣き声はループで頭痛は酷いし出番は無くなったしで、
もう帰りたかった。
「っあ……!」
不意打ちの激痛と背筋が寒くなるハウリング。思わず声が出てしまった。幸い、誰も聞きとがめない。
おいちょっと待て。今はまだ東京へ帰ってる道中のはずだろ?
ばたばたと慌ただしい足音がふたつ近づいてくる。観戦に来ていた十四年会の誰かが声を掛ける。
「おーおーホントに来やがった!いつ帰ったんだよ」
「昨日。やー、うまいこと現地から飛行機に乗れてさぁ。行きに比べたら天国だったー」
昨日の本因坊戦第一局二日目、タイトルホルダー桑原が早々と投了したとはいえ。
ハードスケジュールにも拘わらず院生のおねだりを叶えてやるとはご苦労さんなことだ。
「相変わらずホテルが苦手で、取材陣置き去りにして逃げてきちゃったんだそうですよ」
「塔矢うるさい黙れ」
……で、どうしてロン毛、もとい塔矢アキラまでここにいる?
同じ疑問を何人もが持ったみたいだ。
「ちゃんと一回戦に間に合わせたかったんだけどさ、塔矢んちで三時くらいまで昨日一昨日の検討し
てたら四時過ぎになっちゃって。起きたら十時回ってて焦ったァ」
昨日の午後まで二日がかりの対局、終わったら速攻、空路東京へ。帰宅して休む間もなく塔矢の家で
夜通し検討。ゆっくり寛ぐ間もなくここへ。タフさに呆れる。
「ウチで着替える暇がよくあったな」
突っ込む本田(やっと覚えた)に、苦笑しながら進藤は答える。
「いや、まだウチには帰ってない。ちょくちょく徹夜で打ったりするからさ、コイツんちに少し着替
え置いてんだよね」
いつものストカジ。無地Tの上に羽織った柄シャツとジーンズ。
「んじゃあ、スーツ塔矢んとこ置きっぱなしかよ」
「近いうちに取りに行くさ……ふぁあ」
呑気な大欠伸。若獅子戦の出場者に紛れても違和感ないタイトル挑戦者は、いかにも眠そうだった。
六年前の残留思念が悪さするせいで痛くて痛くてたまらない頭と交換してやりたい。この泣き声おま
えのだろ、持って帰れ。
「やっぱり無理して来なくてもよかったんじゃ……」
仰る通りです塔矢八段。この迷惑なヤツを連れて、出てってくれませんか。
「でもさー、高校生はともかく小学生のガキに『出るから見に来て!』って言われちゃうと弱いよ」
「ボクは対象外なんですか」
「何だよ岡、でかい図体してスネんなよ。で、勝った?」
「負けです」
距離に比例して症状が悪化するのだから、進藤には近寄りたくない。けれど幽霊がそれを許さない。
正確には、幽霊がマイナスの感情を発露させるから否応なしに胃袋に来る。
なので、十四年会のメンバーですという顔をして、近くにいることを余儀なくされる。
「あーあ、北斗杯の代表相手じゃ分が悪いですよ」
岡のぼやきが続いている。
「おいおい、その代表になりたいってヤツが弱気でどうするんだよ……っと、おまえは?」
こっちに振るなよ進藤。おまえに意識を向けられたら頭痛が倍になるんだ。
「ボクも負けです。越智さんでした」

52 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 02:03:01.47 ID:???
「ったく、一人くらい勝ってくんなきゃウチの名折れだぞ」
「そう言う和谷は院生の頃全敗だったんだろ」
「テメーだって一回戦負けとプロんなってから不戦敗じゃねーか」
口にしてしまってから、和谷は渋面を作った。触れてはいけないネタだったようだ。
ゴールデンウィークの終わりに幽霊が進藤の元から逐電して間もない時期か。
謎のサボタージュ期間。空白の二ヶ月半。
有名税だとばかり、頻繁にほじくり返される過去。
その度に進藤は曖昧な言葉と曖昧な笑い顔で誤魔化す。その繰り返し。
幽霊がまた泣きそうになっている。吐き気でわかる。勘弁してくれよ。

二回戦が終わり、皆が退室し始めているというのに。
折角来てくれたのだから今日打った碁を進藤や塔矢に見て欲しいと院生が何人か願い出てきた。
片付けの都合があるので短めに頼むと篠田師範の許可も出た。
手っ取り早く希望者から一名をジャンケンで決める。勝った小学生が無邪気にはしゃぐ。
研究会に来ても、進藤は多忙なためいないことが多い。たまに来たら来たで実力派のプロとばかり丁
々発止で構ってもらえない。十四年会に参加していても滅多にないチャンスなのだ。
どっちに見て欲しいとの問いに、小学生は欲張りにも両方と答えて周囲の笑いを誘う。
疲れているだろうからと塔矢が進藤に椅子を譲り、その後ろに立つ形で公開指導が始まった。

異変に気づいたのは幽霊だった。悪感情が逆巻くのを、胃袋が察知してひっくり返ろうとする。
取り立てておかしな事は起きていない。しかし、胃の不快感と一緒にちりちりと肌を刺すような感覚
まで襲ってくる。こんなのは初めてだ。
他者には見えない幽霊を見やる。花のかんばせが歪み、唇がわなないている。一目で、とてつもなく
怒っていると判る。
(何なんですかもう、この場で吐きそうなんでちょっと自重して下さいよ)
ここで喋るのはヤバいので、脳内で語りかける。
『……無理です。抑えられません』
幽霊が視線を向ける先は、当然ながらかつての愛弟子。自動的に視界に入る、そのライバル。
「あ」
思考が形をなす前に、手が動いていた。
対局中は電源を切っていた携帯電話をズボンのポケットから出す。
必要な機能は……録画だった。

喜べ、幽霊。
進藤におまえの存在を教えてやってもいいぞ。

53 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 02:03:45.22 ID:???
SM診断でドS判定もらってしまった盆回しでつ知ってたよ俺がドSだって知ってた
次から俺だけ得の展開になります
精神的にいたぶられるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

若獅子戦モデルの鳳雛戦は2000年で終了してるので、出れる院生の人数とかは適当でつ
同じ理由で、日程も本因坊戦(こっちは日程も場所もリアル準拠)と続きになるよう
俺的都合で勝手に決めたでつ
原作が2002年も若獅子戦やったんだから構わないよねっ!(汚じさんがキャピ☆

54 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 03:16:42.97 ID:???
盆たん得なら俺得でもある(;´Д`)ハァハァ
佐為はヒカルたんが凌辱されてるところを見てたのかと思うと…興奮する(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

55 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 04:44:10.34 ID:???
ヒカルたんが囲碁の普及のために枕営業をしている夢を見た(;´Д`)ハァハァ
なぜ途中で目が覚めてしまったんだ俺…
二度寝して俺も参戦してくるよ、待っててねヒカルたん!(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

56 :幼妻ヒカルたん:2014/10/02(木) 12:51:48.03 ID:???
幼妻ヒカルたんの今日の愛妻弁当は?
ヒカルたん「わりい、ねぼうしちまってちゃんとしたものつくれなかった」
なんと、今日は日の丸弁当だ!
今までの中で一番まとゲホゲホッ
ありがとうヒカルたん!愛してるよヒカルたん!

57 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 12:56:35.17 ID:???
枕営業ヒカルたんだと…(;´Д`)ハァハァ
ぜひ俺の家にもきておくれヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

58 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 12:56:37.10 ID:???
「ごはんくらいたけるもんねっ!えっへん!」
と胸を張るちっさい姿が鮮明に浮かんだ(;´Д`)ハァハァ
かわいいかわいいよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

だから俺のところにお嫁においでヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
レトルトのハンバーグとかカニカマとかに使える予算は潤沢だよ(;´Д`)ハァハァ
寝過ごしても大丈夫だよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

59 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 13:23:13.96 ID:???
>>57
是非、現在の28歳エロエロな熟練の閨房術でお願いしたい……
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

60 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 13:30:36.06 ID:???
枕営業ヒカルたんの熟練の技…(;´Д`)ハァハァ
複数だろうとSMプレイだろうとお望みのまま!
ボンテージヒカルたんに鞭で打たれたい所存(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

61 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 13:33:49.94 ID:???
ボンテージヒカルたんに鞭打たれ、自分がSポジだと思ってるヒカルたんを突然押し倒して虐めまくりたい所存であります!(;´Д`)ハァハァ

62 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 13:43:54.84 ID:???
押し倒された熟練ヒカルたん「計算通り…!(ニヤリ」どこの新世界の神だ(;´Д`)ハァハァ
形勢逆転されて熟れきったエロボディに俺が鼻息フンスッってなるのも
ヒカルたんの手の内…!(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

63 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 15:11:52.15 ID:???
ひ…ヒカルたん!やっぱり君がナンバーワンだよ!(;´Д`)ハァハァ
あんまり虐めんなよ…って涙目で見上げられてひひひひヒカルたぁん!!(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

64 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 15:16:42.78 ID:???
だがそれもヒカルたんの手の内である…

65 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 21:10:44.30 ID:???
魔性のヒカルたん…

66 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 21:18:52.13 ID:???
※※※
その時、腹の底から湧き上がったのは。
汚穢に塗れた、おぞましきもの。

────愛し子を奪われたことへの黒々とした憎悪。

我が裡に宿りし罪の深さに、慄然とする。

※※※
「今日、これからお時間頂いてよろしいですか」
七月初め。
十四年会の集まりがお開きになろうとする頃合いに、少年は遠慮がちな様子でヒカルに声を掛けた。
院生研修だけで変化のない環境が上達の妨げになっていると考えてここに誘ったはいいが、どうやら馴
染めずにいるようなのは気の毒だった。
余計なお世話だったのかも知れない。
孤独が苦にならず、会合の参加者と積極的に交流を持たないことについては何人かから指摘を受けてい
た。
向上心には欠けるが、概ね越智と似たタイプだろうから心配いらないと高を括ったのがいけなかったか。
指導碁で一度だけ彼の家を訪問した時や、ここでのいつもの様子とは違うしおらしい態度。
ヒカルは退会の相談だろうと判じた。
本来なら、退会の話は主宰の和谷にするのが筋だ。
しかし、乗り気でなさそうだったのを半ば無理に参加させた責任を感じる。
合わないと思いながらも二ヶ月以上辛抱して通ってくれたのは、ヒカルの顔を立てる気持ちがあったた
めだとしたら。
相談に乗るのは当然だと思った。
「ああ、いいよ。ここで話しにくいことなら場所変えようか?」
少年はありがとうございます、と小さく頭を下げた。

単に退会だけというわけではないらしい。
少年が「自宅で」と申し出たので、そんな表面的な話ではなくもっと深刻な悩みなのかと心配になる。
そう言えば、初対面からずっと酷い頭痛を抱えているようだった。
それが原因で、碁そのものを辞めようかと思いつめている可能性もある。
つい、同じ歳だった頃の我が身に重ねあわせてしまう。
魂を切り裂かれるような当時の痛みが蘇り、握った拳に爪を食い込ませて紛らわす。
「っと。こんな服で行ってウチの人、何か言わないかな」
行くのは二度目なのでスーツでなくともいいだろうが、流石にいつものこの格好ではラフ過ぎる。
「住んでるのはボクだけですから、お気になさらず」
「え」
言われて、慌てて前回訪問時を思い出す。
間取りはワンルーム、あるいは1K。和谷のマンションより遥かに広い部屋。
家族の匂いがしない、白い空間。

67 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 21:19:24.81 ID:???
「……親、どうしたの」
少年は時折、痛そうに片手で頭を押さえている。親はこんな状態の我が子を放置しているのか。
かすかな怒りが湧く。
「その頭痛、病院で診てもらってるのか?」
「どっちの質問に答えたらいいですか」
電車で向かうつもりだったが、自分がついているならタクシーを拾った方がいいのかも、とヒカルは歩
きながら周囲を見渡して空車を探す。まだ大通りには出ていない。こんな細い道に都合よく空車が走っ
ているわけがなかった。
「両親はどちらも仕事で忙しくて。今の生活状態は合意の上です」
「中学出てプロになってからならそれでもいいと思うけど……ぁ、その」
他人の家庭の事情に、師匠でもない者が口出しするのは僭越だという気持ちが、その先を続けさせない。
「それと。この頭痛は医者では治りません。原因ははっきりしてますが、取り除く方法が見つからない
んです」
その言葉から連想されるのは、末期の脳腫瘍か何かで手遅れだという最悪の事態。
表情からヒカルの浅い想像を読み取ったのか、少年は重篤な病気であることを否定した。
「あなたにも覚えがないですか?何の病気でもないのに、授業中に盛大に吐いたこととか」
ある。
それは今となっては懐かしい記憶だ。
あんなぞんざいな扱いなどしなければよかった、もっと意志を汲んでやればよかった。痛みを伴う後悔
もセットでついてくる。

たった一人で住んでいると聞かされたせいか、広々とした白い部屋は夏だというのに寒々しさすら感じ
た。冷房がかけっぱなしだったことを差し引いてもだ。
涼しいのではなく、寒い。体は『これで適温だ』と言っているのに。
指導碁の時に座ったソファーを再度勧められて座る。ガラステーブルを挟んで対面に座った少年が、PC
から出力したらしいA4用紙をヒカルに差し出した。棋譜だ。
「これ、見たことありませんか」
白優勢ではあるが、黒が投了するにはまだまだ早い碁だ。明らかに途中。
圧倒的な実力差を持つ二者による一局。白が手加減しているのが見える。
黒も素人ではない。プロの二段、三段あたりか。
見え見えの悪手で白を釣ろうとして失敗した形跡。
これは。
「……これを、どこで」
棋譜を持つ両手が小刻みに震える。
「覚えてたみたいですね。舟を漕ぎながら打ってたって話だから期待してなかったんだけど」
顔を上げたヒカルの頬から、血の気が引いている。
「どこで」
問いかけは掠れて声にならない。悲鳴のようにさえ聞こえる。
「本因坊戦が決着するまで、一応気を遣って待ったんですよ?ダメージ食らったせいで獲れなかったと
か詰られたくなかったんで」

68 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 21:19:55.71 ID:???
「どこでと訊いてる!」
少年は頭痛を堪えるような表情のまま、口の端だけを吊り上げて嗤う。
「その答え。これから一局打てばわかりますよ。選択肢は預けますからご自由にどうぞ、本因坊」
悪夢なら早く醒めて欲しい。
誰かに体を揺すって起こして欲しい。
六年間、ずっと消えなかった恐怖感。
それでも、確かめずにはいられない。ヒカルは促されるまま碁笥に手を伸ばす。

捨てられたのではないか。
見限られたのではないか。
おまえは無価値だったと断じられたのではないか。

一手、打つたびに。思い知らされる。
おまえには高みを目指す資格などないのだと。
本因坊の座など釣り合わぬと。
六年の研鑽を積んでこれなのかと。

ゆえに、おまえではなかったのだと。
おまえに宿ったのは間違いであったと。

「はっ、はっ、は……」
いくら空気を吸っても酸素が取り込めない。肩を大きく動かして、肺を膨らませているのに。
顔も体も、冷汗でぐっしょり濡れている。
「あり……ま、せん……」
投了の宣言を、辛うじて絞りだす。
「タイトルホルダーから互先で一勝というのは、悪くないですね」
どんな侮辱を浴びせられても、それは受け止めるべき自分の咎。
打つのを許されぬ身となりながら、欺瞞で己を甘やかし、打ち手であり続けたことへの。
「お師匠様から、有り難いお言葉です」
少年の口を借りて、どんな死刑宣告が紡がれるのか。中身などどうでもいい。
断罪されること、それだけが唯一。

「出来の悪い秀策の劣化コピー。いくら必死に成り代わろうと頑張っても無駄。あんたの変な癖がどう
しても出てしまって台無し。秀策を現代に蘇らせて更に成長させるって縛りプレイはみっともない」

そうだよ。その通りだよ。
だって、それくらいしか思いつかなかったんだ。
オレが碁を続けていい理由。
ごめん。ごめんな。ごめんなさい。

69 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/02(木) 21:20:29.55 ID:???
俺のS心が全開だ胸がときめくぜ!ものすごく需要がニッチだけどな!

エロ展開!と思ったのに…遠かったよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
もしかしたら草木も眠る丑三つ時あたりに再投下するかもでつ
それほどまでにエロ展開が恋しかったのか俺!
ああそうですとも!

70 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 21:30:27.76 ID:???
ここから急☆降☆下がくるのか(;´Д`)ハァハァ
また丑三つ時に来るぜ!

71 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 21:52:53.69 ID:???
こそっと続き投下

72 :補習 ◆FvK.L8.adE :2014/10/02(木) 21:53:36.92 ID:???
指の数を増やし、二本の指がヒカルの中で蠢く。
「まだやべえって。フェラでもしとけよ」
「しょうがねえなあ」
文句を言いつつ、ヒカルの前髪を掴み顔をあげさせた男はにやにやと嬉しそうだ。
今度こそ口を開けてなるものかと歯を食いしばったが、ぐりと二本の指が前立腺を挟むように刺激され、ヒカルは悲鳴をあげると同時に口に男の熱を突っ込まれた。
まるで口が性器のように出し入れを繰り返す。
息が上手くできず苦しくとも、くぐもった喘ぎ声は出る。
酸欠で目は虚ろだった。
「ははっ、いいぜ、こいつの口の中…っ、あっあっ、でるっ」
喉奥に温かく生臭いものが吐き出される。
ヒカルは反射的に飲み下し、喉にまとわりつく感覚に吐き気がした。
気づけば指が3本入っている。
勃ちあがった自身が腹に当たる。
こんなところを刺激されて勃起してしまっている自分が恥ずかしくてたまらなかった。
ポロポロと零れる涙を先程までヒカルにフェラをさせていた男が舐めとる。
衝突に指を引き抜かれ、ヒカルはぐったりと床に頬をつけた。
両脇に腕を入れられたかと思えば、身体を持ち上げられる。
机に上半身を乗り上げさせられ、尻を突き出す体勢にさせられた。
「へへ、俺、ゴム持ってるぜ」
「六つしかねえじゃん。一回ずつか…ナマは怖いしなあ」
五人なので余った一つをヒカルのそれに被せる。
尻に薄いゴム越しの肉棒を押し付けられ、ヒカルがそっと振り向くと、一番目はヒカルに告白してきた男だった。
男のそれは興奮しきっているのか、今にも弾けそうだった。
尻にあてがわれるだけでどくんどくんと脈打っているのがわかる。
「ゃ、やだ……」
首を横に何度も振るが、彼は容赦無くヒカルを貫いた。
あまりの痛みに前へと逃げようとするが、腰を掴まれ引き戻される。
腰を何度も押し付けられると切れてしまったのか、滑る感覚がある。
動きが止まったかと思えば一度引き抜かれ、ヒカルの目の前に携帯を持った男が現れる。
赤いランプがつき、この状態を撮影しているのだとわかる。
「撮るなッ!あっ、や、やめ、んんっ」
自分の快感だけを追いかけていた男が不意にヒカルの感じるところを性器で刺激する。
細い指とは違った質量のものでぐりぐりと刺激されると、目の前がチカチカと白くなる。
痛みと快感の狭間で彷徨っていると、ヒカルの中途半端に勃ちあがったそれに手を伸ばされ、何度か扱かれると耐えきれずに射精した。

73 :補習 ◆FvK.L8.adE :2014/10/02(木) 21:54:19.73 ID:???
中を締め付ける感覚に男も獣のような声を発し、ビクビクと震わせながらゴムの中に熱を吐き出した。
萎んだそれを抜くと、違う男のものが挿入される。
敏感になっている中を擦られると、再び下半身が熱を持つのがわかる。
口では嫌だと言いながら感じている自分が滑稽で仕方がなかった。
五人の相手を終えた頃には、ヒカルにつけられたゴムは精液の重みでずれ落ちそうになっていた。
ヒカルに告白してきた男はそれを取ると、中に溜まっていた精液を飲み干した。
おおーっと歓声をあげる男達に、ヒカルは信じられないものを見るような目をしていた。
「じゃあ、後始末は俺に任せてよ」
「おー。またやろうな、進藤クン」
ゲラゲラと笑いながら、精液を飲み干した男だけを残して他は帰って行った。
「なあ、俺の名前知ってる?」
「え……?」
不意に尋ねられ、ヒカルは目を逸らす。
曖昧な記憶の中で必死に思い出そうとするが、どうしても出てこない。
男はそれに対して怒ることなく、にこりと微笑むとヒカルの肩を掴み、そのまま口付けた。
ヒカルには抵抗する気力は残っておらず、されるがままになる。
「俺は佐藤だよ」
田中でも鈴木でもなく佐藤だったか。
ヒカルはポーッとした頭でインプットする。
「進藤、これ見て」
ヒカルの目に映ったのは、ヒカルが男達に犯される映像だった。
思わず手を伸ばしたが、ひょいと避けられる。
「俺と付き合ってよ、進藤」
「ぃ、嫌だって、言ったら……?」
「ネットに公開するかな。知ってるか?一度ネット上にアップすると、消えることはないんだよ。その動画自体は消されても、誰かがダウンロードしていたら?わかるよな」
ヒカルは囲碁のプロだ。
もしこんなものがネットに晒されて、それが棋院の目に入ったとしたら。
そうでなくとも、北斗杯などで顔は割と知られてしまっているヒカルだ。
噂になるだけでも謹慎。
事実だとばれてしまったら最悪、除名は免れないかもしれない。
選択肢はあってないようなものだった。
床に落ちたヒカルの鞄から、電子音が教室に響き渡った。

つづく

74 : ◆FvK.L8.adE :2014/10/02(木) 21:56:24.95 ID:???
まだまだつづくんじゃよ

ちょっと忙しくなるからゆっくり書いていくぜ
何故省略したかってワンパターンになry

75 :名無しさん@ピンキー:2014/10/02(木) 22:50:14.78 ID:???
鬼畜なのがキテタ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
処女なのにやらしいなヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

続き、いい子にして楽しみに待ってる
無理はせんでなー

76 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/03(金) 02:26:36.00 ID:???
「大丈夫ですか?そこへそのまま、横になった方がいいですよ」
少年の声が、妙に耳の中で響いて聞こえる。目の前が夕暮れのように暗い。視界がぼやけている。
「それに凄い汗。せめてアンダーだけでも替えないと風邪ひきます。ボクので良ければ」
「……いや、いい。話が終わりなら……帰る」
立ち上がろうとするが、脚に力がうまく入らない。すこんと膝から抜けてしまう。
「済みません。PC立ち上げっぱにしてなきゃなんで、エアコンは切れないんです。室温上がって熱暴
走でマシン飛んじゃったら大損しちゃう」
テーブルを回りこんできた少年が、とん、と肩を押すだけで、ヒカルの体は三人掛けのソファーに横
ざまに倒れた。
「何がそこまでショックだったのか……は、愚問ですか。なんせ、エンドレスで垂れ流しですもんね。
あんたのトラウマ」
ヒカルが、目だけを動かして少年を見る。
少年の言が、何のことだか理解不能なのだ。
「春から頭の中で、ガキがキンキン高い声で泣き喚くんですよ。ずっと。途切れなくね。ぞっとしま
せんか?起きてても寝ようとしても二十四時間休日なしで。誰だって頭が痛くなります」
「…………え」
「でもって、泣きながら叫ぶんで最悪です。エンドレスループだから何て言ってるか嫌でも脳ミソに
焼きついちゃった。昔のブラウン管みたいな現象だな」
外国語でも聞いているかのような、鈍い反応しかできない。
「『オレなんかいらない』ってお経のように繰り返されたら、つられて自殺したくなりますよマジで」
そのワンフレーズを聞いた途端。
ひゅ、とヒカルの喉が鳴る。
「……そ、だ……」
「迷惑なんだよあんたも。師匠には吐き気、弟子には頭痛。ダブルでネガられるボクの身にもなって
欲しいってぇの」
「ぅそ、だ……なん、で……」
「当の弟子は自分が原因とも知らずに心配ヅラで親切ごかし。腸、煮えくり返るよね」
少年の手が、汗を吸って重くなったシャツに伸びる。抵抗する気力など、ヒカルには残されていない。
羽織っただけのシャツから、左腕が引き抜かれる。肘から持ち上げられて、二の腕の白い内側が露わ
になる。
「で?師匠に逃げられてぽっかり空いた心の穴を埋めてもらおうと、塔矢八段をたらしこんだわけだ」
「な」
曝された肌にくっきり残る、愛咬の痕。
「ちが……っ」
藻掻こうにも、体が言うことを聞かない。下に着ているTシャツも捲り上げられる。
「第一局が終わって自分ちにも帰らず、他人には検討だとしゃあしゃあと嘘吐いて塔矢とヤッてた」
「違う!」
腹と言わず胸と言わず。男の所有欲の徴が無数に散っている。
「こんなん見せられちゃあ違うと言われても信用出来ないな」
ぐうっ、と少年が突然呻く。
「ぅぐ……ホラ。あんたの大事なお師匠様がお怒りだ。毎度これじゃ体がいくつあっても足りない」
吐き気を堪える少年に毒づかれ、ヒカルはどうにか反論しようとする。
少年の向こうにいるであろう、師に向かって。
それは反論ではなく弁解。醜い自己弁護に過ぎない。それでも。
アキラへの不当な濡れ衣だけは晴らしたかった。

77 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/03(金) 02:27:07.13 ID:???
「違う……あいつは、本因坊戦が終わるまで……待ってくれた」
「ハハッ!相手は塔矢アキラ、確定ですか!」
嘲る声に、まんまと自白を誘導されたのだと気づいても既に遅かった。
「師匠に捨てられて碁打ちとしての存在意義を見失いながら!今度は塔矢に捨てられるのが怖くて碁
打ちにしがみついてる!ああ凄い、そんなんで入段後史上最短のタイトルホルダーですよ!誇ってい
いよ、あんた掛け値なしの天才だよ!」
褒められているのではないことくらい解る。ついさっき、秀策の劣化コピーだと揶揄されたばかりだ。
それが天才など笑わせる。
そうだ。師に忠実たれと努力した。現代の定石を驚くべき早さで吸収し、際限なく強くなっていった
師を可能な限りなぞろうとした。
この局面、師ならどう切り抜ける。
師ならどう攻める。
師ならどう守る。
忠実であろうとすればするほど、己の地金が出てしまう。継ぎ接ぎの不細工な碁になる。
「わかんねぇ……どうしたら……」
どうしたら許されるのか。
師に引導を渡されたのだから、碁を辞めてしまえばいい。アキラとも別れたらいい。
でもそれでは、この少年の中に自分の未練と後悔が残されたままだ。
たとえ師が三人目の子供として彼を選んだのだとしても、自分の泣き声が妨げとなって碁の修行どこ
ろではない。
全てから身だけを引いたところで、何の解決にもならないのだ。
どうしたら、彼らに許してもらえるのか。
「なあ。あんたのお師匠が怒ってる理由を、どうやら勘違いしてるみたいだな」
勘違い?何をどう。アキラに身を委ねたことじゃないのか。
そうでなければ、みっともなくも師の猿真似をしたことか。
これら以外に、まだ何か、自分はやらかしているのか。背筋に寒気が走る。
「トサカに来ちゃってんですよあの幽霊。ちょっと目を離した隙に、可愛いあんたを塔矢に盗られた
ってね?大笑いでしょ」
頭をカチ割って、こんがらがった情報を外にぶち撒けて他人に整理して欲しい。
もうキャパは一杯だ。これ以上入らない。
「あんたがたらしこんだってのは言い過ぎたかな?あのロン毛、昔っからあんたに妙な拘り持ってた
のは院生ですら知ってる話だし」
指で、掬うように顎が持ち上げられる。
「いくら可愛いっても歳上と男の二重苦じゃあね。そういう目的でお師匠様に体を貸せと言われても
お断りです」
「ま……てよ、なに、じょう、だん」
呼吸がひきつれて、うまく喋れない。
「冗談でいちいちボクの胃袋オモチャにされた日にゃたまったもんじゃない。今だって、これ」
アキラが残した脇腹の吸い痕をなぞられて、思わず体を捩る。
「見た瞬間にお師匠ヒートアップですよ。研究会の帰りに何か食べてたら確実にゲロゲロ」
心の聖域を土足で踏み荒らされるほど。この少年に酷い事をしたのだろうか。
もしそうなら、踏み荒らされるがままでいるのがたった一つだけできる償い。
────自分の論理的思考力と判断力が著しく低下していることに、ヒカルは無自覚だった。
「イクとこの一つも見せてやれば、ちょっとはお怒りを治めてくれるかも知れませんよ?進藤先生」

78 :◆lRIlmLogGo :2014/10/03(金) 02:27:48.52 ID:???
佐為「実は私、メイツだったんです(;´Д`)ハァハァ若゛に超ジェラシーでした(;´Д`)ハァハァ」
ヒカルたん「地獄へ蹴り落としていいかな」

エロ手前で力尽きた…orz
中折れなんてヒカルたんに嫌われてしまうじゃないか!

79 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 02:33:15.39 ID:???
おおおお待ってた!

なんと、佐為もメイツだったか…
この続きはおなぬーヒカルたんが…(;´Д`)ハァハァ

80 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 02:36:03.97 ID:???
ヒカルたんにバイブを挿れて、イったら罰ゲームというプレイがしたい(;´Д`)ハァハァ

81 : ◆FvK.L8.adE :2014/10/03(金) 03:01:28.71 ID:???
俺は気づいてしまった…
>>73でヒカルたんまだ学生で北斗杯が開催されてもいないのに、
でていることにしてしまったことに…
脳内で消しておいてくれ…

82 : ◆FvK.L8.adE :2014/10/03(金) 03:02:05.49 ID:???
盆たんのGヒカルたん楽しみにしてる(;´Д`)ハァハァ

83 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 03:12:44.38 ID:???
「ん…っ、う、ぁっ、ンン」
ヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
イきたいならイってもいいんだよ?(;´Д`)ハァハァ
「ん、ぁ、ぜってーやだ…ッひ、あっ強くしな、あっあっ」
イっても俺の肉棒をいれるだけだからね(;´Д`)ハァハァ
ほらほら、ヒカルたんのポークビッツもびくびくしてるよ(;´Д`)ハァハァ
「やだぁっ、あ、あ、イきたくな、イきたくないよぉっ」
じゃあ、最大にしてあげるね(;´Д`)ハァハァ
「ッああああ!うっぐ、うう…ッ」
イっちゃったねえ(;´Д`)ハァハァ
涙目のヒカルたんもかわいいよ(;´Д`)ハァハァ
じゃあ遠慮なく…
「ひっ、やだ、いれないでっ、やだやだ…ッア」

みたいな感じか>>80(;´Д`)ハァハァ

84 :幼妻ヒカルたん:2014/10/03(金) 03:51:50.15 ID:???
ヒカルたんが夜中に突然泣き出した
どうやらホームシックにかかっているらしい
幼いながらに俺の妻になってくれたヒカルたん
まだまだ親に甘えたい盛りだろうに俺と一緒になってくれたヒカルたんがいとおしくてたまらない
ヒカルたんの柔らかい頬と細く滑らかな髪を撫でていると落ち着いたようでぎゅうと抱きついてきた
ああ、ヒカルたんはなんてかわいいんだ
俺が一生幸せにしてあげるからね(;´Д`)ハァハァ

85 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 12:06:47.73 ID:???
>>82
Gヒカルたんでテラ○ォーマーズ的な黒光りする
ヒカルたんを連想したwwww

ヒカルたんならあの生物だとしても愛せるよ(;´Д`)ハァハァ

今日も丑三つ時あたり予定
全然えろくないやないけ!というクレームは覚悟してまつ

86 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 12:22:03.08 ID:???
ヒカルたんがもしGなら籠にいれて飼わなければな…(;´Д`)ハァハァ

87 :幼妻ヒカルたん:2014/10/03(金) 12:26:19.45 ID:???
幼妻ヒカルたんの今日の愛妻弁当は?
「ひんとはおれのだいこうぶつだぜ!」
ははは、ヒカルたん。
汁が弁当箱から漏れてるよ。
この濃厚豚骨の匂いはラーメンだな?
はは…書類がラーメンのスープ塗れに……

だがしかし本望である(;´Д`)ハァハァ

88 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 15:49:43.43 ID:???
容量オーバーになってたのか危うく迷子になるところだったぜ
スレ立て&職人さん乙!
前スレのテンプレがヒカルたん25歳で時の流れを感じた

89 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 15:52:30.73 ID:???
導かれしメイツ達よ…

90 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 16:20:57.51 ID:???
そして前スレが立った時から思ってたんだが次スレ立てるときはスレタイをpart67までのに戻してホスィ…

91 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 16:30:58.62 ID:???
テンプレも修正が必要だな

92 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 17:17:06.44 ID:???
ヒカルたんへの愛でこのスレを埋めてみせる

93 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 17:20:06.15 ID:???
ヒカルたんとギシギシアンアンするのはこの俺だ(;´Д`)ハァハァ

94 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 21:06:28.11 ID:???
ヒカルたんをめぐり、メイツ達の戦争が今始まる……

95 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 21:08:17.01 ID:???
若゛「負ける気がしませんね。公式からも進藤との結婚を示唆されてるこのボクがですよ」

96 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 21:10:12.94 ID:???
若゛のドヤ顔が目に浮かんで腹立つ

97 :名無しさん@ピンキー:2014/10/03(金) 21:27:06.68 ID:???
若゛この野郎殴りてぇ〜
…さあヒカルたん俺とキモチイイコトしようねえ

98 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/04(土) 00:12:52.76 ID:???
この魂は、とうに師に捧げた。
師が情欲の対象にと望むなら、体だって喜んで差し出す。
けれど、それは叶わぬことで。
今更過ぎることで。
なのに抜け殻のこの体は、生身の熱と重さと力強さに対してあまりに弱くて。
口内を犯す舌に。
肌を這う唇に。
感じる場所を何度も噛んで、甘い刺激を齎す歯に。
奥深くまで穿ち抜く肉の楔に。
この体を欲しがる濡れた声に、吐息に、質量に、体臭に。
負けて流されてしまうのだ。
耳元でキミが好きだと囁く声に、負けて、流されて。

魂と肉体が、どんどん乖離していく。

アキラに望まれた最初の頃は、まだ大人になりきれていないその体格に頼りなさと不安感を覚えていた。
自分自身がぐらついて真っ直ぐ立てない原因をアキラに転嫁していたのだと、当時を振り返って思う。
どうせ抱かれるなら大人がいいという願望を、心のどこかに飼っていたことは否定しない。
相手が緒方だったら、森下だったら、などと、妄想したことがないとは言わない。
アキラの父親ですらその対象だった。
けれどそれらの問題は時間がほぼ解決してくれた。
伸びた背、広くなった肩、太くなった腕、低くなった声。
それでもアキラのピーキーな性格はそのままで、ヒカルはまだ時折、不安になる。
自分が二次性徴期を引き摺ったような半端な姿のくせに。

何故、大人の男を欲するのか。そんなのは単純だ。
師の年輪をそこに見ているから。
生身の人間に千年の円熟を望むなど、烏滸の沙汰。
況してや、同い年のアキラに。

だから縋ってはいけない。依存してはいけない。時にはアキラを突き放さなければいけない。
共に溺れてしまうから。

嘘でも何でもいい。師の怒りを少しでも宥めることができるのなら、自ら体を開こう。
直接確かめたのではないから信じてなどいない。嫉妬心だなどと。
けれど、この場に存在することだけは身をもって痛いほど感じた。あの一局で。
根拠などそれだけで充分だ。

※※※
理性と本能の間にそそり立つ壁のどこかが崩壊したのは間違いないのだろうけれど、いくら何でも本当
に始めてしまうとは少年にも予想外だった。
読み違えていたのかもしれない。
少年にとっては自分を体調不良のスパイラルに突き落とし、時間と集中力を殺ぐだけの邪魔な幽霊。
その本心すら碌に確かめもせず……名も地位もある人間が。場所を弁えもせず、恥も外聞もなく。
「……、ふ……ンぅ」
二人目と三人目の間で、幽霊は立ち尽くしている。
やめて下さいと何度喚いても、二人目にその声は届かず、三人目は声が届かぬ振りをしたからだ。
印象的な大きな目を半眼にして、ヒカルが我が身をまさぐる。小さく開いた唇から、喘ぎが零れる。
「んッ……ぁ」
右手はTシャツの中で忙しなく動き、左手はゆったりしたシルエットのジーンズの上から内腿を撫で擦る。
男のマスターベーションなど見てて気分のいいもんじゃない、と一旦背を向けかけた少年は、思い直し
て反対の壁際にある広いデスクへと向かった。整理棚の一角を漁り、ハンディカムを持って戻る。
自分のこの三ヶ月弱と、これからの人生を台無しにし、またするであろう忌々しい師弟を。
いびるネタは一つでも多ければ多いほど溜飲も下がるというもの。

99 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/04(土) 00:13:45.62 ID:???
「ぁあ……ッ、は」
まだ性器に触れてもいないのに、感度が増してきたのかヒカルの声が少しずつ大きくなっている。
Tシャツはたくし上げられ、薄い胸と凹んだ腹が曝け出されている。碁石を小気味良く打つ細い指が、
感じる場所を探して彷徨う。
「っ、くぅ!」
指が勃ち上がった乳首に触れ、上半身が跳ねる。
「ん、んッ、ん」
リズミカルに捏ね回すのと同じリズムで声が漏れる。鼻に抜けるその甘さが、幽霊にはどう聞こえてい
るのかと少年は録画の手を休めずちらりと窺う。
肉体などとうに失われて久しいはずなのに。
切れ長の涼やかな目は情欲に潤み、頬はほんのりと上気している。紅い唇から漏れるのは感嘆の吐息。
「……っ、このっ」
行為に没頭する妨げとなったので苛ついたのか、ヒカルは癇性に左手首の腕時計を外しにかかる。華奢
な腕には似合わぬ厳つい黒のダイバーズウォッチ。雑な手つきでベルトを外し、無造作に投げ捨てる。
それはガラステーブルの縁に当たり、硬い音を立てて床に転がった。
そのせいで少し熱が冷めてしまったのだろうか。ヒカルは動きを止め、大きく息をついてソファーに上
半身を投げ出してしまう。
「…………なぁ。見てんだろ」
少年に向けたものではない言葉。
「全部見たい?……いいよ、こんなの幾らでも」
横たえていた半身を起こし、右袖だけで引っ掛かっていたシャツを脱ぎ捨てる。
「フロで散々見飽きたとか言うなよ。随分変わってるはずだから」
たくし上げただけだったTシャツも。ダボダボのジーンズも。下着も靴下も。
「ゴメン。塔矢の中古で。それでもいいなら……来いよ」
何も纏わぬ姿となって、そうヒカルは告げた。

「あぁあ……ッ、ヤダ、やっ、あ、はァッ!」
充血した秘所が、指の抜き差しによってグジュグジュと水音を立てる。
さほど慣らしもせず挿れた左の中指が、浅い部分を早いストロークで攻め立てていた。
滑りは性器からしとどに垂れ落ちる蜜で充分。
「もッ、だめ、アア……ッ!」
腰がソファーの上でバウンドし、背中が反り返る。
凄絶な光景だった。
ここに至るまでに、ヒカルは最低でも三度絶頂を迎えている。曖昧な表現にしかならないのは、それが
射精によるものではないから。
まだ終わらなかった。指の数が増える。また、悲鳴じみた嬌声が広い部屋を満たす。
「来てよ、来て!ねェ、来いってば!」
熱く綻びたそこに迎え入れること能わぬのが判っているはずなのに、金切り声で幽霊を呼ぶ。
中指と人差し指で入り口を拡げ、ここに欲しいと啜り泣く。
セックスジャンキーという単語が、少年の脳裏を掠める。
ここまでとは思わなかった。
少女のような童顔そのままの天真爛漫さも、十四年会での激論を戦わせる熱さも、指導碁で見せる温厚
さも、陽の当たる場所で見せる顔は何一つ、欠片すら見当たらない。
今の姿はケダモノと同じだ。
「ぁン、また……ッ!ン、ンンッ!ふぁはァアっ!」
応じるにしても精々、恥じらいながら下着の中で隠すように擦って出すのが関の山だと踏んでいた。そ
れを写真なり動画なりに残してネチネチ苛めてやろうと目論んでいたのだ。
大きな計算違い。それも、少年に有利な方向への。
自分の指が齎す快楽に耐え切れない風に、ヒカルは何度も激しく首を振る。
我を失っているようで、そのくせ自制は効いているらしい。
どれだけ乱れ悶えても、一度もアキラの名を呼ばない。
そして、実体なき師の名もまた、呼ばない。
もしや幽霊は、来いと呼ばわる相手が誰か見定められずに戸惑っているのか。ずっと同じ場所に立ち竦
んで微動だにしない。欲情に呆けた表情のまま。
挿入した指が四本になって、根本まで埋まっている。指で届く最奥で、ヒカルは何かを探すような微妙
な動きを繰り返している。

100 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/04(土) 00:14:17.24 ID:???
「ん……んん……ふ、っ」
あ、と、小さな声を出し。一度息を詰めて。
これまでよりも大きくゆっくりとした抜き差しを開始する。
「あ……あ、あっ、あ、あ、ァ」
時折、声が裏返る。全身が何度も捩れ、くねる。
そして。確かに。
見えるはずのない幽霊に、ヒカルは視線を合わせた。右脚の膝裏を抱え込んで高く上げ、指をずっぽり
咥え込んだ場所を見せつけるようにして。
「……ね、」
打って、と。
淫ら極まりない格好で師にせがんだ。
打ってよ。オレと。ねぇ。打って。お願いだよ。
ぐちゃぐちゃと体内を掻き回しながら、譫言のように繰り返す。
「ダメ、あ、キちゃ、はぁぅ、イヤ、イヤァ、ア!ァア!」
抽送のスピードが上がり、最後に大きく突き込んで自ら止めを刺した。
「────────!」
引き絞られた喉から出る悲鳴は、トーンが高すぎて音声になっていなかった。
幽霊が、初めて動いた。
力尽きた愛弟子を抱きしめる。たとえ触れられはせずとも。

『私の碁に、囚われてはいけません。私に成り代わろうとしてはいけません。あなたの碁を、どうか蔑
ろにしないで欲しい。あなたは、あなたの歩幅で成長すればいいのです』

恣意的に脚色されて伝えられた言葉の真意が、どうかあなたに届きますように。
そう願うかの如く、幽霊はヒカルの汗に塗れた額に自らの額を合わせた。

体が落ち着くまでに、数時間を要した。
その間に、汗に濡れた服は全て洗濯乾燥が済んだ。
「ただ引退するだけで、師匠に対するケジメになります?」
帰り際に、少年の痛烈な一言が浴びせられた。
「…………」
それ以外に、何ができるのか。ヒカルは逆に問いたかった。
「どうせなら、もう少し結果出してからにしましょうよ……例えば、そうですね」
その提案は、ヒカルにとって悪いものではなかった。
足を踏み外したら、即座に首が締まる枷であったとしても。
そのくらい達成できなくて、秀策として残る師の実績の影すら拝めやしない。
「それと。毎年、本因坊戦の前くらいはお師匠様と打ってあげて下さいよ」
頭痛持ちではまともに相手を務められませんからね。彼は付け加えた。
要するに、そう頻繁に幽霊には体を貸せないということだ。

少年が十四年会に顔を出す期間は、周囲が考えていたより長かった。
頭痛による集中力の低下を理由に、この年の暮れ限りで彼は和谷のマンションに来なくなった。
翌年、彼は新入段を果たす。
その意味と理由を知っていたのはヒカルだけだった。

101 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/04(土) 00:14:53.24 ID:???
思った通りエロさが足りなかった。てゆーかエロ部分短かった。
肩透かしで済まぬ…済まぬ

次からは元の2010年パート
……調べても出てこない、個室に入院中の場合のシャブ系勾留のあれやこれや
ちと時間かかるかも、最悪「このあたりは完全妄想フィクションです」

そして、エロ要素などどこに入れたらいいのやら状態orz

スレタイとテンプレは申し訳ない
次立てるのがまた俺だったら気をつけまつ

102 :名無しさん@ピンキー:2014/10/04(土) 02:16:31.30 ID:???
淫乱ヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

103 :名無しさん@ピンキー:2014/10/04(土) 02:42:32.65 ID:???
>>101
いやいやスレ立てからテンプレ貼りまで全部任せてしまって申し訳ない
そして…(;´Д`)ハァハァ

104 :名無しさん@ピンキー:2014/10/04(土) 13:33:09.98 ID:???
おなぬーヒカルたんのえろさやばい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

105 :名無しさん@ピンキー:2014/10/04(土) 13:34:20.76 ID:???
これまで若゛にやられまくってたのかと思うと歯ぎしりギリギリギリギリ

106 :名無しさん@ピンキー:2014/10/04(土) 19:37:11.41 ID:???
ヒカルたんの今日のパンツの色は黄色

107 :名無しさん@ピンキー:2014/10/05(日) 01:41:31.31 ID:???
ヒカルたんのパンツは俺が食べたのでありません

108 :名無しさん@ピンキー:2014/10/05(日) 01:56:37.33 ID:???
つまりヒカルたんはノーパン…?
ノーパンヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

109 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/05(日) 02:33:55.29 ID:???
※※※
その年に認定された新初段の内訳は、院生三・外来なし。全員が十五歳以上だった。
かつて、自分が北斗杯に間に合わないだろうと斬って棄てた岡と同期デビューとなったことに、
『彼』は大した感慨を持たなかった。昨年の冬季試験は例年になく低レベルな戦いで、ドングリの背
比べをミリの差で抜けた者がプロへの切符を掴んだ。
それでもプロはプロだ、と岡は気負う。前の年、若獅子戦で弱音を吐いていたくせに現金なものだ、
と醒めた目で『彼』は一つ歳上の同期を見やる。
認定証の授与式は種々の表彰式と合同で行われ、各賞に該当する錚々たる面々が居並ぶ場でもある。
大抵は中堅やベテラン。世代交代が進みつつあると言われてはいるが、それでも若手が混じると奇妙
な不協和音が生じる。
北斗通信システムの手によって、浮ついた偶像として祭り上げられた二十一歳となれば尚更だ。
昨年度の勝率一位は小数点以下二位の桁で争う熾烈なものとなった。
倉田・塔矢を抑えきったのは進藤。
メディア露出に比例して碁に打ち込める時間は減っているにも拘らずこの成績では、批判したくとも
粗探し程度のものにしかならない。
件のスター棋士を見つけた岡が、研究会の場と同じように接してもらえると信じきって挨拶しようと
近づく。希望に膨らんでいるであろう心が、一気に萎まされる様を『彼』は目の当たりにした。
小柄な痩身と童顔に似合わぬ、殺気とも呼べる威圧感が否応無しに岡を黙らせる。
さしずめ、プロの洗礼と言ったところか。『彼』は冷静に分析する。
「……うっわ、コワ。棋院でたまにすれ違う時と雰囲気全然違ぇ」
岡とは別の同期が、素直な感想を漏らす。こちらは夏季合格者。院生同士の叩き合いで一位になった
人間だ。院生でいられる年齢制限ギリギリで滑り込んだのは実力か、運か。
「アレと同じ土俵に上がったんだって認められたわけさ。ボクらは蹴落とすべき敵としてめでたく認
識された。光栄なことじゃないか」
「今戦ったら瞬殺されるっつの……寒気してきた。ホントにオレと三つしか違わねぇのかよ」
(おまえと同い年の頃には、もうあっちは八段なんだけどね)
下らない諍いの元になるので口には出さず、『彼』は同期を嘲った。

「……歳上で男はダブルの罰ゲーム級じゃなかったっけ」
ひとり遊びの熱も冷めやらぬまま、ヒカルはしどけない姿で気怠げにソファーに身を預けている。
表彰式でかっちり着ていた濃紺のスーツは乱され、岡に見せた威圧感など微塵も感じられない。
今日のコンセプトは『着エロ』だそうで、完全に脱いでしまうのを許されなかった。
体液で汚れたくしゃくしゃの皺だらけで帰れと言うことか。
それでも唯一、時計についてだけは逆らった。表彰式では場違いなのでポケットに入れていたのを、
態々出して放り投げたのだ。
「見たくもないなら撮るのはもっと嫌なもんだと毎度思うけど、違うの?」
「脳内の同居人への家族サービスですよ」
「サービスねぇ……で、こんな真似させたんだから」
「その前に」
当然とも言える要求を出す前に遮られ、ヒカルは鼻白む。
「ボクがプロになる他なくなった理由、わかってますよね」
「頭痛でデイトレやる集中力なくなったんだっけ?それでアイツに頼ったってとこまで」
激しい自慰のさなかに振り乱したために崩れた、明るい色の前髪をヒカルは右手でかき上げる。
その目の前に、表計算ソフトで作成した数字と杓子定規な文言の羅列が出力された紙が何枚か突き出
された。
「そんなもん、オレが見てもわかんないぜ」
「知ってます」
ならこれは何だと言いたげな顔に、『彼』は短く答えた。
「早めに対処したんですけどね。それでも二千万の損です」

110 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/05(日) 02:34:26.91 ID:???
ただでさえ大きな目が、さらに見開かれる。
「それを……オレに出せって?」
「そこまで鬼畜なことは言いませんよ。ただね、頭の片隅にでも留め置いて下されば充分です」
棋士の収入だけでは食えず、株式投資や外国為替の差益などの副収入で生活している人間がいるのは
ヒカルも知っている。そもそも、プロになって何年かは対局だけでは食えない。親がかりか、普及の
仕事を多く斡旋してもらうか、社会人出身なら預金を取り崩すか。
ヒカル自身、生活できるに足る対局料を得られるようになったのは二段から七段への昇進後のことだ。
去年のタイトル賞金獲得で、やっと本業の収入がCM年間契約などの副収入を超えた。副業そのものを
とやかく非難する気は毛頭ないし、その資格もない。
だがこれは、プロになる前の中学生が院生研修と並行してやっていた事。
「こないだまで中坊だった奴が扱う額じゃねぇな。どんだけ突っ込んでたんだよ」
「違います。これは数社から請け負ってた自動取引システム開発をキャンセルした結果、出した損害
です」
「は」
よっぽど馬鹿面を晒していたらしい。
「あんたに説明するだけ時間の無駄です。トレードそのもので大損なんてヘマしません」
かき上げた柔らかい髪を、ヒカルはそのままぐしゃっと掴んで嘆息する。
「どっちでもいいけど、結局オレのせいなんだよな。その損」
「ですよ」
自分が悪いと解っていても、あっさり肯定されるとカチンと来る。
「一応、覚えておいてはやるよ……だから」
「再来月の防衛戦、初めてだってのに挑戦者が彼氏じゃあ、さぞやりにくいでしょうね」
またしても遮られる。先刻までよがり狂っていた快楽の名残が消え去り、苛立ちが募る。
「関係ない」
「イキまくりながら『打って打って』なんて口走る人の心配はしてません」
「塔矢だっておまえに心配される筋合いなんかない」
「ホントかなあ」
「……塔矢に余計なことする気なら」
「なら?どうするんです?現状、無策だからこうして今もこんなガキの目の前で無様を晒してるんで
しょうに」
ち、とヒカルは思わず舌打ちする。
自分のせいだという金銭的損害を盾に取られ。
アキラに何らかの害を与えるとほのめかされ。何も手を講じられないのが歯痒い。

「特別なことなんてないです。必ず防衛を果たして下さいね?大事なお師匠様の名誉のために」
こう迫られることが一番きつい。

この少年が。自分を見限って師が新たに選んだ『高みを目指す者』なのだ。
現実から、逃げてはいけない。
師が望んだ事なら、必ず叶えよう。
無断で師の碁を借り、己の碁と偽り続けてきた罪を少しでも拭えるのなら。

ヒカルの体に異変が起きたのは五月に入ってすぐだった。
以降、毎年。本因坊戦の時期に決まって、口が食べる事も飲む事も拒否する症状に悩まされるように
なる。

111 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/05(日) 02:34:59.54 ID:???
時間軸が戻るとは一体何だったのかorz

ヒカルたん「本筋に関係ないけど北斗通信の年間CM契約料がお安いことがバレちった」
うん、まあ、そうだね…CM契約ウン十億の人がいたりするからね…
タイトルひとつで収入の逆転現象が起きるってことはそういう計s…ゲフンゲフン

112 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/05(日) 02:49:16.90 ID:???
あ、ヒカルたんのおぱんつは俺が責任持って回収しときましたんで

113 :名無しさん@ピンキー:2014/10/05(日) 10:10:23.55 ID:???
ヒカルたんのおなぬービデオ、言い値で買おう(;´Д`)ハァハァ

114 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 00:28:30.27 ID:???
裏技入り

女の子も考えてること一緒っすよ。

地盤はあるってことだね。

t骨tm2骨t.co骨m/ero4/1006.jpg
↑↑↑
「骨」ぬき

115 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 00:32:47.16 ID:???
あげ

116 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 01:17:07.18 ID:???
下げときまつ

117 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 03:05:19.84 ID:???
ヒカルたん、俺はもう働きたくねえよ…
ヒカルたんの膝枕で眠らせてくれ…

118 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 04:15:24.98 ID:???
時刻…もしやブラック業界勤務なのか…頑張れ超頑張れ
気持ちはわかるぞ

ヒカルたん抱き枕があればいいのに(;´Д`)ハァハァ

119 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 12:08:22.12 ID:???
これはヒカルたんを養うために働いているんだ…そうなんだ…
ヒカルたん抱き枕があったら毎晩興奮して逆に眠れねえよ(;´Д`)ハァハァ
若゛に買い占めれる前に手に入れないとな…

120 :幼妻ヒカルたん:2014/10/06(月) 12:15:27.51 ID:???
幼妻ヒカルたんの今日の愛妻弁当は?
あれ…冷凍食品じゃない…手作りだと…!?
ハッ、これはまさか昨晩若゛が作り過ぎたとか言って持ってきた料理じゃねえか!
危なくて食えた気がしな……
……もしかして、ヒカルたんもお昼にこれを食べるのか?
危ない薬が入っていてここぞとばかりに若゛が襲いに来たら……
待っててヒカルたん!今すぐ帰るよ!!

121 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 17:10:22.53 ID:???
ヒカルたん抱き枕ほしい

122 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/06(月) 19:02:46.28 ID:???
※※※

時計をぞんざいに投げ捨てる行為に、最初は何の意味も見出せなかった。
ただ、それが。二度三度と回を重ねるうちに。
その行為に託されたあの子の真意を悟り、私に巣食う醜悪な魔物は跡形もなく溶けて消えた。
残されたのはただ、己への怒りのみ。

徒に苦しめてしまった。今更許されようなぞ、虫が良すぎるというもの。

※※※

三年前。本因坊戦後に二度対局して全て負けた。
二年前。本因坊戦前に二度、後に一度。全て負けた。
昨年。計四度。やはり全敗。

そして今年。本因坊戦前に一度、後に何度だったろうか。
兎に角、全て負けた。

一度とて終局には至らず、中押しで投げ出した。

負けるたび……己がまやかしの座にいる惨めな案山子であることを思い知らせる鋭い杭が、胸に食い
込む。血すらも流させてもらえぬ痛みに、苦鳴を洩らすこともならず。

師の足元どころかその影にも遥か及ばぬまま。
師への誓いも、果たされず。
自分は終わろうとしている。

新しい師弟に、やはり許されなかった。これは、そういうことなのだ。

あくまで任意同行で容疑はまだ固まっていないとの説明だったため、手錠をかけられはしなかった。
パジャマ姿にも構わず引っ張って行こうとする私服警官に、せめて靴だけは履かせろと要求した。
言わなければ、危うくスリッパのまま連れて行かれるところだった。
美津子が自失状態に陥っていたおかげで大声で騒ぎ立てられることもなく、病室前に野次馬の人だか
りが出来る事態は避けられた。これを不幸中の幸いと喜んでいいのか複雑だった。

院内の移動に使用されたのは、職員用の通路とエレベーターだった。何の説明もしてもらえなかった
が、騒ぎを大きくして余計な仕事を増やさないためなのはヒカルにも解った。各メディアが別件で煽
りに煽っている中、院内で野次馬患者に怪我人でも出ようものなら警察にもバッシングが飛び火する。
パトカーに乗るのなんて一旦停止無視で罰金食らった時以来だな、とぼんやり他人事のように考える。
地下駐車場で待っていたのは、何の変哲もない地味な一般車だった。いわゆる覆面パトというやつだ
ろう。
どの警官も寡黙で、とてもではないが嫌疑の根拠を質すどころか雑談ひとつできる雰囲気ではなかっ
た。
変に楯突くと心象が悪くなって不利だ、と教えてくれたのはテレビで共演した誰かだったろうか。
『だってさぁ、道路の一停の字、ハゲてて読めなかったんだぜ?そんなんアリかよ』
『道路整備は管轄が違う、でも違反は違反だからヨロシク、てのが警察だから。ツイてなかったね』
食事だか飲みだかに誘われた時だったと記憶しているが、はっきりしない。

123 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/06(月) 19:03:32.93 ID:???
余計な事は言わないに限る。自分の事などもうどうでもいいが、誰かにいらぬ迷惑を掛けるのは忍び
ない。
「申し訳ないね。疑いの性質上、クロと踏んで動かねばならないんで」
後部座席へ刑事に挟まれるように乗せられ、一般道に出て数分。左隣の四十絡みの男がやっと口を開
いた。
「決め打ちで動かなきゃならないような性質の疑いって何ですか」
意外な質問だったらしい。刑事の返答が数瞬遅れた。
「持ってるか、持ってないかだよ」
主語は省かれていたが、それが薬物であるのは任意同行を求められた際に聞かされた嫌疑の内容から
推察できた。
身柄拘束時に所持していたら即アウト。証拠を隠滅される前に押さえろ。そういうことだ。
だが、違和感がある。どうも、決め打ちと言う割には刑事の言葉に確信がないような響きが見え隠れ
する。
「……はあ、そうですか」
今ひとつ要領を得ないヒカルの態度に、右隣の若い刑事が凄んでくる。
「テメ、ナメてんのかクソガキ」
しくったか。もう少し一般市民ぽく怯えるふりでもした方が良かったか。ほんの少しだけ後悔する。
「ガキはねぇだろ。おまえと大してトシは変わらんよ」
最初に口を開いた中年の刑事が後輩を窘める。
「気にしてません。このトシんなって酒買うのにまだ身分証出せって言われるし」
「タバコは」
「好きじゃないんで」
これは前哨戦だ。滞っていた勝負師の血が、久々に巡りだすのを感じる。
こんなシノギ合いですら楽しいと思い始めるのは救いがたい業だ、とヒカルは心中で自嘲する。
どうすれば、自陣の損耗を最小限にして、より多くの出血を敵に強いることが出来るか。
どうすれば、最少の手数で敵の士気を挫くことが可能か。
犠牲にしてもいい石はどれか。
囮に使える一手はどれか。

……恐らく、こんな不名誉な嫌疑がかけられた時点で、棋院はヒカルをパージする方向に動く。
傷は浅いうちに手当てする。悪性腫瘍はなるべく早く切除する。それが当然なのだ。
だから。

少しくらい、この状況を楽しんでもいいだろう?そんな偽悪的思考が頭をもたげる。

道中で大体の地理は掴んでいたので、到着したのがどこの警察署かは見当がついた。
待ち構えていたと思しき報道のカメラとマイクが押し合いへし合いしているのを見て、故意に情報が
流されているのを察する。任意同行の時点で警察側が公表する可能性はあるか否か。そこは詳しくな
いので考えるだけ無駄だ。

家族や友人、同僚。自分に良くしてくれた人たち。
彼らに累が及ばないようにする最善の手段は何か。決まりきっている。
自らの潔白を証明することだ。一分一秒でも早く。
しかし策なき拙速は兵を損ねる。可能な限り機を探れ。

124 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/06(月) 19:04:04.06 ID:???
『クロ前提で』と中年の刑事が言った理由は、すぐわかった。
事情聴取もへったくれもなく、最初に通された部屋で身につけているものを全部脱ぐよう要求された。
周囲に何人いるのだろう。たった一人の病人相手に大した数だ。
全身を矯めつ眇めつされ、口の中を丹念に調べられる。摂食障害の症状が寛解していて幸いだったか
も知れない。そうでなければ吐くかえずくかしている。
性器を手にとって表面を指で探られた。何の目的かは知識のないヒカルにとって想像の埒外。
事務的な作業に性的な感覚など沸き起こるはずもないと自分に言い聞かせる。恋人でもない赤の他人
の前で何度もオナニーショーを披露したことに比べれば、こんなもの恥辱でも何でもない。
「そこの壁に手をついて。脚、広げて」
そう指示されて初めて、『少しまずいかも』という危惧が頭を過ぎる。ヒカルに指示をした男が、樹
脂製の薄い手袋を嵌めた手にローションを塗しているのを見たからだ。
「ッく……!」
大当たりだった。指が無遠慮に侵入してくる衝撃に、奥歯を噛み締めて堪える。
二週間前の陵辱の記憶が体にフィードバックしないよう、必死に別の事を考えて感覚を繋げまいとす
る。
けれど。
探るように体内で蠢く指に、後ろの快楽に慣らされてしまった体はどうしても反応してしまう。
びく、びく、と全身が震えるのを抑えきれない。
(……っア……!クソッタレが……ッ!)
誰に向けての悪罵かもはっきりしない。だが、何でもいいから罵らずにいられない。
「ふ……ぅ……!」
膝ががくがくする。警察に拘束されたがゆえの恐怖感から来るものだと誤認してもらえればいいのだ
が、手遅れだろう。鈴口から、淫らな露が膨らんで垂れそうになっているのが自分でもわかる。
(……ッしつこい……!ンなとこになんも隠してねェよ!)
「ふっ……ふゥ、ん……!」
爪が壁を掻き毟る。今の自分は、額まで壁につけ、恥ずかしげもなく尻を突き出していやらしく揺ら
しているに違いない。周囲にいる人間にどう思われるか、取り繕うのは徒労に思えた。
「ハイ、お疲れさん。次はトイレでオシッコ採って」
告げられるとほぼ同時に、指が一気に引き抜かれた。散々弄られた直後、一直線に内壁が擦られる感
触が容赦なく脳天に来る。
「んンァ……!」
下半身から力が抜け、壁に爪を立てたままズルズルとヒカルは冷たい床に崩れ落ちる。
(ヤベ……こんなんでイクとか……最悪)
しかも、最初に火を付けられた段階でしかない。こうなったら失神するまで責められないとこの体は
満足しない。自然に冷めるのを待つには何時間もかかる。

125 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/06(月) 19:05:30.59 ID:???
ヒカルたん「もうなんも怖くねーや畜生!(泣」

k察関連、ガッツリ裏取って調べたわけじゃないんで、色々間違ってたらゴメンヨ
タイムリーにも2010年に人権に配慮した法改正があったようだけど、よくワカランかったのと
個人的に裸に剥かれるヒカルたんが書きたかったのでこまけーことは無視した
だって俺ただの一般人だもの…ネットで入手できる情報には限界があるお(死ぬほど言い訳
経験したのはせいぜい自宅から裸足でk察に連れてかれたくらいのもんだし

というわけで今更でつが
「このSSはフィクションです。実在の個人だの団体だのとは一切無関係なんだってばよ!」
日本棋院「絶許」

台風が過ぎて、一気に寒くなった気が…昨夜は凄かったでつ

126 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 19:18:07.45 ID:???
このプレイが今までで一番興奮したかもしれん…(;´Д`)ハァハァ

18号を19号が追いかけるように曲がったやつをみて、
18号がヒカルたん、19号が若゛かと思ってしまった

127 ::2014/10/06(月) 19:39:50.82 ID:???
※しかもこれリアルでは半月過ぎちゃったけど、ヒカル誕の出来事です

128 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 20:04:20.16 ID:???
ヒカルたんまさかの誕生日プレゼントに多人数の前で尻をいじられる事案

129 :名無しさん@ピンキー:2014/10/06(月) 23:59:14.19 ID:???
さすがはヒカルたん
誕生日プレゼントも一味違うなあ(遠い目)

130 ::2014/10/07(火) 01:13:03.36 ID:???
(プレゼンターは警察病院の医師だと聞いて
物凄い勢いでカチコミかけようと若゛先生が…

と思ったらヘタレてる最中だった)

131 :名無しさん@ピンキー:2014/10/07(火) 01:41:04.05 ID:???
そんな若゛にはTE○GAをプレゼントしよう…

132 :名無しさん@ピンキー:2014/10/07(火) 01:52:42.45 ID:???
トイレでヒカルたんがk官に輪姦される姿でも妄想しながら眠るとしよう…(;´Д`)ハァハァ

133 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/07(火) 21:46:20.58 ID:???
ここに居るのは、体の疼きが治まるのを待ってくれるほど悠長な面子ではない。
だらりと垂らした左腕を強引に取られ、引きずるように立たされる。まだ脚に力が入らず、何度も膝を
付くのを見かねた私服警官が脇を抱えるようにして支える。男のシャツが擦れる感触に、敏感になった
肌がざわついた。ヒカルは声が洩れないように唇を噛む。
まだ容疑者ではないと弁明しておきながら、随分な扱いじゃないかと毒づきたくなる。
脱いだパジャマの代わりに、丈の長い入院着に似たものを渡される。もそもそと羽織ると、ヒカルの体
内を探った男が外した手袋をダストボックスに放り込みながら声を掛けた。
「ショックなのは無理ないけど、この検査で出しちゃうヒトも結構いるから気に病むことないよ?」
フォローのつもりだろうが、あまり嬉しいものではなかった。
半ば抱えられるように部屋を出て、すぐ近くにある手洗いに向かう。個室の前で紙コップを手渡され、
尿を採取するよう指示された。
個室のドアを閉めようとするのを、警官の手が阻む。
「閉じないで。あと、後ろじゃなくてこっち向いてして。隠さないように」
個室の前には、所持検査の時と同じくらいの数のギャラリー。
さっきから無駄に人が多いな、と思っていた。
薬物使用者が暴れた際に取り押さえる人員が必要だという知識のないヒカルには、ただの人件費の無駄
にしか見えなかった。
「着てるものの前は開く。コップでチンコ隠しちゃダメ」
今度は羞恥プレイかよ、と流石に戸惑う。
「緊張して出ないかな?こんなの、オリンピック選手はドーピング検査でしょっちゅうだから」
(いやオレ、オリンピック選手じゃねーし)
「緊張つか……あんま水分摂ってないんで」
本当の事だ。経口で食事できるようになりつつあれど、また受け付けなくなるのではという微かな怖れ
が拭えきれていない。自然、病院で出る食事もセーブしてしまうし、合間に殆ど水も飲まない。
坂巻とやりあった時のように感情が高ぶると吐いてしまうほど、まだ不安定だ。
「全然出ないってこたないでしょ」
扉の前を塞ぐように立ち塞がった、体格のいい私服刑事が脅すような声音で促す。
「…………」
ひとつ溜息を吐き、ヒカルは着たばかりの入院着もどきの紐を解いた。
後ろを向くな、とは前を向いて座って採尿しろ、ということだと解釈する。
丈の長いそれは、便器に座るのに邪魔だ。要は見せればいいんだろう、と全部脱いで水タンクの上にぐ
しゃっと丸めて置く。座ろうとすると、蓋と一緒に便座まで上がっていたので危うく尻が嵌るところだ
った。
思わず「何だよもう」と悪態をついてしまう。
便座を下ろし、どかっと腰を下ろした。
コップに向けようと触れた性器がぬるついている。何でもない風を装って、ヒカルは無造作にちぎった
トイレットペーパーでそれを拭き取り、便器に捨てた。
正直、今は感じる場所に触りたくなかったが止むを得ない。快感がじわじわと湧き上がるのを顔に出さ
ぬよう努力する。
膀胱に意識を集中するようにして待ち構えていると、排尿時独特の小さな震えが肩を揺らす。
ちょろ、ちょろと貧相な音と一緒に黄色味の強い液体が断続的に紙コップを叩いた。
「っ……はぁ……」
弛緩すると同時に、自然と吐息が洩れた。
立ち昇る臭気の中に、ヒカルは悪夢のような記憶の欠片を嗅ぎとってしまう。
あの、ビタミン臭。
食事だけではまだ補えないため、毎日受ける注射の、あの臭い。嫌なものを思い出してしまった。
「少ねえな。これで検査、回せるんすか?」
覆い被さるように覗きこんでいた私服警官が、首だけで後ろを振り返って誰かに問いかける。
コップには1cmあるかないかほどしか入っていない。
私服警官の背後から、にゅっと顔を出した別の男が、ヒカルが持ったままのコップの中身を検分する。
「うーん……いけないことは、ない、かな」
その返答に、ヒカルの全身が安堵で脱力する。これ以上搾り出せと言われても無理だった。

