パッチワーク　あかり　2003　クリスマス

(1)
　やっと、期末テストが終わって新宿のデパートへおじさんやおばさんへのクリスマスプレゼントを
買いに来た。母からお世話になっているんだからとおじさんへはネクタイ、おばさんへはマフラーを
このデパートで買うようにと指示つきで今月のお小遣いに二万円追加されていた。マフラー売場にヒ
カルに似合いそうな深みのある黄土色かかった黄色と焦げ茶のツートンカラーのマフラーがあった。
カシミアのハンドメイドの一点物で手袋と帽子がセットで十二万円もする。お店の人がそれをケース
から出してクリスマスのプレゼント包装をはじめた。どんな人が買ったんだろうと好奇心で見ていた
ら塔矢君だった。ヒカルが対局休んでいたときに一度あっているけれど私のことなんて憶えていない
だろうな。誰に買ったんだろう？ヒカルにかなぁ。マフラーとミトンを編もうと思っていたんだけど
変えた方がいいかな。でも、セーターはもう間に合わないし。とりあえずはおじさんとおばさんへの
プレゼントを決めなきゃ。

　見学に言った棋院で塔矢君に話しかけられた。睨まれたのは勘違いじゃないよね？ヒカルは手合い
の日は塔矢君の所に泊まるし、帰ってくると体中にキスマークつけているからつきあっているんだと
思うんだけど、面と向かってはヒカルには訊けない。でもヒカルが寝ぼけたとき私のことを間違える
「サイ」って人は誰なんだろう。ヒカルは中学の頃から私や金子さんには大丈夫だったのに久美子や
のりちゃんみたいな普通の女の子は苦手みたいで、だから男の子とつきあってても不思議じゃない感
じがするのかな。

(2)
　今日はクリスマス・イブ。学校の終業式が終わってすぐバイトのケーキ屋さんに行った。クリスマ
スのお祝いはみんなが揃うからって昨日した。おじさんやおばさんにはデパートで買ったプレゼント
を渡した。ヒカルには最初の計画通りマフラーとミトンにした。バイトがやっと終わって帰るとおじ
さんはまだ帰っていなくておばさんとヒカルはもう夕飯が終わって、ヒカルは部屋に上がっていて居
間でおばさんがテレビを見ていた。手をあらって一旦部屋で着替えて来たら食卓の用意が出来ていた。
前から遅くなるから自分で用意すると言ってあったのに、おばさんが用意してくれた。食べはじめる
とおばさんがテレビを消して向かい側に座った。おばさんが何を心配しているかはわかる。二週間前
に塔矢君との手合い通知が来てからヒカルがちょっと情緒不安定になっているからだ。おばさんが安
心してくれるように明るい顔と声で「明日の手合いが終われば大丈夫。」と言ったけれど少し顔が引
きつっていたかもしれない。でもおばさんも明るい声で「そうね」と言ってくれたから少しは効果あ
ったのかな。

(3)
　疲れていたからすぐにお風呂に入って部屋に引き上げた。階段を上がる切った頃おじさんが帰って
きた。ヒカルの部屋に外からお休みなさいと声を掛けすぐ寝てしまった。人が入ってきた気配がした。
いつものように掛布団を持ったヒカルで、もう寝ていると思ったのか声も掛けずにベッドに入ってき
た。明け方近くに目が覚めたのはヒカルの泣き声のせいだった。切れ切れに聞こえる言葉は「お前と
塔矢がまた対局できたらいいのに」とかいつもの「どうしていなくなったんだ」とか「打ちたい」だ
った。あっ、膝のあたり冷たい。そっとヒカルにさわってみるとやっぱり。ため息をついてしまう。
布団から出ると寒い。洗面所に行ってパジャマを変えて洗濯機が空なのを確認して着ていたのを入れ
る。風呂場の湯沸かし器のスイッチを押してお湯が出るのを待って濡れタオルを作る。乾いたタオル
とヒカルの部屋から取ってきた着替えをもって部屋に戻る。あー、やっぱり。ヒカルは自分でも気持
ち悪かったのか掛け布団をはがしてジャージのパンツと下着を膝の当たりまで下げたところでまた寝
てしまったみたい。仕方ないのでヒカルが脱ぎ掛けた物を脱がせてタオルで拭いて、持ってきた替え
をはかせた。良かった、掛け布団とシーツは大丈夫みたい。でも十七歳の女の子のする事じゃないよ
ねと思うけどヒカル相手じゃ怒る気にもなれない。また洗面所に行って脱がせた物とタオルを手洗い
して洗濯機に入れる。洗濯機の終了時間をおばさんが起きるより前にセット。おばさんより早く起き
て私の部屋に干せば大丈夫。

　だったのに、寝坊して起きたときにはもうおばさんが干したあとだった。絶対におばさんは私とヒ
カルのことを誤解してる。

了