サンタの袋は何でも出せます
【メインCP】プロイセン×ハンガリー
【サブCP】 イギリス×セーシェル
【傾向】 仄甘純愛ややバカ。
【その他】
スレ掲載時人名を使用していたものに修正を加えてあります。
なお、作中記載の世界的にも有名な某陶磁器人形ですが、別会社にて生産が再開されているようです(公式サイト掲載情報)。ドイツ土産の定番で大変に可愛らしいものです。祝存続。
ほんの少しでいい、素直になってみたい、と彼女は願った。
だがそれは、そもそも他人に願うようなものじゃあなかったのだ。
ヨーロッパ諸国のクリスマスは基本的に家族で過ごすと決まっている。恋人同士仲間同士のパーティは大晦日から元旦にかけてなのだ。
そう言ったら、冬祭に向けて少しばかり燃え尽きた電話の向こうの日本は、うちとは逆なんですね……我が家のクリスマスなんかリア充だらけで〆切り明けの慰労会にもなりませんしねえ、と恨めしげに溜め息をついた。
この忙しい時期、彼女は参戦は出来そうにないから、文明の利器インターネットを通じて数冊の新刊を予約するだけにとどめた。(本音を言えば一度参戦してみたいものだ。しかし夏は暑すぎる)
家族。国民達はそれでいい。しかし国には親も子もないし、基本的に唯一の存在であるせいで家族がいない。
結婚していた頃はよかった。貧乏ながらも楽しいクリスマスだった。オーストリアのピアノが奏でる賛美歌にあわせて歌うイタリアのボーイソプラノ。プレゼントの交換。きよしこのよる。
実家に帰った今はひとりきりだ。政府もそこはかとなく浮かれムードで、親しい国々もやはり忙しい。国を背負っていない暇人の知り合いに一人だけ心当たりはあったけれど、あんなやつ家族でもなんでもない。
まだ時間は大分早いけれど、なんだか気持ちが疲れてしまった。食欲もない。静かに国の繁栄と世界の平和を祈って、幸せな国民の気持ちを分けてもらいながらゆっくり眠ろう。
ハンガリーは寝室の窓辺に飾ったクリスマスの人形を意味もなく並べ替えてみた。
可愛らしい陶器の人形。昨年で製造停止になったというそれは、ドイツ兄弟からのプレゼントで、カードの字は弟の方のしっかりした字だったが、本体を選んだのは多分兄のほうだろう。
だって弟は多忙だし、送られてきた人形はやけに元気一杯でほっぺぷくぷくで、まるで幼い頃の自分のようだった。
バカプロイセンは今頃ジャガイモを茹でていることだろう。それともアイスバインを煮込んでいるのかもしれない。既にビールの一杯も空けてしまった後だろうか。ああ美しき哉兄弟愛。少なくともあそこは一人ではない。
鏡台に向かって髪を梳かしているとドアチャイムが鳴った。夜着に着替えていなくて良かった、と窓から覗いてみると、のんびりとした笑顔があった。
「メリークリスマス!」
今日、世界で一番忙しい国が、大きな白い袋片手に手を振っていた。
大急ぎだからお気遣いなくー。そう言ってフィンランドは玄関先で白い袋を開けた。
今一番欲しいものを一つだけ思い描いてみてください。どんなものでもいい。君が望むものがこの袋から出てきますから。
そう言われてハンガリーは一瞬のうちに色々考えた。考えすぎるほど考えた。家族平和衣装豊作宝石お菓子結婚安眠健康明るい未来。
結局なにがなんだか分からなくなって、黙ってしまった彼女にフィンランドは言った。なんでもいいんですよ。心に素直に願ったことなら、なんだって叶います。だって今日はクリスマスですから。特別な日なんですから。
それで彼女は思ったのだ。心に素直になんて、なれたらきっと楽なのに。
白い袋に手を突っ込んだフィンランドは、あれ?と呟いてそれを引っ張り上げた。もっとなにか柔らかかったり可愛らしかったりするものが出ると思っていたのに。出てきたのは丸みを帯びた瓶だった。
「お酒?」
次の瞬間その瓶が急に重くなった。いや違う。何か余計なものが絡まっている。
ちょっと待っててくださいねと、いぶかしげなハンガリーに断って、袋を床に置いたフィンランドは力いっぱい酒瓶を引っ張り出した。ずるりと余計なものがつられて出てきた。太い眉にやや着崩した上等のスーツ。
力一杯パブり尽くしたイギリスだった。
「えええええハンガリーさん何願ってんですかこれ!!」
「ぎゃぁぁ変態お断り!!」