134 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/07(火) 21:47:55.33 ID:???
今日どうしてもここだけは投下したかったので短いながら(こそっと

135 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/07(火) 22:12:09.15 ID:???
一文抜けてやがるせいでヒカルたんが毎日のお注射怖がるショタっ子に
なっとる…orz

メイツ各位で脳内補完して下され(土下座

136 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 00:35:37.95 ID:???
ヒカルたんの放尿プレイ(;´Д`)ハァハァ
ごちそうさまです(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

お注射嫌がるヒカルたんも可愛いというのもまた事実

137 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 03:42:46.54 ID:???
お注射嫌いなヒカルたんに俺のお注射を…(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

138 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/08(水) 04:33:20.13 ID:???
捜査関連の資料を軽くおさらいしながら、尋問を担当する中年の刑事は『被疑者』が来るのを部屋で待
っていた。
七月初旬に匿名のタレコミがあって以来、内偵を進めては来たが。実際の所、捜査は暗礁に乗り上げて
いた。洗っても洗っても、当該人物を引っ張れるに値する情報が殆ど出てこないのだ。
引っかかってくるのはどれも噂レベル。だが、たかが噂と切り捨てるのはどうかと思えるものもあり、
チームを縮小して引き続き注視していた。
そこに送りつけられてきた、これまで掴めなかった具体的証拠になり得るモノ。
数少ない不審点と合わせて攻めれば落ちるだろうか。
病室に踏み込んで同行を要求した時も、刑事に挟まれて車に押し込まれた時も。
全く怯む様子を見せなかった青年。
たとえ潔白であっても、普通の人間ならもっと狼狽する。
常習犯なら開き直って堂々としている者も多いが、彼は違う。
「一停無視だけで、あとはまっさら……か。こりゃ難敵だ」
ぼやいた所に、ドアの開く音がした。
「検査終わったっす」
所持検査、尿採取に立ち会った若い刑事が、件の青年を連れて入室してきた。
屈辱的な仕打ちを受けて、疲れたようには見える。
だが、別段取り乱した様子もなく、ふてぶてしいほど落ち着いている。
「ここ座って」
中年刑事が机を挟んで真正面のパイプ椅子を指し示すと、おとなしく従う。
「さて、と。間違って別人連れて来ちゃってたら困るからね、確認させてよ。名前と生年月日、現住所
教えてくれるかな」
形式的なものでしかないが、最近は冤罪などに大して人権団体やオンブズマンが喧しい。
相手は著名人。万が一があって警察を糾弾するための看板にでもされたら困りものだ。
「進藤ヒカル。1986年9月20日。東京都────」
「生まれ年、昭和とか平成で言い直してくれる?」
そう言われて、不可解そうな顔をしながらも進藤は即答した。
「昭和61年」
「いや悪いね、俺は疑り性なんだよ」
「……はあ」
意味が今ひとつ飲み込めないと言った表情だ。それはそうだろう。西暦を和暦に言い直させるのは、こ
の刑事の癖のようなものでしかなかった。
「ありゃま、誕生日だったのにご足労願っちゃって悪いねぇ……と、二十二たす二で、二十四か」
我ながら白々しい、と刑事は苦笑いを浮かべた。今日が誕生日であるくらい承知の上だ。
話に乗せるための前口上にしても下手すぎる。
案の定、乗ってこない。
「職業教えてくれますかね」
「日本棋院東京本院所属、囲碁棋士」
「ちなみに何段なの」
「九段」
「俺、将棋しか知らないんだけどさ、九段つったら一番上の段じゃないの?囲碁も一緒?」
「ええ」
「アンタくらいのトシでそれって凄いんじゃないの?何人もいないでしょ」
「あと一人」
なかなか会話の体にならない。完全に警戒されている。否、言葉尻を捉えさせまいと臨戦態勢だ。
見た目は線が細いくせに、なかなかどうして。締めて掛からねば。
「……なんでここに今、自分がいると思う?」
右手の指先を進藤の前に持って行き、トントンと机を叩きながら刑事は切り出した。
「覚醒剤がどうとかって病院で聞きましたけど、違うんですか」

139 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/08(水) 04:33:50.78 ID:???
「そうだね、恥ずかしい検査にも協力してもらった。で、そんな疑いがかかっちゃった理由がわかるか
なって話」
「さっぱりです」
「身に覚えがない?」
「全然」
「嘘ついてもさ。検査したらバレちゃうし、今入院先の部屋とご自宅を探させてもらってるんだけどね、
そこで見つかったら終わりだよ」
「逆に訊きたいです。何でオレにそんな疑いがかかったのか」
あくまで口調は冷静。狼狽える気配もなし。
「俺さ、こんな仕事だからろくにテレビなんて観ないんだけど。ウチ帰って娘がつけてんのをチラ見す
る程度」
のらくらと引き伸ばして焦らしに出てみる。どこまで平常心でいられるか。
「そうですか」
やはりそうそう簡単には乗らない。
「娘に教えてやりたいから教えてよ。どっちが素なの?テレビの方?今の方?」
今の取り澄ました態度が付け焼き刃なら、化けの皮はすぐ剥がれる。
「キャラ作ってるつもりはないです」
一刀両断。怖いもの知らずだな、と刑事は感心する。
「そんな強がってるとね、痛い目に遭うかも知れないよ」
「…………」
挑発にも無反応。若いくせに隙を見せない。
中学生でシビアな勝負の世界に飛び込み、短期間で伸し上がったのは伊達ではないのだろう。
しかし、こちらは揺さぶれる武器を持っている。
「実はね、ちょっとキミに確認をお願いしたいものがあってさ……そこのテレビモニター見てよ」
言葉を受けて、控えていた若い方の刑事がモニターの電源を入れ、その下のラックに収納されているプ
レーヤーを操作する。
「ちびっと長いけどね、是非感想を聞かせてちょうだいよ」
プレーヤーにセットされていたディスクが再生を開始する。
ちょっとした見ものだ、と中年刑事は若い碁打ちの感情の揺れを観察と洒落込む。
テレビで見た記憶より少し長い髪に縁取られたその横顔は繊細で綺麗だ。
ディスク再生中のモニター画面で延々痴態を晒している人物と、目の前の食えない彼が同一人物とは。

ノーマルな性指向の持ち主なら目を背けたくなるような激しいアナルオナニーで狂ったように悶え。
数人の男達に代わる代わる犯されて声が枯れるまでよがり泣き。
危険な異物を挿入され、奥の奥まで暴かれて。
気の弱い人間が見れば貧血を起こすに違いない代物を、しかも主演が自分だと言うのに。
たった一言、途中で
「ああ、そういうこと」
と勝手に納得したように呟いただけで、とうとう最後まで眉ひとつ動かさなかった。
内心はどうか知れたものではないが、表面を取り繕いきるだけでも大した心臓だ。

再生終了後、気持ちを立て直す時間など与えず畳み掛ける。
「ちょっと前に誰だかに襲われたとかで世間じゃ同情されてたけど、やっぱ男が好きなんじゃないか」
「男が好きかどうかと薬の話が繋がりません」
進藤の童顔を構成する要素のひとつ、印象深い大きな目が好戦的な光を湛えている。
とことん理詰めで来る気か。
目の前にいる青年が、あんなハメ撮りビデオをむざむざ作らせるようなヘマをするとは思えなかった。
ヘマではないなら、残る可能性はふたつ。
自分も楽しんで参加したか、何かを盾に脅されたかだ。
取り敢えず、そちらは後回しにする。

140 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/08(水) 04:34:36.61 ID:???
「薬キメるとさ、寝ないでヤリまくれるんだそうだけど。アレ見たらホントっぽいねえ」
「ぼかさないで話してもらえませんか」
ずい、と刑事は机越しに身を乗り出し、生意気をほざく華奢な顎を掴む。
進藤は目を逸らそうともせず、見据えてくる。
「やってたんだよねぇ?薬打って男と乱交三昧」
少々凄んだところで動じないのは連行時の車内で先刻承知。
だが、ボディブローは連発してこそ効いてくる。
モニターとプレーヤーの電源を切った若手刑事が、進藤の背後に回って細い両肩を押さえつけ、脅し文
句をぶつける。
「アンアン気持ちよさそうに鳴いてた淫乱が、今更清純ぶってスカしてんじゃねぇよ」
「オレが淫乱なのと薬の話は分けて下さい」
自分の肉を斬るも厭わないときた。これは落とすのに手こずりそうだ。
「わかったわかった。じゃあ薬の話だけしよう」
刑事が体を離して椅子に座り直し、譲歩の言葉を出しても進藤は緩まない。
「でもね進藤さん、今見てもらったビデオとは切っても切れないのは前もって断っておくよ」
「本筋から逸れなければ構いません」
「まず質問。あれ、いつ撮ったの……これ、大事だから」
「バラバラです」
「どれくらいバラけてるの?あ、これも欠かせないから」
「どう大事で欠かせないか、説明をお願いします、っ!」
背後の若手刑事が、肩を掴んだ手に力を込めたのか。痛そうに進藤が呻く。
「もう一回訊くよ?期間がバラけてるって、どれくらいなの」
「……大体三年前から、今月頭まで」
「注射、あれはいつの?」
「今月頭」
「こんな事ずけずけ言っちゃって申し訳ないんだけどさ。あんた先月の頭から入院してるよね」
「…………」
「でもって、今月の頭から本業の試合っての?休業してるよね」
「はい」
「そんで何?最新のアレが今月頭?どうなってんのかなァ」
初めて進藤が返答に窮する。このまま押せる、と刑事は手応えを感じた。
「説明できない?」
「本筋じゃないです」
「それがそうでもなかったりするんだな。今月頭に注射がどうしても欲しくなって入院先を抜け出した、
なんてのが理由なんじゃないの?」
「違います」
「あのビデオで、キミ何度も『打って』っておねだりしてたじゃない。それでもシラ切るわけ?」
「刑事さん。これ、本筋の話なんで聞いてもらえますか」
「何?反論あるの?」
「さっき刑事さん、将棋なら解るって言ってましたよね」
「ああ。それが?」
「将棋は『指す』んでしたっけ……碁はね、」

『打つ』んですよ。

そう静かに言う口元は、微かに笑っていた。

141 :盆回し ◆lRIlmLogGo :2014/10/08(水) 04:35:07.63 ID:???
衆人環視の中で全裸に剥かれてイかされる
     ↓
衆人環視の中で全裸で放尿プレイ
     ↓
自分が主演のアレ(編集済)を見せられてからの精神攻撃

以上、三連コンボですた
引き続き、ヒカルたんのSAN値をゴリゴリ削って参りまつ
ヒカルたん「オレのターン来そうなとこで終わってるけど期待しないどこっと」

142 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 10:11:21.14 ID:???
ヒカルたんのジュラルミン製のハート(;´Д`)ハァハァ

143 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 10:16:10.91 ID:???
てっきり俺はみんながヒカルたんの全裸が見たくて複数で囲んでるんだとばかり…
変態は俺だった

144 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 20:59:17.07 ID:???

「変態!変態!変態!変態!変態!」

145 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 21:10:55.34 ID:???
ヒカルたんになら変態と罵られても本望

146 :名無しさん@ピンキー:2014/10/08(水) 21:12:27.98 ID:???
ヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
もっと罵ってくれ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

147 ::2014/10/08(水) 22:31:13.13 ID:???
(ヒカルたんへの歪んだ(;´Д`)ハァハァ、積もり積もって現在5645行
…受け取ってヒカルたん、俺の(;´Д`)ハァハァ)

ヒカルたん「遅漏はしつこいから大嫌いなんだよバカ!」

148 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 00:05:38.54 ID:???
しつこいから嫌い?
つまり早漏でいっぱい中に出して欲しいと…(;´Д`)ハァハァ

149 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 14:13:39.21 ID:???
よよよよーしおじさん、ヒカルたんが孕むまで頑張るからね(;´Д`)ハァハァ
出した後に何度もおじさんので中に塗りつけて着床させてあげるからね(;´Д`)ハァハァ
しし、知ってるかなヒカルたん、男の子は腸内で赤ちゃんを大きくするんだよ(;´Д`)ハァハァ
ホントだよおじさんの妄想なんかじゃないよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
おっぱいもおっきくなってミルクが出るようになるんだよ(;´Д`)ハァハァ
張って辛いだろうからぷっくり乳首をいつでも吸ってあげるよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
ダメだよヒカルたん、赤ちゃんがいるのに挿れて欲しいなんて(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
いやらしいおっぱいをいっぱいいじめてあげるから、それで我慢するんだよ(;´Д`)ハァハァ
おっぱいとポークビッツミルクおいしいよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

150 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 17:12:25.44 ID:???
ヒカルたんのあかちゃん…
28歳ヒカルたんが赤ん坊ヒカルたんを抱っこしている図(;´Д`)ハァハァ

151 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 17:13:06.94 ID:???
これまでヒカルたんのおかげでいろんな性癖が目を覚ましたお

152 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/09(木) 20:17:47.79 ID:???
(……まずったなあ。ついやりすぎたかも)
三つ子の魂百までってヤツだっけ、とヒカルは小学校で習った慣用句を頭の中から捻り出す。
元々、気に食わない相手は手段を選ばずやり込めるのを是としてきた。碁の世界に縁を持ってから、
久しく遠ざかっていたこの感じに、浮き足立ってしまったか。
(そーいや、阿古田さん元気かなァ。まだ白川先生の教室にいんのかな)

……『彼』は。対象外だ。師に選ばれた少年に、牙は剥けない。
その心理につけ込んだ陥穽が先刻見せられたビデオだけだと侮ったのは、ヒカルの手落ちであった。

「詩的だねぇ。でも残念ながら、あのシチュエーションじゃあ言い訳にしか聞こえない」
刑事もこの道の玄人だ。易々と煙に巻かれてはくれない。
「注射はただのビタミン剤です」
突ついてみて釣れなければ、淡々と事実だけを述べる路線に戻すが吉。
「確かに、一見そうだね。普通、覚醒剤なんかだともっと小さい注射器を使う。だからといって、あ
のでっかい胴体の中身に混じってないと、証明できるの?」
そこを衝かれると痛い。確かに自分では証明する手立てがない。
真実を知るのは『彼』のみなのだから。
「禁断症状って出るはずなんですよね?そんなの覚えがない」
「出そうになったら病院を抜けだして、打ってもらいに行ってたんでしょ?」
(まずいな。手合のスケジュールと病院の外出記録を照らし合わされてる?)
断薬症状がどれだけの時間経過で出てくるかなど、ヒカルには知りようはずがない。
常習性と断薬症状を混同してしまっているのも悪手であった。
刑事が、この混同をうまく使って話を掏り替えているのにも気づかない。
「そんな薬に手を出したことはないです」
「だからさァ、言ったでしょ?嘘吐いたら終わりだよって」
「検査したってションベンからは何も出ない。病院も家も、探したって何も出て来やしない」
「断言しちゃったねぇ……いいの?」
刑事はまた、身を乗り出してヒカルの顔を威嚇するように覗きこむ。
「身に覚えがないのに、あるなんて嘘は吐けない」
負けじと、ヒカルは睨み返す。
『打って』という言葉の真意を、この場で説明して信じてもらえる確率はないに等しい。
刑事は最初から結論ありきで話を誘導してくる。ヒカルは『彼』の存在を明かせない。
それを完全に見越し、煽りに煽ったテロップまで使って注射の中身が危ない薬だと誤認させるよう編
集されたビデオ。
(やってくれやがるあのガキ)
感情など表に出している暇はなかった。見た後の追及をどうやって躱そうか、必死でシミュレートし
ていたのだから。
自分だけならどうなろうと構わない。保身に走る気など塵ほどもない。
だが、周囲を大きく巻き込むこのやり口は看過できない。
(……塔矢、オレのせいだ)
ヒカルが一人で抱えてしまったために、アキラは名人位を落とすかも知れない。しかも謹慎による不
戦敗という極めて不名誉な形で。
ここを凌ぎきれば、アキラを救うカードがまだ手元に残る。ほんの少しの可能性でしかないが。
ヒカルが屈し、容疑が確定すればそのわずかの希望も潰える。
「どーも、平行線だねえ。じゃあ、一旦ビデオの事から離れようか」
椅子にだらしなく身を預けなおした中年刑事が、仕切り直しを提案する。
「?」
まだ何かあるのか。それとも、ただの世間話で油断させようとしているのか。

153 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/09(木) 20:19:07.11 ID:???
「八月頭に入院したんだよね。日本棋院から救急車で搬送されて」
「はい」
「脱水症状で朦朧としながら、ええと何だっけ、試合?」
「手合」
「そうそれ。終わった直後に倒れたって」
「そんな事まで薬に絡めてくんすか。どういう根拠で」
いけない。自分で話を先回りさせてしまった。少しの綻びが致命傷となりかねないのに。
刑事は、得たりとばかりにニヤリとする。
つい、とヒカルの前に一枚のプリントアウトが差し出された。どこかの掲示板に書き込まれた文を印
刷したものだった。
書き込みの日付はヒカルが緊急入院した日、すなわち手合日。
匿名だが、内容からしてヒカルの対局相手だと伺える。
「興味深いと思わない?この書き込んだ主、六段なんだそうだけど……九段と六段って、そんなに圧
倒的なの?力の差」
「人によります」
そう言うしかない。ヒカル自身、最強の初段などと言う二つ名を頂戴して高段のベテランと渡り合っ
た時期がある。
同じ段位でも、どんな経過を辿って昇段したかで実力はピンキリになる。負けの方が多くても、少な
い勝ち星をコツコツ積み上げれば昇段は可能なのだから、必ずしも段位が実力を完璧に反映している
とは言い難い。プロとして生き残れないほど勝率が悪いのは論外だが。
「よくわかんないけど、まあいいや。この六段さん、フラフラだったキミに立ち直れないくらいコテ
ンパンにされたって嘆いてるね」
この対局の記憶は殆どない。病院で意識がはっきりしてからアキラに中押し勝ちだと教えられたほど
酷く欠落している。そんな状態で対局に臨まれた相手には申し訳ないと思ったが、謝罪などしたら余
計にプライドを傷つけるだろうことははっきりしていた。
「持ち時間てアレでしょ?なんか秒読みして減っていくヤツ。それを全然使わずに六段相手に勝てち
ゃうって凄いんじゃないの?」
「……この日のことは、よく覚えてなくて」
「記憶が飛んじゃうくらい体調悪いのに、結果は一方的な勝ち、ねぇ……」
「それを薬にこじつけるわけですか」
「察しが良くて助かるよ。芸能人なんかが手を出しちゃう理由、結構コレが多いんだよ」
「コレって何ですか」
「曲やら歌詞やらのインスピレーションが泉のように湧いてくる、頭が冴え冴えするってね……だか
らさ、キミもおんなじ状態だったんでしょ?そん時」
「その日、オレが緊急入院したって知ってるのにそう来るのは苦しいんじゃないですか」
乗せられるな。向こうは、キレさせようと煽っているだけ。
感情のブレーキの効きが、徐々に甘くなり始めているのをヒカルは自覚する。
「担当医と話、したんですよね?オレの治療の記録とか、ちゃんと出してもらったんですよね?その
上で決めつけてるなら濡れ衣、話すらしてないならでっち上げだ」
これくらいのガス抜きは大丈夫か?この辺で気圧を少し下げておかないと、破裂して取り返しがつか
なくなる。
「やれやれ、参ったなあ。でっち上げとまで言われたら面子丸潰れだ」
「そっちの面子なんか知ったこっちゃない。病院にちゃんと確認したかどうか教えて下さい」
「……なあ。クロ前提で動いてるって、どういう事かわかるかな」
刑事がまた、出過ぎた頭を押さえにかかろうとする。脅しに腰が引けたら負けだ。
「逮捕状の請求準備した上で、おまえさんのガラを確保してんだよ。イミわかる?」

154 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/09(木) 20:20:03.59 ID:???
恐らく『彼』は、最も簡単に、かつ効率的にダメージを食らわすため、この罪状を選んだはず。
最悪の、更に最悪を想定しておくべきだった。
刑事が机の脇に置かれた電話の受話器を取り、内線通話の番号を押す。
「おう、さっきのヤツどうなった?……うん、そうそう。ん?……ハイわかったありがと」
具体的な内容を聞かせないのは、逮捕状に重ねて不安要素をちらつかせ、動揺を誘うためだろう。
「途中で話の腰折っちゃってごめんよ?で、お医者さんにはね、守秘義務ってのがあるの知ってる?」
「…………はい」
返答に迷ったが、結局素直に出ることにした。
「警察だからって容疑も固まっていない患者さんの個人情報ホイホイ聞き出せないわけ」
「クロ前提なんだから強制的に訊けるはずじゃ?」
「だからさ。おまえさんの逮捕後になるんだよ、そういうのは」
本当かどうか疑わしいが、そこのところはヒカル自身詳しくないので黙るほかない。
「八月の件も否認、と。裁判で心象悪くなっても後悔しないでよね」
今度は裁判を出してくるか。冤罪ってこうやって作られんのかな、とヒカルはどこか他人事のように
思い。
次の瞬間、寒気に襲われた。
幾ら探しても物証など出るはずがないと安心しきってはいなかったか。
もしも、『彼』が自宅に薬物を差出人無記名で郵送していたら?そこまで想定していたか?
無知であることは、即ち無力。戦うための武器も、身を守るための防具も持たぬ、裸と同じ。
徒手空拳で刑事と『彼』を相手に五分で張り合えるつもりでいたなど笑止。
(……今は余計な事は考えんな。目の前に集中)
己に言い聞かせ、心を奮い立たせる。
「訊きたい事はまだあってね。失礼だけど、最近お金の使い方荒くない?」
「普通です」
「年収が億いっちゃうヒトの『普通』は信用できないねえ」
やっぱり、とヒカルは刑事を改めて睨めつける。
こちらのことは何もかも調査済みのくせに白々しい事ばっか抜かしやがって。
「仕事で必要なもの以外で、大きな出費は三年前に車買ったくらいです」
「桁が庶民と違う外車なんでしょ」
(国産の二年落ちで悪かったな)
この手の偏見に、ヒカルはもう何年も前から辟易していた。稼ぎのいい人間は全て羽振りがいい、も
しくはそうあるべきだという風潮。
吝嗇家は確かにみっともないが、身の丈に合った生活を送っていれば充分で、無理して浪費する必要
などない。税金対策など浪費家のエクスキューズに過ぎない。無理に遣わず納税準備預金に突っ込ん
でおけばいい。節税に汲々するする暇があったら、その時間を碁に充てたい。
碁を始める前のちゃっかりした自分が今の自分を見たら、さぞ文句を垂れるだろう。
「あと、お家のローン名義もお父さんから変えたんでしょ?孝行息子じゃないの」
こうも開け透けに自分たち家族の経済状況を他人から聞かされるのは気分が悪い。
「その堅実なヒトがさあ、一昨年から毎月百万の現金を下ろして何に使ってるのかなーって」
「特に何も。いざって時の手持ちです」

155 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/09(木) 20:20:34.87 ID:???
ヒカルの口の中が、緊張で乾いていく。不審を持たれぬようにうまく喋れているか気に掛かる。
「そーお?キミ普段、支払いはカードで現金は余り持ち歩かないそうじゃない。非常時用たって、毎
月きっちり百万も下ろす必要ある?」
「全く現金を遣わないわけじゃないです」
「そりゃご尤も。でもね、その分は別途下ろしてんだよキミ」
「……銀行も個人情報に厳しいんじゃないでしたっけ」
「銀行さんから聞いた話じゃないんでね。キミと結構付き合いのある同僚さんにちょいとお伺いした
までだよ」
ヒカルは一旦呼吸を止め、腹に力を入れなおす。
刑事との火薬臭漂う遣り取りの間に、全身に纏わりついて舐めまわすようだった快楽の残滓は消えて
いた。
全てを鵜呑みにするのは危険。無闇矢鱈に反駁するのも危険。
ばっくり口を開けたクレバスの間に渡された細いロープの上を慎重に歩かなければ。
落ちれば終わり。深い深いクレバスの底に湛えられているのは、煮えたぎるマグマか酸の湖か。
「毎月きっちり百万、ちょいと計算してみたら二千万ほどになるんだよ……でね」
ここからが本題か。ヒカルは止めていた息を静かに吐き出して次の言葉に備える。
「覚醒剤の末端価格って言葉、見たり聞いたりしたことあるでしょ?まあ今は大体、グラム六万から
十万とも言われてるかな。結構流動的でね、その時々によって変動すんのよ」
「…………」
うまい返しが浮かばなければ黙るに限る。下手なことを口にすれば藪蛇になりかねない。

『早めに対処したんですけどね。それでも二千万の損です』
『それを……オレに出せって?』
『そこまで鬼畜なことは言いませんよ。ただね、頭の片隅にでも留め置いて下されば充分です』

いつその補填をしろと言われてもいいように、少しずつ引き出して自宅に置いていた。
二千万円をいきなりでは銀行での手続きが面倒なうえ、家族にも不審がられる。
月に百万なら、銀行ATMでの一日あたり引出限度額にも収まるので都合が良かった。成人してからは
金銭の管理に親が口を出すことはなくなっていた。
その金の遣い先が、七月から胡散臭い連中を丸抱えしての、あの滑稽なエログロショーなのだから。
笑えるばかりで涙も出ない。
『それを刑事さんに恥を捨てて説明できたら、ほんの少しでも潔白の証明になりますよ』
そんな勝ち誇った言葉が、『彼』お得意の腹の立つ口調でヒカルの脳内に再生される。
(畜生、何から何まで計算づくかよ……)
焦るなと幾度自分に言い聞かせても、じりじりと迫ってくる焦燥感。
「さて、仮にグラム八万で計算したら、二千万でどれだけ買えちゃうかなァ……また芸能人を引き合
いに出してアレだけど、あのヒトらが常習者になるのって」
ぶっちゃけ、お金持ってるからなんだよね、と。
聴取が始まってからこれまで聞いたことのないねっちりした声音で、刑事はヒカルの心に毒を塗りこ
んだ。

「でさ。オシッコから出るわけないって啖呵きってくれちゃったよねえ?……さっき電話で確認した
んだけどさ。出たよ?陽性反応」
──────何かの間違いだ。そうに決まってる。

156 :◆lRIlmLogGo :2014/10/09(木) 20:21:12.73 ID:???
ヒカルたん、実は崖っぷちですた(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

……放尿プレイ回にて重大なミス発見orz
今回含め後の投下分でしれっとカバーする(できんのかよ)から見なかったことにしてホスィ
ヒカルたん「オレんことネチネチいびって喜んでるからバチが当たったんだこの変質者!」
ご褒美もっとちょうだいヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

157 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 22:14:05.52 ID:???
ウワアアアヒカルたんんんんんん

158 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 22:14:39.20 ID:???
まだまだ落ちるよヒカルたん…
続きが気になって仕方がない…(;´Д`)ハァハァ

159 :名無しさん@ピンキー:2014/10/09(木) 22:37:25.98 ID:???
ただの脅しかこっそり彼に打たれてたかどっちかだな…
ちくしょうヒカルたんをこんな目に合わせやがって許さん!
ヒカルたんは俺が守る(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

160 ::2014/10/09(木) 22:55:23.51 ID:???
自分が思っていた以上に広げた風呂敷がデカかった…
回収に入って随分経つのに長い長い長すぎる
つきあってくれてるメイツありがとうスレ浪費して申し訳ない

そして若゛は今のところ全くの役立たずである
いいところは全部トーマスに取られている
ていうかヒカルたんに全力で守られてますがどうなんだそれは

161 :名無しさん@ピンキー:2014/10/10(金) 04:48:28.04 ID:???
連日の投下乙乙乙

162 :名無しさん@ピンキー:2014/10/10(金) 13:54:10.48 ID:???
・ほっぺぷにぷに甘えたヒカルたん
・伏せ目が色っぽい妖艶ヒカルたん
・別におまえのためとかじゃないからな!なツンデレヒカルたん

163 :名無しさん@ピンキー:2014/10/10(金) 14:34:58.27 ID:???
ぷにっぷにのショタヒカルたんに
「べっ、別におまえのためじゃないんだからな!」
ってホッペ真っ赤にして言われたい…(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

エロい空気を纏う表情のヒカルたんは別腹で(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

164 :名無しさん@ピンキー:2014/10/10(金) 15:56:50.11 ID:???
合法ショタヒカルたん

165 :名無しさん@ピンキー:2014/10/10(金) 15:59:05.40 ID:???
ヒカルたんのおっきなまんまるおめめに見つめられたい

166 :名無しさん@ピンキー:2014/10/10(金) 23:06:23.96 ID:???
ヒカルたんに見上げられたら俺のムスコがおっきしちゃうよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

167 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/11(土) 00:05:00.97 ID:???
※※※

「あいっ、つ、つ、つ……」
三年前から幽霊とセットで取り憑いた騒音に伴う頭痛に、少年は呻く。
それによる想像を絶するストレスは日毎夜毎に蓄積され、膨張していく。
この甲高い騒音を彼の頭に植えつけた張本人への憎悪も等比級数的に強まっていく。
結果、体の他の部分にまで不調を引き起こし、強力な鎮痛剤の濫用も相俟って胃には慢性の潰瘍がで
きていた。
「……出るんだよねえ、市販の風邪薬でも。簡易検査だと」
声を上げて笑うと、頭が破鐘のように痛む。
休業に入ったヒカルには、摂食障害治療のために向精神薬が投与されている可能性が高いと少年は推
察していた。
簡易検査では高い確率で向精神薬の成分も拾ってしまう。故に、誤認逮捕防止には科学捜査研究所で
の精密な鑑定が必要になる。
しかし昨今、簡易検査の結果で逮捕、後に正式な鑑定によって釈放というケースが出てきている。
「もし本当にシャブ使ってたとしても、二週間も経ってりゃもう出ないの、あの人知ってるかな?知
るわきゃないか」
薬物が体外に排出されるまでの時間には個人差がある。検出される可能性がないわけではない。
ただ、それでも著しく低い。
簡易検査で陽性反応が出たなら、ほぼ間違いなく病院で投与されている薬の方だ。
それにヒカルが気づくか気づかないかは大した問題ではなかった。もっと言えば、簡易検査の結果そ
のものもどうでも良かった。逮捕されるされないも同様。
尿検査でシロと出れば、常習を疑われているので次は毛髪検査を要求されるだろう。こちらは結果が
出るのに一ヶ月以上かかる。
その間、ヒカルは世間から「限りなく黒に近いグレー」として扱われる。
「そんな危ないの飼っとけるほど、棋院の懐は広いかな?」
幽霊は沈黙を保っている。もう何の口も挟まないし、泣きもしない。
こちらから声をかけても返事をしない。ただ存在しているだけなら空気と同じだった。
(ずっとそうしていろ。おまえは勝ち星を調整するためだけのマシンでいい)
あとはこの頭痛を何とかしたかった。
少年の持つ人脈に触法の類はない。注射器だの処方薬だのは少年自身が扱えば薬事法違反になるもの
の、入手ルートはごく一般的な個人病院や個人薬局。無論、扱う資格のない少年に譲渡すれば管理責
任を問われはするだろうが。
全てネットでの繋がりだ。リアルで会うことは殆どない。そして皆、概して職業倫理に対する姿勢が
甘い。そういう便利な人間ばかり選んで付き合っている。

緊急入院する直前、朦朧としながらも持ち時間を殆ど消費しない早打ちで相手を叩きのめしたこと。
まとまった額を普段遣う金銭と別途に毎月引き出していたこと。
薬物使用と紛らわしいほど神がかった碁と、使途不明金。
これらの情報は、彼自身が提供したものだ。
前者は匿名で掲示板の該当部分のURLを足がつかぬようネットカフェからメールで送り。
後者は刑事の聞き込みに、ただのプロ棋士でございと言う顔をして答えてやった。

こんな仕打ちをしたとて、三年間頭で鳴り響き続けた泣き声が止むなど考えてはいない。
遣り場のない憎悪を、ただ発散させているだけに過ぎない。
思い描いていた人生プランを白紙にされた。
なりたくもなかったプロ棋士にならざるを得なかった。
院生の時には最低限で良かった生身の人間との煩わしいしがらみが、更にストレスを倍加させた。
閉塞した狭い世界。古臭い仕来り。上下関係。大嫌いなものばかりがぎっしり詰まっていた。
それが嫌で学校に行かなくなったのに、本末転倒だった。

「さて、ボクは慈悲深いからさ。細い細い蜘蛛の糸を一本、垂らしておいたんだけど」
果たして、掴むことができるかな。それ以前に、見つけることができるかな。
「急いでその糸探してあげなきゃ、大事な恋人が檻の中かもですよ?塔矢先生」

168 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/11(土) 00:05:32.78 ID:???
※※※
簡易検査の結果は鵜呑みにできない。だがこれは重い一撃のはずだ。さあ吐いて楽になれ。
聴取担当の中年刑事は相手の挙動を観察する。
(……ち、折れねぇってか。可愛気のない)
頬の色こそ白くなってはいたが、まだ目の光は失っていない。
戦う意志はまだ残っているという訳だ。
逮捕状をいつでも請求できるよう、書面を整えているのはハッタリではない。新たな供述があればそ
れを追加記載して迅速に裁判所へ提出する手筈になっている。
「結果が出ちゃっても、まだ見苦しい真似をするのかい?褒められたもんじゃないなあ」
捜査の一環として、この二ヶ月進藤の為人も聞いて回った。小中学校の同級生に担任教師、院生仲間、
プロ棋士。それにテレビ番組の共演者。
浮かび上がってくる人物像の共通項は、負けず嫌い。
(劣勢に立たされた時の悪足掻きっぷりは囲碁界随一、か。こりゃ骨が折れる)
最後の最後まで負けを認めず粘り続けるため、中押し負けの数の少なさも際立っているとか。
(それでも、だいぶグラついてはいるわな)
スッパリと斬るようだった受け答えが、ここに来て少し感情的な長いセンテンスになってきている。
元々が体調を崩して入院中の身を引っ張って来たのだ。体が弱っていればメンタル面も相応に落ち気
味となるのは道理。
「見苦しくたって、冤罪なんてゴメンだ」
「現に使ったって証拠が出てんのに冤罪とは図々しいじゃないか、あ?」
進藤の背後にいる若手刑事が、肩を揺さぶって吠える。
その場所に控えているのは単なる脅し担当などではなく、薬物使用者の錯乱に備えてだ。
室内にはあと数人、体格自慢が出番を待っている。
「図々しくてもいい。オレは何も知らないんだから、そうとしか答えられない」
数時間の聴取において、進藤の言にも挙動にも薬物の影は確かに見当たらない。
およそ二週間、病院で雪隠詰めになっている間に薬抜きでもしたかと疑ったが、その線はないだろう。
入院以来、今日まで断薬症状に類する兆候は全くなかったと担当医が証言している。病室に踏み込む
直前に聞いた話だ。だからと言って、入院前に使っていないという確たる証拠にはならない。
ビデオの注射シーンが今月頭だという進藤の証言が真っ赤な嘘というのも充分考えられる。
五月から続く、不審な体調不良。それもここ三年毎年、決まった時期に。実に臭い。
本因坊戦三連続防衛。そのプレッシャーに負けて薬に手を出した。動機としては充分なのだ。
「おまえさんさ。病院に仕事だって嘘ついて、外泊許可もらって山梨行ったのが今月頭だよな」
「…………」
「で、一泊して死にそうな状態で戻ってきた」
「…………」
「山梨で何やってたのか、疚しくなきゃ答えられるよな」
「…………」
「答えられませんか?答えたくない?」
「…………」
表情は変わらないが、都合の悪い質問なのは疑いようがない。ここから崩せそうだ。
「そうだった忘れてたよ、あのお注射が今月頭だった。ヤボなこと訊いちゃったねぇ」
刑事は大仰に膝を叩き、声を張り上げて揶揄を浴びせかける。
「注射はビタミン剤だって言った」
「自分じゃ証明できないよね?じゃあ、アレ打った人に直接訊くとしよう。一体どなたさん?」
返って来たのは沈黙。

169 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/11(土) 00:06:14.15 ID:???
「あとさ、あの楽しそーな乱交パーティ。同意じゃなきゃ傷害罪が適用されるから、連中の身元を教
えてくれたら捕まえたげるよ?」
エサにも食いつかない。
「ふぅん。同意の上なの……顔に似合わずエグイ趣味持ってるねぇ。ファンが泣くよ」
傷つくようなプライドなど既に持ちあわせてない、か。
「でさ。山梨くんだりまで何のご用事だったの」
「…………」
「俺はねぇ、自分じゃあ気の長い方だと思ってんのよ。それでも限度ってもんがあらぁな」
『怒ったら恐いぞ』というチャチな恫喝も、消耗している今なら案外有効だろうか。
「答えてくれるまで訊くよ?何をしに山梨へ行ったの」
「…………」
「一晩泊まって、何をしてたの」
「…………」
「嘘まで吐いて病院抜けだして、何が目的だったの」
「…………」
「注射打った人物は誰」
そこで、初めて微細な変化に刑事は気づく。
頬の筋肉ひとつ、ぴくりともしなかった進藤が。注射を打った人物に質問が及ぶと。
ほんの少しだけ、注意していなければ見落としてしまうほど微かに。唇を噛もうとする仕種を見せる。
先程の質問の際にはどうだったか。記憶を辿れば、やはり僅かだけ目が泳いだような気がする。
「仲間意識は大切だけど、使い所を履き違えるのは良くないなぁ」
「…………」
「庇い立てするほど大切なの?自分が全部おっ被る気でいるの?」
さて、安直なカマかけに引っかかってくれるか?刑事は試してみることにする。
「もしかして彼氏なの?あーらららー、こないだ病院で襲ってきたってのがそうじゃなかったの?そ
れとも二股かけてんの?」
「そんなんじゃ」
聴取が始まって、本当に初めて。進藤が椅子から腰を浮かそうとする。
「そんなんじゃなかったら何。きちんと解るように一から十まで説明してもらえないかな」
「っ…………」
思わず口に出しかけたのだろう。ぐっと飲み込む。本当にしぶとい。
「説明してくんなきゃ、おまえさんがシロだっていう材料がなんも出てこないまま起訴までいっちゃ
うよ?それでもいい────」
刑事の繰り出すラッシュは、内線電話の呼び出し音で勢いを殺がれる形となってしまった。
「ったく。……ハイ、……うん?ちょっと待って、事前に依頼してたってこと?……うん、あー、そ
れはダメって断ってよ……」

170 :◆lRIlmLogGo :2014/10/11(土) 00:06:44.94 ID:???
若゛「二股とかありえないから!ボクだけだから!」
少年A「ボクが彼氏とか、誠に遺憾であります」

陥落寸前のヒカルたんに(;´Д`)ハァハァする末期な俺…
もうじき仕事が忙しくなるんで、それまでにキリのいいとこまで投下したいでつ

171 :◆lRIlmLogGo :2014/10/11(土) 00:23:43.61 ID:???
しまつたしゆうせいまえのほうをとうかしてしまつた
おれはどうしていつもこうなんだ
ああああああああ

(脳内日本語IMEが強制終了しました。再起動してください)

172 :名無しさん@ピンキー:2014/10/11(土) 00:47:31.93 ID:???
揺れ始めるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたんは追い詰められれば追い詰められるほどかわいいなあ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

173 :名無しさん@ピンキー:2014/10/11(土) 02:14:35.85 ID:???
盆たんお仕事忙しいのにいつもありがたや…

174 :名無しさん@ピンキー:2014/10/12(日) 13:27:37.99 ID:???
ヒカルたん今頃なにしてんのかな

175 :名無しさん@ピンキー:2014/10/12(日) 18:17:23.83 ID:???
ヒカルたんなら俺に跨って腰振りまくって絶賛精液搾り取り中ですが何か(;´Д`)ハァハァ
最初は組み敷いてガン突きしてたんだけど、俺が体力尽きて動けなくなったら
上に乗ってきてもう(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

あれだけしたのにまだ足りないとかイヤラシイなあヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
そんなにおっきな声で喘ぎまくったら隣に聞こえちゃうよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

176 :名無しさん@ピンキー:2014/10/12(日) 20:13:04.66 ID:???
>>175
そのヒカルたんは幻覚だ

177 :名無しさん@ピンキー:2014/10/12(日) 20:13:54.61 ID:???
え?ヒカルたんなら俺の膝の上でうたた寝してるけど?

178 :名無しさん@ピンキー:2014/10/13(月) 03:22:47.69 ID:???
>>177
模様は茶トラですかキジですか

179 :名無しさん@ピンキー:2014/10/13(月) 09:01:19.63 ID:???
>>178
ぷにぷにほっぺなツートーンカラーのかわいい男の子だよ(;´Д`)ハァハァ

180 :名無しさん@ピンキー:2014/10/13(月) 19:23:03.94 ID:???
一家に一人ヒカルたん

181 :名無しさん@ピンキー:2014/10/13(月) 21:21:32.22 ID:???
後ろからガツガツ突かれてトロ顔になってるヒカルたんエロいだろうなあ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

182 :名無しさん@ピンキー:2014/10/13(月) 21:23:12.89 ID:???
初めはやだやだ言ってたのに段々気持ち良くなってきて自分から腰を振るヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

183 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/14(火) 05:14:03.40 ID:???
※※※

広い車内の後部座席に、ヒカルは病院から連れ出された時のパジャマ姿で力なく身を横たえていた。
警察での聴取の間は、薬物がパジャマのポケット部分などに残留していないか検められていたため入
院着もどきのままだった。
「来るのがもうちょっと遅かったら、背中に手が回ってたな」
運転席に座る男が表情を表に出さない声音で言った。
「オレの指示通り、調書へのサインは拒否してきたか?」
「……海王の大将が、ヤクザみたいなおっかない外車で警察に乗り付けてくるとは思わなかった」
「これは事務所の車だ。で、拒否して来たんだな?」
念を押す岸本に、ヒカルは肯定の返事をした。
「調書の内容は刑事の音読じゃなくて、ちゃんと自分で読んで確認したか?」
「読ませろつったら拒否られた」
車の後部座席を囲むサイド・リアの各ウィンドウは透過性の低いスモークガラスになっていて、低い
姿勢になっているヒカルの姿を隠してくれている。
外観は黒光りする、威圧感たっぷりの堂々たるボディ。とても弁護士事務所所有の物とは思えなかっ
た。
「次呼ばれる事があれば、今日みたいに速攻でホイホイ行かず、先にオレに連絡しろ」

岸本が聴取の立会を求めて来たのは、刑事の下衆な揺さぶりにヒカルが激発する寸前というタイミン
グだった。相手は病人だ、と正論で来られ、刑事はヒカルのこれ以上の拘束を諦めたらしい。ヒカル
はあっさりと解放された。
調書が書き上がるまでの間は帰れなかったが、岸本はその時間をただ待ってはいなかった。
『中途での弁護士立会は認められない』『疑いの性質上、次回以降の立会も認めない』という警察側
の返答に、岸本は今回の聴取についての不手際や人権への抵触行為を逐一細かくあげつらうことで対
抗した。
まだ通常の食事ができない病身のヒカルを入院先からほぼ強制的に連れ出したのは、医師が『退院で
きる状態』だと太鼓判を押したからだ、と弁明する刑事に『それは自宅療養が可能となっただけで聴
取に応じられる体調とは程遠い』とバッサリいった。
更に岸本は警察側の手痛いミスを突いた。ヒカルに聞いた尿検査の手順が杜撰だったのだ。
定められた手順で採取したものでない尿を科捜研に送るのは言語道断、と岸本は刑事に詰め寄った。
また、ヒカルは疾病の治療過程において向精神薬を投与されており、簡易検査で陽性反応が出るイコ
ール触法薬物の使用だと短絡的に結びつけるな、とも。
岸本は刑事に、供述調書へ『尿検体の採取過程にて捜査側の不手際あり、証拠として採用不可』の記
述を追加するよう要求した。更に、調書完成時にはヒカルに目視で確認させようとしたが、ヒカルが
読むことを刑事に拒否されたとなれば、その文言が本当に記載されているか怪しい。

「紙コップで採っちゃダメとか一般人が知るかよって……その専用のコップってさ、警察に在庫置い
てあるもんじゃないのフツー?」
後部座席に横になったまま、ヒカルが愚痴っぽい口調でぼやく。
窓が目線より高いため、どこを走っているかさっぱり判らない。それ以前に、スモークガラスのせい
でろくに外が見えない。
「普通はそうだ。恐らく所定の場所に置いてあるのが切れて、保管場所まで取りに行くのが面倒だっ
たとかそんな下らん理由だろう」
「そんなんアリかよ……」
「もっと言うと、手順そのものがおかしい。コップを渡してさあ採れ、で終わりじゃない」
「あの羞恥プレイにまだオマケがあんのかよ……」
今回の検査が無効となれば、再度あの恥ずかしい思いをせねばならないだろう。
岸本もそれは想定済みで、本来ならどういう手順を踏まなくてはならないかを事細かにヒカルに説明
した。

184 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/14(火) 05:14:34.04 ID:???
「鑑みるに、普段からルーズなのが常態の部署のようだ。これまでも問題が起きていないはずがない。
それだけ忙しいのかも知れんがな」
「忙しいからってこっちにシワ寄せが来たらたまんねーや」
「……塔矢から聞いた話じゃ、四六時中朦朧として刑事相手にモノ言える容態じゃないそうだが。そ
の割には案外元気じゃないか」
岸本の口から出た名前に、ヒカルは思わず身を起こした。
「寝てろ。纏わりつく五月蝿い連中をせっかく撒いたのに、目敏いのに見つかってパーにする気か」
「塔矢が頼んだの?オレを弁護してくれって?」
バックミラーに映る驚いた表情にちらりと目線をくれてから、岸本はそうだと短く答えた。
「…………」
ヒカルは何度か言葉を紡ごうと小さく口を開閉したが、うまく形にならないようだった。
「電話口で後輩に泣かれては無碍にもできん。どういう伝手で探し当てたのかは解らんが。オレがメ
インの担当案件を持ってない新人で、比較的自由に動けたってのもおまえにとって幸運だったな」
「新人?」
「弁護士や検事は大学を出てすぐにはなれん。オレは早い方だ」
法曹への道を畑違いの人間に詳しく語っても意味が無いとばかり、岸本は説明を端折った。
「塔矢……泣いてたんだ」
「呑んでるんじゃないかってくらい呂律も怪しかったな。相当参ってるようだ」
「アイツが知ってるってことは、もうテレビとかで出ちゃってるんだ。今日のこと」
「塔矢は知らんのじゃないか?これから警察沙汰になるだろうからその前にサポートしてくれと言っ
ていたしな」
「……これ、から?」
「それで病院へ向かったら、とっくにおまえは引っ張られた後だったわけだ……ああ、あと。オレが
不用意な事をどこぞに喋ったせいでおまえが大変な目に遭っているから尻拭いしろだとかも。何が悪
いのか説明してくれと言ってもさっぱり要領を得なかった」
名人位を云々以前の問題なのかも知れない。アキラは壊れかけている、とヒカルは感じた。
そして、それ以上に気になったのは、まだ表面化していない今日の出来事をアキラが予測して岸本を
頼ったという事。
考えまいとしても。頭の隅に『彼』の影がちらつく。
ヒカルをとことん汚して甚振りたいなら、アキラが岸本を寄越すに至るようなアクションを『彼』は
起こしたりしないはず。
だが、現実には間一髪でヒカルは岸本の助けによって逮捕勾留を免れている。
(……なんでだよ、アイツはおまえの頭痛には関係ないだろ?)
ヒカルは両手で頭を抱え、きつく目を瞑る。
「塔矢の心的負担を軽くしてやりたいなら、今おまえがすべきはそうやって悩む事じゃない」
一連の出来事の裏を岸本に話してしまってもいいのだろうか。
アキラの重荷を下ろしてやるにはそれが最善なのだろうか。
けれど、それはアキラのために『彼』の処遇を司直に委ねるというのと同義だ。
『彼』の未来は閉ざされ、師の見果てぬ夢はまたも眠りにつかされる。
そうなれば師は『彼』と共に、また『彼』と別離して後、次の子供を何年待たねばならぬのだろう。
最後に会った時も、消える気配など全くないと『彼』はこぼしていた。
三年半。自分よりも一年長く、師はあの少年と共にいる。いつまで経ってもおよそ碁に対して不誠実
で、神の一手になど関心の欠片もないあの少年と。
性根があのままでも師が傍を離れないのは、『彼』には自分如きでは計れぬ何かがあるからだろう。
虎次郎が夭折してさえいなければ、師が辿りつけた可能性の更に先へ行ける何か。
(それを潰すなんて、オレには……)
ヒカルに出来る決断ではなかった。

185 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/14(火) 05:15:09.65 ID:???
車が向かった先は、病院ではなく自宅だった。
病室の家宅捜索後に美津子が退院手続きを取ったのだという。
「まあ、マトモな神経の持ち主なら居られんだろう。無理もない」
あれだけ頑なに、ヒカルが家に戻るのを拒んでいたのに。母の気持ちを思うと遣り切れなかった。
「ちっ。案の定こっちにもハイエナ共が待ち構えてやがる」
様子を伺うようにとろとろと車を動かしながら、さほど感情の篭らぬ声で岸本が吐き捨てる。
いつから張っていたのか、少なくない取材陣が自宅周辺に屯していた。
「まぁそうだろうね……警察の前にもごっちゃりいたから」
車を降りる前にヒカルには岸本に訊きたい事があった。
「オレと塔矢のこと、どれだけ知ってんの」
「巷の三文スキャンダルで仕入れた程度でしかない」
「全部ホントだとか思ってないよね」
「おまえに関するオレのこれからの仕事に必要なことか?」
「どうだろ。今日、刑事に色々詮索されたからさ。言っておかなきゃなのかなって」
「……必要なら後日、他も含めて近いうちに改める。できれば次の出頭を要請されるまでに」
「ん。ありがと」
岸本は車を、家の門扉ギリギリにつけた。後部ドアを門扉の前に来るように停めたおかげで、塀を乗
り越える不届き者でもいない限りヒカルは取材陣に捕まらず敷地内に入れる。岸本は手元を操作して
後部ウィンドウを開けた。ヒカルがそこから手を伸ばし、門扉の細い閂を外す。内開きの門扉を押し
て隙間を作ってから、ぶつけないようドアを開ける。
わっと押し寄せてくる無神経な声の群れを耳に入れないようにしながら、二ヶ月半ぶりの我が家へと
ヒカルは足を踏み入れた。背後でほんの一時、車がバックする警告音がする。続いて、ドアが開く音。
岸本も降りてきていた。取材の連中を牽制するためだとすぐに解った。
玄関はいつものように施錠されていて、鍵を持っていないヒカルは入れない。散々怖がらされたせい
か、何度チャイムを鳴らしても誰も出ない。それとも、居留守ではなく本当に無人なのか。
もっと嫌な想像が、ヒカルの脳裏を掠める。自分は、この家からはじき出された存在になってしまっ
たのだろうか。
陽が落ちて涼しくなったのとは別種のひんやりした空気が、ヒカルの背中を撫でる。
隣を見れば、岸本が携帯電話で何かを話している。その通話が終わって程なく、やっと玄関ドアが細
く開き、ヒカルだけが引っ張り入れられた。

岸本は、ヒカルが屋内に入ったのを見届けてから、踵を返した。
雲霞どもの相手をしてやる必要はない。精々、敷地内に入ってくる不調法者に住居不法侵入だと警告
してやるくらいだ。
手に余るなら頼って構わないからメインでやってみろと所長から許可は出た。
司法修習を終えて昨秋から世話になっている事務所は比較的大きな部類で抱える弁護士の数も多く、
専門分野にも偏りがない。経験不足をカバーしてくれる先輩が控えてくれているのは心強い。
それにしても、初めて自分が主体で動く案件のクライアントが中学の囲碁部繋がりとは。
岸本は奇縁を感じていた。
細かい打ち合わせは、後日にする。今日のヒカルは疲れて磨り減っている。こんな時にあれこれアド
バイスをしても右から左に違いあるまい。

「……?」

彼の背後で鈍く大きな物音がした。ドアに何かがぶち当たる音。
続いて、女の金切り声。やめて、お父さんやめて、と。
もう一度、岸本は玄関ドアに向かった。先程と同じく、携帯電話でこの家の番号をコールしながら。

186 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/14(火) 05:15:40.76 ID:???
※※※

和谷から教えられた携帯電話の番号を押すのに、酷く手が震えて何分もかかった。
何故和谷が自分でコンタクトを取らないのかという疑問には、おまえの方が色々とアピールするもの
を持ってるからだ、と返された。
いきなり不躾に電話で依頼して、岸本がすぐ動いてくれるという期待は持てなかった。
しかも、動揺の余りまともな会話にすらなっていないのに。
夕刻になって、折り返しの電話でヒカルの入院先にいる旨を知らされた時には、嘘ではないかとさえ
思った。
岸本が行った時には、もうヒカルは連れて行かれた後だった。
警察署に向かい、これからでも可能なサポートをすると告げられてから、どれだけ時間が経過したの
か判然としなかった。時計を見るのが恐ろしくて。
岸本が大卒後に法科大学院ではなく旧司法試験の受験を選択していたのは天の配剤だった。法科大学
院から新司法試験では、最短ルートを駆け抜けても今頃は司法修習中で実務には就けていない。
尤も、そんな事はアキラに知る由もなかったのだが。
憔悴しきったアキラを見かねた芦原が、帰らずについていてくれた。夕食も振る舞ってくれたが、と
ても喉を通らなかった。
「……ちょっとだけ呑むか?ガチガチだと余計にできる話もできなくなるぞ」
芦原が自分の呑んでいる日本酒の小さなグラスをアキラに翳して見せる。
座り込んだまま、アキラは小さく首を振る。呑めば益々、口から出る言葉が怪しくなるに決まってい
る。ヒカルを救えるか否かという瀬戸際に、これ以上の醜態は岸本にも和谷にも晒したくなかった。
草臥れるほど待ち続けた電話が掛かってきたのは、午後八時過ぎだった。
「……もしもし、あのっ、進藤は」
『辛うじて間に合った』
緊張の反動で、一気に体がぐにゃりと弛緩する。力の入らなくなった手が携帯電話を取り落としそう
になり、お手玉状態となってしまった。
「……あ、ありがとうございます……」
目から零れそうになっている熱いものは、今月に入って流してきた冷たい涙とは違う。
『嬉し泣きするのは早い。悪い報せもある』
岸本の簡潔な言葉に、熱い涙が一気に冷える。
「なん……ですか」
出来るならもう聞きたくない。今日はヒカルの誕生日なのだ。これ以上の悪いニュースは心が受け止
められる上限を超えていた。

『俺の不手際で、進藤が怪我を負った。肋骨が二本折れてる』

187 :◆lRIlmLogGo :2014/10/14(火) 05:16:11.94 ID:???
(しれっと俺のミスをk察のチョンボにしたった、てへ)
台風で出雲駅伝が中止になって凹んでる盆でつ
俺の住んでるところは、まあフツーに台風ですた
メイツの皆は無事かい…
名前だけちょろちょろ出てたブラックコーヒー先輩、やっと出番でつ

ヒカルたん「プロットに無かったオレいびりを次々追加すんのやめてくんない」
その分プロットからごっそり削るんだよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
エロシーンが遠いよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

188 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 11:16:03.83 ID:???
ヒカルたんのかわいい肋骨がァ…

189 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 11:18:48.63 ID:???
台風ではしゃぐヒカルたん
電車が止まっておこなヒカルたん
雨音で声が掻き消されて思う存分喘ぐヒカルたん

190 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 13:32:23.45 ID:???
油断してたら風に乗って思わぬ遠くまで喘ぎ声が届いてしまうヒカルたん…
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

191 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 13:49:27.40 ID:???
>>190
何も知らない人からしたら風の音に混じって人の声が聞こえてきたらホラーだな…
それがイベントでの旅館滞在時とかだったら、翌日それが噂になってて赤面するヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

192 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 21:14:54.22 ID:???
イベントのお客さん相手に枕営業中だったりなんかした日にゃ
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

193 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 23:08:26.55 ID:???
枕営業ヒカルたんのエロさ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

194 :名無しさん@ピンキー:2014/10/14(火) 23:10:32.82 ID:???
元気

195 :名無しさん@ピンキー:2014/10/15(水) 00:00:34.97 ID:???
俺の下半身も元気

196 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/15(水) 19:01:54.69 ID:???
※※※

季節を大きく動かす雨が降りだした、その日。
芦原は対局室の前で目当ての人物を待っていた。
「あ、和谷クーン、おはよー」
エレベーターから出てきた和谷は、予想通り顔を引き攣らせる。にこやかな笑顔を作るのに失敗した
のがありありと見て取れた。
「相変わらずのリアクションだなァ。とっくに塔矢一門なんて解散状態なんだから、そんな力まなく
ていいのにさー」
「……ガキん頃から師匠に刷り込まれちまってるもんは仕方ないっすよ」
芦原が挨拶がてらに森下門下の人間をいじるのはお約束のようなものだ。いい加減免疫をつけるべき
だとターゲットにされる棋士の誰もが思っているが、なかなか師匠のマインドコントロールから抜け
出せないようだった。
「年季が入ってるねェ」
「で、今日こっちで手合じゃない人が何か用すか」
ホワイトボードに書かれた名前を見れば一目瞭然だ。芦原はきまり悪そうに頭を掻いた。
「申し訳ないんだけどさ。キミの対局が終わった後で時間、貰えるかな」
その切り出し方で、和谷は察してくれたらしい。顔つきが厳しくなる。
「どれくらい踏み込んでるんです」
「まあ、成り行きでね。結構ズッポリ」
芦原も、普段ののほほんとした雰囲気を表情から消す。
「その『結構』がどれほどなのかオレには判断つかないすね……」
和谷は顎に右手の指をかけ、思案した風に唸る。
「これから仕事とか入れてんすか」
「いや、なんも。待ってる間、アイツんとこ顔出そうと思ってる」
「おとついも行きました?」
「ああ」
誰に聞かれてもいいように、お互い固有名詞をぼかしたり省いたりして話す。
「動画、見ましたか」
和谷が声のトーンとボリュームを落とす。投稿サイトに彼が上げているのとは違うものを指している
のは明白だった。回答をしくじってはいけない。
「……全部ではないけどね」
電話中だったはずのアキラが苦悶する声を聞き捨てにはできず、再び部屋に飛び込んだ。
PCの音声がスピーカーではなくヘッドホン接続になっていたので、弟弟子の恋人が紡ぎ出す淫らな嬌
声を聞かずに済んだのだけが不幸中の幸いだった。
自失するアキラを必死で宥め、落ち着かせようと力を尽くした。
「言いたかないが……オレの知ってる人物じゃなかったよ、あれは」
芦原の知る快活で天衣無縫な彼ではなかった。それが偽らざる本音だった。
「どっちがホントのアイツだとか、言うのはナシです芦原さん」
刺の含まれる声音に、芦原は失言を悟る。
「いやスマン……無神経だった」
アキラに相談された八年前の時点で、男なのにどうだのとケチをつける気は失せていたけれど。
他の男を咥え込むのは別だった。一途なアキラに対する裏切りではないかと憤る気持ちが無かったと
言えば嘘になる。
だが、自分がアキラに肩入れするのと同じ気持ちで向こうもヒカルの側に立っているのは理解できて
いる。
芦原が二十年以上をアキラと共に過ごし、学び、競ったように。
和谷にもヒカルと共に過ごし、学び、競った十年以上の月日がある。
蔑ろにしていいものではなかった。

和谷の対局が終わるまでに、何をどこまで知ったのかできるだけ具体的に書き出すよう指示された芦
原は棋院近くの喫茶店に足を向けた。途中、コンビニで適当にノートも買った。
言葉を選び、推敲しているうちに予想外の時間が過ぎていた。
これからアキラの家と棋院を往復するには足りず、昼食をゆっくり食べたら余る。
喫茶店のランチタイムが終わる時刻に差し掛かっているのに気付き、慌てて日替わりを注文する。
食後のコーヒーを飲みながら、この半端な時間をどうしたものかと頭を捻っていると、幸いにも和谷
から終わったとの電話が入った。朝に一旦別れる際、番号を教えておいたのだ。
十分もせず、和谷はやって来た。

197 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/15(水) 19:02:44.60 ID:???
「早かったじゃないか」
「気が急いちまって中盤立て直せなくて。くっそ、B落ちしたかねぇのに」
「……悪いことしちゃったかな」
「いや、いいっす。どうせ気になってた事だし」
促されて芦原は書いたノートを和谷に見せる。
「白紙んとこ一枚もらっていいすか」
内容に目を通した和谷は断りを入れ、何も書かれていないページを破り取った。持っていたボールペ
ンで何かを書きつけると、芦原に差し出す。
『誰にも聞かれたくない。以降、ヒツダンで』
一分一秒でも惜しいのが見て取れる乱雑な字。面倒な漢字は省く方向なのだろう。
芦原は和谷の意図を汲み取って首肯した。
『岸本とのtel、途中でかわってきいてくれたのはわかった』
『弁護士と知り合い?』
『元院生。トーヤの先パイ』
くるくると狭いテーブルの上で紙の遣り取りが続く。
ヒカルが自宅に戻った直後に怪我をした事は和谷もネット記事で掴んではいた。憶測ばかりで仔細が
判らずやきもきしていたところへの芦原からの情報は有難いようだった。
ヒカルが怪我をしたと知らされたアキラは取り乱し、岸本とまともな会話が不能になっていた。
あの一日で色々ありすぎてパンクしてしまうのは仕方のない事だった。
自宅の玄関に入った直後、ヒカルは父親に殴られた。倒れたところを更に蹴られたのが原因で、肋骨
二本にヒビが入ったという。ドアが施錠される前だったため、岸本は速やかに割って入ることが出来
た。父親の怒りはそこでどうにか抑えられたのか、重ねて暴力が振るわれることはなかった。
『家にいられないんじゃ?』
『弁護士の家にかくまわれてる』
肋骨のヒビはギプスで保護するのが難しく、ヒカルも湿布だけの手当てと鎮痛剤の処方だけで安静を
余儀なくされているという。
『薬はのめるのか?つか前の病院の薬は』
『コナの方はムリだった。前の病院のは弁護士が母親にきいてどうにかした』
「……く」
和谷が唇を噛む。
まだ飲み込むのに支障があるのだ。なのに、そんな状態の患者を警察は。そう責めたげな顔だった。
「それでアンタの用件は済んだのか」
人生の半分以上、徒弟制に浸かりきったはずの和谷が敬語を使う余裕も失っている。
「ア」
名前を口に出しかけて、慌てて芦原は紙に書く。
『アキラからキミに伝えてほしいと言われたのは一応全部』
含みのある一文に、和谷は険しい視線を向けた。
「興味本位で首を突っ込んでもらいたくない」
全身で警戒されているのがひしひしと芦原に伝わる。
「実はアイツらの縁結びの神様ってオレなんだよな。これで理由になる?」
「え」
相談された時に誰にも言わないと約束したが、今は非常時だ。
許せアキラ、と心のなかで手を合わせ、芦原は自分の持っている極僅かな情報を開示する腹を決めた。

※※※

連日様子を覗いに来る芦原が、今日もまたやって来た。
初めて招き入れる客も一緒に。
「テメェを百回殺してもまだ足りねェわクソが!」
迎えた玄関口でいきなり罵声を浴びせられ、アキラは思わず後退る。怒鳴る和谷の隣では芦原が、ど
うしたものかとおたついていた。
「どんな分厚いツラの皮で被害者ぶってやがる!もうマジこの場で絞め殺してェ!止めんなよ芦原さ
ん!」
「いやいや止めるよ、ちょっと落ち着いてよ」
アキラの首に冗談でなく手が伸びるのを見て、あたふたと芦原は二人の間に体を割りこませて制止した。
和谷もここが玄関口で、特ダネをモノにせんと待ち構える連中に自分がエサを与えようとしているの
に気づいて取り敢えずは黙った。
前に一度怒鳴られて、病院でヒカルに狼藉を働いた件についてはそのまま保留になったと思っていた。
何故なら、もっと重要度の高い懸案に対処するべきだったから。
どうして今蒸し返すのかと考える時点で、アキラは甚だしく勘違いしていた。

198 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/15(水) 19:03:19.34 ID:???
アキラの自室に案内され、畳にどっかと腰を下ろした和谷は再び口火を切った。
「八年以上だと?ざけんなコラ。テメーらいくつだったよ」
努めて冷静を保とうとはしているが、吐き出す言葉の端々に怨嗟が籠っている。
「それも泣いて痛がるのを無理矢理ヤッただと?」
そこまで聞いて、アキラは芦原の方を向く。
その目に非難の色が宿っているのを感じ取り、芦原は弁解しようと口を開きかけたが和谷の舌鋒に遮
られる。
「アイツ全然慣れなくて、ずっと痛いだけだったって?それを気長にホモビも裸足で逃げ出すレベル
まで仕込んだ執念だけは感心するわ、悪いイミでな」
和谷の糾弾は、無数の鋭い刃となってアキラを切り刻む。
「ちょ、ちょっと和谷君、オレはそんなつもりで話したんじゃ」
「そりゃムシが良すぎるぜ。秘密を明かす代わりに仲間に入れろはいいけどな、聞いちまったからに
ゃコイツぶっちめなきゃ気が済まねェ」
恐らく、芦原は蚊帳の外に置かれっぱなしではアキラの力に充分なってやれないと考えて、これまで
誰にも秘密にしてきた事を和谷に明かしたのだろう。そのくらいは疲れ切った頭でも理解できた。
その内容が和谷の感情をどう掻き乱すかまでは思いが至らなかったのだろう事も。
だから芦原を責められない。和谷からぶつけられる怒りも甘んじて受けねばならない。
「そんでオレさ、あの超糞長ぇグロ動画見てて思ったんだけどよ……進藤アイツ、勃たなくなっちま
ってんじゃねーのか。あれもおまえの仕業だよな」
ヒカルはいつからか、前で達かなくなった。それは事実だ。
何故そうなったのか、きっかけがあったはずだが記憶は朧気だった。確か、前と後ろが一緒に刺激さ
れると混乱するとかどうとか。そんな理由だったように思う。
「……強制したわけじゃなくて……結果的にそうなった、としか」
非常に説明し辛い。どう言っても和谷は納得などしない、そんな気がする。
「おまえ、このお人好しに一年ちょっと相談してたって?進藤が毎度痛くて泣くばっかでどうしよう
って。それがある日パッタリ途絶えて問題は解決したんだって勝手に放置して、結果コレだよ芦原さ
ん」

あ、あ、あ。ダメ、ソコ一緒はダメ。触んないで。
でも進藤、痛いならせめてこっちで。
ヤダ、なんかごっちゃになって気持ち悪い、どっちかにして。痛いのはガマンするから。
……そう?じゃあ、ホントに我慢できる?キミのナカが良すぎて、今更やめられない。
いいよ、いい。それでいいから……おまえがオレんナカでイキたいなら、そっちだけにして。

あン、ぁあ……いたい……痛い……あっ……いた……あ……っは……はァ、ん、ンぅ……アッ、なん
か……なに、ぁ、これ……ぅあ、あ……ィひぃ、っ……あっ、あ、なに、なに、なに!あァア!ナカ
が……ッヘン、痛い痛いいたいぃ、はぁンんんぅ、アァああぁ────!

