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 捕縛


  にょたりあ注意


 なにもかもが冷たい色をしていた。
 床も壁も天井も鈍い灰色一色で塗りつぶされていた。
 逃がさないことさえできればいい部屋なのだ。手間をかけて明るくさせる
必要もない。
 そんな寂しい色に囲まれた部屋の隅に、ぽつんと二つの人影が座り込んで
いる。
 北と南に分かれた二人の女性。二人で合わせて一つの国――イタリア。
 窒息しそうな静寂の中で、二人は互いに互いを守り合うようにしながら、
身を寄せ合っていた。
「姉ちゃん……私たちどうなっちゃうのかな……」
 ぽつりと呟いたのは、北側の存在を意味する妹、ヴェネチアーナ。
 栗色の髪を頭の上で結び、体の細さを悟られないようにと少し大きめの
戦闘服で身を包んでいる。今は怯えのために見えないが、ふわりと浮かべる
その笑顔は誰もが魅了されるほど愛らしい。
「バカ! そんなこと考える暇があったら、ここから出る方法でも考えなさ
いよ!」
 ヴェネチアーナの言葉をややきつく返したのは姉のロマーニャ。南を象徴
する存在。
 ヴェネチアーナと同じ色をした長い髪は軽いウェーブを描きながら下へ
と流れ、栗色と対比するようにオフホワイトのヘアバンドが頭部にはまって
いる。
 きゅっとつり上がった瞳と不機嫌そうに結んだ口元が、性格のきつさを
顕著にしていたが、それを上回るほど目立つのはその顔立ちの美しさとスタ
イルの良さだ。彼女は妹とは別の体の線にピタリとそった型違いの軍服を着
ていた。
 そのとき、ドアの外が急に騒がしくなった。
 続いてガチャリと金属の噛みあう音。施錠のとかれる音に気づいた二人は
思わず立ち上がった。
 ドアが大きく開き、姉妹は固唾をのみ込んだ。部屋になだれこむ幾人もの
男たち。誰もが屈強な大男で、ロマーニャの言葉で言うのなら、“野蛮人”
のような荒々しさがあった。
 不意をついて現れた部屋を潰すほどの圧迫。息苦しく、息もできない。
 男たちの目的はもちろん姉妹だった。



「やめてええぇぇぇっ!? 姉ちゃん! 嫌あああぁぁぁっ!!」
 冷たい床に転がされたまま、ヴェネチアーナは泣き叫ぶ。
 イタリア娘の強さを知っているからか、その両手足は痛々しいまでに縄で
きつく縛られていた。
 どうやら男たちは姉妹を同時に犯すつもりではないらしい。
 姉を辱め、その悲惨な光景を妹に見せつけて、二人の精神をギリギリに追
い詰めるつもりなのだ。
 陰湿な仕打ちに、ロマーニャの瞳が怒りで鋭く尖る。反吐が出そうだ。

