パッチワーク アキラ 2003.12.01
(1)
昨日、碁会所へ行くと市河さんから今日の予定を聞かれた。芹澤先生の研究会へ進藤と行く予定を
伝えると「進藤君も一緒なの良かった。」と言うから尋ねると夕方から始まるコンサートに友人と行
くはずが友人も自分も仕事が入って行けなくなったので代わりに行ける人を捜していたとのことだっ
た。誰のコンサートか尋ねると「AIDS基金」へのチャリティーコンサートであること今回は福山
雅治がでることくらいしか市河さんも知らなかった。「はじめて生で福ちゃん見れると思ったのに。」
と市河さんは悔しそうだった。碁会所は年中無休だけど市河さんは毎週月曜と金曜がお休みで代わり
の人がくることになっているけれどその人が風邪で明日お休みしたいとさっき連絡が入って市河さん
が出勤することになったんだそうだ。待ち合わせていた進藤も碁会所に来たのでコンサートの話しを
すると興味を持ったので市河さんからチケットをもらった。本当は一人五千円+消費税だけど消費税
分は市河さんのおごりになった。
研究会の終わったあと地下鉄で九段下の会場に向かった。駅から地上にでると傘をさした人の列が
お堀に沿って会場まで続いていた。門を二つ抜け会場が見えてくると進藤が「本当にタマネギに見え
るな」と言った。何のことかわからず尋ねるとこの会場のことを歌った曲があるとのことだった。
(2)
席に着いてみると隣は女流の西川さんだった。僕らの席は彼女が芦原さんに頼まれてファンクラブ
優先とかで自分の分と一緒に取った席だそうだ。「彼女と一緒だから知らんぷりしてて呉って頼まれ
たのよ。」と西川さんは笑っていた。でも、僕らがチケットをもらったのは市河さんからで芦原さん
は一昨日から今日まで札幌でのイベントに行っているはずで。そうだ、手合いの日に芦原さん事務局
の人に予定の人が急病でかわりにイベントへ行くように頼まれたんだ。僕と進藤は顔を見合わせた。
どちらともなく「あの二人つきあってたんだ」と口にした。そんなこと今まで思っても見なかった。
司会は朝の連続ドラマにでている岸谷五朗と土曜日の情報番組にでている寺脇なんとかで進藤が言
っていたこの会場の歌も頭がつるつるの人が歌っていたり、あんパンマンの人とかもでていた。進藤
が興味を持ったのは若い男十人くらいのダンスみたいな体操みたいなそんなパフォーマンスと仁志と
かいう野球の選手がでたときだった。市河さんが見たがっていた福山雅治も三曲歌った。司会の二人
と京本政樹、西村雅彦の腹巻き姿の歌と踊りはおもしろかったし、ウルトラマンティガの曲は懐かし
かった。西川さんはティガの時にでてきたサングラスの人のファンらしくその人がでてきた昭和歌謡
メドレーの時はステージに声を掛けていた。僕が一番心を引かれたのは森雪之丞の詩の朗読だった。
人は健康なときその価値に気付かず、心が安定していると退屈だと嘆く贅沢な生き物ではないかと言
われ、なぜ生きるのかと問われ、男女の心のすれ違いを見せられた。僕は朗読を聞いている間、進藤
の手を握っていた。そうしなければ心のざわめきを我慢できなかった。今、僕が我が儘を言えるのは
進藤だけで、進藤は僕を甘やかしてくれる。僕はそれに慣れてしまったのかもしれない。稀にだけど
進藤から「おかしい」とか「我慢しろ」と言われると我が儘だとわかっていても進藤に自分の全てを
否定されたように感じてどうすればいいのかわからなくなる。碁盤の上のことならいつだってどうす
ればいいのかわかるのに。それ以外のことはどうすればいいかわからずに進藤に判断してもらいたく
なる。
(3)
コンサートが終わって新宿御苑の僕の部屋へ二人で帰る間も地下鉄の中も二人でコンサートの話し
をずっとしていた。でも、僕はコンサートの話しをするよりも進藤に手を握っててもらいたかった。
でも、人前ではそんなことはできないのはわかっていて我慢した。部屋に戻り、玄関の鍵を閉めると
進藤は抱きしめてくれた。驚いて進藤の顔を見ると「お前、人の話聞いてなかっただろ。ずっと、オ
レの手ばかり見てて。オレだってそうしたくなったけど気を逸らすためにコンサートの話ししてたの
にお前載ってこないから辛かったんだぞ。」といってデコピンされた。「もう、今日はさっさと寝よ
う。」「でも、君のお母さんが作ってくれたお弁当あるのに」「あれは朝ご飯にすればいい。ほら、
先にお風呂は入れよ。」
先に風呂から上がり、電気を消してベッドで横になっていると風呂から上がった進藤が僕の横に入
ってきた。同じシャンプー、同じボディーソープを使っているのに進藤は僕より甘い匂いがする。ど
んなイライラしているときだってこの匂いを嗅げば僕は安心できる。僕は進藤の身体に寄り添った。
了