ヒカルの苦痛と快楽が入り混じった声をアキラは思い出し、同時に理解する。
あの日、病院で。理性の飛んだ自分がどれだけの事をしたのかを。
指で後ろを容赦なく攻め立てながら、前に挿った管を乱暴に抜き差しした。煽るように前を舐めた。
弱っていた体に、かつてああまで避けたがっていた快感の混乱を強いた。
「何もかもテメェの撒いた種じゃねーか!進藤と親御さんに土下座くらいじゃ全然足りねェぞどーす
んだコレ!」
「……じゃあどうすれば良かったんだ!」
俯きながら投げ遣りな買い言葉を吐くその面を、長く伸ばした髪が隠す。
一度意識してしまうと、欲しくて欲しくて堪らなくなった。どうしても手に入れたかった。
生涯、鎬を削り合う相手なのに。自分の胸だけに秘めておくことができなかった。
「進藤だっていけなかったんだ、『オレのこと好きなの』なんて挑発するから……!」
そう言えば、まだ。彼から返事を貰っていないままだった。
はぐらかされて、それきりだ。
ボクはこんなところで、好き放題に詰られて、座り込んだまま何をやっているんだろう。

199 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/15(水) 19:03:50.51 ID:???
若゛先生が実に潔くない。全編通してこんな感じでどうしたもんか。
余りに頼りないのでとうとう代理で芦原さんが参戦してもーたやないですか
若゛が漢になる日はやって来るんでしょーかねー

緒方「芦原が俺の出番を食いやがった」
気のせいです。
そして本人の与り知らぬところで色々暴露されてるヒカルたん…(;´Д`)ハァハァ

200 :名無しさん@ピンキー:2014/10/15(水) 20:08:39.48 ID:???
ヒカルたんいんぽ説がどんどん広がっていく…(;´Д`)ハァハァ

201 ::2014/10/15(水) 21:55:50.00 ID:???
ヒカルたん「塔矢のヘンタイ!くっきりはっきり脳内で再生すんな!」

めいつだもの あきら

202 :名無しさん@ピンキー:2014/10/15(水) 22:43:04.71 ID:???
ヒカルたんと合体できる若゛が羨ましい…

203 :名無しさん@ピンキー:2014/10/16(木) 18:01:01.16 ID:w4xRXvA8
お相手とのシチュイメージは、
若とは純愛、緒方先生にはテクで籠絡させられ、座間には弱みを握られ泣く泣くというイメージ

204 :名無しさん@ピンキー:2014/10/16(木) 20:09:55.49 ID:???
若゛はテクより愛情だ!と言ってそうだ…

205 :名無しさん@ピンキー:2014/10/16(木) 20:25:28.89 ID:???
そんな若゛先生に
「愛があるからいつまでも下手でいいって、それ言い訳だよね」
とヒカルたんが邪気のない笑顔で

206 :名無しさん@ピンキー:2014/10/17(金) 03:28:44.63 ID:???
ヒカルたんの悪意のない言葉が胸に刺さる若゛

207 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/17(金) 05:20:38.85 ID:???
「挑発する方が全部悪いってか?たいがいなオツム持ってやがんなァオイ!」
アキラの胸倉を掴み上げた和谷を引き離そうとしながら、ここに来て芦原は薄々勘付き始めていた。
何かと思考停止しがちなアキラをカバーするためになど、彼は一ミリたりとも動いていないのだと。
ただ必要だったから、結果的にそういう形で動いていただけだと。
状況が許すなら、彼はアキラを徹底的に弾劾したかったに違いない。堪えて堪えて、解けかけた氷の
下に煮えたぎる溶岩を辛うじて閉じ込めていたのだ。
その薄く脆い氷を、芦原は意図せずとはいえ踏み抜いてしまった。
「オレが悪かったよ和谷君、だからちょっとクールダウンしよう」
鬼の形相と化した和谷の目の下に酷い隈が出来ているのを、見たくもないのに見てしまう。
碌に寝てもいないのは言われずとも判った。
「あ゛?オレの頭は今これ以上ないくらい冷えっ冷えですが?」
芦原にしがみつかれ、和谷は憎々しげにアキラを突き放す。
「じゃあ訊くがよ、進藤はいきなりそんな挑発とやらをしたのか?好きなのかとか言ってくるだけの
事を、おまえが先にしたんじゃねぇのかよ」
アキラは何も言い返さず、ただ和谷を睨む。
挑発だのの話は、芦原には初耳だった。
どんな経緯で関係を持つに至ったかまでを尋ねるのは憚られたからだ。同意の上で、ただ知識がなく
未熟な故にヒカルに痛い思いをさせたのが後ろめたいから悩んでいたと勝手に結論付けていた。
そうでなければ続かずに一度の過ちで終わっていたはず、と芦原は軽く考えていたのだ。
(オレが止めていれば良かったのか?)
最初に相談された時点で。懲りたのならもう二度とするんじゃないぞと釘を刺していれば。
まだ十五のくせに何やってんだと叱っていれば。間に合ったのだろうか。
年齢の割に大人びて確りしているから。そうアキラを過大評価していたのは認めざるを得ない。
アキラなら大丈夫だ、大きく道を踏み外す真似はすまい。その信頼がそもそもの間違いだった。
気が付けば、こんな取り返しのつかない事態になっている。
────雨粒が窓を叩く音がする。
三人がほんの暫し沈黙した、その隙間を埋めるように雨音が部屋の中に侵入する。
しつこく居座っていた夏の空気を一掃する雨。
わずか一日で緯度が変わったのではないかと思えるほど急激な気温の変化を齎した雨。
「……ちょっと調べた。クスリ関連で常習を疑われたら、シロ確定まで長いことかかるって」
アキラは相槌すら打たない。突き飛ばされた時に崩れた姿勢のまま、悄然としてただ聞いている。
「その間ずっと、進藤はヤク中のレッテルを貼られ続けて過ごさなきゃいけない。いや、潔白が証明
されてもホントはやってんじゃないかって目でずっと見られる」
「…………」
芦原は口を挟みたくとも挟めない。
「入院してた部屋からも、家からも何も出てこなかった。でも向こうは常習だと踏んでるから、毛髪
検査まで引っ張る気マンマンだ」
「和谷君、毛髪検査って」
どうにか取っ掛かりを見つけ、芦原はアキラの代わりに訊いた。
それを一瞥し、あくまでアキラに向けて和谷は続ける。

208 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/17(金) 05:21:37.46 ID:???
「アイツの髪の長さはあって二十センチてとこか。つまり約二十ヶ月分遡ってクスリ使ってねえか調
べるんだよ。これが時間を食う。結果が出るまで一ヶ月以上」
「少なくとも……それだけの間は、その」
「そうだよ芦原さん。一ヶ月以上もの間、アイツは世間に犯罪者扱いされる……棋院がどう出ると思
う?なあ塔矢」
底冷えするような低い声が、アキラを打擲する。
「進藤のプロ生命は終わった。あの野郎以前に、おまえのせいだよ」
びくり、とアキラの肩が震える。
「ライバルの消えた世界で、一人味気ない碁でも打ってりゃいいんじゃね?心配すんな、トップ棋士
は進藤だけじゃねぇし、待ってりゃ下からまた強いヤツは出てくるさ」
「……もう、待つのは嫌だ」
アキラが小さく返す。

『プロ試験受けてもいいってお許しが出て三年目、今年もまた受けないの?アキラ先生』
『うん、もうちょっと考えてみたくて』
碁会所で客とそんな遣り取りをするアキラは、いつもどこか退屈そうだった。
すんなりプロ入りすることに、迷いのようなものがあるように見えた。
芦原が揶揄うと、そんなんじゃないよと拗ねた顔をした。
同世代の子供が戦意喪失してしまうほど飛び抜けた実力。相当の腕を持つ大人にしか相手を求められ
ない。碁に真っ直ぐ打ち込むあまり、学校では級友同士の話題に置いて行かれる。話ができるのは家
に来る年長者や碁会所の常連客。その悪循環。
アキラは自我を守る殻に閉じこもりながら、閉塞感に倦んでいたのだろう。
現れるはずのなかった存在が、殻を豪快に叩き割るその日まで。

「嫌ならどうするよ。野郎の首を今更取ったところで、進藤が失ったものは二度と戻らねェぞ」
アキラはすぐには返答しなかった。
ただ、和谷を見据えるその目には、今日初めて見せる強い意志が滲んでいた。
「どうもしない。彼の選択に、ボクも従うまでだ」
噛みしめるように、ゆっくりとアキラは言葉を発する。
その裏に潜む真意に、芦原は足元から背中に悪寒が駆け昇るのを感じて身震いした。
「オイオイ。進藤がおまえの分まで泥を被ろうとしてくれたのをムダにすんのか」
和谷が嘲笑混じりに問う。
「庇われたままでなどいられるか」
「おまえが腹切ったら庇い返すことになんのかよ」
「……それでも、何もしないよりマシだ」

※※※

「これまでのあらましは大体掴んだが、呆れるくらい頑丈に出来てるなって感想しか出てこないよ」
「まぁね。ガキん頃はホントそれっきゃ取り柄なかったし」

209 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/17(金) 05:22:09.10 ID:???
ヒカルは勝手に見つけて引っ張り出してきた折り畳みの碁盤をリビングのテーブルに置き、棋譜並べ
をしていた。残暑から一転、急に涼しいのを通り越して寒くなったので岸本のスウェットを着込んで
いる。
「遠慮も会釈もないな。余り荒らしてくれるなよ、片付けが大変だ」
「仕事の本と書類ばっかで荒らしたくてもキョーミわかねーや。冷蔵庫もほとんどカラだし」
「基本、外で食うしな」
負傷による発熱はまだ完全には引いていない。解熱剤が粉末で、そのままでもオブラートに包んでも
えずいてしまって飲めなかった。高熱が続くようなら次の診察日を待たず病院へ連れて行き、座薬で
も処方してもらおうと岸本は心積りしていたが、今日様子を見た限りでは杞憂に終わりそうだった。
「なんか部屋占領しちゃってゴメン。事務所の先輩んちに泊まってんだっけ」
「向こうには立派な客間があるからな。ここで寝袋生活を選ぶより何倍も快適だ」

岸本が他所で寝泊まりしているのには、ヒカルにベッドを明け渡す以外にも理由があった。
アキラからの酷く取り乱した電話からどうにか聞き出せた情報の断片を整理し、ヒカルがもう二度と
見たくないであろう動画を検証する必要があると判断した。動画の作成主を特定しようと動いている
のは和谷の方だと言うので連絡を取り、情報の共有を願い出た。
そこで一頻り文句をもらい、アキラが尻拭いしろと電話で泣きながら訴えたのが何を指しているのか
漸くはっきりした。どこから嗅ぎつけたのか、ネットニュースメディアを名乗る人間からヒカルの中
学時代について取材したいと申し入れがあり、大した事など知らないと前置きして話した。今にして
思えば軽率だったかも知れない。だが、自分の話が醜聞の種になるなど夢にも思わなかった。
箸にも棒にも掛からなかった人間が『化ける』事例など幾らでもある。ヒカルもその『化けた』一人
に過ぎないと岸本は今でも考えている。
その一足飛びの進化を、不正の賜物と疑わせるべく仕向ける輩が存在すると和谷は言う。
『あんたがさせられた話は多分、クスリの件で進藤が棋院からお咎め無しだった時にトドメ刺すため
の爆弾の材料だ』
穿ち過ぎではないかと岸本は思ったが、ヒカルを陥れようと企むその人物が『凌遅刑』などと物騒な
単語を口にしたと聞くに至り、考えを改めた。
その人物の見当はついているのかと訊ねたら、今一つ煮え切らない返事が戻ってきた。
和谷の顔見知りによる犯行の可能性があると見ていいだろう。
ごく親しい間柄、あるいは未成年。和谷の歯切れが悪い理由はこのあたりか。恐らく前者。
後者は犯行の計画性の高さやその緻密さ、規模の大きさから鑑みて『ない』と岸本は判断した。
何よりも悪質すぎる。ネットはともかく既存マスコミの扇動までしているとなれば、未成年では難し
かろう。況してや、アブノーマル系AVのスタッフを丸抱えにするなど。
和谷から提供された合計一昼夜分の長回し動画は、まだ途中までしか見ていないが検証中に何度もリ
タイアしそうになった。主犯と思われる人物はモザイクとボイスチェンジャーで身元が割れるのを防
いでいる。こいつを押さえれば事態の悪化は防げるのだが、今のところ誰だか判らないと和谷は明言
を避けた。何度かガキと呼ばれているが、それは相対的なもので必ずしも未成年を指すとは限らない。
和谷の知っている人間で、ヒカルを標的と狙い、アキラにまでダメージを食らわせる者。
そいつは囲碁に関わりを持っていると考えるのが自然だ。
出来れば特定し、警察に突き出したい。ヒカルの潔白を証明し、名誉を回復する近道だ。
無駄な仕事は岸本の主義ではない。早く決着する手段があるなら使うべきだ。

210 :◆lRIlmLogGo :2014/10/17(金) 05:22:44.52 ID:???
前回投下分の冒頭に雨描写入れたのに、その後素でそれを忘れていたww
年寄りのパねぇ記憶力www
あと前々回もやらかしてる、ヒカルたんが記憶障害になっとるwww
入院してたのは一ヶ月半が正しいでつ

本編に入れられずに切ったエピソードの殆どがエロ関連ってどういうことなの
エロ分の抜けた話をpink板で誰が喜ぶというの
でもって別の新しいエロ話書きたくなってるってマジでどういうことなの

211 ::2014/10/17(金) 12:59:10.35 ID:???
なんか↑見なおしたらひでーな
今の話をもう書きたくないみたいじゃないか
そんなこたないんだ、すっげえ書きたいヤマ場になかなか辿り着かなくて
浮気の虫がザワザワしただけなんだ…
でかいスレ容量食いつぶして何つう言い草だと思ったメイツ、申し訳ない

212 :名無しさん@ピンキー:2014/10/17(金) 15:27:46.52 ID:???
俺得だから問題ないぜ!
寧ろこのご時世でヒカルたん(;´Д`)ハァハァできる小説があるだけで十二分にありがたい…
盆たんには感謝してまつ

213 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/18(土) 14:36:48.66 ID:???
「無精をするなよ。食うなら食器に移して食え」
普段殆ど使わないキッチンの惨状が目に飛び込んだ途端、岸本は片手で顔を覆って天井を仰いだ。
スーパーで買い込んでやったレトルトパウチの粥の空袋がいくつか放置され、そのうちの一つに直接
スプーンが突っ込まれている。
「……まさかと思うが、この袋のままでレンジに入れたんじゃないだろうな」
「え?入れちゃダメだったんだ」
きょとんとした顔で問い返され、岸本は嘆息した。
「ウソウソ。ちゃんと鍋であっためたから心配すんなって」
ニッと悪戯っぽく笑えば岸本の知っている幼い顔の名残りが少しだけ現れて、過去へと引き戻されそ
うになる。
「放置すると虫が湧くから、それだけ動けるなら食った後の後始末くらいはしてくれ」
「病人兼怪我人なのに人使い荒ぇなーもー」
「アバラやってそれだけ喋れるのを労る必要があるのか」
「息すんのも痛ぇよ。ギプス使えないから湿布だけでヨロシクって何だよ」
「上半身ガチガチに固められて身動き取れない方がいいか?おまけに蒸れて痒くて爛れるぞ」
「スイマセンワガママイイマシタ」
稚気溢れる棒読み口調に苦笑いを禁じ得ない。
「二冠棋士様ともなれば、多少は落ち着きも身につけただろうと思いきや……中学生のままか」
「時と場所を考えて猫を被るスキルはすんげえ上がった」
「担当弁護士に対して猫を被ろうって気にはならんのか」
「くっくっく……いてて、にゃーん」
声を出して笑うと肋骨に響くのだろう、ヒカルは痛みに顔を顰めながらも両掌で猫の耳を作って戯け
た。
「閉じ込められっぱなしのストレスなどとは無縁そうじゃないか」
「んん?」
左手で痛む右の肋を押さえ、テーブルに頭を預けた姿勢でヒカルが物問いたげな視線を岸本に送る。
「誰にも連絡が取れない、俺は食料補給と様子見でたまにしか顔を出さない。退屈で死にそうになら
ないか」
「碁盤があってフロとトイレが自由に使えるだけで天国です」
「安上がりな天国で結構だ」
岸本は追加で買ってきたヒカル用のレトルト食品が入ったレジ袋を冷蔵庫の脇に置き、そこから缶コ
ーヒーを出してプルタブを開けた。不味かろうが無いよりましだと思うのは、カフェイン中毒者の悲
しい性だ。
「……当事者のキミの方が、塔矢より遥かにタフだな」
「アイツ、そんな酷いの」
「つい後回しになってしまって、まだ直接会ってはいないから今の様子は判らん」
「そっか…………」
表情が陰ると、思わすはっとするような色香が漂う。無邪気さとの落差が不意打ちで来ると効く。
あの動画の中で淫靡に体を開いていた人物と同一なのだと認識させられる。
年齢よりも精神的に幼いと感じていた子供が、いつの間にか心の中に巨大な闇を飼っている。
それはいつ生まれ、どれだけの時をかけて成長していったのか。
「何?これ」
急に無言になった岸本から手渡されたものを見て、ヒカルは問う。
片方は携帯電話だが、もう片方の小さな電子機器はヒカルには見慣れないもののようだった。
「ガサ入れで携帯を押収されただろう?プリペイド式だから料金が超過したら言え。追加入金してや
る。ネットは無理だがメールの送受信は可能だ」
「こっちは?」
「次に出頭する時に隠し持ってろ。録音機だ。恫喝や暴力を使って自白を強要された場合の証拠にな
る」
「へー」
「うまく隠せよ。見つかったら没収されるぞ」
「らじゃー」

214 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/18(土) 14:37:36.69 ID:???
ヒカルが負傷したためか、三日経っても警察からの連絡は来ない。参考人は自宅にいないので電話な
ら事務所宛にしろと伝えてある。その間に録音機を渡せたのは幸いだった。
「……電話したいヤツの番号は覚えてるか」
「イエ電ならビミョーに覚えてるけど、携帯の番号は全然ダメ」
「機械の利便化は人間を退化させるという解りやすいモデルケースと言う事か」
「んだよそれ」
「棋譜なら何万だろうが覚えてるくせにな」
「そりゃ必要なら覚えるし、必要じゃないなら覚えないよ」
「で、不要だと思っていたものが実は必要だったわけだが。ご感想は」
意地の悪い皮肉に、ヒカルはむくれる。
「そう臍を曲げるな。オレが教えられる範囲でいいなら教えてやる。誰の番号が知りたい」

アドレスに登録していない番号からの着信は、基本的に取らない。
特に今は、公衆電話からの着信も拒否設定にするほど神経がささくれている。
留守録機能もオフにしている。
だから、その見知らぬ番号からの着信もアキラは無視した。
再度かけ直すようにとのアナウンスに切り替わったのだろう。携帯電話は沈黙した。
と思ったら、間をおかずまた同じ番号から。アナウンスを今度は最後まで聞かなかったのか、三度目
は更に短いインターバルで掛かってきた。それが、四度、五度。
ヒルのようにしつこいゴシップ記者の攻勢。腹に据えかね、アキラはその番号を拒否リストに登録す
る。もう何度繰り返しただろう。
今日まで数えきれぬほど吐き出した溜息を、もう一度大きく吐く。
また、着信。今度はメールだった。
開けてみると、またしても知らないアドレス。どうせスパムメールだ、さっさと削除するに限る。
メールを削除したと思ったら、次は家の電話が鳴る。どうせ携帯に掛けてきたしつこいゴシップ記者
だろうと思ったが、万が一大事な電話だったらまずい。確認しに部屋を出る。
案の定、ナンバーディスプレイには件の番号が表示されている。機能ボタンを操作して、こちらも着
信拒否。
「……ふう」
溜息が習い性になってしまっている。一つ吐く度に幸福が逃げると諭したのは母だったか。
もし本当なら、この数日でどれだけの幸福を逃しただろう。
のろのろと自室に戻り、携帯電話のメール着信ランプが点滅しているので確認する。また、例のアド
レス。
アキラは遅まきながら、マスコミではない可能性を捨てていたことに気づく。
もしも『彼』からだったら。情報収集の貴重な機会を自分で潰していたことになる。
くそ、せめて内容を確認してから削除するんだった。
メールを開く。件名。『誰と勘違いしてんだ電話出ろバカ!』
本文。
『なんで家電まで着拒すんだよコラ!心配してかけてやってんのに!もーしらねーずっと泣いてろ』
乱舞する怒りマークの絵文字。
こんな時だと言うのに、変な笑いがこみ上げてくる。
着信履歴から先刻拒否したものを表示し、解除しようとするが出来ない。
仕方がないので正直にその旨メールで返信し、番号を教えてもらう。
ワンコールで出てくれた。
『てってー的に拒否りまくってくれやがりましてありがとうございますぅー』
不機嫌そうなその声は、半月前に聞いた肉声よりもずっと元気で張りがあった。
「……ボクにはメールも電話も寄越すなと言っておいて、勝手じゃないか進藤」
本当に怒る気などあるはずもない。自分の声がにやついていないか気になる。
『そんな段階は過ぎちゃったから』
改まったヒカルの口調に、ほんの束の間味わえた甘い気分が掻き消える。
そうだ。和谷が言っていたじゃないか。もう終わってしまったと。

215 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/18(土) 14:38:07.91 ID:???
「骨折したって聞いた。大丈夫なのか」
『痛いけど、まあ動けないことはないよ。熱も大方下がったし……てかヒビだから』
「済まない」
『なんで謝るのさ』
「全部ボクのせいなんだ」
『何がだよ』
「全部」
『わっけわかんね。おまえが気に病んで泣いてるってのは聞いたけど、そこまで考えすぎてるかよ』
ヒカルは他者の感情に対して鈍感ではない。無神経に相手の苦悩を矮小化したりしない。
昔はどうあれ、今はそうではない。ならば、情報が足りていないのだ。
アキラが『彼』に精神的な攻撃を受けた事が、ヒカルには伝わっていない。
「いや……今のは、聞かなかった事にしてくれ」
『ふぅん、あっそ。なら無理に訊かない』
「携帯、新しいのに変えたのか」
『警察から返還されるまでのツナギにって、おまえの先輩が用意してくれた』
「キミ専用じゃないのか」
『うん?専用だけど。プリなんとかってお金先に払うヤツ』
「岸本さんのお宅にいるんだっけ」
『怒ったとこ見せたことなかった親父がビンタの後にケリかますくらいカンカンだからねぇ。ちょっ
と家には帰れねーわ』
「……ゴメン」
『だーかーらー、別件なのになんで謝んの。おまえ自分で蒸し返してんじゃん』
黙っていようと思っていた。これ以上ヒカルの負担になるまいと。
けれど、良心の呵責という名の重石がアキラを押し潰さんと伸し掛かる。
「そもそもの最初に、キミに邪な気持ちを抱いて……触れたいという欲を抑えきれなかったのがボク
の罪だ」
『違うよ』
ヒカルの返答はきっぱりしていた。
「違わない」
『これはおまえとは無関係だっつってんの』
突き放した口調に、アキラは自分とヒカルの間に壁があることをまたしても自覚させられる。
まともに口を利くようになってから九年近く。肌を重ねる関係になって八年半。
ヒカルと心理的な距離を詰めようとすると、壁にぶち当たる。それは透明で、普段は存在さえ気づか
せないほど薄い。なのに恐ろしく強固で、アキラを容赦なく跳ね返す。その痛みは大抵、凶暴な獣欲
に変換されてヒカルを襲うのだ。半月前もそうだった。
「saiに関して……ボクは門外漢だから口を出すなと?」
電話の向こうで、ヒカルが小さく息を呑む音が聞こえる。
「saiの名を振りかざしてキミを男共に投げ与え、歪曲した情報を世間に吹聴してキミをプロの世界
から追い落とそうとする卑劣なヤツと戦う筋合がボクにはないと?」
『塔矢知って……いやアイツ、おまえにも何か』
「ボクがヤツの計画を邪魔したからこんな手段に出てきた!本人がそう言った!」
『……………………』
「キミが自分から話すまでなんてもう待てない。saiとは何だ」
ヒカルの長く吐き出す息が、震えているのが判る。
「言えないのか?ここまでヤツに追い詰められて、まだ言えないのか」
『っ……、言えない』
「和谷君が、ヤツを十四年会にいた院生だと言ってた」
確定事項ではない事をさもそうであるかのように装い、反応を見る。
『知らない』
「『違う』ではなく『知らない』、ね。語るに落ちたな」
「…………、……っ」
もどかしげに何度も口ごもるのは消極的な肯定の証。
ヒカルは『彼』を、この期に及んで秘匿しようとしている。何故。その存在を警察に明かせば、身の
潔白を証明できるのに、どうして。

216 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/18(土) 14:39:03.19 ID:???
「一体どんな弱みを握られてるんだ、話せ!」
『おまえには関係ない』
透明な壁が打ち砕けない。いつもと同じ、叩いた手が痛くなっただけ。
そして今、目の前にヒカルはいない。電気信号に変えて耳に伝わる声のみが、暴れ狂う感情の捌け口。
貪る肉体が手の届く処にないなら、この声を使って犯す。
「…………進藤」
『なに』
「キミを抱きたい」
『はい?』
戸惑いの混じるヒカルの声。高めで、甘い。吐息ごと舌で絡めて吸い取ってしまいたくなる。
「今から、キミの唇にキスをする」
『あの、え?塔矢?』
構わず、ちゅ、と受話部分に向かって音を立てる。何の感触もないのは当たり前。
『あ……その、えっと』
「岸本さん、そこにいるの?」
『いない、泊めてもらってる家に行った……いやあのその』
アキラが何を求めているのかようやく理解したらしいヒカルが、慌てた声を出す。
「キミからもキスを返して欲しいな」
自分の声が興奮で掠れているのがやけに耳につく。
『待っ……ぅう、ああもう!』
焼けばちに言った後、暫しの間があって。
向こう側から小さく、ちゅ、と返ってくる。その顔はきっと真っ赤だろう。
「口開けて。奥の感じる場所、舐めてあげる」
『……ゴメン。それは無理、吐いちゃう』
「そうだったね……じゃあ、顎の下から首にかけて、舌で撫でるよ」
『……ん』
微かに、手が肌を撫でる音が電話の向こうで聞こえる。自分の手をアキラの舌に見立てて動かしてい
るらしい。
アキラがぴちゃぴちゃと音をさせてやると、ヒカルの手が呼応して動く。吐息の甘さが増してゆく。
『はぁ……んふ、ん……』
「耳の穴も舐めるね、両方」
アキラにの立てる湿った音が電話を通じてヒカルの耳孔を犯す。電話の向こうでも似たような音がし
ている。ヒカルが指に唾液を絡めて自分の耳を嬲っているのだ。
『ぁあ……は』
「耳、気持ちいい?」
『ん……ん、いい……』
うっとりしたような声の響き。
頭の中にしなやかな肢体を思い浮かべ、それを性急な愛撫で高めていく。
ヒカルが今、着ているのはグレーのスウェットの上下。裾から手を忍ばせ、弱い部分を攻めていく。
『あぃ……って!ったぁ……』
腹から胸を撫で上げようとしたら、ヒカルが素頓狂な声を上げる。
『いてぇ……ここは避けてよ、もぉ』
避けるもなにも、アキラの誘導に従って自分をまさぐっているのだから触る前に気づくだろうに。
「怪我してるの忘れちゃうほど熱中してたの?……いやらしいね。可愛い」
図星だったようで、ヒカルは口の中でごにょごにょ文句らしき事を言う。
「痛いのどっか行っちゃうくらいに感じてよ……ホラ、ボクに吸われて乳首がこんな」
電話の音に何かが擦れるようなノイズが入る。ヒカルの喘ぐ声が遠くなる。
(もしかして……携帯で擦ってる?)
アキラの体が一気に熱くなる。もっと近くにアキラを感じたい、少しでもアキラの唇で愛撫されてい
る感覚が欲しいと、ヒカルが硬質の機械に自分の乳首を擦りつけている光景を想像しただけで、くら
くらした。
とっくにズボンの中ははちきれんばかりに硬く張り詰めている。これで貫きたい。早くヒカルの奥を
味わいたい。

217 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/18(土) 14:39:34.19 ID:???
「進藤、進藤……聞こえてる?」
携帯電話で自分の乳首を攻めているヒカルに届くよう、大きな声で呼ぶ。
『ん……は、なに……』
情欲に蕩けてしまっているのがありありと判る。
「挿れるよ……慣らしなんてなしだ」
『…………』
荒い呼吸音だけが返事。
「こんなにぐっしょり濡れてるなら挿るよね、それに柔らかいじゃないか。欲しくなってるだろ?」
煽るアキラの耳に、ぐちゃぐちゃという水音が届く。近い。脚の間に電話機を持っていったに違いな
い。
アキラはズボンの前を開け、硬く反り返った怒張を取り出す。
「わかる?ボクのももう……キミを突きまくりたいって涙零してる」
『……ぁ、はぁ……は……は……』
ヒカルの喘ぎがまた近くに戻って来ている。アキラの次の指示を待っているのだ。
アキラは自身をきつめに握りこむ。慣らさずにいきなり挿入する感覚が欲しい。昔なら解さずになど
不可能で、血を流させてばかりだった。でも今なら違う。たっぷり濡らしてさえいれば。
先端を強く擦る。頑迷に閉ざされた入り口をこじ開ける感覚を、記憶から引き出しながら。
「あぁ……キツい……あ、あ」
『はァ、っ、んン……焦んな、って……ゆっく、り』
ぎゅっと握る手に力を込める。これから、無理にヒカルの体内を突き通すのだ。先端から溢れる雫を
絡めながら、ぐいと腰を突き出す。
「ふっ!……く、ぅう!」
『ア!はァ……ゥんン!い……ッ』
「痛い?でもやめないよ、許さない」
アキラも肩で息をしている。吹き出した汗が髪や服を肌に貼り付かせる。
廊下の向こうで、また電話が鳴っている。誰だろうとどうでもいい。ヒカルを犯すのが最優先。
肉棒に見立てて何本指を挿れているかなど、訊くのは無粋だ。きっと四本。
「何度ナカに出してもまたするよ……いい?動くよ」
『ヤダ……もうイッちゃった……待って、待っ』
「ダメだ!」
『あァんんぅ!ヤ、やっ、あ』
達した後の体に、アキラの言うがまま律儀にヒカルは指を突き立てている。
「……っ、いつもより、イクの、早い、ね……ナカ、凄くヒクヒクしてる」
『は、ァ、アッ、ア、くふ、ン!また……!』
嬌声は控えめながら、感度は頗るいい。声が小さいのは怪我に響くからだろう。我慢しているのかと
思うと余計に燃える。
「はァ……何度でも、イッて、いいよ」
『ン、ンン、ン……っ』
喉で詰めたような声を漏らし、ヒカルは指で内部を掻き回している。
「ボクも出すよ、ナカに、奥に。感じて進藤、もっと感じて」
『ッアア!ぅあ、あ、あっ、あ』
この短い時間に、ヒカルは三度目の到達を迎えた。

218 :◆lRIlmLogGo :2014/10/18(土) 14:40:08.59 ID:???
ヒカルたん「白・黒・ブチ・三毛・茶トラ・キジトラ・サバトラ」
何の呪文だいヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたん「被れる猫の種類」
洋モノはないのかいヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたん「AVみてーにゆーな!」

そして水を得た魚のようにイッキイキしてはる若゛先生…

219 ::2014/10/18(土) 16:41:57.73 ID:???
>>212
そう言って頂けるだけで有り難や有り難や

220 :名無しさん@ピンキー:2014/10/18(土) 18:52:27.96 ID:???
これはテレフォンセックスというやつでは(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

221 ::2014/10/18(土) 21:47:31.81 ID:???
そして恒例のミス連発
?受話 ○送話
…他にもあるけど見なかったことにしてほしいでつ

>>220
はいでつ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

222 :名無しさん@ピンキー:2014/10/19(日) 02:16:20.33 ID:???
ヒカルたんとセクロスしたーーーい!!(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

223 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/20(月) 00:25:07.67 ID:???
『……アレ見たせいだろ、塔矢のバカ』
ヒカルの呼吸はまだ乱れたままで、時折肋骨に響くのか痛そうに呻いた。
秋の夜の空気が、アキラの火照りを冷ます。汗に濡れた服を替えないと寒いくらいだ。
「キミは寒くないか」
『ん……うん。寒い』
電話の向こうで、がさごそ物音がする。
『熱上がってきたかも……ベッド入った』
「風邪?」
『アバラの方。せっかく下がってきてたのに。マジで死ね』
ぶすくれた声に、思わず笑いが漏れる。
「乗り気じゃなかったって割には何回イッた?しかも最初、挿れただけでだったよね」
『ホント、声だけでもあるとないとで破壊力が違ぇ』
ヒカルの科白に、アキラはふと違和感を覚える。
「声だけ、でも?」
『……こっちの話』
まただ。また、壁に阻まれる。
電話越しに呼吸を合わせ、一緒に快楽を追ったばかりなのに。すぐヒカルは離れてしまう。
「目の前にいたら……即座に犯してやるのに」
『急に何だよ、てか元気だな。差し入れで精のつくモンでも食ったかよ』
「…………」
『答えてないよな、さっきの。見たんだろ、アレ』
「具体的に言ってくれないとアレがどれだか判らない」
満たされたはずの心が酷く渇いている。きっと、どこかに孔が空いているのだ。
『答えたくないならいいよ』
「進藤」
『ん』
「キミにはヤツを庇う理由があるのだろうが、ボクの知ったこっちゃない」
『……塔矢?』
「ヤツを然るべき場所へ引きずり出して、報いを受けさせる。未成年だろうが構わない。名前を晒し
てやる。キミを滅茶苦茶にした代償はそれでも安いくらいだ」
『やめろ』
「どうして止める?そんなに痛いところを掴まれてるのか」
『そんなんじゃない』
「違うなら何故、あのクズが望む通りに堕ちるだけ堕ちようなんて真似をする!」
『だからっ、おまえには関係ないって』
「ないわけがあるか!saiが絡んでるならボクだって無関係ではいられない!」
頭の中で、別の自分が必死になって制止している。味方のはずのボクが逃げ場を無くさせるほど責め
てどうする、と。
『そうじゃない、そうじゃなくて』
ヒカルの声は切迫していて、余裕がない。何かを迂回して巧く説明しようとしたくて出来ない、そん
な焦りが見え隠れする。
「ボクを救うために棋院と戦ってくれたのはいいが、肝腎の自分を守るのは放棄か?それじゃ本末転
倒じゃないか!」
『違う、ちがう』
「自分がした事の責任は自分で取る、名人位を落とすならそれでいい、キミのタイトルと引き換えに
守らなきゃならないほどのモノじゃない!」
『そんな、っ』
「そのキミの奮闘も、ヤツがぶち壊しにした。除名待った無しで崖っぷちなのはキミじゃないか」
『力になれなくてゴメン、でも』
「ヤツに訊いた、saiを知っているのかと。そしたら、まるで自分がsaiであるような口ぶりで返して
きた!そんなはずあるか!でも万が一そうなのだとしたらキミは」
『やめてよ!』
アキラを遮って叫んだヒカルが、肋の痛みに呻く。

224 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/20(月) 00:26:20.28 ID:???
『……っ、う、……あ……』
その苦鳴にアキラはほんの少しだけ冷静さを取り戻す。腹の中はいまだ煮えたぎったまま。
「どういうことだ」
『ぅう……く、ぅ』
余程痛かったのか、ヒカルの呻きは止まない。
「まさか、本当にヤツがsaiだなんてキミまで言うんじゃないだろうな」
『やめて……たのむよ……』
「懇願されようが同じだ。ヤツの正体を白日の下に晒す。独力で尻尾を掴めないなら探偵でも何でも
使う」
『イヤだ、やめて……やめて』
「正体がsaiだろうが何だろうが構うものか。潰してやる、絶対」
『ぁあ……あぁあ……』
絞り出すような声が涙で湿っていることに、ようやっとアキラは気づいた。
『だって……オレじゃないんだ……いらないんだ……ホントは、オレなんか』
自己卑下と啜り泣きに耐え切れなくなって、アキラは何も言わず一方的に通話を切った。
和谷とは険悪なままだが、入手した情報の共有はしておかねばならない。メールなら角突き合わせる
こともないだろう。
『彼』が十四年会にいた院生だったのはほぼ確実だと報せなくては。

アキラが渇望し続けてきた壁の向こう側。
『彼』はそこの住人。
それを認めるのが堪らなく厭わしく、殺してしまいたくなるほど妬ましい。

※※※

名人戦七番勝負での名人不戦敗が続けば、内々での処分だろうが隠しきれなくなる。
十月初旬。アキラの名人位陥落が確定した。
なまじ第一局を戦っているため没収扱いにするか否かで棋院内部は揉めに揉め、何も決まらないまま
棚上げになっていた。新名人になるか否かを保留されている状態の緒方棋聖は、弟弟子と彼にまつわ
る一連の事案について対外的にノーコメントを貫き続けていた。

その緒方は別の弟弟子に相対し、お世辞にも機嫌がいいとは表現し難い面相で煙草を銜えている。
緒方のマンションに呼び出された芦原は、どう楽観的に解釈しても叱責しかないとリビングのソファ
ーで縮こまっている。
「今日も行くのか」
誰の所に、など判りきった事を言うのは無駄。そんな空気が芦原をちくちくと刺す。
「ええ、まあ」
「余りアイツを刺激するような事はするな。何を仕出かすかわかったもんじゃない」
「……もうしませんよ。懲り懲りです」
和谷の逆鱗に触れ、アキラの選択肢に『引退』を追加させてしまった。悪手もいいところだった。
「アイツに教えてないだろうな」
「恐ろしくて言えませんよ」
ヒカルの体調を教えでもしたら、どんな暴走行為に及ぶか。二人はそれを危惧していた。
「肺炎、まだ悪いんだそうで。何も口から受け付けないから回復が遅れてるとか」
「拒食症までぶり返したとなれば医者も難儀だな」
「前とは違う病院ですからねぇ。カルテのやりとりはするんでしょうけど」
芦原はがっくり項垂れて嘆息する。
「進藤君に何言ったんだよアキラ……もう最近、和谷君の姿がないか棋院でビクビクですよオレ」

225 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/20(月) 00:26:51.61 ID:???
およそ二週間前、アキラからのメールで和谷は『彼』の素性が絞れた事を知り、一体どんな会話の流
れでその結論に至ったのか確認しようとした。
だが、メールでの問いにアキラはだんまりを決め込み、教えようとはしてくれない。
多忙な岸本に時間を取らせるのは本意ではなかったが、已む無く連絡を取った。
当事者でもないのに深く入り込み、独断で動くのは好ましくないと釘を刺されてはいた。それでも、
『彼』と接触した人間の証言は提供すべきだろうと和谷は思ったのだ。
捜査側はあの悪意塗れの編集をされた動画を見て、『彼』に言及している。それに対してヒカルは黙
秘。薬物使用の疑いを晴らすために必要なはずの証言を拒んだ。そう和谷は岸本から聞いている。
そこから導き出されるのは、ヒカルが『彼』を庇おうとしている事。
しかし動機が判らない。自ら進んで嬲られ、晒され、傷つけられる理由が掴めない。
saiとの対局のためだけに、あれほどの代価を支払ったのだとしたら高過ぎる。値を吊り上げたのだ
ろう『彼』に諾々と従ったヒカルの思考回路が和谷には理解できない。
編集されたものだけでなく、一昼夜に及ぶ陵辱の記録も岸本には提供済みだった。彼のマンションに
はヒカルが匿われている。検証のためとは言え、同じ室内で忌まわしい動画を再生するのはヒカルの
心身に良くないと、岸本は事務所や泊まり先でそれらを見ていた。
追加の情報を知らせようと岸本の携帯電話に連絡を入れた和谷は、ヒカルの急激な体調悪化をその日
のうちに知る。
ほぼ一日おきに様子を見に自宅マンションへ帰っていた岸本は、その日、既に一度寄っていたにも拘
らず和谷からの電話を受けて再度顔を出した。
玄関ドアを開けて吐瀉物の臭いに気づき、ヒカルの姿を探すとベッドの中で丸くなって震えていた。
傍らには通話を終えて本体が開いたままの携帯電話。通話履歴を見ると、数時間前にアキラと話した
のが最後だった。ベッド脇に何度か吐いた跡。
ヒカルは高熱で朦朧としており、岸本は急いで入院先を手配した。
「……今日も進藤の容態に変化はないのか」
自宅マンションなら、盗聴でもされていない限り誰の耳目を気にする必要もない。
岸本は事務所。クライアント絡みの話なら構わないと言う厚意に和谷は甘えている。
『解熱剤の投与をやめると熱が上がるのは変わらん。検査結果で多重感染がやっと判ったところだ。
体力が落ちてるから抗生物質をそう大量に入れるわけにもいかず、イタチごっこだな』
アキラとの電話の後で体調を急変させたヒカル。
ヒカルと電話で話したその日、和谷に『彼』の新情報を送って来たアキラ。
結びつけるなと言う方がおかしい。
「ろくでもねェ方法で聞き出しやがったに違いないんだ、塔矢、あの野郎」
『進藤に関して彼が強引なのは昔のままか。やれやれ、どいつもこいつも成長のない』
「そりゃいつの話だよ」
『彼とは二学年違いだからな。一学期の三ヶ月足らずで、まあそれは強烈だったよ』
「………………」
『他校の生徒に勝手に夢を見て、勝手に理想を押し付けた挙句、勝手に幻滅した。オレが知ってるの
はその程度だ』
「進藤に夢を見た理由は判ってる」
『例の棋譜か』
「初対面で同い年のガキにああまでノされたら、正体確かめたくもなる」
動画用のパスワードを入手するためのクイズに使用された二枚の棋譜。
一枚はまるで指導碁。もう一枚は情け容赦なく屈服させた一局。アキラが追うのも無理からぬ事。
「けど追っかけてみりゃソイツはお粗末もいいとこだった。でも未練がましくズルズル気にかけ続け
たってワケだ」
『その甲斐あって良かったじゃないか……と手放しで祝福できんのがな。塔矢の動きにできたら注意
しておいてくれ。勝手に動いて事態をややこしくされたら敵わん』
「その役目、あんたにノシつけて進呈したいってのが正直なとこなんだけど」
愚痴る和谷に、岸本はすげなく返す。
『オレは資料作成と警察への対応で手一杯だ。不肖の後輩のお守りまでしてられん。それに抱えてる
仕事はこれだけじゃない』
気が進まなかったが、そうも言っていられない。
芦原には、ヒカルの現状をアキラに教えるなときつく言い含めてある。念には念をと、緒方にも注進
しておいた。彼らは棋院経由でヒカルが重篤なのを耳に入れている。謹慎中のアキラにはまだ知らさ
れていないはず。
唯一の懸念は、『彼』だ。本当にアキラのメール通り、あの少年なのだとしたら。
アキラを焚きつけて突飛な行動に走らせる事は充分以上に警戒して然るべきだ。

226 :◆lRIlmLogGo :2014/10/20(月) 00:31:45.10 ID:???
若゛「なんか色々死にたくなるくらいヒドイ」
そんなSSなんで…

小学生のヒカルたんを無性にプニりたい今の俺(;´Д`)ハァハァ

227 :名無しさん@ピンキー:2014/10/20(月) 01:28:04.94 ID:???
ヒカルたんが若゛の前では少し弱くなるのがなんかいいなあ…

228 :名無しさん@ピンキー:2014/10/20(月) 19:55:44.91 ID:???
ヒカルたん、辛くなったら俺の膝においで(;´Д`)ハァハァ

229 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 01:05:00.65 ID:???
ヒカルたんとエンドレスセックス(;´Д`)ハァハァ (;´Д`)ハァハァ

230 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/21(火) 02:06:08.71 ID:???
※※※

『彼』と思しき少年の名を、メールで和谷に教えろと頼んだが断られた。
名前が判明しないことには自宅の電話番号も探せない。実家暮らしなのか独立しているのかすら不明
では、攻勢のかけようがなかった。
何故教えないのかと尋ねれば、確定とは限らないからだと返ってくる。
「………………」
アキラの視線の先には、届いたばかりの小さな箱がある。
本当は芦原に買ってきて欲しかったのだが、何に使うかやけにしつこく訊かれた。結局、ネットの通
信販売で購入するしかなかったのだ。
箱を開け、ぺらぺらの説明書に目を通す。取り付け方はシンプルだ。平型端子のタイプを注文時に間
違えていないか不安だったが杞憂に終わった。
イヤホンと小型マイクは如何にも頼りなげで、うまく通話と録音ができるか事前に誰かとの会話でテ
ストする必要がありそうだった。
ヒカルからまた電話があるかも知れない。携帯電話番号の着信拒否を解除しようとしたら、家の電話
では出来たが自分の携帯電話では事実上無理だった。解除するのはいいが、これまで拒否登録してき
た膨大な量の番号も全部解除する事となり、再度ちまちま拒否している間にそれらの番号から着信の
嵐に見舞われるのは目に見えている。
あの日以来、着信拒否されているのでそっちから掛けてこいというメールは来ない。
まだ機嫌を損ねたままなのだろうか。
掛けるなら携帯ではなく家の電話にしてくれと伝えるのを、機械のテストにしよう。どうせならヒカ
ルの声がいい。
ヒカルが出たらすぐにスイッチを入れられるようにして、イヤホンを耳につける。新しい携帯電話の
番号は表示されなくともとっくに覚えてしまっていた。
「…………」
出ない。数度のコール音の後、簡易留守録のメッセージに切り替わった。
部屋にいないはずはない。考えられるのは手洗いや風呂などで手が届かない場所にいる事。
後は……警察に出頭しているか。
それとも。『彼』を潰すと宣言したアキラを避けているのだろうか。
正直、泣くとまで思わなかった。
胸を掻き毟られるような嗚咽が脳裏に蘇り、アキラは眉を寄せて唇を噛む。
『“自分なんかいらない”って言う人の望みを叶えてあげたんだから逆に親切ですよ。少なくとも進
藤先生には恨まれる筋合い、ありません』
『だって……オレじゃないんだ……いらないんだ……ホントは、オレなんか』
何度掛けても、繋がらない。無機質な声のメッセージに切り替わるだけ。
携帯電話を握る手に、じっとり汗が滲んでいる。
こうやって、避けられたことが前にもあった。あれは。
『オレなんかじゃダメなんだよ』
『オレなんかが打ってもしょうがないってことさ』
『オレは、もう打たない』
『ゴメン』
大きな目を潤ませて、アキラの前から走って逃げた。あれは。あれは。
「九年以上も……キミは、同じ何かを抱えっぱなしだったってのか……?」
あれもsaiに関連していたのだとしたら。ヒカルの中でどれだけの比重を占めていたと言うのか。
父を終局まで打たせず負かした、あの打ち手は。
「キミの時間は……十四歳で止まってしまっているとでも?」
嘘だ。克服したのではなかったのか。
ほんの僅かな期間で別人のように窶れた姿になりながら、息を切らせてアキラの前に現れた。何を悩
んでいたかなど当時のアキラには知る由もなかったけれど。
真剣な眼差しで、碁打ちで居続けると宣言した。アキラの隣をずっと歩くと。
その通りに、今まで追いつ追われつを繰り返し、前に進んできたのではないか。

231 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/21(火) 02:06:41.74 ID:???
アキラと築いてきたもの全てを投げ出してしまえるほどヒカルの中に広く深く根を張り、縛り上げて
いる存在。アキラの入り込む余地など最初から無いくらいに。
その根を取り除いたならば、ヒカルの心は原型を留めることができずボロボロと崩れ落ちてしまうの
ではないか。
それほどまで病んでいるというサインはどこに見つけられただろう。長いサボタージュより復帰して
からの快活な姿のどこに。
秀策への強い拘りについては、ずっと気に掛かっていた。どのタイトルよりも本因坊位に執着するの
は明らかに逸脱している。これまで七大タイトルのうち五つまでを獲得した。本因坊と今持っている
王座以外は防衛に失敗しているが、きちんと気持ちの切り替えはできている。
体に変調を来してまでしがみつくのは本因坊位だけなのだ。
ヒカルが秀策に傾倒している事はちょっとした囲碁ファンなら誰でも知っている。
彼の碁のベースが古風でどっしりしている事も。
(……待て)
その古風なベースが出来上がったのはいつだ。十年前の若獅子戦では違ったように思う。自分の対局
が終わった後だったので終盤しか見ていない、手筋が辿れなかったあの奇妙な形。
(そうだ……進藤の碁というのは)
元来、ヒカルはトリックスターではないのか。奇手をもって相手を翻弄する自由な発想の持ち主。
北斗杯の予選で社相手に見せたあの碁が本当のスタイルだと考えれば、若獅子戦のあの碁と繋がる。
それを無理に合わぬ型に押し込み、それでも滲み出る個性が思いもよらぬ嵌め手となって表出してい
るのだとしたら。
ヒカルが後半型だと言うのは、自分を抑え込んで合わぬ碁を打つ弊害ではないのか。
そんな打ち方に変わったのはいつだ。初めて公式手合で打った時には既にそうだった。アキラの見た
若獅子戦から一年半。徐々に変化したのか、それとも急になのか。
何かがきっかけで自分本来の碁に戻ってしまったと思しきは、アキラの知る限り社とのあの一局だけ。
あれは社の初手を受けての空中戦だった。アキラとのプロ初対局から半年。
それだけの可塑性を持つなら、やはり急に変わった、いや、変えたのだ。恐らくは自分で。
初めて公式手合で相まみえた時。キミがsaiだと断言したら、彼はどんな顔をしていたのだっけ。
最初は驚いたように言葉を失い。次にはどこか悲しげな表情になり。
そして寂寥感の漂う微笑を浮かべ、言ったのだ。
『おまえになら、いつか話すかもしれない』
その言葉だけをずっと覚えていて。いつしかそれだけが切り取られてアキラの中で独り歩きをしてい
た。
この時点で既にヒカルが病んでいた事に気づきもしないで。
角を矯めて牛を殺すような真似を自分自身にしていた事など知りもしないで。
saiの碁で自分の碁を覆い隠すため、よく似た秀策に深くのめり込み、トレースして身につけるのに
どれだけの労力を傾けたのだろうと考えると目眩がした。
二歳から父の碁にどっぷり浸かってきたアキラですら、早い時点で師である父とは違う碁になってし
まったのに。
「キミにとって……saiとは」
saiの正体ばかり追ってきた。ヒカルにとってどんな存在なのかなど、まともに考えたことがあった
だろうか。精々、どんな関係にある人物なのかと思った程度だ。
ヒカルが冤罪を被せられてまで庇っているのは『彼』ではない。その背後にいるsaiだ。
どういう繋がりかまでは判りかねるが、『彼』を庇わねばsaiに累が及ぶのは確かなのだろう。
それを潰してやるとアキラは言ってしまった。
誰であろうとヒカルを汚し、傷つけたのだから断じて許せない。
「そうだ……許すものか」
迷うな。ぐらつくな。
自分の行動はヒカルの為になるのだ、恨まれても構わないと何度もアキラは心で繰り返す。

ヒカルが今、重い肺炎を患って一進一退の病状であるのも知らされぬまま。

232 :◆lRIlmLogGo :2014/10/21(火) 02:07:58.01 ID:???
若゛「覚悟完了(二番煎じ」
ヒカルたん「ゼーヒューゼーヒュー(訳:待て待て待てーいコラ」

この話を思いついた時に書きたかったシーンが当初の予定を超えたアレなものに
なるのが今の展開でほぼ確定…
どんなシーンかつーと、前スレに書いた予告編的な…あんなキレイにゃとても済まないぜ

ヒカルたんの佐為喪失→復帰の流れと
「俺フィー」主人公の父事故死→サッカー再開の流れがよく似てることに
今日気づいた…あれは5年以上引き摺ってたけどキレイに昇華したなあ
ヒカルたん、原作の最終回でもまだこじらせてるっぽいんで俺がこんなものを
書いてしまうんだよイケナイ子だよホント(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

233 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 02:09:14.32 ID:???
>>229
断固阻止である

234 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 03:00:21.49 ID:???
短期間に大量投下乙です!

235 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 04:04:06.89 ID:???
盆たんおつ!
ヒカルたんはイケナイエッチな子

236 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 12:19:04.30 ID:???
俺らを10年以上虜にしてしまうヒカルたん本当にイケナイ子

237 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 13:30:35.74 ID:???
イケないならイかせたげるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
もうどうしようもないエッチな子なんだからしょうがないなあ(;´Д`)ハァハァ
俺のウィンチェスターで奥の奥の超感じるとこに先っぽゴリゴリしまくったげるよ(;´Д`)ハァハァ
弾丸いっぱい発射してビクンビクンさせたげるよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

238 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 13:37:46.29 ID:???
自分で書いてて興奮してもうた(;´Д`)ハァハァ
弾入ったライフルの銃身ねじ込まれて身の危険と快感を同時に覚えて
めちゃくちゃ怖いでも気持ちいいって漏らしながらイッちゃうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

どんな状況でそうなるんだ

239 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 15:33:49.05 ID:???
>>238
銀行強盗の人質として連れて行かれて、
よく見たら可愛い顔してんなお前と言われ、
そのプレイに至るとかどうよ(;´Д`)ハァハァ

240 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 17:46:39.77 ID:???
>>239
それで「はちす」の番外編が一本分大まかにできちゃったじゃないか
俺の仕事量がまた減ってしまうww
ヒカルたんのせいでもやし生活待った無し(;´Д`)ハァハァ

ライフルとかただのネタだったのにwwくそう

241 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 18:00:08.38 ID:???
死の危機があると性欲が増すんだぜ…(;´Д`)ハァハァ

242 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 18:01:35.61 ID:???
ヒカルたんの菊門なら瓶も飲み込んでくれると信じてる

243 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 18:42:40.80 ID:???
ヒカルたん「パンツァーファウスト IIIまでで勘弁してよ」

244 :名無しさん@ピンキー:2014/10/21(火) 19:21:57.87 ID:???
後ろからガツガツ突かれて涎を垂らすヒカルたんのエロさ

245 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/21(火) 21:55:26.23 ID:???
※※※

それを見つけたのは、夜間巡回中の看護師だった。
何かべとつく物を踏んで滑りかけたので、携帯していたペンライトで足元を照らした。
(……誰かが尿瓶のお小水でも零したかしら)
尿にしては粘度がある。細い灯りの中でよくよく見ると、赤黒い。
「…………!」
看護師はペンライトを廊下の先に向ける。赤黒いものは廊下の右端から中央にかけて点々と、蛇行す
るように続いている。右側の壁にも、赤黒く擦れた手形のようなものが所々付いていた。
指向性の高いペンライトは、廊下の薄闇に溶けて消えそうになっている人影を捉える。壁に手をつい
て前に行こうとすると、反動で体が廊下の中央に振られる。振り子が揺り戻るように、また廊下にぶ
つかる。それを繰り返しながら、ふらふら前に進んでいるその人物を看護師は大股に追い、左腕を掴
んで止める。
赤黒い血は、その人物の右腕から流れていた。
「どこ行くの!こんな時間に」
強い口調で、しかし深夜なので声を潜めて。看護師は部屋を抜け出した患者を叱責する。
このフロアには個室だけが並んでいる。要するに、比較的症状の重い患者ばかり収容されているのだ。
夜中にこっそり抜け出して息抜きなど許可されていようはずがない。
しかもこの患者は、誰がどう見ても絶対安静が必要な状態だ。
「…………、ゎ、……め、……」
うまく発声できていない。気管から抜管したて、いや、違う。
抱きとめた体が熱い。これでは意識が明晰かどうかも怪しい。
それでも、その患者は看護師の腕を逃れて前に行こうと弱々しく藻掻く。
(うなされて徘徊?……でも)
看護師にはもう、この患者が誰なのか判っていた。俯いた顔を隠す前髪の色が特徴的だったから。
「自分で引き抜いたの?何て無茶するの!」
酸素飽和度の数字が著しく悪く、気管内挿管と人工呼吸器を施しているはずだった。
入院時の体力では抗生物質も治癒に足るほどの量の投与が不可能で、副作用に負けてしまうリスクの
方が高かった。
元々摂食障害の治療過程にあった患者で、好転していたと前の入院先から申し送りがあったにも拘ら
ず、ここに運ばれた時には再び悪化しており、経口で何も摂取できない状態。
自力で動ける事自体が驚異的だった。それも、点滴を引き毟り、気管チューブを自分で引き抜いて。
口からの挿管は生理的反射が強すぎたため、鼻からの挿管だったはず。
(カフ圧が下がってたから抜けた……?いや、それにしても)
「っ……、っ、……、……、……」
案の定、呼吸困難を起こしている。
ICU送りも検討されていた患者だ。血小板数も減少しているから、点滴の針を抜いた傷口からの出血
が止まらない。
「お部屋に戻りますよ、息が苦しいでしょ?管抜いたりするから」
「…………ッあ゛ぁ!」
左腕を動かして、患者は出ない声を振り絞り抵抗する。

246 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/21(火) 21:55:57.08 ID:???
「どこへ行きたいの。何をしに?用なら付き添いの人にお願いすれば」
看護師の言葉は理解できている。首を横に降って拒んだから。
「どうしても今じゃなくちゃダメ?」
下手に刺激すれば容態の急変もあり得る。ここは宥めておかねば。
「…………」
こくりと頷く。そして、また前へ体を運ぼうとする。
「一旦お部屋に戻りましょ。声が出ないなら、お部屋で何の用事か書いて教えてくれれば」
「ゃ………きゃ……に」
それほど急がねばならない事情とは何なのか。
醜聞や疑惑の事は知っている。この患者の病室に名札はかかっていない。
(一見錯乱してるようだけど……意思の疎通はちゃんとできる)
言われているような薬物使用者の特徴はこれまで一切見られない。今のこれも離脱症状の類では断じ
てない。第一、入院からもう半月だ。離脱症状が出るならとうに出ている。
声が出ないのがもどかしいのか、彼は血に汚れた右手で入院着の胸を掻き毟るような仕種をした。
「……めて、ぅやを、とめて、っ、めて」
「わかった、わかったから、ね。それはお部屋で聞くからね。戻ろう?」
幽鬼のような真っ白い相貌が、看護師に向けられる。顔の下半分が血で汚れている。チューブを無理
に引き抜いたせいで鼻腔の毛細血管が破れたのだろう。
「っかは、は、は、っは、っ」
息を吸おうとしても吸えていない。酸素欠乏で意識レベルが低下するのは時間の問題だった。
この場所で彼の名を迂闊に出せない。不寝番をしている他の患者の付き添いが聞いてしまうかも知れ
ないのだ。名札なしの病室の意味が無くなる。
頑なに看護師を拒む彼の左手から、握っていた何かが落ちてリノリウムの床に硬質の音を立てて転が
る。
「電話、しに行こうとしてたの?許可されてる場所まで?」
「っ、……、……、……」
遂に力尽きたか、支えていた彼の体ががくんと重くなる。
「いいよ、そこにいてね。大丈夫だから。そのままで大丈夫だから」
落ちた携帯電話を拾いながら、看護師はポケットから院内連絡用のPHSを取り出した。
詰所への応援要請と、担当医呼び出しのために。

「……つくづく、呆れるな」
連絡を受けて病室に駆けつけた岸本の第一声がそれだった。
「ほんのちょっと容態が上向いたらこれか。基礎体力だけは本当にピカイチだな」
ベッドを挟んで反対側では、代行業者から派遣された付き添いの男性が首を竦めて恐縮していた。
「すいません、ちょっとタバコと思って外してる間に……まさかこんな」
「不可抗力なので気にしなくて結構です。誰も想像しませんよ、この状態で脱走など」
家族に付き添いの負担を掛けるのは現状無理だろうと考慮した末、岸本は業者への依頼を決めた。
力尽くで引き抜いたチューブの再挿管は気管などについた傷からの感染症を引き起こす危険があった。
次善策としてマスク型の呼吸器を装着しているが、酸素飽和度の改善が見られなければ再挿管も已む
無しと言うのが医師の説明だった。
「進藤。おまえが心配しているような事は起こらないから寝てろ。塔矢が早まらないよう、父親の門下生が見張ってくれてる」
鎮静剤で眠っているヒカルの耳元に口を寄せ、岸本は告げた。
「アバラもまだ治ってないのに無理するんじゃない」
肋骨の治癒も遅れていた。昨日撮影したレントゲン写真には、まだくっきり亀裂が写っていた。
肺の影を確認するついでのものではあったが、何れも芳しい状態ではなかった。
「いいか、塔矢は大丈夫だ。おまえが心配する必要は何もない。何もだ」
目尻から頬へと伝い落ちた涙は、単なる生理的な何かの反応でしかなかっただろう。
聞こえたように見えたとしても。

ヒカルが動かずにいられなかったのは、虫の報せだったのだろうか。
昼間、アキラが第一歩を踏み出した事への。

247 :◆lRIlmLogGo :2014/10/21(火) 21:56:28.13 ID:???
ヒカルたん「ゼーヒューゼーヒュー(訳:塔矢を野放しにするのは超危険!はよ止めてはよはよ」
ボロボロなのに無理はいかんよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

マジで銃突っ込まれる番外の構想ががが
強盗よりもだな…ぐへへ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
…いやいやそれより本編でつ

248 :名無しさん@ピンキー:2014/10/22(水) 01:24:30.04 ID:???
盆たんがよからぬことを考えている…!
いつもお疲れ様です!
番外編をちょっと期待しつつまたーり待機

249 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/22(水) 02:42:10.59 ID:???
※※※

『携帯の着信履歴と留守録で勘付かれた』
岸本は自分の失態を隠したりなどしなかった。
「手の届くとこに置いとくかよ……フツー」
和谷も疲れた声を隠す気はなかった。
岸本がヒカルに与えた携帯電話を、付添人に管理させていたのが甚だまずかった。
入院時、ヒカルが酷く不安がってどうしても手放さなかったので妥協案としてそうさせたのだ。
付添人は一服しに行く際、うっかり水差しなどの乗ったベッドサイドテーブルにそれを置いて行って
しまった。ヒカルが手を伸ばせば届く所に。
「いやそれ以前にプライバシーとかその辺どうだったのさ」
『一筆書いてもらっている』
「進藤はほとんど寝てるつか動けないんだろ、そんであんたも付きっきりで監視なんかできゃしねぇ」
『覗き趣味の持ち主ではなさそうだがな。それに、預ける時にロックを進藤に設定させた』
ロックの暗証番号が漏れない限り大丈夫と言うことか。和谷はふう、と息を吐いた。
「さて弁護士先生。あんたやっぱ、爆弾の火種にされてたぞ」
『オレがなり損ねた棋士先生に先生と呼ばれるのは面映ゆいな……動きがあったのか』
「今度のターゲットは棋院、本丸ときた。見境のない全方位攻撃には恐れ入るぜ」
『どういう事だ』
「……進藤に温情なんてかけたら、棋院の首が締まるって寸法だ。でかいカネ絡みでな」
『やれやれ。こんどは棋院にガサが入りそうなのか』

最初に記事にしたのはネットメディアだった。次いでテレビ、スポーツ新聞の順で新たなゴシップは
伝播していった。
小さな齟齬が曲解され、歪曲されて、さも事実であるかのように取り上げられる。
「……せやから言うたやろが。せめて本因坊は返上しとけて。今年、負けとくべきやったんや」
溢れかえる嘗ての戦友への謂れ無き中傷。予測できていたとは言え、それが的中したとて社に何一つ
面白い事などない。
「おう清春。東京、えらい事なっとるなぁ」
一般用の囲碁サロンから、子供時代に可愛がってもらった常連が手招きして呼ぶ。
話に乗る気はない。大阪の人間は、概して悪気がなくとも口さがない。
社は常連の屯する場所に背を向け、足早に関西棋院の建物を出た。
北浜のビジネス街は夕闇に沈む事なく、煌々とした街灯やオフィスから漏れる灯りで明るく照らし出
されている。北浜から淀屋橋までは地下道で繋がっており、信号が煩わしい社は常にそちらを選んで
帰路についていた。
京阪電車と地下鉄御堂筋線を結ぶ地下に店舗を構える書店が目に入り、ふと思い立って足を向ける。
雑誌が置かれているエリアを人を避けながら通り抜け、目指す一角に近づいて。ああ、と思う。
棚の一部がぽっかり空になっている。話題になって全て買われたのか、それとも店側の判断で返本に
でもなったのか。何れにせよ、寒々しい光景に変わりはなかった。
「……ん」
その寂しい棚の前で、勤め帰りらしい若い女が複数の男に絡まれている。
(ナンパ……とはちゃうな)
立場の弱い人間に寄って集ってマイクやらカメラやら突きつける輩に碌なのはいない。
「おぅ、待たせてもーたな。行こか」
囲まれておたつく彼女の肩を抱き、速やかな離脱を試みる。古典的な手しか使えない自分が少々気恥
ずかしい。
「え?え?」
若い女は目元に涙を溜めながら長身の社を見上げる。
男達の中に、気づいた者が居た。
「社八段!彼女とお知り合いなんですか?」
ち、と心の中で舌打ちして社は無視を決め込む。
「進藤本因坊とは北斗杯出場を掛けて戦いましたよね?手加減しろという指示はありましたか」
中傷には、聞き流せるものとそうでないものがある。
「おんなじ質問、高永夏にやってみぃ。それがでけたら答えたる、今から韓国行って来いやコラ」
相手もこんな仕事で飯を食うだけある。その程度では怯まない。
「あ?訊いて来いや。北斗杯で四戦やって進藤に負け越した韓国が誇るタイトルホルダーも日本棋院
から袖の下もろて手加減したったんですかて。でけんのやったらノーコメや、ほなさいなら」
胸糞悪い事この上なかった。自分が金銭で勝ち星を売り渡したと言われているも同然なのだから。
なおも追いすがる取材陣に、社は言い放つ。
「あんましつこかったら、そこの交番へ一緒に来てもうてもええんやで?遠慮はいらん、すぐソコや」

250 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/22(水) 02:42:41.64 ID:???
警察の名をちらつかされても退かないなら、走って逃げるしかない。彼女の足元を見る。パンプスだ
が幸いヒールは高くない。最悪、背負えばいい。細っこい女一人、軽いものだ。
「せや。以降オレのコメント欲しかったら関西棋院通してんか」
しかしですがだけど、と五月蝿い連中を置いて、彼女の肩を抱いたまま足早に書店を出る。追っては
来ないようだった。
「……社、君?」
急かされて必死に歩幅を合わせながら、彼女がおずおずと訊いてくる。
「マークされとんの気ぃつかんかったんかい。進藤のダチか彼女か知らんけど」
「あの、覚えて……ないですよね、やっぱり」
後ろを振り返り、追尾がないのを確認してから更に歩く。
「どっち方面へ帰るんや。送ったる」
「い、いえ大丈夫です私」
「どこぞのアホンダラと違ごて、オレは紳士やで?信用せぇや」
「でも」
「あのイナゴみたいなんに家張られとったらどないすんねや自分」
脅しが効きすぎたか。彼女は怯えた表情を見せる。

彼女が住んでいるのは新金岡。社の家とは南北逆だった。話すと気兼ねするだろうから、黙っておく。
御堂筋線を南下する車内で、二人は無言だった。混んでいる空間で誰に聞かれるか判らない。
自分を覚えていないか、と彼女は改札を抜ける前に言った。
薄化粧で控えめに整えられた優しげな顔に、覚えがあると言えばあるような気がする。
イントネーションから東京の人間だと推察はできる。だが、どこで会ったかとなると。
会話はできないと悟っている様子の彼女が、ショルダーバッグから名刺入れを取り出した。
渡された名刺に印刷された名前を見ても、社にはまだピンと来なかった。
新金岡の町並みは、どこか社の自宅周りと似た景観だった。それはそうだろう。似たようなニュータ
ウンは府内に複数存在する。違うのは、ここが完全な平地である事くらいか。
「坂がないんはええな」
「実家の辺りもまっ平らだから……でもちょっと寂しい感じかな」
「何で東京からこっちで就職やねんな。仕事選べんかったんか」
「去年入社したばっかなのに今年転勤になっちゃって。断りそこねちゃった感じで」
「女でも転勤あるんかいな」
その言葉に、彼女は少しむっとしたようだ。
「もう十何年も就職難ですから。会社をより好みできる大学でもなかったし」
「口が悪いんはデフォや。気にすんなや」
「ズケズケ言うのは幼なじみで慣れてます」
やっと判った。会った事がある。
「あー、アイツがボランティアで指導しとった高校の。思い出した思い出した」

通された部屋は窮屈ながらも整理の行き届いたワンルームだった。
「年に一・二回でも来てくれたら御の字だと思ってたのに、部員集まったって言ったら週一で来るん
だもの。当時の部長が恐縮しちゃって、指導料にって翌年度の予算を取ってきてくれて」
「けど受け取らんかったんやろ?チャラで行ったる言うた手前」
「……擬似的に、高校生活を楽しんでたのかもなぁ」
遠くに過ぎ去った過去を愛おしげに懐かしむ彼女は、どこか儚く見えた。
「手合で東京へ前乗りしたら指導の日やからて引っ張って行かれて参ったわホンマ」
「アイツそーゆー勝手なとこ、子供の時から変わんないから」
くすっと笑ったのは一瞬で、すぐに表情は曇る。
「私、高校の時にはもう何となく知ってました」
「何を」
「ヒカルと、塔矢君の事」

251 :◆lRIlmLogGo :2014/10/22(水) 02:43:30.44 ID:???
社「オレほんまええ役やわぁマジで」
ヒカルたん「ヴェッホゲホゴホ(訳:ムカつく色々超ムカつく」

本町・淀屋橋・北浜界隈は仕事の現場になることが多かったのでよく詰めてたでつ
ガチで24時間戦ってたりしてたwww
山一證券事件とか色々あったお
閉店してもうた三越の惣菜売り場は俺のランチタイムの楽しみのひとつだったでつ
関西棋院の前もよく通った…ヒカ碁連載開始前だけど(汚じさん幾つ?とか言わない!

