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 優等生のささやかな秘密

竹林更新の合唱部愛烏でなんかティンときたので投下します
【メインCP】
【傾向】 普通?
【その他】学ヘタ


今日もW学園の音楽室では、合唱部による美しい歌声が響いていた。
ピアノの伴奏をしていたエストニアはちらりと時計を見遣ると、キリの良い所で手を止め部員達に言った。
「もうすぐ放校時間なので今日はここまでですね。お疲れ様でした。
 コンクールが近いですが明日もがんばりましょう」
お疲れ様でしたーと挨拶し、三々五々に音楽室を出て行く部員達。
エストニアは一人ピアノのそばで楽譜を片付けながら、ぼんやりと考え事をしていた。

(……今日は、来るかな?)

「エストニア君」
エストニアの背後から女性の声が響いた。澄んでるが物柔らかく、美しいメゾソプラノの声。
「……何ですか?」
エストニアが振り返ると、声の主であるウクライナはにっこりと微笑んだ後、申し訳なさそうな顔をした。
「課題曲のね、今日やったところがうまく歌えないの。
 申し訳ないけど、練習に付き合ってくれないかな?」
エストニアは人の良さそうな笑顔で「いいですよ」と言った。
万人に100パーセントの好印象を与える、優等生だけができる表情。


次々と部員が音楽室を出て行く中で、二人だけが部屋に残る。
「ねえねえ、エストニアさんとウクライナさんって、付き合ってるのかな」
最後に出て行った女子生徒が、背後の音楽室を見遣りながら言った。
「えー、確かに良く二人で残ってるけど……」
もう一人の女子生徒と顔を見合わせ、声をひそめる。
「けど、ウクライナさんに手出したら、弟さん怖いしぃ」
「だよねー、エストニアさん、ロシアさんには顔上がんないしね!」
きゃっきゃっと笑いあう女子生徒達。
「けど……ね。ありうるかもね。二人ともヨーロッパクラスで、地域も近くて仲良いし」
「ね、もしかしたら今頃音楽室でイケナイコトしてるのかも!」
きゃーっと声を上げはしゃぐ。女の子にとって、恋の噂は学校生活になくてはならないスパイスなのだ。

「ま、でも」
女子生徒は振り返りながら言った。
「優等生のエストニアさんが、そんな事する訳無いけどね」
ピアノの音はもう聞こえてこなかった。


***

淡々と正確に奏でられるピアノ。それに乗せて流れるメゾソプラノ。
「なんだ、出来てるじゃないですか」
エストニアはピアノの手を止めて言った。
「そうかな?でも、もうちょっと完璧にしたいの。ここのパート、私が頑張らないとうまく他と重ならないし」
「あなたのそういう頑張り屋な所、嫌いじゃないですけどね」
エストニアはふふっと笑い、トントンと楽譜を片付け出した。
「でも、今日はここでおしまい」
えぇー、とウクライナは不満そうに声を漏らした。
「ほどほどにしないと。コンクールが近いんですから、練習のしすぎで喉を痛めたら大変だ」
言いながら音楽室のドアに近づく。鍵を取り出し、内側から閉めた。
がちゃり、と硬い音がする。
普通、特別教室の鍵を生徒が持つ事は許されていない。教師に信用された優等生だけに与えられた特権なのだ。


「それに、こっちのほうでも声を使うんですから、尚更ですよ」
***

音楽室に妖艶な声が反響する。
「ん……はぁ……あっ」
音楽室の床の上でウクライナとエストニアが本能のまま絡み合っていた。
普段は二人とも制服を着崩す事はしないが、今のお互いの服装は乱れに乱れていた。
エストニアのシャツは前みごろが開放され、ベルトが緩められて腰からぶら下がっており、
ウクライナのほうはカーディガンがずり上がり胸がはだけ、スカートが乱れて太ももや下着が丸見えだった。
「んっ」
エストニアは床に仰向けになっているウクライナに覆いかぶさる形で、深くくちづけた。
エストニアのほうは目を瞑って真剣に舌を絡めていたが、ウクライナはふふっと笑って彼の眼鏡をそっと取り、
素顔の彼を見て小さな声で呟いた。
「今日もかっこい」
何ですか?とエストニアはウクライナから顔を離しながら言った。
なんでもないよ、とウクライナは無邪気っぽく笑って見せた。
「ね、私といる時は眼鏡外してほしいな。どうせ伊達なんだし」
「まあ、良いですけど、何でですか?」
エストニアは不思議そうな顔で言った。
「だって、優等生の素顔を独り占めしてるって感じがして、なんか嬉しいんだ」
そう言って彼の頬にちゅっと口付けた。
エストニアは少し照れた様子ではぁ、とだけ言い、また愛撫を再開した。

いつからこの部屋をこんな風に使うようになったのかは覚えていない。
二人は恋人同士だったが、それを二人以外に漏らすことは決してしなかった。
それは勿論、彼女の弟であるロシアの目を恐れての事だ。
二人が恋仲という事が分かれば、どんな妨害をされるか分からない。
彼女に合唱部を辞めさせるかもしれないし、もっと恐ろしい報復もあり得た。

そこで考えられたのが、音楽室での密会だった。合唱部の練習の後、それとなく二人で居残る。
最初は二人きりの時間が持てただけで幸せで、他愛の無いお喋りをしたり、
たまにキスするくらいの可愛い会合だった。
けれど、お互い若い身、いつのまにか行為はエスカレートしていった。
近頃はほとんど毎回、密会の度に繋がりあっていた。
音楽室は防音設備もばっちりでうってつけだった。