靴箱の横に立てかけた置きフライパンを振りかぶる。
元から涙目のイギリスは迫り来る鉄のフライパンなんか見えていないようで、半泣きのまま呟いた。
休暇くれよ休暇たった一日でいいからクリスマス休暇南の島で待ってろよハニー英国航空俺を乗せて今すぐ飛びやがれってかなんでクリスマスまで仕事仕事仕事仕事仕事。
ぐすん、と鼻を啜った音は脳天にクリティカルヒットしたフライパンの濁音にかき消された。
傍迷惑な酔っ払いを家まで送り返してあげて、とハンガリーはフィンランドに頼んだ。途中で目覚めて暴れないよう毛布と麻縄でぐるぐるにふんじばったのを、橇の後ろに積んで、フィンランドは彼女を見下ろす。
袋からはそれ以上何も出てこなかったのだ。酒瓶を抱えてハンガリーは悲しそうに微笑んだ。彼女が何を願ったのかはわからない。でも出てきたそれが本意ではなかったことは容易に見て取れた。
「ごめんなさい」
「ううん、気にしないで。もっと分かりやすいものを願うべきだったんだわ」
「ナイトキャップに飲みすぎちゃダメですよ」
「大丈夫よ。それじゃ、頑張ってね。モイモイ」
「どうかハンガリーさんにいい夢が訪れますように。モイモイ」
すべすべの頬に小さなキスを送って、フィンランドは橇を空へ駆け上がらせた。
酒瓶片手に手を振るハンガリーにごめんねともう一度呟き、後ろでぶつぶつ呟くイギリスを見て、深々と溜め息をついた。
上等なプリマス・ジン。よりによって海の男のための酒。なんでこんなもの。酔えってか。酔っ払って寝ろってか。あの変態は出来上がり完成見本ですかそうですか。
ハンガリーはグラスに少しばかりそれを注ぎ、すっかりやさぐれた気分で舐めた。
口当たりは優しい。思っていたより柔らかい風味。涙が出てきた。結局何も変わりやしない。寂しさとやりきれなさが増えただけだ。
クリスマスのばかやろう。どうにもならない私もばかやろう。素直なんて属性もばかやろう。仕事に忙殺されて忘れ去られるクリスマスのほうがどれだけいいことか。
寂しい。
寂しい。
何時の間にかグラスに二杯目、量もたっぷり。少しずつ舐める。灼ける。泣ける。うるさいチャイム。
善意のフィンランドですらこの結末だもの。もう容赦しない。私は寂しくて泣きたいのだどうか放っておいて。チャイムはやまない。
今度は初めからフライパンを構えていきなり鍵を開けた。振りかぶる。
「メリークリスマス!!寂しん坊なハンガリーをこの優しい俺様が夕飯に呼んでやろうとわざわざ迎えに来たぜ!!ってギャー!俺まだなんもしてねえって!やめてフライパンやめて超やめてごめんなさい! って、え? あれ?」
なんでお前泣いてんの。
騒々しくて腹だたしくてアホ面で何様なプロイセンは、何の裏もなさそうな顔で頭を庇う手を下ろして問うた。
色々堪えきれなくなったハンガリーは、フライパンを思い切り投げつけるとその場にへたり込んでわんわん泣き始めた。
前もって誘うなんて余裕がない程度には忙しかった。いや、それなり暇はあったが、躊躇だの検討だの、足踏みをしている間に時間はすっかりなくなった。
つい先程、夕食前になって、どうみても某国風な魚のスープが煮えているのを見つけたドイツがとうとう言った。
「兄さんいい加減素直になってくれ。黙って見てたがもうまだるっこしくて我慢できん。折角のハラースレーだ、食わせたい相手を呼ばないでどうするんだ。俺は夕飯一時間くらいなら待てるから、さっさと迎えに行ってくれ。ハンガリーのことだ。きっと家に一人でいるんだろうから」
それでしぶしぶいそいそ迎えに来てやったというのに。
プロイセンはぐだぐだに泣き出したハンガリーを抱きかかえて、とりあえず家の中に入った。居間のテーブルにジンのボトルがあるのを見つけて顔を顰める。なんだってあの眉毛の家の酒なのか。
ハンガリーは決して下戸ではない。しかし一人寝酒にジンを選ぶとは思えない。
既に胸元は涙その他でぐしゃぐしゃだった。化粧が混ざっていないだけまだましだ。
しがみついているハンガリーの背中を、小さな子供にするように軽く叩いてあやす。
よーし、よし。かっこいい頼れる俺様が来てやったからなーもう大丈夫だからなー。何があったか知らねえけど泣き止めよー。なーどした。何があった。しかも何で一人酒? 何でジン?