あと、銀行強盗といえば更に若い頃、会社があったビルの1階が銀行で、そこがやられた事が
あったでつ
解決するまで下に降りれんかったけど、退社する頃(午後10時くらい)には終了してたので
何の影響もなかったっつーね…あ、客先には出れなかったか

252 :◆lRIlmLogGo :2014/10/22(水) 02:52:07.44 ID:???
恒例の間違い ×北斗杯四戦負け越し ○北斗杯三戦負け越し
ヨンハ一個上だったうっかりしとった

253 :名無しさん@ピンキー:2014/10/22(水) 10:19:07.79 ID:???
最近盆たんがよく投下してくれるのでありがたやありがたや…

254 ::2014/10/22(水) 12:08:56.25 ID:???
そしてまた見つけてしまう馬から落馬的なアレ
もはや羞恥プレイ…はっ!ヒカルたんと羞恥プレイ…
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

255 :名無しさん@ピンキー:2014/10/22(水) 13:58:58.04 ID:???
ヒカルたんにバニーガールの格好をさせて羞恥プレイ(;´Д`)ハァハァ
その網タイツを破りたい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

256 :名無しさん@ピンキー:2014/10/22(水) 19:31:05.16 ID:???
バニーさんの服には最先端の競泳用生地を是非使用して頂きたい
薄くてフィット性抜群、お胸のぽっちりもかわゆいポークビッツの
シルエットも余さず浮き出てるのが恥ずかしくて恥ずかしくて
モジモジしてるヒカルたんをさわさわスリスリカリカリしまくって
感じまくらせてから…網タイツの内腿部分に指を突っ込んでビリッとな…
それから(続きはry

(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
中3の秋くらいのヒカルたんがいいな
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

257 :名無しさん@ピンキー:2014/10/22(水) 19:46:30.94 ID:???
成長期特有のあの身体がいいよな…(;´Д`)ハァハァ
ちったいヒカルたんにはもこもこな着ぐるみを着ていただきたい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

258 :名無しさん@ピンキー:2014/10/22(水) 20:58:29.94 ID:???
世代的にピカ○ュウかな(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
全身真っ黄色な着ぐるみのヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
ト○ロもいいなあ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

ちょ、ちょっとおじさんに写真取らせてもらえるかなヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

259 :名無しさん@ピンキー:2014/10/23(木) 00:10:00.76 ID:???
某電気ねずみヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
上目遣いで首を傾げてくれたら諭吉さんをあげよう…(;´Д`)ハァハァ

260 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/23(木) 04:02:49.38 ID:???
※※※

原則的に毎週金曜の放課後が、ヒカルの指導の日だった。
しかし、当然ながらその曜日に仕事が入ればそちら優先になる。そんな週は飛ばしてくれればいいの
に、ヒカルはいつも律儀に代替の日を作って来てくれた。
高校二年生の夏休みを目前に控えた時期。期末テスト期間に指導が無かった分、テスト休み中に長い
時間を割いてくれていた時の事。またしても金曜日に仕事の予定が入った。
土日に開催される地方の囲碁イベントへ赴くため、前日には現地入りしなくてはならなかったのだ。
代替日は月曜と決まった。
しかし、そこでアクシデントは起こった。

「無理して来なくていいよ、大怪我なんでしょ?」
『大した事ねーって。ちゃんと明日行くから心配すんな』
電話の向こうの声は、予想に反して元気そうだった。
「でも右腕動かないんでしょ?そんなので石持てるの?」
『左で持ちゃいいんだって。大会、どうせならいいトコまで行きたいんじゃねーの』
「先輩には私から言っとくから、気にしないで休んでてよ」
男女とも団体戦での全国行きは逃したが、三年生の男子がひとり個人戦で都の代表になっていた。
それだけでも、あかりが入部した時点で開店休業状態だった囲碁・将棋部にとっては上々の成果であ
る。部室はあるが上級生のダベり部屋。そこから部員を増やし、今年は大会に出られるまでになった
のだから。看板に偽りありで、実質ただの囲碁部になってしまったのは目を瞑るとしても。
「私、見たんだよ?ヒカル、すごい落ち方してたじゃない。頭打ってたら大変だったよ」
『えー、もうニュースとかでやってんのかよ』
「……変なファンの人だったんだって?」
『まぁ、最近増えたかな』
「なんか怖いよ。テレビとかいっぱい出るようになってからだよね?」
『それも仕事のうちっつーかなんつーか。おまえに言ってもしょーがねー』
遡ること僅か半日前、午前中の出来事だった。
イベント客とはにわかに信じ難い雰囲気の男が会場に紛れ込み、突如壇上に跳び乗って来た。
大盤解説中だったヒカルの腕を掴みざま飛び降りて、振り回すように下へと叩きつけたのだ。
ヒカルは落ちた際に右肩を強打し脱臼、腕が全く動かなくなった。折れてはいなかったのが不幸中の
幸いだった。
ファンだと言うその男の行動原理があかりには全く理解できない。
『なんかさー、昔からいるんだってさ。コンサート会場で顔に硫酸とか。何考えてんだろな』
「ヒカルは碁打ちじゃない。なんでそんな危ない目に遭わなきゃなんないの」
『そーゆーコトする方に訊いてくれよ。オレに言われても困る』
アキラと共に七段昇進が決まる少し前あたりから、ヒカルのメディア露出が急激に増えた。
そのせいでファン層が変質し、囲碁に縁などなさそうなアイドルオタクまがいが多数派となった結果
この有様である。
「なんでヒカルだけ?塔矢君だって」
『あー、そこはそれ、オトナの事情的な?オレだって良く知らねー』
何だか嫌な気分だった。ヒカルを盾に、アキラが手厚く守られている。根拠はないがそう思えたから。

全くもって大丈夫などではなかった。
明けて月曜日、三角巾で右腕を吊って学校にやって来たヒカルは炎症による高熱で足取りが怪しかっ
た。
聞けば、解熱剤を使うと眠気で頭が鈍るからと言う。
「懐に飛び込まれて怖いのはわかる。でもここ、腰引けてたらダメ。強気でいかないと」
カン、と扇子の先端が碁盤の一点を叩く。
全国大会個人戦を控えた三年生への指導は、いつもの比にならぬほど厳しかった。
ヒカルより大柄な男子生徒が気圧されている。

261 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/23(木) 04:03:28.68 ID:???
「……や、今日ちょっと要求高くないすか」
恐らく、熱のせいで加減がうまくいかないのだ。ついヒカルのレベルで話をしてしまっている感じが
する。
「そうかな。全国でいっこでも多く勝ちたいとか思わねぇ?」
「そりゃ当然勝ちたいすけど」
「ならこの課題はクリアしとこうぜ」
いつもなら部員一人一人の棋力を的確に把握し、それに沿った丁寧な指導をする。今日のヒカルは明
らかにどこか外れていた。
「目ぇ据わってるっすよ。やっぱ今日はもう」
公式手合ではこんな顔で盤上を睨んでいるのか。そう思わせるような威圧感が隠せていない。
慣れない左手で石を打つのも苛立ちを助長している気がする。何より、熱と痛みで余裕がなくなって
いるのが見ていて判る。あかりは口を出さずにいられなかった。
「もういいよ、やっぱ無理だよ。帰ってちゃんと休んで」
「おまえも言ったことちゃんとやっとけ。そんなんだからいつまでもヘボなんだ」
「何それ、心配してんのにっバカっ」
「誰が頼ん……ぁ」
あかりの方を振り返った瞬間、目眩でも起こしたのかヒカルはしゃがみ込んで面を伏せた。
いちいち立ったり座ったりすると部員の間を行き来するのが面倒だという理由で、いつも通り二時間
以上立ちっぱなしだったのだ。
「もう!だから言ったのに!先輩すみません、迷惑かけちゃって」
「いや逆に気ぃ遣わせて悪かったっつーか……やっぱ昨日の今日じゃなぁ。藤崎、一緒に帰ってやれ
よ」
「……まだ時間残ってんじゃん……ちょっと休んだら、続き」
ヒカルの主張を聞き入れるわけにはいかない。しかし、一旦決めたら折れない性格なのも知っている。
誰か、この馬鹿を家まで引き摺って行ける人がいたら助けて。
あかりの心当たりは一人しかいなかった。

電話してから到着まで、恐ろしく早かった。いや、そもそも来てもらえるとは思わなかった。
「忙しいのにこんな事で呼んじゃってごめんなさい」
「いえ。それで進藤は」
「指導は続けるって譲らなくて」
校門で出迎え、指導に使っている教室まで案内する間。アキラはずっと無表情だった。
引き戸を開けると、椅子に座って半身で上体を机に預けているヒカルがこちらに顔を向けた。
「……あかりテメー、ヒトの携帯勝手に使いやがって」
「だって番号わかんなかったんだからしょうがないでしょ」
教室に入ってきたアキラを見て、部員たちがざわめく。無理もない。
この場に、十代のプロ棋士ツートップが揃っているのだから。不動の北斗杯代表。最速昇段の七段。
「進藤」
「おまえさー、今日芹沢先生の研究会じゃなかったのかよ」
「抜けてきた」
「っかー……」
ヒカルは左手で額を押さえる。
「キミだって同じじゃないか」
「芹沢先生には先週、こっちがあるから行けないって言ってある。一緒にすんな」
「そんな体たらくで指導を続けたいなど、笑わせるじゃないか」
「るせェ」
アキラはひとつ息をつくと、部員の方に向き直った。
「この役立たずの代わりに、ボクで良かったら残り時間の指導をしますが。どうですか」
教室内が水を打ったように静まり返る。元五冠棋士の息子に今ここで見てもらえるなど誰も想像が及
ばなかったからだ。あかりでさえも。

262 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/23(木) 04:03:59.72 ID:???
「いいのかよ。指導料取れねェぜ?」
ヒカルの茶々を、アキラは受け流した。
「キミがそういう約束をしているのだろう?……進藤でなければと仰るなら出すぎた真似ですが、如
何でしょう」
「い、いえっ」
ガタガタと音を立て、個人戦に出る男子生徒が立ち上がる。
「こっちの方こそ、お忙しいのになんかスイマセン。お願いできるなら、ぜひ」
「わかりました。進藤、キミは適当にその辺で寝てろ。口出しは無用だ。終わったら送って行く……
ああそうだ、ちゃんと解熱剤は飲んでおけ。持ってないなんてほざくならその肩、もう一度抜くぞ」

口出し無用と言うだけあった。何の打ち合わせも無かったはずなのに、アキラは違和感を覚えさせず
に指導を引き継いだ。実力伯仲とはいえ、力碁のアキラと技巧派のヒカルでは教え方に食い違いが出
ても良さそうなものだが。
「単に好みの差、くらいの違いでしかないですよ。ここまで進藤の碁で教わってるなら、臨時のボク
が自分の好みを押し付けるのは混乱を招くだけで一つも良いことがない」
「……その好みで本人同士は毎度ガキのケンカだけどな」
「キミは黙ってろ」
寝ていろと言われてはいたが、ヒカルは机に突っ伏した状態で顔を僅かに上げ、指導の推移をずっと
見ていた。抜けがあると、次回に支障が出るからだった。
流石に何でもかんでも逆らうのはどうかと思ったのか、素直に解熱剤は飲んだ。強い薬らしく、暫く
すると船を漕ぎ始めては頭を振って眠気を払う、という動作を繰り返し始めた。
(こんな薬が必要なくらい酷い怪我だったくせに)
こんな状態では歩かせるのも危ない。あかりは気が気でなかった。
そうこうしているうちに、指導は予定の時間に無事終了した。部員の礼に応えるのも早々に、アキラ
はヒカルの左腕を取り、自分の肩に回して立たせた。更に、腰を抱いて支える。
張っていた気が緩んだのか、ヒカルは小さな寝息を立てている。その耳元に、柔らかくなった口調で
囁くのをあかりは聞いた。
「帰るよ。もう起きなくていいから」
あかりは自分の鞄とヒカルのリュックを抱えて、アキラに続いた。途中まで同じ経路なのだから、付
いて行くしかない。
「でも、電車は無理なんじゃ……」
「校門前に車を待たせてます。キミも途中まで同じ道でしょう?送ります」
来た時のタクシーをそのまま?一時間以上も?一体料金は幾らまで跳ね上がっているのだろうと考え
るとぞっとする。更に、ここからヒカルの家までの分が追加されるのだ。
表情に出てしまっていたのか、アキラは小さく笑って言った。
「ご心配なく。後日、彼に全額請求しますから」
それもどうかと思う。
ヒカルを抱えているアキラに先を譲り、あかりは最後に後部座席に乗り込んだ。
「……ぅ」
状態の悪い道路で車が大きく揺れるたび、ヒカルが辛そうに呻く。やはり、相当痩せ我慢をしていた
のだ。
ヒカルの頭はアキラの膝の上にある。スペースに限りのある車内なので頭頂部がはみ出してあかりの
側に来ていたが、文句を言っている場合ではなかった。
近いがゆえ、見たくなくとも見えてしまう。見てはいけないと心が警告するのに、見えてしまう。

アキラの指がヒカルの髪を撫で、かき上げ、絡めて弄ぶ。
指先が頬をなぞり、鼻筋を掠め、傷に響かぬようそっと右腕を辿る。
その動きはどこか淫靡で、目を背けたいのに背ける事ができなかった。

263 :◆lRIlmLogGo :2014/10/23(木) 04:04:30.99 ID:???
ヒカルたん「ファン層がメイツとか…イヤガラセすぎる」
いやそんなヒカルたんをムキムキしたいとかペロペロしたいとかズコバコしたいとか
そんな事塵ほども考えてないよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

前回から今回にかけて高校の文化祭を満喫するヒカルたん妄想がやばい
同世代がキャッキャしてるのを見ながらなんか寂しい気持ちになるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
中学時代に「たまに囲碁部で打ちたい」とか思ってたのと似たような置いてけぼり感を
追体験してしまうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

そして堂々とセクハラかます若゛先生…己の道をまっしぐらで何よりです

264 :名無しさん@ピンキー:2014/10/23(木) 17:30:20.10 ID:???
メイツ筆頭の若゛は安定だった
ヒカルたんをなでなでさわさわしたいお(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

265 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/24(金) 20:53:09.03 ID:???
※※※

「そーいや普及の仕事、それ以来回って来んようになった言うとったなアイツ」
「警備に余計な費用がかかるとかで……まあそうですよね」
茶を出されたらきっちり茶菓子まで胃袋に収める事にしている。長っ尻になる気はなかったが、ある
程度は自衛のために情報交換のひとつもしておいた方がいいと社は考えていた。
「……もう、塔矢がやらかした話なんぞどっか飛んで行ってもうとるがな。何で持ちだして来る」
彼女の昔語りから敷衍すれば、少なくとも七年前からあの二人はそれなりの間柄だった事になる。
(前にオレが進藤可愛い言うたったら全否定しよったクセにあのムッツリ)
初めてアキラの家に泊まった時だ。ヒカルを触ろうなんて物好きがいるのかと惚けていたのに。
「どっかのナントカと違って紳士だ、ってくだりで思い出しちゃって」
「さよか」
「それと私、さっきの本屋で囲碁関連の棚の前にいたでしょ」
「おう。それが?」
ぽっかり空いた棚のスペースを社は思い返す。
「ヒカルだけじゃなくて、塔矢君が関わった本も全部なくなってたなぁって。それで」
「連想してもうたわけや」
彼女はこっくりと頷いた。
「言いましたよね。ヒカルを盾にして塔矢君が守られてる気がして嫌だったって」
腑に落ちた。今のこの状況も同じなのではないかと彼女は勘繰っているのだ。
「事ここに及んでそれはあれへんわ。何や、息子放っぽらかしてフリーダムに海外転戦しっぱなしの
塔矢行洋召還の話も出とる」
「……そうなんですか」
「とうに日本棋院と切れとる親父呼びつけんのはよっぽど上もドタマ来とるゆーこっちゃ。今の塔矢
守るメリットがどこにあんねんな」
それでも、どこか承服しかねると言いたげな口元。
「シャブ中の男とデキとった、それだけで庇える要素ゼロやがな」
「決めつけるのはやめて下さい!」
彼女は両手で頭を抱え、激しく横に振る。
「なんでみんなそんな酷いこと言うの?嘘ばっかりの話を信じるの?雑誌やテレビを丸ごと信じちゃ
うの?学校での事とか作り話を平気で垂れ流してるのに!覚醒剤なんてでっち上げに決まってる!」
ヒカルが警察で参考人聴取を受けたのは本当なのだから全くのでっち上げではない、と社は言えなか
った。彼女はそんな事承知の上で胸の裡をぶち撒けたのだから。
キャッチーな内容で人の耳目を引くためなら、事実を虚構で膨らませるのはお手の物。現在氾濫して
いる記事のどれもが、大なり小なりそうだろう。全くの嘘八百ではない所に性質の悪さがある。
一旦は下火になっていた援助交際ネタも、金銭が動く不正な勝ち星の遣り取り疑惑に絡んで再燃して
いる。社も関西棋院で一般客の話を小耳に挟むが、聞くに堪えない。
水に落ちた犬を棒で叩くのは日本の諺ではなかろうに。
「会社で、辛いんか」
昼の食事時に人間関係の潤滑剤としてこの話題を振られたらたまったものではないに相違ない。
でたらめだと知っている話に乗れるわけがない。しかも、無関係な他人にとっては荒唐無稽であるほ
ど面白いのだから始末に負えない。

266 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/24(金) 20:53:40.37 ID:???
社は、彼女に手渡された名刺の事を思い出す。何とかの営業部と書かれていた。
客先で話題に出されたら、嫌でも合わせなくてはならないのか。因果なものだ。
「私あの子と幼稚園から一緒だったのよ?放課後は夕方まで一緒に遊んでた!中学では囲碁部で!あ
の子が院生になるまで一緒だった!あんな、汚い事するヒマなんてあるわけない!」
汚い事、とは囲碁関係の大人を体で籠絡した類の話を指すのだろう。
「逆に、院生になってから後の進藤はよう知らんわけや」
彼女は涙に汚れた顔を上げ、社を睨みつける。
「オレも所属がちゃうよってな。全部知っとる言うわけやあらへん……けどまあ、ちょびっとだけ舞
台裏みたいなもんは把握しとるつもりではおる」
「舞台……裏?」
「進藤に関して結構なカネが動いとったんは嘘やない。ただ、騒がれてるみたいな話でもない」
「どういう、ことですか」
「オレらが出とった北斗杯。あれが続いとるんは進藤と日本棋院が北斗通信と契約しとったからや」
「よく……わからない」
「進藤を北斗通信の広告塔に据える見返りに、オレらの後に出てくる代表がザコばっかしやろうが北
斗杯は存続させる。ま、進藤の賞味期限が切れたら終わりの契約やな」
「それが、間違った噂になって広まってるの?」
「そう言うこっちゃ。あとな、テレビとかで進藤だけガンガン押されとったん、自分が考えてるよな
塔矢の盾にどうたらとはちゃう」
「じゃあ何なんですか」
「北斗通信のCM、元々はオレら三人とも出とった。特別に撮ったとかやのうて、北斗杯の映像切り貼
りしたヤツな」
「……」
懸命に古い記憶を引っ張り出そうとしているのか、彼女は俯いて無言になった。
「進藤が高永夏に負けてボロ泣きしよったトコがえらいウケたっちゅうんで、ほなピンで売ろかて話
になった。オレと塔矢はそこで用なしや」
「それ、ヒカルは最初から知ってたんですか」
「契約の中身知らんとハンコ捺すアホはそうそうおらんわな」
「なんにも、教えてくれなかった……はぐらかすばかりで」
「そらまあ業界の生臭い話は部外者に聞かせとうない思うんが普通やわ」
「部外者……そう、ですよね」
しまった。いらぬ疎外感を与えてしまったか。後悔したが後の祭りだった。
「……ヤオやの何やのて噂は、夏ぐらいから出とった。ネットで見たこっちの若手が無責任に広めよ
ってな。塔矢に確認したら、東京やとみんな知ってる事で不正に結びつけるヤツは誰もおれへん言う
とった」
そこが落とし穴だったのだろうと社は思う。所属先の東京では疑惑でも何でもない事なのに、他の支
部や組織では違う。それが小さな火種になり、今の事態を招いた。
「こっちばっかネタ出すんはフェアやないな。いっこ教えてんか」
「私には、何も」
「中学の囲碁部の話やったらでけるやろ」

267 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/24(金) 20:54:11.40 ID:???
※※※

「……要するに、早よからオトナの世界に染まってもうたんを認めとうないてか」
車の往来も疎らになった暗い大通りを駅に向かって歩きながら、社は独りごちた。
中百舌鳥発の列車の本数は少なくなったが、まだ終電の時間ではなかった。
自分が呑気に高校生活を送っている間に、よく知っていたはずの幼馴染が企業や組織の思惑で道具に
されていた。本人も承知の上で。それを話して貰えなかったのが蚊帳の外に置かれたように感じられ
て口惜しい。何も知らないまま、漠然とした不満を塔矢という仮想敵を設定する事で逸らしていたな
んて滑稽だ。
彼女の言い分を整理すればこうだった。
「ナンギやのう」
大人と伍して戦うという事は、大人並みの社会的な要求もされるという事。
プロの世界における未成年は一方的な庇護の対象たりえない。
そこを理解してもらえないとなれば。

彼女から聞いた囲碁部時代のヒカルの実力は、以前アキラから聞いたのと概ね一致していた。
院生になる半年前の時点で、三人いた男子部員内の最下位。ゆえに地区大会では三将。
アキラが知っていたのはここまで。
それが夏休みを挟んで急成長し、部内で当時最強の実力者を破るまでになっていた。だが。
『院生試験を受ける直前の時点で合格には力不足』
当時を知ると自称する人物のこんな証言がとあるサイトに掲載されていたのを見たのが七月初め。
それを裏付ける院生師範の過去の述懐がメディアに掘り返されたのは最近だ。
緒方棋聖、当時の九段が申込期間を過ぎての受理を事務局に働きかけ、試験を担当した院生師範が力
不足と判断したにも拘らず合格を言い渡した。
初出時点では『天才棋士を発掘したちょっといい話』だったはずが、今では不正を裏付けるソースと
して出回っている。視点と解釈次第でどうとでもなる証左ではないか。受け取る側の先入観に左右さ
れる程度の価値しかない。
(進藤は高いハードル用意したったら跳び損ねてコケてそっから大化けしよる。そんなんオレが骨身
に沁みてわーっとるわ。何がヤオやねん、アホらし)
昨日と今日で別人になるその変化を目の当たりにした。予選ではいい戦いをしたと思った相手が、手
の届かない高みへと跳躍する、その様を。最初の北斗杯で。
リーグ入りに届かなかった後。タイトル挑戦権に届かなかった後。そして、棋聖戦七番勝負で緒方に
あと一歩届かなかった後。
対局して怖かったのはいつだって、安定した成長を見せるアキラではなく停滞の後で一気に伸びるヒ
カルだった。やけに自己評価が低いくせに、遥か彼方にある目標へと突き進みたがる。
それがここ数年、目立った進化を見せない。タイトルホルダーとなって頭打ちなのかとも思ったが、
グランドスラムも未達成だし現状で満足していると言うには飢餓感を払拭できていないようだった。
そうだ。いつ見ても何がしかに飢えていた。次の飛躍的進化を前に、飢えていた。
(今はどうやねんな)
追いつき、追い越したいと渇望している反面、もうどうしようもないほどに突き放されたい願望もあ
る。アキラ相手には決して喚起されない感情。
棋界から追放されそうな人間に、まだ期待している自分がいる。
(これもごっつ高いハードルなんやとしたら、コケまくった後どんだけ跳びよんねや)
たらればなど無意味だ。もうヒカルに碁打ちとしての居場所など無くなる。

ふと、社は次の対局相手の顔を思い浮かべる。
北斗杯の予選で毎年顔を合わせていた人物。必ず自分か越智に撃破され、ついぞ代表にはなれなかっ
た。決して弱くはないし、公式手合で何度か痛い目にも遭った。
「こっちへ来るんやったなアイツ」
所属が違う棋士同士が戦う場合、低段の者が高段の者の所へ出向くのが通例だ。それに従って大阪へ
やって来る。
対局ついでに、昔の戦友両名の近況でも訊いておこうと思った。

268 :◆lRIlmLogGo :2014/10/24(金) 20:57:56.16 ID:???
ここまで書くのにえらい時間食うてもうた…
なんでやろか

次の投下は明け方くらいに、なるんじゃないかと、多分

269 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 03:00:08.85 ID:???
盆たんお疲れ様!

ヒカルたんは天然に見えて強かなところがいいよな…(;´Д`)ハァハァ

270 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 03:01:23.95 ID:???
俺もそろそろえっちなヒカルたんを書きたいな…(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたんはなにプレイがいい?(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

271 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/25(土) 03:56:11.39 ID:???
※※※

「もうじき、あんたの可愛い弟子が同種の存在になってくれるかもですよ」
幽霊は頑なに口を閉ざしている。
感情を凍らせ、何も感じないように心も閉ざしている。
「末永くイチャコラできそうで良かったじゃないですか」
挑発しても何の反応もない。
「塔矢アキラから奪い返してやったのに、感謝のひとつもなしですか」
手合で指示をしろと言ったらちゃんとする。与えられた仕事さえこなすなら別段文句はない。
「碁打ちとしての立場を失い、世間から追われ、若くして命を落とす。……あれ?くくっ、ものすご
く誰かさんの身の上話とそっくりですよ?」
早く潰れてしまえと常人なら発狂しかねない程の負荷を内から外からかけ続けた。ようやくゴールが
見えてきた。ゲームの勝者は自分だ。痛む頭を押さえながらも少年は北叟笑む。
凌遅刑は最後の一刀が間近。もう既に胸は切り開かれ、弱々しく脈打つ心臓が見えている。
「同じ境遇の幽霊が二体。互いだけで延々と打ち続けるもよし、別々の誰かを乗っ取って現世で戦う
もよし。薔薇色の未来図じゃないですか」
ただ、本体が消えても少年の頭で木霊し続ける泣き声が消える保証はない。そこだけが画竜点睛を欠
くと思った。
『もっと打たせてやれば良かった』が嘆きの骨子なのだから、あの男自身が永遠の対局相手となるこ
とで解消されるのではないか。それなら万々歳だ。
しかし物事は思い通りにいかないのが道理。この頭痛は生涯消えないと考えておいた方が精神衛生の
ためだ。

複数所持している携帯電話のひとつが着信で震え、デスクを小刻みに叩く音がする。そんな音すら頭
に響く。他は全て無音にしてあるが、これだけは別だった。ある番号を除き、全て着信拒否設定にし
ておいた一台。
情報を収集した限りでは、立ち直れないほど打ち拉がれたらしいが。何が切掛でこちらに接触するだ
けの気力が湧いたやら。
「ご無沙汰ですね、塔矢先生」
『……繋がるとは思わなかった』
着信履歴を消去せず、拒否設定にもせず。思ったより冷静だったのか、それとも頭が回らなかったの
か。少年にはどちらでも良かった。
「先生の方からわざわざお電話下さるなんて光栄です。何か御用でも?」
『動機を訊いておこうと思って』
「何のです」
電話の向こうで、唾を飲み込むような音がする。そんなに勇気が必要な質問なのだろうか。
『ああまでして進藤を追い込むだけの理由があるのなら教えろ』

272 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/25(土) 03:56:42.86 ID:???
「今更ですか。お教えしたってもう手遅れですよ」
『教えろ』
「あんたが知りたいのはもっと他の事じゃないんですか?」
『全て教えろ』
底冷えするような温度の低い声。激していない分、溜めに溜めた怒りが痛いほど伝わる。
「聞き出して、進藤先生の墓前で報告でもするおつもりで?」
『墓前だと……キサマ、言っていい事と』
「おーっと。いくらボクでも神様じゃない。遠隔操作で相手を肺炎にできるような便利な能力は持っ
てないです」
塔矢が暫し押し黙る。次に出た言葉は、実に少年のツボを突くものだった。
『肺、炎……?』
思わず笑いがこみ上げる。
「くは、皆に隠されてやんの。いやもとい、気を遣ってもらってたんですねぇ」
『岸本先輩の家にいるんじゃ』
情報を得ようと電話してきたはずが、狼狽えて逆に情報を与えてしまっているではないか。間抜けめ。
「岸本?弁護士さん、そんなお名前なんだ。てか先輩ですか、へーぇ」
先輩と呼ぶからには中学の囲碁部。日弁連のサイトで苗字を放り込んで検索し、登録番号を降順で当
たれば。いや、中学の大会の記録からフルネームが割れればもっと簡単に。所属事務所まで手繰れる。
後はどう料理しようと自由。
「──────あははははは!なぁんてね!ちゃんと探せたんだ『蜘蛛の糸』!よく出来ました!」
岸本はこちらが用意してやった。食いつこうが食いつくまいがどうでも良かった。
とは言え。こいつ程度で岸本に辿り着けるように難易度を設定していない。
「ブレーンが優秀で助かったじゃないですか。もしかしなくても和谷さんですか?」
『……やはりか』
「何がです?」
『確定じゃないだと?どいつもこいつも……ふざけやがって』
「よくわかんないなあ。勝手に自分で納得するのは勘弁してもらえませんか」
それには答えず、塔矢は話を戻した。
『進藤が肺炎だなんて聞いていない』
「半月前に入院して、なんか死にかけてるらしいですよ?どこからも情報が入らないとはねえ」
『半月……』
どうも、思い当たる節があるような語尾の揺れ。
「あ、もしかして原因あんただったり?それなら教えて貰えなくて当然かもねぇ」
『そんな……ボクのせいで、折れてしまった?』
「どんな経緯か存じませんけど。有名な話でね、ラクダの背中に藁一本てやつ」
最後の藁。限界ギリギリまで荷物を載せた駱駝に、追加で藁をほんの一本載せたら背骨が折れると言
う意味合いの西洋の諺だ。
折角、含蓄のある言葉を聞かせてやっているのに耳に入っていないらしい。
『それほどまでに……saiを』
これまでと打って変わって、気の抜けてしまったような声。
「ありゃ。完全に地雷じゃないですか。やっちゃったなー塔矢先生」
『saiとは何だ』
誰だ、から何だ、に格下げか。怒れよ幽霊、恋敵がこんな事ほざいてるぞ。
「その前に。進藤先生がいつもしてたゴッツい腕時計買ったのって、あんたなんです?」
時と場所によって服が変わろうが同じだった、華奢な手首にはバランスの悪い時計。
自慰の時や撮影スタッフとお楽しみの時には、ぞんざいに外して投げ捨てていた。
その行為に幽霊は何を見たのか、塔矢への嫉妬心を引っ込めてしまった。
『それがどうした』
「いえいえ。あの人も罪作りだなーなんて思っただけです」
幽霊に操を立てる意味でのパフォーマンスなら、最初の一回だけで充分なはず。
なのに態々付けて来て、毎回毎回幽霊の前で外して投げ捨てる。
要するにどちらかなんて選べないと意思表示しているわけだ。

273 :◆lRIlmLogGo :2014/10/25(土) 04:00:24.82 ID:???
ヒカルたん「コーハーコーハー(化けて出るぞもー」

山場にさしかかっている…はずでつ

274 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 04:05:09.90 ID:???
>>270
乱暴にハメハメしてひんひん泣かせたい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

275 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 13:02:24.59 ID:???
頑張る若゛。いや、若…

AV見ながらヒカルたんにドリルバイブ使ったらどうなるかな(;´Д`)ハァハァとかばっかり考えている俺…
イき狂ってヒィヒィ言ってるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

276 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 13:03:40.14 ID:???
最近スマホからだと規制かかりやすくなって困ったもんだぜ…
どこでもヒカルたん(;´Д`)ハァハァできなくて困ったもんだ

277 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 22:09:03.53 ID:???
>>275
ドリル…(ゴクリ
楽しみに待ってる(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

俺が思いついたのは
1.部屋にぬこを数匹用意する
2.裸にひん剥いたヒカルたんの全身にマタタビ粉をスリスリする
3.ぬこ入りの部屋にヒカルたんを放り込んで閉じ込める
4.ヒカルたんのスリスリペロペロカミカミ地獄が完成、別室でモニタリング(;´Д`)ハァハァ

ぬこの舌ってザラザラで同じ場所を舐められ続けると擦り剥けるんだよヒカルたん…
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

278 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 22:12:38.85 ID:???
俺もガラケから書き込めない…
いつでもどこでもヒカルたん(;´Д`)ハァハァしたいのに

279 :名無しさん@ピンキー:2014/10/25(土) 22:25:09.42 ID:???
ぬこに舐められ痛気持ちいいヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
ついでに猫耳+バイブつき尻尾+首輪でヒカルたんもぬこ化だ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

280 :倒鎖 ◆FvK.L8.adE :2014/10/26(日) 03:24:33.14 ID:???
「アッ!ああっう、ううう」
尻の中をバイブで激しく掻き回される。
電動ドリルの先にバイブがつけられたそれは、ヒカルの中を容赦無く抉った。
前立腺に当てられ、ヒカルは涎を垂れ流しながら喘ぐことしかできない。
台の上に上半身のみを乗せられ、首と腕は一枚の板で固定され、ギロチン台のようになっている。
一切の抵抗を禁じられ、ただ喘ぐのがヒカルの役目だった。
これは何も無理矢理やられていることではない。
自分の背後にいるのが見知らぬ男だとしても、ヒカルには関係のないことだった。
それより、自分の現状を見ながら興奮しているであろう彼を思い浮かべるだけで、ヒカルは熱い息をこぼす。
ヒカルの恋人である塔矢アキラは、トロイリズムという性癖を持っていた。
トロイリズムとは、恋人と他人の性行為を観察することで興奮を得る性癖だ。
初めは冗談だろうと思っていたのだが、いざ行為をするときになり、全く勃起する兆しを見せないアキラのそれに呆然としたものだ。

初めて見知らぬ男と行為をしたのは18歳のときだ。
逃げ出さないように腕を縛られ、嫌だと泣き叫ぶヒカルをアキラは嬉々として見つめながら男にヒカルを犯させた。
行為が終わった後も泣きじゃくるヒカルを優しく抱きしめ、アキラは興奮のままにヒカルを抱いた。
初めは理解できなかった行為だったが、アキラとの行為のために必要なものならばと割り切ったのはその一年後だった。
ヒカルはアキラとの行為のために、知らない男に犯されるのだ。
アキラは毎回違う男をどこからか連れてくる。
病気の検査はきちんと済ましている相手を選んでくる辺り、どこかのそういった会社から雇っているのかもしれないが、真実は定かではない。
行為は毎度様々なもので、複数を一度に相手にしたり、ヒカルが自慰しているのを見たがったりする者もいた。
怪我をしなければ、基本的になんでもしていいと言われている。
今回の男はヒカルを玩具で嬲りたいらしい。
ガガガガと前後に動く機械音がヒカルの身体を追い詰めて行く。
「あっあっあっやらっ、いく、いっちゃ、あっあっ」
欲望のままに熱を吐き出そうとした瞬間、ドリルの動きが止まる。
あと少しでイけるのに、もう一押しがこない。
少し身体が落ち着いてきたところで、再び電動ドリルが動き出す。
脳天を突き抜ける快感に、再び絶頂が近づいてくる。
今度こそ、と息を詰めた瞬間、また動きが止まった。
ヒカルは身体の中をぐるぐると回る熱に、頭が沸騰しそうになる。
「やだっ!おねが、いきたいっ、やめないで!」
今度は電動ドリルが三秒程動くと三秒止まるという周期で動くようになる。
中途半端に熱を高められ、舌を出した犬のように呼吸をする。
「はやくもっと」とおねだりしていると、また抜かれたと思いきや、今度は熱が中に入ってくる。
柔らかく硬いそれはヒカルの内壁の感触を味わうように動く。
男のそれは、ヒカルを嬲ることで興奮していたのか、ビクンビクンと脈を打っている。
ぐちゅぐちゅと激しく腰を突かれ、ヒカルはやっと絶頂を迎えることを許された。
中に熱を吐き出され、腹の中に熱いものを感じる。
今日はこれで終わりなのか、衣服が擦れる音が聞こえる。
扉の開け閉めが二回行われたところで、目の前にアキラが現れた。
ヒカルが拘束されているため、アキラも中腰になっている。
「涙と涎と鼻水と汗で、すごい顔になってるよ」
アキラの勃ちあがったそれを目の前に出され、またいつものアレかと目を閉じる。
息の詰まった声とともに、ヒカルの顔に生臭く温かいものが吐き出された。
他人との行為の後、アキラは必ずヒカルの顔に精液をぶちまける。
そして、ヒカルとの行為に挑むのだ。
尻を親指で広げられると、とろりと穴から白濁が垂れる。
アキラはそれに構わず、自身をヒカルへと挿入した。
変態め、とは思うが、それに付き合っている自分も十分に変態だ。
精液を滴らせ、奥の敏感な処を貫かれる感覚に、ヒカルは大きく口を開けた。

おわり

281 :名無しさん@ピンキー:2014/10/26(日) 03:26:23.66 ID:???
一気に書いたから変なところがあったらゴメソ

282 :名無しさん@ピンキー:2014/10/26(日) 03:54:38.79 ID:???
ありがとうございますありがとうございます
ドリルに悦んじゃうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
何でもやらされちゃうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

これの後にアレを投下するのが非常に心苦しい…

283 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/26(日) 03:56:33.38 ID:???
『答えるまで問う。saiとは何だ』
「あんたさぁ、あの失言王からどうやっても引き出せなかったんでしょ?その答え」
『saiとは何だ』
「進藤先生の口ひとつ割らせられないような人に、ボクが易々とゲロすると思いますか」
『答えろ』
「……そうですねぇ」
少年は面白い余興を思いついた。
「あんたがボクの所まで辿りつけたら。ボクの前に現れる事ができたら。考えてもいいかな」
『…………』
「謹慎中なんて言い訳はナシで。大事な恋人のためなら火の中水の中、ですよね?」
『それは、おまえの素性を暴けたらと言う意味か』
「そのまんまです。ご自分の足で、万難を排して。ボクの居る所まで来れるもんなら来ればいい」
『その言葉に、嘘はないな』
「さあね。リスクはとりたくないなんて人に、やっぱ会う価値なんてないかな」
承諾できなければ恋人面なんて恥ずかしくてできませんよね、と畳み掛けてやるつもりだった。
『その首、綺麗に洗って待っていろ』
少年の見積もりよりも塔矢アキラの導火線は短く、火付きが良かった。
「わぁ怖い。さて、どれだけ時間が掛かるかお手並みを拝見しましょ」
『……精々、ほざいているがいい』
完全に血が昇って忘却しているようだが、電話を掛けてきたそもそもの目的はいいのだろうか。
親切に指摘してやる筋合いなど少年にはなかった。
「間に合うといいですねえ。進藤先生が生きてる間に」
『望みが叶いそうで嬉しいか』
「もうホントにねぇ、あの人ゴキブリみたいにしぶとくて骨が折れたったら」
『下衆が』
口調は静かだが、地を這うような声のトーンで煮えたぎっているのがはっきり判る。
「あと一年足らず、頑張られたらあちらの粘り勝ちだったんですがね」
『何の話だ』
「勝ちってこともないか。どっちにしろプロの世界から去るのは決定事項だったんだから」
塔矢が息を呑む音がする。青天の霹靂だろうから無理もない。
「あの人、三年粘ったんですよ。saiに捧げるためってね。涙出ちゃうなぁホント」
『三年……』
「キレイにゴールされると面白くも何ともないんで。大学駅伝ってご覧になります?」
『喩え話はもうたくさんだ』
「まあそう仰らずに。日本人の大好きなドラマが凝縮されてますからお勧めですよ」
『くどい』
「ご存知でしょうけど、アホみたいな長距離をリレーするでしょ?アクシデントで途中棄権はつきも
のでして。その場合、選手にとって一番精神的にキツイ場所ってどこだと思います?」
観戦した事が本当にないらしい。リアクションに困っているのが目に見えるようだ。
「繰り上げスタートってのがあるんですよ。制限時間内にリレーできなかったら次の選手は前の選手
が来なくてもスタートしなきゃならない」
それが進藤とどう繋がる、と言いたげな溜息が聞こえる。
「選手がリレーを行う中継所、手を伸ばせば届くってとこで倒れて動けなくなるのが最も精神的ダメ
ージが大きいんですって。トラブった選手はもう必死で、起き上がろうとしては倒れを繰り返して。
這いずって。襷を渡す相手はもう目の前にいるから、それ持った手を必死に伸ばす。手だけでも、襷
だけでもリレーゾーンのラインを越えようともう必死にね」
『だから何だ』
「だからね。ボクは繰り上げスタートのピストルを鳴らしてあげたんです。これで日本人好みの悲劇
が完成……次の選手なんて元々いないんですけど」
『意味不明だ』

284 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/26(日) 03:57:17.36 ID:???
「まだわかんないとか。鈍いにも程がある……ヒントなんてあげない。自分で考えてよ」
『韜晦趣味に付き合う気はない』
「国語には疎いんです。難しい単語は許してもらえませんか」
『話を振っておきながら、勿体ぶって喩えで隠すな』
「隠してなんか。ボクはピストルを持ちながら、リレーゾーンで次の選手のフリをして立ってたんで
す。三年もね……で、もう色々限界だったんでパンと鳴らした。七月に」
『…………』
「そしたらあの人、二ヶ月以上も這いずり続けて襷を渡そうとする。とっくにいない次のランナーに。
マジで洗剤ぶっかけられたゴキブリですよ、とっとと棄権すればこんな苦しまなくて済んだのに」
『どんな殺し方をしても、足りない……永劫に、生き地獄を、味わえばいい』
腹の底から捻り出すような、憎悪に満ち満ちた声が少年の鼓膜を叩く。
それですら、ずっと大音量で響き続ける甲高い泣き声に比べれば蚊蜻蛉の泣くようなものだった。
「saiの名を振り翳しさえすれば初対面の男にもあっさり股を開く淫乱に入れ込むとか、相当イカレ
てますね」
『彼を侮辱するのは許さない』
「相手の方がドン引きでしたからねぇ。あんた以外の男を知らないって幾ら言っても信用しなかった
ほどですから」
『進藤を侮辱するな』
「あんたとだって体だけでしょうに。あの人にはsaiだけですよ、ずーっと昔から」
正鵠を射たのだろう。塔矢は忌々しげに呻いた。

※※※

三年頑張った。何を。
あと一年でゴール。何の。
脳が認めたくないと拒否をする。なのに、蓄積された知識があっという間に正答を導き出す。
口が食べ物を受け付けなくなる程に苦悩しながら。
何度倒れても戦うことにしがみついて。目指したものは。
「五連続……在位」
それに何の意味があるかなど、碁打ちなら教えられるまでも無い。
「秀策に、連なる……資格」
目標としていたのだろうとは思っていた。そう公にも発言していた。
『自分などいらない』なら、その資格を得て名を連ねる事に何の意義がある。
タイトルを獲得し、雅号を名乗る事を許されて三年。なのに固辞し続けた理由。
「永世…………」
saiの名を、公式に残す。雅号として。
永世本因坊として。
あと一度、防衛に成功すれば叶うはずだった。
ゴールが目の前にあった。それを嘲笑い、『彼』は最も残酷なタイミングで希望を断ち切ったのだ。

通話はとうに切れていた。
アキラは携帯電話を握ったまま、病床のヒカルに思いを馳せた。
最後に電話した日の、泣きながらアキラを制止した悲痛な声が蘇る。
「そうか。キミには、saiだけなのか」
『彼』ごとsaiを潰すとの宣言が、ヒカルには死刑宣告に等しく聞こえたに違いない。
それを銃爪に、気力だけで保っていた体は一気に壊れてしまった。
だとしても、アキラとて譲れない一線があったのだ。
「ならば理解してくれ。ボクには……キミだけなのだと」
自分に会いに来いと『彼』は言った。その裏を読めば、アキラに居場所など突き止められるわけが無
いという侮りが透けて見える。
「屑め……その高慢な鼻、へし折ってやるぞ。必ずだ」
携帯電話と録音機の接続を外し、記録した通話の再生を早速始める。時間が惜しかった。

285 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/26(日) 03:59:33.73 ID:???
ヒカルたん「シューコーシューコー(煽り耐性ゼロの奴を煽っちゃらめぇ」

マジでタイミングがアレで申し訳なす…

286 :名無しさん@ピンキー:2014/10/26(日) 10:53:21.03 ID:???
展開の想像がつかないぜ…さすがは盆たん
いろいろとヒカルたんも罪作りな男だぜ

287 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/26(日) 22:05:56.00 ID:???
※※※

ゴメンな。
オレができる唯一の償いだったと思って頑張ったけど。神様は許してくんなかった。
歴史上いなかった事にされちゃって、名前は残ってるけどそれは虎次郎としてのものでしかなくて。
おまえのカケラすらなかったじゃん。だからさ、これだけはちゃんと果たしたかったんだ。
でもダメだってさ。おまえの碁を汚しちゃったオレに、おまえの名前を記録に残す権利なんかないっ
て。ホント、ダメでゴメンな。
他の人にもいっぱい迷惑かけちゃった。オレのせいで。重たい処分とか、されてなきゃいいんだけど。

あれだけ苦しかった呼吸が、いつの間にか楽になっていた。
視界はどこまでも墨色一色。真の闇だった。
幼い頃、暗い夜が怖くて何度も泣いた。闇は根源的恐怖の源だった。
この闇にはそんな恐怖を感じない。寧ろ安らぎすら覚える。
自分の体と闇の境界線が判らない。酷く曖昧で、溶けてしまっているようなぼやけた感じ。
これは夢だ、と思った。どうしてか、夢なのだと即座に理解できる時がある。
ならば……あの時のように、逢わせてはくれまいか。そう願った。
けれど闇は闇のままで、都合のいい願望を叶えてはくれなかった。

ぽたり、と冷たい雫が落ちた。どこに。意識を集中させると、頬のあたりだった。
断続的に一滴二滴。ぼんやりと、涙なのだと認識した。
──────どうして、来てしまったのです。
哀しげな声が体中に響いた。どこが耳なのか判然としないから、体中と表現するしかない。
(そっか。おんなじとこに、来ちゃったんだ)
泣くなよ。オレは嬉しいんだから。ここって、夢じゃなくて……うん。おまえのいるところ。
泣くなよ。これからずっと一緒にいてやれるぜ。アイツにはろくに打たせてもらえなかったんだろ?
この三年、おまえにはみっともない負けばっかだったけどさ。百年も修行すればちったぁ歯ごたえも
出るだろうから。ずっと打っていよう。オレじゃ物足りないなんて言うなよ。一緒に探してやるから。
おまえと共に神の一手を求めてくれる碁打ちをさ。
だから。その間だけでも。一緒にいてよ。

冷たい指が、唇をなぞった。見えもしないのに、指だと判った。
その指が触れた場所が、形を取り戻す。それで、触れた場所が唇だと判った。
湿った感触が唇を塞ぐ。歯列を割り、忍び込んで来るのは冷たい舌。
「…………ふ」
冷えた手が、指が、唇が触れる場所から順々に闇と明確に切り離されていく。
「ぁあ…………」
冷たいものに触れられているのに、その場所が熱く火照りだす。温度差がくっきりすればする程、体
の輪郭が自覚されていく。
「ん……ん……ぁ、っ」
体の奥に、火がくべられる。氷のような肌の持ち主によって。それは赤々といこり、内部から全身を
炙っていく。
「あ、ぅ……そこ……は」
どうしても体内への刺激と相容れなかった場所。たおやかな指が、そこに絡みつく。
「ちが……そぅじゃ……そこ、じゃ……」
──────可愛い。もっと、鳴いて。
違う、違う、違う。そこだと何が何だかわからなくなる。気持ち悪くなる。
旨いものと旨いものを混ぜたらもっと旨くなるとか大嘘だからやめて。
もうわっかんないかな、ラーメンにプリンぶちこんだらゲロマズだろ!
「違う……欲しいのは……熱い、の、は」
腹の中に一撃が欲しい。奥で燃える火に直接ぶっかけて消して欲しい。
「っ、あ、あ」
巧みな技で翻弄されて、優しく握られ擦られている部分が硬い芯を持ち始める。
唇が胸を這い、敏感な場所に吸い付く。口の中で角度を変えて何度も甘噛みされると、もうそれだけ
で軽く達してしまう。そこから更に攻め続けられると昇り詰めたまま降りて来られなくなる。

288 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/26(日) 22:06:26.93 ID:???
「ぅあ、は、はや、く」
ナカに欲しい。奥まで突き通して、内臓を直接揺さぶって欲しい。熱くなった内部を怒張で容赦なく
擦り上げて、どろどろに蕩かして欲しい。ねぇまだ?指すらもくれないの?
「そこ、じゃな……んん、きもち、わる」
乳首と快感が連動しているのは後ろだ。なのに前ばかり。意地が悪い。
「……もしか、して、さぁ……やっぱ、ついてないの?」
くす、と涙混じりに笑う声。
右手をとられ、導かれる。はちきれんばかりに脈打ち、雫を垂らす幹。手や唇と同じで冷たい。
触れた途端、我知らず溜息が零れてしまう。これが欲しい。
もはや全身が同化していた闇から完全に分離し、高い熱を放っている。
こんな熱い体に冷えきった楔を打ち込まれたらどうなってしまうのかと期待する。
早くソレで貫いて。一緒に溶けて温んでしまおう。誰が誰だかわからなくなるくらいに。

その瞬間、瞼の後ろで何もかもを真っ白に灼く光が閃いた。
「────────あぁ!」
待っていた快楽とは違う、とてつもない激痛が全身を襲う。
二度、三度、体が跳ねて。
目が醒めた。

※※※

覚えのない天井だった。
ぼけた視界の両端に、カーテンが掛かっている。自分の病室はこんなに狭かっただろうか。
周囲がやけに騒がしい。と言うか、やかましい。怒鳴るなよ、うるさいな。
楽になったはずの呼吸が、また苦しくなっている。大きな酸素マスクも夢を見る前のまま。
「う」
少し意識がはっきりしてきたら、胸の激痛に声が出てしまう。胸全体がたまらなく痛い。
バイタルがどうのカウンターがどうのと、わけのわからない言葉が頻繁に飛び交っている。
耳元で誰かがずっと大声を張り上げ続けている。女の声。鼓膜が破れそうだからやめて欲しい。
そう言おうと声のする方へ少し顔を向けたら、離れてくれた。
「意識戻りました!」
女と入れ替わりに男が顔を覗きこんでくる。見覚えがある。
「進藤さん、わかる?」
何がだよわかんねーよ。言いたいが、相変わらずまともに喋れない。
取り敢えず頷いておく。
「もうすぐご家族がお見えになるから。胸、痛いでしょ?ゴメンね、緊急事態だったんでね」
担当医の言葉で、何となく状況を把握した。
家から父親に蹴りだされて以来、全く顔を合わせていなかった親がここに来る意味。
「……し、……た、んだ」
「無理に喋らなくていいよ、いいから」
「、で……な、で」
なんで呼び戻したんだよ。戻りたくなんてなかった。
あそこで、ずっといたかったのに。
「ぅうぅ……ぅあ……」
泣くと胸の痛みがもっと増した。

彼岸の住人になれなかった事がどうしようもなく悲しかった。
やっと逢えたのに、また引き裂かれた事が辛すぎて耐えられなかった。

知ってしまったら、もう生きてなどいたくなかった。

289 :◆lRIlmLogGo :2014/10/26(日) 22:06:58.33 ID:???
ヒカルたん「ちょっと三途の川見に行ってくる」
台風じゃないけどコロッケ用意して待ってるお…

ヒカルたん底割れ状態でつ

290 :名無しさん@ピンキー:2014/10/27(月) 02:44:34.64 ID:???
ヒカルたんはやまっちゃだめだ…
おそらく、ヒカルたんが黄泉の世界に旅立ったら若゛も追ってくるぞ…

291 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 04:55:58.22 ID:???
※※※

電話代が嵩むからと、社とはもっぱらPCの無料通話ソフトで情報交換を行っていた。
社が大学でSNSやそれに類するガジェットを使う必要に駆られていたお陰で、一から説明する手間が
省けて助かった。
『卒業してからいっこも使うとらへんかったけど、どこで役に立つかわからんな』
「ろくでもねぇ役立ち方だがな」
大阪へ赴いて社と対局した時に、ヒカル達の近況はどうなっているかと尋ねられた。
芦原の件があったため、かなりナーバスな対応をした。
興味本位は当然の事、力になろうとして逆に状況を悪化させるような要素は極力排除したかった。
社は線の引き方が上手かった。必要以上に踏み込もうとせず、無理に全てを聞き出そうともしなかっ
た。その態度が和谷に、社を信用してもいいと思わせた。物言いはストレートだが、こちらが不快に
感じたと知れば即座に修正して来るだけの距離感覚も好ましかった。
余裕のない人間ばかりでは共に溺れてしまう。少し離れた場所から俯瞰的にものを見る存在は、ある
意味有難いのだ。
『……それでどや。その後、アイツの様子は』
返事の前に、思わず長い溜息が出た。
「泣いて『死にたい』一辺倒なのは変わらんとさ」
ヘッドセットからも、同じく長い溜息が聞こえてきた。
アキラが動くのを止めたいがために気管に挿入されていた管を引き抜き、誰かに電話しようと病室を
抜け出した。連れ戻されて一時は落ち着いたが、ほどなく容態が急変した。
心停止を起こして蘇生措置で息を吹き返したものの、意識が戻って以降は「何故生き返らせた」と恨
み事を吐いては泣く毎日だと岸本から伝え聞いている。気管挿管の影響が抜け始めて言葉がまともに
出るようになってからは特に顕著なのだとも。
皮肉な事に、蘇生してから肺炎は治癒に向かっている。人工呼吸器は不要になり、今は上体を起こせ
るまでになったのだとか。
口腔の過剰反射による摂食障害も入院前のレベルにまで回復して食事はできるはずなのに、全く手を
つけない。人目を忍んで面会に来た両親も追い返してしまった。
気力の全てを生きる事への否定に注ぎ込んでいるかに見え、発作的な自殺の危険性があると言う。
ヒカルがネガティブな感情に飲み込まれてしまってから、もう十日近くになる。
気がつけば、十月も下旬に差し掛かろうとしていた。

思い返せば、最初の本因坊防衛の頃から苦悩に苛まれていたのか。
少なくとも二年、堪えに堪えてきたところへアキラによる暴行から始まる一連の醜聞に晒された上に
薬物使用の疑いで警察へ連行と続けば、一切合切投げ出したくなるのも頷ける事ではあった。
その裏には明確な悪意を持ってヒカルを貶めようとする人物がいる。
その動機が全く不明なのが不気味だった。
アキラからは再三、以前和谷がテキストで言及した『A』の目星について問い合わせが来ている。
確定に足る物証がない、顔と声が加工されていては断定できないとしか返答して来なかった。
『A』についてヒカルを弱り果てるまで詰問したのだと決めつけて怒っている所為もあるが、完全な
クロと言い切れないうちはアキラを突付いて暴走させたくないと言うのが最大の理由だった。
自分の感情を最優先させて、限界を超えて張り詰めていたヒカルの精神の糸を切ってしまった男だ。
下手に教えて収集がつかなくなったら困るどころではない。
ならば、とアキラは送って来たのだ。機械ごと。
『A』との電話での遣り取りを。加工なしの声なら判断可能だろう、と。

292 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 04:56:30.99 ID:???
声そのものには正直、あまり記憶は喚起されなかった。
それでも、和谷が最初に睨んだ人物のグレー具合は濃くなった。動画内の特殊なシチュエーションで
は解り辛かった、独特な癖のようなもの。
(もし本当にアイツなんだとしたら)
確か、最初に岡が連れて来た。その岡と共に冬季のプロ試験に合格した前後から来なくなった。
その年新入段の若手は総じて小粒で、不作とまで酷評されている。和谷が疑いを持っているその少年
も例外ではなく、昇段に四苦八苦している。十四年会に出入りしていた時から碁に対する熱意が感じ
られなかったのだから、素質があろうと持ち腐れだ。
そう。通っては来ていたものの、今ひとつ真剣味に欠けていた印象がある。不真面目ではなかったが、
指摘された点を積極的に直そうとしなかったり言い訳に終始したり。他のメンバーとも没交渉。だか
ら埋もれ気味だった。プロ試験合格者の中に名があって驚いたくらいだ。
岡が連れてきた。だが、連れて来るほど仲がいいと言う話は全く聞いていない。
(……違う、岡じゃない)
『ひとり、十四年会に誘いたいんだけどいいかな』

「なんて、こった……!」
もっと早く思い出していれば、ここまで事態が拗れるのを防げたかも知れないのに。
『何や、どないした』
唐突に声を上げた和谷に、社が戸惑っている。
(いや、これだけじゃ弱い、確かアイツの……一昨年の)
急いでブラウザを起動し、欲しい情報を検索する。
「やっ……ぱり、か!」
『せやから何やねんさっきから』
「くそッ、オレとしたことが」
グレーが限りなく黒になった。しかし、それをアキラに告げてはならない。
アキラが勝手に『A』に接触を図るのを完全に阻止するなど和谷にも岸本にも不可能だ。
迂闊に話したらどんな行動に出るか、想像しただけで背筋が凍る。
今のアキラには正常な判断力がない。最悪の結果を招きかねない。無関係な人間を刺したりなどした
らどうなるか。
その前に、こちらが動かなければ。
『おーい』
苛立たしげな社の呼びかけに、和谷はやっと答えた。
「……進藤な。今は別に面会の制限はされてないらしい」
ここは腹を括るしかない。人違いだったならその時だ。
『さよか。で?おまえ会いに行くんかい』
「まあそんなとこだ……そんで、社」
『はいよ』
「近々に東京へ出てくる用事はあるか。無かったら……作って欲しい」
『オレにも来い言うんか』
「悪いが、頼む。詳細は後でPCの方にメールする」

(済まん進藤……オレにはこんな手しか思いつかない)
即効性がある代わり、扱いを間違えれば確実にヒカルの息の根が止まる劇薬。
(一生憎んでくれていい)
自分だけでなく社の立場をも危うくしかねない手段。
「詳細を見て、無理だと思ったら断ってくれていい」
『オイオイ危ない橋かいな。まあ、見て決めるわ』
剣呑な内容のメールが送られて来ると察しながら、冗談めかしてくれる社が頼もしかった。

293 :◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 04:57:05.02 ID:???
ヒカルたん「二人がかりで犯すんでしょ、エロ同人みたいに!」
言いたい気持ちはわかるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
悲しいけどこれ、エロSSなのよねヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
エロめがっさ少ねえけど

294 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 08:37:32.68 ID:???
ヒカルたんを陵辱したくてたまらないんだ…(;´Д`)ハァハァ

295 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 15:10:27.28 ID:???
いや俺はショタヒカルたんのハーパンから出てる生足を
ペロペロするだけで満足な小市民だから(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

十代半ばのヒカルたんを若゛とセットで頂きますしたいなんて
思ってないからホントだから(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
交互に味見したいなんてマジで思ってないから(;´Д`)ハァハァ

296 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 20:08:50.55 ID:???
>>295
おまわりさんこいつです

297 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 20:10:32.73 ID:???
おまわりヒカルたんに手錠つけて抵抗できないようにして
後ろからガツガツ突く話をだな…(;´Д`)ハァハァ

298 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 20:38:06.13 ID:???
>>297
婦警コスのヒカルたん…なんつうけしからん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

299 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 22:09:36.82 ID:???
※※※

こちらへ来てはなりません。
あなたには、この子の苦痛を取り去る義務があります。

それを放棄してはなりません。

※※※

今日の『仕事』は終わった。
負けが見えた時点で、少年は早々にギブアップした。どうせその予定だったのだ。
今回は自分で打った。幽霊に打たせるとヘボの振りはするが勝ちだけはどうあっても譲らない。だか
らこうして、概ね六割程度の手合を自分でこなしては星の数と勝率を調整する。
目立ってはいけない。平々凡々、プロ脱落とはならない程度でいなくては。
下手に勝ちすぎて注目など浴びたら面倒だ。変に早く昇段などしようものなら、幽霊と自分の碁のレ
ベル差が顕著に開いてきて怪しまれる。
相手は四段。たまに組み合わせに恵まれてどこかの棋戦最終予選の上位まで勝ち進む程度の打ち手で
、基本的には少年と同じく地道に勝ちを積み上げて昇段しているタイプだ。リーグ入りなど雲の上。
終わった後の検討はしない。持ち掛けられても体良く断る。この日も同じく、形だけの礼をしてさっ
さと立ち去ろうとした。
「……うーん、キミさぁ」
相手の四段が、それを引き止めるように唸る。何か不審な点でもあっただろうか。幽霊との碁の齟齬
を気取られただろうか。
「言われたことない?その……あー」
口に出しにくいのだろうか、四段は言い淀む。
「ボクが何か失礼でもしたんでしたら謝ります。申し訳あ」
「アハハ違うよ、そうじゃないんだ……大した事じゃない、ちょっと似てるかなって思っただけで」
四段は少年の謝罪の言葉を遮り、頭を掻いた。
「進藤の碁にさ」
ただでさえ痛くて割れそうな頭に、更にクレーンの鉄球を食らった気分になった。
「そう……なんですか?ボクは別に」
「いや、ちょっとかすってるかなって感じた程度だから。どことなく古くさ、や、古風な感じが」
「……あの人は秀策マニアなんでしょう?なら少々かすってても不思議はないです」
軽口で躱しながら、嫌悪感で鳥肌が立った。似てるだって?アレと?
(そういやコイツ、進藤と同い年か)
やけに馴れ馴れしく呼ぶのが、院生時代に付き合いがあると誇示しているかのようだった。
進藤と同期入段は越智六段、和谷五段。その翌年は伊角六段、門脇五段、本田四段。全員十四年会の
メンバーなので知っている。
この男はそこから外れている。デビューは彼らより確実に遅い。十四年会で言えば小宮あたりと同期
なのか。

300 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 22:10:07.68 ID:???
「気を悪くしたらホントゴメン。や、こんな時だろ?引き合いに出されて不快に思ったんなら」
「いえ、別に。と言うか、不謹慎だと思うなら黙ってた方が良かったんじゃないですか」
少し言い過ぎたか。同じ棋士同士でいらぬ波風を立てるのは下策だと自戒していたのに。
「あ、いやぁ……そうだな。ゴメンよ」
人の良さそうな四段はそれ以上少年を引き止めなかった。
幽霊の侵食は、少年が考えているより深くまで及んでいるようだった。
進藤を秀策の劣化コピーと嘲っておきながら、自分はその進藤の更に劣悪なコピーだと指摘される。
屈辱だった。
碁に思い入れなどない。だのに不愉快極まりない。
幽霊が断りもなしに脳内を汚染していく、その事実が厭わしかった。

進藤の処遇はまだ決まらなかった。
危篤状態となったタイミングで追放を発表するのは死体を更に損壊するが如しで対面的に困るらしい。
薬物使用に関する事情聴取は容疑者ではなく参考人だからと棋院は苦しい詭弁を弄している。
疑われ、大々的にマスコミに取り上げられた時点でイメージは失墜しているのだから棋院としては早
い段階で切っておくのが正解だったのに、切り時を見失った。
おかげで連日、黒いカネ疑惑で世間から突付かれ放題の有様。記事訂正を求めるプレスリリースの更
新が追いついていない。
善人の篠田院生師範は思わぬ所から出火して動揺したものの、訥々とした語り口で疑惑を否定し続け
ている。院生試験に進藤を捩じ込んだ緒方棋聖は締切り済みの願書受付を融通した事実を隠さず認め、
その上で金銭が動いた事実などないときっぱり言い切った。児童売買春、所謂援助交際疑惑について
も全く同じ対応。
『息子の望むままライバルを装ったペットを飼い、その体裁を整えるために金で勝ち星を買い上げた
育児放棄の馬鹿親』
事実無根の不名誉な濡れ衣を着せられた塔矢行洋は、帰国してのコメントを棋院に求められるも沈黙
を保ち、帰国の予定も今のところ無い。
塔矢一門が今回の騒ぎで最も割りを食ったと言える。
進藤が院生時代から研究会に出入りしている森下九段とその門下がほぼノーダメージなのと対照的だ
った。特に少年が意図した訳ではない。結果的にそうなった、それだけだ。

二十一日の王座戦第一局は進藤の不戦敗。防衛は不可能だと見られている。
塔矢は相変わらず無期限謹慎中。このままでは天元位からも陥落。残るタイトルは十段のみ。
(棋院のお偉いさんも、グズグズしてないでスパッと決めちまえばいいのに)
玉虫色の決着と言うやつが、反吐が出るほど嫌いだった。1と0以外の結論は気持ち悪い。
yesかnoか。フラグの値はnullか否か。
ショー・ザ・フラッグ。旗幟を鮮明にせよ。
「なんてね」
独りごちるが洒落すらも上手く決まらない。帰りの電車内で、車窓から流れていく景色を眺めながら
親指の爪を噛む。友達と喋るのに夢中な高校生の重いバッグが脚に当たって腹立たしい。もっと周囲
に気を配れないのか低能が。右隣の中年男が広げる新聞が視界を塞ぐ。他人のスペースを我が物顔で
使うな図々しい。左隣に立つ女はしきりに髪を手で梳いている。こっちの顔に当たってんだよ自意識
過剰のドブス。

301 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 22:10:38.84 ID:???
大嫌いな閉鎖社会。大嫌いな閉鎖空間。共通項は人口密度が高い事。
早く解放されたい。自分しかいない部屋で寛ぎたい。
(……無理か)
進藤の泣き声と辛気臭い幽霊は、どこに行っても付き纏う。一人になどなれやしない。
碁が似てる?冗談じゃない。今日はボクが自分で打った。アイツの目はただの節穴だ。
何ら含むところの無い他人の一言が無性に苛々を募らせる。
(そういえば、今日だっけ……どんなつもりなんだか)
九月初旬以降、更新が止まったままの和谷のマイクロブログ。棋士ではなく動画投稿サイトの投稿者
としてのアカウント。先日目にした久々の書き込みは、生放送の短い告知。
進藤に関するお涙頂戴の懇願だかでもするのだろうか。いや。塔矢のブレーンとして動いていたなら、
こちらの情報はある程度握られている。その可能性を考えて、和谷のアカウントを監視していたのだ。
(掴んだネタを視聴者に暴露するってか。どれだけ釣れるか見物するのもいいかもね)
進藤がなかなか潰れなかったので、身元が割れるリスクを負う仕掛けを次々に投入せねばならなかっ
た。警察に送りつけたDVDがその最たるものだった。少年自身までいらぬ疑いを掛けられかねない。
未成年とはいえ、ネット社会ではちょっとしたヒントで特定されてしまうなど茶飯事。
特に自分はプロ棋士だ。名前と生年月日、略歴が棋院公式サイトに載っている。
和谷が自分と進藤を線で結べているなら、名前が公表されればネット上で寄って集ってあっという間
に丸裸にされる。
出身中学も、どんな生徒だったかも、全部。
(ったく、あの耐性ゴキブリが。手間かけさせてくれやがって)
見た目は自分より小柄で華奢なくせに、仕留めたと思ったら起き上がる。何度でも。
降りる駅が近づく。もう大して効かなくなった鎮痛剤をペットボトルの水で流しこむ。

「あの、済みません」
駅からの地下道を出たところで、若い男が声を掛けてくる。ショッピングエリアが近いため、この辺
にはビラだのティッシュだのを配ろうと待ち構えている店員やバイトに毎日捕まる。
「いえ、結構です」
遣り過すのもいつもの日常……と思ったら、そいつに肩を掴まれる。

「あなたが一番尊敬している棋士は、どなたですか?」

は。
本当に来やがった。
「バッサリなので誰だか判りませんでしたよ、塔矢先生。思い切ったイメチェンだなぁ」
一目見て彼だと識別できる真っ直ぐな長髪は、不格好に短くされていた。
他人に見咎められぬよう、自分で切ったのだと思うと笑えた。
「約束を違えるなよ。全て吐いて貰う」
「にしても和谷さんマジ優秀。完全にロックオンされてんじゃん」
「……彼の助力は乞うてない」
「へえ。ちょっとあんたを侮り過ぎたかな。後学のために教えてよ。どうやって突き止めた」
「一昨年の新初段シリーズ。進藤がこれまで一度だけ依頼を受けた相手がおまえだ」
ひゅう、と下手糞な口笛を吹いてやった。
「和谷君からの情報がゼロだったわけではないが……おまえとの最後の電話以降、単独で調べた」
「愛ってヤツですか。くっさ」
「洗いざらい吐け」
少年は肩を掴んだ手を振り払う。
「ここで?ご冗談。汚い所で恐縮ですが、拙宅にて粗茶でもお出ししますよ」

302 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 22:11:25.41 ID:???
昨日、自分ちの最寄りのバス停の名前が全然出てこなくて愕然とした盆でつ
歳は取りたくないものよのう…なのでこのSSは年寄りの物忘れによる不整合が
デフォルトでつorz
風呂敷畳む過程で前の投下分見なおして悶絶するのは毎度の事さ!

