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甘い香りが辺りに漂う。
オーブンを覗けば、黒い物体が膨らんでいるのが確認できた。
「そろそろかな」
扉を開き、中のものを取り出す。冷たい空気に触れても、萎む様子がないから、成功だろう。
あら熱を取り、生クリームで飾り付け。薔薇の形の飾りを飾る。
チョコペンで何かを書こうとし、眉をひそめた。
しばらくの間、手が止まり、肩の力を抜くと手を再び動き始めた。
「よし、これで出来上がりです」
「なかなか美味しそうですね。ハンガリー」
不意に聞こえた男性の声に反応し、振り返ろうとするが、その前に彼女の腰に手が回る。
背後から、彼女の腕を取り、クリームの付いた指を口に含む。
キスをするかのように甘く吸い上げ……
「ふぁ……オーストリアさん、ダメですよ。こんなとこで」
指先ですら、性感体にされてしまったのだから、彼の唇の感触に身を震わせる。
良い声で鳴いてくれる事に気をよくし、スカートの中に手を差し入れ
「だからダメですって」
それ以上気持ちよくされる前に、彼の唇に軽くキスをした。
「帰ったらたくさんしましょうね」
唇に指をあて、上目使いで見つめ、彼の腕からさらりと逃れる。
寂しそうな彼の姿に、少しだけ罪悪感を感じてしまったが、今日はしょうがない。
カレンダーをちらりとみる。
6月の第三週日曜日。それは父の日である。
本来の意味の父親はいないが、育ての親はいる。
あまり好きではないが、一応ここまで育ててくれたのだから、感謝するしかないだろう。
先ほどのザッハトルテを箱にしまい、指についたクリームを彼の唇につけてから、舌でぬぐい取った。
ペロリと舌を出し、照れた笑みを見せ、
「トルコさんのところへ行ってきます。
あまり遅くはならないつもりなので……帰ったらお願いしますね」
もう一度、軽く唇を重ねる。
「それじゃ、行ってきます」
重くない足取りで出て行く彼女を少しだけ寂しそうに見送り……
姿が完全に見えなくなった頃、彼は意味深な笑みを浮かべたのだった。
「ううっ、てめーら大きくなりやがってよぉ」
男泣きするトルコを前に、二人は何とも言えない顔をして、佇んでいた。
嫌ってはいるとはいえ、一応は育ての親ではあるし、親兄弟を大事にするギリシャにとっては、当たり前のイベントでこうも泣かれてしまっては言葉もでないだろう。
「不本意だけど、一応感謝しておく……嫌いだけど」
「同じくです。一応父親として感謝しておきます。
あ、これザッハトルテです」
不本意だが……素直に喜んでくれてる姿を見てしまうと、嫌みの一つも出てこない。
これ以上、長居してしまうと、昔の懐かしい感覚を思い出してしまいそうで、
「さ、とりあえずは終わりましたし、私はこれで……」
なるべくならば、ここに長居したくなくて、トルテを机の上におくと、深く一礼し家を後にしようとするが、
「まあまあ、もう少し昔話でもしようや。
おーい、トルテにあう茶でもいれてくれ」
トルコは強引に二人の手をつかみ、ソファーに腰掛けさせると、召使いたちに、軽い料理を注文する。
こんな楽しそうなトルコを見るのは久しぶりだ。
だから、立ち去る事もできず、ハンガリーとギリシャは顔を見合わせ、少しだけほほえんだ。
「で、どうなんだ?アッチの方は」
「ばっちり」
いつの間にか酒が入り、によによな笑みを浮かべるトルコに、ギリシャは親指を立て、頷いた。
話の内容からいうと、アッチとは下品な内容の事だろう。
酔ったトルコに何を言っても無駄だろう。
大きくため息をつき、二人の会話が耳に入らないよう紅茶のカップを傾ける。
――そろそろ帰らないと、オーストリアさん心配するかな――
心配して、自分を探しにここまで来てくれでも嬉しい。
だけど、彼は極度の方向音痴だ。ここまで来るのは難しいだろう。