 だが息巻いたところで一人ではどうしようもなかった。ヴェネチアーナと
二人でさえ、太刀打ちできるかどうかわからないほどの人数がいるのだから。
 男たちはロマーニャを囲みながらゆっくりと近づいた。ほとんど選択肢のない
ロマーニャはただ後ろへさがるしかない。
 後ろへ後ろへ、ロマーニャは足を引く。一歩、二歩、男たちは囲みを狭める。
こつりと踵が固いものに当たった。
 ――壁だ。
 ロマーニャが思い当った瞬間、男たちは一斉に飛びかかった。
 緊張に満ちていた空気が大きくかき乱れる。
「姉ちゃん!?」
 ヴェネチアーナの高い悲鳴。それは悪夢の開幕を告げる合図でもあった。
「やめてっ! 放して、放してよっ……!」
 ロマーニャは必死に体を振り回し抵抗をするが、瞬く間に押さえつけられ、
後ろから倒された。
 はりつけにされた囚人のように、両手足を床に縫いつけられる。すらりと
した肢体が、大の字となって強制的に寝かされた。
「やめてええぇっっ!
 姉ちゃんに酷いことしないでぇぇっ!!」
 ヴェネチアーナは喉が裂けんばかりに叫んだ。必死の思いで慈悲に訴えかけ
る。
 だが、野獣たちにそんな温かい感情のあるわけがなかった。皆、先を争って
美女の体を求めている。
 なにせ魅力あふれる美貌をもったロマーニャだ。獰猛な雄の本能を刺激
しないわけがない。
 服を破り素肌が現れるやいなや、何本もの野太い手が白い肉を掴み始めた。
 弄り、はいずり回す。女に群がるその様子はまるで蜜に群がる蟻のようだ。
「い、嫌っ! さわらないで! ――嫌ああぁっ!?」
 二人の男がむきだしになった乳房の先のそれぞれに吸いついた。残った男
たちも舌を垂らしながら、思い思いの場所を犬のようにベロベロと舐めだす。
 顔、胸、腋、腹、太もも、足の先……ロマーニャのなめらかな肌という肌
が生温かい唾液で汚される。ベトベトした粘液を知覚した。
 おぞましい嫌悪感が、虫のようにぞわぞわと背筋を徘徊している。
「――ひっ!?」
 足を強制的に横へと開かせる。と、すぐに太い指が膣と菊穴に捻じり込ま
れた。
 こじ開けるような乱暴な侵入。突き刺すような痛みにロマーニャは呻く。
 膣穴に入れられた指は、早く濡らせと言わんばかりにむやみやたらとかき回
され、菊穴にいたっては、広がればいいとばかりに力づくで指を根元まで入れら
れる。
 雄側の欲求に合わせた一方的な愛撫。感じるどころではない。
 あまりの痛みに、ロマーニャの目じりに涙が大きな粒となってたまる。
 苦痛は体だけでなく、心までも蝕んでいった。
「痛っ! 痛いっ……抜いてぇ……っ!」
 そんな懇願など強姦魔たちを喜ばせるだけだと、わかっていたが、それで
も叫ばずにはいられない。
 抵抗する力は失せていた。その隙をつかれて衣類の全てをはぎ取られ、全
裸にされた。
 それは、肉食動物に仕留められた草食動物の惨めな餌食の姿と、よく似て
いた。
「んぐうぅぅっっ!?」
 苦しみ悶える姿にたまらなくなったのか、男の一人がズボンをおろし、
ぎんぎんに猛ったものをロマーニャの口内に押しこんだ。
 舌に感じる気味の悪い液体。強烈な異臭。たちまち、すさまじい吐き気が
胃からせりあがってきたが、自ら異物を取り除くことなどできるはずもない。
 噛みつかないよう下顎を押さえられて、小さな口腔が醜い陰茎に占領され
る。
「んぅぅっ!? んごぅっ!? んぐぅううっっ!?」
 男は恍惚な顔を隠そうともせずに、夢中で肉棒を上下に動かした。
 ロマーニャの喉に当たるまで深く差し、引き上げ、再び差す。凶暴なピス
トン運動。呼吸器官が潰れる錯覚さえした。
 膣とはまた別の柔らかい内部を男は心ゆくまで楽しみ、それから射精した。
もちろん口内で。
「んごおおうぅぅっ!!?」
 内部にあふれる生臭い汁をまともに受けて、ロマーニャの瞳が大きく開く。
 男は男根を引き抜くのと同時に、精子を吐きだした。べちゃりと床に汚ら
わしい白がへばりつく。
「かはっ……はっ……!」
 精液を吐いたあとも、ロマーニャは何度も唾を床に捨て続けた。注がれた
雄汁をなかったことにしたかった。
 だがいくら唾液を打ち捨てても、口内にただよう汚臭までを消すことなど
できはしない。
 涙の粒が破裂する。一筋の道となって頬に流れる。ただひたすら辛かった。
「うぅ……っ……姉ちゃん……姉ちゃあん……」
 時を同じくしてヴェネチアーナも泣いていた。
 見ていることしかできないのだ。目の前の惨劇に対して、自分はあまりに
も無力だった。
「爺ちゃあん……!」
 姉を助けてくれ。心で口で、何度祖父に助けを求めただろう。
 もうこの世にはいない。来るはずがない。それでもヴェネチアーナは儚い
希望にすがった。この悲劇を誰かに破って欲しかった。
 しかし、そんな妹の健気な気持ちを踏み潰すかのように、男たちは姉に
最後のとどめを刺しにかかった。
 仰向けにしていたロマーニャをひっくり返し、男の一人が体の下に潜り
込む。
「――ひぎぃぃっ!!?」
 突如、ロマーニャの身に襲いかかる激痛。
 体の下の男が膣を、後ろから別の男が菊穴を、両方同時に男根で貫いた。
内部の肉がペニスとペニスで挟まれる。極太に育った肉茎が子宮と腸を暴虐
に圧迫する。
 男たちは拍子を合わせるように、そろって動き始めた。肥大した肉の丸太
が、ゴリゴリズボズボと繊細な内部を容赦なくえぐる。
「あああああああっっ!? うああああああっっ!?」
 絶叫。めりめりと身が裂けんばかりの暴力にロマーニャは狂い叫ぶ。
 目はこれ以上にないほど大きく見開き、口は舌や歯が全て見えるほど大き
な穴をあけている。。
 耐えられない。誰が見てもそう判断するほど、無残な姿だ。だが、その姿
こそ男たちが求めていたものだった。
 “国”というはるかに高い次元に位置する存在を、穢れなき女神のような
崇高な女性を、至高の美しさを持つ“イタリア”を、恥辱を尽くして汚し、
犯しぬく行為。欲にまみれた粗暴な雄たちにとってはまさに至上の喜びで
あったのだ。
 そんな男たちの内心を代弁するかのように、肉槍はロマーニャの内部でま
すます固くなり、膨張していく。
 入り口、奥を問わず、太い幹が何度も往復しロマーニャを責め苦しめる。
「嫌ぁぁああ―――っっ! 嫌……んぶぅぅっ!?」
 いきなり塞がれる言葉。ほんの少し前に感じた思い出したくもない悪夢の
感触。ずっぽりと、再び口内にペニスをはめこまれる。
 さらに両手のそれぞれに男根を握らされ、余った者たちが頬や背中や尻に
各々の棒を擦りつけ始めた。指と柔肌のしっとりと吸いつくような刺激を受
けて、亀頭からぬるぬるした男汁が垂れだす。
「ん―――ううぅぅううっっ!? んぶぶぅぅぅ―――っっ!?」
「姉ちゃああん!? やめてえっ! お願いだからやめてええぇぇっっ!
嫌あ―――っっ! イヤ嫌ああああぁぁぁっっ!?」
 目を覆いたく程、おぞましい光景だった。
 姉妹にとっては、たった一本のペニスでさえ身の毛がよだつほど醜悪で凶悪
な代物であるのに、それが何本もさらけだされていた。そして、妹の目の前で
ペニスが姉を襲っている。
 三本のペニスが三つの穴を同時に犯し、二本のペニスが手による奉仕を強
制し、やはり二本のペニスが両頬に押しつけられ、残ったペニスがなめらか
な肌の上を滑る。
 もはや化け物に陵辱されているのと何ら変わりはなかった。丈の短い触手
に嬲られているのだ。
「んううぅぅううっっ! んぐぅっ!? んぐっ、むぶううぅぅぅっっ!?」
 律動の速度が上がる。それぞれの部位で男たちが一斉に追い上げをかける。
 ビクンと、ひときわ大きくロマーニャの体が跳ねた。
 膣肉がきしむ、腸壁が抉られる、喉奥が突かれる。胎内で間を隔てて男根が
擦れあい、粘着液が指と肌をベタベタに汚す。
 肉の凶器がロマーニャの体と心を切り裂いていく。
 悔しさや屈辱など、どこかに吹き飛んだ。痛覚はとうの昔に麻痺している
のに苦悶はしっかりと存在していた。
 壊れる。壊される。発狂するかもしれない。二度と元に戻らなくなるかも
しれない。堕落への恐怖が心を浸食する。
 永遠に抜け出させない輪姦地獄。絶望が心を手折ろうとしたまさにその時、
申し合わせたように男たちの動きが止まった。
 むろん、慈愛の心が芽生えたからではない。

