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13_210-223

 寝待月夜

【メインCP】 オーストリア×ハンガリー
【傾向】 純愛。オナニー(女)。実況プレイ(女が実況)


前回、二人がセックスしたのは二日前。
ハンガリーとしては、本当は毎日でも夫に抱かれていたいと思うものの、
彼の主義なのか彼女への気遣いなのか、実際に行うのは数日おきだ。

「……オーストリア、さん」
ベッドの中で軽く彼の袖を引っ張ってこちらに注意を向けさせると、
パジャマ越しの胸板に顔をすり寄せる。
誘っているような、ただ甘えているだけのような、どちらともとれる動作。
それに応えるように大きな手が無言で彼女の頭に置かれる。
しかし、それはいつまでたっても体のどこを触るでもなく、ただ髪をゆったりと
梳く動きを繰り返すだけだった。
それをもって、彼女は昨晩に続いて今夜も汗をかくことはないのだということを悟った。
残念だと思う気持ちはあるけれど、この結果になることはある程度予想できていたし
ただ最愛の男性の腕の中でまどろむのも心地よいことには変わりない。
今日は髪への愛撫を思い切り堪能しようと、往復運動を繰り返す指のその動きに
合わせるようなペースで、顔を押しつけている胸板にそのまま頬ずりを始める。

さあ、飽きるまでそんなことを続けよう──そう思った矢先に、
何故かオーストリアの手の動きが止まった。
「……?」
不思議に思って顔を上げると、間近には困ったようなオーストリアの顔。
「あの……どうかしました?」
何か言い出すタイミングをうかがっているように見えたので、
こちらの方から促してみようとハンガリーが切り出す。
「……明日の予定なのですが」
「はい」
「仕事の相手先の方へ出向く用事がありまして」
「はい……」
「それが少々遠出なものでして」
「……」
「明日は早めに出たいと……思うのですが」
「……はい、わかりました。それじゃあ、もう寝なきゃですね」
その発言は、先程とは違って予想外のものだった。
だから、今度は本当に残念で。
でも、わがままを言ってさらに困らせるなんて嫌だった。
だから、なんでもないように笑ってみせた。
「ええ。……おやすみなさい」
そう言ってオーストリアが体を離そうとした刹那、ハンガリーがぐっと身を乗り出して
彼の頬に唇をちゅ、と吸いつける。
「おやすみなさい、オーストリアさん」
これで我慢しますから、このくらいは許してくださいね?
そんな表情をオーストリアに投げかけて、それから眠るための体勢に戻って目をつぶった。
早く明日が、明日の夜が来てくれるようにと願いながら。


前回、二人がセックスしたのは三日前。
このくらい間があけば、彼が誘いを受けることは珍しくない。

暮れなずむ空を眺めながら、コトコトとスープを煮込んでいる時は
思わず鼻歌がこぼれてしまうほどに胸を躍らせていた。
だというのに。
「……冷めちゃった……なぁ」
食卓で一人、待てども待てどもいつもの顔が見える気配がない。
さすがに一般的な食事の時間帯を大きく過ぎてしまっては……と
しぶしぶ手をつけた夕飯は、言葉通りの『冷たい食事』になっていた。


一人分を残した食事の後片付け。入浴。着替え。ベッドメイク。
それらを行っている間も、ハンガリーは頻繁にエントランスの方を気にしていたけれど
何の物音もしないままに時間が過ぎていく。
はぁ、と一つため息をついて、部屋の明かりを落とすことにしたが、
それでも彼がもし帰ってきた時に困らないようにとダイニングや
寝室までの廊下の照明はつけたままにしておくことにした。

緩慢な動作でもぞもぞとベッドに潜り込む。
上掛けを引き上げて布に包まれると、肌に触れるシーツがひんやりとした感触を伝えてきた。
「なんか、冷たい……」
二人で寝る時に自分が先に床に着くことはしばしばあったし、
今日の気温が異常に寒いというわけでもないのに、
ここしばらく感じなかったような冷たさだとハンガリーは思う。
「オーストリアさん、どうしたんだろう……。
 お仕事、泊まりになっちゃった……のかな?」
連絡もできない程の忙しさに見舞われてしまったのだろうか。
体調を崩さなければいいのだけれど……。
ハンガリーの胸中に小さな心配が広がる。
「でも、私がこんなところで唸っていてもどうなるものでもないよね……」
どうせ知りえないものを想像するのなら、そんな不安を抱えるよりも
もっとプラスになるようなものがいい。
そう頭を切り替えて、ついでに体勢を変えてみた。

仰向け状態からうつ伏せになって、枕に顔をうずめてみる。
二人共同で使っている石鹸の香り。その中にほのかに混ざる男性的な匂いを
鼻腔いっぱいに吸い込んだ。
「オーストリアさん……」
本来なら、もっとはっきりしたそれを思う存分堪能していられるのに、と思う。
本来なら、二人用のベッドをこんなに広く感じることもないし、
本来なら、ぬくもりを分け合ってシーツの冷たさなどすぐにどこかへいくはずだ。
本来なら……。