「きゃっ」
ウクライナの下着の中にエストニアの長い指が入り込む。
長い愛撫で下着はすでにしとどに濡れており用を為してなかった。
襞をねぶるとウクライナはあん、と甘い声をあげた。普段の合唱の時の声より一段高い声。
「いい声ですね」
「そういうのは部活の時に言って欲しいな」
冗談を言い笑い合う。お互いに頬が火照っているのを確認した。
エストニアが膣の中に指を進める。ウクライナは一瞬びくりと体を震わせたが、エストニアの背中に腕を回して肯定の意味を表し

た。
ぐちゅり、ぐちゅりという淫靡な音が部屋中に響く。部屋の性質上、水音は余計に空間に反響した。
エストニアが中で指を動かす度にウクライナはあ、あと嬌声をあげた。
水音と喘ぎ声による音楽。そこが普段生徒達が規律正しい歌声を響かせてる場所だという事も、余計に二人を興奮させた。
「ああっ!」
ウクライナが一段と高い声をあげると、エストニアは指を引き抜いた。
お互いに肩で息をしていたが、目が合うとウクライナはエストニアのズボンに手を伸ばした。
緩慢な動作で前をくつろげる。いきりたったソレが晒された。
「ね、してあげられなくて悪いけど、……限界なの、もう挿れて?」
「もちろんですよ」
エストニアは穏やかに笑ったが、その笑顔は普段の優等生のソレではなく、雄の本性が垣間見えた。
ウクライナの腰を深く抱き、ゆっくりと腰を降ろしていく。
「ん……あっ!」
先が入っただけでウクライナの全身に快楽が走った。つい彼の背中を抱く手に力がこもる。
エストニアは静かに挿入を進める。ソレがすっぽり入ると、ゆっくり体を動かした。
「あああっ!あっ!あっ!」
ウクライナの歓びの声が室内に反響するのを背中で聴きながら、エストニアは次第に腰の動きを早めていった。
エストニアの男根がごつごつと子宮の奥に当たるたび、ウクライナの意識は飛びかけた。
「んああっ!」
「ふ……!」
互いに限界が近づいてるのを察すると、二人は見つめあい深くくちづけた。
お互いの唇から伸びた銀糸が千切れるのを合図に、エストニアはウクライナを深く突いた。

「あああああああああああっ!!!」

今日一番の歌声が教室内に響いた。

***

行為が終わり二人がはだけた服を直してると、携帯が鳴った。ウクライナの携帯からだった。
「ロシアちゃんだ」
ウクライナは慌てて携帯を手に取り、「もしもし?」と通話した。

「もしもしロシアちゃん?あ、ごめんね帰り遅くなっちゃって。……ううん、なんでもないの。
 ちょっと寄り道してただけ。手芸屋さんで毛糸選んでたらつい時間経つの忘れちゃって……。
 ……デート?あはは、やだ、そんなわけ無いじゃない」
普段と全く変わらない様子で弟からの電話に答えるウクライナ。
エストニアはそんな彼女を少し寂しい目で見詰めるのだった。
(……嘘がうまくなっちゃったな)

「今晩のご飯はボルシチだから。はい、じゃあね」
ピッと携帯のボタンを切る彼女。エストニアのほうに振り向くと少し申し訳なさそうな顔をした。
「ごめんね、ロシアちゃんったら過保護で」
「たった姉思いなのは悪い事じゃないですよ」
「……でも、ろくにデートもできないよ」
ウクライナが悲しそうに顔を伏せる。エストニアは気遣うようにウクライナの肩を抱いた。
「じゃあ、コンクールの帰り、二人でどこか行きましょうか。遠出してるならロシアさんの目も届きませんし」
ウクライナがぱあぁっと顔を明るくした。
「そうだね!そうしよ!……わぁ、すっごく楽しみ」
子供っぽくはしゃぐウクライナをエストニアは暖かく見つめる。
年上だというのに、時々自分よりずっと幼くなる彼女のそんな所が愛おしかった。
「まあその前に、ちゃんとコンクールで頑張りましょうね」
はぁい、とウクライナはわざと真面目っぽく答える。
ウクライナとのこの秘密の関係は、当初は甘美なものではあったが、次第にエストニアを締め付けていった。
この関係がばれるのを恐れて、学校ではほとんど口をきけないのだ。
廊下ですれ違ったとしても意味深な目配せは許されない。ましてや一緒に帰るなど夢のまた夢だ。
音楽室以外で恋人らしい事が出来ないというのももちろん鬱憤がたまるのだが、
彼女の弟を恐れてこの関係を漏らせない自分が情けなく、そこに一番の苛立ちを覚えている。
だが、彼女も厳しい弟に関しては申し訳なく思っているようで、その話になるとすまなそうな顔になる。

自分がこの関係に悩んでいることを彼女に悟られてはならない。
優しい彼女のことだ、きっと自分以上に苦悩するだろう。そんな姿を見るのは望んでいなかった。
(まあ、優等生ですし。このくらいは)
彼女にも周囲にも自分にも―――障りなく対処することには慣れている。
エストニアはふぅと溜息を吐いて眼鏡をかけた。もうその顔は普段の優等生のそれに戻っていた。





おしまい。
エストニアに幸あれ。



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