独辺
統治下に置いた女は状況をわかっているのか、いないのか。
無表情と無関心を装いドイツの前に立っている。
その氷のような容貌を間近に見たのは初めてで、ドイツは額を押さえ深い溜息をついた。
ロシアと親しく、その庇護下にいる彼女を無理やりこんな所に連れてくるのは自殺行為じゃないのだろうか。
考えれば考えるほど出てくる不安の種。
しかし、上司には逆らえない。
ドイツは体を沈ませるように深く腰掛けていた椅子から腰を上げると、ベラルーシに歩み寄った。
何と言葉をかけて良いのかわからない。
侵略した自分が今、言葉をかけたところで何の意味も持たないだろう。
ただ、支配されるなら恐らく気にしているであろう事だけは伝える事にした。
「お前自身の体を望んだりする事はない。それだけは安心して欲しい」
それは生真面目なドイツらしい言葉だ。
統治下に置けばそのまま躰の関係を強要する物もいたが、ドイツはそれを好まない。
だからこそ伝えた言葉だったのだが。
今まで無表情だったベラルーシは、その言葉にゆっくりと顔を上げドイツを見つめてくる。
その目にあるのは「驚き」なのだろうか、「安堵」なのだろうか。
「それだけだ。後は自由にしてくれ」
そう言って、ドイツは再び椅子に腰掛けた。
彼女の事を見ていると痛まれない感情が湧いてきて、目をあわせる事が出来ない。
今、少し視線がはち合っただけで、胸を押さえそうだったが、本人がいる前では止めようと緩く拳を作った。
しかしそれなのに。
「……? ベラルーシ?」
触れれば柔らかく指からこぼれ落ちていきそうな髪を揺らしてベラルーシがドイツの前に歩み寄ると、ふいに膝を突く。
彼女はその細い指先をドイツの膝の上に置き、そして、そのまま何を思ったのか上へと滑らせた。
突然の出来事に驚き、ドイツはそのか細い手を振り払うと慌てて立ち上がる。
「な、何のつもりだ! こういう事はしなくて良いと……」
「連れて来ておいて、そんなの困るわ」
振り払われた手を押さえていたベラルーシは伏せていた眼差しをゆっくりと持ち上げドイツを見つめる。
「侵略されておいて、何もされなかっただなんて、あの人に笑われてしまうわ」
困るの、そう呟きドイツを覗き込む瞳は、女の妖艶さを含み、無防備なドイツの心を高鳴らせた。
それでも、潔癖と言っても過言ではないドイツの事、飲み込まれそうになった心を必死で引き戻し、首を振る。
「俺は、そういうのは好きじゃないんだ」
「女からの誘いを断るのは、最低最悪な行為よ」
なのに、ベラルーシの言葉にドイツは揺れる。
どちらかと言えば恋愛に奥手なドイツは「これこそが基本」と説かれると、反論する事が出来なくなるのだ。
そんなドイツに勝手に了承を得たと勘違いしたのか、ベラルーシが立ち上がり、ドイツの軍服に手を伸ばす。
やはり慌ててしまうドイツをベラルーシは逃げられないように椅子の上に腰掛けさせ、ズボンのベルトに手を伸ばした。
「お、おい!」
彼女は長い髪をドイツの足に垂らしながら、ドイツの制止を聞かず、一物をとりだした。
まだ何も反応を示していなかった肉棒が、ベラルーシの真っ白な手に収まる。
そのまま上下に擦られ、ドイツは「うっ」と上擦った声を上げた。
彼女はそんなドイツの目を見つめながら、ドイツの肉棒を扱き始める。
「おい、やめ」
そう言って彼女の手を押さえようとすると、右手でドイツの意に反して熱を持ち始めた肉棒を扱きながら、左手で、ドイツの手を止めた。
力では格段上のはずなのに、何故か力が出てこない。
何よりも、彼女の臆することなく見つめてくる眼差しに理性が奪われていく。
ベラルーシは中途半端な位置で止まったままのドイツの指先を口に含んだ。
そして、舌を覗かせながら丹念に舐め上げていく。
指の腹を舐め、指の関節を甘噛みし、指を根本まで飲み込んでいく姿はドイツの劣情を高めていった。