「今日は……期待してたんですよ……?」
届くはずのない訴えが口からこぼれる。
ころんと寝返りをうって、開かれる様子のないドアを見つめる。
期待通りに事が運んでいたならば、静かにあのドアが開けられて、
ゆっくりとベッドに入ってきてもらって、様子をうかがいつつも
何もなければそのまま寝てしまう彼がきちんとこちらを向いてくれるように
時に言葉で、時に態度で自分の意を示して、そうしたら彼が
優しく受け止めてくれて……。
「オーストリアさん……オーストリア、さん……」
頭の中で、愛しい人の手が自分の体に触れる。
ありありと想起されるイメージは、現実のハンガリーの体をも甘く痺れさせる。
「ん……」
何かに突き動かされるように胸元へと持ち上げられた手が、そのまま
むにゅっと布越しの柔らかいふくらみを包み込む。
オーストリアの手とは大きさも動き方も違うハンガリーの手。
それでも、何の直接的刺激もない空想にいくらかの現実感を与える効果は十分で、
脳内の愛撫のイメージと断続的な胸への刺激が相乗効果となって
ハンガリーの行為をエスカレートさせる方向へと駆り立てていった。

「オーストリアさ……たりない、です。もっと……っ」
いるはずの……なのにいない相手に向けて懇願する。
手がそろそろと下の方へ移動して、ネグリジェのすそをかいくぐり、
下腹部を包む下着に触れる。
こんなもの、本当だったらきっともう取り払っているのに。
脳裏に浮かぶオーストリアがハンガリーの衣服に手をかける動作とシンクロさせるように、
ゆっくりと下着を、服を脱ぎ去っていく。
しかし、脱がせてあげる彼の服はないし、合わせる素肌もなければ、
背中に回されるはずの控えめな筋肉を備えた腕もない。
その事実が、半分残った理性に現実を突きつけるけれど、
それによって引き起こされた羞恥心は、むしろハンガリーの性的興奮を刺激した。
今しがた脱ぎ捨てた衣服を、近い方のベッドの端──ドアの反対側のベッド脇から
床へ落とすと、そのまま体と足が軽く丸められ、想像上でオーストリアの、
現実にはハンガリーの右手が秘所へといざなわれる。


「んく……あ、ふ……ぅっ」
じわりと湿り気を帯びていたそこは、いつものオーストリアへの反応とまでは
いかないものの、右手指による入り口の訪問を喜んでつぷりと受け入れた。
──オーストリアさんだったら、こんなにすぐに刺激しないで、
もっと丁寧に触ってくれると思う、けど……──
焦らすほどの時間をかける前戯というものは、思ったよりも難しいもので、
ハンガリーの手は段々とオーストリアの手の動きのトレースから離れていき、
体の疼きを慰めるためのみの動作へとシフトしていった。
自分で自分の敏感な場所を探り当て、自分の好きなようにそこへ圧力をかける。
「……は、んぅっ」
指を引き抜くと愛液がじゅわっと入り口からこぼれ、もう一度差し入れる際に
くちゅ、と小さな水音を立てた。
指先、第一関節、第二関節……。じわじわと自らの指を侵入させていき、
膣壁の上側の気持ちいい場所に指の腹をぐぐっと押しつけようと──

──ガチャ、バタン。
「……っ!!??」
唐突に耳に入った、遠くのドアの開閉音。
飛び上がるかと思うほど跳ねた心臓と、混乱する頭、硬直する体をそのままに
ハンガリーは、音のした方へとなんとか聴覚を集中させる。
ルームシューズがカーペットとぶつかる時の、控えめな足音が規則的に届く。
まさか。ひょっとすると。もしかして。
「オ、オーストリアさん……?」
帰ってきてくれた。
どうしよう。
ほんのさっきまでなら、どうしようの後には嬉しいと続いて、
エントランスへ飛んでいって出迎えをしたことだろう。
しかし、今のこの状態ではとてもそんなことはできない。
誰もいないと思っていた時とは比較にならない羞恥心と、
なにかいけないことでもしてしまったかのような罪悪感がハンガリーを襲い、
パニックに拍車をかける。
とりあえず、服装を整えて──やっとそこに至るまで思考力が回復したが
時すでに遅し。足音は寝室の部屋の前でぴたりと止まり、
音をさせないくらいのゆっくりとしたスピードでドアノブが回されると
静かに、静かにドアが開けられた。
そう、先程ハンガリーが想像していた通りのように。