迷子になる前に帰ろうと、席を立ち……男二人の視線が彼女に集中する。
目が座っている気がするのは気のせいではないだろう。
「……満足させた方が勝ち」
「おう、受けてやろうじゃねぇか」
ギリシャに腕を捕まれ、ソファーに押し倒された。
抵抗しようと、大きく息を吸い込んみ……トルコに唇をふさがれた。
オーストリアとは違う荒々しい男臭さを感じさせるキス。
明らかに違うが……百戦錬磨のトルコらしく、腰をくだけさせるぐらい強すぎるキス。
「ほれ、俺のキスにもうメロメロじゃねーか」
「……まだ始まったばかり」
後ろから抱えられ、するりと服を脱がせられた。あまりに自然な手の動きで、抵抗すらできない。
豊かな胸が空気にさらされた。
ギリシャの手が胸に伸ばす寸前に、トルコが胸に吸い付いた。
「父の日って事で、ハンガリーの胸は俺んものだ」
「や……二人とも止め……ぁっ」
前ではトルコに胸をいじられ、後ろからはギリシャが背中を愛撫する。
前後からくる刺激に、抵抗はしてみるものの、ほとんど意味はない。
「全く、こんなエロい身体になりやがって。
あの変態オーストリアに毎日やられてんだろ」
「オーストリアさんは変態じゃな……くぅんっ」
首筋に走った刺激に、言葉がとぎれた。
振り向くと、ギリシャは小さく笑みを浮かべ、白い首筋に舌を這わせる。
「ゲルマン人、危ない事好き……この首筋のあざ、首輪つけられた跡?」
――いや、それはボンテージの跡で昨晩は縛って踏んでくれといわれました――
なんて事は口が裂けても言えず、口ごもる。
彼らには、それが肯定の沈黙だと思ったのだろう。
二人の行為はエスカレートしていった。
スカートの中に手を入れ、下着の上から秘所を指先でなぞれば、彼女は涙声で反応する。
負けじと胸の突起を同時にいじり、吸い上げ、もみしだく。
敏感な場所二カ所の絶え間ない刺激に彼女はどうにかなってしまいそうだった。
息も絶え絶え、足腰は立ちそうにない。
用途を成さなくなった薄い布が邪魔にも感じる。
直接触って欲しいのに。
「苦しい?……楽にしてあげる」
ギリシャの手が布を引き下ろし、穴に指を……
「え、ちょっ、そこは違う!!や、そんな入らな……」
――誰がギリシャのプレイが普通だと言ったのだろうか。
本人だった気がする。
と、すると、この行為はギリシャのとこでは普通に行われてる行為であって……
そっか、つまりギリシャは攻めであって、誰か麗しき彼を泣かすのが普通の事で――
腐った脳の部分がフル回転するが、正常な脳は動きそうにない。
当たり前だろう。
愛しき者にも突っ込まれた事のない菊門をいじられているのだから。
指が動く度に、多大なる違和感と痛み、そして微かな快楽が脳を支配する。
「大丈夫。力抜いて」
「やぁ……やめて、そこはさすがに……くぅん」
指ですらきついのに、ギリシャのモノが入れられたらどうなることか。
恐怖で瞳に涙が浮かぶ。
唯一助けてくれそうなトルコの顔を見て……さらに絶望に叩き落された。
「おお、俺の為に前は残しておいてくれたってか。くぅ、中々父親思いじゃねぇか」
「トルコの為じゃない……入れる。いい?」
「良くないで……きゃぁ!」
意外とすんなりと進入を許してしまった事に、身体の神秘を感じつつも、
『ネタができた』と同時に思ってしまった腐脳に嫌気を感じてしまった。
「ほれ、入れにくいからギリシャはソファーから降りろ。で、ハンガリー、昔のように膝の上に来い」
後ろに突っ込まれたまま、腰を持ち上げられ、トルコに抱きつくような格好にさせられる。
そり立ったモノが濡れた秘所に徐々に近づいていき……
「やめて本当にこれ以上は……ひゃっ!! やぁっ!」
性器と、排泄器のはずの穴を同時に攻められ、更に敏感になった体中に赤い印が広がっていく。