もうすでに勃起し天井へと向き始めた自分のそれ。
腰の辺りが激しく疼いて痛いくらいだ。
ベラルーシはドイツの指から口を離すと、今度は唾液とたっぷりと鈴口に落とし、口付ける。
そのまま猫のように先端を舐めていたかと思えば、その口に全てを入れ込んだ。
もはや抵抗する気力さえなくなったドイツはその卑猥な光景に更に興奮を覚えながら、軽く腰を揺する。
そんなドイツの行動を更に促すように、彼女はドイツの先走りの汁を丁寧に舐め取った唇で「もっと」と呟いた。
彼女は自らメイド服のボタンに手をかけ、一つ、二つと外していく。
プチン、プチンという音と共に彼女の喉が外気に触れ、鎖骨が現れ、そして、
「……っ」
たわわな胸がドイツの目に飛び込んできた。
触れずともその柔らかさを現すように小さく震える乳房。
むしゃぶりつきたいと本能が叫ぶ。
「お好きなように」
そんなドイツの心を読んだかのように、ベラルーシが甘い誘いをかけてきた。
それでも、躊躇してしまうドイツを見て、ベラルーシは何故か小さく笑う。
それは僅かに口角を上げただけだったが、無表情を決め込み感情が見えなかった彼女と比べれば、劇的すぎる変化。
ドイツは意味を捉えかねる。
まさか、馬鹿にされたのだろうかとカッと頬を赤くしたところで、ベラルーシは言った。
「少し、リトアニアに似てる。何だか懐かしい気持ちになるわ」
自分を見つめる目に、慈しみの色が浮かんだ。
しかしそれはすぐ哀しみの表情に代わり、
「いつも誰かと一緒にいた。だから、寂しい」
「ベラルーシ……」
「誰かが抱いてくれないと、寂しいの。死んでしまいそう」
そう言って、彼女はドイツの首に手をかける。
「嫌いじゃないわ、あなた。優しさがあるなら、私を滅茶苦茶にして……よく眠れるように」
そういって、彼女がゆっくりと唇を近づけてくる。
その赤みがかった可憐な唇を、寂しさを滲ませ自分に縋るような眼差しを、もはやドイツは振り払う事が出来なかった。
自分の咥内に入りこんできた舌を舐め上げ、吸い上げ、ゆっくりと犯していく。
知らず拳を作っていた両手を開き、彼女の乳房に触れると、しっとりと吸い付くようだった。
キスに唾液を零しながら、ドイツはベラルーシの胸を揉み始める。
最初は優しく、しかし、次第に膨れあがる劣情に、力の加減が出来なくなってきた。
柔らかすぎる乳房はドイツの手に合わせ形を変え、指の痕をくっきりと残していく。
やがて、互いの唇が離れたとき、ドイツは彼女の胸を掴み上げると、その頂きに吸い付いた。
「んっぁあ」
すると、信じられないほど甘ったるい声がベラルーシの口から零れる。
ドイツはチュバチュバと乳首を吸い上げ、ピンク色の乳輪を舌先でなぞった。
「ああん、やぁんっ」
氷のようだった表情が溶かされ、彼女の頬に赤みが増していく。
それが綺麗だと単純に思いながら、ドイツはまた乳首を吸い上げた。
次第に激しくなっていくドイツの愛撫にベラルーシの体が浮いて、自分を焦らすように逃げていく。
それがもどかしくて、ドイツは床にベラルーシを押し倒した。
彼女の両脇に手を付き、顔を覗き込めば、彼女は逃げることなく、あの目で自分を見つめている。
その眼差しが、何故かドイツに鳥肌を立たせた。
背に床を敷き、逃げる事の出来なくなった彼女の服を乱暴に剥ぎ取ると、陰毛に隠れ、甘い蜜を零すその場所に手を伸ばす。
「濡らし、ているのか」
その事実はドイツを安堵させ、次の行動へと付き動かしていった。
ドイツは上着を脱ぎ捨て、その鍛えられた体を彼女の前に晒す。
そして、昔は剣を、今は銃を持つ骨張った指先で、茂みを掻き分けて、熱く湿ったその場所に指を立てた。
そのまま、ゆっくりと中指を沈ませると、ベラルーシの口から吐息が漏れる。
彼女の顔を見つめながらじゅぶじゅぶと内壁をかき混ぜ、指を増やしていけば、ベラルーシが快感に身を捩り、瞳に涙を滲ませた。