「ハンガリー……もう寝てしまいましたか」
寝ている人物を起こさない程度の小声がベッドへ投げかけられる。
ドアに背を向けている状態では顔は見えないものの、声ではっきりわかる。
愛する夫、オーストリアが帰ってきたのだ。
どうやら彼はハンガリーが寝ているものと思ったらしい。
脱いだものは反対側のベッド脇に落とされていてドアからは死角になっているし、
自慰行為は布団の中で行っていたので、ドア方向からのぱっと見では
ベッドの中の人物が横向きに体を休めているだけかのように見えるというわけだ。
「……」
ハンガリーは息を潜めてオーストリアの動向をうかがう。
彼は帰ってきてから寝室へ直行してきたようだった。だからもし、今から
食事や入浴をしようとするなら、ひとまずこの部屋から離れてくれるはずで。
そうなってくれれば、遅まきながらもきちんとした服装で
おかえりなさいと声をかけてあげられるのだ。
オーストリアがそんな行動を取る可能性は大いにありうると思うが──

ぱた……ん、と最低限の音をたててドアが閉まる。
オーストリアの取った選択肢とは果たして……そのまま寝室へ歩みを進め、
就寝中の者を起こさないようにしつつ、パジャマを取り出すために
クローゼットを慎重に開ける、というものだった。
(どうしてあなたは、ご自分の食事とかなんとかよりも私の方へ来てくれるのを
 優先するんですかー!! しかも私が今寝てると思ってるなら、それ亭主を置いて
 先に寝ちゃってる妻ってことになるじゃないですか! いいんですか、それで!)
突っ込みだか責任転嫁だかよくわからない独白がハンガリーの頭の中に流れる。
しかし、そんなオーストリアだから好きになったのであって、だから抱かれたいと思って、
色々あって今みたいな状況になっているのだ。
本当は怒ったりする気なんて毛頭ない。
すごく嬉しい。
これ以上、大好きな相手に不義理をはたらきたくない。
だから。

ゆっくりと上半身を起こし、オーストリアの方を向く。
クローゼットに対面し、ベッドに背を向ける格好になっている彼には、
それだけではこちらに気づいてもらえないようだ。
「オーストリア……さん……」
ズボンを下ろし、タイをしゅるっとほどくその背中に、小さく声をかける。
「ああ、ハンガリー。ひょっとして、起こしてしまいまし……」
首だけ動かしてハンガリーの方へ向いた途端、オーストリアが固まった。
ハンガリーは上掛けで肌を胸まで覆っていたとはいえ、肩から手にかけて
何の布にも覆われていない腕を見れば、彼女が一糸纏わぬ姿であることは
すぐに想像がつく。
真っ赤になったハンガリーの頬が、さらにそれを裏付ける証拠になっていた。

「あー、その……」
同じくらい赤くなって視線をさ迷わせ、かける言葉を探している様子の
オーストリアに対して申し訳なくなったハンガリーは、そこで腹を決めた。
「すみません、オーストリアさん!」
「は、はい……?」
ぐっと体を折って頭を下げるハンガリーに困惑するオーストリア。
「私、オーストリアさんは今日はもう帰ってこないんじゃないかと思って、
 一応明かりは消さないようにと思ったんですけど、でも自分は一人で
 寝る準備しちゃって、それでオーストリアさんがいないならって、
 その……Onánia……を……」
目をぎゅっとつぶって一気に思うところをまくし立てる。
が、自慰行為をしていたという告白部分はさすがに恥ずかしく、
うっかり母国語でしゃべっていた。
そんなことをしても意味は普通に通じてしまうだろうに、
何をやっているのかと思うと、また余計に恥ずかしさがこみあげてくる。
頭を下げたまま上げられない。
部屋に沈黙が訪れる。
返事もなく、顔も見れない状態で、彼が今どんな胸中であるかを思う。
性欲の強さに呆れただろうか。
自制心のなさをはしたないと思っただろうか。
嫌われて……しまっただろうか。
最悪の可能性が頭の隅に黒いよどみを形成する。
考えただけで、目頭がじわりと熱くなった。
「ハンガリー……」
謝罪体勢のまま微動だにしない彼女の名が呼ばれるが、やはり顔は上がらない。
オーストリアがクローゼットから離れ、ベッドの上、ハンガリーの隣へと移動する。
「……っ」
何を言われても弁明できない、どんな叱りの言葉でも受け止めなければと
ハンガリーが意を決した。

