パッチワーク アキラ 2003 クリスマス
(1)
一ヶ月前、市河さんの譲ってくれたチケットで見に行ったコンサートの帰り彼の年末のスケジュー
ルをさりげなく聞いてみた。
三週間前、近所のデパートで彼に似合いそうな落ち着いた黄色と焦げ茶のツートンカラーに染めら
れたカシミアのマフラー・手袋・帽子のセットを見つけて購入した。当然包装はクリスマス仕様だ。
その翌日「あの女」を棋院で見かけた。この日は彼が部屋に来てくれたので彼の寝ている間に体中に
いつもの倍くらいの数のキスマークをつけた。朝、ちょっと本気で怒っていて「こんなコトするなら
もう泊まらない」と言われてしまった。
二週間前、手合通知を見た。冗談だと思いたかった。よりによってクリスマスに彼と天元戦の予選
Aの最終戦でぶつかった。
十日前、僕の誕生日だ。チョコレートケーキを碁会所に持ってきてくれた。市河さんも高そうな手
の込んだケーキを持ってきてくれたけれど彼のケーキの方がおいしかった。でも、部屋には来てくれ
ず家に帰ってしまった。元々親御さんと暮らしている彼は週に一・二回しか泊まってくれないけれど
「あの女」と棋院であった日から彼が僕の部屋に泊まってくれなくなった。
そして対局当日の今日、予定されている手合い六局はそれぞれ異なるタイトル戦の予選だったり、
リーグ戦だったりとバラバラだったが、共通しているのは片方もしくは双方がスケジュールの詰まっ
た棋士の手合いばかり、つまりは錚々たるメンバーばかりで双方五段以下は僕らだけだった。僕らの
対局は勝った方が本戦に進むことが出来る。本戦での一回戦の相手も既に大阪・名古屋の予選を上がっ
てきた社と決まっていた。この一年半くらいの対戦成績は一勝一敗。抽選の妙なのか公式戦で彼と当
たったのはリーグ戦の名人戦と本因坊戦だけで棋聖戦はリーグが別れてしまったし、トーナメント戦
はどちらも本戦までは進むけれどお互いがぶつかる前にどちらかが敗退してしまっていた。
対局室に現れた彼は落ち着いた所作で席に着いた。先番は彼だった。途中、警戒していたのにいつ
ものように一見悪手に見える妙手を打たれた。取り戻せるかと思ったが気が付くと泥沼にはまってい
た。もう、僕には手がなかった。その夜、彼が泊まってくれたので二人で思う存分検討が出来た。
了