パッチワーク アキラ 2015

(1)
 来週は彼と天元戦の挑戦者決定戦だ。彼とこの部屋で暮らしていた頃は二人の対局が組まれると一
週間ぐらい前から彼が家に戻ってしまい、今は僕がこの部屋に戻ってくるようになった。お互い寂し
いけれどやはりどこか気が立ってしまって普段は気にしないような些細なことが気になるようになる
ので自然とそうなってしまうのだ。

 最初の北斗杯の時、僕は自分は独りぼっちで寂しいのだと言うことに気付いてしまった。二度目の
北斗杯の頃は彼が僕の傍にいてくれることが嬉しかった。三度目の北斗杯の頃は彼が僕の傍にいてく
れるのが当たり前になっていた。四度目の、僕らにとって最後の北斗杯の頃は彼が傍にいなければ僕
は抜け殻だった。

 この部屋に帰ってくると僕は彼との対局の日まで外出もせず碁盤の前に座って一日を過ごすことに
なる。一日に一回食事を作るために訪れてくれる彼女以外の人と話をすることはほとんどない。

 同性との結婚が法律上認められているとはいえ、社会生活で容認している人はまだごく限られてい
る。だから彼と離れている間は自分が抜け殻だと言うことは隠さなければいけないことだった。母や
芦原さん市河さんは未だに気付いていない振りをしている。父は僕に関心などあるのだろうか?父が
気にしているのは森下先生のことだけかもしれない。二人は毎日テレビ電話を使って対局をし、週一
度箱根と東京の中間点の海老名に母が用意した部屋で実際に逢って対局しているそうだ。僕が彼がい
なければ抜け殻だと言うことを無防備に見せても良いのは彼女だけだった。

(2)
 彼女はこの部屋に来ると食事の準備を始める。僕は人恋しくて彼女に纏わりつく。彼女が片づけ終
わるとそれを合図に夜を彼と過ごした彼女に触れる。大抵はただ抱きしめる、抱きしめてもらうだけ
だけれどそれだけですまないこともある。それは彼女に彼の匂いを感じたときだ。

 どんな状況で彼の匂いが彼女に移ったか今の僕は知っている。彼の発作としか言えないようなあん
な行為に耐えたばかりの彼女に僕は欲情してしまう。久方ぶりに嗅ぐ彼の匂いに欲情してしまう。僕
は彼女に残る彼の痕跡をたどって行く。

 熱が冷め、自分を取り戻すとき僕は情けない顔をしているのかもしれない。彼女に時々言われる
「大丈夫よ、そんな顔しないで。もし、ヒカルや塔矢君のことが厭になっていたらとっくにあの家
を出ているわ。でも...」彼女の飲み込んだ言葉は彼と離れることなど出来ないと言うことだ。

 そう僕らは彼に囚えられている。彼のいない人生なんて考えられない。僕と彼女は同類だ。

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