 ――凶器がついに破裂したのだ。

「んごうぅっ!? がはっ! かっ、はっ………――ああああああぁぁぁぁぁ
あああああああああぁぁぁっっっっ!!!!?」
 最初に口内にあった亀頭から精液が放たれ、少し遅れて膣と肛門の中に
ぶち撒かれた。
 熱い精子が舌と歯を汚し、子宮口を叩き、うねる腸にへばりつく。自我が
残らず破壊されたかと思うほどの衝撃だった。
 肉竿が引き抜かれるのと同時に、ロマーニャの体が仰向けに倒れる。
 どうっと音をたてて崩れる肢体。追い打ちをかけるように、柔肌で肉茎を
しごいていた男たちが雄汁をふりかけた。
 白濁のシャワー。髪、顔、体、ロマーニャの全てを覆い尽くすように、
汚れた白い雨はしなやかな肉体をうっていった。




 あの後、気を失ってしまったらしい。ふと目を覚ましたとき、ロマーニャ
はベッドに寝かされていた。ヴェネチアーナとともに閉じ込められていた場
所とは、また別の独房だった。
 どうやら姉妹別々に離されたらしく、かの妹はそばにいない。
 室内は無機質そのものだったが、寝台と生活に必要な最低限の品物は一通り
そろえてあった。敵の待遇にしては、そう悪くはない。
 すでに数日が経過していた。
 あのとき以降、ロマーニャに対して、あの凶夢のような陵辱は行われるこ
とはなかった。
 そのせいか、目覚めたばかりの頃は節々が痛んで、とても起きあがれる
状態ではなかった体も、今では多少の不調をのぞいては自由に動けるほど
までに回復していた。
 一応、食事は毎日出されたし、無茶な身体の酷使もない。平安だった。