もしかして眉毛にいじめられたか? ちょっと俺様が仕留めてきてやろうか? なーに現役離れて久しいのはどっちも一緒だ。海賊紳士と騎士の王とどっちが強いかいっちょ戦ってみてやろうか?
あれ? それもなんだか楽しそうだ、とハンガリーを一先ず膝から下ろそうとすると、ますます余計にしがみつかれる。何事か呟いているので耳を近づけてやると。
「プロイセンのばかぁっ!!」
怒鳴られた。
「てめ、バカとはなんだバカとは! 折角俺様がクリスマスに一人じゃ寂しかろうと思って迎えに来てやったのにバカ呼ばわり!?」
「遅すぎるって言ってんのよバカ!」
寂しかったんだもん! 羨ましかったんだもん! 家族いないし結婚もしてないし一人だしフィンランドはイギリスなんか出すしもうやだ!
ハンガリーは一息にそこまで喚いて、あらためてぎゅうぎゅうにしがみつきなおした。完全に酔っぱらっている。
とりあえずフィンランドとイギリスは要ボコリ決定? とか考えつつ、プロイセンはハンガリーの髪を撫でた。
寂しいのやだとぐずるハンガリーを初めて見た。自分にしがみついてくるハンガリーなんて初めて見た。この気丈な女がこんな風に弱っているのを初めて見た。
アルコール万歳。少なくとも、強がって意地張ってるよりは幾分マシだ。縋られれば応えてやれる。甘えてきたから、甘やかしてやるだけだ。俺様が甘やかしたいからじゃねえ。そこんとこ間違えるな。
「俺がいたら寂しくなくなった?」
胸元に頭突き。表現方法はやはりあまりかわいくない。
「今はもう寂しくない?」
もう一発頭突き。
「俺と一緒にクリスマス祝いたい?」
「俺のうちに来る?」
「俺が来て嬉しい?」
「来たのが俺で嬉しい?」
頭突き。頭突き。頭突き。思わずソファに突き倒される。圧し掛かってくるハンガリーの柔らかい身体。鼻先にある髪からはいい匂いがした。
「俺が好き?」
ぎゅううとしがみ付かれた。
プロイセンは心の中で勝利の雄叫びを上げた。拍手喝采。勝った。俺様勝った。何にか分からないがこれは偉大な勝利だ。多分愛が報われたとかそういうやつだ。
不憫と言われ続けて何年目? 酒の力でもなんでもいい。大事なのは結果だ。
「ハンガリー」
名前を呼ぶと隠れていた顔が上げられた。深緑の眼がこちらを見る。すこしばかり潤んだままの視線で、自分を見上げる。
「プロイセンのばかやろう」
酔っ払いらしく積極的な、恥じらいの欠片もない口付けの後でハンガリーはそう呟いた。
あーもう無理止まんねえ。
しがみ付いたままのハンガリーを抱えて、彼女の寝室のドアを蹴り開ける。
ベッドカバーの上に横たえながらキス。キス。しながらボタンをむしる様にはずす。一個千切れた。まあいいや。肌蹴た胸元のレースの下着はチェリーレッド。俺様さくらんぼは大好物だぜ。
ハンガリーの身体はよく鍛えられていてしっかりとしていて、胸もしっかりとしていて、それなのにどうしてこんなに柔らかいんだろう。
タウバータール渓谷より、ある意味眼福絶景な谷間に顔を埋めて、信じられないほど従順なハンガリーを抱きしめる。
酒は偉大だ。勿論酔って前後不覚というだけならこんなことしない。
これは単に枷が外れているだけだ。理性とか意地とか矜持とかそういう面倒なものが全部無しになって、自分の名を呼んで認識して、それでいて抱きしめ返してくれている。
プロイセンのばかと呟きながら、髪を撫で頬に寄せ、ハンガリーはふうと溜め息をつく。
ちくしょうなんでこんなに色っぽいんだ。そして俺様余裕無さすぎ。降って湧いた幸運? とりあえずフィンランドをボコるのはやめておこう。
片手に収まらない胸を揉んで摘んで引っ張って、舐めて吸う。
あ、あ、あ、と意味なく漏れる母音。かき抱く指先が耳たぶを引っ掛けて痛い。
もう一度眼と眼を合わせる。深緑に歪んで自分が映る。
「プロイセン」
罵り言葉抜きで、ちゃんと名前を呼ばれた。向き合って、手指を絡めあう。
どうしたハンガリー、怖くなったか?
