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隣に座るハンガリーが、時折こちらをうかがっている事には気付いていた。
オーストリアはそれを横目で見、コーヒーを口に含む。
「…あの」
その呼びかけは、三口目を口に運んだ時だった。
「はい?」
やけに緊張した面持ちだと思いながら、カップを傾ける。
エプロンをぎゅっと握ったハンガリーが、叫ぶように言った。
「こっ、今晩、セックスして下さいっ」
ぶはあっ。
「きゃああっ!」
噴き出したコーヒーがテーブルに飛んだ。カップや手も汚れてしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
差し出された布巾を受け取って拭った。
顔が熱いのは粗相のせいではない。絶対に。
粗相の原因、つまりは。
「…あ、あのですね、ハンガリー」
彼女のせいだ。
「は、はい…すいません…」
ぎゅっと身を縮めたハンガリーは、オーストリアの言葉で出る前に謝った。
それに対し、オーストリアは咳払いをしてから返事をする。
「謝らなくて良いのですが…」
オーストリアはハンガリーを見上げた。
しかし、その豊かな胸が目に入った途端、さっと視線を逸らす。
色々と意識してしまった事は言うまでもない。
何かを誤魔化すように眼鏡をくいっとあげる。
「その、もう少し包み隠した表現をですね…」
その言葉に、真っ赤になったハンガリーがおろおろと包み隠した表現を考え始めた。
だが、オーストリアにその表情をうかがう余裕はない。
初めてという訳でも慣れていないという訳でもないのに、やけに緊張していたのだ。
「…あのう」
やがて、意を決したハンガリーが声をかけた。
「は、はい」
つい、どもる。
ハンガリーは頬を染め、オーストリアのシャツをつんとつまむと上目遣いに彼を見た。
「今夜、下さい…」
先ほどの勢いとは打って変わったか細い囁きと、潤んだ瞳、不安げな表情。
オーストリアは、生唾を呑み込んだ。
顔が熱かったはずが、今や別のところが熱くなっている。
いや、というか、これは。
オーストリアは内心ショックを受けた。
熱い痛いきついの三拍子。血液大集合で海綿体大活躍の前兆だ。
今時分でこれはない。いくら久し振りだからってあり得ない。潔いにもほどがある。
というか潔さを発揮するのはここではないでしょうどう考えても!
「…………分かりました」
独りツッコミまでしてしまうほどの葛藤をひた隠しに隠してやっとの事で頷くと、
ハンガリーの表情が明るくなった。
「ありがとうございます!」
ハンガリーの前では基本的に格好つけてるオーストリアは、彼女が嬉しそうに
部屋を出て行くのを実にスマートに見送ってから、御下品で御馬鹿でみなぎってる
自分に頭を抱えたのであった。
// 終わり
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