 ――『身体』に関しては。

 部屋に置かれた簡素な時計。今夜も長針、短針がある一定の時刻をさす。
その瞬間、ロマーニャはビクリと身を強張らせた。
 部屋の外、どこか遠くのほうから足音が響き始める。
 間違いない、奴だ。几帳面な性格らしく、この時刻より遅れたことはないし、
また早く来たこともない。
 がちゃりと鍵をとく音。音源はこの部屋ではなく、すぐ隣だ。無意識のう
ちに握りしめた掌がじっとりと汗ばんでいる。瞼はまばたきを忘れていた。
 ドアが開く音、閉まる音、ほんの少しの静寂、それから……
『嫌っ! 来ないで……っ!』
 薄い壁を越して、鋭い悲鳴があがった。
「っ……!?」
 ロマーニャが怯えを含んだ息をのみ込む。
 声の主はヴェネチアーナ。どこにいるのか知らないが、どうか無事でいて
ほしいと願っていた妹。皮肉にも、彼女の危機が居場所を知らせた。
『やだやだ! 来ないでよ! ……やだあっっ!』
 その声音と台詞だけで、何をされようとしているのか、目で見るように
わかる。あいつが迫っているのだ。名はドイツ。自分たちを捕らえ、こん
な目に遭わせたそもそもの原因である張本人だ。
「あのじゃがいも野郎……っ!」
 ぎりっとロマーニャは奥歯をきしませる。
 おかしいと思っていたのだ。
 自分が凌辱を受けたあのとき、いくら精神的に苦しめるとはいえ、ヴェネ
チアーナには縄での束縛以外になにもなかった。ヴェネチアーナもまた、
男たちに欲情の対象として見られていたのにも関わらずだ。
 それはなぜか。 もちろん、手を出すわけにはいかなかったからだ。
 男たちの親玉でもある“国”が、ヴェネチアーナを見染めたのだから。
『イタリア……イタリア……ッ!』
 耳にするだけで憎しみが沸く低い声。
 きっちりと後ろに撫でつけた金髪、底冷えのするような青い目と白い肌、
その何もかもがロマーニャの神経に障った。
「あんな……あんな奴に……!」
 絶対に捕まるものかと、固く心に誓っていたというのに。
 戦いに敗れたあのとき、ロマーニャはヴェネチアーナとともに、敵地から
抜け出そうと必死で逃げまわっていた。
 敵に囲まれたときだって、諦めることなく二人で死に物狂いで戦った。
 その結果、囲みの一つを破ることに成功し、姉妹そろって飛び出すことが
できた。
 味方のいる陣地はもう目と鼻の先。すっかり疲弊しきっていたが、気力を
振り絞って駆けた。少なくとも身柄の安全は保障されたのだと、信じて疑わ
なかった。
 そのときだった。まさにゴールの境界線ともいえるべき地点にドイツ率い
る部隊が姿を現したのは。
 姉妹を見つけたというのに、ドイツは表情ひとつ変えなかった。まるで追
いついたというよりかは、やっと来たかとでも言いたげな表情で、冷ややか
な視線を送っていた。
 そこでようやく姉妹は思い知った。敵はただ追いかけていたわけではなく、
ドイツが待ち伏せている地点にまで誘導をしていたことに。
 不意打ち。疲労。取り上げられた希望。そのまとまった衝撃は二人の精神
を完全に打ち崩した。
 それから後のことはあまり思い出したくない。
 だが、それでもロマーニャには忘れたいのに鮮明に覚えてしまった気分の
悪い映像がある。
 拘束されるさい、ふと悪寒の感じるままに向けた視線の先。そこには妹に
よからぬ感情を秘めた瞳で見つめるドイツが……
『――きゃあああああああっっ!?』
 空気の張り裂けんばかりの声に、ロマーニャははっと我に返った。
 今夜もヴェネチアーナが犯される。避けようのない現実。自分はここで予
定通りの悲劇を壁越しで感じ取るだけ。
 聞きたくなかった。ベッドにもぐりこんで音という音を遮断したかった。
 しかし、ここで耳を塞ぐのは、妹に対しての裏切りのように思えてならな
かった。だから今宵もロマーニャは耐える。姉と妹、あの凌辱のときとは
全く逆の苦しみをそれぞれ受ける。
『嫌あっ!? やめてっ! 嫌――っ嫌嫌ああ――――っっ!?』
 ドタンバタンと一通り取っ組み合う気配が聞こえた後は、ヴェネチアーナ
の悲鳴だけが壁を通る。組み伏せられたのだろう。
 コンプレックスを抱いたこともあった。だけどそれ以上に大切な妹だった。
見えないはずのヴェネチアーナの怯える顔が脳裏をかすめて、ロマーニャは
思わず両手で目を覆う。胸が張り裂けそうだ。
『ひあっ!? だ、だめえっ! やめてっ! やめてええぇぇっっ!』
『俺のだ! 俺のものだイタリア……!』
 ヴェネチアーナの心を奪おうとドイツは襲う。その強襲こそ最も心が遠ざ
かる行為とも知らずに。
 とんだ笑い話だ。
 きっとドイツは、喜劇役者のようにオーバーな身ぶりと大げさな言葉で、
妹に迫っているのだろう。そばにいるのに、なぜ手に入らないのだろうと、
大真面目に考えながら。滑稽だ。声をあげて笑いたくなる。
 しかし、笑い声のかわりに出たものは、濃縮された悲しみがつまった涙
だった。
『やだあっ! やだやだやだ…………――姉ちゃあんっ!』
 すでに痛みを訴えているロマーニャの心に、さらに追い打ちがかかる。
 姉の名を呼ぶ悲痛な声。
『姉ちゃあん! ローマ爺ちゃあん! 嫌あああっ!』
「ヴェネチアーナ……!」
 ロマーニャは顔あげると、体を壁に密着させた。
 両手で押すようにして壁面にふれる。声をよく通すほど薄い。にも関わ
らず、障害として確かに存在する隔たり。助けを妨げるもの。
 ロマーニャは拳を壁に叩きつけた。
「――ヴェネチアーナァっ!!」
 慟哭が部屋に響いた。さらに壁を叩く。ありったけの力で何度も何度も。
 この壁の向こうに妹がいる。助けを求めている。すぐにでも駆けつけて、
妹を苦しめる卑怯な悪漢の顔を殴りつけてやりたい。
 ――もちろんできるはずもなかった。閉じ込められているのだから。
『姉ちゃあんっ! 姉ちゃああんっっ!! 助けて! 助けてぇっっ!
 ――あああああ駄目ええぇぇぇっっ!!?』
「ヴェネチアーナッ! ヴェネチアーナアアァァッッ……!!」
 生き地獄は明け方ちかくまで続いた。
 その間じゅう、ロマーニャは壁から離れることはなく、ずっと泣いていた。
 助かりたいのに、出口が見えない。