「一人で……さみしかったですか」
大きな手が栗色の髪の上に、ぽんと置かれる。
覚悟していた方向とは別のベクトルの言葉を投げかけられ、
思わず顔を上げると、その拍子に目尻からぽろっと雫がこぼれた。
「!? そ、そんなに不安にさせてしまってたんですか……?」
オーストリアは、いつも通り優しかった。
「ちが、違うんです……わ、わたし……」
泣きたくなんて全くないのに、ぼろぼろと雫が落ちるのを止められない。
緊張の糸がゆるんだ時の涙というものは、なかなか厄介だ。
こちらは安堵したのだというのに、相手は困惑するばかりになってしまうから。
「嫌われる、かと……っ、思って……」
「何を突拍子もないことを……」
彼の言うことももっともだ。自分は何を心配していたのだろう。
本当に、よっぽど混乱していたのだと、ハンガリーは心の中でため息をついた。
変なところで困らせてごめんなさいと、もう一つ謝りたかったけれど
嗚咽混じりの声ではやっぱり困らせてしまうだろうと考えて、
今はその包容力に甘えてしまおうと、体を寄せて目の前の胸に顔をうずめる。
「さみしかった……。さみしかったです……」
彼女の言葉を聞きながら何も言わずに背中を抱き、頭をよしよしと撫でるオーストリア。
やっぱり本物の体温と心音と腕の力強さと大きな存在感は、イメージのそれらよりも
ずっと心地よく、ずっと愛おしいものだとハンガリーは感じる。
胸元まで布団を引き上げていた手を離してこちらも相手の背中に回し、
しばらくそうして抱き合ったままでいた。


「……オーストリアさん」
落ち着いた頃に身を離し、今度は相手の顔をまっすぐ見た。
「おかえりなさい、オーストリアさん」
微笑んで、やっと伝えたかった言葉を告げた。
「ただいま、帰りました」
一緒に笑ってくれるかな、と少し期待してみたけれど、相変わらず表情には
あまり感情を出さないタイプの彼の笑顔は見られなかった。
それでも、その顔から先程の困惑は消えていたので、きっと安心が
伝わったのだろうと思った。
「お食事とお風呂、どうされました? まだなんじゃないかと思うんですけど」
「食事は遅くなったので外で済ませてきました。
 お風呂は……今日はそのまま寝ればいいかと思ったのですが……」
「えー、お風呂に入った方が気持ちいいですっていつも言ってるのに」
「水は貴重品なのですよ。私もいつも言っていますが、貴方はお風呂に関しては
 もう少し節約意識を持っても構わないと思います。けど……」
「?」
なんでもない日常会話の中で、何故かオーストリアのセリフの末尾が言いよどむ。
なんだか頬も赤いし、あまりハンガリーの方を向こうとしていない。
「ええと……ハンガリー」
ごほん、と咳払い一つ。
「その、えー……終わった、のですか……?」
「??」
「ですから……Onanie、の方は……」
「っ!」
急激にハンガリーの顔がのぼせ上がる。
発音がちょっと違いますけどオーストリアさんの母国語でもその単語はそのままじゃないですか!
と少し脱線した突っ込みを心の中で入れてみたが、そんなことで気を紛らわすことは
もちろんできなかった。

「え、ええっと……えっと、まだ……終わってない、です」
恥ずかしいけれど自業自得だ。
観念したハンガリーははっきりと報告をした。
「……そ、そうですか」
「はい……」
自業自得だけれど、やっぱり恥ずかしい。全く何の羞恥プレイなのだろう。
「よろしければ……ここからは、私がお相手しても構いませんが」
「……え? えええっ!?」
「な、なんですか、そんな大袈裟な……」
「えっ、だって、オーストリアさんから誘われることがあるなんて、
 全然考えたことなくって……」
「え、私から? ……ああ、まあ、そういうことになるんでしょう……か?」
「へ?」
なんだか話がかみ合わなくなってきた。
相変わらずオーストリアの視線はハンガリーを直視しない。
話を整理してみよう。
夫が帰ってきたら妻が自慰をしていたことを告白してきて
さみしかったかと尋ねたらそうだと言われて抱きつかれ、
そのあとご飯にするかとかお風呂にするかとか訊かれていた。
おまけに彼女は生まれたままの姿で、上半身を露出して彼の目の前にその姿を晒していた。
ああ、それで男がその気になったとして、果たしてどちらが誘ったと言えるのだろう。
なんだかもう、本当に恥ずかしくなって、ハンガリーは考えるのをやめた。

「えっと……えっと、じゃあ、後でお風呂には入るんです……よね」
「……そのつもりです。貴方がそれでよろしければ」
「……」
断るはずなんてないのに。
今すぐにでも押し倒してくれて構わないのに。
でも、そういった線引きをなるべくつけるのがオーストリアという人物で。
だから、こちらも誠心誠意、自分の意思を示すべきなのだ。
「オーストリアさん……私、あなたに抱かれたい。
 さっきまでのさみしさなんか忘れてしまうくらい、私をあなたで満たしてください……」
言いながら、両の手でオーストリアの顔を包み込む。
誘われるままに彼の唇が彼女の唇へ重なった。
数回、ついばむような軽い口づけを交わしたあと、おもむろにオーストリアが
ハンガリーの後頭部を抱え込み、深くゆっくりとしたキスを与える。
彼女もまた、相手の首に手をまわしてしっかりと抱きつき、その行為を受け入れる。
唇と歯列を割って侵入してきた舌を、もう一つの舌が待ってましたと言わんばかりに
絡ませようと懸命に動く。それを知ってか知らずかオーストリアが
上顎や歯や歯肉や、彼女の口腔内の至るところを愛撫するようにねぶり回すと、
息苦しさともどかしさにハンガリーの目に涙が浮かんだ。
「んふ、ん……む、ちゅぷ……」
鼻にかかった息が彼女の唇からもれると、ようやく彼の舌が求めに応じて絡み返す。
互いの唾液が混じったあたたかいプールの中で、二つの舌が絡まり合う。
「んぅ、んんっ。ちゅく、ぁむ……ぷは、あ……っ」
口を離すとハンガリーの唇の端から二人分の唾液の一部があふれて垂れ落ちる。
脳の酸素が薄くなり、肺に空気を入れることに専念していてそんなことを気にもとめない
彼女の代わりにオーストリアが顎をぬぐってやると、感謝の意を込めた笑顔が返された。

