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 北風と太陽

【メインCP】 プロイセン×ハンガリー・オーストリア×ハンガリー 
【傾向】 自分が男になれないと知って荒れるハンガリーと、それに対するプロイセンとオーストリア。キスまで。
【その他】 同居とか結婚とからへんの史実考慮はなしです。



耳を痛める音を立て、また新たな破壊が為された。
表面をえぐられた棚は不恰好にその戸を開き、元は美しかったのであろう置物は例外なく床に叩き落され、形を失っている。
家具も壁も、そこかしこに致命的な傷を負いもはや修復不可な様を呈していた。
破壊音の途絶えない荒らされた部屋に、ときおり獣じみた咆哮がまじる。華奢な体を、精一杯使って力を奮っている部屋の主の、低い呻き声。
痛々しい音が響き、かろうじて壁にかかっていた鏡がひび割れる。
「……、」
ようやく動きを止めたハンガリーは呆然と、割れた鏡に映る自分の姿をみつめた。
ぱりん、と足下で欠片が鳴る。
魅入られたように鏡をみつめるハンガリーは、指先が傷つくのもかまわずそれに手を伸ばし、破片のひとつを手に落とした。
触れたそれで裂くように、わざと強く握り締めたその鋭利な破片を自分の頬へ向け――――
「…っにやってんだてめぇは!?」
寸前、後ろから腕をつかまれる。
慌てるあまり力の加減のできなかったプロイセンに押さえ込まれた体は、びくともできない。
「あ……」
割れた鏡に、映っている。
変わりゆく自分の姿と、変わってしまったプロイセンの。
「見る、な」
「あ?」
「見るな……見るなぁああああああ!!」
華奢な体。
生えてこない男の証と、ふくらんでくる胸。
すこしずつ、まるみを帯びて。
どんどんと、望んだものとはかけ離れていく体。
「見るなああああーっ!」
「ハンガリー!」
力強い腕に抱きしめられる。
「大丈夫だ、大丈夫だから……!」
すっぽりと包み込まれるように腕の中におさまって。
あまりの屈辱に息が詰まりそうだった。
「離せ……っ」
「っ……」
全身で暴れて、抵抗して。
それでも、プロイセンはハンガリーを抱きしめたまま、離さない。
やがてハンガリーが疲れ果て、ただしゃくり上げるようになってようやく力をゆるめ、そっと背中をなでた。
「変わりたくなきゃ、変わんなくていいから」
ずっと、幼いときからそばにいた友人に、プロイセンは精一杯の言葉をかける。
「そのままでいていいから。おまえは、おまえだから」
「離せ……」
うわ言のようにつぶやくハンガリーに、耐え切れず目をつむる。
また抵抗されるだろうかと思いながらも、知らず知らずのうちに、腕に力がこもっていた。
暴れ泣き疲れたハンガリーはいっそ投げやりに力を抜き、じっとしていた。

「…………」
「…………」
しばらくそのままでいた。
互いの熱だけを分け合う時間が過ぎ、ぽつりとハンガリーが口をひらいた。
「プロイセン」
さきほどより幾分はっきりした声に、わずかの安堵でプロイセンは応じる。
「なんだ」
「一人に、しておいてくれないか」
「ハンガリー……」
「もう、暴れないから」
腕の中から、ハンガリーはまっすぐ見上げてくる。
ふいに、プロイセンの心臓がどくりと大きく波打った。
「……一人になりたいんだ」
「わ、かった」
答える声は掠れていた。
身をよじる動きに、はっとして腕をとく。
ひとつだった熱は分かたれ、二人に開いた距離を教えるように、冷たい風が行き過ぎた。
「ハンガリー」
荒れた部屋の中、小さく座り込む後姿に、声をかける。
「おまえ、そのままでいいんだからな」
「…………」
ゆっくりと、扉が閉められる。
壊れて閉じきらないその隙間からの光を受けながら、ハンガリーはつぶやく。
「ばっかじゃねーの……」
変わらないでいられるなら、いいのに。
誰よりも自分こそが、それを望んでいるのに。
――――どんなに望んでも、叶わないそれを、おまえは。
「ばか……」
それが、あいつの優しさなのだと知っている。
だからこそ、どうしようもなく苦しかった。