 
「おお……君がイタリア国か……!」
 質の良いベッドの上、やけに位の高そうな中年の男がロマーニャの体を服
の上から探っている。
 この男のためなのか、ロマーニャは体の線にぴったりとそい、また、足元
に深い切れ目のスリットが入った細いドレスと、豪華な下着を身につけさせ
られていた。
 部屋の中は上流の人物が入るのにふさわしいよう整えられていて、洒落た
調度品があちこちに散らばっていた。
「“国”とはいえ女性そのものじゃないか……! しかも、こんなに美しい
とは……」
 息を荒げながら、男は胸や尻など女体の特に柔らかい部分を熱心にさすっ
ている。
 その醜さ、下品さにロマーニャは不愉快そうに顔を歪める。
 突然牢から連れ出されたと思ったら、この仕打ち。娼婦のようのような扱
いを受けて腹が立たないわけがない。普段のロマーニャなら、こんな好事
家の横っつらなんか、ひっぱたいていたところだったろう。
 だが、いかに暴れたくとも手足を動かすことはできなかった。
 媚薬をうたれていたのだ。ろくな抵抗もできないほど体を弱らせる、
強い効果のあるやつを。おかげで、憎まれ口ひとつたたくこともできない。
「ゃっ……んむう!?」
 男はベロリと犬のようにロマーニャの頬をなめてから、無理やりキスを
した。生温かい息と唾液をロマーニャの喉奥へと送り込む。
 さらにドレスのファスナーを下ろし、上から少しずつ衣服を脱がせていく。
 ブラジャーのホックをはずすと、ぷるんと柔らかそうな乳房が飛び出した。
 凌辱者はロマーニャの体を後ろから抱くと、いやらしい手つきで胸を揉み
しだき始めた。
「ぁ……んふ……は……ぁ……!」
 ぎゅっぎゅっと乳肉が圧迫されるたびに、下半身が疼いてくる。
 どうやら、予想以上に効果のある薬だったらしい。吐息とともに甘い声も
漏れ出てしまう。どんなに固く唇を結んでも、熱を帯びた嬌声を閉じること
はできなかった。
「ほら」
 言葉と同時に男が膨らみの頂点を潰す。
「――やあっ!?」
 その瞬間、寒気のような痺れがロマーニャの背面を駆け抜けた。
 神経にぞくりとした塊が通って、思考が一時的に停止する。
「んん? ずいぶん固くなってるじゃないか」
「ああ……っ! あ、あ……そこは……っ!」
「コリコリしていてうまそうだな。よし、味見してやる」
 男が片側の乳首に吸いついた。
 派手な音をたてて吸い上げたあと、ちろちろと舌先で嬲る。口の中で感じ
る突起の硬度に生唾を飲み込みながら、しつこくしつこく舐る。反対側の
乳首も同じように。やがて一通り味わいつくすと、乳首を濡らしている唾液
をローション代わりに使って、くりゅくりゅと指で責めた。
「ああ……っ!? んぅ……くっ……嫌ぁ! あ、あ、あああ……っ!?」
「ほらほら、ほら、気持ちいいか? ん?」
 揶揄するようにせきたてながら、男は胸の性感帯を執拗にいじくりまわす。
 淫らな顔でロマーニャは喘いだ。感じているのだ。二つの小さな快楽の粒を
潰されているだけで。どんなに心が拒んでいても、体はぐんぐんと感度を上
げていく。
 やがて、男は充分に胸を堪能し終わると、ロマーニャの下肢へと手を伸ばし
た。ショーツを膝まで下げとっくに潤んでいる秘部に指を当てる。
「駄目……っ!?」
「すごいな、ぐしょぐしょだ」
 ぐちゅりと音をたてながら、男が蜜のあふれている秘唇に二本指を入れる。
 太い指に粘液が絡み、膣がきゅうきゅうと締め付ける。その内部の熱さに
凌辱者は感嘆した。
 指を根元まで入れ、ぐるりと大きく回す。
「――ふああっ!?」
「ここがいいか? ならもっとかき回してやる」
 ぐちゅぐちゅぐちゅっ! ぬちゅっ!
 束ねた男の指が激しく愛蜜をかきまぜる。
 女体の中で最大の急所を責められて、ロマーニャは苦しそうに体を揺らし
た。下半身から帯びた熱が、足の指先から頭のてっぺんまで一気に広がって
いく。熱い。芯からとろけてしまいそうだ。
「イヤぁぁっ! ああっ!? あああぁぁ―――っ!?」
 男は膣を責めながら、空いていた手でクリトリスをつまみ、潰した。
 増加した刺激。すさまじい快感がロマーニャを襲う。
 不本意ながらも自らの背を男にあずけて、左右に首をふりながら出したい
だけ声を出してしまう。
 漏れる愛液の量が増え、腰の奥に鈍い変調がくる。得体のしれない感覚。
もうすぐ、高められた淫らさが解放される。
 男はとどめをさすようにひと際強く指を突き入れた。
「――ぁぅっ!?」
 刹那、感じた一時的な四肢の麻痺。
 ビクンとロマーニャの体が跳ねあがる。
「あ―――ああああああああっっっ!?」
 雪崩のように体をくだる熱の放出。
 高く高く啼きながら、ロマーニャの膣から透明な液が噴水のように噴き出
した。