揺さぶられ、揺れる胸にしゃぶりつかれ、しっとりと汗をかいた背中を指でなぞられる。
「俺に感じてるんだろ? こんなぎゅうぎゅう締め付けやがって」
「違う……トルコのなんかで感じるわけがない。俺の……」
ハンガリーの為……というよりは、酔っ払った末のただの親子喧嘩の延長。
強く彼女を攻め立てながら、お互いの悪口を言い合う。
雰囲気もロマンもあったもんじゃない。
それなのに、身体は快楽に飲まれ、限界に近づいてきていた。
「くぅ! や! もうダメ! あぁぁっ!」
一段と大きな声でのけぞり、身体が硬直した。
一瞬遅れ、強い締め付けが彼らのモノを襲い、精液を搾り出させる結果となった。
くたりとしたハンガリーを抱きかかえ、おでこにキス。
二人のモノを引き抜くと、ソファーの上に横たえる。
二つの穴から白い液体を流す姿を見てしまうと、少しやりすぎたと反省するが……
お互いの顔を見た途端、そんな事をすっかりと忘れ、憎まれ口の応酬が始まった。
「やっぱり俺のテクは中々のもんだろ。回数こなすだけじゃダメってもんでぇ」
「オヤジはすっこんでろ……技は相手によってかえるのがいい……ただ無闇にやるの良くない」
白熱する口論。汚い言葉もたくさん使ってはいるが、二人ともそれなりに楽しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「だからよぉ、女は……を?」
背後からのするどい殺気にトルコは押し黙った。
凍りついたギリシャの表情を見て、イヤな予感がし、一呼吸おいてからそっと振り返る。
――はっきり言って振り返った事を後悔した。そのまま口論を続けていればよかっただろう――
そこには、美しき鬼神が立ちふさがっていた。
全裸で、大事な所を隠す気もなく、男らしく仁王立ち。手にはふた振りのフライパン。
どこから取り出したとか、今聞くのは野暮だろう。というか、命に関わる質問であろう。
「……言い残す事は?」
優しい声だが、目は笑っていない。
もし、ここで何か言ったとしても、振りかざされるフライパンの数が増えるだけだろう。
男二人は顔を見合わせ……力なく笑うと覚悟を決める。
――そして、断末魔の声が辺りに響き渡った――
一方その頃、オーストリアの家では
「父の日といえば! 私だって様々な女性を育ててきました!
お兄様と呼ばせ、様々な技を伝授し、淑女として世の中へとだしたのです!
だから、この私のところにも可愛い娘がくるに決まってます!」
妙にハイテンションで家の中をうろつき……ドアのノック音に眼鏡を光らせる。
「どなたですか?」
誰かはわかってはいたが、一応尋ねてみた。
予想通り、ドアの外からは鈴の転がるような可愛らしい声が聞こえる。
「お久しぶりです。リヒテンシュタインです」
「ああ、入ってください。鍵は開いてます」
勤めて冷静に。ただし、無意識にスカーフを緩め、ズボンのベルトを外しやすい状態にし、いつでも臨戦態勢を取れるようにしておく。
ドアが開き、ほんのりと頬の赤い少女が入ってくる。それだけで貴族の制御スイッチは壊れ。
「さあ! 父の日だから敬いなさい!
というか、淑女になった暁に、この乳……じゃなくて父である私が貴女の初めてを頂いて!」
「ほう、では、我輩が貴様の初めてをくれてやるである。初めてのあの世の招待状を!」
凍りついた声とともに、彼女の前に兄であるスイスが入り込んできた。
しっかりとライフルを構えて。
冷や汗をかき、後ずさりする貴族。ライフルを構える兄。
微笑ましい二人のじゃれあいをBGMにしながら――
リヒテンシュタインはマイペースに、3人分の紅茶を入れ始める。
――やはり、ここでも断末魔の声が聞こえたのは、また別の話である――
// 終わり
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