「……ハンガリー」
「はい……んっ」
ハンガリーの胸の二つのふくらみがオーストリアの両手に覆われる。
彼の大きめの手に、それでも収まりきらない豊かな胸。
自分の手ではダメだ。やはりこの人の手でなければ。
待ち望んだその手が今日はどんな風に愛してくれるだろうと期待が高まる。
だが、胸部に添えられた手はそこで静止したまま動かない。
「ハンガリー、ちょっとよろしいですか……?」
「えっ、あ、はい。な、なんですか?」
先程名前を呼ばれたのは、これから愛撫を始めるという呼びかけではなく問いかけだったのか。
なんだかいつもとは変わった段取りに戸惑いつつ、彼にその先を促した。
「……一人でしていた時、その、どの辺りまで……進みましたか?」
「ええっ!?」
予想だにしていなかった質問だった。
「ど、どうしてそんなこと、を……?」
「貴方の体の状態を把握しないことには、適切な対応が難しいのです」
「え、は、はあ……」
それは彼の完璧主義である気質のせいなのか、彼女への優しさゆえなのか。
おそらく両方だろうなあと思いながら、ハンガリーは今日何度目だかわからない
自分の自慰行為の説明をすることにした。もう今日はそういう日だと割り切るしかないだろう。
オーストリアをちゃんと待っていられていれば、こんなことにはならなかったのだから
きっとこれは自己責任だ。そう、ハンガリーは腹をくくった。
「えっと……オーストリアさんのこと考えながらパジャマ越しにお胸を触って、
 そうしてたら我慢できなくなって、裸になって、あ、あの、下の……部分に
 指を出し入れしてたらいっぱい濡れてきて、それでもっと中をいじろうと
 その指を半分くらい挿れたところで、オーストリアさんが帰ってきました……っ!」
早口で一気に吐き出してしまえば、早くこの羞恥から解放されるかと思ったものの
やっぱり恥ずかしいことには変わりなかった。
自分で自分の頬が熱くなるのを感じながら、ちらとオーストリアの様子を
うかがってみると、何故か少しぽかんとした表情をしていた。

「あ、ええ、その……ご丁寧な説明で大変結構でしたが、絶頂を迎えたかどうか程度でも
 よろしかったのですが……」
「えっ、そ、そうでしたか」
それは早く言ってほしかった……と思ったものの、早合点して勝手に色々しゃべってしまったのは
自分の方だと思い直したハンガリーは、もう今日はそういう日なのだと再度自分に言い聞かせた。
ただ、もう少しこの頬の紅潮を落ち着けたいと思うとなかなかオーストリアの顔を見られない。
顔をうつむけて少し視線をさ迷わせる。
(……あ)
それは偶然目に入ってしまったものだった。
けれど、一度気づいてしまったらそこから目が離せなくなった。
オーストリアの白いシャツのすそが覆い隠している彼の下腹部。
そこが窮屈そうな様子だったので、持て余していた手慰みに……というのは
失礼だとも思ったけれど、とにかく何かしていたいと思った瞬間、
両手をその場所へと伸ばしていた。
体を前傾させると、両胸がオーストリアの手に押しつけられる。
「ど、どうしたんですか、ハンガリー……?」
「えっと……失礼しますね」
どうもしない。
ただ、少しでも気を紛らわせたかったのと、
オーストリアに何かしてあげたいと思ったのと、
一人の時に何度も思い描いていたそれの実物を手に取りたくなったのと、
どれでもあるし、どれか一つでもない。
突然のハンガリーの行動に驚いたのか、オーストリアは、いいともいやとも
言わずに彼女の行動を見守っていた。