「…………」
閉じきらない扉の合間から、荒れた室内を見るもう一人がいた。
オーストリアはただ静かに、痛々しい少女の姿を見守っていた。

もうどれくらい過ぎたんだろう。
厚いカーテンの破れた箇所から射す光をぼんやりと眺め、ハンガリーは思う。
じっとしていたところで、状況はなにも変わらない。
わかってはいたが、かといって何をする気力もなく、時が過ぎるのに任せていた。
こうしている間にも。
自分の体は成熟し、女性へと育っていく。
「――……っ」
たまらなかった。
ぎゅっと体を丸め込み、自分自身からも、自分を取り巻くすべてのものからも遮断しようとしたハンガリーの耳に、空気を揺らす音色が届いた。
「!」
目を見張る。
穏やかな、やさしいそれは、強張った心をなでてそっと無理なく染み入ってくる。
どこから――――?
流れ込む音に誘われ、立ち上がる。動かないでいたせいできしむ体の痛みを感じながらカーテンを引いた。
「っ!」
まぶしい光が目を焼く。
とっさにかばうように上げた腕が窓枠を押し、ギィと硝子窓が開いた。
「ハンガリー!」
「!?」
窓の下から嬉しげに呼ばれ、ハンガリーはぎくりと身を強張らせる。
反射的に見下ろすと、やわらかに微笑むオーストリアと目が合った。
彼の隣、中庭に引っ張り出されたピアノにぎょっとする。
ピアノは繊細な楽器だ。
それを外に出すなど、ことさらにピアノを大切にするオーストリアのすることとは思えなかった。
思わず目を向けると、視線の先でオーストリアは笑みを深める。
「降りてきませんか?」
「い……やだ」
久しく出していない声は掠れきっている。
「じゃあ、言い方を変えましょう。どうぞ飛び降りてきてください、ハンガリー」
オーストリアはそう言って、迎えるように両手を広げる。
「受け止めてあげますから」
「はあ!?」
使ってない喉で思わず声を上げてしまい、咳き込んだ。
その間も、オーストリアは笑顔を崩さずハンガリーを見ている。
「本気かよ、坊ちゃん」
「もちろん」
「無理だって」
ここは2階だ。それなりの高さはある。
「やってみなきゃわかりませんよ。私は男ですから」
「っ」
ぴく、とハンガリーの肩が揺れる。
きつい形相で見下ろしたが、オーストリアは悪びれる様子もなく見返してくるだけだ。
カッと、腹のあたりで何かが弾けた。
こんな、楽器を奏でるばかりの坊ちゃんにさえ。
自分は劣るのか。
戦いに戦いを重ね、勝利と敗北とを幾度も味わい常に戦闘に身を置いてきた自分が。
ただ、女だというだけで。
「じゃあ、やってみろよ」
低く、言ったときにはもう、彼に勝利を許すつもりはなかった。
「ええ。どうぞ」
余裕ぶった笑みめがけて、絶対に受け止めきらない勢いをつけて、飛び込む。
窓枠を蹴った瞬間、暗がりの部屋から抜け出した体を太陽が照らすのがわかった。

「――――っっ!」
「いっ…てぇ!!」
したたか体を打ちつけ、ハンガリーはオーストリアに食ってかかる。
「おい。本気でぜんぜんだめじゃねーか!」
「うーん。やっぱり無理でしたか」
さっきまでの強情はどこへやら、あっさり敗北を認めたオーストリアにさらに屈辱を与えるつもりで言う。
「おまえ、それでも男かよ」
冷ややかに言い放ったハンガリーに、けれどオーストリアはやさしく微笑みかける。
「逆だったら、どうだったんでしょうね」
「は?」
「2階から飛び降りるのが私で、受け止めるのが貴女だったなら」
仰向けのまま手をのばし、覆いかぶさるようにしているハンガリーの髪を梳くようになでる。
思いがけずやさしいその手つきに、なぜか動揺した。
「お、俺だったら、おまえくらい受け止めれるに決まってるだろ!」
「そうでしょうねぇ」
「当たり前だ!」
「ええ」
うなずくと、オーストリアはハンガリーをみつめ、言った。
「貴女は、私よりも強いから」
「――――!」
「私は男で、貴女は女性です。でも、貴女の方が私よりずっと、強い。いざ戦闘となれば、私は貴女に守ってもらうこともあるかもしれません。
ねぇ、ハンガリー。それでいいのではないですか?強さや弱さに、男とか女は関係ない。貴女は貴女でしょう」
呆然とみつめかえす目に、笑いかける。
「ハンガリー。貴女は立派な男になることはできないかもしれない。でも」
髪をなでていた手を、頬へすべらす。
「貴女は、素敵な女性になることができる」
ぱた。
雫が、オーストリアへ落ちた。
贈られた言葉は、ひとつの答えだった。
ハンガリーが望み続けたものではなく、だからこそ、逃げることのできないこれから先の道を照らす光のような。
現状を疎むばかりのハンガリー自身ではけっして得られなかったものを、オーストリアは与えたのだ。
頬に触れる指でぬぐってもぬぐっても溢れてくる涙をおさえてしまいたくて、オーストリアはハンガリーの頭ごと胸へ抱き込む。
「変わることを恐れなくていいのですよ。貴女は、強くて素敵な女性になるのだから」
そして、叶うことならそれは、どうか私の隣で。
小さく耳元へ囁かれた言葉に、ハンガリーは涙にぬれた目を上げる。
込み上げる愛おしさに逸りそうになる自分を抑えながら、オーストリアはそっと告げた。
「貴女を愛しています、ハンガリー」
強くて美しい貴女を。
「どうかそばにいてください」
貴女に守ってもらえるのなら、男らしくないのも悪くない。
「……へんなやつ」
「そうですね」
くしゃりと、ハンガリーの顔が泣き笑いにゆがむ。
「私のそばにいてくださったなら、いつか、女性でよかったと思う日がきますよ」
「ほんとかよ」
「本当です。今度は、誓って」
ハンガリー、と呼ぶとぴくんとふるえた。
「あ……」
声音に込められた想いに気づいたのだろうか。口元を笑みにゆるめながら、オーストリアは穏やかに言う。
「目を閉じて」
「ん……」
素直にしたがう。扇のように広がる長いまつげを涙がふちどっている。
そのきらめきさえも愛しく思いながら、そっと頭を引き寄せる。
愛する女性へ、やさしく口づけた。