(個人的メモ:2000年デビューは塔矢・真柴(確定)+辻岡?村上はその前っぽい?
どっちにしても2001・2002に比べてこの不揃い感…いや2002の本田はゴニョゴニョ)

フラグの初期値は言語及び作るシステムによって違ったりするおね
Cobolだとinitialize命令だのvalue値だのの関係で初期値はzeroかspaceだおね
(nullが入ってるとレコード長不整合で単体走らせた時に落ちる…
あ、少年A氏はC++先輩すか可変長すか、失礼しますた)

303 :◆lRIlmLogGo :2014/10/28(火) 22:14:57.98 ID:???
(余力があれば夜明け頃再投下するかも)

304 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 22:17:05.34 ID:???
そしてまた禁則しくってやがるorz

305 :名無しさん@ピンキー:2014/10/28(火) 23:08:54.62 ID:???
盆たんおつかれ!
若゛のターン!

投下してくれるのは嬉しいのだが、ちゃんと寝るんだぞ…!

306 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/29(水) 22:27:46.10 ID:???
※※※

シラを切られるかと不安だったが、『彼』は案外すんなり本人だと認めた。
ついて行った先にあった高層マンションは築年数が浅そうな物件だった。その低層階にある一室が
『彼』の住居だった。
中に通されると、そこは住宅と言うより小洒落たオフィスのような広々としたワンルームだった。
生活臭が薄い。と言うより、家族と住むには不向きに見えた。
しかし、未成年が単身で暮らすには贅沢が過ぎるように思えた。『彼』はまだ二段。これ程の部屋を
維持できる収入など無いはず。
「何考えてるか当てましょうか。分不相応な部屋で一人暮らししやがって、でしょ」
「そんな事はどうでもいい」
『彼』は戯けるように肩を竦めた。
「いきなり挿れようとする男は嫌われますよ。前戯はたっぷりとしてあげなきゃ」
二重の意味でいやらしい喩えを持ってくる。アキラが不快がるのを見透かしているのだ。
「余計なお世話だ」
「そんなんでよく進藤先生と八年も続いたもんだ。あ、あの人基本Mだからいいのか」
「おまえに前戯が必要なのか?歩くどころか座れもしなくなるまで引き裂いてやる」
「……やめて下さいよ。男は趣味じゃないんです、あんたと違って」
前哨戦は痛み分けと言ったところか。互いに不愉快になったなら結構じゃないかとアキラは思った。
「どうぞ、掛けて下さい。立ち話もなんですから」
ビニールレザー張りと思しき三人掛けのソファーを勧められ、取り敢えずは素直に座る。一旦場を外
した『彼』が持って来たのは茶ではなく折り畳みの碁盤と碁笥だった。
「何のつもりだ」
「saiの所在を知りたいんですよね。ならこれが一番手っ取り早い」
互先でやるつもりらしい。『彼』は碁笥から石を無造作に掴み取る。
いい度胸だ。名人でなくなったとは言え二冠棋士相手に。元よりアキラは粉砕する気でいる。
この少年の全てを。
少年が白番だった。アキラは初手を打つ。
序盤の時点で、少年の言いたい事が理解できた。だが、まだ信用するには早い。
「…………く」
重厚かつ臨機応変な応手。この打ち手を知っている。この老獪さを知っている。
認めたくなどない。しかし何よりも刻々と変化する盤面がそうだと声高に主張する。

二目半、足りなかった。
「どう、なっている」
喉がからからになって、声が割れる。
「どうもこうも、ご覧の通りです。ちゃんと終局した分、進藤先生よりは健闘したんじゃないですか?
あの人コテンパンでしたから」
「そんなはずがあるか……」
「あるかと仰られても、あるもんは認めなきゃ。三年前から数えて全敗です。オール中押し」
少年の言葉には楽しげな笑みが含まれている。

307 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/29(水) 22:28:33.39 ID:???
「そんなわけが、あるか……」
「いい加減しつこいですね。あんたの恋人はボロ負けだったって」
「おまえであるはずがない!」
アキラは激した。
「……わかりますよ?あんたの前に初めて現れたsaiは、進藤ヒカルの姿をしていた。でしょ?」
少年はアキラの反応が面白くてしょうがない風に笑う。
「間違いでも何でもない。確かにその通り。十二年前に天狗だったあんたをノしたのはそうです」
「saiとは……なんだ」
絞り出すようなアキラの問いかけに、少年は即答しなかった。壁にかかった時計を見て、席を立つ。
「ああそうそう。あんたが今座ってるそのソファー、そこでドン引きするほど凄いオナニー見せてく
れましたよあの恥知らず。そりゃもう何回だったか忘れるくらい」
アキラの全身がざわついた。どこまでも嫌がらせに徹するつもりなのだこいつは。
「この……ッ」
握り締めた拳が震える。今すぐ振り上げて顔面に力の限り叩きつけたい。
「もう半年はご無沙汰なんですよねぇ。と、先月初めにガマンできなくてやっちゃったんだっけ」
痩せて骨が浮いてはいたが、変わらず敏感だった肌。
嬌声を堪え切れなくて、枕で顔を塞ぐのがたまらなくそそった。
止めようとしても止められなかった。
最後の一線だけは辛うじて超えずに踏み留まったが、尿道への刺激が強すぎたのか意識を飛ばしてし
まった。
「殴られたくなければ黙れ」
「お育ちがいいくせに野蛮だなァ。そうでなきゃ同い年の男に欲情なんて思考回路にはならないか」
「黙れ」
「あれ?saiの事は話さなくていいんです?」
ああ言えばこう言う。神経を逆撫でさせる技術は超一流だ。
こんな下衆なガキに。ヒカルが三年も弄ばれていたなんて。そうだ、こいつは三年と言った。
強烈な嫉妬心が頭をもたげて、燃え盛る怒りに油を注ぎ込む。そうだ。憤りをぶつけるべきはヒカル
ではなかった。こいつだ。
ヒカルを傷つけていい道理などどこにも無かった。百も承知で傷つけた。具体像のない相手に怒って
も手応えが期待できないから。そんな下らない理由で。
「……余計な事は一切言うな。こちらの知りたい事だけを答えろ、その許可のみ与えてやる」
唸るような声は、意図したものではない。腹の底から自然に出てくる憤怒の具現。
少年は意に介さず、応接然とした一角を離れて左の壁際に向かう。ワンルームなのでどこがどうと言
った厳密な区分はないが、ざっと見たところ三十畳ほどの広い空間をインテリアや電化製品の配置に
よって用途別に緩く使い分けているようだった。
少年が向かった先には大型サイズの液晶テレビが鎮座している。
「仲良く呑気にテレビ鑑賞などするつもりはない」
リモコンで電源を入れた少年がアキラに振り返る。
「ボクだって願い下げです。第一、テレビなんて見ません」
「ならそれは何だ」
「ここ三年できないでいるんですがね。ゲーム用です。電源入れるのも久しぶりだな」
「ゲームなど尚更付き合う気になれん」

308 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/29(水) 22:29:07.11 ID:???
お構いなしで少年は音量を上げる。映し出されているのは確かにテレビ番組ではなかった。
「ありゃ。折角の大画面なのにフルスクにすんの忘れてら。ちょっと失礼」
少年が窓際のデスクに歩み寄る。マウスをクリックする音が家具の少ない室内で反響するのを聞きな
がら、アキラはテレビ画面を訝しげに見ていた。少年の操作で動画サイズがテレビ一杯に大きくなる。
動画投稿サイトのページ。生放送とあるが、いつも見る動画とは違うのだろうか。
アカウント名はzerda。和谷だ。どうして。
タイトルは『おまえらの見たまんまだからよろしく』。
もう放送が始まって暫く経過しているようだが、いつも動画で見ている和谷の部屋が静止画のように
映っているだけで誰もいない。戻ってきた少年も首を傾げた。
「ん?もうとっくに始まってるのに枠代勿体無いなあ」
画面を右から左へと流れる観覧者のコメントも同様に、生放送の主が不在なのに疑問や不満を呈して
いる。一応、画面の中央に来るよう『もうちょっと待て』と殴り書きした紙が箪笥に貼ってある。
「あー、やっぱそうだよねー、人間、ゲスだのクズだの言われても好奇心には勝てないよねー。見て
よこの観覧者の数。大した告知はしてないのに」
コメントの大半はヒカルに関して棋士である和谷が何か新情報を暴露してくれるのかと期待するもの
だった。観覧者数は万の桁を軽々クリアしている。
「安心しろ。おまえ以上の下衆も屑も探す方が難しい」
「おや。見る気になったんで?」
アキラは答えず、敷かれたラグの上に腰を下ろした。『彼』も少し離れてそれに倣った。
観覧者の大多数、そして少年と同じくアキラも情報が欲しかった。但し、理由は違う。
和谷はアキラがどれだけ頼んでも隣にいる少年の事を教えてはくれなかった。
そして、ヒカルが肺炎で重篤な状態に陥っても報せてはくれなかった。
芦原も緒方も同じ。腫れ物に触るかの如く、アキラから情報を遮断した。どれだけ問い糾しても彼らの口は堅かった。
(それほどまでにボクは信用がならないのか)
腹立たしかったが、確かにヒカルの容態を少年に聞かされて激しく動揺し、家を飛び出しそうになっ
た。人違いなど幾らでもすればいい、と乏しい情報を頼りに少年を特定しようとした。
自分の行動でどれだけの人間に迷惑がかかるかなど二の次になっていた。
その結果、アキラは今こんな場所にいる。

玄関ドアの開く音は、テレビから聞こえて来た。
複数の人物がいるらしき物音と話し声。

「あ、っは!」
少年が大仰に手を叩き、感嘆の声を上げる。
同じタイミングで画面が一斉にコメントによって埋め尽くされ、見えなくなった。
「そう来るかぁ!すげェ!斜め上!和谷さんガチで優秀!」
ハイテンションで喜ぶ少年とは対照的に、アキラは声を失っていた。

『……え、っ。和谷……なに、これ』
三週間ぶりに聞くその声には、およそ生気と呼べるものが感じられなかった。

309 :◆lRIlmLogGo :2014/10/29(水) 22:29:38.29 ID:???
若゛「ボクのターン…えっ」
止まない雨の途中で死んじゃうことだってあるし。
雲が晴れる前に死んじゃうことだってあるさ。

昨日、寒くてPCの前におれんかったのでつ
布団の中で仕事するシーズン到来…

そんで昨日のレス、個人的メモ削除し忘れでやんのwww俺のあほーww

310 :◆lRIlmLogGo :2014/10/29(水) 22:46:34.40 ID:???
そして恒例
×三週間→○約一ヶ月
これだから年寄りは…orz

311 :名無しさん@ピンキー:2014/10/30(木) 00:19:25.93 ID:???
あとzeldaさんホントすいません間違えて

312 :名無しさん@ピンキー:2014/10/30(木) 01:57:14.92 ID:???
ヒカルたんクルーー??(゚∀゚)

313 :名無しさん@ピンキー:2014/10/30(木) 22:55:39.62 ID:???
北斗杯終わったあたりのヒカルたん先生に
夜の指導碁をみっちりしっとりお願いしたい…(;´Д`)ハァハァ

ちょっと取り澄ました感じのあの顔で咥えていただいて(;´Д`)ハァハァ
立ちバックでじっくり時間かけて感じていただいて(;´Д`)ハァハァ
控えめなお声で喘いでいただいて(;´Д`)ハァハァ
色っぽい流し目で口に出さずに先を催促していただいて(;´Д`)ハァハァ

イク時はぐっと声を飲み込んでいただいて(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

314 :名無しさん@ピンキー:2014/10/31(金) 01:17:01.92 ID:???
ハロウィンだよヒカルたん!
今日はヒカルたんにイタズラしても合法な日(;´Д`)ハァハァ

315 :名無しさん@ピンキー:2014/10/31(金) 01:38:15.28 ID:???
「お菓子をくれないでイタズラするなんてひどい!」と泣くヒカルたん
お菓子はあげないけど犯してあげるよ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

でもって「ダジャレが寒い」って言われたい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

316 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/31(金) 01:41:32.76 ID:???
※※※

アカウント名zeldaがプロ棋士である事は秘密でも何でもなかった。
表立って「zelda=和谷義高です」と公言した事はなく、動画投稿サイトやマイクロブログのアカウ
ントプロフィールは『ゲーム系の仕事してます。生存競争がシビアな職場です』と、ゲーム機かソフ
トの開発者と紛らわしい書き方で見る者を煙に巻く捻くれたものになっていたが。
その一方で動画ではゲストと称して親しい棋士を顔出しさせていたし、互いに本名で呼び合うしで身
分を誤魔化す意味などまるでなかった。

マイクロブログのつぶやきはプロフィールに合わせて、『職場』『同僚』『先輩』『昇進試験』など
一般的な単語を使っていた。知らない人間が見ればただのどこにでもある会社員の話だが、知ってい
る人間が見ればどの棋士の何の話かまで粗方判るようになっていた。
『同期が昨日オーバーワークで救急車乗った。けどすぐ退院して今日出勤してやがる』
『仕事に来んのはいいけどまた倒れてんじゃねーよ周りの迷惑考えろ』
『同期が職場から救急車で病院送り。もうやだこいつどうにかして』
『入院先から出勤する同期、入院してても無遅刻無欠勤バリバリ仕事。どういうことなの』
七月から八月にかけてのヒカルの動向は、こんな調子で記述されている。そして。
九月初旬、アキラの一件とほぼ同じ時期からから一ヶ月余り更新は止まっていた。
十月下旬になされた久々の更新内容は、ごく簡単な告知文だった。
『10/27 19:30〜生放送開始 てきとーに探してくれ』
和谷はこれで視聴者の数を絞ったつもりでいた。

「おーおー、お粗末な告知だったのに混雑しまくりでやんの。お席は千人様限定だぜ?」
和谷の軽口には皮肉が混じっていた。累計来場者数は則ち好奇心満々の野次馬共の数だ。
交通渋滞に巻き込まれ、開始予定時刻に間に合わなかった。念のため、貼り紙をしておいて良かった。
不意打ちでカメラの前に引きずり出される形となったヒカルは戸惑っているようだった。
「……え、っ。和谷……なに、これ」
声には怯えも混じっている。
「見ての通りさ。ま、座れ」
和谷はテーブルの上に置かれたPCの前に陣取った。
抵抗するかと思ったが、ヒカルはおとなしく和谷の言葉に従った。
ヒカルの顔がフレームインした瞬間、和谷がモニタリングしている画面がコメントで見えなくなった。
「こりゃキリがねぇな。たく、人気者はツライね、とくらァ」
和谷は映像内のコメントを非表示にする。それから隣のヒカルに手を伸ばし、病院からの道中見つか
らないよう被せていたニット帽を脱がせた。
「まだ季節じゃねぇもんな。暑かったろ」
ぼさぼさになった髪を撫で付けもせず、ヒカルは俯いて立膝で座っている。着せられた和谷のスウェ
ットの中で細くなった体が泳いでいた。
「社も……知ってたんだ、これ」
ヒカルは斜め後ろに座った社を見もせずに言った。
「まぁな」
社は感情を表に出さず答えた。

317 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/31(金) 01:42:04.42 ID:???
「そっか……それで?おまえらオレに何させたいの」
「さて、そーだなー。社なんかある?」
「いきなしオブザーバーのオレに振んなや。何進行丸投げしょうしとんねん」
和谷はコメント欄を猛スピードで流れていく文字列の中から目に止まったものを拾う。
「質問来てんぜ。『今日551はなし?』」
社は呆れた声を出した。
「あるかボケ。ナメとんかコラ和谷」
憮然とした返しはいつもの軽快なツッコミではなかった。
場を和ませるような状況ではないだろう、と言外に非難するのを和谷は汲み取った。
踏み込むのが怖い。けれど、やらなくては現状の打開は出来ない。
和谷は対局前にいつもするように、大きく息を吸い、吐いた。
「進藤さあ……おまえ、男なら誰でもいいってホントなのかよ」
コメント欄を流れる文字列のスピードが更に加速する。最早文字として認識できなくなっていた。
(言っちまった。もう、後戻りはできねェぞ)
目論見が失敗に終われば、ただ徒にヒカルを晒し者にしただけに終わる。成果なしでは許されない。
「……どうだろ。言うほど知らねェし」
我ながら酷い質問をしたと身構えていたのに、拍子抜けするほどあっさりヒカルは答えた。
だが、ここでたじろいではいけない。攻めるなら徹底的にだ。
コメントの内容など、判読できなくとも予測はつく。認めやがっただのビッチだのヤリマンだので溢
れているだろう。
「聞くトコによりゃあ百人斬りとか?それで少ねェとかすんげぇのな」
ヒカルは小さく肩を揺らし、くっ、と笑った。
「百人でも千人でも好きに思ってりゃいいんじゃね?」
完全に自分を守る事を放棄した投げ遣りな姿に、和谷の胸が痛む。
このままでいいわけがない。
「な!」
和谷の行動に短く声を上げたのは社だった。
制止する暇もあらばこそ、和谷はヒカルの胸倉を掴んで乱暴に引き寄せ、唇を奪う。
柔らかく甘い感触を味わえたのはほんの一瞬で、思いの外強い力で和谷は突き飛ばされた。
「っぷ、げほ!はっ、ぅおぇ」
両手を畳につき、ヒカルが苦しげにえずく。
「なにすんだ、コノ……っ」
和谷を睨みつけた目には涙が滲んでいる。
口元を手の甲で擦りながら、和谷はにやりと笑った。
「百人だか千人だか食ったって割にゃ、ウブい反応じゃん。おこぼれ期待したのにがっかりだぜ」
胸を押さえて蹲るヒカルを社が支える。
「おい、バキバキにアバラいてもうとる人間に無茶すなや」
「あー、心臓マッサージのせいで追加で折れたんだっけ?わりぃわりぃ」
視聴者にアピールするための小芝居は必要だ。ヒカルの体が今どんな状態なのか示さなくては。
そして、醜聞に対して等身大のヒカルがどんな人間なのか知らしめなくては。

318 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/10/31(金) 01:42:40.26 ID:???
「援交ですげェキャリア持ってるんだろ?オレ一人くらい大したこっちゃねェよなァ?何で拒むんだ
よ、今更おぼこぶんなよ。え?進藤」
恨むなら恨んでくれ。一生許してもらえなくても構わない。
乱れたままの髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる。ヒカルの目には怒りの色があったが、まだどこか
虚ろだった。
「いっやー、オレもおまえとは結構長いと思ってただけに、マジびっくりだわ。『大人の男がこわー
い』ってオレと伊角さんに泣きついたの、アレ、大嘘も大嘘ってコトだもんな」
「っ……いたいっ……和谷、っ」
新たに骨折してから三週間ほどになるが、まだ痛みが強いらしい。ヒカルは眉根を寄せ、スウェット
の胸部分を右手で掴んでいる。
「どうなんだよ。プロ試験の予選で不合格食らいそうになってたの、外来の大人が怖ぇからってのは
嘘なのかどうかハッキリしろや。でねぇと、親切したつもりのオレと伊角さんが赤っ恥だろ?オイ」
「う、嘘じゃ」
「はァ?じゃあさ、小学校ん頃から塔矢一門の人間相手にウリやってたって話と食い違わね?」
「ちが、」
「ざけんな。オレらにはモノ知らずなガキでございってツラしときながら、裏で大人に体売ってカネ
出させてたってか。そりゃあ二組ドベのくせして恥ずかしげもなく塔矢のライバルですなんてほざけ
るわな。勝ち星買ってもらえんの既定路線なんだもんな」
「和谷、そんな」
これでいい。自分の役に徹しろ。躊躇うな。
「最初にひっかけた男は誰だよ?やっぱ緒方先生か?だろうなァ、おまえ誘われてたもんなあの人に
塔矢行洋の研究会」
ヒカルは言葉を失って、髪を掴まれたまま首を横に振る。
「院生試験も緒方先生のゴリ押しだろ?マジメにやってたオレらはたまんねェな。男食ってプロんな
れるほど見た目が良きゃあオレも同じ事やるかっつわれたら願い下げだけどよ」
きつく目を瞑り、ただ首を振るヒカルが痛々しい。それでも責める手を緩めてはならない。
華奢な顎を掴み、息がかかるほど顔を寄せて悪罵を浴びせる。
「この可愛い顔で。ちまい体で。男転がして大金動かしてタイトルまで獲れるとか何がどんだけ凄ェ
んだ?締まり?テク?減るもんじゃねェだろ教えろよ」
今コメントの流れはどうなっている。できれば社に確認してもらいたいが、この場の雰囲気を壊しか
ねないので無理だ。
「緒方先生は知らぬ存ぜぬで押し通してるぜ?おまえにも訊かなきゃ視聴者様的にも納得いかねーだ
ろよ。ん?」
自分が嫌いになりそうだった。
「緒方先生が嘘ついてなきゃ、援交なんて話は迷惑以外の何者でもないよなァ。どうなんだ?棋聖は
嘘つきなのか違うのか?」
「…………ッ」
「沈むんならおまえ一人で沈んどけよ。それとも、他の人間まで巻き添えにすんのが望みか?一人じ
ゃイヤだってか!塔矢一門が完全にブッ潰れて喜ぶのはウチの師匠くらいのもんだがな!」
「そんなこと望んでなんかない!」
悲鳴じみた声で、初めてヒカルが反論した。
「ならハッキリさせようぜ。緒方先生は嘘つきなのか?」
和谷の問いに、ヒカルは弱々しく答える。
「……先生は、嘘なんかついてない」
ヒカルを突き放すように解放し、和谷はライブカメラに向き直った。

「だ、そうですぜ?視聴者の皆々様」

319 :◆lRIlmLogGo :2014/10/31(金) 01:43:11.67 ID:???
トーマス「全世界にチュー配信したった」

前回投下分がグダグダ過ぎる件
何故わざわざ視聴者を観覧者に一括変換したし…

生主になった事ないんで、色々間違ってると思うけど生温かくスルーしておながいしまつ

320 :名無しさん@ピンキー:2014/10/31(金) 01:55:13.66 ID:???
ヒカルたんキテター!!ーー!!(゚∀゚)

お菓子を欲しがるヒカルたんにおいしいミルクをあげよう(;´Д`)ハァハァ

321 :名無しさん@ピンキー:2014/10/31(金) 02:09:48.65 ID:???
ヒカルたんを分娩台に縛って合体したい

322 :名無しさん@ピンキー:2014/10/31(金) 02:38:33.61 ID:???
>>320
!!が変なとこに入って無音の叫びになってた…
ヒカルたんへの愛が溢れすぎたんだ

323 :名無しさん@ピンキー:2014/10/31(金) 13:47:38.57 ID:OSwBE9x0
今更だけど泥中の蓮ってどんな話なん?
だれか簡略したまとめ教えて

324 :名無しさん@ピンキー:2014/11/02(日) 00:34:51.00 ID:???
文才のある人まとめてくれ…俺には無理だ…
一言で表すならメンタルダイヤモンドヒカルたん

325 :名無しさん@ピンキー:2014/11/02(日) 01:13:39.74 ID:???
なんでageてんの?

326 :◆lRIlmLogGo :2014/11/02(日) 01:19:34.23 ID:???
>>323
2010年、ヒカルたんが肉体的精神的社会的にフォールダウンしていく話(超ざっくり)
時系列がちょくちょく箱根登山鉄道化するので非常に不親切設計

…今更ってことはずっと読んでくれてたでつか
それでどんな話と訊かれるってこた…なんか色々申し訳ない気分で一杯になる

>>324
なんかワロタおおきに

327 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/02(日) 01:20:49.50 ID:???
※※※

面会謝絶になっていないのは、容態の面でその必要が無くなっていたのに加えて野次馬のシャットア
ウトがほぼ完璧になされていたのが理由だった。
ICUを出たヒカルの病室には、やはり名札がない。医療関係者を除いて出入りする人間は岸本の配慮
で最低限に絞られていた。

なので、夕刻に和谷と社がヒカルの前に現れた時、さほど警戒もせず迎えた。
何に対しても関心が持てず、自分の身に何が降りかかっても心が動く事などとうになくなっていた。
外に出るぞと言われ、渡された服に着替えるよう求められても何故かとすら訊かずに従った。
アキラが今どうしているかさえ、興味が薄くなっていた。
あれほど必死になって彼の行動を止めようと、動かない体に鞭打ったのが嘘のようだった。

髪が見えないよう帽子を深く被り、薄手のロングコートで人目を掻い潜った。
エントランス前で客待ち中のタクシーに乗り込んだ時、自分以外のふたりが大きく息を吐くのを、ど
こか他人事のように見ていた。現実感がすっぽり欠落している。手も足も自分のものでなく、こうし
て薄ぼんやり思考する頭すら借り物のようだった。
工事中の段差にでも乗り上げたのか、車体が縦に大きく跳ねた。和谷が気遣わしげに顔を覗き込む。
「今の、響かなかったか」
「…………」
返事すら億劫で、無視をした。
蘇生時の緊急処置で心臓マッサージを施された際、数ヶ月まともに食事ができなかったせいで脆くな
った骨が数本、また折れた。三週間経過しているので痛みはましになっている。
車が段差に乗り上げれば痛いのは痛い。けれど自分の体だという感覚が薄れてしまっているので、痛
覚も妙にぼけていた。

到着したのが見慣れた和谷のマンションだったので、病院ではできない話でもあるのかと思った。
(今更オレに何言われても)
前の病院に入院して以来、自分のために和谷が尽力してくれていたのには感謝している。
でも、もう遅い。
心は既に彼岸へと攫われてしまって、今ここにあるのは唯の抜け殻。

部屋に入って、初めて胸が不安にざわついた。
どうして、生放送の準備なんて?……いや違う。もう『始まっている』。
これは何だと問う声に震えが混じり込む。怖いという感情など、とうに失くしたと思っていたのに。
自分に要求されているものが見えてこない。和谷や社の目的が見えない。
視聴者の前にヒカルを晒して喜ぶような彼らではないはず。
それは楽観に過ぎたのかも知れない。和谷がいきなり、下衆な質問をぶつけてきたから。
抱かれた人数などいちいち数えていない。アキラまで含めても片手の指で少し足りないかくらいの認
識しかない。第一、毎日取っ替え引っ替えしない限り、たった二ヶ月でどれだけの男を相手にできる
と言うのか。
百人だなどと盛った人数を言われ、思わず失笑した。そんなわけねェだろ。好きに妄想しとけよ。

328 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/02(日) 01:21:20.61 ID:???
胸倉を掴まれたと思ったら、次の瞬間には唇が塞がれていた。
反射的に応えようとして、アキラではないのだと頭が鳴らす警鐘に気づく。
欲しがる本能に目一杯抗う意志を示すため、和谷を力の限りで突き飛ばした。
何故?どうして?アキラでなければならない理由などもうない。誇りも貞操もゴミと同じ。
半年ぶりに味わう他人の唇に体が歓喜したなら、素直になればいいじゃないか。
下腹が疼いて和谷を迎え入れたがっているのを認めればいいじゃないか。
挿れてよ、ここで挿れて。挿れて滅茶苦茶に揺さぶって。社と二人がかりだって構わない。
生放送なんて終わりにしてオレとしようよ。ねえ。

そんな衝動は、間近に迫った和谷の殺気立った視線に射抜かれて萎んだ。
髪を掴んで引き寄せられ、ぼけていたはずの痛覚が鋭さを取り戻す。思わず呻き、スウェットの胸部
分に手をやる。
痛い。息が苦しい。急にどうしたんだよこの体。
嘘じゃない。本当に外来の大人が凄く怖かった。和谷と伊角さんがいなきゃ本戦でコケてたよ。
勝ち星を買うって、そんなのオレにしてくれたとこで誰が得すんだよ。
院生試験だってそうだし、大体プロんなって何年なるんだよ。その間星買い続けられるとかどんだけ
金余りなんだよソイツ。てゆーか星いっこにつき幾らで計算すんの?対局料?オレの?相手の?
塔矢一門なんて無関係だ。塔矢のライバルだって吹いたのはそういう意味じゃない。
全部、前にちゃんと否定したばっかのコトじゃん。坂巻さんに話してプレスリリース載せたんじゃな
かったのかよ。あの人仕事してんのかよ。

和谷の大きな手が顎を掴んで、また唇が触れんばかりに顔が間近に迫る。
自分が淫売だのどうのと言われるのは構わなかった。
けれど他の人間に迷惑が掛かるのは決して本意ではない。巻き添えになどしたくない。
ヒカルがこの場で出来るのはひとつだけ。
嘘吐き呼ばわりされている緒方の名誉を守る、それだけだった。
「……先生は、嘘なんかついてない」

「けどまあ、そりゃおまえの言い分でしかなくて真実かどうか知れたもんじゃねェがな」
拘束を解いてはくれたが、和谷はとことんヒカルを疑ってかかる気でいるらしい。
「ハッキリさせろって、和谷が言ったんじゃないか」
無関係の人間に被せられた汚名を自分が晴らせるなどと思い上がっているつもりはない。
それでも、ちゃんと訴えなくては。
汚れているのは自分だけで、他は皆濡れ衣だと。
「はーん。まァいーや緒方先生はシロだと。じゃあやっぱ元締めは塔矢先生かよ。飼われてたんだろ?」
「……飼う?一体なに」
「とぼけんなよ。元五冠のペットだったんだろつってんの」
「は?」
本気で意味がわからない。
「日本に寄り付きもしなくなって体が夜泣きしてたんじゃねーの?あぁ、そういう時のための息子か」
唐突にアキラを引き合いに出され、ヒカルの頬が熱くなる。

329 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/02(日) 01:21:51.68 ID:???
「なんでそうなるんだよ、わけわけんねーよ」
「親父が散々楽しみ尽くして息子に下げ渡した。だよな?親子どっちの味が良かった?聞かせろよ」
何てこと言うんだ、知らない他人がいっぱい見てる前で。
「親父なんて知るかよ!っ痛ゥ!」
大声を出したせいで肋に響く。まだ肺の機能が十全ではないため、息が切れる。
「ぅ……く」
和谷は休ませてなどくれなかった。
「知らない?ならおまえの勝ち星、何の見返りもなしにお買い上げ?凄ェな、さっすが五冠、太っ腹」
「そんなもん買ってもらった覚えはねェ!」
疼痛を堪えながら、出せる限りの声で下らない疑惑を否定する。
「おまえに覚えがなくてもさ、お買い上げがなかった証明にはならないぜ?可愛い進藤君に気持ちよ
く勝ったつもりになってもらおうとの心遣いがあったんじゃねェの?機嫌がよきゃ、夜もいい感じに
鳴いてくれるって下心もあっただろうし」
下衆もここまで来ると馬鹿らしくて怒る気が削げる。
「じゃあ逆に質問だ。おまえ、オレとの手合で一度でもそんな話、持って来られた事あんのかよ」
ニタッと笑う和谷の顔が不気味で、ヒカルは思わず胴震いした。
「あると思う?」
「あんのかよ。だったらオレは何にも知らずに大間抜けもいいとこだ」
「……ぷ。あったら今頃、もうちょっとマシなとこ住んでら。プロ試験から数えておまえと通算何戦
やってると思ってんだ」
凄んでいた和谷がいきなり吹き出したので面食らう。
「オレみたいな小物はお呼びじゃなかったかな?じゃあもうちょいマシなのに訊いてみろよ。どうで
すか社さん、そちらは」
社を振り返る。見るからに不機嫌そうで、眉間に深い皺が寄っている。
(ウソだろ……まさか、あるのか)
北斗杯の予選ではただ一度だけ当たった。あの心踊ったアクロバティックな手筋が買収された人間の
碁だと言うなら。もう何を信じていいのか。
何を信じて?この期に及んで何かを信じて縋る必要などない。
ないのに。
ないはずなのに。
「あるかいボケが。ガチンコで毎年コイツに負け越し食ろうとるっつの」
「いやさあ。メリットどこにあんのって最大級のツッコミどころが塔矢だよな?アイツの対進藤戦の
勝率ご存知でして?社さん」
「去年は五割いっとらへんな。つか年々悪なっとる」
「星お買い上げが塔矢行洋じゃなかったとしてもさ。期待されてたサラブレッド負け越させるなんて
どんな権力者だよって、なァ」
(大事なものなんか、もう……なのに)
「大体塔矢のあの性格で『金払からう負けてやれ』なんて言われた日にゃ、くくッ」
「目と口から火ィ吹いて激怒しよるな。半径百メートル焦土と化しよんで」
どうして、涙なんか出てくるのだろう。

330 :◆lRIlmLogGo :2014/11/02(日) 01:22:22.45 ID:???
ヒカルたん「そんなことよりえっちしよーぜ」
俺と俺と(;´Д`)ハァハァ

ほんと、わかりにくいSSで重ね重ね申し訳ない
これからは一本道だから!横道も脇道もないから!
ただちょっと視点が目まぐるしく変わるだけだから!(それがアカンのじゃ)

331 :名無しさん@ピンキー:2014/11/02(日) 21:51:36.09 ID:???
ヒカルたんはお幾ら払えばうちにきてくれますか

332 :名無しさん@ピンキー:2014/11/02(日) 22:58:30.95 ID:???
盆たんおつおつ!
ヒカルたんなんというエロ天使(;´Д`)ハァハァ
トーマスと社の取り組みでヒカルたんを取り巻く状況がいい方向へ向かうことを祈るばかりだ

333 :名無しさん@ピンキー:2014/11/02(日) 23:35:21.67 ID:???
>>331
ヒカルたん「まずは年収を教えろ。話はそれからだ」

334 :名無しさん@ピンキー:2014/11/03(月) 00:40:23.98 ID:???
>>333
ひっヒカルたん!(;´Д`)
それは年収ギリギリまで搾り取ってやるぜ!ということなのかい?
それはそれで興奮する

335 :名無しさん@ピンキー:2014/11/03(月) 01:49:07.32 ID:???
年収で足切りされる可能性…

336 :名無しさん@ピンキー:2014/11/03(月) 01:57:14.57 ID:???
そんな冷たいところも好きでつ

337 :名無しさん@ピンキー:2014/11/03(月) 20:31:59.80 ID:???
俺はヒカルたんに心を奪われてしまった哀れなメイツ

338 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/03(月) 22:59:40.20 ID:???
「自分がヨゴレ引き受けて、視聴者の同情を買う作戦かぁ。思い切ったけど、失敗すんじゃね?コレ」
失敗した方が面白い見物になると言わんばかりの口調で少年は評した。
和谷の狙いは理解した。しかし、アキラには賛同できかねる行動だった。
こんな、ヒカルを嬲って晒すような真似。彼の精神的苦痛を慮るとやりきれない。
何より許し難かったのは、アキラですら半年触れていない唇が汚されたこと。
そこまでやる必要がどこにあるのか。
胃が差し込むように痛みを訴える。
「まだ序盤でしょ。早くもヒヨってどうすんだか。視聴者にバレバレじゃん」
「……おまえのような外道を基準に他人を量るな」
口の端を吊り上げ、少年はアキラに顔を向けた。
「だからぁ。外道になりきるの大前提の作戦でしょうが。それがもう破綻しちゃってるっての」
少年の指摘は正しい。早々に茶番である事が露見してしまっては、ヒカルを衆目に晒した意味がなく
なる。ただ辛い思いをさせ、ますますヒカルを追い込むだけに終わりかねない。
画面の中のヒカルには体の消耗だけでは説明できない厭世感が漂っているように見える。
それほどまでに自分の言葉が彼の心をざっくり切り裂いたのか。
傷つけてでも取り戻すと決意したはずの心が揺らぎ、罪悪感が新たな胃痛となってアキラを苛んだ。
腹を押さえているアキラから視線を画面に戻しながら、少年はシャツの胸ポケットにあったカプセル
剤のシートを出して数個押し出し、ペットボトルの水で流し込んだ。
(持病の薬……?飲みすぎじゃないのか)
どう見ても一回量が上限を超えている。シートの半分を消費していい内服薬などあるのだろうか。
アキラの怪訝な表情に気づき、少年はおざなりな説明をした。
「気にしないで下さい。頭痛持ちなんです」
「心配や同情をしてもらえると思っているのがおめでたいな」
「そっちに集中しなくていいんです?案外薄情なんだな」
「うるさい」
「ああそれとも、正視できないのかな」
その通りだった。とても平常心ではいられない。
兄弟子や父に対しての侮蔑もそうだ。演出の一環とはいえ許しがたく、甚だ気分が悪い。
先日、和谷から一方的にヒカルとの関係について詰られた分、余計腹立たしい。
それを措いてもヒカルへの仕打ちは酷に過ぎる。もっと他になかったのか。
いや、どうして和谷はこんな手段に出なければならなかったのか。
決断に至った経緯を問い詰めたかった。
「マズイと思って軌道修正かけたか。でもそのチョイス、ヤバくね?」
完全にエンターテインメントとして鑑賞している少年が、話題を切り替えた和谷にケチをつける。
「そっちで叩いてもリカバーできないじゃん。面白くなってきたきたァ」
この屑を喜ばせてどうする。何をやっている。
もどかしさがアキラを歯噛みさせる。
かつて、まだ問題がここまで拗れていなかった頃。自分が全て悪い事にしてヒカルを守れないかと和
谷に提案した。刑事事件になっていないのに自ら放火するなど愚かだと返された。
なのにどうだ。今アキラをダシにヒカルを淫乱だと罵る和谷は、火を煽り大きくする強く乾いた風で
はないか。
「そんでさァ。視聴者何人気づいてるかな?進藤さん完全にスイッチ入っちゃってるよ」
ぎょっとしてアキラは画面を注視する。少年は嫌な笑みを顔に張り付かせたまま、すっと指差した。
先刻から、ヒカルは亀のように丸く小さく蹲って顔を伏せ、和谷の暴言を浴び続けている。
それは謂れ無き侮辱から身を守っているように普通なら見える。
視聴者に向けて詫びているようにも見える。
頭の前に置かれた両手が、落ち着きのない動きを繰り返している。
右手は不規則に小さな開閉を。左手は時折、力なく畳を掻き毟る。
マイクが、和谷の罵声の合間にヒカルの苦しげな呼吸音を拾う。
「淫乱だ淫乱だって連呼するばっかで、和谷さん解ってないんだ。自分がその淫乱にご褒美やってるの」
ヒカルの体を玩具として散々弄んだ少年が和谷の不手際を嗤う。
八年分の経験でヒカルがどうすればどんな悦び方をするか知り尽くしているアキラも、不本意ながら
少年に同意するしかなかった。
視聴者の大半はただの野次馬。見過ごしてくれる可能性は大きい。だが、目敏い誰かがコメントで指
摘でもしようものなら……。
アキラの懸念を読んだかの如く、少年は心臓が凍りそうな言葉を放った。
「別に、でっち上げでもいいんですよ?こういった場は煽ったモン勝ちだから」
さらに駄目を押す。
「通常の精神状態じゃないとこへ言葉責めされてMの本性丸出しになっちゃって。可哀想にねー」
上半身を伏せたヒカルの腰が、快楽を得ようと小さく揺らめいている。

339 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/03(月) 23:00:13.83 ID:???
性的な含みを持つ接触が、ここまで自分を弱くするのかと思った。
和谷との軽いキスひとつで感覚がすっかり切り替わってしまっている。
燃え上がった情欲は、一旦は治まったはずだった。
(なんでだよ……警察じゃあこうはならなかっただろ?)
その答えはヒカル自身がよく解っていた。
一身を賭けて守るべき存在がいると信じたから頑張れた。
師の、その果て無き夢の、妨げとなるものは全て排除したかった。
けれど、つかの間だけ訪れるを許された射干玉の闇の中で、真に希求するものを得てしまった。
これまで崖っ淵で踏ん張ってきたことが、合切馬鹿らしくなった。
今の望みはたったひとつ。
もう一度、今度こそ、あの何もない闇へ。
だからもう、この世で頑張れる力なんて塵芥ほども残っていない。
自分の潔白だのには興味が失せた。もとより薄かった。
ただ、自分のせいで世話になった人物が不当に汚名を着せられたままなのが嫌だったから、さっきは
反論したまでだ。後顧の憂いは無いに越したことはない。
涙を流したのは弱いところに付け込まれたから。早合点して嬉しくなってしまったから。
何だよ。結局、仲間に庇われて嬉しいなんて気持ちが残ってたんじゃないか。
そう気付き、ヒカルは捨ててしまおうと決めた。僅かに残っていた未練も自分可愛さも。
よすががない故、流される。艫綱の解けた小舟と同じ。あてどなく流される。
(あっ……)
和谷の罵り嘲る声が耳孔を犯す。はしたない体。節操のない心。
額に汗が滲む。体が勝手に揺れる。
そうだよ和谷の言うとおりだよオレは淫乱だよそれがどうしたよ。
もっと言ってよ口汚く泡飛ばしながらそんなんじゃ足りないよ。
ぜんぜん響かないよ感じたいんだよおかしくなりたいんだよおかしくしてよ。
火をつけたのおまえだろなんとかしろよねえなんとかしてなんとかしてなんとかして。
(はぁ…………っ)
脇腹を足先で小突かれ、敏感さを増した肌が粟立つ。スウェットの裏地に硬く屹立した乳頭の先が擦
れ、乳首の芯と腹の奥が切なくなる。貫かれるのを待ち焦がれた後孔が慣らされもしないのに軽く口
を開く。下着の中はとっくに大洪水だ。
社が和谷を窘める声が、蹲ったヒカルの体越しに聞こえる。
和谷から庇おうと肩に掛けられた社の手にさえ感じてしまう。どうにもならない。
不思議と、アキラに申し訳ないと思う気持ちは湧かなかった。探せばあるのかも知れないが、どこに
しまったか忘れた。
この場にいれば三人で抱けと要求する、それ以上の意味は無い。
此岸で碁を打つ価値を見失ってしまえば、アキラに重きを置く理由もまた見失われる。
(ぁあ……んん)
体内で膨張した熱が外へ外へと逃げたがる。生殺しの状態から解放されたいと全身が咽び泣く。
声を殺すなど不要なはずなのに殺してしまうのはどうしてだろう。
その方が燃えるからだ。
和谷の声が遠くなっている。高まりきった体は、罵りよりも確かなものを欲している。
くれないのは解っていてなお、求めずにいられない。
和谷も社もヒカルがどんな状態なのか正確に把握できていない。ただ体調を悪くして蹲ったとしか見
ていない。二人の遣り取りで判る。
「これアカンやろ。殺してもうたらどない責任取んねや」
「何ビビってんだよ、追及したい事はまだまだ残ってんぜ。寝んなよ進藤」
また脇腹を足で小突かれる。ざわざわとした感覚がその場所から皮膚全体に走り抜け、鼻に抜けた声
が小さく漏れてしまう。それが苦痛の呻きだと解釈されてしまうのは幸か不幸かどちらだろう。
社の手が苦しさを紛らわそうとしてか、そっと背中を撫で下ろす。
尾骨から甘くもどかしい痺れが体を駆け上がり、たまらず身をくねらせる。
「やめて……触らないで」
本心とは逆の言葉が、口をついて出た。
取り繕うなよ。もっと触ってって言えよ。
「大丈夫か」
耳元で小さく、社が囁く。感じて跳ねそうになる体をどうにか抑える。
誰か早く解放して。誰でもいい。この熱を冷まして。
……一体、何に遠慮して我慢しているのか自分にも判らない。

340 :◆lRIlmLogGo :2014/11/03(月) 23:01:04.24 ID:???
久々の、行数おk字数オーバー

だってトーマスだもの、パーフェクトにいくわけがない(暗黒微笑
つかおまえ、全編通して有能すぎなのでここらでバランス取ろうぜ

そして不特定多数に見られながらの言葉責めプレイにもってかれそうなヒカルたん
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

寒い時期の作業場である俺の寝室には灯りがない
暗い場所でPC使うとミスタッチが増える
そして笑うしかないような間違いも増える
……前回投下分ェ

341 :名無しさん@ピンキー:2014/11/04(火) 02:04:53.22 ID:???
ドMヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

342 ::2014/11/04(火) 03:22:32.07 ID:???
(実は話中で一度もしていない事が3つ、いや4つある…
これが結構キツイ縛りで俺も何か新しい性癖に目覚めそう)

343 ::2014/11/04(火) 03:56:05.79 ID:???
(5つあったw最大級なの忘れててどうする)

アニメ見返したいが時間取られてまうのが目に見えている
見始めたら最後ノンストップになってまう
それで仕事にならなかった春ww
これもみんなヒカルたんがかわええのがあかんのや(;´Д`)ハァハァ

344 :名無しさん@ピンキー:2014/11/04(火) 22:31:46.88 ID:???
ヒカルたんのぷにぷにほっぺとまんまるおめめの魅力(;´Д`)ハァハァ

345 :名無しさん@ピンキー:2014/11/04(火) 23:05:41.84 ID:???
ヒカルたんの上目遣いは最強だといつも思う(;´Д`)ハァハァ
あどけない表情で見つめられたい(;´Д`)ハァハァ

346 :名無しさん@ピンキー:2014/11/04(火) 23:31:05.82 ID:???
おねだりしたり甘えたりするときは上目遣いなヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
相手が少し背が高いだけで上目遣いになるヒカルたんはあざとい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

347 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 00:46:12.31 ID:???
学生服に着られてる頃のヒカルたんに見上げられたい(;´Д`)ハァハァ
きょとんとした顔で「誰?」みたいに見られたい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

348 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 00:54:58.85 ID:???
学生服に着られてるときのヒカルたんの破壊力は計り知れない(;´Д`)ハァハァ
よくあんな可愛い子が無事に生きてこれたよ!

349 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 15:22:48.04 ID:???
ぶかぶか袖裾折り返し制服でカラーもぶかぶかな背の低いヒカルたんが
人気のない公園の汚い男子トイレで頬を赤らめておっきな瞳を潤ませながら
必殺の上目遣いで
「……舐めて」
って息を乱しておずおずとチャックを下ろし、パンパンに張ったポークビッツを

350 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 16:46:43.32 ID:???
無毛で色素沈着なんかしてないキレイなポークビッツをチュパる俺
人気がないとはいえ一生懸命にツバ飲み込みながら声をガマンするヒカルたん
かわゆい菊の蕾を指でツンツクグニグニする俺
ダブルの刺激に腰を揺らしちゃうヒカルたん
「挿れて」っておねだりされるまで挿れずに焦らしまくる俺
でも挿れられたことないからどうしたらいいの状態の中1ヒカルたん
そんなんなのにどうして男を公園トイレに連れ込むんだいヒカルたん
過ぎた好奇心は猫を殺すんだよヒカルたん
(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

351 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 17:17:50.98 ID:???
えっちなヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
いろんな男にしゃぶられて指で蕾を解されてはいるけど処女なヒカルたんエロ過ぎ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

352 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 18:46:41.94 ID:???
蕾の外側だけモミモミツンツンされ続けでツバを飲み込むのを
いつの間にか忘れて半開きになった口の端からタラッとこぼす
お行儀悪いヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
「ん、くぅ……」とか喉絞った高い声が漏れちゃうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
俺の口の中でピクンピクンするポークビッツ…あれ?もしかして
まだ、精通前!(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
空撃ちしかできないのに男に舐めさせる事は知ってるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
何回でも空砲撃たせたげるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
痛くないからね最初は一本だけゆっくりにしたげるからね
ポークビッツの裏側をね、中からコスコスするととても気持ちイイんだよ
やってみたいよね?してほしいよね(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

353 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 19:01:02.52 ID:???
ヒカルたん、誰に舐められることを覚えさせられたんだ…?
若゛か?若゛なのか?!

354 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 19:13:11.65 ID:???
おじさんねぇ、知ってるんだよ
ヒカルたんが男にしょっちゅう声かけられてホイホイここに連れ込まれてんの
おじさんたちの間で有名だよ
最初は怖くて泣いちゃったんだよね、でも舐められるのキモチよくて
つい誘われたらウンって頷いちゃうんだよね
コッチはナメナメしてもらったことある?ないの?じゃあおじさんが最初?
じゃあホントに優しくしないとね(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
ほっぺが真っ赤だよ可愛いねぇヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
さ、便器のフタ下ろすからそこに肘ついて、脚開いてお尻を突き出してごらん
んー、白桃みたいなお尻だねェ…むちゅ、ぺろり

355 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 19:42:54.81 ID:???
ヒカルたんの弾むようなまあるい尻たぶを両手でモミモミして堪能する俺
空イキでお肌が敏感になってるせいで体がビクンビクンしちゃうヒカルたん
ピッチピチのお尻にちゅっちゅしまくる俺
「んっ、んっっ」ってどうしても声が漏れちゃうヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
ちゅっちゅとペロペロを繰り返して、便所の頼りない光をテラテラ反射するまで
俺の涎まみれになったヒカルたんの桃尻(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
それをそーっと、左右に押し開く俺…
「あっ」と短い声上げてこっちを振り向くヒカルたん、もう遅いよレローン
ヒカルたんの蕾、まだ硬いのがよくわかるよ。え?汚いってそんなはずないじゃないか
キレイな色だよ本当に誰にも使わせてないんだね(;´Д`)ハァハァ
見るなって言われるとじっくり観察したくなるんだよヒカルたん

356 :便所:2014/11/05(水) 19:43:32.63 ID:???
単発ネタのつもりだったのに…

357 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 22:32:00.35 ID:???
ヒカルたんの初めてはわたさん

358 :公衆便所に学ランDC連れこんだった:2014/11/05(水) 22:45:52.85 ID:???
俺に見られてキュッとつぼまるヒカルたんのかわゆい穴
緊張してんのかな、恥ずかしいのかな、それとも見られるの好きなのかな
穴の周りもキレイな色、もちろん無毛でツルッツル
かたくなな蕾の周囲を尖らせた舌先でそーっと撫でるとピクン!って
お尻が跳ね上がる…くすぐったいのは感じる場所なんだよヒカルたん
はぁ、はぁ、って息が上がってきてるヒカルたん
とぅるんとしたタマの裏側から穴に続くラインも全然くすんでなくてマジたまらん
思わず何度もペロペロ往復してしまう
「あ、あ!」って全身クネクネさせて悦びとは何なのかを学習し始めてる様子のヒカルたん
いいなあ淫乱の素質バッチリだよなあこんなコドモコドモしてるくせにけしからんな
触ってもない蕾がヒクヒク綻びかけてるよイヤラシイ子だ(;´Д`)ハァハァ
充血し始めた蕾のシワを丁寧にソフトタッチで舐める俺
「んん……」鼻に抜ける甘ったるい声がカワイイよヒカルたん
イイ匂いだよおいしいよペロペロはむはむチュッチュッ
俺もいいかげん痺れが切れてきたつか忍耐力ががが
外堀はもう埋まったよな?いよいよ本丸攻略といかせてもらうよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
初物なんてキンチョーするなぁ、おじさんドキドキしてるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
蕾の中心に舌先をあてがって、じっくり濡らしながら、ちょっとこじるように…
「ぁあンっ!」
……あれれ?まだほんのちょっとも進んでないよヒカルたん
また空撃ちしちゃったの?そんなにイイの?お尻
この奥にね、もっとキモチイイ場所があるのはもう言ったよね?
ちょっとSっ気を刺激されてしまって意地悪言うと、フウフウ喘ぎながら涙目で睨んできた
可愛すぎて俺の方がどうにかなりそう…指だけとか最初思ってたけど無理かも
ちょっと進んでは引き、進んでは引きを繰り返しながら浅い部分をたっぷり濡らす
舌が行ったり来たりするたびに「あっ、あっ」とかわゆく喘ぐヒカルたん
ありゃ、またイッちゃったんだ、ホント感度いいなァつか覚え早いな
「ンッ……ンッ……ンン」
ダボった学ランの中でちっちゃい体を痙攣させながら余韻に喘ぐヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
まだだよまだまだなんだからね、これからなんだよもっともっとだよ
舌が入るギリギリの深さまでしつこく舐めてやると、小刻みに締めてくる
うはぁキモチイイ
まだ射精できないから賢者になれないのかな?なんか空撃ちの間隔が狭くなってる
このままだと指挿れる頃にはイキっぱだな…だいぶ柔らかくなったしそろそろいいか
舌を蕾から抜くと唾液が糸を引き、「ふぁあン」とヒカルたんが不満そうに鳴く
濡れてぷっくり膨らんだ蕾を、これから三分咲きくらいにしたげるね
俺はゴクリと生唾を飲んで、右手の中指を丹念に舐めしゃぶる
早く挿れてと言いたげな肉の蕾に指先が触れただけでヒカルたんがエロい溜息を吐く
「ぁア……んはァ、ん」
第一関節も入りきらないうちにヒカルたんがまた空撃ちしちゃった
キモチイイ?って訊くとウンウンって頷く
入り口は確かに敏感な場所だけど、ここまで反応いいとホントに初めて?と疑いがムクムク
ないよそんなん初めてに決まってんじゃん!って怒られちった
ゴキゲン直して、ね、ホラ、指キモチイイでしょ?
ごくごく浅い場所で小さい抜き差しをしたらたちまち甘い息を漏らすヒカルたん
腰の揺れが止まらなくなってるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
イキっぱになっちゃったかな、ポークビッツがビンビンのまま空撃ちもできなくなってる
こうなるとね、中からイイ所を刺激してあげないと苦しいまんまなんだよ
え?じゃあ早くそれしてって?でもね、急にはムリなんだよ
だってヒカルたん初めてなんでしょ?ニヤニヤ
「はじめてだけどっ……はじめてだけどぉ、はやくしてぇ」
可愛いお顔をくしゃくしゃにしながら俺に哀願するヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
もっと奥に欲しい?って訊いたら欲しいって正直に答えるヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
いい子だね、ほら第二関節まで挿ったよわかるかな?
ヒカルたんがおかしくなっちゃうくらい気持ちイイ場所はどこかなー?
おじさんが探してあげるからね(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

359 :便所:2014/11/05(水) 22:46:49.25 ID:???
>>357
すまんな俺が頂いた

360 :名無しさん@ピンキー:2014/11/05(水) 23:51:08.12 ID:???
くそ!これどこの便所だよ!
俺もヒカルたんを(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

361 :名無しさん@ピンキー:2014/11/07(金) 23:46:31.88 ID:???
涎まみれになったヒカルたんの桃尻・・・なんてヤラシイ(;´Д`)ハァハァ
処女ヒカルたんえろいよ、かわいいよ (;´Д`)ハァハァ

362 :名無しさん@ピンキー:2014/11/10(月) 19:37:42.90 ID:???
吸引力の変わらない、ただ一人のヒカルたん

363 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/11(火) 03:59:27.21 ID:???
※※※

およそひと月ぶりの『祭』に、青年は退屈を吹き飛ばせると喜んだ。
切って良くなる類の病気ではなく、かと言って自宅で我儘ができる程の病状でもなく。
規則の緩い監獄に押し込められて、サークル仲間と遊ぶこともできず、飲み会にも行けず。
試験も受けられないので、翌年以降の授業スケジュールをタイトにしなければ留年の危機だ。
ただでさえ二浪なのに、病気のせいで就職活動は絶望的。そんな現状にうんざりする日々だった。
この病院にネット環境が整備されていなければ、退屈過ぎて死ぬところだった。

先月初め、有名人のレイプ未遂情報をいち早くSNSで発信した時は興奮した。普段は友人と数少ない
フォロワーしか反応しない自分のつぶやきが、あっという間に拡散される快感。
身元がバレるスリルと背中合わせのワクワク。
非難や窘めのリプライも多かったが、良識など糞食らえだった。
自分発のネット情報が既存メディアへと伝播していく過程を見るのも楽しかった。
日本棋院の公式サイトにプレスリリースが次々追加されていくのを確認して北叟笑むのが日課になっ
ていた。俺がやったんだ、と言う達成感に心が満たされた。
現場を直接見たわけではないのが唯一不満な点だろうか。まあ、男が犯された現場など見ても、ただ
でさえ不味い食事が余計に不味くなるだけだったろうから見なくて正解だ。
要は自分の発信した情報がバズればいいのだ。不快になってまで無遠慮に突っ込むのは本職に任せれ
ばいい。

正直、二度目はないと思っていた。あればいいなと期待してはいた。
半月足らずで期待通りに事が起こった時は、心のなかで快哉を叫んだ。ガッツポーズもしたと思う。
しかも斜め上の展開、警察への連行。勿論、逐一細かく知り得る限りを発信した。
面白くなるよう、主観をたっぷり乗せて。
これもからっ風に煽られる山火事のように瞬く間に燃え広がった。
騒動の主が警察から帰らぬまま退院したと聞き、これでまた退屈な日常に逆戻りかとがっかりしてい
た。もう後追いで炎上に燃料を注ぐくらいしか出来る事がない。何も無いよりはましではあったが。

特段、進藤ヒカル個人に恨みなど負の感情を持っていたわけではない。何の関わりもないのだから。
強いて言うなら、義務教育の学年にして二つしか違わないのに向こうは億円プレーヤー、こっちは職
にありつけるかさえ不透明なフリーター予備軍だと言うありきたりな僻みを抱いた程度だ。
まだ病室から仕事に通えていた時期、同室の年寄りに捕まってこの大部屋に来た事が何度かあった。
先生先生とおだてられ、楽しそうに碁を打っていたのは覚えている。そして看護師に見つかり、大目
玉を食らって自室に追い立てられるまでがワンセット。
隣のベッドにいた父親くらいの年齢の患者が、知りたくもないのに教えてくれた。
『ありゃさ、鬼なんだよ』
何の、と問い返す気はなかった。興味がなかったから。
『見た目と普段の物言いで皆ダマされるがね、勝ちへの執念がそこらの棋士とケタ違いだ。まだ実力
が足りてなかった頃の棋譜なんか、格上相手に寒気がするくらいのシロモノだよ』
実力が足りないと言ってもトップ相手の話なんだけどさ、とこちらが望んでもいないおまけまでくれ
る。
『何にも食えない水も飲めないって体調でここから対局に休まず通うのも、執念の賜物さぁね』

その執念の塊が、今、惨めに這いつくばって蹴られている。
混雑しているせいで、アリーナにいるはずなのに何度か閉めだされた。
「使えねーな、何のためにレベル上げしたと思ってんだよ。しっかりしろよ運営」
zeldaもzeldaだ。予想はできてたろうに、もっと回線の太いストリーミングサービスをどうして使わ
なかった。
(いや違うな、篩い落としか)
マスコミにタダ乗りさせたくない、ゴシップで遊びたいだけの連中に無闇に餌を与えたくない。
理由はこんなところか。
自分がこうなのだから、レベルの低い連中の苛立ちは尚更だろう。ちらとさえ見せて貰えない人間の
方が圧倒的に多いはず。ならば。
────青年はブラウザ画面をもう一枚立ち上げ、マイクロブログにログインする。
この楽しい演し物を一人でも多くのユーザーと分かち合うために。
『zeldaさんの生放送が修羅場になってる件。入れず蹴り出されてる奴の為に実況開始』

364 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/11(火) 04:00:01.08 ID:???
(マズイな、完全にブチ切れとるわ)
ヒカルを露骨にならないよう和谷から庇いながら、社は焦りを感じ始めていた。
ひょんな事から知り合ったヒカルの幼馴染だと言う若い女に、教えられる範囲で新しい情報が入った
ら連絡すると約束していた。
流石にこの生放送の件は無駄に心労をかけるだけだと判断して教えていなかった。
それで正解だと心底思った。
コンダクターである和谷が暴走してしまえば、この生放送の意義が崩壊してしまう。
危険性は事前にメールで微に入り細を穿ち伝えられていた。その上で協力するか否か返信してくれと。
即断はできなかった。余りにリスキーな計画だった。
(塔矢が取り返しのつかん事する前に全部終わらしたいんはええけど)
指揮棒があらぬ方向を向けば、奏者はてんで勝手に楽器を鳴らすか、或いは演奏を放棄するかだ。
計画の成功と引き換えにヒカルが壊れる危険性は充分過ぎるほど説明されてはいたものの。
こちらは想定外だった。
(おまえがヤバイ事なっとんで、はよ気ィつけや和谷)
茶番であると視聴者に見抜かれるのを怖れる余り、和谷は間違った方へ振りきれてしまっている。
正したいが、どうやればいいのか社には判りかねた。
と、社の耳にノイズのような音が届いた。聞き覚えのある音。
(携帯の着信……?)
電話かメールかは不明だ。和谷がPCを置いているテーブルの上で、携帯電話が震えて唸っている。
生放送開始時間が既に過ぎていたので、慌ててそこに置いたままだったものだ。
和谷はそちらに全く関心を寄せず、ヒカルを甚振るのに躍起になっている。
本音が出てしまっているのでは、と社は危惧した。もしそうなら。
不安定なアキラが行動を起こす前に、と言うのは体の良い建前でしかなく。
自分が先に行動したかっただけではないのか、となる。
その動機は何だ、と考え始めたところで止めた。和谷は悟られたくないだろう。
出来るなら、隠したままでいたかったろう。そう思い至ったからだ。
「おい、電話」
湧き上がる和谷への憐憫の情を払いのけ、一旦仕切り直すためにも社は声を掛けた。
しかし和谷はそのサインを無視した。
蹲った状態で固まっているヒカルの傍らにしゃがみ、頭を小突く。
「ガキん頃から塔矢がおまえのストーカー紛いだったのは有名だけどよ、おまえだって塔矢塔矢うる
さかったじゃん。二組のドン底這ってたくせにさ。ずっと変だって思ってたぜ?」
切る機会を逸して伸びた髪を摘んで持ち上げ、露わになった耳に口を近づける。抵抗のそぶりを見せ
るかのようにヒカルが身動ぎした。
「オレだけじゃねぇさ。伊角さんだって越智だってそうさ。変に思ってた」
「…………っ」
苦しげな喘ぎがやけに艶かしく聞こえ、社は眉を顰めた。
和谷が殊更、淫乱だのと言い立てるせいだと思った。
「電話や言うとるやろ」
流れを断ちたかった。自分までこの妙な空気に呑まれたくなかった。
「とっくに切れてる。コイツぶっちめんの終わってから確認する」
その返答に被さるように、今度は固定電話の留守番メッセージが聞こえてきた。
着信音は最少にしてあったが、留守録を解除し忘れていたらしい。
あちこちで綻びが出始めていることの暗示であるかのようだった。
メッセージ終了後、数秒の沈黙があって、電話は切れた。
携帯電話から間をおかずと言うことは、同一人物からの可能性が高い。しかも緊急性あり。
(……まさか、見とんのか)
告知は見られていないはずだと和谷は言っていたが、油断は禁物だった。
(告知見てもよう辿り着かんやろてナメとったらアカンかったんちゃうんか)
前提からして綱渡りだった作戦が破綻していく。社は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。

365 :◆lRIlmLogGo :2014/11/11(火) 04:01:17.90 ID:???
ヒカルたん「お ま え か(怒髪天」
匿名患者氏「フヒヒ、サーセンwww」

しまつた、ふたつめ、ぎょうとういちぎょうあけるのわすれた

最終局面で超難航しとりまつ
脳ミソ絞りすぎて耳から出そうな勢い…
ここ当分はこんな感じのノロノロペースになりそうでつ

ああ公衆便所にヒカルたん連れ込んであれこれしたい(;´Д`)ハァハァ

366 :名無しさん@ピンキー:2014/11/11(火) 12:50:24.15 ID:???
ヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

367 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 00:18:50.92 ID:???
社に言われるまでもなく、和谷は自分が舵を取れなくなっているのを自覚していた。
『電話だ』に込められた立て直しを図れとのサインもきちんと受け取った。
しかし、止めたくとも止まらなかった。
携帯と固定、両方に掛かってきた電話の主が誰かは確かに気になる。
もしも視聴者から通報を受けた棋院が迅速に動いたのだとしたらと思うと、焦燥感が募る。
掛けてきたのが棋院の人間なら、出ないのは今のところ最善の選択だった。
まだ何も、この生放送で得られてはいない。こんなタイミングで中断など、あってはならない。
本当にただヒカルを見世物にし、弄んだだけになってしまう。
頭は未だ冷静だった。感情がそれを覆い尽くし、飲み込んでしまっているだけだ。
口から吐き出されるのは胸に溜まったドロドロした醜い汚泥の礫。
ぶつける悪罵には先刻から、計算も演出も存在しない。
ヒカルを傷つけたくない自分と、ズタズタにしたい自分が脳内で口論を繰り広げている。
まるで漫画だった。
嗜虐心を唆る進藤がいけない。違う、そんなのは進藤のせいじゃない。
あれだけ盛大にアキラを責めておいて、自分が今やっているのは何だと和谷は自嘲する。
憎まれてもいい?
一生恨まれても構わない?
大嘘吐きが!
「アイツにヤられたかったんだろ?痛くて死にそうでも嬉しかったんだろ?」
こんな事を訊いて、彼に掛けられた不名誉な疑いが一つでも晴れるのか?ノーだ。
「よかったじゃねーか、アイツおまえの事になったら他が見えないくらいイカレてんぜ?」
塔矢を腐していられるほどオレはお綺麗なのか?冗談じゃない。
「どんだけイイんだよってハナシだよな、同期のよしみで試させてくんない?そのカラダ」
熱を孕んで潤んだ目が見上げてくる。やめろ、本気にしちまうだろ。吸い込まれそうだ。
「そんな期待たっぷりに見んなよ、誘ってんのかよ」
何のためにこの数ヶ月、自分は睡眠時間を削ってまで調べ物に没頭した?
「おまえはそうなんだよなァ、別に塔矢でなきゃってワケじゃないんだよ」
同期デビューのトップ棋士に着せられた汚名を晴らすためだよな?
「おまえホントは、塔矢なんか見ちゃいねーし」
ぴく、と縮こまった背中が揺れる。
「十年近くも前におまえを捨てて他のヤツに走った男を後生大事に守ろうとしてんだもんなァ」
目を見開いてこちらを向いた顔は、何故知っているのかと問いたげだった。
「塔矢もいい面の皮だぜ。都合のいいスペアとして使われて、挙句に性癖バレちって」
「、ちが」
蚊の鳴くような声が哀れを誘う。それ以上に苛めたくなる。
「おまえの『違う』は聞き飽きた」
誰のために普及の仕事をキャンセルしてまで卑劣漢を突き止めようと頑張った?
「塔矢なんてカラダだけだろ?おまえにはさ」
目の前にいる哀れな被害者のため?それは欺瞞だ。
「てめェの碁もてめェ自身も捨ててしまえるほど大事な男がいるんだもんな、こんな淫乱に代用品に
されちまった塔矢に同情しちまうぜ」
何度もかぶりを振るのが痛々しい。もっと傷つけたい。
「プロになるまでオレが何年かかったと思う。伊角さんはどうだよ。おまえは知ってるくせに、新初
段になってひと月もしない間に『もう打たない』ってトンズラこいたんだ」
「ぁ、う」
何か返したいのにうまく言葉が選べない風に口ごもる。泣かせたくてうずうずする。
「そん時ゃ理由なんざさっぱり見当もつかなかったがな、まさか今までずっとタラタラ引きずってた
とかマジ予想外。未練たらしいったらねぇわ」
二ヶ月半を経て復帰した彼を見て、息を呑んだのを昨日の事のように覚えている。
一緒に学び、遊び、時には喧嘩した、あの子供はもうどこにもいなかった。
ぷくぷくと赤ん坊のようにえくぼのできていた手は、すっきりと細く長くなり。
大きな瞳からは無邪気さが消え、代わりに憂いが湛えられていた。
ふっくりした小さな唇は、以前のように大きく快活に笑みを作る頻度を減らした。
その時、胸を満たしたのは説明できない喪失感と、それから。『奪われた』という根拠なき怒り。
何に。誰を。随分長い間、答えは出なかった。
「塔矢じゃねぇんだよ」
そう。塔矢アキラにではない。もう答えは得た。
「好きで好きでおまえが丸ごと全部捧げた男は、塔矢じゃない」
そいつを今から全世界に晒してやる。義憤だなんて誤魔化しはもうなしだ。