ぷち、ぷちとシャツのボタンを外すと、それまで押さえられていた反動で
オーストリアのペニスがハンガリーの手の中に飛び込んでくる。
「わ……」
それは予想していたよりもずっと、熱く硬く大きくなって脈打っていた。
自分の手の中で、びくびくと自身の存在を訴える様子が愛おしい。
ハンガリーは痛くしないようにと心がけてそれを優しく手で包み込むと、
慈しむようにゆるゆると撫でた。
……それにしても。
「もう……随分大きい……ですね」
不思議に思ったことをそのまま投げかけてみる。
キスをして、それから愛撫の範疇に入るような入らないような程度で
胸を触って……それだけで、これほど元気になってしまうなんて。
……それだけで?
そうではないのだろうか。
「オーストリアさん……私が一人でしてるって言って……
 それがどんな風だったかっていうの、聞いて……ドキドキしました?」
「……っ!」
オーストリアがもらした小さな呻き声と手の中の剛直がびくっと跳ねた感覚で、
ハンガリーはある推論に達する。
自分が性的な意味でどのような状態にあるかを口に出すのは、本当に恥ずかしい。
そして、その羞恥心は聞く側であるオーストリアもある程度感じているものでは
ないだろうか。
その羞恥心が性的興奮を煽るがゆえに、オーストリアの自身はこのような
反応を示すのではないだろうか、と。
「……オーストリアさん、実況プレイが……お好みなんですね」
「え、い、いいえ、そのようなことは……」
「でも、手の中……どんどん熱くなってます……。
 オーストリアさんがお好きなら、私……頑張りますから」
自分だって羞恥心にさいなまれることになるけれど、そこはもう開き直った。
ハンガリーにとって、もう今日はそういう日だと結論づけられたのだ。

「オーストリアさん、私、オーストリアさんの前戯好きですから……
 手、動かしてもらっても……いいですか?」
「え、あ、ええ……」
思い出したかのようにオーストリアの手がハンガリーの両胸を刺激する。
たぷたぷとふくらみ全体を弾ませながら、時に圧力をかけ、時に撫で回す。
もうある程度ハンガリーの体ができあがっていることを考慮して、
いつもはもっと時間をかけてやっている行為であるところの突起への刺激も
早々に行ってしまうことにした。
「あっ、そこ……きゅって摘まれると、お腹の中がじんって……
 しびれちゃ……あっ」
呼吸が乱れる中で懸命に体の変化を説明するハンガリー。
内容もさることながら、その健気な様子がさらに興奮を呼び起こす。
「オーストリアさんの……どくどくいって……苦しそうです。
 それに……」
「……それに?」
熱っぽく潤んだハンガリーの目を覗き込む。
「それに、もう……私、欲しくて……ですから、
 オーストリアさんの、ください……。お願い、します……」
ためらいがちに、しかしはっきりと伝えられる懇願。
オーストリアは、肯定の返事の代わりに触れるだけのキスを贈って、
ゆっくりと彼女の体をベッドを倒した。

「あ、あっ、ふぁ……はいって、くる……っ、ああっ」
秘部とその周囲、内股やその真下のシーツまでを濡らすほど
ぐっしょりと蜜をたたえた壷が亀頭の先端をずぶずぶとくわえ込む。
「あんっ、そこ、いい……その先っぽ当たってるとこ、あっ、
 気持ちいい……ですっ、ふぁんっ!」
先程彼女の口から解説された、入り口から指半分ほどの位置にある箇所。
中断された時からずっとお預け状態だったそこへ、待望の刺激が到来する。
「いっ、いやっ、いれてもらった、ばっかりなの、にぃ……っ、あ、
 も、もうきちゃ……あっ、あんっ、ああん!」
早くも押し寄せる快楽の波に翻弄され、シーツをつかんで耐えようとするけれど
そんな抵抗が功を奏するわけもない。
オーストリアは刺激点をはずさないように、挿入直後は押しつけて圧迫するだけだった剛直を
密着させながらの前後運動に変更していきながら、段々とその加減を調整していく。
「やっ、ずんって突いてるの……っ! あ、熱いのずんずん突かれちゃうのっ、
 あっ、あっ、すご……いい、です……っ! あ、もう……あっ!」
ぎゅっと目をつぶるハンガリーの体内で、絶頂へのカウントダウンが始まる。
「い、いりぐちで、あっ、いっちゃう……いっちゃ……あんっ! も、だめ……っ、
 だ、め……ぅあっ、ふ……ああああああんっっ!!!」
ぴんとハンガリーの足が伸び、体が弓なりにそって、肉洞が中の異物を強く締めつける。
「は、はぁ……っ、ふ、オ……オーストリアさ……もっと……は、
 あ、はぁっ、もっと、おく……はいってきて、くださ……いっ」
きゅうきゅうと断続的な収縮を続ける肉壁が、オーストリアを奥へ奥へといざなう。
「ハンガリー……」
無理はしなくていい、と言いかけた言葉を、オーストリアは少し迷った挙句飲み込んだ。
そんなことを直接ハンガリーへ言っても何にもならない。
彼女の言葉も、見た様子も、下腹部から伝わる肉襞のわななきも、
それら全てが行為の継続を望んでいるということを彼に伝えていた。
無理をさせてしまうかどうかはオーストリア次第。
そう肝に命じて、秘裂の奥まで、穴の中を押し広げながらゆっくりと侵入していった。