あいつはまだ、あの暗闇にいるんだろうか。
ウロウロと屋敷の前を歩きまわりながら、プロイセンは迷っていた。
あのとき、自分の腕の中から見上げた目が忘れられない。
力になれるなら、なってやりたかった。
どんなに本人が嫌がっても、あいつが女であるという事実は変わらない。
それならいっそ。
自分の手で。
「……俺様が幸せにしてやる」
必ず。
ちょっとくらい男らしくってもかまわない。
あいつがあいつでありさえすれば。
「……よしっ」
ぐっと力を込め、屋敷の敷地へ踏み込んだ。
どう取り次いでもらおうか、と考えていると、庭の方から楽しげな声が聞こえてきた。
あの坊ちゃんかと思ってむっとする。
あいつが苦しんでるときに、同居人が何を呑気に――――!
文句を言わねば気がすまず、ずかずかと奥へ踏み入った。と、
プロイセンを出迎えたのは、
「あら」
「!」
花の髪飾りをつけた、可愛らしい少女。
だれだ、これ。
意識よりも先に本能が気づき、ばくばくと心臓を打ち鳴らす。
「ひさしぶり、プロイセン」
「っハンガリー、か?」
「おう。じゃ、なくて……。うん。そうよ」
「そっ……」
言葉に詰まった。頭の中がまっしろだ。
「あんときは、おまえにも迷惑かけて、悪かったな。えっと、ごめんなさい」
ぎこちない言葉遣い。
今まで着ているのを見たことがないスカートの裾を気にしてそわそわした様子で、上目遣いに笑いかける。
「っ」
「今は、こんな感じなんだ。……なん、です。似合うだろ?」
「…………」
似合う。似合っている。
降ろした髪も、花の髪飾りも、ふわりと広がるドレスも。
もう一度、恋に落ちそうなほど。
でも。
「どうして……」
「ハンガリー」
呼ばれ、プロイセンの目の前で、ハンガリーはぱっと表情を変えた。そのまま振り返る。
どくり、と心臓が嫌な音を立てた。

「オーストリアさん」
「お茶の用意ができましたよ。ここに……おや」
プロイセンの視界に、嬉しげにオーストリアに駆け寄るハンガリーが映る。
「お久しぶりですね」
「どういう、ことだ」
「何がです」
「そいつの、」
隣に、どうしておまえがいる。
服装や言葉遣いなんて表面上のものはともかくとして、どうして。
ハンガリーは、おまえにそんな表情を向けるんだ。
二人の男は静かに睨み合う。
互いが欲し、ゆずれないものは一つ。
けれど。その勝者は、すでに決定しているのだった。
「あのさ、プロイセン」
はにかむような笑顔で、ハンガリーが言う。
「お…わたし、オーストリアさんと結婚するんだ」
「――ッ!?」
衝撃に、かろうじて立っていられたのは。
幸せそうなハンガリーと、なによりその後ろから口元だけの笑みで自分を見る男へのプライドだった。
「そ…っか」
わんわんと響く頭には、自分の声さえも届かない。
とんでもないことを口走る前に、プロイセンはオーストリアをねめつけたまま、足を後退させた。
「おい? どうし……」
不審げなハンガリーの手が触れる前に、プロイセンは身を翻した。
あっけにとられたハンガリーは、中途半端に手を浮かせたままオーストリアを見て、驚く。
彼が、かつてないほどの厳しい表情をしていたから。
「オーストリア、さん?」
「ハンガリー」
少しだけゆるめた表情で、でも厳しさを残したままオーストリアは言う。
「戦いに、なるかもしれません」
「!」
「守ってくれますか?」
問いかけに、ハンガリーは笑う。
男らしくあろうと女らしくあろうと関係ない、見るものを惹きつける笑顔。
「もちろん!」
それは力強い勝利の女神の微笑み。
今の自分をくれた愛するひとへ捧げる、最強の贈り物なのだった。




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