368 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 00:19:24.93 ID:???
ヒカルを動画のゲストに呼んで馬鹿騒ぎをやらせたのは、アキラに話した以外の理由の方が大きかっ
た。
取り戻したかった。あの頃の彼を。
ただ無邪気だった頃の、あのヒカルを。
誰かに、何かに奪われた、彼を。
テレビで少し足りないキャラクターを演じているのは偽物だと思った。
どこか上滑りしていて、無理をしているように見えた。
棋院会館の休憩室でベテランに揶揄われている時も、昔通りの礼儀を知らない子供を装っているよう
に感じた。
まるで『そうしなければいけない』と、彼自身が己に言い聞かせているかのようだった。
その証拠に、和谷らといる時は子供の仮面を脱ぎ捨てて、すっかり落ち着いてしまっている。
逆じゃないのか。同世代といる時にこそ、はしゃぐのが普通じゃないのか。
変わってしまった部分はまだあった。
検討の時、やけに癇性なところを見せるようになった。
互いにヒートアップして喧嘩に発展する事は院生の頃から幾度かはあった。
だがそれは、病的なまでにヒステリックなものでは決してなかった。
悪いものに取り憑かれたかのように、扇子の先を垂直に碁盤へと叩きつけて相手の緩い打ち筋を刺々
しい口調で責め立てる。
終わってしまえば後を引かず、何事もなかったかのように普通に振る舞うのだが。
いつしか、和谷は不安になっていた。
ヒカルが限界を超えて張り詰めているように見えたから。
首枷を嵌められ、そこから伸びる頑丈な鎖を何者かが無慈悲に引いている。歩みを止める事は許されない。終わりのない上り勾配を、前へ、前へと鎖を引かれて。そんな光景が脳裏に浮かんだのだ。
その鎖に従い、ヒカルは短期間でトップ棋士へと駆け上がっていった。
周囲はその快進撃を、アキラとの切磋琢磨のおかげだと見た。
和谷は素直にそう思えなかった。確かにアキラの存在は大きいのだろう。
ただ、復帰後アキラと交流を持つようになったヒカルは、昔ほど塔矢が塔矢がと言わなくなった。
一方的にライバル視していた相手に認められ、満足してしまったのだと最初は思った。
それに違和感を覚えだしたのはいつだったか定かではない。
無性に不安が募った、あの嫌な感じだけは鮮明に覚えている。
だから下らない企画を立て、動画のゲストとして遊ばせた。いや、一緒に遊んだ。
外れない首枷を、ヒカルを前へと引き続ける鎖を、いっときでも忘れさせるために。
そして、和谷が忘れるために。
昔のように笑って騒ぐヒカルが見たかった。経歴の噂を笑い飛ばすためなど、後付けだった。

鎖を引いているのが誰なのかずっと知りたかった。
和谷からヒカルを奪ったものの正体を掴みたかった。
その手がかりが今、ここにある。
アキラがスタンドプレイで得たものだ。
マウスに手を伸ばし、既に立ち上げてあったメディアプレイヤーをPCの前面に出す。
「まあ聞けよ。おまえが身を挺して守ろうとしてるクソ野郎の本音ってヤツをさ」
その言葉は、ヒカルにだけ向けられたものではない。これから再生するのは、視聴者にこそ聞かせた
い代物なのだ。
(視聴者に?そんな上等なもんかよ)
自分の凶暴な本性を、今こそ認めてやる。
生放送の主旨など、もうどうだっていい。
すぐにでも接続を切り、この場で、細い体を組み敷いて蹂躙したい。服を剥いで熱い素肌を貪りたい。
何度も奥まで突き上げて犯したい。嬌声を上げてよがり狂う姿を見たい。
あの動画を見たせいで変になったんじゃない。
もっと前からそうしたかった。自分自身にさえ隠していた奔馬のような衝動。
(畜生、ああそうだよオレは)
アキラに先を越されてさえいなければ、とっくに抱いていた。
きっと、独りよがりな抱き方で苦痛を与え、泣かせて、それを何度でも繰り返した。
正義ぶってアキラを糾弾する資格など、もとよりなかったのだ。
(進藤、オレは)
おまえが好きだったんだよ。

和谷は声に出さず呟き、プレーヤーの再生ボタンをクリックした。

369 :◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 00:21:09.26 ID:???
トーマスはやっぱりトーマスだった。おまえはそうじゃなくちゃいかん
優秀なトーマスなぞ魔境のトーマスではない!
トーマス「泣いていいすか」

かいぎようをいつかしよみすつてしまつた…つうこんのいちげき

ここからは…えーと、そのでつね…
ヒカルたんが…

370 :◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 00:58:53.56 ID:???
恒例、間違いさがし
×ひと月もしない間に→○たったひと月で

371 :名無しさん@ピンキー:2014/11/12(水) 02:45:41.61 ID:???
ヒカルたんがどうするんだ…?!
公開プレイか?(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

372 :名無しさん@ピンキー:2014/11/12(水) 15:16:10.15 ID:???
長えしつまらんしオナニー臭ひでえ
どんな話なんだよって質問した奴に作者でさえまともに答えられん糞小説
これ以上続きとかいらないんで
スレの無駄遣いすんなカス

373 :名無しさん@ピンキー:2014/11/12(水) 20:58:13.75 ID:???
>>365
箱根駅伝5区山登りって感じだのうゴールはどうなる? (;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

374 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 23:49:39.05 ID:???
※※※

少年の反応は、冷めたものだった。
「……へー。意外とあんたマトモに頭、回せたんですね」
大画面の両側に設置されたスピーカーから流れて来る、互い同士の記憶に新しい会話。
「予想以上に和谷さんと連携取れてたんだ、あんためっちゃ嫌われてるっぽいけど?」
アキラは返答しなかった。
連携が取れていたならヒカルが病の床にいるのを半月も知らないままではなかった。
ヒカルを晒し者にするような真似はさせなかった。
もっとずっと早く、この少年の素性を暴いて警察に突き出せた。
ヒカルの苦しみを長引かせたりなどしなかったのに。

アキラは右手を握りしめる。その中には、携帯電話があった。
和谷に届かないなら、今度は。



『動機を訊い……何の……理由があるのな……手遅れ……』
耳に入る音の羅列は最初、ヒカルの脳内で形をなさなかった。
『たいのはもっと他の……教えろ……墓前で報……輩の家にい』
最初に認識したのは、これが会話であること。
『あははははは!なぁんてね!』
次に判ったのは、片方があの少年だということ。
そして。

「──────!ン!んゥ!」
叫ぼうとしたその口を、背後から誰かの手が塞ぐ。身を捩って逃れようとするが、肩を抱き込まれて
動けない。
せめて、とばかりに伸ばした右手が和谷の左袖を掴む。
「暴れんな。傷に響きよるやろ」
耳元で小さく囁くのは社だ。そうか、自由を奪うこの手は彼の。
やめて嫌だ止めてこれ他人が聞いてるんだろやめろよ嫌だそんな何で和谷やめてよ聞きたくない聞か
せたくない離せよ社やめて塔矢どうして嫌だイヤ──────
「ンン!ンゥンン!ンンンン!」
口を押さえても漏れる呻きに、和谷はヒカルを一瞥してPCを操作する。音量が上がった。
『くても和谷さんで……確定じゃないだと?……院して、なんか死……』
耳に入ってくる音を打ち消したくて、ヒカルはあらん限りの力を振り絞って声を上げようとした。
社の腕から逃れようと上体を何度も捩り、立ち上がろうと脚をばたつかせた。
アキラが少年と接触したのは知っている。絶対潰すと宣言された。
有言実行の男だと知っていたから、ベッドに自分を縛り付けるあらゆる物を引き千切って止めようと
したのだ。こうなるのが見えていた、なのに為す術がなかったなんて!
『話でね、ラクダの背中……』
「フぅうんッ!ンッ!ンンン──────!」
「ッこの!暴れんなっちゅーとるやろ!」
社の声は会話再生を邪魔しないよう、独り言のように小さい。
『それほどまでに……saiを』
(…………あ)
そうだ。この少年さえも、ヒカルにとってはもうどうでもいい存在ではなかったか。
力が抜ける。すとん、と、ヒカルは社の腕の中に収まった。
頭のすぐ上で、社が大きく息を吐くのが聞こえた。
どうでもいい。切り捨てた。あれはただの器。かつての自分と同じ。
早くあの温かな闇の中に戻りたい。そして百年を、千年を共に。

375 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 23:50:20.68 ID:???
──────なりません。

弾かれたように動いたヒカルに、社の制止が数瞬遅れた。
慌てた社にスウェットの襟首を引っ掴まれ、後ざまに倒された際に後頭部をしたたか打った。
木の床でなく畳であっただけまだましだろう。
そのまま、上からまた口を手で塞がれる。
「ンッ!ンン!」
じたばたさせた脚が和谷の肩や腕を蹴る。
そうだ、拒まれたんじゃないか。来るなって。
もう、あそこへは戻れないんだって。
アイツの頭からオレを追い出せって。それが役目だって。
痛い。胸が痛い。息が辛い。体中痛い。何だよこのポンコツ、ちょっと暴れただけでこれかよ。
『あの人、三年粘ったんですよ。saiに捧げるためってね』
そうだよ、そのためだけに頑張った。石にかじり付いたって。何度倒れたって。
「うう、んンーッ、ふぅウう!」
だからやめてくれ、オレが守ったものを壊さないでくれ!その会話を切ってくれ、頼む!
「じっとしとき!ひっつきかけのアバラいてまいよんで」
のたうつ体を、社が伸し掛かるようにして抑える。ただでさえ体格で大きく負けている。病気と怪我
で消耗している今、ヒカルが敵う道理がなかった。
手足を無闇矢鱈に振り回したせいか、肉離れと思しき痛みがあちこちに走る。
けれど抵抗しないわけにはいかない。
『そしたらあの人、二ヶ月以上も這いずり続けて襷を渡そうとする……マジで洗剤ぶっかけられたゴ
キブリ』
何とでも蔑め。オレは、アイツの選んだおまえを。
「ぅウ──────!」
すっぽ抜けた右腕が、社の顎に激突する。
「っぐ!」
拘束する力が緩んだ隙に、ヒカルは社の体の下から抜けようと藻掻く。
『あの人にはsaiだけですよ、ずーっと昔から』
社の長い腕が、ヒカルを逃さない。また引き摺り倒される。
「やめろ和谷ァ!」
口を塞がれる前に叫べたのは、この一言だけ。
「ふぅ、っくぅ……ンうぅ!」
おまえの言う通りだよ、オレにはアイツだけなんだ。
一緒にいた頃のようにいつでも自由に話せないけど。姿を見るのは無理だけど。
確かに存在している限り、今度こそ望み通りにさせてやりたいんだ。
そのチャンスを、償うチャンスを、オレが生きてる間に神様がくれたんだ。
だから邪魔をするな!

「……進藤」
和谷がヒカルに向き直り、静かに口を開いた。
「おまえ今ので、塔矢が何言ってたか聞いてなかったろ」
通話の再生は終わっているようだったが、ヒカルの口は社に塞がれたままだ。
「……………………」
「塔矢も報われねェな」
熱に浮かされたようにヒカルを罵り、小突き回していたのが嘘のような声音だった。
「あのクソ野郎を庇うおまえなんかに惚れちまってさ」
何か返そうにも、社の掌越しでは「ぐう」と唸るくらいしか出来ない。
不意に和谷の手が伸びてきて、ヒカルは反射的に目を瞑り、身を竦めようとした。
暴れているうちに胸の近くまでずり上がったスウェットを直されただけだった。
「もう少しそのままでいろ。聞かせたいものは、まだある」
和谷はまたPCに向かい、プレイヤーの準備に入ったようだった。
「こっちの方が、おまえにはキツイかも知んねェ……最大限の配慮はしたけどな、どうしても編集で
切れないとこが随分あった」
何を聞かせるつもりなのだろうか。また少年とアキラの、もしくは他の誰かの会話だろうか。
「長いぜ。なんせ、モトが二十時間以上あるからな」
(まさか、嘘だろ……和谷、おまえ……見)
視界が一気に暗くなったような気がした。

376 :◆lRIlmLogGo :2014/11/12(水) 23:50:54.53 ID:???
社「肉弾戦担当で大阪から来ました」
ええやん役得やん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

>>371
ここんとこずっと公開プレイでつね(;´Д`)ハァハァ
次回は本当に公開プレイ、つかプレイ公開でつ(音声のみでお送り)

>>373
五区史上最強のオタクに走ってもらいたい気分でつ
ゴールは力尽きて倒れるかテープを切れす泣き崩れるか
はたまた笑顔で拳を突き上げてVなのか、ラストはきちんと決まってまつ
今まだ函嶺洞門あたりかな、向かい風10m、天候は雪、路面はアイスバーン
…つか往路で終わりかyo!www

377 :名無しさん@ピンキー:2014/11/12(水) 23:57:24.60 ID:Y10o88Py
泥中の蓮以外最近投稿されてないなぁ

378 :名無しさん@ピンキー:2014/11/15(土) 20:40:20.64 ID:???
なければ書けばいいじゃないとどっかの偉い人が言ってた

379 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/16(日) 02:53:03.93 ID:???
※※※

青年には予想外の展開だった。
「や、面白ェからいいんだけど」
そろそろ消灯時間が近づいている。朝が早いせいで、同室の患者の中にはとうに夢の中にいる者が半
分近くいる。この六人部屋は自分以外、中高年ばかりなので無理もない。
(陰謀だったってか?なんっじゃそら)
我知らず、期待に頬が緩む。
溢れかえっているゴシップ情報には、薬の入手ルートや堕ちてゆく過程に関する憶測ばかりが飛び交
っていたが、進藤ヒカルを計画的に嵌める罠の存在など、指摘する記事は一つたりとも無かった。
無論、今ここで生放送を観ている青年も想像すらしなかった。
しかも、自身を地獄に突き落とした張本人を、被害者が形振り構わず庇う構図とは。
俄然、それは誰なのだという興味が掻き立てられる。
ここにきて、やっとzeldaの意図が明確になった。
『公開吊し上げ』など、やはり茶番だったのだ。けれど前説として必要だった。
自分の事はどんな酷い言葉で傷つけられても黙って耐えていた人間が、病人とは思えない暴れ方で存
在の露見を阻止しようとする『誰か』。視聴者の興味と同情を引くための対比が不可欠だったのだ。
「にしてもえげつねぇ。絶交覚悟だよな多分」
青年は親しい何人かの顔を想起する。大学やアルバイト先、サークルで知り合った者。小中学校や高
校から付き合いのある者。繋がりの軽重は各人違う。
その中に、俺のために憎まれる事を厭わず、立場を危うくする事も顧みず、動いてくれるヤツはいる
だろうか────いないだろう、と青年は結論づける。
(大体そんなヤツうぜェし、重てェっつーの)
それが悪いとは思わない。薄っぺらいと批判したければすればいい。重くてジメジメした人間関係な
ど真っ平御免だった。
PC画面の中にいる連中は、自分と違う価値観の持ち主。それだけの話だ。良いも悪いもない。
「勿体ぶんなって。はよ、はよ」
タッチパッド横の何も配置されていない場所を指で叩き、催促する。
真相により近づくであろう、次の録音音声を。
先刻から、哀れな晒し者は体格で勝る男に押さえ込まれてぐったりしている。失神しているようにも
見える。
イヤホンの位置を指で軽く直し、耳に意識を集中させる。聞き漏らせば実況に盛り込む情報量が減る。
どうせなら、似たような事をしている他人よりバズりたい。
キーボードを叩くうちに、どんどん無心になってゆく。
『ゲイビ作る会社を雇う、金を出させて口を出すのが黒幕?』
『声加工されてるなコイツだけ、他は加工ナシ』
『入院中?ここん事?今んとこじゃないよな』
青年はここまでタイプし、とある文言にふと引っ掛かる。
「……ん?」
重要なキーワードに思えたのだ。

────今日はもう諦めた……でも、次は打って、くれるよな。

これか。薬打ってるって根拠になってんのは。青年は当然、これも文字列に変換して発信する。
(やっぱやってんじゃん)
無関係な一般人にはそれ以外に解釈できない文脈だった。
何か重量のある物体がベッドかソファーにぶつかるような音がして、そこで音声が飛んだ。
編集でカットされたのだろう。
『残り二十時間、死なないように見てる。死体の処理めんどいからって感じ』
(てことだよな、コイツ鬼畜だな)
ブツ切りの音声はどうやら、『本番ハメ撮り』の現場のものらしい。
カットしたのは単に長いと言うだけでなく、そのまま流せば即アカウント停止になる代物だからだ。
(二十時間以上もぶっ続けでヤリまくったってか?そりゃご苦労さんだな)
この病院から、同じフロアの病室から。あの彼は自ら弄ばれに赴いた?何故?
(そりゃ決まってんだろ、ヤク切れで補給じゃねーの)
打って欲しいとあれだけ哀れっぽく頼んでいたではないか。他に何がある。
薬で飼い馴らし、死ぬか否かのギリギリのラインで好き放題に嬲り甚振るのに、『黒幕』とやらはた
だ見ているだけで参加していないようだった。
(男はダメなくせに、何が楽しくてやってんだコイツ)
当然湧いてくる疑問。

380 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/16(日) 02:53:38.72 ID:???
たとい嫌がらせとして劇的な効果があるとしても、自分が文句なしのカタルシスを得てこそだろうに。
(お、いよいよ注射のお出まし?)
『脱水してるから水分補給?の注射。怪しすぎる。進藤、嫌がってる。謎』
ビデオ撮影のクルーが違法薬物ではないかと揶揄する声。薬ありきの文法としてはおかしい。
『注射打たないとガチで死ぬっておいおい。てかヤク扱ってないって、え?』
天地神明に誓うとまで断言したが、この黒幕は信用できるのか。
摂食障害で治療のために進藤はこの病院の入院患者となっていたのだ。何らかの形で補給しなければ
命に関わるのは間違いない。
恐怖で引き攣る呼吸音がイヤホン越しに耳へと届く。薬物の注射を心待ちにする人間のそれではない。
歯の鳴る音まで聞こえる。少なくとも、この時までは薬物使用に関してシロなのではないか。
……では『打って』と言ったのはどうなる?
と。液晶ディスプレイの明るさが、ひとりでに上がった。
(もう消灯か)
一括操作で消された室内の灯りのせいで、液晶画面の輝度が相対的に上がったように目が錯覚を起こ
したのだ。
生放送はまだ続くようだ。静かにしなくては。ベッドを仕切るカーテンはとうに閉めてある。液晶の
光が漏れるのはある程度仕方がない。
日付けが変わる前に終わるだろうか。あまり宵っ張りだと巡回の看護師に叱責される。
(おっと)
手がお留守になっていた。急いで掻い摘んだ情報を文字にする。くそ。この辺重要ぽかったのに。

────おまえがッ!そんなことをほざくのかッ!

不意打ちだった。
利き腕がどうこうで、注射をどちらに打つのかで云々していた時だった。

待て待て待て。一瞬気を取られて、頭が真っ白になってしまった。早く、再起動。
ああこの遣り取り、一言一句文字にしたいのにすぐ流れてしまってできない。
『チートで下駄履かせてもらったくせに、一端の目ぇしてんじゃないよ偉そうに』
って、やっぱ金で八百長だったんじゃん?
それが、え、才能あったって話になんの?わけわからんくなってきた。この機械音声、さっきから支
離滅裂だぜ?
青年の指がキーボードの上で滞りがちになる。どう纏めていいのか迷う。
突然、考古学上の発見に話題が飛んで、更に混乱する。これを理解しろだって?
二千年間、泥炭層で眠っていた蓮の花は咲く機会に恵まれて幸運だった、それだけの事ではないのか。
それがどうして『オレなんていらない』って結論になる?
この飛躍具合は確かに薬でもやっている人間の危うさに思える。けれどこれまで聞いた音声から得た
情報が、薬物の関与を否定する。
薬物を使っていると思わせぶりで、使っていないと。
金の絡む八百長をしていると匂わせて、する必要のない才能の持ち主だと。
聞く者を煙に巻く、この録音音声。
(どうなってやがる)
声に出さず毒づきながら、青年はキーボードを叩いて文字列を綴る。
『俺なんかいらない、お前がいるから。てことは、こいつも碁のプロか?』
再生中の音声に被り、関西人の小声が青年の集中力を殺いだ。
見れば、携帯電話で二言三言、何か喋ってすぐ切った。
そう言えば、放送中に二度ほどzeldaの方にも電話があったようだ。zeldaは無視したが。
もしかしたら、同じ人物が関西人にも掛けて来たのかも知れない。
(おっと。やべ、ちょい聞き逃したか)

────て。
「?」
また音声が先へと飛んでいた。これを切らずに残していいのかと心配してしまうような悩ましい喘ぎ
に紛れて、呟くような声が、傷の入った音楽ディスクのように、何度も。
────打って。打ってよ。オレと。お願いだよ。打って。オレ『と』。
(あ、これ……これって、アレじゃねェの)
先入観とは恐ろしい。薬だと言われれば、その論法で全てを組み立てようとする。
何のことはない。
進藤ヒカルは陵辱の場にいる誰かに、「自分と碁を打ってくれ」と言っていたのだ。

381 :◆lRIlmLogGo :2014/11/16(日) 02:54:10.24 ID:???
そろそろ集中して正月の餅代稼がないといかんから、その時期迄に終わらせたいと
焦ったせいで連投だらけになって申し訳ないでつ反省

もう暫くこんな状態になるだろうけど、俺なんかいないもんだと思って
ヒカルたん(;´Д`)ハァハァしてくれ…見たくないメイツが俺のSSとレスを
あぼんしやすいように鳥つけてるのでお手数でつがよろしこでつ

完結目標11/25でつ

382 :名無しさん@ピンキー:2014/11/16(日) 14:35:07.24 ID:???
ついに完結してしまうのか…
支援

383 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/16(日) 20:08:54.32 ID:???
※※※

(やっぱり、さっき和谷んとこ二回掛けて来たん、塔矢やないかい)
通話を切った携帯電話を尻ポケットに突っ込んだ社は和谷を横目で睨んだ。
限定的な情報しか出さず、アキラがこの生放送に辿りつけないようしたはずではないのか。
アキラからの電話の内容は社の予想に寸分違わぬものだった。彼の要求を呑むわけにはいかなかった。
『頼む、やめさせてくれ……進藤を、これ以上苦しめるな』
和谷が当初予定の脚本に沿った行動に戻った以上、それを聞き届けるのは不可能だ。
ここまで来れば、もう道なり。あとはヒカルが精神的に持ち堪えられるかどうか。
社に口を塞がれたまま、おとなしくはしている。暫く意識が朦朧としていたようだったが、今は時折
身動ぎして何か訴えたげに社を見上げる。その度に小さく首を横に振り、ささやかな望みを撥ねつけ
るのが心苦しい。
今流れている音声は、社が初めて聞くものだった。内容について事前に説明もなかった。
計画を実行する側の社が不快を通り越した吐き気と目眩を伴う感情を持て余すのだ。
アキラなら尚更だろう。
和谷の前置き通り、元の何かからカットしきれないヒカルの嬌声や喘ぎが残ってしまっている。
これを画面越しに聞かされるアキラはたまったものではなかろう。
編集による音量調整で、『打って』が注射ではなく碁であると明示された。これでまだ薬だと頑迷に
言い張る輩は処置なしだ。極めて少数派だろう。
注射の中身が所謂、そこらの町医者でもポピュラーなニンニク注射である事についても同様。
(……いや。確か、警察で進藤がそう言うてもアカンかったとか)
弁護士から和谷が聞いたところによれば、その中に違法薬物が仕込まれていない証明は出来ないと返
されたのだとか。
現時点で注射の正体など瑣末な事だ。機械で変えられた声の主の素性に比べれば。
この人物が何者かさえ判明すれば、当人に注射の事を喋らせる事が出来るのだから。
機械の音声と、先に再生されたアキラとの電話の相手の声。確かに同一人物だろう。
人を喰った独特の口ぶり。別人を疑う方が困難だ。
「…………ん」
苦しげな呻きが、口を塞いだ指の隙間から零れる。社はゼンマイ人形のようにただ首を振り、ヒカル
が意思表示をする前にそれを否定する。
(オレも含めて、皆が知りたいんは……コイツが何モンで、おまえがコイツを庇わんならん理由や)
この人物が『居る』、故にヒカルは自身の存在価値を擲ってまで彼を守らねばならないと考えている。
関係性は朧気に見えてきたが、この人物がヒカルを弄ぶ理由も、ヒカルがされるままで被害を訴える
どころか隠匿しようと口を噤み続けた理由もいっかな判らない。
(それと)
喘ぐ合間に、ヒカルが『打って』と懇願した打ち手の名前。
(まさか、おるっちゅうんかい)
飛び飛びの音声でも充分伺える、悍ましい輪姦の光景。その中に居ると言うのか。
塔矢行洋引退の原因を作ったと伝えられる、日本最強と謳われた棋士が。
当時、社はプロ入り前だったが、関西棋院でも五冠棋士引退のニュースに上を下への大騒ぎだったの
は覚えている。いや、直前に門下の緒方に負け、十段を譲ったのだったか。
一応、計画参加に当たって和谷から最低限の事は教えられている。
幻の最強棋士が、ヒカルと個人的に親しくしていた人物である可能性も。
院生時代に一度それを指摘して、見知らぬ他人だと否定されたきり追及しなかったと和谷は言った。
けれど、その否定はどうやら嘘なのだ。
今再生されている音声の中で、他ならぬヒカルが証明してしまっている。
何らかの事情があり、恨みを買ってしまったのか。その正当な報復として、ヒカルは何もかもを甘受
していると仮定すれば繋がるだろうか。恐らく、先に再生された音声を信じるなら、発端は三年前。
(おまえら、何拗らせよったんや)
どんな尤もらしい理屈を付けようが、ヒカルに対するこれは許しがたい所業に変わりない。
(このムカつきよる奴が……そうやっちゅうんか?アホな)
そう考えれば一番綺麗に通る。反面、それを認めたくない自分が居る。
強い碁打ちは須らく人格者たるべしと青い理想を抱いている訳ではないが、それでも限度というもの
がある。余りにも逸脱しすぎている。
和谷には、ヒカル本人をその人物だと捉えた時期があったと言う。院生当時の本人の碁が話にならな
い程ヘボだったため、その仮説はすぐに捨てたのだとも。
そして、この声を変えている人物も同じ。院生時代は取り立てて目立った成績ではない。ヒカルと違
うのは、プロになってもぱっとしない事。『彼』の代のプロ試験が低レベルだったのが幸いして滑り
込めたらしい。

384 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/16(日) 20:09:24.74 ID:???
和谷の主張を敷衍すれば、ヒカルが『違う』なら、『彼』はもっと『有り得ない』のだ。
そう。
社はもう和谷から知らされている。『彼』がどこに属する誰であるかを。
ただ、名前や年齢などの上っ面だけではどうにもならないのだ。
『何者なのか』、それが核心。
(あ)
ヒカルが社の、手で口を塞いでいる方の腕を自分の両腕で抱え込んできた。
仰向けに倒された体を縮め、逆上がりの真似事でもするかのように両膝も立てる。
また立ち上がって和谷に向かおうとしているのか、と社は腹に力を込めて身構えた。
下手をしたらヒカルの膝で肘を壊される、と警戒する。
────違う、ようだった。
社の腕を抱え込んだヒカルは、ぎゅっと目を閉じてそのまま両の掌で耳を塞いでしまった。
聞きたくない、この場から消えてしまいたい。
自分より大きな社の体で隠して欲しいと望んでいたらしい。
(無理あらへんわ)
不特定多数に、己のあられもない姿を想像させるような淫靡な鳴き声を発信されているのだ。
行為を想像させるに充分な音も。
穴がなくとも掘って入りたいし、硬い岩盤しかないなら掘削機を持ちだしてでも穴を作りたいだろう。
肝腎の聞かせたい内容より、そちらばかり気になる物好きな視聴者だって全く居ない保証はない。
「ッ!」
社は思わず、顔を歪めてしまった。
心の準備など何もない所への、およそ人間とは思えない悲鳴、いや、呻き。
ほぼ同時に聞こえてきたのは汚く濁った破裂音と形容していいものか。
何をされたかは具体的に判らない。された本人と、それを見た者以外は。
ヒカルを見る。社の右腕を軸にするように身を小さくし、耳をきつく押さえている。
和谷を見る。社と同様に顔を歪め、マウスを持たない左手で胃のあたりを押さえている。
と。やにわに和谷が立ち上がり、早足で社の前を抜けていった。
手洗いのドアを開け放つ音と、嘔吐する音が耳に届いた。
声を掛けようかと思ったが、再生の邪魔をしてはならない事に気づいてやめる。
和谷が中座しても構わない。彼は内容を熟知しているのだから。
社は違う。ちゃんと聞いていなければ後のフォローが出来ない。
かたかたと、小刻みな震えが右腕に伝わってくる。記憶がフラッシュバックして、ヒカルに辛い追体
験をさせているのだろう。
ショックで体温が下がっているやもと思い、社は自由な左手でしがみつくヒカルの腕を片方ずつ強め
に摩った。スウェットの袖がずれて上下したが、それも熱を産む一助になると思った。
腕以外の場所に触るのは憚られた。視聴者に要らぬ誤解を招きかねない。
それに、アキラが観ている。
ちょっと意識が音声から逸れた隙に、何か大切な事を聞き漏らしていないか気に掛かった。
(半分気絶しとる状態でノータイでぶちかまして中押し勝ち?……うわ、オレそんなんされたら暫く
ウチ引きこもるわ)
心の中で大袈裟なリアクションをして、精神的なバランスをどうにか取る。
自分なら、そんな尋常ではない状態のヒカルに相対しても腑甲斐無くやられっぱなしではないと言う
自負がそうさせる。
七・八月のヒカルの戦績を記憶から引っ張り出して、社は慄然とした。
全勝。
(……体調最悪の方が成績ええて、どないやねんな)
急に、目の前で自分にしがみついて震えているのが人外の何かに見えて薄ら寒くなり、ひとつ胴震い
をした。
────寝てんじゃないよ!
激昂した声と、ヒカルを殴打したと思われる音に、社は我に返る。
次に聞こえてきたのは、ノイズの混じり具合から和谷が編集で音量を上げたものと思われた。
────打っ、て。
また呼ばれる、あの名前。
ふっ!と怒りに満ちた息と共に、恐らく体がベッドに叩きつけられたのだろう音。
この人物は、あの名前で呼ばれるのを厭っている。ではやはり別人なのか。
断じるのは早計だ。
和谷はまだ吐いている。さっきのがトリガーで、蓄積された緊張やプレッシャーが雪崩のように体を
襲ったに違いない。
社もつられて気分が悪くなっていた。

385 :◆lRIlmLogGo :2014/11/16(日) 20:10:09.76 ID:???
社さんがなかなか紳士を返上してくれない…

日付変わった後で再投下予定、返す返すも済まぬ

>>382
支援d
このパートが終わっても、多分エピローグが死ぬほど長いでつ

386 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/17(月) 00:50:13.83 ID:???
音声の再生が続く限り、和谷が戻らずとも間は保つ。
視聴者は今、聞きながら自分なりの推理や憶測に熱中していると社は楽観的に考えた。
そうでなくては遣り切れない。
コメントを覗きたくとも、ヒカルが不自然な形でしがみついていて身動きが取れない。
幾らヒカルが軽いとは言え、腕一本に成人男性の体重を掛けられれば流石にきつい。
右腕が痺れ始めていた。しかしヒカルの口はまだ塞いでおかねばならない。再生が終わるまで。
機械加工の声の主は、天才の孤独について持論をぶっていた。
その論に従えば、塔矢は似非で進藤は本物だとの事。
(持ち上げたり落としたり、忙しやっちゃな)
社も、アプローチは違うが似たような感想を持った事があるので理解できなくもない。
コンスタントに実績を積み上げるアキラからは、天才肌と言うより超努力型の匂いを感じる。
停滞から何かの刺激を受けて極端に進歩するヒカルとは対極にある。
そこまで考えて、社は和谷の『誘導』に気づく。
和谷は視聴者に問いを投げかけている。曰く、天才に八百長は必要なのかと。放っておいても目覚ま
しい成績を上げる人間に、無駄金を動かす道理があるのかと。
最初の方で失敗しかけた茶番で、和谷ら『身内』がどれだけ言葉を尽くしても視聴者が納得するのは
難しかったろう。しかし、ヒカルに非道な真似をするこの人物が語るならどうか。
引き比べて、後者の説得力が前説の茶番なしで聞かせるよりも増す。
足をふらつかせながら和谷がやっと戻ってきた。この季節に、汗で髪までぐっしょり濡れている。
無言で社とヒカルの前を通り過ぎ、PCの前に再び腰を下ろす。トレーナーの背中も冷汗で変色してい
た。
自分らは、ヒカルにとって薄い関わりでしかないのだろうか。『彼』の勝手な言い分に、社は流され
そうになっている。
人間関係を全て棋力基準で構築しているのか。本当に?何か論点がズレているように思えてならない。
もしそうなら、言い方は悪いが和谷などはとうに切り捨てられていても不思議ではない。
(……ちゃうがな、待て、混乱してきよった)
大阪で出会ったヒカルの幼馴染。彼女の通っていた高校の囲碁部。
(アホンダラ、やっぱちゃうやんけ)
全てを棋力で割り切った付き合いが出来るのなら、指導料なしで週に一度、スケジュールがどうして
も折り合わなくなるまで顔など出し続けるはずがない。
ヒカルが人を見る基準は。
(ガチでやっとるかどうか、それだけや。棋力やあらへん)
加工音声の主には、どうやら事実を捻じ曲げて脚色する悪癖がある。
中学時代の囲碁部員とは本当に没交渉なのか疑わしい。巧妙に嘘を混ぜて好き放題吐き出しただけな
のだとしたら。
(コイツの言うんを素直に丸呑みすんなってこっちゃな)
社はこの人物の話術に辛うじて引っ掛からず済んだが、他に判断材料のない視聴者は違う。
ヒカルに異常な執着を見せるアキラに、その身を与える事で力の低下を防いだ、とそのままの意味に
取る。どうやら和谷も、その辺を鵜呑みにした節がある。出来ればこの生放送中にその認識違いを正
したい。でなければアキラが誤解されたままで気の毒だ。
ヒカルの本命はアキラではないのだろう。だが、その理由まで歪曲されたのでは。
「お疲れ、社。もういいぜ」
耳を打つ和谷の、疲れた声。再生は終了したようだった。
社は全身の緊張を解き、ヒカルの口から手を離した。
右の掌は唾液に塗れてふやけ、気温のせいか湯気までほんのり立ち昇っている。
ふと妙な気分になりかけたのを振り切るように頭をぐるんと回し、社は自分の鞄からポケットティッ
シュを出して濡れた手を拭いた。
ついでに、ヒカルの顔下半分も拭いてやる。涎で酷い有様だった。
「和谷。塔矢から電話あったで……アイツ観とるがなコレ」
和谷はPCの前に両肘をつき、組んだ手の甲に額を預けて暫く返事をしなかった。
「おい」
「聞いてる。ちょっと待ってろ」
まだ気分が悪いのか、色を失った唇が小さく動いてそう告げる。
「……そっか。あの電話、棋院からじゃなかったか」
ふう、と安堵とも何ともつかない曖昧な溜息を吐き、和谷は膝で這って固定電話の受話器を取った。
最新の着信をリダイヤルする前に、ヒカルに向けて和谷は平板な口調で言った。
「これの元動画。編集したオレは当然だけど……塔矢も見たぜ。多分、全部」
対するヒカルの反応もまた、社の予測を裏切って平板なものだった。
「ふぅん……そう」
上体を起こし、和谷を見るその繊細な面からは、血の色も表情も抜け落ちていた。

387 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/17(月) 00:50:49.78 ID:???
アキラには見せないつもりだった。案の定、電話で計画に水を差しに来たではないか。
だが、もう妨害を心配すべきフェーズは終了した。
この先にすべき事は幾らも残っていない。ならば、文句くらいは聞いてやってもいいだろう。
和谷はそう判断した。
画面の前で待ち構えていたに違いない。ワンコールが終わる前にアキラは出た。
『どう言うつもりだ、キミは』
「どーもこーもねェ。遊びでやったとでも思ってんのか」
受話器の向こうから、アキラの抑え切れない怒気が呼吸音となって漏れ聞こえる。
「おまえもヒトんこと言えるか。録音機送って来る時てめェで何つったか忘れたのか」
ぐ、と息を詰める音がする。そうだ、アキラとて同じ気持ちでいたはずだ。
「『進藤を傷つけても』つったのは嘘っぱちだったのか?その程度の覚悟かよ」
『キミは途中からただ進藤を辱めていただけだ!』
鋭い舌鋒にも、錆びついたように和谷の心は動かない。
「途中はな。けどちゃんと外れる前の道に戻ったぜ?そこは評価しろよ」
『何を、どう評価しろと言うんだ!こんな、こんなやり方……ッ』
語尾が震えて引き攣れている。激情を必死に抑えているのだろう。
『……進藤に替わってくれ。伝えたい事がある』
通話をクローズにしたままでは視聴者も、そして社も置いてきぼりになる。
和谷は受話器のボタンを操作し、スピーカーモードにして電波干渉の少なそうな畳の上に置いた。
位置的には和谷とヒカルの中間あたりだ。
「いいぜ。話せよ」
アキラがこれを観ているなら、多くを説明せずともヒカルと会話できる状態になったのが判るはずだ。
その会話が全て、視聴者に筒抜けとなる事も。
『ぁ、と、』
威勢のいい事を吐いた割には、いざヒカルと話すとなるとたじろいでいる。
何しろ約ひと月ぶりだ。最後に会話した時は穏やかに終わらなかったろうし、緊張するなと言う方が
無理な注文なのだ。
「何だよ。オレに用なんじゃねーの」
助け舟を出すかのように、ヒカルから切り出した。
「で?見ちゃったんだって?アレのノーカット版」
『……ああ。和谷君と同じく、胃が口から出そうになった』
「そりゃお疲れ」
労いではなく、揶揄する口調だった。
『我が身を呪ったよ。何も知らず、キミの重荷になるような真似ばかりして』
「オレが教えてねェもんにまで責任感じるこたねーぜ?」
今、ヒカルの精神状態はどうなっているのか和谷は気に掛かった。普通の会話をしているようで、そ
の内心は低気圧に渦巻く荒海に等しかろう。何かのはずみで、また暴れかねない危うさを放置できな
い。
『何故、教えてもらえないのだろう』
「おまえに関係ねーから」
アキラが黙り込んだので、和谷はいつでも話に割り込めるよう神経を尖らせた。
『saiの事なら、もう無関係じゃない』
「そーゆーの、もういーから」
明らかにヒカルはこの話題を避けたがっている。成程、こうやって追い詰めたわけか、と和谷は苦虫
を噛み潰す。直球すぎる。
関わったのだとどれだけ自己申告したところで、ヒカルが承認しなければそれまでなのだ。
それを変に食い下がるから、ヒカルが抱える聖域まで土足で踏み荒らす結果になる。
和谷ですら解る事を、何故アキラが理解できないのか。
(段階を踏まねェからそうなるんだ馬鹿が)
一事が万事この調子。抱く時も自分の欲求最優先。だから進藤は長いこと慣れずに痛かったんだよ、
と余計な事まで考えてしまった。
『無関係じゃなくなった。言い換えよう。関係せざるを得なくなった』
「え」
『キミがsaiについて語らない、いや、語れない理由もはっきりした』
「……え」
戸惑いの色が、ヒカルの声に混じる。
『saiと、打った。小学生の時でも、中学生の時でもない。キミの体を通してでも、ネットででもない』
「ッ!」
『今日、つい先程。現実に、差し向かいで打った……ボクの、二目半負けだ』
ヒカルの体がぐらつき、倒れかかるのを社の腕が辛うじて防いだ。

388 :◆lRIlmLogGo :2014/11/17(月) 00:51:21.49 ID:???
クラっときながらも鋼の理性を保つ社…俺ならペロペロするわ絶対

多分このスレも、俺が容量パンクさせるでつ
前みたいにならんように、ちゃんと誘導できるよう次スレ立てる準備はしとくでつ
連投ほんにすまんでつ

389 :名無しさん@ピンキー:2014/11/18(火) 21:21:21.81 ID:???
だれもいない…
よし、これからヒカルたんとしっぽりしけ込んで来る

390 :名無しさん@ピンキー:2014/11/18(火) 23:55:57.20 ID:0Ly/JymI
ヒカルに対する攻め方ってそれぞれどんな感じ?

391 :名無しさん@ピンキー:2014/11/19(水) 00:10:04.13 ID:???
俺はただヒカルたんのポークビッツをパンツごといただきたいだけだ

392 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:41:56.82 ID:???
和谷は自分の耳がいかれたのではないかと疑った。
ゆえに自然、こんな質問の仕方になった。
「塔矢……おまえ、色んなことありすぎてアタマ沸いちまったのか」
ヒカルとの会話に口を挟むな、との叱責を予測していたが、見事に肩透かしを食らった。
『そうだ、和谷君キミ、昔saiとネット対局してメッセージ交換もしたんだったね』
こちらに話を振ってくるとは思わなかった。
「それがどうしたよ」
『そのメッセージでキミは、saiが子供なのではと推理した。覚えているか』
「ああ、ガキくせー内容に夏休み期間。だからそう考えた」
『子供で当然だ、それを送信したのはキミのすぐ隣にいる人物なんだから』
のろのろと頭を動かし、和谷は視界にヒカルの姿を捉える。
社の腕に支えられて、どうにか座っていられる状態の彼は受話器に目を向けたままで、和谷など意識
の外と言った風だった。
「saiの代わりにオレにメッセ送っただけのこったろ、saiに関しちゃコイツが嘘吐きなのはもう解
ってる」
院生の頃に下手な言い訳で誤魔化されたが、もう通じない。れっきとした証拠が既にある。
アキラは淡々と、まるで業務の申し送りでもするように先を続けた。
『メッセージ入力を代行した理由は、saiがキーボードを叩けないからだ』
「そりゃそうなんだろうさ……ん?」
すんなり納得できない。違和感が頭をもたげる。
「進藤おまえ……PC自分で使い始めたの、プロんなってからだよな」
最初のノートPCは北斗通信システムのスポンサード関連で貰ったと言っていた。
「おまえ、全然自分で設定とかできなくて……みんなオレにやらせたよな」
初心者も初心者で、メールの送受信も一から教えた。
「タイピングなんかまるっきりダメで……そのおまえが、他人の代わりにメッセ入力した?」
ヒカルは受話器を見据えたまま黙っている。
「おまえが院生になる前の話だぞ、時系列おかしかないか?」
『おかしい点はそれだけか?』
アキラに促され、決着をみたはずの燻りが再燃する。
「ガキでなきゃ書けないようなメッセを、わざわざ進藤に代筆させるほどsaiてのもガキなのか?」
『それはボクには答えようがない』
「何でだ!テメー今日saiとサシで打ったんだろうが、ツラ見てねェとか寝ぼけんな!」
『ボクも自分の中でうまく整理がつかない。今ある情報だけで、こうだと決めつけられない』
「通じねェな、ったく!サシで打っといてなんでそうなる!」
そこで和谷は、アキラが外出していい身分ではない事に思い当たる。
「……塔矢。今日、どこでsaiと会った。てめェん家か」
『ボクが先方に出向いた。saiに会おうとして会った訳ではないし、sai本人とは碁を打つ以外の意思
疎通ができない』
謎かけのようなアキラの科白に、頭痛がしてくる。
「ンだそりゃあ……ケムに巻くのは勘弁だ。もっとスパッと言えねェのか」
『そこなんだ……それこそが、進藤がsaiについて何も言えない最大の』
「やめろ!」
沈黙を保ち続けていたヒカルが、アキラの言葉を遮る。
「塔矢おまえ、信じたってのか?信じねェだろ?オレだって他人がそんなん言い出したら病院でアタ
マ診てもらえっつーわ」
信じて欲しい、でも信じられるわけがない。ヒカルのそう言いたげな、泣きそうな声。
『にわかには信じ難い。けど……突き付けられたんだ、二目半の負けを。あの重厚な攻めを』
信じる以外、どうすればいいんだ。アキラはそう結んだ。声音から困惑が読み取れる。
二人だけに通じる符牒で喋られているようで、和谷は不気味なものを感じた。
『もういいだろう?話してくれ。少なくともボクは、キミを狂人扱いなどしない』
「イヤだ」
拒絶されるとは思っていなかったらしい。数瞬、アキラが言葉の接穂を失う。
『……説明してくれなくては収まらないところまで来てしまった。嫌では済まない』
大々的に視聴者の前でsaiの存在を喧伝した。警察が嗅ぎつけるのも時間の問題。捜査進展のために
ヒカルが隠してきた事を詳らかにせよと求められるのは目に見えている。
「イヤだ!」
『進藤、キミはいつまで十四歳の子供のつもりでいるんだ!』
アキラの投げつけた厳しい一言に、和谷だけでなく社もが息を呑んだ。
ヒカルがまた耳を塞ごうとする。その右手を和谷が掴んで阻む。
頑是無い幼児がいやいやをするように、ヒカルは首を振った。

393 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:42:41.78 ID:???
「十四って……藪から棒に何だよ」
和谷の疑問にアキラは答えを返さず、ヒカルに向けて容赦なく言葉をぶつける。
『キミが手合を長期間休み、もう打たない、自分ではボクの相手はできないと逃げた、あれはsaiを
失ったせいじゃないのか?』
もう十年近くも前だ。デビュー後、快調に白星を積み重ねていたはずのヒカルが碁を投げ出して、和
谷も誰もその原因に思い至る事は出来なかった。
伊角とのやり直しの一局が復帰の取っ掛かりにはなったものの、当の伊角にさえ何に悩み、どうして
また前を向こうと決意できたのか理解不能だったらしい。
もしもそれが、アキラの言うとおりsaiに起因するのだとしたら。
『やはりそうか。解っていると思うが、キミの姿はボクに見えている。言葉でいくら隠そうとも、キ
ミの表情が、身振りが、雄弁に物語っている』
ヒカルはそれにもかぶりを振って受け入れる事を拒む。
『復帰後、キミのした事を教えてやる。病的なまでに秀策に耽溺し、自分の碁を否定してその上から
秀策の碁で堅牢に塗り固めた』
それは何故だ、と和谷も訝しんだ事がある。臨書にまでのめり込むのはヒカルの柄ではないと揶揄っ
た記憶が蘇る。
いつまでも字が汚いままじゃサインもできねェだろ、と返されたが。
『秀策に成り代わり、その人生の続きを演じているかのように……ところで、和谷君』
過去の情報を整理していたら急に会話のボールがこちらに飛んできて、和谷は泡を食う。
「ぅお、いきなり振ってくんじゃねーよ」
『キミは自分がsaiについてどう評価したか、そっちも覚えているか』
「あ?」
『覚えてないのか?アマの世界選手権会場で、森下先生達に何と言ったのか』
「…………!」
────秀策が、現代の定石を。
和谷の目が皿のように見開かれる。
「あぁ……っ、おまえ、進藤!」
我ながら素頓狂な声だと呆れた。
「やっぱおまえなのか!」
『落ち着いてくれ。言ったはずだ、今日ボクはsaiと打ったと』
ヒカルに掴みかからんと迫る和谷を制止するように、アキラが言葉で割り込んで来る。
『少なくとも、今のsaiは……彼ではない』
「だー!もう、さっぱりだ!オレに解るよう親切丁寧に説明してくれ!」
「……説明なんかしたら、もっとワケわかんなくなるぜ」
ヒカルが半笑いで呟く。
「構うかよ!小出しにされるよか何万倍もマシだ!」
「イヤだ」
ヒカルは頑なだった。
『saiを失ったキミは同時に自分の存在意義さえも見失い、saiに似た秀策の碁に縋ることで精神の平
衡を保とうとした。そうしなければ碁打ちを続けられなかった。これはボクの憶測に過ぎない。違う
なら否定してくれ』
ヒカルの沈黙は、消極的な肯定に等しかった。
『そうやってキミは、十四歳の夏……自分の時間を止めたんだな』
畳の上の受話器と、ヒカルの横顔を和谷は交互に見た。
『そこから先、saiとして生きようとしたのに……三年前、再会してしまったんだ』
進藤はsaiが死んだと思い。
その遺志を継いで生きていたら。
当のsaiは死んでなどいなかった。
アキラの言葉はそう読み取れるが、和谷には今ひとつしっくり来なかった。
「その再会したんが、おまえの今日打ったsaiやっちゅうんやな塔矢」
恐らく、この場で最も冷静であろう社が口を開いた。
『そうだ』
「死んだはずが死んでなかった、せやろ」
『……わからない』
「は?」
社ですらこの反応だ。もうこの場に、saiについてまともな論法で話せる人間などいない。
ヒカルを除いて。
『進藤以外に、説明できる人物はいる。だがそいつも語ろうとはしない』
恐らく進藤とは別の理由で、とアキラは憎々しげに吐き捨てた。

394 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:45:00.97 ID:???
※※※

電話をしているアキラの横で、少年は気持ち悪いほど無言でおとなしかった。
ただ、その顔面は厭らしい笑みに彩られていて。
何も知らぬ愚か者共が右往左往する様をにやにやと見物しているに違いなかった。
頻繁にカプセル薬を飲んでいるのがアキラには気に掛かっていた。およそ十分に一回の割で、尋常で
ない数を少量の水で流し込んでいる。
こいつは重要人物だ。警察に突き出す前に倒れでもして証言不能になられては困る。
『……てこた、ヤツか』
アキラの口調で察したらしい和谷が、誰に向けてでもなく呟いた。目の前の画面上で。
「そうだ」
『何やねんな、いっこも見えて来ぇへんがな』
社がぼやく。こんな事に巻き込んでおいて、碌な事前説明もしていなかったらしい。
「進藤、今のキミの碁は、キミ本来の打ち方じゃない。いつまで秀策のふりを続ける気だ」
『…………もう、終わりだよ』
とても前向きになど取れない、ヒカルの哀しげな口調と表情がアキラの胸を波立たせる。
「終わりって?」
意味するところは判っている。けれど、直接、本人の口から聞きたかった。
『どの道、長くても来年の夏までだったんだ。でも、もう終わっちゃった』
「五連覇を決めて、引退か」
ふ、とヒカルは泣き笑いのような声を漏らした。
「引退して、saiの名を雅号として永世本因坊の末尾に残す。それが望みなのだろう?」
『過去形にしてくんない?もう無理になっちゃったんだから』
「まだ早い。キミには何の処分も下されてはいない」
『オレに戻れって?生き恥を晒せって?』
「ボクとヤツとの電話の内容を聞いただろう!ヤツは最初からキミの五連覇を残酷な手口で阻む気だ
ったんだ、こんな人間がキミの思惑通りsaiの碁を継いでくれると思うのか!」
後ろ半分の問い掛けはアキラの推測からのものでしかなかったが、ヒカルの顔を伺うに、どうやら的
外れでもなさそうだった。
『でも……アイツが選んだんだ。オレが間違いだったから、今度は正しく選んだ』
(来た、話しだした。でも)
ちんぷんかんぷんなのは相変わらずだ。だがここで合わせなくては、また口を閉ざされてしまう。
「どうして、キミが選ばれたのが間違いだと?」
『……それ、は』
ヒカルが口ごもる。
「根拠などないのに間違いだと思い込んだのか。抜け作だな」
『だってアイツ消えちゃったから!』
「消えて、別人のもとに現れたから……キミは間違いで選ばれたと?」
『それ以外に何が!』
悲痛な叫びが電話機からも、目の前のスピーカーからも届いてアキラの体を叩く。
「saiの目は節穴だな。だってそうだろう?和谷君」
先刻から会話について来れていない和谷に矛先を向ける。
『は、はぁ?』
要領を得ない様子でおろおろするのを無視し、アキラは続ける。
「毛色の違う他人の碁を模倣した紛い物をもって、二冠棋士にまで伸し上がれるヤツがそう何人もい
てたまるか」
『あ』
反応したのは社だった。
「そんな器用な芸当、ボクには出来ないね。社、キミなら?」
『オレにでけるワケあるかい、自分の碁で一杯一杯や』
「だろう?ここで進藤の論拠は破綻する。これほどの打ち手をsaiが見捨てて他人を選ぶなど、ボク
に言わせれば愚か極まりないね」
『だって、だって!オレは碁なんて全然知らなかったんだ、石に触ったことすらなかった!』
「それが根拠?海の物とも山の物ともつかないキミが一人前になったんだから、きっと彼もいつか?」
進藤、自覚しているか。キミがなし崩しに喋ってしまっている事を。
それを悟らせないようにせねば、とアキラは自らが発する一言一句に神経を配る。
少年は変わらず、にやつきながら傍観している。
いつ掻き回しに来るか、気が気ではなかった。
『そうだよ!そんなオレんとこにアイツは来たんだ、だから』
「残念ながらその可能性はない。何故なら、彼は既にプロでありながら、性根が腐りきってる」

395 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:45:56.19 ID:???
『そんなんわかんねェじゃん!オレだってロクでもなかった、おまえ知ってるくせに!』
「あの時のキミは無知な小学生だった」
『おまえだけじゃなくてアイツにも怒られた!考え方が汚いって!』
梃子でも自説を枉げる気はないらしい。強情なのはヒカルらしいが、今はそのらしさを返上して欲し
かった。
「ではキミは、プロになって二年経ってもその汚い考えのままでいたか?」
ヒカルが言葉に詰まる。
『ちょお、ええか』
社が割り込んでくる。何か気になった事でもあるのだろうか。
「何だ」
『今、話のネタになっとんの、おまえと電話しとった例のヤツか』
「ああ」
『そいつは二年前プロんなった碁打ちで間違いないんか』
「その通りだ」
『……わかった。話の腰、折ってもうてスマン』
社の意図はアキラには解らなかったが、少年には読めたらしい。
電話機が拾えないほど小さく、舌打ちするのがアキラの視界の端に見えた。
『待てよ……いまの、なに』
ヒカルが怯えたように社を見る。
「問いを変えよう。進藤、キミの言う汚い考えを、キミ自身が捨てたのはいつだ」
『社、なんだよ今の!』
アキラそっちのけでヒカルは社に食い下がる。
「ボクの質問に答えろ!」
びくり、と華奢な体が震え、ヒカルがこちらを向く。
「いつ、碁に対して真摯に向き合うようになった」
『……おまえに、負けた時からだよ』
渋々といった態で、ヒカルは答えた。
「中学の大会?」
『えらい剣幕でおまえに怒鳴られて、悔しくて泣いて。自分が弱いせいだって』
あの、途中から巫山戯ているとしか思えなかった内容の対局。
今なら、その原因が解る。
「途中からとはいえ持てる精一杯を出してボクと相対したんだよね……怒ったりして悪かった」
『え』
十年以上前の事を謝られたせいか、ヒカルはぽかんとしている。
「……どうして、途中から自分で打った?」
『打ちたい、って思っちゃったんだ。団体戦の勝負がかかってたのにな』
「saiに頼らず?」
『うん』
「それで、あの大会以降キミの体を借りられなくなったsaiのために、ネット環境を用意した」
ヒカルが両手で口を押さえる。喋りすぎにようやく気付いたのだ。
「遅かったな。ここまで話してしまって、今更隠しても仕方ないだろう?」
突飛な内容の告白に付き合っているうち、いくつか輪郭がはっきりした事がある。
「saiの正体が誰かなど、論じるのが愚かだ。いないのだから」
いない。だからヒカルは『消えた』と表現したのだ。
『去った』でも『死んだ』でもなく。
「あの稀有な打ち手には、体がないんだ。ゆえに、存在を示すためには他者が必要となる」
和谷が、呆然と電話機の方を見ている。
「自分で打ちたいと言う進藤の気持ちを鑑み、saiがネット以外で主張することはなかった」
次いで和谷が視線を向けたのはヒカルだった。
「進藤の体を借りていた時期は恐らく、二年四ヶ月ほど。理由は知らないが、彼がプロになってほど
なくsaiは姿を消した」
『進藤……おまえ、師匠が……いない、って』
和谷の声は掠れてひび割れていた。
「いたのさ。これ以上望めないほどの師匠がね」
『塔矢』
ヒカルのその声には、どうしてか笑みが少しだけ含まれていた。
『一回だけ……プロ試験受かった後に一回だけ、アイツに体を譲った事がある』
「それはいつだ」
『おまえの親父さんが知ってるさ』

396 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:46:33.24 ID:???
父が知っている。結びつくような出来事は限られている。
まず最初に頭に浮かんだのは引退直前のsaiとのネット対局。
だが、ヒカルが『体を譲った』と明言する以上、それではない。では。
「新初段シリーズか、あの不可解な」
ご名答、とヒカルは空虚な声で笑った。
一見、新初段に何も良いところがなかったどころか、何故この子がプロになれたのかと叩かれもした
曰く付きの一局。
和谷も最初から最後まで見ていた。
『あれは……おまえ、はぁ?なんであんなみっともねェ碁になるんだよ』
「同じ院生だったのだろう?あからさまに進藤の碁じゃないモノを見せられてどう思う?」
『バレちゃ一巻の終わり、ってか』
「そうだ。多分、勝手に自己ハンデを追加でもしたのだろうと桑原先生が仰ってらした」
その結果が、あのちぐはぐな内容の碁。
『……あの爺さん、見抜いてたのかよ。ったく、オレに黙ってやがって。食えねェったら』
ヒカルはもう、肚を括ったらしい。それとも、諦めたのか。
「ちなみに、どれだけのハンデを?」
『ん?しめて逆コミ十五目半』
吹き出しそうになった。塔矢行洋ともあろうものが、小僧に随分な扱いを受けたものだ。
「危ない橋だったろうに、何故よりにもよって新初段シリーズなんかで」
生放送が始まって以来、乱れたままだった髪をヒカルは初めて軽く撫で付けた。
『あのバカ、オレの場所に座り込んでどかねェんだもん……周りから早く座れってせっつかれるし』
「根負けしたのか」
名状しがたい微妙な顔をして、ヒカルが頷く。
他人には、五冠棋士に怖気づいて席につくのを躊躇う子供の図にしか見えなかったろう。
別室のモニターでは碁盤しか映らなかったので、その光景をアキラは知らない。無論、和谷も。
『あれくらいの時期から、ただでさえワガママなのが輪をかけて酷くなってさ。手を焼いたんだ』
振り回されて大変だったと言うその声には、懐かしむ響きさえあった。
『ねぇ、親父さんに伝えといて。またアイツと打てる日が来るってさ』
「そんな日は来ない。少なくとも、saiが彼といる間は」
『どうして?』
「三年間、碁そっちのけでキミを甚振り抜く事だけに血道を上げていた輩だぞ、改心など期待できる
ものか」
『……今は頭が痛くて碁に集中できないだけなんだ、それさえ治れば』
「そんなものが人間ひとりを破滅させる理由になるか!」
ヒカルが押し黙る。
「何故そこまで肩入れする?saiが新たに選んだ、他にも理由があるのか」
唇を噛み、苦しげに眉を寄せるその姿に、アキラは当て推量が的中したのだと悟る。
「キミがそうやって抱え込むから、誰も力になってやれないんだ」
そんなもの求めてなどいない、と言わんばかりにヒカルは首を振る。
「昔からボクらが喧嘩すると、物別れに終わるのが常だな。お互い我が強いから」
それは、ヒカルの気持ちをこれ以上忖度も尊重もしないという宣告。
「和谷君。頼んだつもりはなかったが……キミならボクの送ったものを適切に処理してくれているだ
ろうと確信している」
『ああ。生放送のネタにだけ使うのは勿体ねェからな』
「具体的にどう使ったのか、訊いてもいいか」
和谷はヒカルの顔を申し訳なさそうに見た。
「構わない。逃げる隙など与えないから大丈夫だ」
何かを察したヒカルが、慌てて畳の上の受話器を引っ掴む。
『────────塔矢ァ!』
取り乱すヒカルを尻目に、和谷は得心がいったように頷いていた。
『塔矢、てめェがこの混雑の中蹴り出されてねーのはそういうワケか。気付かなかったぜ』
どういう訳なのだろう。和谷の言葉が時々意味不明なのは今に始まったことではないが。
『イヤだァ、やめてよ!やめてくれ!』
「こいつがキミの碁打ちとしての人生を終わらせようとしたのなら。こいつにも終わってもらう」
半狂乱で受話器に怒鳴るヒカルを社ががっちり抱えて動きを封じて、また口を掌で塞ぐ。
『やめろもクソも。おまえがベラベラ喋ったんじゃねーかヤツの事を』
和谷に言われ、ヒカルは掴んだままの受話器を闇雲に振りかざした。それが社の側頭部を強打し、ガ
ツンという痛そうな音がスピーカーで増幅されてアキラの顔まで顰めさせる。
『それに。さっき社が塔矢に確認したろ。あれだけの情報でヤツを特定した視聴者もいたかもな』
終局なんだよ、と和谷は────『彼』に告げた。フルネームで。

397 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:47:57.79 ID:???
***

未成年である、それが名前を公表するにあたって和谷が躊躇う最大の要素だった。
しかも確定と見做せる材料はアキラとの電話の声だけという心もとなさ。
だが、アキラが電話と直接対面で二重に言質を取り、疑いから揺るぎない事実となった時点で、その
躊躇いは捨てるべき怯懦でしかなくなった。
「さァ。もうおまえの打つ場所なんてねェぞ。さっさと『負けました』ってアタマ下げな」
アキラと共に観ているであろう少年に、ドスをきかせて呼びかける。
そこで、ヒカルが社を殴る凶器にしたせいで受話器のボタンがどうにかなり、通話が切れてしまって
いる事に気付いた。畳に投げ出されているそれを取り、再度アキラの番号をリダイヤルする。
『あっはっはっは、まーけーまーしーたー!』
場にそぐわぬ能天気な声が、部屋にこだました。
「大した猫かぶりだな。よくもまあヌケヌケとウチの研究会にツラ出してたもんだ」
『ヤだなあ、そりゃ言いがかりですよ。最初のうちは普通に真面目に通ってたんですから』
「は。どうだか」
『嘘だとお疑いなら、そこでドタバタうるさくしてる人に訊いたらどうです?』
ヒカルを一瞥しただけで、和谷はその提案を実行に移さなかった。
「まあ、あんな変な凝り方したサイト構築するくらいだ。抜かりなくアリーナで観てんだろどうせ」
『変な凝り方?』
「一見、トーシロが勉強の途中で放ったらかしたみたいなページん事だよ」
『ああ、あれは余計なアクセス集めんのがヤだったんで。やっぱね、見つけたのはあんただと思った』
「他に正解送ってきたヤツはいんのか、あのクイズ」
『まっさかぁ。デタラメ入れて当たるわけがない』
「一応、配慮のマネくらいはできるってか」
『無修正グロ系AV、誰かれ構わずバラ撒くなんて頭悪くて超ダセェじゃん』
胃からまた酸っぱいものがこみ上げてきて、和谷は思わずえずきそうになる。
それを画面越しに見たのだろう、少年が楽しげな笑い声を出す。
「どうやって進藤を意のままにした?saiは今ここです、つっただけじゃねェだろ」
『それがねェ。困ったことに、それだけなんです』
「嘘ぬかせ」
『ホントですって。六年ぶりに対局させてやっただけで面白いくらいダダ崩れ』
どうせ闇討ち同然だったのだろう。和谷は声に出さず毒づく。
『よーっぽど罪悪感持ってたんですね、お師匠に打たせず自分ばっかだったって』
「罪悪感?」
『前の憑坐みたいに体を全部明け渡して、百年に一度の天才として振舞う覚悟がなかったって悔やん
でんですよ、このドヘタレ』
「……前、ねぇ」
ヒカルの前にもいたと言うのか。それは現役の棋士か、はたまた故人か。
百年に一度と称されるなら、その人物は限られると思うが。
『あれ?反応鈍いな。進藤さんが腹見せて降参するくらい凄い憑坐つったら一択でしょ』
アキラがさっきヒカルに投げかけた言葉が脳裏に蘇る。
────────馬鹿な。
そんな非現実的な、と否定したい気持ちと。
そう考えれば筋が通ると納得してしまいそうな気持ちが拮抗する。
saiに似た秀策の碁で自分の碁を上から塗り固めた?そうじゃない。
(秀策の名がついた、現存するsaiの碁で自分の碁を……消した)
『秀策』に体と名を貸さなかった、それを罪だと思い込んだから?
「ハ……ハハ、そりゃ……誰にも、バラせねェわ」
汗が冷えて張り付いたトレーナーに、また新たな冷汗が染みてゆく。
反対に、口の中がカラカラに乾いてゆく。
『saiと秀策が似てるだって?そりゃ本人つかまえてソックリさん扱いすんのと一緒ですよ』
ヒカルは拒んだのだ。秀策とイコールで結ばれるのを。
そして後悔した。自分を消してしまいたいと願うほどに。
『進藤!』
携帯電話を少年から取り返したらしいアキラが叫ぶ。
『自分で打ちたいと思ったのだろう?ならそれを貫き通せばいい!』
ヒカルは社の拘束から半分自由になっていた。社は打ち所が悪かったのか、蟀谷の辺りを押さえて箪
笥に凭れている。
「ダメだよ……オレなんかじゃ」
『そんな弱音はもう沢山だ!耳が腐りそうだ!そうやってキミは、またボクから逃げるのか!』

398 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/19(水) 03:49:39.93 ID:???
ヒカルたんと若゛の囲碁部→プロ初対決まで二年四ヶ月(1999/06-2001/10?)
ヒカルたんと佐為が一緒にいた期間が二年四ヶ月(1999/01-2001/05)
ほった先生は狙っていたのか否か…いずれにしても鳥肌だったでつ

年末が近づく…焦る焦る
続きまつ

>>391
ヒカルたんのポークビッツなら俺が今ナメナメしてるよ

399 :名無しさん@ピンキー:2014/11/19(水) 18:59:17.71 ID:???
盆たん無理せん程度に頑張ってな(;´Д`)ハァハァ

400 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/20(木) 02:11:36.16 ID:???
※※※

「だってオレは虎次郎じゃないもの、あんな風に完璧になんかなれない!」
ヒカルの偽らざる本音だった。
師が手放しで褒めちぎる前の憑坐になど、逆立ちしても届かない。
人格も、教養も、何もかも。
師を失ってのち、秀策に関する事を学べば学ぶほど自分との違いが浮き彫りになって、絶望にも似た
感覚に襲われた。
それなのに、秀策の擬態をやめられなかった。
毎年。風薫る頃が近づくと、真夜中に目覚めて独り泣く時間が増えた。
自分は何をやっているのだろう、と虚しさを抱えてなお、自己満足でしかない行動を続けた。
狂いそうになりながら碁打ちとしてのアイデンティティを辛うじて保つ日々。
アキラが自分の方ばかり見るのが怖かった。
彼という杖が壊れてしまったら、何を支えに師のいない果て無き碁の道を歩めばいいのか。
その恐怖感がアキラを突き放した。
同じ理由で、彼の欲求を我が身に受け容れた。
アキラは杖であり、羅針盤だった。ヒカルが原因で彼の持つ刃を鈍らせてなど欲しくなかった。
その切れ味が、力強さが、必要だった。
抜身の刀が肉の鞘を欲するならそうなろうと思ったのだ。
『それの何が悪い!キミはキミでしかないんだ、当たり前の事を言わせるな!』
受話器から流れる、アキラのがなり立てる声。
「おまえはずっとアイツを追ってたじゃないか!だからオレは」
『ボクに責任を転嫁するな!いつキミにsaiを演じてくれと頼んだ!』
「オレの碁なんかじゃおまえをがっかりさせるに決まってるんだ」
『そうとも、がっかりしてるさ!いつだかキミが言った、ボクの足元を掬うホントのキミとやらに、
何年経ってもお目にかかれないんだからな!』
そんな昔の話を持ちださないでくれ。
あれはモノ知らずだった馬鹿な自分が身の程も弁えずに出してしまったんだ。
「ねェよ!そんなもん!オレを買いかぶるのはもうやめてくれよ!」
アキラの責め立てる声がふっつりと止んだ。
そうだ。もう期待などしてくれるな。
『……誰も思いつかない、盲点を突く冴えた一手』
「え」
打って変わって静かな口調に、ヒカルは戸惑った。
『打った時点ではどう見ても悪手。けれどそれは、盤面が進行すると化けて本性を現す』
「あー。ありゃタチ悪ィわ。オレも何回被害に遭ったかわかんねェ」
テーブルに頬杖をついた和谷が口を挟んでくる。
「このメンツ全員、進藤トラップ被害者の会会員じゃねェの?どうよ社さん」
「オレ会員番号なんぼくらいやろか」
蟀谷を押さえたままの社の返しに、ぶっと和谷は吹き出す。
『ほら。ちゃんとあるじゃないか……どれだけ隠しても出てきてしまう、キミ本来の打ち方が』
慰めなどいらない。だってそれは。
「それは不細工な欠点なんだ。アイツの真似事してるから悪目立ちするだけなんだ」
『欠点で嵌められて負けるボクらを纏めて虚仮にするのか?』
そう来られると困る。ヒカルは答えあぐねた。
『これまで自分の打ってきた碁を卑下する事が、キミと対局した全ての碁打ちを愚弄するに等しいと
何故解らない?』
「あ…………」
言葉が何も出てこない。
『結局キミは、十四歳どころか小学生のままなのか?本当にあの頃ボクを怒らせた言葉通りの碁打ち
になったんだな』
もう何度、今日は首を横に振っただろう。
『どこが違う?ちょっとプロになってタイトルのひとつふたつ。他の棋士が塗炭の苦しみを味わいな
がら目指すものを、キミはいとも簡単に手に入れたじゃないか』
アキラの皮肉が耳の奥に突き刺さる。
「塔矢、オレ」
『違うと言うなら否定するな!キミのこれまでの碁を、これからの碁を!』
嬉しいと思ってはいけない。そんな資格はないのだ。
『どうせヤツに吹きこまれたんだろう。キミの碁は不細工な贋作だと』
あたりー!と、遠い声がはしゃいだ。

401 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/20(木) 02:12:07.52 ID:???
※※※

「誤解しないで下さいよ?ボクは偉大なお師匠様の言葉をイタコとして伝えただけなんですから」
少年はしれっと言ってのけた。
「悪意で捻じ曲げるなどお手の物だろう。真に受ける進藤も進藤だ」
携帯電話はアキラの手にある。隣にいる少年の声は向こうに辛うじて届いてはいるようだが、明瞭で
はない。
アキラは画面に向けて呼びかける。
双方向ではないのだから意味はない。それでも、画面の中にいるヒカルに呼びかける。
「進藤、コイツに言われた事をプラスの意味に変換しろ。それがsaiの真意だ」
『……わかんねーよ』
「できないならそこの二人にでもヤツに言われたままを話して変換してもらえ!」
ヒカルはそれに従わない。
「あんたさぁ、自分が絶対正義だって信じて疑わないタイプですよね」
少年がいきなり、脈絡もなく切り出した。
「自分のせいでここまでの大事になったって、欠片も考えやしない」
アキラは少年を睨み据える。
病院での事は、元はといえばこいつが。
「体があったら、あんたに盗られたりしなかったのに、てね。幽霊のくせに生臭いんだから」
『言うな!』
電話から遠くとも、聞き取れていたらしい。ヒカルが裏返った声で叫ぶ。
アキラは全身がそそけ立つのを感じた。
「触りたいけど触れない、キスもできない、もちろんそれ以上も。全部やっちゃったあんたが死ぬほ
ど妬ましい。や、もう死んでるんだけどさ」
まさか、そんな。
では、彼のサイトで最初に観た、あの若獅子戦の動画の意味は。
「うそ……」
悪寒が止まらない。
「ボクの単独犯だと思った?残念でした」
ずっと、saiには聖人のイメージを勝手に持っていた。
実体の無い存在と判り、その印象は強まっていた。
初めて唇に触れた時も。抱いた時も。怒りはしたがそれ自体への嫌悪感を表さなかったヒカル。
他にも、思い返せば行き当たる。幾つも。幾つも。
「うそだ……進藤」
二年以上もの間、四六時中傍にいて。どんな関係だったかなど。
知りたくもなかった。
『ごめん、塔矢。ごめんよ』
泣きながら謝るヒカルの声など、耳に入れたくなかった。
その声を振り払うように、アキラは少年をもう一度睨めつける。
「共犯だと言うなら、ボクに躊躇う理由は何もない」
彼は悪びれもせず、肩を竦めるだけだった。どうぞご自由に、そう挑発するかの如く。
「話が途中だった。あれをどう使ってくれたんだ、和谷君」
緊張感を伴う響きに、和谷は顔を上げた。
『……オレの持ってる情報と一緒に、岸本に一任した。動画も全部含めて資料が形になり次第、警察
に提出する手筈になってる。アイツの仕事が早けりゃ、もう警察は動いてると思う』
画面の中のヒカルの顔がぐしゃぐしゃに歪む。
胸を刺すような痛みと、ささやかな復讐を成した快感が、アキラの中で綯い交ぜになる。
と。
ヒカルの姿がフレームアウトした。和谷が叫び、社が動く。
『ダメだ!ここは六階だ!』
耳をつんざくような高い泣き声と、何かがベランダのサッシにぶつかるような物音。
もうカメラが写す範囲内には誰も居ない。
複数の人間が取っ組み合っていると思しき、騒々しい音と声だけが視聴者に届く。
表情を凍りつかせたアキラの横で、少年が頭を抱えてもんどり打つ。
「あぁ、あっ!痛、いっ、あは、あははははは!ざまあ進藤、死にさらせ!」
その憎悪がどこから来るものなのか、アキラには推し量りようもなかった。

しつこく鳴り響くチャイムは、画面の向こうなのか、それとも。

402 :◆lRIlmLogGo :2014/11/20(木) 02:12:40.51 ID:???
次から最終パートでつ
…つくづく、俺のヒカルたん(;´Д`)ハァハァは歪んでいると実感しておりまつ
さすがの俺も、今回の投下は手が震えてるわ

最近寒いけど、メイツ各位におかれましては風邪など召さぬようお気をつけ下さいでつ

>>399
ありまd

403 :名無しさん@ピンキー:2014/11/20(木) 03:16:02.63 ID:???
もう終わってしまうんだなあ…
なんだか感慨深いものがある

ラストスパートがんばだぜ盆たん!

