Xocolatl
【メインCP】 ドイツ×ベルギー
【傾向】 陵辱。暗いです。
【その他】
ベルギーさんの滋賀弁は適当。ドイツS。
「……んぅ」
甘い、かおりがした。
けれどそれはしっかりと知覚する前に、別の臭気に引き千切られて分からなくなってしまう。彼女は頬についたべたつく液体めいたものを手の甲で拭うと、ゆっくりと緑の目を細めた。
この生臭さにはもう慣れてしまった。
それは嗅覚の点に限らず、味覚すらもこれに屈服してから長い。
始めこそ口に含むことさえ拒んだそれを、今ではこくこくと喉を鳴らして平らげてしまう自分が怖い。
うつ伏せになった裸体を起こすことさえ多大な疲労は拒み、顔だけを香りのする方向に向けた。
その向こう、裸の人影を認める。
「起きたのか」
「……何食べてはるん」
相手は??ドイツは、齧った痕のある茶色の塊を振る。
一瞬ベルギーはそれが何であるか分からず目をぎゅっと細くしたが、やっとそれがチョコレートであることが分かった。
「当てつけ?」
笑おうとして、けれど頬に力が入らない。
引き攣った筋肉は喋ることにすら痛みを訴えた。殴られた痛みは始めの数日で消えた。
けれどこの顎の筋肉痛は、何時まで経ってもベルギーのことを苛む。
違う。苛むのは痛みではなく、ドイツであることは分かっている。
小さな国??その言葉を奥歯で噛み締める。
ドイツにしろフランスにしろイギリスにしろ、彼女よりも大きい国ばかりで、その中で彼女たちベネルクスばかりが小さく身を寄せ合っていて。
覚悟はできていたはずなのに。
なのに、の後に続く言葉をなぞって、ベルギーは皺だらけのシーツを力の入らない指で引っ掻いた。
「どうだっていいことだろう」
「そやろね、あんたにとっては。私にとってはそうやないんよ」
「気丈だな。まだいけるのか?」
その言葉に反射的にびくりと肩が揺れる。
無意識の底に、ドイツに対する恐怖心が植え付けられていることに気付き、ベルギーは彼をねめつけた。
だがドイツが迫ってくると、その眼光が確かに揺れ、ぶれる。
逃げたいと願っても、体は言うことを聞かず、白い肌が粟立つ。
「……くる、な」
「何度も教えたはずだが」
チョコレートを一口大きく噛み砕く。その歯列が整っていることさえ分かってしまうような距離。
片腕を掴んで無理に起き上がらせ、不意のことに開いた口を口で塞ぐ。
「んっ……ぐぅっ」
ドイツの歯牙で刻まれ、ドイツの体温で溶かされ、ドイツの唾液と混ざり合ったチョコレートが、ベルギーの口の中を犯す。
抵抗しても唇を離すことも口の中の物を押し戻すこともできず、ただ喉をそれが気味悪く下っていくという事実を茫然と理解することしかできなかった。
「っは、やめ、かはっ」
べとべとと口の中が粘る。甘い。甘い臭い。甘い不味。
??チョコレートは本来甘くないものだったと、ふと思い出した。
昔それをスペインに飲ませてもらった時、それは苦く、甘く、そして形容しがたい香辛料の香りが印象深かった。
甘くしたのは誰だっただろう。甘くない方がよかったのに、とベルギーは唇を噛む。
「従え」
命令は、即ち彼女が彼の占領下にあることを意味する。
差し出された肉棒を両手で握り込み、撫でさする。
握ろうとしたが握力は尽きていた。口に入れることを拒んでできる限り彼を悦ばせようとしたが、「舐めろ」と言われてベルギーはゆっくりと肉棒を口の中に納めた。
チョコレートの甘さの残る中、生臭さがベルギーの眉を顰めさせる。
だぶついた皮を舌でなぞる。咽喉を圧迫する亀頭を吸うようにすると唾液が喉を滑り落ちた。