「……ぁ……はぁ……は……」
 ぜいぜいと大きく呼吸を乱しながら、ロマーニャはシーツの上に体を投げ
出していた。
 ただでさえ体力消費の激しい絶頂に、さらに強制という負荷まで与えられて、
さしものロマーニャの強い心にも微かな亀裂が走る。
「どうだ? そろそろ欲しくなってきたか?」
 何かをやり遂げたような男の声が耳に届く。
 相変わらず下品な顔で、男はロマーニャを見下ろしていた。
 獣のようにハアハアとだらしない息を吐いている男に、唾を吐いてやりたか
った。
 あんなグロテスクで気持ちの悪いものなど、欲しいどころか見たくもない。
 ロマーニャにとって唯一、受け入れてもいいと思う異性は、ただひとりだ
けだ。
(スペイン……)
 胸の中で、その大切なたったひとりの名を呟く。
 太陽のように明るい男。太陽のように温かい男。あの優しい笑顔が脳裏に
浮かび、胸がきゅっと切なくなる。
(助けに来なさいよ、馬鹿スペイン……)
 声にだしてしまうと辛いから、心の中だけで可愛げのない台詞を口にする。
 それでも、ちりりと胸は痛んだ。もう二度と会えないのだろうか。
 だが、答えを出すその前に、思考を打ち破られる。
「――きゃあああっ!?」
 何かが引き下げられる感覚。
 凌辱者の手によって、中途半端に脱がされていたショーツが完全に抜き取
られたのだ。丸見えになった性器が外気にさらされる。
「すぐにぶちこんでやる……!」
 野獣が下着ごと自らのズボンをおろした。
 ずるりと、大きく育った肉竿が現われる。
「ひっ……!?」
 ロマーニャが恐怖で凍りついた。
 赤黒い竿肌の表面には固さを誇示するかのようにいくつもの筋が張り、
先はだらだらと生温かい汁が垂れている。棍棒のように肥大し。先が腹につ
くほど大きく反り返ったソレはもはや凶器以外のなにものでもない。
「嫌……嫌ぁ……!」
 ロマーニャの顔から血の気が引き、陶器のように青白く変色する。
 逃げたくとも、まだ薬が効いているのと、怯えのために指一本動かせない。
 嫌だ。あんなもの挿入されるなんて絶対に嫌だ。
 しかし、拒んだところでロマーニャの逃げ道など元々ないのだ。
(スペイン……!)
 神に乞うかわりに、今一度強く、愛しい名を叫ぶ。
 無理やり、ロマーニャの股が開かれ女性の急所に醜い棒が当てられる。
 ズブリ。肉槍が貫いた。
「――うああぁぁぁああああっっ!?」
 裂かれるような衝撃。次に襲ってきたのは身の毛もよだつ嫌悪感だった。
 胎内に汚らわしい物体が我が物顔で往復している。望まない相手との性行
為。
 体に負担は輪姦されたときよりかは少ないが、心の苦しみはあの時よりも
はるかに上だった。
「ぐおお……っ!」
 ロマーニャの中の具合がよほどいいのか、獣は夢中になって腰をふってい
る。
 ずちゅずちゅ! ぬちゅぬちゅぬちゅっ!!
 肉傘が繊細な内部をえぐる、かき回す。あまりにも深く差し込むせいか、
幾度となく男の濃い陰毛がロマーニャの股に当たった。
「ああああああっ!? 嫌ぁあ――――っ!?」
 ロマーニャの悲鳴に合わせて内部が収縮する。縮んだ膣は肉棒をぎゅっと
締め付ける。圧迫の刺激を受けて、肉棒はますます膨張する。太くなった分
膣内がより一層広がる。さらに高い嬌声をあげて膣が収縮。悪循環だ。
「言え! もっと犯してほしいと言え!」
「嫌あっ! 嫌ぁぁああああっっ!!」
 半狂乱になりながら体を貪る男をロマーニャは全力で拒むが律動は止まな
い。熟れた結合部から淫らな液体が掻きだされる。
 強制的に雌の本能を刺激され、ロマーニャは狂い喘いだ。ガクガクと揺さ
ぶられ、四肢がはずれてしまいそうだ。
 やがて男はひと際深いところへ突き入れると動きを止めた。絶頂がおとず
れたのだ。
「うおおおおお……っ!」
「ああああぁぁぁあああああっっ!?」
 ドピュドピュとほとばしる熱い精子が子宮口を叩く。
 汚された胎内、感じたくもない熱が犯されたという事実をいやがおうでも
思い知らされる。
 男が陰茎を引き抜くと、飲みきれなかった白濁がどろりと流れた。
(スペイン……)
 ロマーニャは目を閉じる。すぐにツっと走る涙。
 闇の中で、静かにスペインの幻影を思い浮かべた。