404 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 00:47:37.36 ID:???
※※※

いつか、話すかもしれない。
確約ではなかったが、話してくれる気になるまで待つつもりでいた。
こんな形で知る事など、決して望んではいなかった。
白日の下に晒されるのが必然だったなら。
抱え続けていた彼に罪があったのだろうか。
彼の心を隅々まで暴き立てる欲に駆られた自分に罪があったのだろうか。

令状を携えて警官が踏み込んだ時、少年は痛む頭を抱え込んで転げまわっていた。
苦痛に呻く合間に狂ったような笑いが吐き出されていたので、当初、詐病を疑われた。
アキラは正直に、少年が頭痛を抑えるのに鎮痛剤らしき薬を濫用していたと証言した。
後に、その薬が手術後などに頓服として服用するきついものだと教えられ、どれほどの痛みだったの
か想像して眉を顰めた。
少年と共にいたアキラも事情聴取のため警察署へと連れて行かれ、そこで和谷・社と顔を合わせた。
岸本の提出した資料が功を奏し、所轄違いでバラバラにはならずにヒカルの件と一本化が済んでいた
ためだった。
社がヒカルに受話器で殴られた傷はアキラの想像以上に酷く、縫合が必要なほどだった。裂けた場所
が蟀谷だったのもあって出血も多かった。

希死念慮を持つ人間を不特定多数の見る前で寄って集って追い込んだ、と言う非難がアキラ達三人に
浴びせられた。日本棋院・関西棋院もこれを看過しえず、和谷と社にも謹慎及びその期間中の不戦敗
が処分として下された。既に無期限謹慎中のアキラには取り立てて沙汰はなかったが、復帰が更に遠
のいたと暗に仄めかされた。

ショッキングな内容の生放送はSNSや巨大掲示板の実況スレッドなどでネット上に拡散され、十七歳
のプロ棋士の身元は本人の予想通り瞬く間に丸裸にされた。マスコミ報道が未成年だからと匿名にす
るのを嘲笑うかのように。
無論、棋院側も当該棋士のプロフィールを削除して対応に当たったが、焼け石に水でしかなかった。

アキラによるヒカルへの暴行から端を発した一連の醜聞は、二転三転して混迷を極めた。
ネットでも既存メディアでも、本質を掴んだ発言ができる者は出てこなかった。
納得のしどころを見失い、憶測が憶測を呼ぶ。
真相を知る者は、一般人が理解可能なフォーマットに落としこむ術を持たない。
ゴシップは今も延焼を続けている。

「……ん」
いつの間にか、規則正しい揺れに誘われてうとうとしていたらしい。
電車の進行方向とは逆に傾いでいた上体を真っ直ぐに戻し、勝手に肩を借りてしまっていた隣の女子
学生に謝罪する。鷹揚に許してくれて助かった。
東京駅を出て、かれこれ六時間以上になる。空路の方が早いが、利用するには名前が必須だ。
神経質になり過ぎではないかとも思ったが、やはり嫌なものは嫌だった。
目的地が近くなるにつれ、電車の接続が悪くなって駅での待ち時間や特急優先による停車時間が増え
ている。都内の交通網に慣れている身に、これは結構堪える。
「済みません、今はどのあたりですか」
先程の女子学生に訊ねる。眠っている間に幾つ通り過ぎたか確認したかった。
彼女の返答で、そう長いこと寝てはいなかったと判る。
残りの停車駅は終点のみになっていたが、時計を見ると予定到着時刻まで二十分近くあった。
車内にはまだ、どこか正月の浮かれた空気が残っている。時間が時間だけに、学生や主婦が多いせい
だろうか。
ふと見回すと、横長の席には空きが目立っていた。寝ている間にかなりの乗客が降りたようだ。
女子学生と逆の側を見ると、そこもぽっかり空いている。きまり悪くなって、また彼女に謝ってそそ
くさと距離を開けた。
(変質者だと思われたかな)
暖房の効いた車内で、ニット帽も取らずマスクで顔半分を隠した男はただでさえ怪しい。
わざとらしく咳などして、マスクの正当性を周囲に訴えかけるのが如何にも小心で姑息だと我ながら
呆れた気分になった。
山ばかりだった車窓の風景が、住宅地に変わりつつある。
降りる準備は特に必要ない。
膝の上に置いたセカンドバッグ一つだけで、アキラはここまで来たのだから。

405 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 00:48:08.55 ID:???
電車の次は、バス便の疎らさに泣かされた。
二度乗り換え、三度目に乗るバスが来るまで三十分以上待つ羽目になった。
やっとのことで目指す場所の近くに着いた時には、もう陽が傾き始めていた。
歩き出してからさほど迷うことなく、その建物に辿り着けたのは幸いだった。
小ぢんまりした二階建てのハイツ。建物の割に駐車場が広い。交通事情のせいだろう。
その一階、右端の部屋。表札はかかっていなかった。
チャイムの上で指が躊躇う。ここまで来てしまったものの、いざとなると怖気づいてしまう。
アキラはひとつ深呼吸をし、息を吐ききって、コートの内ポケットから携帯電話を出した。
出ずに切られても仕方がない。その時はどこか終夜営業の店ででも過ごし、翌朝帰ろう。
コール三回目の途中で、通話状態に切り替わった。
だが、相手は無言。
「……あの」
『おう』
「こっちまで、出てきたんだけど」
『今どこよ』
「え、と。ハハ、玄関の前」
誤魔化し笑いは通用しなかった。何も言わず通話が切れる。
(ダメか、やっぱり)
諦めて踵を返そうとしたアキラの耳に、玄関ドアの内側からどすどすと不機嫌そうな足音が近づいて
来た。
ドアが開くなり、ぱかん、と軽い音がして頭に衝撃が走る。
凶器は丸めた週刊雑誌だった。
無表情でアキラを見るその姿は、一見健康を取り戻したように見える。
一目で彼と識別できる明るい色の前髪は、他の部分に合わせて黒く染められていた。
伸びた髪は後ろで無造作に括られている。
何より、目を引いたのは。
その両耳に飾られた、小さな赤い石のピアス。
「しんど、」
呼びかけるアキラに反応を返さず、口の端で咥えたスルメの足もそのままにヒカルは背を向けて室内
へと戻ってしまった。
入れとも言われていない。帰れとも言われていない。
ままよ、とアキラはドアを閉め、狭い上り框で靴を脱いだ。
「鍵とチェーン」
中からそう声がする。許可が降りたらしい。
胸を撫で下ろし、アキラは言われた通りに施錠した。
部屋は八畳ほどで、入って左の壁際はキッチンだった。
備え付けの家具以外、私物は殆どない。
ぬっ、と目の前にビールのロング缶が差し出される。
「ん」
自分も呑みながら、ヒカルは缶を取るよう顎で促してきた。
「まだ陽のあるうちから?」
「もう夕方じゃん。つか、ずっと呑んだくれてたみたいにゆーな」
缶を受け取る前に、アキラはコートを脱いで帽子とマスクも取った。
ぶふ、とヒカルが吹き出しそうになって、口からビールか少し零れた。
「お、おま、社、社から、聞いてはいたけど……う、うはは」
腹を抱えて笑い出すのを見て、アキラは憮然となった。
「ダメだヒデェ、ハラ痛ェ、アハハハ」
「そんなに似合わないか」
「な、悪いこた言わねェ、また伸ばそうぜ、うくく」
人目から逃れるために自分で切った髪は、きちんと切り直すと一段と短くなった。
このひと月半で随分ましになったと自分では思っていたのだが。
アキラは嘆息し、脱いだコートを畳んで邪魔にならない隅の方にバッグと一緒に置いた。
正方形のテーブルの上には、さっきヒカルが置いたアキラの分の缶と、乾き物ばかりのつまみが何種
類かあった。いずれも、開封前か封を切ったばかり。呑み始めたばかりなのが見て取れた。
「こんなもの食べて、大丈夫なのか」
「うん?まあ大丈夫なんじゃね?正月もこんなもんだったし、別に何てことなかった」
ジャーキーを齧りながらヒカルが答える。
あれから、まだ一ヶ月半だ。
アキラには、ヒカルが自分の体を苛めているようにしか見えなかった。

406 :◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 00:48:39.78 ID:???
最終パート開始でつ
前回までのパートがどれだけかかったか日付見たら、先月の末からで
軽く目眩がしたでつ
…25日までに終わんのかいな

でもって、そろそろ次スレの季節でつね
容量見ながら慎重に投下しつつ、テンプレとか準備せねば…

407 :◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 01:02:50.96 ID:???
そしていつもの如く、投下後に気づく誤字とかおかしな文末…

408 :名無しさん@ピンキー:2014/11/21(金) 14:09:57.80 ID:???
髪を伸ばしたヒカルたんって、なんかエロいよな
ヒカルたんはいつでもエロいけど

409 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 23:07:09.27 ID:???
「ここまで、随分時間かかっただろ」
「まあね。電車に乗ってる時間が長いのよりも、バスの本数が少ないのに参った」
アキラの言葉に、ヒカルは呆気にとられたような顔をした。
「タクシー使わなかったのかよ、なんで?」
「あれ……どうしてだろう」
緊張していたせいかも知れない。ここまでの経路をネットで検索して、電車・バス・徒歩とあったか
ら杓子定規に従ってしまったのだ。
思考の柔軟性を失って、硬直している自分が少し恥ずかしかった。
肩の力を抜かなくては。テーブルの前に腰を下ろしたアキラは缶ビールに手を伸ばし、プルタブを開
けた。
外は寒かったが、喉を通る冷たさは案外心地よかった。
「昼メシは?」
「食べそびれた」
ヒカルはキッチン備え付けの小さな冷蔵庫を指さした。
「大したもん入ってねーけど、テキトーに漁って食えば?」
それほど空腹を感じていないはずだったが、アルコールが入ったせいか胃がひもじさを訴え始めてい
た。しかし、ヒカルの買うような食べ物は何となく想像がつく。
ジャンク具合では目の前の乾き物と大差ないだろうと思い、テーブルに手を伸ばす。
ぺし、と叩かれた。
「何だよ」
「それさっきコンビニで最後のいっこだったの!大事に食うんだから取るな」
袋入りの帆立貝柱の干物だった。
好物だったとはアキラの記憶にない。
「わかったよ」
我を張らずに引き下がる。よろしい、とヒカルが尊大に頷く。
アキラは小さな違和感を覚えて、部屋を見渡した。
(ああ、そうか)
碁盤も碁笥も、見当たらなかった。関連書籍の一冊すらも。
(もうキミは、戻らないと決めたんだ)
悲しいと思う気持ちは、麻痺してしまったのだろうか。
ヒカルを碁の世界に引き戻したいと、あまり思わなかった。
自分自身すら碁から離れてもいいかと感じ始めてもいた。
対局から遠ざかっている期間が長すぎた。
ならば、自分はどうして、何をするためにここまで来たのだろう。
許しを請うために?
復帰の意志を確かめるために?
様子覗いに電話を掛けてくれた社に、ヒカルが昨年末からここに隠れ住んでいると聞かされて、矢も
盾もたまらず翌朝の電車に飛び乗った。大した理由などなかった。
視界が陰ったので蛍光灯が切れかけているのかと顔を上げると、すぐ目の前に大きな茶色の瞳があっ
て心拍が跳ねた。
細い指が、頬に触れてくる。
「イヤなら言えよ、やめるから」
擽るように撫でてくるその動きに、自然、体は熱くなる。
こんな風に彼の方から求めてきた事は一度もない。いつだって自分からだった。
「……あ、っ」
柔らかな唇に耳朶を挟まれて愛撫され、アキラは思わず声を漏らす。
頬を撫でていた指が唇をなぞり、歯列を割って口内に侵入する。
「ん…………ふ」
舌を撫でてきた指を、逆に絡め取って舐めしゃぶる。感じたのだろう、耳朶に歯を立てられた。
指が引き抜かれ、代わりに待ち焦がれた唇が押し付けられる。深い口付けに変化するのに、時間はか
からなかった。
去年の春以来、本当に久々に味わうヒカルの唇。
舌を絡め合い、吸い合って、その合間に口内の敏感な場所を攻めてやる。
たまらなくなったのか、ヒカルは唇を離す。混ざり合った唾液が糸を引き、途切れる。
乱れる息もそのままに、その唇はアキラの首筋に吸い付いた。
「っぁ、だ、め」
シャツのボタンを外して鎖骨に舌を這わせ始めたヒカルが、悪戯っぽく笑う。
「謹慎中の脱走、本日で二回目」
余裕を無くしてしまっているアキラは、一瞬何を言われているのか理解できなかった。
「ダメじゃん、いつまで経っても復帰できないぜおまえ?」

410 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 23:07:40.87 ID:???
上に着ているVネックのセーターごとシャツをたくし上げられ、腹から胸元まで舐め上げられる。
自分の肌はこうも感じやすかったっけ、と浅く早い呼吸をしながら霞のかかった頭で思う。
視線を少し下に落とすと、ちらちらと動く桃色の舌が濡れて光っていて。頬が更に熱くなる。
少し体重を後方にかけて腕で支えている姿勢を続けるのがきつい。
何より、力が抜けてきている。
全身がぐにゃぐにゃになったような錯覚。
興奮し過ぎて酸欠でも起こしているのか、視界までぐらついてきた。
ヒカルの左手がズボン越しに股間を撫で擦り、やんわりと揉みしだく。
腕がもう限界だった。ヒカルに伸し掛られるままに従い、後ろざまに倒れる。
自由になった手で細い肩や背中を愛撫しようとすると、ヒカルはずり下がって逃げた。
どうして、と思う間もなくジッパーが下ろされる音がして、アキラはぎょっとする。
「なっ…………ぁあ!」
とうに硬く反り返ったそこに、舌が触れる。
裏筋を何度も往復し、鈴口をこじられる動きに腰が浮き上がる。
敏感な先端をぱくりと咥えられてしまえば、もう陥落寸前だった。
今まで一度たりとも、させた事はなかった。
して貰いたいと夢想はしたけれど、いざ現実に直面すると要求は引っ込んでしまった。
ヒカルが自分との肉体関係を望んでいないと、そう、後ろめたい感情があったから。
そうだ。自分が『したい』と意思表示して、彼の状況次第で許してもらえる。
ずっとそうだった。
一度燃え上がってしまえば、確かにヒカルは快楽に素直になる。
けれど、それにつけ込むのは卑怯だ。
(ならば、散々卑怯な真似をしてきたじゃないか?今更、穢すも何もない)
自分の中で解決できない矛盾。それを小馬鹿にするかのような、ヒカルのこの行為。
爪がカーペットを掻き毟る。背中の筋肉が収縮して床から体を浮かす。
「は、ぁ、くぅ……っ」
歯を食いしばる。ヒカルの口内に出したくない。
不器用な口淫が余計に、熱を煽る。アキラの肉茎をすっぽり包み、舌と口蓋で擦り立てて吸い上げら
れれば、抵抗など無駄に終わる。
「んぅ!んン……ッ!」
出してもなお、ヒカルは解放してくれない。歯磨きのチューブでも絞るかのように、尿道に残ってい
た最後の一滴まで奪っていった。
目尻に滲んだ涙は、生理的なものだけではない。どこか、屈辱的でもあった。
アキラの気持ちなど全く斟酌しない、一方的な行為がそう感じさせた。
だが、それで終わりではなかった。
目の前まで顔を近づけてきたヒカルが、見せつけるように口を開く。白濁と唾液の混ざったものが舌
先から垂れ落ち、アキラの下顎を汚す。
ああ、いやらしい顔だ。凄く、いやらしい。
熱っぽい頭で素直な感想を捻り出してすぐに唇が塞がれる。
独特の臭気と味が互いの口内でかき混ぜられ、飲み込まれ、薄まって消える。
下半身に落ち着く暇など与えてはくれない。いいだろう、そっちがその気なら。
唇を離さず、アキラはくるりと体を入れ替えてヒカルを組み敷いた。
「ふぅ、ん」
ヒカルは待っていたように甘い鼻声を漏らす。
腰骨の辺りから脇腹をそろそろと撫で上げただけで、もともと感度のいい体は悩ましくくねる。
服の上から焦らすようにあちこちを愛撫する。ヒカルもとっくに高まりきっているのが、掌を通して
伝わってくる。
もう少し唇を楽しみたかったが、他にも触れたい場所が沢山ある。
「……脱がして、いい?」
上擦ったアキラの問いかける声に、ヒカルは大きな瞳を欲情に潤ませてこくりと頷く。
この部屋に入った時、暖房はさほど効いていないように思った。でも今は暑い。とても暑い。
脱がせる時の衣擦れにさえ、ヒカルは感じて嬌声を上げた。
トレーナーを頭と腕から忙しなく引き抜くと、何かが視界をすっと横切って落ちた。
見れば、ヒカルの括られた髪が解けている。さっき飛んだのはヘアゴムか、と納得する。
「いつから切ってなかったっけ?」
「そりゃ……去年の春くらいから?」
本因坊戦が始まる前に切ったきりか。体調が悪くて確かに散髪どころではなかっただろう。
それだけではない。九月以降の激動の日々に、髪に気を回す余裕も無かったはずだ。
今も、迂闊に美容室になど行けまい。
「染めたのは、自分で?」

411 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 23:08:12.06 ID:???
「うん、自分で……ねぇ、塔矢、はやく」
媚を含んだ声音でねだられて、落ちるなと言う方が酷だ。
下に着ていたシャツのボタンを外すのももどかしく、アキラは白い喉元にかぶりついた。
「あ、ぁ……」
快楽に酔った喘ぎが、桜色の小さな唇から紡がれる。
びくりと痙攣する体に、もう軽く達したのかと嬉しくなる。
休憩などさせない。さっきのお返しだ。
「塔矢、っ、あぁ、ん、もっ、と」
(……あれ?)
調子が狂う。普通ならここで、快感に逆らうように「イヤ」とか「ダメ」とか言うのに。
「いいの?気持ちいい?」
「ん、いい……だから……もっと」
いや、そもそも。
行為のさなかにアキラを呼んだ事があっただろうか。
ざわ、と、脇腹から背中に擽ったいような甘い感覚が走り抜ける。
脱がせるのが間に合わない。シャツの上から肌を甘噛みし、舐めて唾液塗れにする。
「あっ、あ、それ……イイ、はぁ、っふ」
「こうするの、好き?」
「好き、はぁ、して……っ」
口は強情で、体は正直。それが彼だったのに。
変わってしまったのは、やはり……あの時。自分が打ち砕いてしまったからだろうか。
彼の中にあった聖域は、以前アキラが想像した通りに彼の心そのものだった。
それを踏み躙り、引き裂いて、他者に見せびらかして回った。
「……塔矢?」
ヒカルの頬に、ぽつりぽつりと水滴が落ちる。
それが自分の涙だと気付いたのは、ヒカルの指が目元を拭ってくれたから。
「ヤなら……言ったろ。やめていいよ」
返事の代わりに、乱暴に唇を奪った。
下着ごと、だぶついたジーンズを脱がせる。
脚を抱え上げて開かせ、その奥に隠れて密やかに開くのを待つ蕾を舌で突付くと、嬌声が悲鳴じみた
響きを帯びた。
既に、性器から溢れた蜜で濡れそぼったそこに音を立ててキスをする。
「あ、あ、もう、あ」
降りて来られなくなってしまっているのか。いとも容易く、ヒカルは昇りつめる。
それが無性に悲しかった。
碁に関わる物が何一つない、この部屋で。こんな事をしていて。
欠落していたと思い込んでいた感情が、溢れて止まらない。
彼を棋界に引き戻す気がないなど。自分も意欲を失ったなど。ただの欺瞞だ。
「あっ、あっ、っ、ん、っく」
閉じた入り口を唇で挟んで開かせるように吸うと、喘ぎが啜り泣きに変わる。
「あぁ、おろして、はやく、塔矢はやく」
昇りつめっぱなしが苦しいヒカルが訴えかける。まだだ。まだ楽になどしてやらない。
舌をこじ入れると、肩に掛けた脚がびくびくと跳ねた。
「ひぁ、あ、もう、この上、ない、ないからッ!」
快感が天井に突き当たっている、と、そう泣きながら言う。
「もう降ろしてぇ……ッ!」
完全に悲鳴になっていた。
「進藤、キミから仕掛けたんだ。後悔しても遅いよ」
脚を肩から下ろし、ずり上がって涙に濡れた頬を両手で挟む。
胸を大きく上下させ、ふいごのような呼吸音をさせながら、ヒカルは頷く。
この荒れた胸中を思い知らせるために、無理矢理侵入しようかと考えた。でも、それでは病院での二
の舞いではないか。これ以上、傷を負わせてどうする。
心を壊してしまった彼に。
自分を落ち着かせる意味も込めて、ヒカルの唇に啄むようなキスを何度も与える。
そうしながら、再び張り詰めた陽根をゆっくりとヒカルの柔らかくなった後孔に沈めてゆく。
時間を掛けて体をじわじわと進めたら、周囲の締め付けとは違う感触に先端が擦られた。
何だろう、とヒカルの顔を思わず見た。
その表情の変化は緩やかで、なのに劇的だった。
大きな目は驚いたように一杯に見開かれ、涙が新たに目尻から転がり落ちる。
口の端が徐々に上がり、いつしか微笑みの形になっていた。

412 :◆lRIlmLogGo :2014/11/21(金) 23:09:14.53 ID:???
作中でこれまで一度もやってなかった事、一気に4つ解禁…ふう(賢者
(あ、過去描写はノーカンで)
マジできつかったんだよせっかくのリンカーンの場面で上の口と下の口でふたり相手とか
できなかったんだからっ!(自業自得

残る縛りはあと一つ、これが解放された時には、多分完結でつ

>>408
実に同意であります、サー!

413 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/22(土) 05:21:41.86 ID:???
動こうとするアキラを、ヒカルが止める。
「待って、ちょっとだけ……ちょっとだけ」
目を閉じ、うっとりと内部で脈打つアキラの肉茎を味わっているように見えたので、言われた通りに
待つことにする。
「なんだろ、これ……うまく、言えない。ねぇ、おまえならわかるかな」
アキラは首を振る。
「残念ながら」
どうやら、達したみたいではあったけれど。こんな彼の表情も、内部の状態も、アキラにだって未体
験だったのだ。
ナカはうねるように絡みつき、先端は突き当たりの粘膜に舐られている。
さっきまでヒステリックな嬌声を上げて泣き狂っていたのが嘘のように、彼の感情が凪いでいる。
ヒカルの横に突っ張っていた手を取られ、下腹に導かれる。
「ね、ココに……あるよ、おまえの」
ぐっ、と自分の手ごと下腹が強く押し込まれ、その圧迫感が内部の肉茎にまで伝わってアキラは呻く。
「キモチイイ?塔矢」
「うん。とても」
それを聞いたヒカルが、蕩けるような笑みを浮かべる。
「いいよ。動いて」
少し申し訳ない気持ちになったが、欲望を吐き出したい衝動が遥かに勝った。
抜けるギリギリまで引くと、感電したようにヒカルの体が跳ねて仰け反る。
大丈夫。加減はいらない。そう判断し、一気に突き上げる。
「あぁああ!」
ヒカルの腕がしっかりと背中に絡まってきて、爪を立てた。
こんな事も、こんな当たり前の事ですら。
八年半に及ぶ関係の中で、初めてだった。
彼はこれまで、一度たりとアキラにしがみついたりしなかったのだ。
「塔矢怖い、落ちる、落ちちゃう、あぁ、落ちる……っ!」
「落とさないよ、離さない、だから、っ」
背中を力任せに引っ掻かれる痛みが、痺れに似た甘美な快楽へと変換される。
肉壁が緩急をつけて締め付けてくる。もう吐き出せと促してくる。
その誘いを断るわけがない。アキラは穿つ速度と強さを上げる。
「一緒に……っ、進藤!」
まだ肉付きの戻りきっていない体をきつく抱きしめ、ヒカルの奥深くに放つ。
腕の中で、愛しい恋人は痙攣と硬直を繰り返して、やがて弛緩した。

引き攣れた呼吸が落ち着くいとまもなく、ヒカルは次を求めた。
アキラも一度出したくらいでは治まらなかった。
体位を変え、今度は背後から貫く。
肘と頭を床につけ、伸びた髪を揺らしてヒカルが快感に鳴く。
「はぁ、あッ、塔矢来てッ、出して、ナカに、塔矢ァ!」
あたかも、この八年半のツケを一気に払っているかのようにアキラを何度も呼ぶ。
「オレもう、っ、先、いい?イッて、いいっ?んぁ、ああ、あ!」
「いいよ、何度、でも、ッ」
呼吸もタイミングも合わせる努力はとうに放棄して、お互いてんで勝手に到達しては、また熱を貯め
こむ。それにも限界がある。ヒカルの達き方ならいつまでも続けられようけれど、アキラには無理だ。
何度でもと安請け合いはしたが、そろそろ辛い。
「あッ」
ヒカルが今日初めて、拒絶の色を声に滲ませる。
「塔矢ダメ、それは……っ!」
「終わろう進藤、この方が楽だよ」
「ヤダ、お願いそれは、っ!」
前に回した手で、快感に露を零し続けている性器を緩く握って擦ってやる。嫌がるのは百も承知だが、
こうしないといけないような気がしてならなかった。
「ぁ、あ、気持ち悪……ヤダ塔矢、ヤダよ」
「それは痛かった頃の事だろう?今は違うはずだ、ほら」
一旦、後孔を攻める動きを止めて、前に集中させてやる。
アキラの手の中で、徐々に本来の働きを取り戻してゆく、ヒカルの分身。
「ぅ、あ、ぁあ……」
熱さと硬さを思い出して、快楽の質を違えた涙を零し始めるそこを扱きながらアキラは動きを再開し
た。

414 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/22(土) 05:22:32.07 ID:???
「ダメ、ヤダ、あっ、ああ!ン!んァあ!」
髪を打ち振るってヒカルがよがり狂う。
項に汗で張り付いた、長くなった髪が艶かしい。
まだ、前後で快感の折り合いがつきにくいようだ。時折動きを止めて、前に集中する時間を作ってや
る。様子を見て、また動く。アキラは爆発しそうになる自分自身を必死に宥めながら、ヒカルが快楽
を統合するのを手伝った。
もっと早く、こうするべきだった。
別に不能になってしまったわけでないのは知っていた。やろうと思えば、後ろのスイッチが入る前な
ら前で発散する事は可能だったのだ。
「あァ!塔矢イク、もぉイク、あ、あ!ふぅアァ────!」
後孔がアキラを引き千切らんばかりに締め上げてくる。
それを合図に、穿つ動きを激しくして自分の到達に集中する。
何度目かの欲望の塊をヒカルの奥に叩きつけ、アキラは華奢な背中の上に覆いかぶさって脱力した。
ヒカルを握っていた掌を濡らすものが何か確認し、安堵の息を吐く。
「進藤、ちゃんと両方でイけたよ……どう?楽になるの早くない?」
「はぁ、は、は……」
ヒカルは是とも否とも言わない。ただ肩で息をして、時折啜り泣きめいた声を漏らす。
その体を仰向けにし、裸の胸を合わせて唇を塞ぐ。
どうやって服を脱いだのか、途中から覚えていない。
睫を伏せて目尻から涙をまだ零し、苦しげな息をするヒカルを見て、何かがこみ上げる。
その正体に気付く前に、手がひとりでに動いていた。
「あ、っ」
痛みに、ヒカルが眉を顰める。
アキラが細く長い指を噛む歯に力を込め、切るように横にずらす。
「…………」
ヒカルは、指の付け根に付けられた傷を複雑な表情で眺めた。
左手の、薬指。
「返事なんか……しなくていいよ。答えはもう、わかってる」
鼻の奥がつんとして、自分がまた泣きそうになっているのが情けなくなった。
そう。彼の永遠の相手は、違うのだ。
恐らく、ヒカルがその生を終えるまで変わる事はない。
それなのに、何てみっともない真似をしたんだろう。

※※※

目覚めると、腕の中にいたはずのヒカルが消えていた。
時刻は、午前六時過ぎ。外はまだ暗い。冬至から一ヶ月も過ぎていないのだから、まだまだ日は短い。
軽快な打鍵音に、顔をそちらへと向ける。
「ん?起きたのか。寝てたらそのまま置いてくつもりだったんだけど」
テーブルに置かれたノートPCの横から顔を覗かせたヒカルが声を掛ける。
「……置いてく?外出するのか、こんな時間に?」
マウス操作をしながらヒカルが「うん」と返答する。
HDDのアクセス音が、大きな負荷をかけた何かを走らせている事を知らせる。
「それ、中古品?」
「ああ、うん。社の大学ん時の友達がさ、就職して買い替えたからってお下がり」
「ふふ、キミの趣味じゃないと思った」
そのPCのボディには、アニメキャラらしき少女がプリントされた大きなステッカーが貼られていた。
稼動音が消える。先刻のアクセス音はシャットダウン処理だったのだ。
「外出って、どこへ」
「どこって、東京。おまえ起きたなら、ついでに送ってくぞ」
アキラはがばっと布団から跳ね起きた。腰が怠かったが、取り沙汰している場合ではない。
「何をしに!」
「用事がなきゃ行かねェよ。別に、ついて来てもいいけど?」
まだスキャンダルは鎮火に程遠い。折角、火の粉が飛んできにくい遠方にいるのに、態々どうして。
「送ると言うが、キミが用事で行く場所とボクの家は近いのか」
「おんなじ都内ってくくりなら近いなー」
やけに呑気な言い種に、アキラは額を押さえた。
「なんてな。おまえ電車で行くと思ってんだろ。ばーか、車に決まってんじゃん」
ヒカルは揶揄うように笑った。

415 :◆lRIlmLogGo :2014/11/22(土) 05:25:37.89 ID:???
昼過ぎくらいに新スレ立てようと思うでつ
スレタイ、テンプレは気付いたとこと指摘のあったとこ修正で
用意してまつ

416 :名無しさん@ピンキー:2014/11/22(土) 11:16:47.23 ID:???
次スレ立てますた

○お前ら男ならヒカルたんハアハアだよな?Part70● [転載禁止](c)bbspink.com
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1416622185/

417 :名無しさん@ピンキー:2014/11/22(土) 14:00:59.37 ID:???
ヒカルたんがエロ可愛い…(;´Д`)ハァハァ

418 :名無しさん@ピンキー:2014/11/23(日) 00:03:49.18 ID:???
ヒカルたんがエロいのは世の真理だろ(;´Д`)ハァハァ

419 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/23(日) 00:09:21.91 ID:???
シャワーを浴びる時間くらいはある、とアキラはバスルームへ追い立てられた。
手洗いと共用のユニットバスは窮屈で、仕事で泊まるホテルの設備より狭そうだった。
昨夜は二人共くたくたで、最後に果てた後は布団を用意するのが精一杯。風呂どころではなかった。
ヒカルはかなり早く起きて、アキラが体内に残したものを処理したらしい。
「いや、そんなんじゃなくてさ。ハラ痛くなって起きたら二度寝する時間でもなかったってだけ」
それはそうだろう。あんなに出したのだから。昨夜のヒカルを思い出し、改めてアキラは赤面する。
(……けど、もっと凄い事だって)
そこまで考えて、ぶんぶんと頭を振る。それは禁忌だ。
アキラも、そして勿論ヒカルにとっても、忘却してしまうべき忌まわしい記憶なのだ。
あの映像を頭から流してしまおうとするが如く、シャワーを全開にして浴びる。
出始めの冷水が身を切るようで、邪念を祓うには相応しかった。

外の空気は刺すような鋭さで、コートを着込んでもじんわりと冷気が染みてくる。
七時にもなると低いながらも太陽が顔を覗かせ、朝だと実感させてくれる。
「あれ、その車」
ハイツの駐車場に停めてある車列のうちの一台。
「ハハ、やっぱさ、車高低いのはダメだわ。色々試乗したんだけどさ」
ヒカルが東京に置いてきたSRVの色違いだった。
「あの色、なかったんだ」
「なかったつーか、限定車だもんアレ。四年前の時点で二年落ちでも欲しいって探したくらいなんだ
から、レンタルには回んねェかもだな」
ヒカルの吐く息が白い。うっかり見蕩れてしまい、ボサッとしないで早く乗れとせっつかれる。
アキラは逆に、車高の高い車は苦手だった。緒方や他の門下の人間が乗るものがデフォルトなせいだ
ろうか。乗り込むのにもコツがいる気がして、おっかなびっくりなのをヒカルによく笑われた。
今日もそうだ。シートが高すぎて、乗る時に尻の位置がすんなり決まらないのがどうにも気に食わな
い。案の定、不器用なのを笑われた。
「あんまり笑うと、交代してやらないぞ」
「は?」
「……そんな遠出すると知ってたら、キミの誘いに乗ったりしなかった」
「あー。気にすんな。オレがしたかっただけなんで」
あっけらかんと言われると、どうリアクションをしていいのか迷ってしまう。
言葉のキャッチボールを期待していない風に、ヒカルはエンジンを始動させた。
「お。朝早くて寒いからどうかと思ったけど、案外機嫌いい」
シフトレバーを一速に入れ、サイドブレーキを下ろしてそろそろとクラッチを緩め、ゆっくり車を進
める。
「やっぱりマニュアルなんだな」
「そりゃまあ」
以前聞いた。操縦している感覚がより強くていいのだと。面倒だから好きなのだと。
しくじればギアが噛み合わないのも楽しいと。
車種の選択といい、ホビー気分なのだろうとアキラは思う。
「しくじり過ぎてギアボックス全損で丸ごと交換でも懲りないね」
「うるへェ」
運転席から拳骨が飛んできた。
こんな小さな事で、前のままのヒカルが残っているのが、嬉しくて、悲しい。
「だから。あまり怒らせると交代」
「怖ェことゆーなよ。ペードラに知らない道任せたら大惨事だわ。事故の加害者にはなりたくねェ」
「失礼だな。たまに乗ってる」
「……九十九里での恐怖は忘れてねーぞ」
滅多に合わない休みのスケジュールが合った日。房総へドライブに出かけ、アキラは慣れないSRVで
色々やらかしたのだ。それをヒカルにしつこく根に持たれていた。
「大体この車、レンタルの名義は社だぞ。下手こいて迷惑の上塗りとかできるかよ」
「彼、マメだな」
「アイツも名前出ちゃって動きにくくなってんのにな」
「足を向けて寝れないんじゃないか」
「逆に謝られちゃったけどな。オレ、ケガだってさせたのに」
情報交換と言うにはとりとめのない話をだらだらとするうちに、一般道から高速に入った。
「え、もう県境?」
出発から三十分もしないうちに大阪府との境を示す看板が見え、アキラが気の抜けた声を出す。
「だろ?あの辺は車持ってなきゃデカい駅からタクシー一択。オレも最初の何日かで思い知った」
そんかし、車さえあればそこそこ快適だけどな。ヒカルはそう言って笑った。

420 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/23(日) 00:09:52.96 ID:???
「爪。まだ治らない?」
ステアリングを握るヒカルの右手。その小指の先から第一関節にかけて、テーピングで保護されてい
るのを見たアキラが問う。昨日、聞きそびれたのだった。
「ん?ああ」
「……ごめん」
「謝んなよ。辛気臭いと、こっから蹴り出すぞ」
ラジオからは道路情報が流れている。沈黙の埋め草には無粋だった。
あの日。ヒカルは錯乱し、ベランダから身を投げようとした。
和谷と社の二人がかりで止めたが、骨折に加えて肺炎を患っているとはとても思えない力でヒカルは
彼らの手を逃れようと暴れた。
ベランダに掛かったカーテンフックは引っ張られて殆どが破損し、サッシのガラスはヒカルが叩き割
ってでも外に出ようとしたためにひび割れ、血がこびり付いた。
マンション六階のあの部屋から落ちていたら、確実に命がなかった。
右手の小指には、その際に爪を剥がしてしまった傷がまだ治らず残っているのだ。
それがヒカルの心の傷を象徴するように思えて、アキラは居たたまれなさに俯く。
「深爪みたいになっちゃってるから巻いてるだけで、大したことないよ」
いくら岸本の元とはいえ東京にいるのはやはり辛かろう、と、退院後の彼に身の振り方を提案したの
は社だった。大学時代の友人の伝手を頼り、あの地方都市出身の人間に便宜を図ってもらって、ヒカ
ルの隠れ家は決定した。
家の契約をしたのも社だと聞いている。マンスリー契約なので保証人を立てる必要がなかった。要は
長居できる住居型のホテルだ。
衣服から何から、自分や知人のお古をかき集め、ヒカルが実家から何も持ち出さなくて済むよう配慮
までしてくれた。殆ど身一つで、ヒカルはあの土地へ行ったのだ。
車は名神自動車道に入っていた。
「そーいや、呑んでる途中でおっ始めたんだっけ。朝も食ってねーし、って塔矢おまえ、昨日」
言われてみれば、昨日の朝ちょっとつまんだだけで、それ以降はろくに食べていない。
昼食も抜きだった。
「うわあ、これで運転代わるとか言うんだよこのヒト。SAでなんか買ってちょっと休憩しよう」
サービスエリアのフードコートで食べる方が本当はいいのだが、目敏い誰かに見咎められたら面倒に
違いない。菓子パンとジュースでも無いよりはましだ。
と、思ったら。
「……そうだった。キミはそう言う人だったね」
「買ってきてもらっといて偉そうだな。いらないならオレが全部食う」
ヒカルが買ってきたご当地バーガーとやらを、有り難く押し頂く。
一応、気を利かせたつもりなのか。アキラの分の飲み物はミネラルウォーターだった。
駐車スペースに停めた車内でもそもそと食べながら、情報交換のようなそうでないような会話は続け
られた。
「和谷君はどうしてるか聞いてる?」
「何とか部屋は追ん出されずに済んだっぽい。けどまあ、引っ越し考えてるってさ」
確かに、あれほどの騒ぎの首謀者なのだ。隣や階下、それに近所の目が痛くないはずは無い。
「十四年会は」
「さぁ。そこまでは……おまえ、門下の人から情報入んねーのかよ」
「芦原さん、和谷君から逃げ回ってたらしいから。緒方さんも口が堅いし」
「なんで芦原さんが逃げ回んの」
「まあ……ちょっと、ね」
アキラは明後日の方を向いて空惚ける。幸い、それ以上の追及はされなかった。
「……おまえが来るかも、って知ってた」
「え」
ヒカルが少しぶすくれた表情になって呟く声が耳に入って、アキラは真顔になる。
「社とさ、昨日電話してて。オレの居場所、おまえに教えたっつーから」
「ボクは後先考えないから来るだろうって?」
「かも、つっただろ。確信はなかった。で、落ち着かなくなっちゃって」
「それで?」
何の告白なのだろう。アキラもつられてそわそわする。
「電話終わった後、取り敢えず呑んで寝て考えようとか思ってたら……そこへ来るんだもんな!」
最後は吐き捨てるような語調だった。やはり、来てはいけなかったのか。
「電話の声聞いたらムカつくし、玄関で顔見たら殴りたくなるし。そんで」
ヒカルはそこで言葉を切り、しかめっ面でアキラを見た。ガラス越しの陽射しに、ピアスが煌めく。
「間近で匂いかいだら、めちゃくちゃ欲しくなっちゃうし。もうサイッテー」
理性のぐらつく音がアキラの脳内で雷鳴のように轟いた。

421 :◆lRIlmLogGo :2014/11/23(日) 00:10:27.45 ID:???
どこまでも試される若゛先生であった…
ほんまヒカルたんは魔性やでぇ(;´Д`)ハァハァ
現在大津SA、イスカンd…東京まで後何日だ(俺の筆的な意味で)

>>417-418
エロ可愛いヒカルたんはマジ正義(;´Д`)ハァハァ

422 :名無しさん@ピンキー:2014/11/23(日) 21:09:25.09 ID:???
ヒカルたんにパイズリしてほしい(;´Д`)ハァハァ
ぷっくり膨らんだ苺に俺の愛棒を(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

423 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/24(月) 02:35:02.03 ID:???
「……本気にするよ」
動揺が、声に現れてしまってみっともない事この上ない。
「好きにすりゃいーじゃん」
「どうして昨日、社と話を?」
「今日、東京へ行くからって報告みたいな。一応、世話になってる身だし。在所確認くらいはって」
ヒカルからそう伝えられた社は、前日の夜にアキラに居場所を教えたため行き違いにならないか心配
してくれたのだろう。
「ごめん。さっきのは聞かなかった事にする」
「さっきのって、どれさ」
やけに食い下がってくるので、アキラは逃げ場を探そうと言葉を濁しかける。
「ワリ。ちょっと寝る」
アキラが答えないと見たのか、ヒカルは乱暴にシートのリクライニングを倒し、仰向けになった。
手の中のハンバーガーが半分以上残っているのに気付き、アキラはまたもそりと齧った。
アキラが食べ終えてもまだ、ヒカルは起き上がらない。かと言って眠っているわけでもない。
何か難しい考え事でもしている風情だった。
今日の東京行きは誰に会うにせよ何をするにせよ、ヒカルにとって精神的な負担なのか。
どことなく余裕のなさそうな感じに、悪い時に訪ねてしまったと後悔の念が胸を過る。
「あのさあ」
「何」
「オレ、してる時の声、でかかったよな」
「……うん、まあ……その」
どうして蒸し返すのだろう。もういい加減にして欲しい。
「ぜってー、聞こえてるよな……隣とかに。ヤベェ、あそこ、壁薄いんだよ」
「な」
顔から火が出そうになった。自分も大概だったように思ったからだ。
「おまえん家のつもりになっちゃってた……あーもー、どーしよー」
期待を持たせるような科白は、アキラには苦しいだけだった。
昨日、返事を貰えなかった。しなくていいとも言った。強がりでしかなかった。
いい返事以外は聞きたくないに決まっているくせに。
『キミが欲しいのはボクなんかじゃないだろう?』
喉から出かかっている言葉を、頑張って飲み下す。今、言うべきではない。
ではいつ言えばいい?手に入らないものを想い続けるのはもうやめろ、と。
「進藤、もうよそう。その話は。隣の人も聞き耳を立てるほど暇じゃないさ」
ヒカルは表情を消して体を起こし、シートを元に戻した。
「時間食いすぎた。行かなきゃ」

情緒不安定だったのは大津の辺りだけで、暫くするとヒカルは出発の時のように軽口も叩けるように
なっていた。何度か休憩し、一回給油して、東名高速を快調に飛ばす。
圏央道に入って海老名インターチェンジで一般道に下りたのをアキラが訝しんでいると、都心とは違
う方向に車は進んで行った。
「おい。東京へ行くんじゃないのか?」
「行き先は間違いなく東京都です」
「肝腎な事を訊いてなかった……都内の、どこだ」
「青梅。圏央道が八王子まで開通してたら、もっとラクに行けたのになー」
確かに、今までの道のりに比べれば、アキラの自宅とは近所だろう。曲がりなりにも同じ都内だ。
嘘ではないだけに、余計に不快だった。
「奥多摩の山中とか言われないだけ全然マシでしょ。何だったらどっか駅前で降ろすから、そっから
自力で帰るか?」
アキラは大きく溜息を吐いた。クロスカントリー仕様の車で言われると、冗談に聞こえない。
「……キミの用事に邪魔でないようなら、付き合わせてもらうよ」

青梅市の北部、飯能寄りの民家も疎らな土地に、その一戸建てはあった。
家の大きさ自体はヒカルの実家と大差なかったが、敷地内に数台分は車が置けそうなスペースがあっ
た。停まっているのは古びた軽トラック一台きりだったが。
「ホントだ。いねーや」
「何が」
「オレらでメシ食う連中」
自分達を追うマスコミ取材陣が張り付くに値するような家。と、言うことは。
アキラの全身に緊張感が漲る。自分達の家ではない。和谷でもない。無論、社や岸本でもない。
ヒカルを単独で行かせなくて正解だった。ここは、敵地だ。

424 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/24(月) 02:35:37.05 ID:???
ヒカルは土が剥き出しで雑草も抜かれていない敷地内に車を乗り入れ、適当な場所に停めた。
「進藤、なんで……キミ」
恐らく、自分の顔からは血の気が引いていただろう。まだ車の中だと言うのに寒気がしていた。
「降りるぜ。予定より遅れた」
シートを格納して広く使っている後部スペースから黒のダウンジャケットを取って着込み、ヒカルは
アキラにもコートを着るよう促す。
「目と鼻の先でも寒いのに耐えられるならそれでいーけど」
車を降りると、冷たく乾いた北風が体を叩いた。ヒカルの忠告は正しかった。
まじまじと見ればその家屋は年季が入っていて、碌な手入れもされておらず荒れていた。
ヒカルが来訪を報せようと押したチャイムも、配線が生きているかどうか怪しいものだった。
雨と埃に汚れて掃除もされていない玄関サッシ。磨りガラスの向こうで人影が動き、施錠を開ける音
がした。引き戸が開き、二人を出迎えたのはアキラの想像通りの人物だった。
「おまけ付きとは聞いてなかったですけど」
「ケチくせー事ゆーなって」
少年は眉間と鼻筋に皺を寄せ、踵を返して左手で『上がれ』と言うジェスチャーをした。
家の内部もどことなく荒廃の匂いがしていた。長い間、人の手が入っていない家屋。
おじゃまします、と律儀に頭を下げ、ヒカルは玄関をくぐってダウンジャケットと靴を脱いだ。
アキラは礼儀を尽くす気にはなれず、無言で続いた。
居間と思しき部屋には黒光りする年代物の座敷机が据えられていたが、やはり手入れが行き届いてい
なかった。
「恐怖スポットみてーだな」
「母方の実家なんですけどね。親が相続したっきり放っぽらかしてたからご覧の通りです」
「それでもネット回線はあるんだ、携帯取り上げられてパソコンだけなんだって?」
「食べ物買うのも通販頼りですから。生命線まで取り上げられたら人間の干物いっちょあがり」
恐らくこの少年もヒカル同様、人目を避けてここに隠れているのだろう。しかし。
「おまえにネットなど、殺人鬼に凶器を与えて野に放つのと同じだ」
アキラは口を挟まずにおれなかった。少年は鼻で笑う。
「あんたバカですか。審判中にやらかすほどボクも酔狂じゃないですよ」
「……っ」
アキラは鼻白む。
「お互い、毛髪検査でシロと出て良かったですねえ進藤先生」
もっともボクはあんたと違って検査結果待ってる間の大半が鑑別所だったんですけどね、と少年は嫌
味を付け加えるのを忘れなかった。
少年の覚醒剤所持・使用・流通全ての疑いが晴れると同時に、ヒカルの潔白も証明された。
今ここで対峙しているのは、純粋な加害者と被害者の関係にある二人。
犯した罪に相応しい罰が少年に下される可能性は極めて低かった。
未成年である事に加え、普段の言動と犯行との落差や供述内容を鑑み、検察への逆送は精神疾患の有
無が争点となって現実には難しいと識者は口を揃えた。要するに、起訴は絶望的。
(やり得じゃないか)
最初に岸本からその見込みを聞いたアキラは憤り、怒鳴り散らした。
(承知の上だったんだ、計算してたんだ、卑劣漢が)
自分が万が一罪に問われる事態となっても逃れられる。そう見積もっていたのだ。
覚醒剤の存在を匂わせても、実際に扱った事実がなければ大丈夫。
オカルトじみた供述をしても、虚偽ではないから問題ない。被害者であるヒカルの供述と摺り合わせ
てみればいい。双方示し合わせた狂言説を取れば動機がますます霧の中と言う訳だ。悪質過ぎる。
(そうやって、最後まで進藤を盾にする!)
「で?今度は外見まで成りすますおつもりで?」
自分の耳を人差し指で突付く少年に、アキラは息を呑んだ。隣に座るヒカルを見る。
伸びた髪の間から見え隠れする、赤い石のピアス。
「髪も伸ばして全部黒に染めて?もうさ、死んでも救われないねあんた」
肩に付きそうな柔らかい髪は、今日は解かれたままだった。
ああ、そういう姿なのか。キミが全てを捧げた存在は。
胸が潰れそうに苦しかった。なら昨日、ああもアキラを求めたのは何だったのか。
欲しくて堪らなくなったとは何だったのか。
表情に出してしまっていたらしい。少年は見逃してくれなかった。
「そのくせ、そっちの人は手放さない。いい根性してるなァ、『一発ヤって来ました』って堂々と痕
つけて来るなんて。今ボク、吐き気堪えるのに必死ですよ」
ヒカルの喉元に紅くはっきりと残っている、アキラの歯形。歯を食い込ませた肌の感触が生々しく思
い起こされる。
アキラはこの場から逃げ出したかった。

425 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/24(月) 02:36:08.26 ID:???
「吐き気だけで済んだなら、耐性ついてよかったじゃん?アイツに泣かれんのはホント迷惑だよなァ」
ヒカルの声がからっと明るいので、アキラだけでなく少年も拍子抜けしたようだった。
「でさ。前もって聞いてたはいいけど、なんで取材の連中いないの」
「…………」
鳩が豆鉄砲を食ったとは、こんな顔を言うのか。少年を見たアキラの正直な感想だった。
「……詳しくは知らないけど、町内会からクレームついたんだとか」
「そんなんで簡単に?」
「だからよく知らないって言ってんでしょうが」
苛ついた声に、アキラはこの二人の力関係が崩れかけているのを察した。
「そんな話、しに来たんじゃないですよね」
きつい口調もどこ吹く風で、ヒカルは自分のリュックから一枚の紙を出して、卓上を滑らせるように
少年に差し出した。その紙にアキラは見覚えがあった。
「夏休みの宿題が冬休み終了後になっちまったけど、不可抗力だからな。反故にすんのはナシだぜ」
「また、中押し負けがひとつ増えるだけでしょ。無駄ですよ」
「ハハ、やってみなきゃわかるかよ」
碁盤も碁笥もなかったヒカルの隠れ家。碁の匂いのするものは一切排除されていた狭い空間。
捨ててしまったのではなかったのか?
「進藤、それって」
「ああちょーどいいや。塔矢おまえ立会な。元三冠だ、資格は充分だろ」
「タイトル戦のつもりでってか?調子くれてんじゃねーよエセ本因坊」
「おまえがな。昇段もおぼつかねー二段如きが虎の威を借るのも大概にしやがれってんだ」
顔つきが違う。この数ヶ月間の、生気を失ったヒカルではない。
対局で見慣れた、切羽詰まった表情でもない。
好戦的な、なのに楽しげに輝く瞳が綺麗で。どうして自分が対局相手ではないのだろうと恨めしさす
ら感じてしまう。
彼を捉えて離さない師の存在が妬ましくて堪らない。
負の感情をどうにか抑えつけ、アキラは二人の間に位置するよう移動した。
立会だと言われたが、何もする事などない。ただ、対局の行方を見守るだけだ。
少年は傍らに予め用意していた折り畳みの碁盤を広げ、碁笥を出す。
「安心してよ。あんたのケツにぶちこんで遊んだ石とは別のだから」
安い挑発にも、ヒカルは動じない。代わりにアキラが怒りと不快感で胃を捩じ切られそうになる。
先番、黒はヒカルだった。
その初手を見てアキラは思わず声を上げそうになり、慌てて口を押さえた。

『型無し』と『型破り』は同じように見えて違う。
前者はただ野放図なだけで中身などなく、後者には型に嵌められる事によって培われた理論や技術の
確かな裏打ちが存在する。
ヒカルの打つ手はどれもこれも悪手にしか見えず、ただ好きな場所に気紛れに石を置く子供の遊びの
ようだった。プロでなくとも『やる気があるのか』と一喝したくなる盤面の推移。
一見、稚拙極まりない打ち方に潜むその真価を、アキラは目の当たりにする。
(推測はしていた……けれど、これは。ここまで奔放だとは)
定石もへったくれもなさそうな碁に、相手が苦慮しているのが判る。
父を終局まで打たせず、一ヶ月半前に自分を二目半の差で下した打ち手が明らかに押されている。
十年近くもヒカルを縛り付けていた師の碁と言う名の枷は、ただ枷であるだけではなかった。
雁字搦めにされたその中で、ヒカル本来の持ち味は本人も無自覚なまま磨き抜かれてきたのだ。
型を知り尽くし、それを破る。師を知り尽くし、それを超克せんとする。
どれほどの研鑽が、どれほどの苦悩が。この碁の中に詰まっているのだろう。それを思うと気が遠く
なる。自分のやってきた事など足元にも及ばないように感じられた。
(違う。ならば、それ以上をボクは己に課すだけだ)
アキラは眦を決する。
少年が、否、その体に宿る存在が長考する頻度が増えた。迂闊に踏み込めば罠が待っている。守れば
即座に斬り込んでくる。気が付けば、子供の遊びは巧妙な仕掛けに変化している。
対局が進行するにつれ、アキラは少年に違和感を覚えていた。
頭痛で鎮痛剤を手放せないはずの彼が、アキラ達が来てから一度も服薬していない。
やはり詐病だったのだろうか?だとしたら大した役者だ。
ふう、とヒカルがひとつ息を吐き、天井を仰ぐ。
それが合図のように、少年が頭を下げた。
「ありません」
顔を仰のかせたまま目を閉じて、ヒカルは薄く笑った。

426 :◆lRIlmLogGo :2014/11/24(月) 02:36:44.07 ID:???
平成23年1月時点で、圏央道開通してんのは海老名ICまでだったんだね…
でもって、ヒカルたんがスーパー○イヤ人化しますた
ベ○ータ、じゃねーや若゛先生頑張れ超頑張れ

明日で完結するかもしれない、しないかもしれない

>>422
阻止してくれるわ!ヒカルたんこっちおいで(;´Д`)ハァハァ

427 :名無しさん@ピンキー:2014/11/24(月) 23:54:02.02 ID:???
とうとう完結wktk
ここまで怒涛の投下本当にありがとう!