その仕草があまりにも綺麗で、ドイツは彼女に対する支配欲が一気に膨れあがる。
本当ならもっと丹念に愛撫を、と思っていた体。
しかし、はやる気持ちを抑える事が出来ず、彼女の膝を掴み、大きく左右に開かせた。
その足の間に体を滑り込ませると、はち切れんばかりの欲望を称えた肉棒を濡れた秘裂に押し当てる。
「ベラルーシ」
呼んだ名前に彼女は視線をこちらに向けて、また、「好きなように」と呟いた。
ドイツは彼女からの返答に、一気に腰を押し当てる。
想像以上に蜜を零し、ドイツの侵入を待っていたらしい膣内は、ドイツが入るや否やぎゅっと締め付け、これ以上ない快感をドイツに与えた。
それだけでイきそうになるのをぐっと堪え、しばらく制止した後、ドイツは勢いづけて動き出す。
「ああっあ、ああっ!」
パンパンと腰を打ち付ける音が部屋中に響き、彼女の体が大きく揺さぶられた。
動きに合わせて震える乳房にドイツは噛みついて、歯痕を残す。
あまりにも気持ちの良い躰。
まるで男に抱かれるために生まれた来たようだ。
ドイツはベラルーシを力任せに俯せにし、今度は背後から挿入した。
四つん這いになって尻を突き出すベラルーシ。
どこまでも白い躰がドイツの肉棒を飲み込んでいる。
いつもセットした髪はドイツの激しさにパラパラと崩れ、汗に湿っていった。
「ああ、もう、だめ……っ」
やがて、ベラルーシの悲鳴にも近い声が漏れ、それと同時に彼女の体が激しくビクンと痙攣する。
そのまま、躰を支えていた両腕が折れ、彼女の体が床の上へと崩れ込んだ。
彼女の中からドイツの肉棒が抜け出し、絡みついた彼女の蜜にぬらぬらと輝いている。
まだ、力を持ったままの、肉棒に。
ドイツは彼女の腹に手を入れ込むと持ち上げ、再び四つん這いの姿勢を保つよう強要した。
「あなた、は」
初めは自分から誘ったベラルーシ。
恐らく、ドイツの体力を甘く見ていたのだろう。
もうすでに火がついたドイツは止まりようがない。
後は全てを出し尽くし発散するまでだ。
ドイツが有無を言わせず再び躰を捻り込ませれば、ベラルーシが「ひぁっ」と声を上げ、喉をそらせる。
その仕草全てが芸術品のようにさえ思えて、自分にない物を得るように、ドイツは何度となくベラルーシの腹を、乳房を、内腿を、膣内を、躰全てを自身の白濁で汚した。
彼女は自分の物だと、錯覚させるように。
やがて、ようやく満足した頃にはベラルーシは肩を上下にさせ、頬は涙と汗で濡れていた。
ずるり、と彼女の中から肉棒を引きずり出せば、最後に解き放った精が彼女の体からこぼれ落ちてくる。
彼女の蜜と混じり合った白濁の精は彼女の内腿をゆっくりと伝い、床の上に小さな湖を作った。
ベラルーシほどではないが、荒い呼吸を繰り返していたドイツは、そのままドサリとベラルーシの隣に倒れ込む。
しばらく目を閉じて呼吸が収まるのを待っていると、ベラルーシが起きあがる気配を感じた。
その動作にうっすらと目を開けて、彼女を見つめようとしたところで、きらりと輝く何かに気付く。
「!!」
ドイツは反射的に起きあがろうとしたが、その切っ先の餌食になる事が分かり、制止した。
それは、白銀のナイフ。
まさか。
しかし、ベラルーシはそれをドイツに手渡し、ぱたりと床に倒れ込んだ。
訳もわからず彼女が渡したナイフを握りしめるドイツ。
「どういう事だ」
「つまらない男だったら、それで刺そうと思っていたの」
クスリと笑みを浮かべたその表情に、ドイツは寒気が走る。
同時に、やはり「美しい」と思った。
「でも、あなただったら私は毎晩眠れそう。それ、あなたに預けるわ。私がナイフを取り返す事がないよう、気をつけて」
そう言って、彼女はゆっくり目を閉じる。
すぐに聞こえ始めた吐息にドイツは肩を落とし、くしゃりと髪をかいた。
自分の手の中にある白銀のナイフ。
それをじっと見つめながら。