 さらに数日が経過した。
 いい加減見あきた独房ですごす単調な毎日。相変わらず状況は変わってい
ない。
 否、ひとつだけあった。
 隣の部屋にいるはずのヴェネチアーナの声が、一切聞こえなくなったのだ。
 時折巡回する見張りにそのことをたずねると、別の場所に移動をさせたと
そっけない返答をもらった。
「なんなのよ……もう……!」
 嫌な予感しかしない。
 まさか殺されることはないだろうし、また、国は簡単には死なない。
 しかし、だからといって安心できるはずがない。殺すことはできなくとも、
心身の苦痛を与えることはできるのだ。
 現にヴェネチアーナは毎晩のように悪魔に犯され続けていた。立ち直れな
いほどの絶望に、心をズタズタにされたはずだ。
「くっ……!」
 ロマーニャは唇を噛みしめる。口の端が切れて血が流れるほど強く。
 精神的に追い詰められているのは、なにもヴェネチアーナだけではない。
「どうすりゃいいってのよ……!」
 妹はそばにいない。自分の身も安全ではない。助けが来る可能性も薄い。
脱出などほぼ完全に不可能だ。
 個人の力だけでは太刀打ちできない困難ばかりで、イライラする。なにも
できることがなくて、心だけが焦っている。
 もし、このまま出ることができなかったら……。
「――――ッ!」
 うっかり想像してしまった最悪な結末に、ロマーニャは大きく首を横に振
って脳内の映像を消す。
 そのとき、ドアの外で足音が聞こえた。続いてこの部屋の施錠を解く音が
響く。
 ロマーニャはドアを見つめ、身構えた。



 妹に会わせてやると、ロマーニャはある場所に連れていかれた。
 今までとはかっての違うやけに広い部屋。一歩足を踏み入れたとたん、
ロマーニャは己の目を疑った。
「ヴェネチアーナ……!」
 部屋の最奥にあるベッドの上、下着姿のヴェネチアーナが腰かけていた。
 急いでロマーニャは駆け寄る。だが。
「――きゃっ!?」
 体に強い衝撃。見えない何かが阻む。
(なによ、これ……)
 マジックミラーだろうか。どうもヴェネチアーナほうからは、ロマーニャ
の姿は見えていないらしい。
「ヴェネチアーナ! 聞こえる、ヴェネチアーナ!」
 大声で呼びかけるも、ヴェネチアーナはピクリとも反応しない。部屋が防
音になっているようだ。
 どうにかして連絡がとれないものか。うまい考えが思い浮かばず、ロマー
ニャがやきもきしていると、不意にヴェネチアーナ側のドアが開いた。
 ひとりの男がヴェネチアーナに近づいていく。
 なんと自分たち姉妹を惨めな境遇に追いやった張本人だった。
『ドイツ……』
 ヴェネチアーナの声。ロマーニャ側の部屋の天井に取り付けられたスピー
カーを通して、妹の言葉が届く。
 ロマーニャの声が通ることはできなくても、ヴェネチアーナからは可能ら
しい。
 ドイツはヴェネチアーナに近づき、その隣に腰掛ける。するといきなり
ヴェネチアーナの唇を奪った。
「な、なにしてんのよ!?」
 敵の親玉からのキス。だがヴェネチアーナは嬉々としてそれを受け入れた。
ロマーニャに見せつけるように、二人は濃厚な口づけを交わす。舌を絡ませ
合い、唾液を分け合う。
 想像もしなかった光景を目の当たりにして、ロマーニャは声を失った。
知らず足から力が抜け、ペタリとその場に座り込む。
 そんなロマーニャのことなど露知らず、壁の向こうの二人は先へ進む。
 ヴェネチアーナはドイツの下の衣類を緩めると、その奥で息づいていたも
のを取り出した。立ち上がりかけたたくましい雄を、ためらいもせずに口に
含む。
『ぁむ……んぅ……はむ……』
 ヴェネチアーナは喉奥まで深く肉棒を頬張った。上下に顔を動かし、先っ
ぽをキャンディのようにペロペロと舐める。
 股ぐらで行われる奉仕に、ドイツは嗜虐的な笑みを浮かべ、ロマーニャは
悲鳴をあげないよう、必死になって口元を手で押さえていた。
『ああ……うまくなったな、イタリア……』
『ぷはっ……ねえ、はやくちょうだい……』
『なら、こっちに来い』
 ドイツはヴェネチアーナの腰を抱くと、壁のほうへと連れていく。偶然な
のか故意なのか、二人はロマーニャの座り込んでいるちょうど目の前で立ち
止まった。
『ここに手をついて尻を突き出せ』
『そんな……鏡の前で恥ずかしい……』
 ヴェネチアーナの側からは鏡の壁になっているらしい。
 恥ずかしそうに、だけどどこか興奮したような面持ちで、ヴェネチアーナ
はドイツから顔を反らす。
『言うとおりにするんだ』
 ドイツはヴェネチアーナの手をとると、やや強引に壁に手をつけさせた。
おずおずとヴェネチアーナの細い腰が後ろに引き、ふっくらとした臀部が
ドイツの前に突き出される。
 骨ばった指がスルスルと女物のショーツをおろすと、髪と同じ色をした
薄い茂みが現われた。
 さっそくドイツが昂ったものを秘部に当てようとする。だがそのとき、な
にかを思いついたのか、ドイツは少し考え込むそぶりをみせ、それからヴェ
ネチアーナに声をかけた。
『イタリア、お前は誰のものだ?』
『え……? ドイツだよ』
 当然といわんばかりにヴェネチアーナは答えた。
 正面から冷や水をかけられた時のような悪寒がロマーニャの背を走る。
 会話は続く。
『なら、お前の心や体は誰のものだ?』
『もちろんドイツのだよ』
『お前はなんのために生まれてきた?』
『ドイツと出会って、ドイツと一緒になるために』
 満足そうに、意味ありげな笑みを深くしながら、ドイツは最後の質問をす
る。今のヴェネチアーナの立場をロマーニャに知らせるための最後の問答を。
『イタリア、お前の名はなんだ?』
『もう、そんなの決まってるよ〜』