「ふああぁ……っ、ぜ、ぜんぶ、はぁっ、わたしのなか……
 ぜんぶ、オーストリアさん、に……い、いっぱいに、されて、ます……」
とろとろの媚肉がひくひくとよろこびに打ち震える。
「少し……このままでいましょうか」
眼鏡をはずしてシャツを脱ぐと、上半身を倒し、彼女に覆いかぶさるようにしてそう伝えた。
「え、で、でも……」
「すぐに終わってしまうには、惜しいですから」
「……」
そう言われてはハンガリーも反論できない。
それが半分オーストリアの気遣いだとは察しがついたけれど、
彼に奥まで貫かれたまま、その腕に包まれているのは確かにとても気持ちいい。
しばらくオーストリアに抱かれたままでいると、ふいについ数十分前の
状態が思い起こされた。
今なら、オーストリアの匂いを存分に楽しんでいられる。
今なら、ベッドを広く感じることなんてないし、
今なら、シーツの冷たさの代わりに愛しい人のぬくもりがある。

「オーストリアさん……」
なんだかとても浮かれた気分になって、オーストリアの両頬に手を添えて
自分の目の前まで誘導すると、無言でキスをねだってみた。
「んむ……ん、ちゅ……」
自分の舌先で相手の舌をつついてみたり、唾液を交換して嚥下してみたり、
口腔内だけでなく唇とその周りまでなめ取ってみたりと、思いつく限りの
遊びを実行して、繋がったまま、抱き合ったままの状態を楽しむ。
最後にオーストリアの口元のほくろを唇でちゅうっと吸うと、
彼の体がぴくっと身じろぎし、同時に柔肉の中で怒張がびくんと跳ねた。
それを合図に、お互いの意識が結合部へと注がれる。
性器に血液が集まって、充血による膨張が行われるたびに、
どくん、どくんと二人分の鼓動が感じられる。
「オーストリアさんの……硬くて大きいの……今、すごく熱くなってます……」
「……」
「動いて……ください、いっぱい。こんなにされたら……私もう、
 我慢の限界ですよ……?」

無数の襞のざわめきを堪能しながら、大きくゆっくりとした抽送から開始する。
「ふぁ……おなかのなか、動いて、ます……っ、
 いろんなとこ、こすれて……あ、気持ち、い、あ、あああ……っ」
様子を見ながら様々なバリエーションで快感を与えていく。
「あっ、いりぐち、また、ぐちゅぐちゅされてる……!
 ひゃんっ! あ、きゅうにおく、ねじこまれたらぁ……っ、
 きつくて、すごい……! すご、うぁんっ、あ、あっ、いいです……っ!」
さらに、追加の刺激として、ぷっくりと勃起している肉真珠を指で圧迫してみた。
「あっ、あん、だめぇ! きもちい……ところ、おおすぎ、あっ、です……あぁ!」
それならばと大きな動きを控えめに、肉壷の一番奥の突き当たりと肉芽を
責めることに集中してみる。
「ふや、あ、あ、おくぅ……! おく、とんとん、されてるのに……っ、
 いっしょ、に、クリトリスきゅってされ、て、あっ、へんになる……、
 あふ、あっ、よ、よすぎて、あたまへんになっちゃいます……ふあぁん!」
段々と理性がなくなってきているためか、文章がおかしな組み立てになっている。
しかしそれこそがオーストリアの与える快感におぼれていることを示すものであり
二人の性感を高めていく効果としては充分だった。
「オースト、リアさん……すき、すき……なのっ、あ、はぁんっ、
 わた、し、あなたのこと……っ、だいすき、です……っああ!」
もはやプレイがどうとかではなくなってきている。
ただ自分の中に生じた感覚を、必死にオーストリアに伝える。
「あ、オーストリアさ……もっとっ、わたしのなか……で、あばれて……!
 あん、あっ、あつくてかたいのっ、もっとこすって……もっとぉ!」
ハンガリーの腰がうねり、懸命にオーストリアを絡めとって締めつける。
求めに応じるように、ひたすら強く激しく大きな動きで腰を打ちつけると、
結合部からあふれる蜜がひときわ淫猥な水音を響かせ、二人の情動をさらに煽った。
「やぁんっ、おとっ、じゅぷじゅぷって、あ、しちゃ……っ、あ、あっ、
 あんっ! おっきいのずぷずぷっ、されるのぉっ! きもち、ぃ……ああぁんっ!」
理性と意識が決壊し、結合部から感じられる音や、熱や、快感に全身を支配される。
蜜壷の内部の様子を懸命に言語化する以外は、頭の中の全てが下半身からの
快楽を享受するために存在するかのようだ。他に何も考えられない。
ただひたすらに、お互いがお互いの性感を高みに押し上げるために動き続ける。
「ひぅ、あ、わた、わたし……も、っあ! もうっ! だめ、また……あぁっ!!
 いっちゃ、う……っ、あ、いっちゃい……ますっ、あん、い、く……っあ!
 あ、あっ、ぅあ……っん、は……ああああああああああああっっ!!!!!」
一瞬ハンガリーの呼吸が止まり、直後に高い嬌声が尾を引くように響き渡った。
それに合わせて秘裂の入り口と内部とが急激に収縮する。
何度も繰り返し律動する肉襞の動きに、オーストリアも限界突破寸前まで
追いやられる。
「く……ぅっ!」
本能が自動的に腰を打ちつけるような動きを繰り返す中の刹那、
甘い痺れが全身を駆け抜けると、剛直が一気にふくれあがって、
直後脱力すると同時に彼女の体内に白濁の熱情が注ぎ込まれた。
「あ、あつ……ぅっ、あ……。なか、いっぱい……出て、ます……」
ひとかけらの意識の残りの中で、ハンガリーは行為の証が自らの内部に
与えられたことを認識した。