ずっと口淫を強要され、ベルギーもコツを掴みかけていた。
顎を軋ませながら鈴口を舌先でくすぐり、竿をねぶり、唾液を絡ませた。
「うまくなったんじゃないのか?」
巧くならざるを得なかったから。早く行為を終わらせ、一時でも平穏を得たいから。
「お前も堕ちたものだな、従順に男の一物をしゃぶるなんて。この間まで裸になることさえ嫌がっていたのがこの様か?」
ドイツにおもねらなければ生きていけないから。
「こういうことが好きなんだろう?」
違う。違う。違う。
頭の中で繰り返す。叫ぶ。音にならなかった声が涙の一筋を頬に走らせた。
その雫が冷たいことを否定して、ベルギーは貪るように肉棒を銜える。
それこそ夢中になって奉仕する。
口の中で肉棒は膨張し、それは化け物が鎌首をもたげるのに似ていた。
けれどそこで、ずるりと肉棒が引き抜かれる。
唾液がベルギーの唇からそこまでだらりと長い糸を結ぶ。
「なんだ、その物欲しげな顔は」
ぴったりと撫で付けた髪の下方で、蔑むような表情が表れる。
今度は、即答することができなかった。
「……ちが、」
「ではなぜここを濡らしているんだ?」
ドイツの手がベルギーの太腿の間に滑り込み、くちゅりと湿った音を立てる。
びくりと肩が跳ねて緑のリボンが金髪の中で揺れた。
動揺が引かない。
「これだけの行為でこんなにしてしまうなんてな」
ベルギーを仰向けに倒し、脚を開かせて、怒張していた肉棒をねじ込む。
声を上げそうになって、理性を捕まえて堪えた。
出しそうになった声の種類が分かりたくないのに分かってしまって、彼女は瞠目する。
最初こそ腰が打ち付けられるたびに血が滲んだというのに、その痛みをいつ失くしたのか覚えていない。
代わりに挿入の度彼女を震え上がらせるのは、別の種類の疼き??。
「啼け。声を上げろ。ベルギー、お前はこういうことをされて嬉しいんだろう?」
「ん、ぐぅっ」
「よく締め付けてくれるじゃないか」
「意思と関係あっ、るわけ、ないやろっ……!」
「素直になれ」
「嫌や、嫌、いや」
腰に腰が叩き付けられる。
細切れの呼吸がその合間に挟まれ、苦しそうにベルギーは胸を上下させた。
声を上げないようにしているのだと分かる。
ふと嬌声が喉をこじ開けようとする都度、首を激しく振る。
睨みつけるように細めた目にしかし鋭さはなく、そんな脆い意志を突き崩してドイツは彼女を侵略する。
チョコレートを一かけ割り、ドイツはベルギーの口に押し込んで口を手で塞いだ。
カカオの香りが鼻腔を駆け上った。
大好きな香りの筈だった。
楽しそうに彼女を睥睨するドイツさえいなければ、笑って食べることのできた一かけら。
新たな涙の粒が輪郭を形作る。
あまいかおりとあまいあじと、彼女を追いつめて柔らかく溶ける。
「嫌や、や、ああっ!」
声が裏返り、高く跳ねた。
ドイツの口角がゆっくりと持ち上がる。
「そうだよ、ベルギー、気持ちいいんだろう?」
「ちが、ひ、」
「もっと喘げ」
「あああっ!」
何かが壊れて決壊する。
喉につっかえていた大切なものがチョコレートと一緒に蕩けてしまう。
甘い、甘い香り。意識を塗りつぶすものほどの快楽が押し寄せる。
腰を振る。髪を振り乱す。リボンが踊る。
くちゃくちゃという音が鼓膜に貼り付き、内部が擦れるたびに嬌声を上げ、涙に詰まっているものが悲しみか悔しさか分からなくなって、けれどきっとそういった類のものではないと気付きながら、ベルギーの砕けた矜持がほろほろと粒を作る。
「淫らだな」
最早違う、という声は消えてしまった。
チョコレートの甘い香りだけが、彼女の中に満ちていた。