「私これでいいのかしら? 私どこかおかしい? 変?」
いや。珍しく素直で俺は嬉しい。変じゃねえよ。綺麗だ。色っぽい。
「素直になんてなれるわけがないと思ってたらお酒が出てきたの」
んで飲んで素直になったわけだ。話の流れはさっぱり読めないけどな。
「私酔ってるのかしら?」
それなりにな。ところで素直な答えが欲しいんだが。
「何」
抱きたい。嫌なら今すぐフライパンだ。今なら殴られて止めてやれる。
「酔っ払ってるんじゃまともな答えなんか返せるわけないわ」
そりゃそうだなあ。
キス。今度は深く舌を絡め、口蓋をなぞる。
右手は互いに絡み合わせたままで、左手は胸を愛撫し、スカートを引き摺り下ろし、ついでに揃いの下着も引き摺り下ろし、膝で割り込んでそこに触れた。
蕩けるように濡れていた。
潤みに埋めた指を無理に掻き混ぜると、ハンガリーは苦しそうに呻いた。
引き抜いて替わりに興奮しきった自身を押付ける。湿った音に顔を背ける様は、獣じみた気分に大層似合う。苦しげな声も、固く閉じられた眦に残る涙も。
狩る対象が、喰らう対象がハンガリーであるというだけでこんなに充足感があるものか。
なあ、この際だから言わせてくれ。
愛してる。
寂しさに乗じて荒らすなんざ俺らしいやりようじゃねえ?
だから今は俺を見てろ。
おかしい。
何もかもおかしい。
酔っているのに視界も意識もこれ以上ないほどに明瞭で、けれどしていることは全くおかしくて、殴りとばすべきあいつを私は抱きしめて、あいつに抱かれて、紛れもなく幸せなのだ。おかしい。
膝を押しのけて割り込んだあいつの指が私の奥に触れる。キスなんか絶対へただと思ったのにどうして気持ちいいんだろう。重い身体に押しつぶされてそれでも離したくないなんて馬鹿げてる。
酔った自分はおかしな夢でも見ているのではないか。だってあのバカがこんな風に触れるわけがない。乱暴なようで慎重。嗜虐性で誤魔化した純情。
瞼をなぞる感触は湿っていて、ああこのけだものは目玉から食うつもりなのか、それとも舌か。柔らかいところから順繰りに、馬鹿な私を嘲笑う。
愛してる、と言葉が聞こえた。
眼を開けたら酔いが醒めてしまうかもしれない。
繋がってしまえば夢でも幻でもないとわかるから。
何もかも裸にされる。暴かれる。そんな代償で手に入れられるなら安いものだ。
目を開けた。怖いほど近くに赤みを帯びた眼がこちらを見据えている。
奥まで痛いほど繋がって、掠れた声と獣じみた寂しそうな視線が私を見ている。
「愛してんだから。酔ってるなんて言うなよ。正気で受け止めてくれよ。頼むから」
ゆっくりと触れるだけの口付けが落とされる。
離れて、逃げていく唇に噛み付くように唇を寄せた。あいつの首に縋って、全身隙間なくくっ付いて。
だって寂しかったのだ。意外なほど嬉しかったのだ。
「あんたが好きよ」
それを聞いたプロイセンの嬉しそうな顔にだって、負けないと思えたのだ。
「……メリー、クリスマス」
「メリークリスマス」
その頃ドイツ宅を訪れていたフィンランドは、完璧防寒なサンタの衣装にも関わらず、凍え死にの恐怖を味わってた。文字だけでは分からないだろうが、殺気だって眉間に皺寄せてこちらを恨めしげに睨み付けるドイツの怖いことといったら!