「……ハンガリー」
「……」
「……その姿勢は、苦しいのではないでしょうか」
「だ……っ! だいじょーぶ、です! おかまいなく……っ!」
最中とは逆の体勢で、仰向けになったオーストリアの上に乗って、彼の胸に顔を
うずめ……というか押しつけ……というか、顔面密着させているハンガリーは
どう話しかけられても、なかなか顔を上げられなくなっていた。
顔から火が出そうだ。
今日はこういう日だと結論づけた時には開き直っていたものの、
いざ終わって意識がはっきりした状態で行為中の自分を思い出してみると
羞恥にさいなまれるどころか身を焼かれそうだ。
自分の配偶者であるオーストリアが、下手に言葉でフォローを入れるタイプでなくて
よかったとハンガリーは思う。
眠くないかとか、お風呂はまだいいかとか、この格好は息苦しくないかとか、
そういう問いかけならばまだ会話のしようがある。
どうやら彼からはもう話すことがなくなったようで、話を繋ぐ代わりに
あたたかい手が頭に載せられた。
そのまま頭を撫で、髪を梳く動作を繰り返される。
無言のまま、しばらくそうして時間を過ごしていると、不思議なもので
ハンガリーの気分も段々と落ち着いていった。


前回、二人がセックスしたのはほんの1時間ほど前。
お風呂に入って汗を流し合い、一人分残っていた夕食を明日の朝食にする方向で片付け、
改めてパジャマに着替えて着いた床の中。
「……そういえば、オーストリアさん?」
「はい」
「今日は何かあったんですか? こんなに帰宅が遅くなるなんて……。
 私、心配してたんですよ? ……信じてもらえないかもしれませんけど……」
「いえ、そんなことを疑ったりはしませんが……」
「あ、今ちょっとほっとしました。ありがとうございます」
思わず、ふっと笑みがこぼれる。
「どういたしまして」
「……それで、結局何が?」
「ああ……ええと」
視線が微妙に宙を泳ぐ。
「お仕事が忙しくなったとか?」
「いえ、予定通りに進みました」
「交通機関で、何か支障でも?」
「全ての交通は平常運転を行っています」
「まさか……体調を崩されたなんてことはないですよね!?」
「大丈夫ですよ。そんな状態でしたら、先程のような行為には及んでいません」
「そ、そうですよね。よかった……」
ほっと胸を撫で下ろす。
「えっと、それじゃあ……?」
「……先方の事務所を出たあとのことですが」
「ええ」
「いつのまにか、元来た道がなくなっていまして」
「……え?」
「気づいたら見知らぬ景色の中にいたのです」
「は……はあ」
「そういうわけですから、貴方が心配するようなことは何もありませんよ」
「えっ、そ、そうですか? だってそんな遠くで迷子なんて……」
「……その言い回しはおやめなさい」
(あ、顔赤くなった。)
照れる仕草というものは、端から見ている分には可愛いなと思える。
ちょっとおあいこになれた気がして、少し気分が軽くなった。
「ええと……遠くで予期せぬ事態に遭うなんて、また同じようなことが
 起きたら大変じゃないですか」
「今日のように、どうにかなるものかと思いますが……」
「うーん、でも連絡の一つもくれた方が、私としては安心しますよ?
 ほら、今は電話なんて便利なものができたじゃないですか」
「ああ……存じてはいますが、どうも新しい機械などは
 あまり積極的に使う気にはなれないというか……」
(相変わらず保守的だなあ……)
心の中で、そっと苦笑をこぼしてみた。
「それでは今後は外出時も伝書鷹を連れていくとしましょう」
「んー、そうですね。それがいいんだと思います」
「……さあ、もうそろそろ就寝なさい」
「あ、はい」
「それでは、おやすみなさい」
「おやすみなさい、オーストリアさん」



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