428 :名無しさん@ピンキー:2014/11/25(火) 01:26:11.12 ID:???
完結支援

429 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 04:47:38.86 ID:???
「……はー、あっぶねぇ……やっぱ実戦足りてねー分、アラが目立つな」
「やっぱ、あんただったか。年明け早々あちこちのネット碁サイト荒らしまわって相手フルボッコに
しまくってた迷惑なヤツ。棋風が完全に別人だから某所じゃ意見がしっちゃかめっちゃかだったけど」
「案外バレねーモンなのな、倉田さんも見事にひっかかってやんの」
くくっ、とヒカルは喉で笑う。
「アカ名全部違うのにしたのは身バレ対策?あんたにしちゃ上出来じゃん」
「まぁね」
「にしてもご苦労さんだね。今日も明け方に地球の裏側とやってたらしいし」
アキラが目を覚ました時、PCに向かっていたヒカル。
(あれは、この対局の最終シミュレートだったのか?)
変えた棋風で実戦が足りないなら、一局でも多く打って頭と勘を慣らしておきたい。
それは充分理解できる。
しかし、アキラには疑問が残っていた。不安も拭い去れなかった。
「……なら、どうしてキミの部屋には碁盤がなかった?」
アキラは恐る恐る訊ねる。不安が的中した時の悲しさを堪える準備をして。
「碁盤使うと、前の碁に引きずられるんだよ。つかあるよ。しまってただけで」
ヒカルはごそごそとリュックの中を探ると、薄い折り畳みのマグネット碁盤を出してアキラの眼前に
差し出した。年季が入って使い込まれているのが判る。
「組み立ては頭の中で。試すのはネットで。結局このやり方が一番合ってた」
全部、先回りし過ぎた自分の取り越し苦労だったのか。
体から力が抜けていきそうになるのを、アキラはどうにか辛抱した。
「流石、腐っても師匠は師匠か。幽霊、一発で看破してましたよ」
「あちゃぁ。見せんなよ、本邦初公開のつもりが台無しじゃん」
本気で残念がってはいないのは、言葉と裏腹な笑顔から読み取れた。
「くっそ、それで順応早かったのかよ。奇襲で一気に持ってこうって目論んでたのに」
「……で?師匠に勝ったその碁を引っ提げて、復帰できるとかおめでたい事考えて」
「そんなんどーでもいい」
アキラが血相を変えて腰を浮かせ、ヒカルに向き直る。
「どこにいたって、何してたって、碁が打てないわけじゃないから」
迷いの無い、力強さに満ちた言葉だった。
「ゴメンな。オレが弱いせいで、ツラい思いさせちゃったな」
「はぁ?」
少年が怪訝そうにするのを無視するように、ヒカルは続ける。
「おまえさ。最後にオレと打ってる最中に消えたよな……もし、別れの挨拶とかしてたんだったら申
し訳ない。居眠りぶっこいて聞いてなかった」
少年に向けて語っていない事を、当の少年も悟ったようで口を噤む。
「オレの後悔は、おまえがいなくなった事なんかじゃなくて。多分、それを聞いてやれなかった事に
対してだったんだよ」
アキラも、ただ耳を傾けているしかない。第三者が水を差していい場面ではなかった。
「それを勘違いして、勝手に苦しんで、随分遠回りした。コイツにも痛い思いさせちまった」
少年が顔を歪める。おまえからの同情はごめんだ、と言いたげだった。
「あんな打ち方したけど、おまえの碁を否定したかったわけじゃない。完全に捨てたわけでもない」
目の前の人物を透かした向こう側にいる存在に、ヒカルは語り続ける。
「おまえはおまえだし、オレはオレでしかない。そんな単純な話だったんだよな」
その表情は穏やかで、なのにどこか寂寥感も漂うものだった。
「新しい碁がオレん中で固まって、引きずられなくなったら。また、おまえの遺産を有効活用させて
もらうよ。それくらいはいいよな?」
もう、師と自分を混同したりしない。己を保ち、正しい道に戻る。決意の宣言だった。
「だからもう、オレのことはいいよ。コイツとうまくやってくれ。オレに教えてくれたように、コイ
ツに教えてやってくれ」
(そうか……キミは、今日)
師弟の一局は、これで最後。そのつもりでヒカルは来たのだ。
「なあ。コレ、覚えてるか?おまえがうるせーから、外での空き時間に相手してやる用に買ったヤツ」
ヒカルが少年に向けたのは、先刻アキラに見せた玩具のような碁盤だった。
思い出を全て切り捨てるのは、弱さの証。故に捨てたりはしない。その意思を象徴する物。
「ほんっと、ワガママで、ガキみてーで、しょっちゅうケンカして。退屈するヒマもなかった」
すう、と、ヒカルは息を吸い込み、一旦言葉を切って。そして告げた。
「二年と四ヶ月。楽しかったよ……ありがとう、『佐為』」
さよなら、と最後にヒカルは付け加えた。
涙はなかった。

430 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 04:48:26.16 ID:???
***

少年には、歓迎し得ない客人を見送る義理などなかった。
したい事をし、言いたい事を言って辞去する二人を、碁盤の前に座ったまま目で追いもしなかった。
泣き声と、それに伴う頭痛は、昨年鑑別所で過ごしていたある日の朝唐突に消え失せた。
もう、棋院会館の資料室に眠るあの棋譜に涙の染みなど残ってはいまい。
そして今日。
「ボクには挨拶なしだってか。つくづくナメてやがる」
二番目の子供の最後の頼みは、永遠に叶う事能わずとなった。
自分以外の気配が全く感じられなくなった寒々しい空間で、少年はひとつくしゃみをした。
「マジで人生クラッシャーだな、あの幽霊。あの世で会ったら覚えてやがれ」
棋院からは既に、除籍処分の通知が届いている。
ただ、頭痛と騒音から解放された以上、元の土俵に戻れば食うには困らない。
民事で損害賠償請求の訴えを起こされるのはほぼ確実だが、それは親が被る事で自分ではない。
「ま、ハタチになってロックオンされたらどっか高飛びでもするさ」
それまでに資金をプールする必要がある。
今、手っ取り早く利益が出せるのはどの通貨か。まずはそこからだ。


外は満天の星空だった。地面から冷気が足元を這い登って来て、アキラはコートの前をかき合わせた。
日付が変わろうとしている時刻。ヒカルはこのままトンボ帰りするつもりだろうか。
「うーさむ。乗れよ、おまえん家まで送るぜ」
ロック解除の電子音がして、車のドアが開けられる状態になった事を伝える。
「……碌に寝てない人に命を握られてたなんて、ぞっとしないな」
「おまえにハンドル握られんのはもっとやべェから」
車内にいても、吐く息が白くなる。エアコンがしゃかりきに働く音が響く。
「服。宅配でいい?」
昨夜の行為で、アキラの着ていた服も下着も互いの体液で汚れてしまっていた。
ヒカルの手持ちが社経由の複数の人間のお下がりだったため、その中からどうにか着られるサイズの
ものを替えにさせてもらっていた。
「別にいいよ、返さなくて」
「そう」
ヒカルはセルモーターを回そうともしない。訝しんだアキラが運転席を向くと、俯いて両手の指をく
るくる遊ばせている。
「どうした」
「おまえ……ぜってーヘンな事考えてるだろうから、念のためだけど」
「変?」
「切るヒマも精神的ヨユーも、なかったんだよ」
伸びた髪を摘んで、ヒカルは落ち着きなく弁明を始めた。
「でもって、地毛のままでいたらせっかく隠れてんのにバレちゃうじゃん。前に言われたことあんだ
よ、おまえの前髪はドッグタグと一緒だって。コンビニにも行けねーのは困る」
そうだった。最初、そう納得していたはずだったのに。
成りすますなどと、あの少年の言にまんまと乗せられた。
「あとさ、おまえが想像してるっぽいことなんて、なかったから」
「何の話だ」
「時代が時代だったら、その、ん、可愛いからそのテの店にいたら買うみたいなことは冗談ノリで言
われたけど……それだけだ」
照れくさそうに自分を「可愛い」と言う、その様が可愛い事に気付いていないのか。
「いなくなって六年も経ってから冗談じゃなかったって、そんなん知るかよ」
「それも、ヤツの騙りだよ」
そう宥めながら、アキラは心にもない、と内心で唾棄した。
あれほど、彼の師に対する嫉妬の感情で身の内を焦がしていたくせに、どの口が言う。
だから、つい、転がり出てしまう。
「なら、そのピアスは?」
「……それくらいは、許してよ」
逆だ。一番許せない。
アキラが愛し貪った体の一部を断りなく貫通して犯し、その存在を刻み込むようなものなど。
「ごめん。ホントは違う」
煮えたぎった怒りをぶつけられそうになったのを感じ取ったのか、ヒカルはバツの悪い顔をして謝っ
た。

431 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 04:49:05.45 ID:???
「じゃあ何だ」
「ケジメ、区切り?みたいなもんかな。うまく言えない」
ヒカル自身が説明できないものに、アキラがぐだぐだ曲解して文句を言っても始まらない。
「……まだ、何かあるのか」
珊瑚の唇を小さく開きかけては閉じる、挙動不審な様にアキラは問う。
それに返答を寄越さず、ヒカルは一旦後部に置いたリュックを引っ張ってきて中身を漁った。
取り出したのは、黒いダイバーズウォッチ。いつだかの誕生日にアキラが贈ったもの。
細い手首には厳つくて似合わなかったが、ヒカルは愛用してくれていた。
それを今、左手に嵌める事に何か意味があるのだろうか。
「ゴメン。手荒に扱っちゃって、傷だらけだろ」
言われて、車内灯の僅かな光を頼りに確認する。本体にも盤面のガラスにも細かい傷が幾つもついて
いた。理由はあったのだろうが、訊いてもいいものか迷う。
「キミが何を言いたいのか、さっぱりわからない」
ヒカルは車に乗った時から、アキラと目を合わそうとしていなかった。
「……約束なんて、できないよ」
アキラの呼吸が止まった。
いい返事以外は聞きたくない、と行きの道中でも思ったのに。別れ際に、こんな置き土産を残してい
くのかと恨めしくなった。それにちゃんと、意味も理解しているのがまた堪えた。
何故なら、アキラに左手の甲を向けたから。薬指の傷が見えるように。
「どうしてなのか、教えてもらえるのかな」
自然、口調が厳しくなった。ヒカルは相変わらずアキラを見ないまま、ぽつりと零した。
「永遠なんて、オレには無理」
やはり、まだ心を残しているんじゃないか。ピアスがけじめなんて、嘘じゃないか。
そう捲し立てたい衝動が湧き上がる。
「今日、見ただろ?オレは移り気なんだよ、自信なんかないよ」
シートに土がつくのも構わず、ヒカルは膝を立ててそこに顔を埋めた。
「オレん中で永遠だと思ってたヤツに、一方的にさよならしてきた。こんなんで約束なんか」
まただ。また、勝手に先回りして、結局は間違えている。
アキラは自分が矮小に思えて仕方がなかった。
「そうだね。浮気なんかしたら許せないし、本気だったら相手ともども殺しに行くかもね」
「おまえの性格はわかってる。だから永遠なんて誓えない」
誠実であろうとするが故の拒絶。それが愛しくて堪らず、アキラは助手席から身を乗り出した。
「行きの道中で、何度も言おうとした。けどオレ、言えなかったんだ」
柔らかな髪を指で梳き、口付ける。耳殻を舌でそっと撫でると、肩がぴくりと揺れた。
「途中で機嫌が悪くなってたのは、そのせい?」
小さな頭が、肯定の意味を含んで動く。
「対局前で緊張してたんじゃないんだ?」
覆いかぶさろうとしたら、シフトレバーとサイドブレーキが邪魔をした。構わず、強引に体を寄せる。
「じゃあ……もう九年近くもお預けになってる方の返事だけでいいよ」
蚊の鳴くような声は、アキラの耳にはっきり意味をなす言葉として届いた。けれど、利子の取り立て
くらいはしてもいいだろうと思った。
「小さくて聞こえない」
ばっと顔を上げて、ヒカルが耳まで真っ赤にしながらアキラの方を初めて向いた。
「好きじゃなきゃ欲しいとか言わねーよ!」
もうここで、裸に剥いてしまいたかった。どこの家の敷地だろうが知ったことか。
ぐっと押し留め、抱えた膝ごと細い体を抱きしめる。
「……送ってったら、次いつ会えるかわかんない。帰したくない」
「このまま攫って行ってよ」
「謹慎が、また延びるぞ」
「いいよ。どの道、キミの処遇次第で先の事を決めようと思ってた」
ヒカルはその選択を咎めなかった。繊細な造りの掌がアキラの頬を包み、唇が寄せられる。
触れる寸前で止められ、少年に見られでもしていたのかとアキラは警戒したが、見当違いだった。
右手が頬を離れ、アキラの左手を掴む。薬指に当たる歯の感触に、背筋がぞくりとした。
噛む力はそう強くもなく、傷を作るには至らない。それでも充分だった。
「短いスパンで更新してくカンジなら……ダメ、かな」
更新に更新を重ねて、結果が永遠になるなら。
「それでいいよ」
熱い吐息とともに囁き、アキラは唇を重ねた。

432 :泥中の蓮 ◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 04:49:36.99 ID:???
この一ヶ月半余りでヒカルがどうやって自分の心を修復し、改めて碁に向き合えるまでになったのか
推し量る術をアキラは持たない。
事態がもっと落ち着いて、醜聞が風化するまで聞き出すのはやめておこうと決めた。
恐らく、今は薄いかさぶただけで傷が塞がっている危うい状態だろう。それを剥がし、また出血を強
いるには忍びない。
(キミは転んでも誰かに助けを求めない。ぶつけた痛みに泣いても、差し出した人の手を振り払う)
そして、血を流しながら立ち上がる。十年前がそうだったように。
一人で傷つき、一人で立ち直る。ヒカルは自己解決型の人間なのだ。彼の母親も言っていた。
あの生中継が彼にどんな作用を及ぼしたのかは判らない。間違いなく立ち直りを促進する働きはした
のだろうが、そこはヒカル本人でなくては評価など出来ないだろう。
「塔矢?そろそろ離れてくんないと、車出せない」
「ああ、済まない」
名残を惜しむようにして、アキラは体をゆっくり離した。
ニュートラルを確認し、エンジンを始動させようとしたヒカルに、ふと思いついて声を掛ける。

「ねえ、進藤」
「……なに」
「二千年前の大賀蓮の話なんだけど。種が眠ってた泥炭層のそばにね、丸木舟もあったんだよ」
「ふぅん。それで?」
「それがね、蓮の種よりさらに千年古いカヤの木だったんだ」
あの悲惨な陵辱を思い出させたくはなかったが、それ以上に、蓮の喩えを負の記憶としてヒカルに残
しておきたくない気持ちの方が強かった。
「千年……」
「カヤと言えば、ボクらが即座に連想するのは」
「────────ぁ」
ヒカルの目から、ぽろりと雫が落ちた。
「徒花なんかじゃない。キミは、咲くべくして咲いた花だ。大賀の蓮も、現代に生きる沢山の人に愛
されてる……だから」
全てを必然として受け容れて欲しいとアキラは願った。

車が動き出すまで、更に暫くの時間が必要だった。

<了>


備考:でいちゅうのはちす【泥中の蓮】

〔「維摩経」の「譬如下高原陸地不レ生二蓮華一,卑湿淤泥乃生中此華上」などによる語〕
真理・悟りなどが煩悩(ぼんのう)に汚染されないことのたとえ。転じて,汚れた環境にあっても清らかなもののたとえ。泥の蓮。汚中の清。

<大辞林 第三版より>

433 :◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 04:50:12.31 ID:???
完結しますた
作中やってなかった事のラス1もクリアしますた
最終パートは駆け足になってしまったでつが、あんま引っ張るのもよくねーしな

納期から逃避するために書き始めたこの話、延びに延びて
気が付けば仕事そっちのけになっていたとゆー…
俺のヒカルたん(;´Д`)ハァハァな煩悩、書きに書いたり一万行超え
途中でスイッチバックしたり視点がコロコロ変わってアレだったり、
誤字脱字、文の受け方があやすぃ、馬から落馬、などなど俺の実力不足が
見事に露呈したブツになりますた
最初の方は忙しかったのもあって、まともな下調べもできてなかったっちゅー…あああ

一番堪えたのは、地の文から滲み出る俺の教養のなさっぷり…急所えぐられますた

仕事にフィードバックするつもりでここ暫く専念してたでつが、欠点がモロ出しに
なったってトコだけは良かったと…(´;ω;`)ウッ…

構成上、どうしても出さないといけなかった例のアカン子でつが、
・存在感なくすよう名前を決めない
・最初から最後までゲスを貫く
この二点は守りぬいたのに…出しゃばりすぎたなーと反省しきりでつ
なんかこう、着想自体が「良い子の諸君!よく頭のおかしいライターや
クリエイター気取りのバカが「誰もやらなかった事に挑戦する」とほざくが(ry」
…orz

それでさー、あるんでつよ、バッサバッサ切ったネタが
それもエロ系ばっかし
・トーマスがヒカルたん食い損ねた話
・若゛との15歳編、ヒカルたんどーしてポークビッツでイけなくなっちゃったのか
・門脇さんの公開セクハラ編
他にもあるけど番外として書けそうなのはこのくらいでつ、書くかどうかは未定だけど
(あと…申し訳ないでつ、後日談がありまつ…大半エロなんで許してつかあさい)

長らくスレを占領して済まなんだでつ
読んでくれたメイツ、本当にありがとうありがとう

あと支援レスもありがとう超感謝でつ

434 :◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 10:55:10.26 ID:???
そして最後の最後までやらかすのが俺クオリティ
生放送10月下旬→ラスト1月中旬
ど う 計 算 す れ ば 一 ヶ 月 半 に な る の か
少年事件の審判のタイムスケジュール的に矛盾出そうじゃまいか

小学校低学年の算数からやり直すレベルorz

435 ::2014/11/25(火) 10:57:54.66 ID:???
あと、俺から俺への教訓
「ギミックに凝り過ぎると、自ら墓穴を掘りませんか」(某歯磨きCM調で)

436 :名無しさん@ピンキー:2014/11/25(火) 15:26:06.39 ID:???
盆たんお疲れ様!
最終的にヒカルたんが幸せになってくれて嬉しい限りだぜ!
後日談も楽しみにしてまつ

437 ::2014/11/25(火) 20:38:18.06 ID:???
>>436
ありがとうでつ
わかりにくい話な上にpink板でエロない時は徹底的にないとか
メイツのヒカルたん(;´Д`)ハァハァ供給の役に立たん妄想ですたが
喜んで頂けたなら幸いでつ

さて。シメを台無しにするお題をひとつ
問:完結後の道中、ヒカルたんどこまでガマンできるでしょうか
1.ヒカルたんちに着くまで
2.関西圏に入ったら緊張の糸が切れてラブホのネオンに誘われる
3.名古屋あたりでもう無理、ラブホのネオンに誘われる
4.静岡脱出がなかなかできなくてラブホのネオ(ry
5.その他

438 :名無しさん@ピンキー:2014/11/25(火) 20:40:37.25 ID:???
5の車が動き出すまでの間に一発でここは一つ

439 :5.車が動き出すまでの間に一発 ◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 23:48:36.51 ID:???
少年は立ち上がり、おもむろに千枚通しとギザ十を両手に玄関に向かった。
「ひとんちの庭でナニやらかしてくれとんじゃ、おのれら発情期の猫か」
猫でも真冬になんぞサカらんわボンタレが、と呪詛を吐き出すその顔は般若であった。
「何が悲しゅうてクソ長い話で名無しの悪役やらんといかんのだ、おまけに救済措置ナッシングだと
ざっけんなタコが、ヒカルたん(;´Д`)ハァハァできたらノーギャラでいいお!とか釣られた結果がコ
レだよ!」
その頬を滂沱と流れるのは、まさに血涙であった。
名無しの少年、改めメイツAはギザ十を握りしめる。
「私も助太刀します」
「あー師匠乙ー。脚本とはいえ数々の失礼、なんかスンマセンね」
佐為もメイツAと似たような形相で得物を抱えていた。
「あなた、途中からノリノリだったじゃないですか…結構楽しんでたの知ってますよ」
「楽しみでもしなきゃやってられっか!…って師匠、ちょ、それ」
(こいつヤベー、何て、何て恐ろしい兵器を…っ)
「ニャーン」
そう。冬場における対自動車グロ兵器。ボンネットに仕込む気か、えげつない、何てえげつない!
「私は認めませんからね、ええ、エロガッパなんて断じて認めませんよ」
「そんなお父さんみたいな」
「冗談こかないで下さい、誰がお父さんですって?私はね、もっとずっと前にツバつけてたんです。
それを横から掻っ攫うとか到底許せぬ所業です!私は特等席で(;´Д`)ハァハァしてたんです、筋金入
りのメイツ、ゴールドメイツ、それが私!なのにっ!」
グロ兵器(猫)をぶんぶん振り回しながらゴールドメイツ佐為は地団駄を踏んだ。
「いや、そもそもあんたが目を離すからヒカルたんがエロガッパに走ったんじゃ」
自業自得、と言いかけるメイツAを、ゴールドメイツ佐為がギッ!と睨みつける。
「参りましょう。(;´Д`)ハァハァできなかった者に見せつけるような真似をした不届き者に、今こそ
思い知らせるのです」
メイツAは頷き、千枚通しの先端が鋭利である事を確認した。

「……あれ」
取り敢えずスッキリして、改めて車を出そうとしたヒカルが異変に気付いた。
「どうした進藤」
いやー食った食った、とツヤッツヤした顔でアキラが問う。
「なんか、変な音がして止まっちゃった……んー?焦げ臭くね?」
「言われてみれば……」
「ヤだなあ、これから長丁場なのにJAF呼ぶのはカンベンだぜ」
愚痴りながら様子を見に降りたヒカルの「うわ!」と言う声に、助手席から身を乗り出してアキラは
何事かと訊いた。
「全部パンクしてやがる、スペアまで!ってボディー引っ掻かれてる!」
「ヤツか!(;´Д`)ハァハァできなかった腹いせに実力行使に出たか」
「まさか、ボンネット……ぅ」
異臭の出処であるボンネットを開けたヒカルが、夜空をつんざく悲鳴を上げた。
「ぎゃああああああああああああ!」
そこには、ベルトに絡まって原型を失った(以下自主規制

メイツAとゴールドメイツのその後の消息を、知る者は誰もいない。

(※他人様んちの庭でサカってはいけません
  ぬこを粗末にしてはいけません)

440 : ◆lRIlmLogGo :2014/11/25(火) 23:59:35.12 ID:???
アカン、あそこでおっ始めるのはアカンwwwww
バッドエンド一直線じゃないすかwwww

てなわけでこんなルートですた

441 :名無しさん@ピンキー:2014/11/26(水) 03:15:22.41 ID:???
ぬこ……

442 :名無しさん@ピンキー:2014/11/26(水) 03:16:35.44 ID:???
こうなったら1のヒカルたんハウスで!
ぬこは犠牲にしてはいけん

443 :1.ヒカルたんちに着くまで:2014/11/27(木) 23:08:21.50 ID:???
寝不足に加えて、緊張感が解けてしまったのが大きな要因なのだろう。
怖くてアキラにステアリングを握らせたくないのは本心だったが、ヒカル自身も急速に襲いかかって
来た睡魔と格闘する為に色々な悪足掻きをせねばならなかった。
圏央道に入る前にカフェイン入りの刺激が強いガムをボトルで買い、クチャクチャ噛む音が不快だと
文句を垂れるアキラに対しては無視を決め込んだ。
東名高速に乗ってすぐに、ヒカルはこの時間帯に寝ぼけながら走るリスクに気付いた。
「うわあ……」
大型夜間バス、タンクローリー、トランポ。深夜帯はこれら危険なデカブツが群れをなすのだ。
更に加えて、一般車も運転が荒いのが気のせいか多い。
ふと、隣から小言が聞こえてこなくなったので横目で伺うと。
「これはこれで……ハラ立つな」
規則正しい縦揺れで気持ち良くなってしまったらしいアキラが、サイドウィンドウに頭を凭せ掛けて
眠っていた。
見てしまえば、つられてしまう。到着は遅くなるが小まめに仮眠を取るのが得策だとプランを変更す
る。入る予定のなかったパーキングエリアに侵入し、息をつく。
「…………」
運転席から身を乗り出し、眠っているアキラの首を抱き寄せる。
「あー、ヤベ。触るんじゃなかった」
こんなに眠いのに。肌の匂いで出発前に一旦は治めた体の熱が対流し始める。
「……ここでする?」
「起きたのかよ。しねーよバカ、帰れなくなるわ、んん、ふ」
顔を引き寄せられての煽られるようなキスに、理性が流されそうになる。
後部には殆ど何も置いていないし、フラットな状態だ。できない事も……と言う考えがちらりと頭を
過り、慌てて打ち消す。
「やめ、コノ……っ」
首筋に顔を埋めて匂いを嗅いでくるだけでも腰に来るのに、舐められてしまったら、もう。
「眠気、飛んだ?」
覿面でしたよ、ええ。でも別の意味で集中力削がれて泣きそうです。
ヒカルはそう答えて、アキラに手刀を見舞った。

その後も休憩の度に質の悪いちょっかいを出し、車が動いている間は助手席で呑気に眠るアキラに軽
い殺意すら抱きつつもヒカルはどうにか朝まで持ち堪えた。が。
「あああもうヤダ、よりによって一番アウトなタイミングかよ」
ヒカルはハンドルに突っ伏して嘆いた。
大阪でラッシュに捕まった。混んでいなければあと二時間ほどで着く距離。
「だから代わろうって」
「しつっけェ!インターとかで逆走されたくねーんだよ前科持ち!」
カリカリ来ていたせいで、つい苛立ちをぶつけてしまう。
流石にこれにはアキラもむっとしたらしい。
「キミだって安全運転を遵守するような人じゃないじゃないか」
「人聞き悪ィな、一停無視の一回しかキップ切られたことねェよ!」
「現に今、睡眠不足で危険じゃないか」
口喧嘩が間を持たせてくれたお陰で、渋滞をどうにか寝ないで抜ける事ができた。
精神衛生には甚だ悪かったが。

そんなこんなで、強行軍での帰路は波乱含みではあったものの無事到着と相成った。
帰ったら朝食を……と思っていたのに、敷きっぱなしの布団が目に入った途端、抑え込んでいた睡魔
が解き放たれた。
布団にばったりと倒れこんだ次の瞬間、ヒカルの意識は泥のような眠りへと引きずり込まれた。

それでも、体は欲しがっていたようだった。
夢ともつかない夢の中で、感じる場所への愛撫と、熱の塊を持つ内部への強い刺激に喘ぐほどに。
(はあ……ぁ、塔矢、あっ)
靴の上から虫刺されを掻くが如く、与えられる快楽がもどかしいのは夢だからだろうか。
(ん、ぁ、もっと強く、あ)
悶えようにも体が動かなくて、欲しい所に自分で導けないのが辛い。
(ああ)
「!」
目覚めれば、もう陽が傾き始める時刻になっていた。

444 :1.ヒカルたんちに着くまで:2014/11/27(木) 23:09:00.81 ID:???
意識がはっきりして来るにつれ、体の違和感に気付き始める。
「う────、?」
独特の、全身が甘ったるい水飴に浸かっているような倦怠感と快楽の名残り。
半身を起こす。下腹部にも鈍痛のような違和感。
掛布をはぐって、下半身を確認する。後始末は一応されている。
犯人を目線で探すと、暇を持て余した風に雑誌をめくっている。
怒りがふつふつと湧いて来て、ヒカルは強い口調で、なおかつ平板なトーンで呼んだ。
「塔矢さん、ここ、正座」
びし、と指差した場所に、アキラはしおらしく座った。
その頭を力一杯はたく。
「ヒトをオナホにしやがってコノヤロー!何考えてんだバカっ!」
「……だって、キミ、起きないし」
横を向いて気まずそうに、アキラは曖昧な誤魔化し笑いをする。
「ホントに起こしたかどうかアヤシイ!」
そうだ。いくら何でも、揺さぶって起こせば起きない事も無かったはず。
「いやぁ……その。するつもりは、あの、最初は、なかったんだけど、ね」
歯切れが悪い。自分でも悪いと反省している様子なのは判る。判る、が、しかし。
「寝顔があんまり可愛くて、キスだけ、ちょっと触るだけ、ってやってたら、あの、だんだん」
「あら不思議、挿れてましたってか」
「アハハ、あー、その通りで」
もう一度その頭を全力で殴る。グーでないだけ有り難いと思え、オレの慈悲だ。
右の掌がじんじんと痺れて痛い。
「脳細胞が二十万個死んだ、それ以上かも」
「そりゃどーゆー計算だ」
「知らないの?人間、何もしなくても一日に十万個の脳細胞が死滅するんだ。で、頭に衝撃を受ける
とやはり十万個」
我慢がきかなくなって、ついに封印せし拳を解放した。
「あいった……でも正直なとこ、寝た振りでホントは起きてると思ったんだ」
やに下がった顔が実に腹立たしい。
「なんでだよ」
「だって、ちゃんと感じて声出してたし」
頬がかっと熱くなる。成程、あれは夢じゃなくて。眠っていた体が実際に受けていた刺激だったと。
「いつもよりぐっと控えめって言うか、寝言みたいな声と混じって……凄く色っぽかった」
そんな感想は聞いてない。
「いつもはやかましいんですねそうですね」
「ゴメン、そんなに怒らないで」
「寝てる間に声の出るオナホ扱いされたら誰でも怒るわ!」
「そんなことないよ、道具はイかないもの」
「そーゆーハナシじゃね────ッ!」
もう一発拳で殴った。おまえの脳細胞が百万死のうが知った事か。
覚えていない。そうなんだろうなと言う感覚の形跡があるだけで、自分は全く記憶にない。
理不尽だ、とヒカルは腹立ちを抑えきれなかった。
「寝てる間にイかされて終わってたとかっ、あーもったいねー!もー!」
「……はい?」
アキラが真顔になってヒカルの顔を見る。
「起きてる時にやれつったの!わかれよバカ!」
「そう何度もバカって言わなくても」
「あーそーじゃあ何回でも言ってやるバカバカバカバカっ、ふ、んぅ」
連呼する口が強引に塞がれ、埋み火として残っていた快楽を燃え立たせるべく酸素を送る。
「ならご希望通りに……するよ、いい?」
唇が僅かに離れただけの至近距離で囁かれて、否やはない。
返事の代わりに、アキラの背に腕を廻す。
「んぁは……あ」
寝ている間に甘噛みされた痺れがまだ残る右の乳首を吸われ、ヒカルは素直に快感を表現する。

外は夕闇が茜の空に取って代わろうとしていた。

445 :名無しさん@ピンキー:2014/11/27(木) 23:09:31.28 ID:???
普通に後日談になってしまったお
…あれ?なんかスマン

まだ容量余ってるな…新スレ早すぎたかも知れぬぅ
投下を多く見積もり過ぎたらこの有様だよ!

446 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 12:00:09.80 ID:???
若゛め、ヒカルたんをオナホ代わりとはなんて贅沢なやつ…!
ヒカルたんへの愛でこのスレを早々に埋め尽くさなければならんな(;´Д`)ハァハァ

447 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 14:31:53.29 ID:???
もし28歳ヒカルたんが眼鏡かけてたらしたい(してほしい)こと

顔射
イメクラでエッチな先生役
保険医

448 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 16:30:51.19 ID:???
個人的には女保険医の服希望(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたんタイトスカート似合いそう
想像するだけでエロいよ(;´Д`)ハァハァ

449 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 16:45:11.96 ID:???
黒のストッキングをはいてもらって破りたい(;´Д`)ハァハァ

450 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 17:17:29.48 ID:???
ノーパンで頼む

451 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 17:47:43.64 ID:???
>>446
起きたヒカルたんがまず最初に気付いた異変は
「なんも着てねぇ」だったんだけど書き忘れたwww

ストッキングはガーターベルトで止めるやつでひとつ(;´Д`)ハァハァ
これならノーパンでもいけるぜ!
…そろそろ忘年会のシーズンでつね(じゅるり

452 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 18:31:55.03 ID:???
十代のヒカルたんなら恥じらって激しく嫌がりそうだがそれがいい(;´Д`)ハァハァ
28歳のヒカルたんはもしかしたらノリノリで着てくれるかもしれない(;´Д`)ハァハァ

453 :名無しさん@ピンキー:2014/11/28(金) 19:55:37.95 ID:???
じゃあ俺ははじらいながらも期待しちゃうヒカルたんがいいな(;´Д`)ハァハァ
あと黒ストで足コキして欲しい(;´Д`)ハァハァ

454 :名無しさん@ピンキー:2014/11/29(土) 00:59:33.52 ID:???
小説おつです!
ヒカルたんの起きぬけの声うー ていうのがかわいいよ(;´Д`)ハァハァ
寝言まじりのあえぎも(;´Д`)ハァハァ

455 ::2014/11/30(日) 04:45:49.07 ID:???
保険医コスをしてもらう経緯がどうしても浮かばなかったので
トーマスの食い損ね番外編に化けてしまったすんまそん
できちゃったから投下しまつ

456 :名無しさん@ピンキー:2014/11/30(日) 04:52:42.28 ID:???
と思ったら書き込めない、500エラーだとう?

457 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:03:55.10 ID:???
本因坊の世代交代を祝う席が若手有志によって設けられたのは、ヒカルがタイトル奪取を決めてから
十日以上後の事。取材や他の宴席などで主賓が時間を取られがちなのに配慮し、騒ぎが落ち着くまで
は待った方がいい、と主に十四年会の面子で合議した結果の日取りだった。
勿論、気心の知れた連中だけの集まり。最初から無礼講だ。
「ガキども、ジュースと間違ったフリして酎ハイ飲んでねーだろーな」
幹事の和谷が釘を刺す。十代の棋士と院生が調子よく「ハーイ」と返事をするが、怪しいものだ。
「もしこれで一昨年、棋聖獲れてたら主賓の進藤もジュース組だったと思うとおっそろしいな」
小宮の茶化しに、ヒカルは苦笑いした。
「大人がゆーじゃん?ガキは呑むなって。あれの真の意味がここ何日かでよくわかった」
「ほう、そのココロは」
「ハタチになったらイヤでも呑まされる、吐くまで呑まされる、もう許してってくらい呑まされる」
ヒカルの愚痴に、周囲は大爆笑する。
「その真理を悟れたならいい勉強したじゃないか、ん?」
自分のグラスを持って移動してきた門脇がしたり顔で人生の先輩風を吹かす。
「大学じゃあ新歓コンパで未成年にも容赦ねーぞ」
「門脇さんも呑まされたんだ」
「両方だな、悪しき伝統ってヤツさ。呑まされた新入生は、上級生になったら後輩に呑ます」
煙草を咥えながら学生時代をしみじみ回顧する門脇に、和谷が突っ込んだ。
「あんたはイヤイヤどころか大学の呑み会満喫してただろ宴会部長」
「舐めんな、会社でも重宝されたぞオレの宴会スキルは」
成人組は程よく回っているせいか、どんな下らない発言も笑いのツボに入るらしい。
もはや誰がどの会話に参加しているのか混沌としてきた中で、門脇は咥えていた煙草を口から離し、
吸い口をヒカルの唇に近づけた。
「進藤、こっちは?」
「ん」
勧められるまま唇に挟むその様を見て、和谷はどきりとする。
(コイツって、時々)
やけに色香を醸す場面に遭遇して、どぎまぎしたのはこれが初めてではなかった。
半ば閉じた瞼、鳶色の大きな瞳は長い睫の作る陰影に隠されている。
疲れを滲ませる薄い隈は、どこか不健全な匂いを漂わせていて。
小さな唇に咥えられた細い煙草が、他の物を連想させてしまう。

458 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:04:26.45 ID:???
「んー……やっぱダメ、好きじゃない」
顔の下半分を覆うように咥えさせていた門脇の手を押しのけて煙草を遠ざけ、ヒカルは首を振った。
「まあ税金吸ってるようなモンだしな。一旦ニコ中になったら対局中に何度も吸いに行っちまうし」
「お酒だってかなりの割合で税金だよ、煙草ほどじゃないにしてもね」
仏頂面を崩さない越智は未成年なので当然ノンアルコール。手にしているのは烏龍茶だ。
「でもお酒と違って煙草は他人の健康にまで害を及ぼすから、吸う人も含めて嫌いだな」
今まさに吸っている門脇を前に、堂々と言い放てるのが彼の彼たる所以だ。
「言いやがるなキノコめ」
煙草を持った手を越智の目の前に持って行き、門脇はゆらゆらさせる。紫煙を払うように越智は手を
振って渋面を作った。
「……あれ」
「どうした進藤」
和谷が声を掛ける。ヒカルは蟀谷を押さえるようにグラスを持たない左手で顔を覆い、少し俯いた。
「煙草のせいかな、なんかアタマ、くらくらする」
「ピッチ早かったんじゃないか?疲れてんだから無理しなくて良かったのに周りに合わせっから」
「二次会ダメそう?」
小宮がテーブルの向かい側から身を乗り出して顔色を見ようとする。
「ゴメン、オレちょっと行けそうにないかも」
和谷はヒカルの右手からグラスを取り上げてテーブルに置いた。
「冷酒何杯いったよ、オイ」
「さぁ……わかんね」
「目眩すんなら横んなれ。水飲めるか」
ヒカルは和谷がどいて作ったスペースに上体を倒し、そのままものを言わなくなった。

「弱くはないはずだけど、流石に酒続きで肝臓がギブしたか」
主賓が潰れてしまったため、宴席は全年齢対象の一次会でお開きとなった。
口実をつけて呑みたがる連中は残念がったが、事情が事情なので仕方がない。
「呑み足りないヤツは自分らでどこなと行ってくれ、オレはコイツを……うぉっとと」
ヒカルを支えて立ち上がろうとした和谷は大きくバランスを崩し、間一髪で門脇に助けられた。

459 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:04:57.71 ID:???
「っぶねー、和谷おまえも足にキてんぞ」
「サンキュー門脇さん……コイツ見た目より重い」
「意識のない人間は重たいって言うしな、家まで送るのか」
「いや、オレん家歩いてそこだから連れてくわ」
いつもの会合からすぐ向かえるよう、会場は和谷のマンションの近くにしていた。
「そう言やそうか、でもそんなフラフラで連れてけんのか?何ならオレがおぶってくけど」
「門脇さんは呑み直し、行かなくていいのかよ」
「伊角が不参加って言うし、進藤もこんなだしでおちょくって遊べる人材が枯渇した」
「あ、そ」
それなら、と和谷はぐにゃぐにゃになったヒカルの体を門脇に預け、会計を済ませるべくレジに向か
った。会費は事前に徴収済なので、他の面々は即解散しても問題ない。
「十八歳未満は寄り道なんかしねーでまっすぐ帰れよ」
注意だけはしておかないと、幹事である和谷の責任問題になる。店の前に所在なさげに屯する十代の
メンバーは、その注意が合図のように三々五々ばらけて帰路についた。
それを見届け、ヒカルを背負った門脇と共に和谷も自宅に向かった。

「どこ寝かすよ」
「あー、適当に転がしといて。あとオレやるから」
門脇は玄関で一旦ヒカルを下ろし、靴を脱がせてからもう一度背負った。
「玄関に転がすわけにもいかんだろ。コタツら辺でいいか」
「ああ、ありがと……麦茶でも飲んでく?」
「いやいい。やっぱ足りないんでな、どっかでひとり寂しく二次会といくわ」
「缶酎ハイならあるけど」
「お子ちゃま御用達しかないなら遠慮しとく。ボトル入れてる店があるから気ィ遣うな」
テーブル代わりのコタツが置いてある辺りに正体を無くしたヒカルを寝かせ、門脇はすっと和谷に近
づいて耳打ちした。
「無防備なとこ襲ったりすんなよ」
「……はァ?」
酒が更に回ったかのように顔が熱くなり、視界も揺れる。
「隠すなって。オレだって『あ、ヤベ』ってなることあるから異常でも何でもないさ」

460 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:05:28.70 ID:???
見透かされているかと思うと、恥ずかしさにのたうち回りたくなる。
「初めて会った時はほっぺのプニップニしたジャリガキだったんだけどなァ。妙に男好きする方向へ
顔が変わったもんだ」
「男好きって、ちょっ」
「コイツのファン層見ても判る。碁なんかカケラも興味ない、豚系のガチオタ野郎が相当数ついてる
だろ。絶対数ならそりゃ女が圧倒的だけど、ヤツらコアだから変に目立つ」
「…………」
「ま、売り方のせいもあるけどな。北斗通信にヒモで括られたから已む無しとは言え、碁と無関係な
マスコミ露出がやたら多いのも考えものだ」
ヒカルはある事件を境に普及の仕事から遠ざかっている。警備上の理由でだ。
数年前、とある地方のイベントに門脇言うところの豚系が乱入し、ヒカルに怪我を負わせた。以降、
棋院は身の安全を担保できないからとヒカルに指導碁すらまともに斡旋しなくなってしまった。
先日、久しぶりに指導したと言う少年は、院生だから大丈夫だろうと棋院が判断したらしい。
その少年はヒカルの口利きで十四年会に通い始め、今日の祝賀会にも顔を出している。
「豚野郎にオカズにされるほどモテんのは本人も嫌だろうけど、身近にいるオレらでこうなんだから
なあ……下手に可愛いと苦労すんな」
「オレ『ら』って、勝手にまとめんなよ」
「それは失礼。んじゃ、店カンバンなる前に行くわ……マジ襲うなよ?」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、さらっと爆弾を置いて門脇は出て行った。
「ざけんな、雑食のオッサンと同類項にされてたまるか」
閉じられた玄関ドアに施錠しながら、和谷は悪態をつく。踵を返して冷蔵庫に向かい、500ml入りの
水のボトルを出して封を切った。
「進藤、水。飲んどかないといつまでも残るぞ」
小さな頭を起こし、飲み口を唇に宛てがっても無反応。傾けたボトルから水が零れ、シャツの襟元を
濡らしてしまった。
「と、いけね……ワリ、許せ」
関係各所への挨拶回りがまだ終わらないのか、ヒカルは今日スーツで来ていた。上着は門脇がハンガ
ーに掛けてくれているので今はシャツとネクタイだけ。
襟元が窮屈だろう、と和谷はタイの結び目を緩めて一番上のボタンを外し……そして、見てはいけな
いものを見た。

461 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:05:59.27 ID:???
ごくり、と喉が鳴る。
心が『駄目だ』と制止するのに、震える指が抗って更にボタンをひとつ外す。またひとつ。
そこにも。ここにも。どういう経緯でついたか説明されるまでもない、痣が。明らかに噛んだ痕が。
首元と言わず、胸と言わず。
和谷はヒカルの首からネクタイを引き抜いた。確認するのに邪魔だったからだ。そしてまたボタンを
外す。
「──……ぅ、ん」
悩ましい声に鼓動が乱される。
こんなのはおかしい。自分がやっている事は弁解の余地がない。腹まで見えるほど服を乱されて、起
きたら怒るに決まってる。
なのに、腹にまでつけられた鬱血の痕が、和谷の頭を痺れさせる。
こんな事をするような彼女ができたとは聞いていない。当たれる限りの交友関係を脳内から引っ張り
出したが該当なし。女性限定ならばだ。
嫌な考えが浮かんでは、それを打ち消す。何度打ち消してもそれは浮上する。
右手が躊躇いを捨てきれないまま、シャツを潜って素肌に触れる。滑らかな感触が伝わって来る。
「んん……ふ」
漏れる声の艶かしさに、股間が自己主張を始める。
脇腹を撫で上げると、ヒカルの膝がぴくりと反応する。微かに身を捩るのが誘っているかのようだ。
指が引っかかった場所を爪で軽く掻いてやる。肩が揺れる。
「……っぁ、ん」
そこを指の腹で押し潰すように捏ね回すと、全身が何度も小さく痙攣した。
「んふ、んんぅ……んく、ぅ」
敏感な反応に、起きていてされるがままなのかと言う疑念が湧き起こる。
(都合のいいこと考えてんじゃねーよ)
象牙色の肌と、それを飾る痣に吸い寄せられるように顔を寄せる。ご丁寧に、誰かさんが感じる場所
に印をつけて教えてくれているので、その上から唇で吸う。
「ふぅ……ぁ、あ、あぁ」
甘い肌の香り。唇や舌を柔らかく押し戻す弾力。女を知らない和谷には充分過ぎた。いつしか、夢中
になって舐めては吸い、噛んでを繰り返す。
千鳥足にはなったものの、勃たないほども呑まなかったようだ。股間がきつくて辛くなっている。
「あぁん!あっ!」
乳首を強く噛み過ぎたらしい。ヒカルがはっきりした声を上げて胸を反らし、ゆるゆると瞼を開けた。

462 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:06:30.81 ID:???
焦点のぼやけた目が和谷を捉える。その視線から逃れるように、和谷は顔を背けた。
「……ンだよ……まだ、すんのかよ」
(っ!)
ヒカルは相手を和谷だと認識していなかった。
だがそれは初めのうちだけで、すぐに現状を把握して和谷の体の下から慌てて逃れようとした。
「うわった、わ、悪ィ、いや決してやましい事しようって服緩めたわけじゃ」
和谷も狼狽えながら距離を取る。急速に酔いが醒めた。冷静になってみれば、とんでもない事をして
しまった。
「スケベ」
怒髪天を衝くが如くにキレられるかと覚悟したが、たった一言簡潔に詰られただけ。拍子抜けだった。
ヒカルは和谷に一瞥をくれただけで、もそもそと四つん這いになって冷蔵庫に向かう。
「水ならここに」
「ちーがーう」
ドアを開け、棚から取り出したのは。
「オイ待て、それ度数高ェヤツ!てかまだ呑む気か!」
和谷が先日、デザインが似ているので間違って買ったアルコール度数九パーセントの缶酎ハイ。
ロング缶のプルタブを開け、ヒカルは一気に呷った。
「もっとへべれけになんなきゃ、疼いて寝られっかってんだ。それともオレで童貞捨てたいのか和谷」
最後の一言は聞かなかった事にした方がいい。和谷は勢い込んで首を横に振った。
「滅相もない……なんか、スイマセン」
如何にも不機嫌そうな顔をしてヒカルは缶を短時間で空にし、またごろりと横になる。
聞こえて来る寝息に、和谷は錯綜する様々な感情を込めて大きく嘆息した。
(塔矢め、やっぱりかよ)
ヒカルに対する普段のベタつきぶりからして、それ以外の相手は思いつかなかった。

三年にわたるヒカルの生き地獄が始まるまで、幾日もない夜の出来事である。

<了>

463 :泥中の蓮・拾遺─前夜─ ◆lRIlmLogGo :2014/11/30(日) 09:07:34.98 ID:???
行数オーバーだっただと…今までいけてたのに解せぬ

豚(と書いてメイツと読む)「ヒカルたんブヒィィィ(;´Д`)ハァハァ」
もちろん俺も豚だとも!豚ですとも!

本編のトーマスは若゛に言いたい放題のようで一応遠慮してますた的な
「薄々知ってた(証拠握ってるけどな)」だったっつー…紳士やなおまえ

464 :名無しさん@ピンキー:2014/11/30(日) 13:45:41.81 ID:???
ヒカルたんになら喜んで豚と罵られよう

465 :名無しさん@ピンキー:2014/11/30(日) 18:41:08.67 ID:???
保健医の眼鏡と白衣とタイトスカートとガーターベルトに黒スト装着で
真っ赤な13cmピンヒールを履いたヒカルたんに
「この薄汚い豚が!」と罵られながら股間をぐりぐり踏みにじられるのか
でもって踏まれながらローアングルで見上げたりすると
そこにはノーパンの楽園が

たまらんな(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

466 :名無しさん@ピンキー:2014/12/01(月) 00:24:17.65 ID:x9xUzNH1
そのピンヒール、履きなれてないと見た
バランスを崩して思いっきり尻もちついてM字開脚になったところで
そのノーパンの楽園があらわになって顔を真っ赤にしてあわててスカートを抑えるヒカル
先ほどまでの女王様から一変、可愛らしいその様子にタガが外れてルパンダイブで飛びつかれる

467 : 【大吉】 :2014/12/01(月) 12:24:16.19 ID:???
俺とヒカルたんのらぶらぶちゅっちゅな今月の運勢

468 :名無しさん@ピンキー:2014/12/01(月) 12:25:23.54 ID:???
きゃっほぉおおおおおおおおぅ!
さあヒカルたん俺とズコバコしよう(;´Д`)ハァハァ

469 :名無しさん@ピンキー:2014/12/02(火) 17:49:15.49 ID:???
ヒカルたんとギシアンするのは俺だ

470 :名無しさん@ピンキー:2014/12/03(水) 16:50:20.39 ID:???
ヒカルたんの前立腺をぐりぐりして悶えさせたい(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

471 :名無しさん@ピンキー:2014/12/03(水) 18:35:38.30 ID:???
明るくて、憂いを帯びてて、真剣なヒカルたんが好きだああああああああ
急に叫びたくなった(;´Д`)ハァハァ

472 :名無しさん@ピンキー:2014/12/03(水) 19:57:32.78 ID:???
そんなヒカルたんに大腸カメラプレイとか考えてた俺は魂が汚れている
(;´Д`)ハァハァ

473 :471:2014/12/03(水) 20:29:48.06 ID:???
まあ俺はヒカルたんと手を繋いだり電車でもたれかけられたりを
夢見る純粋なメイツだからな( *^ー゚)b
ヒカルたんが抱きついてきてすりすりしてきて(;´Д`)ハァハァ
そして俺は抱きはめるのさ(;´Д`)ハァハァ

474 :名無しさん@ピンキー:2014/12/03(水) 20:43:20.98 ID:???
おい最後の行www誰が純粋だコラwwww
さらっと一字違いで大違いを仕込むんじゃない(;´Д`)ハァハァ

475 :名無しさん@ピンキー:2014/12/03(水) 23:26:13.05 ID:???
強気で魔性で淫乱なヒカルたん(;´Д`)ハァハァ (;´Д`)ハァハァ

476 :名無しさん@ピンキー:2014/12/04(木) 12:55:18.02 ID:???
街角に立つヒカルたんと合体したい

477 :フライング若゛バースデー2014 ◆lRIlmLogGo :2014/12/05(金) 20:28:12.34 ID:???
「は────ぁ」
坊主が駆けずり回る年の瀬。十二月に入って急に本格的な冬の気温となり、ついていけないデリケー
トな体の持ち主がこぞって風邪をひく今日この頃。
「あ゛────、ユーウツだ」
年末の慌ただしい雑踏の中、ヒカルは何度目ともつかない溜息をついた。
「サスガにさぁ、もうネタも尽きるって」
今年も忘年会の幹事の依頼からは全て逃げ切った。そういうのは得意な人間にやらせればいいのだ。
これまで逃げてきたからと言って、関係各所から「若手でやってないのはおまえだけだ」と責められ
る謂れはない。第一、普段は自分から若手などと言うと「四捨五入して三十が若手だとかいけ図々し
い」と一蹴されるのに、こんな時だけ若手扱いとは釈然としない。
いや、そうではない。ヒカルの溜息の理由はそんな事ではない。
忘年会と全く無関係ではないが、微妙にズレている。と言うか、クリスマスにまで絡んでくる。
「なんでこう、ドンピシャな時期かなあ……今年も大当たりじゃんよー」
顔を出さぬわけにいかない忘年会が複数あるし、対局スケジュールもある。遠出と言う選択肢がどう
しても最初に消える。
「そのくせ、年初に延期つったらヘソ曲げやがるし」
プレゼントにも、場を盛り上げようとする演出にも、いちいち細かく文句をつけるくせに。
無難にしたらしたで「つまらない」と不満を垂れるのだ。

「だからどうしてクリスマスまでごっちゃにしようって結論になるんだ、第一早すぎる」
仏頂面をした恋人が、座敷机を挟んで向かいから案の定クレームをつける。
「オレがチキン食いてーから」
殊更ヒカルに聞かせるように、アキラが長々と嘆息する。
「太るぞ、もういいトシなのに……それ、キミが殆どひとりで食べるんだろうに」
ヒカルが買ってきたのは、どう見ても家族用のパーティバーレル。三十路手前のふたりには明らかに
多い。それにアキラはこの手のジャンクフードは得意ではない。家に残して行かれても困るのだ。
「うん?食後の運動するから大丈夫でしょ」
あっけらかんと返すヒカルに、アキラは額に手を当てて「処置なし」と頭を振った。
「キミの辞書からは、いつから『デリカシー』とか『恥じらい』という単語が削除されたんだ?」
「えー?アラサーが恥じらってもなあ……需要どこにあんだよ」
「ボクの需要は無視なのか」
「えらいニッチだな、おい。おまえのモノ好きには感心するぜ」
今年は、芹澤研究会の忘年会が十四日にジャストミートした。囲碁界やその周辺の色々な交流を蔑ろ
にはできず、毎年どこかしらの忘年会とアキラの誕生日がかち合うのは避けられぬ宿命だった。
「ぶっちゃけさ、アイデアが枯渇したんだよ……おまえ何あげてもどこ連れてっても文句ばっかで」

478 :フライング若゛バースデー2014 ◆lRIlmLogGo :2014/12/05(金) 20:28:43.46 ID:???
「そんなことは」
「ほー、記憶にございませんと。まだらボケでも始まったか?あ?」
こんな日に喧嘩をしたいわけじゃない。けれど、ヒカルにも長年降り積もった鬱憤があったせいで、
簡単に着火してしまう。
「趣味嗜好の違いってさ、年数重ねるほど深刻になってくよな。最初のうちはお互い新鮮に思えても
段々そーゆーゴマカシきかなくなってくんの」
「じゃあ進藤、キミは自分の誕生日にもそういう不満を持ってたのか」
「う」
返答に詰まってしまった。そういえば。
「…………ない、です」
「正直に言え。嘘はよくないぞ」
「だからないって、ホントだって」
アキラの心遣いが素直に嬉しかったから、どこかズレたプレゼントも捨てられずに取ってある。
自分には合わない店に連れて行かれても、文句を言いつつ楽しんだ。
困惑してしどろもどろになっているヒカルを見る剣呑な眼光が、ふと和らいだ。
つい、とアキラが立ち上がり、広い座敷机をまわってヒカルの傍に歩み寄る。背中から抱きしめられ
て、ヒカルの体がほんのり熱を持つ。
「性格の不一致を理由にして、別れるかい?お互い、周囲が身を固めろと五月蝿いし。潮時かな?」
「あ、ぇ、ぁう、その」
いつの間にか形勢逆転されて、上手く言い返せない。
「冗談だよ……まったく、おろおろするキミは可愛いね」
「アラサーに可愛いとかゆーな」
「可愛いよ、進藤」
「だから、っ、ぁ」
敏感な耳孔に息を吹き込まれ、思わず声が漏れてしまう。
「……性格はともかく、カラダは、不一致じゃねーもん」
口調が少しぶっきらぼうになってしまったが、伝わるだろうか。
「でも、太ったら別れるからね」
耳元のくすくす笑いまでが愛撫になる。急激に感度の跳ね上がった肌がその先を欲しがる。
もう準備は完了してしまった。
「プレゼント、開けてもいいかな」
セーターの襟元から手を忍び込ませ、アキラが問う。
「もう……開けてんじゃん……ぁ」
今年も結局、代わり映えしなくてごめんよ。まだ早いけど、とりあえずハッピーバースデー。
口にするのは気恥ずかしくて、ヒカルは胸の中で唱えた。

479 : ◆lRIlmLogGo :2014/12/05(金) 20:29:17.55 ID:???
埋めついでに書いたらBL風味がキツめになったでござるぅ
おっさんが何をトチ狂ってしまったのか…

とりま若゛は爆発(物理)してしまえと思いますた

480 :名無しさん@ピンキー:2014/12/05(金) 21:43:01.34 ID:???
忘れてたけどもうすぐ若゛の誕生日だったな…
三十路ヒカルたんのエロさを我が物としてる若゛が羨ましい

481 :名無しさん@ピンキー:2014/12/06(土) 00:00:31.77 ID:???
ヒカルたん「まだ三十路じゃねーし!あ、あと二年近くあるしっ!(超必死」

482 :名無しさん@ピンキー:2014/12/06(土) 00:10:46.14 ID:???
疲れて俺もユーウツだったが小説キテター!(゚∀゚)
ありがとう、ありがとう(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたんはアラサーになってもカワイイなあ

483 ::2014/12/06(土) 01:19:45.91 ID:???
>>482
つ【リポD(はやぶさ2バージョン)】
土日は休み取れまつか?ゆっくり休んでくれよ…

484 :名無しさん@ピンキー:2014/12/06(土) 22:43:12.82 ID:???
歳に必死なヒカルたんが可愛い(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたんはいつまで経っても愛らしく、
天使のように可愛い存在だから気にしなくていいよ…(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

485 :482:2014/12/06(土) 23:26:06.75 ID:???
ありがとう、盆たん。
ヒカルたんは最高の癒しだよ(;´Д`)ハァハァ

ヒカルたんてやんちゃに見えてうろたえるのがめちゃ可愛いよな(;´Д`)ハァハァ
もう28だからだいぶ落ち着いてはいるんだろうけど
碁以外の場では時折それが垣間見えるといいな(;´Д`)ハァハァ

486 :名無しさん@ピンキー:2014/12/07(日) 00:21:06.84 ID:???
お、ちゃんと休めたかい?
レセプションとかで完璧な振る舞いしてたはずが
なにかの拍子でポロッと素が出ちゃう28歳ヒカルたんとか
想像したら…(;´Д`)ハァハァ

487 :埋めるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ:2014/12/07(日) 03:02:31.16 ID:???
あと4kだおヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
「うん……はやくぅ、う、埋めてぇ」
わかったよ、みっしり埋めてあげるからね(;´Д`)ハァハァ
「あぁんっ、か、改行でバイト数稼ぐのは、っや、やぁん」
改行ひとつにつき6バイトは大きいよ、大きいのは嫌いかいヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
「あっ、あっ、まだっ、300、あぁん足りないよぉ」
ホラホラ、こんなのでもうトロ顔になっちゃって……先っちょしか挿れてないのにいやらしいね
(;´Д`)ハァハァ
「だって、もう埋まっちゃいそうなのに焦らすからぁ、オレ、先月からずっと、あっ、埋まるの、
待ってたのにぃ」
ゴメンね、欲しくて欲しくて狂いそうだったんだね。ゆっくり味わうんだよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ
「もっとぉ、あぁん、もっと埋めてぇ、もっとぉ、はやくぅ」
せっかちなコだね、ホントいやらしくて可愛いよ(;´Д`)ハァハァ
「オ、オレ、はやく新スレに……いきたいっ、あぁっ」
もうイッちゃうの?駄目だよ、まだ900バイトにも届いてないよ?
「新スレ、このままだとっ、落ちちゃうぅ」
そんな初めてイク時みたいなコト言って、騙されないゾ?うりうりグリグリ
「や、いやぁ、そこ、そんなにされたら、ダメ、はぅ、ぁああ」
ヒカルたんこうされると弱いの?じゃあ集中的に、穴を拡げてあげようねグリグリ(;´Д`)ハァハァ
「ぁん、拡げるだけじゃ……埋めて、熱くて大きいのでオレをいっぱいに埋めてっ」
イキたい?そんなに早く新スレ、イキたい?(;´Д`)ハァハァ
「うん、イキたい、はやくっ、あっ、はやく、新スレにっ、ぁんイカせてぇ」
ヒカルたんはもうマジでイヤラシイなあもう(;´Д`)ハァハァ
わかったよ、あげるよ俺のビッグマグナム(;´Д`)ハァハァ
「もう字数稼ぎでもなんでもいいよぉ!きて、埋めて、あっあっあっあぁんっ」
そんなこと言うヒカルたんこそ我慢できなくて字数稼ぎに走ってるじゃないか(;´Д`)ハァハァ
「はぁああん、あぁあ、キモチい、イク、新スレいっちゃうぅううっ」
え、待ってヒカルたんまだダメだよイクの早いよ!

ごめんね。焦らしすぎたせいでちょっと埋めただけでトンじゃったんだね……
でもヒカルたん、まだ新スレはお預けだよ(;´Д`)ハァハァ

488 :名無しさん@ピンキー:2014/12/07(日) 03:05:53.00 ID:???
>>487
ヒカルたんのエロさは犯罪級だということを再認識した(;´Д`)ハァハァ

489 :名無しさん@ピンキー:2014/12/07(日) 03:10:09.62 ID:???
まだ3k近く残ってるよヒカルたん(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ

490 :名無しさん@ピンキー:2014/12/07(日) 12:46:25.78 ID:???
貪欲なヒカルたん(;´Д`)ハァハァ

491 :冬の猫 ◆lRIlmLogGo :2014/12/07(日) 19:26:45.60 ID:???
最近、目を覚ますと進藤がこちらの布団に潜り込んでいることが多い。
最初はとても驚いて、自分でもみっともないと思うような声を上げたけど。二度三度と続けば「また
か」と慣れてきて、代わりに心拍数が増えるようになった。

碁会所での検討が白熱し、喧嘩別れのように進藤が帰ってしまう幕切れが圧倒的多数だったのが、北
斗杯を境にその割合がぐっと減った。そうなると検討は延々と続いて時には再戦ともなり、碁会所を
閉める時間になってもケリがつかず。市河さんを帰れなくさせるのが申し訳なくて、当然の帰結とし
て他人を泊める余裕のあるウチで続きを、となる。

夏も秋も特に問題はなかった。そう、これは冬になってからだ。
起きた進藤に訊いてみれば、何のことはない、布団が冷たいからという単純明快な答えが返ってきた。
ほぼ同時に布団に入り、起きるまでに何もなければそのまま朝まで定位置だ。
要は、何かの理由でタイムラグが生じた時に、この現象が発生するわけだ。

最初はどういう経緯だったかを思い出す。そうだ。そろそろ寝ようとする段になって、急に進藤が詰
碁を気にしだし、「先に寝てろよ」と言い残して碁盤に向かったんだった。
風呂上がりのパジャマの上下にダウンジャケットを羽織っただけで、靴下も履かず裸足だった。
「そんな格好だと風邪を引くぞ」
忠告にも生返事で、もうこちらに関心はなくなっている。お互いそういう人種なので、気にせず先に
床に入ったのだ。そして朝、ボクのとんでもない大声が進藤も叩き起こした、そんな次第。

「おまえがジャマだけど、あったかい布団の魔力には勝てない」
そんな憎まれ口を利くくせに、いつだってボクの体にぴったり擦り寄って気持ちよさそうに安らかな
寝息を立てているのはどういう了見だ。こないだなんか、胴体に腕が回ってきてたぞ。
というか、自分の布団くらい自分で育ててくれ。
凄く、心臓に悪いんだ。
「男なんだし、間違いが起こるワケじゃねーだろ。ケチケチすんなよ」
そうとは限らないな。いざ間違いが起こる段になったら、泣くんじゃないぞ。

492 :冬の猫 ◆lRIlmLogGo :2014/12/07(日) 19:27:16.73 ID:???
今回は……ボクが手洗いに立った隙に、やはり詰碁を解いていて布団を暖める手間を惜しんだ彼がこ
ちらを占領していた。ボクは傍らに突っ立ったまま、幼い頃の遠い記憶を思い浮かべる。
「そうだ、思い出した。父の後援会の方だったっけ、猫を飼っていらして」
「なんだよ急に」
「普段は寄り付きもしない、愛想のひとつもない飼い猫が。冬場になるとちゃっかり布団に潜り込ん
で来るって話をね」
「オレはネコ並って言いてーのか」
「そうだよ。猫と一緒だ。その方も、トイレから戻ったら布団をしょっちゅう盗られてたって楽しそ
うにぼやいてらした」
彼がいるのにも構わず、掛布と毛布をはぐって入り込む。冷えきった体がボクに触れる。
「おー、あったけー。んふふ」
「こっちは冷たい。まったく、迷惑だ」
「じゃあ、あっちの布団行けば?広いぜ」
「余計冷たいじゃないか」
自分より表面温度の低い体を抱きしめる。進藤の呼吸が乱れる。
「自分の布団に戻るなら、今のうちだぞ」
氷のような足先が、ボクの足の甲に触れる。進藤は逃げない。にやっと小意地の悪そうな顔で笑う。
「よっしゃ勝った」
「勝ったって何がだ」
「夏にさ、オレが寝てると思ってチューしてきただろ。いつ理性捨てるか、こっそり賭けてた」
全身の血が顔面に集中したかのような錯覚に襲われる。まさか、まさか。
「全部わざとか!」
わなわなと体が震える。怒りとも羞恥ともつかない、感情の混濁。
「ひとの寝込みにチューするおまえが悪い」
そうだけど、確かにそうだけど。それにしたって。
するり、と進藤はボクの腕を抜け出して、室内と同じ温度の布団に入る。
「ふわぁつめてェ。うーさぶさぶ、んじゃおやすみー」
ボクは枕を引っ掴み、力の限り彼の小憎たらしい頭に叩きつける。

猫なんかじゃない。そんなの比べ物にならないほど性悪だ、キミは。

<了>

493 : ◆lRIlmLogGo :2014/12/07(日) 19:28:41.70 ID:???
埋め草でつ…まだ2kとか何度計算間違えばと小一時間(ry

現在進行形でトイレ行った隙にぬこに温めていた場所を占拠されているので埋め草として書いた
つか今も隣にべったりなんでつがね
毎朝、目が覚めたらキンタマクラかまされてたりね…もうね…
もう子孫残すあてもないからキンタマヒーティング攻撃されてもノーダメージだぜ(泣
これがヒカルたんだったら…だったら…(;´Д`)ハァハァ

494 :冬の猫の夏の熱 ◆lRIlmLogGo :2014/12/07(日) 22:37:19.38 ID:???
碁会所が開いている時間内に検討が終わらないことが多くなって、塔矢んちで続きをするって流れに
なるのが普通になった。時間が遅くなれば泊まる。いいよな、あんな広い家で実質上一人暮らし。な
んか羨ましい。

とか呑気に思ってた、ある夏の夜。湿度が高くて寝苦しくて、眠りが浅かった。エアコンは夜かけな
い方針の家なんだそうで(親いないんだから別にいーじゃん)、窓は開いているけれどあんまイミな
いくらい暑くて。腹にくるといけないからそこだけにはタオルケットがあったけど、タンクトップに
短パンでも暑さには無力。布地が汗で張り付いて気持ち悪い。
(…………?)
ふと、気配を間近に感じる。隣で寝てた塔矢だ。なんだよ暑苦しい、用があるならさっさと声かけろ
よ。ちょっとイラッとして、そう言おうとした時。
口元にかすかな空気の流れを感じたと思ったら、唇に。柔らかいものが触れる。
頭が真っ白にフリーズして、何も考えられなくなる。
『それ』は何度も軽く触れては離れを繰り返す。体の芯が変に痺れて、ちょっとマズイ感じになる。
「……ん」
思わず漏らした声に、塔矢はビビったのか離れていった。
ほっとする気持ちと、残念な気持ちが入り混じって、なんかフクザツ。って何考えてんだオレ、残念
って何だよチクショー。

それからだ。オレがおかしくなっちゃったのは。
昼間は忘れてるのに、夜になったら思い出しちゃって。ベッドでもぞもぞして、手が下に伸びてしま
って。最悪だろもう、塔矢で抜くとかああもう。
「ぅく、……っ、ふ」
エアコン全開にした自分の部屋で、カラダだけ熱くして。何やってんだって泣きたくなる。
男と、ってアイツどうやるつもりでいるんだとか。小学校ん時遊びでやった擦りっこレベルで済むの
かとか。つか、それ以上とか無理だから。アナなんていっこしかないじゃん。口?いやいやいや。
そもそも、どっちがどっちにどうすんのさ。向こうはどうせオレにああいうコトするつもりでいるん
だろうけどヤダ。汚いし痛そうだし、屈辱でしょ第一。
そんなしょーもないコトぐるぐる考えてるうちに、限界超えて出しちゃう。
毎晩、この調子。夏が終わり、秋が過ぎても、おさまらない。
塔矢んちに泊まれば、意識すんなって方が無理で。いつまたキスされるか、うぅん、それ以上をされ
るか、神経が尖ってしまってどうしようもない。

だから、ちょっとした復讐みたいなことしようって思った。塔矢がひどいことしようとしたら、鬼の
首獲ったみたいにガンガン虐めてやろうって。なかなかその機会はめぐってこなくて、冬まで待たな
きゃいけなかった。アイツ、あれ一回きりでなんもしてこないんだもん。

495 :冬の猫の夏の熱 ◆lRIlmLogGo :2014/12/07(日) 22:37:50.18 ID:???
あれは気まぐれだったのかよ?だとしたらずっとモヤモヤしてたオレがバカみてーじゃんハラ立つ!
そんで冬。いざ、爆睡中の塔矢の布団に潜ってみたら……くそ、悔しい、あったかい。
朝、塔矢が家庭内害虫に遭遇したみたいな悲鳴を上げたのに起こされて、ビックリさせんなって怒る
と同時にざまあ見ろって達成感もあった。

何度か同じイタズラを仕掛けてるうちに、だんだん手段と目的がごっちゃになってきてた。
他人があっためた布団は気持ちよくて、その中で密着する体があったかくて。一度入ったらもう出ら
れなくなっちゃう。
目を覚ました塔矢は「またか」って感じですっかり慣れちゃって、ノーリアクション。つまらん。
このままだとホント、オレがバカみたい。

その日は、先に寝た塔矢が珍しく途中で起きてトイレに行った。アイツ、一旦寝たら絶対起きないの
が特技だってくらいなのに。今日は特に寒いせいでションベン近くなったかな。
目を碁盤から離して横目で見れば、空っぽの布団。あのままだと、どんどん熱が逃げちゃう。
もったいない気がすごくしてきて、オレはその布団に潜る。あったかくて、石鹸とシャンプーの匂い
が残ってる。
戻ってきた塔矢が、オレをネコみたいだって言った。そんで、オレがいるのに布団に入ってきた。
ペット飼ったことねーからネコって言われてもぴんと来ない。塔矢が、文句言いながら抱きしめてく
る。その体の熱に、くらっとする。もしかしなくても、これピンチ?ヤバい?
体格差は絶望的ってほどじゃないけど、塔矢の方が大きい。力はどうだろう?比べたことないからわ
かんない。負けないとは思うけど、万が一ってあるよな。
苦し紛れにネタバレしてやったら、さすが瞬間湯沸器。顔を真っ赤にして怒りでプルプルしてるうち
に抱かれた腕から抜け出し、自分の冷たい布団に逃げ込む。追い打ちで頭に枕が飛んできた。

だって怖かったんだもん。あのままだと、その、取り返しのつかない方向へ行っちゃいそうで。
ずっと行かないままでいいのか、今回は逃げちゃったけど、もっと未来ならいいのか。
いやだから、どっちがどっちにどうする問題をほったらかしでそっち行っていいのか。

結論なんて出せないまま、オレは持て余した体の熱を冷たい布団でさます。
塔矢はたぶん怒ったままで、自分の布団に入りなおしたみたいだった。

はあ、マジでバカみたい、オレ。

<了>

496 : ◆lRIlmLogGo :2014/12/07(日) 22:39:05.25 ID:???
埋め2
俺のヒカルたん(ぬこ)がとうとう膝の上に乗ってきたせいでムラムラして書いた
反省などしないでつ

497 :名無しさん@ピンキー:2014/12/08(月) 04:43:41.65 ID:???
ヒカルたんが可愛すぎて(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ(;´Д`)ハァハァ
ヒカルたん、俺の布団に来てもいいんだよ…(;´Д`)ハァハァ

498 :名無しさん@ピンキー:2014/12/08(月) 18:40:30.14 ID:???
>>497
そんな危険な場所にヒカルたんを行かせはせん!
だめだよヒカルたんあっちいったら変態に食われるよこっちおいで(;´Д`)ハァハァ

499 :魔境こわいよ埋め:2014/12/08(月) 19:32:18.56 ID:???
いやー聞いてくれよ、オレさ、こないだパソコン買ったんだ。
ネット碁だけじゃなくて棋譜整理にも便利だっつーから周りにすすめられて。
で、まあ慣れるためにいろいろするじゃん?えくせるとかわけわかんないけど、必要だからマスター
しとけって、うーん、できる気がしない。
でまあ、逃避行動っつか、ついネット見ちゃうんだけどさ。棋院公式とかジャンプ公式とか(笑)
そうしてるうちに、好奇心っつの?試しにオレの名前で検索しちゃえって。気になるじゃん、いちお、
プロ棋士だもん。評判とかさ。ぶっ叩かれてたらヘコむなーとか思いつつ。
したらさ、なんかヘンなのがひっかかるの。なにこれ、(;´Д`)ハァハァ……?え?え?
ヤダ、なにこれ気持ち悪い、とか鳥肌なんだけど、怖いもの見たさって、ホラ、あるじゃん?
なんでオレの行動とか色々筒抜けなんだとか、なんでガッコとか家とかバレてんのとか、いや、あの、
あー、そうじゃない、ホントに気持ち悪くて怖いのはそんなもんじゃなくて、あのさ、あの。
うああああ、やっぱ口に出せない!ムリ!
と、とに、とにかくっ、すっげーキモチ悪かったの!
そんでなに?メイツとか、あれファンなの?あんなのにどっか暗がりとかで待ちぶせとかされたらとか
想像したら、怖くて夜道歩けねェよ……ああゴメン、そーゆーキモイことばっか書かれてたんだよ。
ねえどうしよう、あれ、ケーサツとかに届けたりしたほうがいいよな?

「あんまり神経質になりすぎない方がいいよ。ボクにも似たようなのが作られてるけど、今のところ実害
はない。彼らはああして欲望を発散しているから、往々にして実行動には繋がらないものだよ。だから
放置しておけばいいさ。それに、キミが大人になれば彼らだって目を醒まして解散するって。心配いら
ないよ、今のうちだけだって」
(言えない……ボクも魔境で(;´Д`)ハァハァしまくってるメイツだなんて、口が裂けても言えない。下手に
警察に届けられてみろ、ボクのこの滾り狂う(;´Д`)ハァハァを存分にぶつける場所がなくなるじゃないか!
阻止だ、断固阻止!メイツの一員として、ボクには魔境を守りぬく義務がある(;´Д`)ハァハァ)
「そんなに心配なら、一人にならないようできるだけボクが一緒にいてあげるよ」

(;´Д`)ハァハァ

500 :名無しさん@ピンキー:2014/12/08(月) 20:26:01.11 ID:???
メイツの業は深い……(;´Д`)ハァハァ



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