「ほ、欲しいものを、思い描いてください……この袋から、出てきますから。何でも出ますから!」
だから見逃してー! 心の中で叫ぶ。
ドイツは陰鬱な表情で呟いた。
「兄さんが帰ってこない」
「……え」
「兄さんが、ハンガリーを迎えに行ったまま、帰ってこない。もう三時間近く。一時間程度なら、待つとは言った。俺は、腹が減った」
ぐうぅぅぅくきゅ〜ぅと間抜けな音がした。ドイツの腹の虫だなんて、なんて嬉しくないレアな音。
「願えば多分、出てくると思いますよ……人間も、ご飯も」
さっき出てきたイギリスは未だに橇の後ろに積んだままだ。毛布のおかげでそれほど寒くないらしい。
段々酔いも覚めてきて、冬空のロンドンよりも重くどんよりと沈み込んでいる。クリスマスだというのに。最初は迷惑だったけど段々かわいそうになってきた。
「それでは、失礼する」
白いサンタの袋を、口をあけてドイツに向ける。ドイツは右手の指をわきわきと曲げ伸ばしてから、おもむろに肩まで袋に突っ込んで中を探っている。む、と呟いた。何か捕まえたらしい。嘘でしょ嘘だと言ってお願い。
サンタ袋。自分で用意したアイテムながら奥が深すぎて怖い。
「捕まえたぞ兄さん! 早く夕飯にしよう!」
袋から銀髪の人影が転げ落ちた。なんでか半裸だ。うおー痛ぇなんだこれ急にあれここ家か何でだ。きょろきょろと自宅を見回すプロイセン。何故半裸。
次いでもう一人転がり出てきた。シーツだかなんだかに包まって、これは全裸か。きゃあとか言ってるし。栗色の髪が流れた。
「ハンガリーさん!!?」
「何してんだ兄さん!?」
「おおヴェスト、良くわからんが今帰ったぜ」
「え、ドイツ君の家!?」
やっぱりハンガリーさんだ。ていうか何故全裸シーツ。ていうかやっぱりアレ? なさってたんですか? お二人ってそういう関係だったんですか? そういえばお酒飲んだんでしょうか。酔っているんでしょうか。
ハンガリーさんは僕に気づくと大慌てでシーツを巻き付けなおしつつ、別れ際とはまるで違う笑顔を見せた。
「一緒に引っ張られちゃった」
僕も微笑み返す。ハンガリーさん、格好も相成って艶っぽいというか、ちょっと目の毒だ。
「改めてメリークリスマス! 元気になったみたいで良かったです」
「欲しいものじゃなかったけど、どうやら必要なものだったみたいなの」
「願いって叶ったんですか?」
「まあ、それなりに?」
ちょっと待ってろハンガリー、今俺様の服貸してやるから! ヴェストは見るなよ! しかしおっかしいよなーベッドに居たと思ったんだけどな。いきなり髪引っ張られて痛ぇのなんの、ハゲるかと思ったありえねえだろ嫌すぎるぜ。
大声過ぎる独り言に、家の中が明るくなったような気がする。
サンタクロースを長年しているけれど、誰の願いも結構単純だ。叶え方は突っ込みどころが多すぎるとは思うけど、サンタ袋は今回も結構いい仕事をしたらしい。
「あら、イギリス君はまだ運搬中なの?」
「ええ、流石にちょっと気の毒なんで、プレゼント代わりに南の島まで届けてあげようかと思いまして」
「意外に最高のプレゼントなんじゃない? サンタクロースに攫われたんじゃ上司も連れ戻しようが無いもの」
「セーシェルさんが受け取り拒否とかしないといいんですけどね」
「優しい子だから大丈夫よ。多分」
ハンガリーさんはやっぱりとても嬉しそうだ。寂しそうな様子は全然無くなった。結局なんでも、最後はうまくいくようにできている。
サンタクロースは願いをかなえ、幸せなクリスマスをかなえるのだ。
「それじゃあ皆さん、素敵なクリスマスを楽しみましょうね! モイモイ!」
空へと駆け上がる橇。急に賑やかになったドイツの家。魚のスープのおいしそうな匂いがする。夜空の星と地上の灯り。楽しい楽しいクリスマス。
「そういうわけでイギリスさん、クリスマスだから特別サービスですよ! 南の島までひとっ飛びです」
後ろで細々流れていた呪いの歌がぴたりと止んだ。
「これからアフリカ方面に行きますから、セーシェルさんへのプレゼントを、そこの袋から取り寄せといてもらえます? ロンドンのお家に用意してあるんじゃないですか?」
感謝のあまりツンデレも忘れて喜ぶ英国紳士を、見ないふりしてあげながら地中海を渡る。
北から順番にと思いましたけど、先にセーシェルまで行ってあげるとしましょうか。
意地っ張りのハンガリーさんにも、無欲なドイツさんにも、微笑ましいイギリスさんにも、素晴らしいクリスマスとなりますように!
あ、プロイセンさんにプレゼントあげるのすっかり忘れてましたね。
まあ幸せそうでしたから、いいってことにしちゃいましょうか。
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