『――“ドイツ”だよ。私はドイツ領北イタリア州、ヴェネチアーナ』

 その目に光はなかった。

「――ヴェネチアーナァァッッ!!?」
 錯乱した悲鳴が空を破いた。
 救いを求める声。奈落の底まで響くような大きな声だった。
 だけど壁はロマーニャの言葉を通さない。間近の悲劇に気がつかない二人
は、予定通りに行為を開始する。
 ドイツは固く立ち上がった男根を濡れた秘唇の奥に差し込んだ。
 ぐちゅり。太い幹が前後に動く。激しく粘液をかき混ぜ合うピストン運動。
『ああ……っ! ドイツ、おっきい……!』
『なんだ? しゃぶっただけで、こんなに濡らしたのか? とんだ淫乱だ』
『んぅっ! 淫乱じゃないもん……!』
『なら確かめてやる』
 パンパンと打ちつけるリズムが短くなる。ドイツが突きあげるたびに、
ヴェネチアーナの嬌声はどんどん高くなっていった。
 ロマーニャの目の前で繰り広げられる痴態。信じたくなくて、何度も妹に
呼びかける。
「ヴェネチアーナ!? ヴェネチアーナ!? ヴェネチアーナァァ―――ッッ!?」
 握りしめた拳で壁を叩く。喉が潰れても声をあげて叫び続ける。殴りつけ
た拳が裂け、赤い血が壁に染みていく。
 だが、なにをしてもロマーニャから届くものは一切ない。淫らであさまし
い行為の雑音が一方的に送られるだけだ。
「……ヴェネチアーナ……」
 不意に拳が止む。壁に両手をつき、すがるように体を寄せる。
 ロマーニャは泣いていた。
『ああっ! いい……いいよお……! もっと激しく突いてぇ……!』
 すでにヴェネチアーナの目に焦点はなく、開きっぱなしの口からは唾液が
垂れ流しになっている。恍惚な表情で雄を受け入れるその姿には、もうかつ
ての明るいヴェネチアーナの面影などなかった。
 もうヴェネチアーナは戻らない。“イタリア”がひとつになることはない。
 残酷な事実がロマーニャの涙を増やす。最初から出口
などなかったのだ。
果てのない暗闇に包まれて、ロマーニャはむせび泣いた。
 しかし、悲劇の終わりはここではない。
「え……?」
 ガチャリと後ろでドアの開く気配。ハッとロマーニャはふり返った。
 ドタドタと派手な音をたてながら、部屋になだれ込む幾人もの男たち。
その誰もが、ギラギラと獣のような光を瞳に宿らせている。
 ひっとロマーニャは息をのみ、知りたくもない未来を悟ってしまう。
 
 ――戻れなくなってしまうのはヴェネチアーナだけではない。

「こ、来ないで……!」
 ロマーニャの声が震える。目は怯えきっている。出口も逃げ道もない。
救いの手がさしのばされることはない。
 なにもかもが、今、終ろうとしていた。

「嫌ああぁぁぁっ!? 助けて! 助けてスペイン!! スペイン! スペイン!
スペイン助けて!! 助け…………嫌嫌嫌嫌嫌嫌あああああああぁぁあああああ
ぁぁぁっっっ!!!」




 ある部屋に二人の女性の声が響いていた。
 ひとりは楽園に送られた聖者のような歓喜の、もうひとりは地獄に堕とされた
亡者のような悲痛の、きれいに対になった高い嬌声。
 かつて“イタリア”と呼ばれ、二人の姉妹とともに存在した“国”の最後の声だった。



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