再び独辺
轟々と鳴り響くのは風の音。
激しく打ち付け人々から熱を奪うのは雪の舞い。
いくら羽織れども熱を生み出す事が出来なくなった体で、ドイツは正面を見据える。
寒さに震える指先を隠すように拳を握り、奥歯を噛みしめる事がせめてもの抵抗だった。
「やぁ、ドイツ君」
常識で考えれば吹雪の音に掻き消されるだろう声。
なのに、やたらと大きくドイツの耳に響くのは何故だろう。
ドイツはチラリと背後に目を送る。
今頃ドイツの陣営では、愛しい物の襲来に彼女が胸を震わせているに違いない。
この、薪をくべる事も出来ず四肢の細胞が全て壊死してしまいそうな、
極寒の状況であっても。
あのまろやかな体を何度貪った事か。
汗を零し、蜜を飲み上げ、体をねじ込ませては彼女を高らかに啼かせた熱く濃密な
夜が嘘のようだ。
「ベラルーシは、よかったかい?」
一層高く響いた声にドイツはようやく吹雪の中で、悠然と歩み寄る人影を見つける。
彼の色素の薄い髪といつも身につけているマフラーが風にたなびくのを確認すると同時に、
彼の背後に、彼を幼少の頃から守り、敵をなぎ払い続けた無敵の冬将軍の姿が見えた。
「ロシア……」
口元に浮かぶ笑みに相反するように、全く笑っていない眼差し。
自らの所有物を強奪したドイツに対しての怒りが感じられる。
「寝たんだって?」
ロシアはドイツの4メート程先で立ち止まると、大袈裟な素振りで腕を組み、
首を傾げながら問いかけてきた。
「ドイツ君だったら、そんな事しないと思ってたのに。
ねぇ、無理矢理犯したの?
それとも、ベラルーシが誘惑したのかな?
あの子、寂しがり屋だからね」
「……」
思わず口ごもったドイツにロシアはつまらなそうに「ふうん」、と鼻を鳴らす。
「随分と情が移ったようだね。そーんなに、良かったんだ?」
誘いは確かにベラルーシからだった。
しかし、あの後、自分の本能に身を任せ彼女の躰を激しく打ち付けた自分は、
彼女に責を被せる気にはなれない。
何より、あの日からと言う物、毎晩、貪欲なまでに彼女の体を求めたから。
彼女の柔らかな乳房に歯を立てて、胸の頂きを吸い上げて、鎖骨を食み、
甘い女性独特の香りを匂わせるその場所に吸い付いて。
ドイツの愛撫に反応して主張する突起を指先で挫いたり、舌先で突いたり。
氷のような美しさを称えた彼女が熱に翻弄され、頬を上気させる姿が見たくて、
ヒダを開きその中に何度も指を入れ込んだ。
ドイツの骨張った指先を何本も飲み込んで、次から次に溢れ出る彼女の愛液を啜るとき、
自分達は恋人同士なのではないかという錯覚さえ陥る。
自分主体ばかりではない。
ベラルーシは時にはドイツの鍛えられた胸に手を置き、筋肉の感触を手の平で楽しみながら、
馬乗りになって、激しく腰を踊らせた事だってあった。
眼前で揺れるたわわな乳房を掴み、揉み上げ、先端を指で摘んでも、
彼女は甘い嬌声を上げるばかりで逃げる事はしない。
頬に触れれば体を傾けドイツの唇にキスをくれた。
入り込む舌を絡め合わせて唾液を飲み干しながら、彼女を下から突き上げる。
結合部から枯れる事を知らずに溢れ出す蜜がドイツの肉棒を伝い、内股を濡らし、
シーツをしっとりと汚していった。
グチャグチャと鳴り響く卑猥な音が、ドイツの興奮を高めるだけではなく、
何故か言いようのない安堵感を与えたのも事実だ。
いつも恋愛に奥手で何をするにも参考書を必要とし、結局いらぬ知識ばかり増えて、
何も出来ない、傷つける事が怖い自分には、決して離れようとせずいつでも自分を
求めてくれるベラルーシが純粋に可愛かった。
自分に抵抗しない、それなりの好意を見せてくれる、構ってくれるだけで、
ドイツは相手に入れ込んでしまうタチなのかもしれない。
だから、そう。
きっと彼の言うとおり、自分は彼女に情が移ったのだろう。
自分の物にならないなんて、分かり切っていたはずなのに。
「ベラルーシが誘ったんでしょ? そう言えば、君に対する怒りも収まるんだけど?
ねぇ、どうなの」
だか、ドイツが自分をそう納得させたところで、ロシアの納得を得られるはずがない。
「ねぇ、何回やったの? ベラルーシは何回イった? どんな顔してた?
やらしく腰振ったのかな。
君の腰に、足を絡ませたのかなぁ」
大股で歩み寄りながら問いかけてくるロシア。
その全ての質問にドイツが沈黙を通していると、彼は苛立ちに銃を構え、ダン、と
弾丸をドイツの足下に打ち付けた。
「まぁ、どっちでも良いけど。
酷いよね、僕、すっごく心配してたのに、2人で楽しむなんて。
駄目な子だよね、僕に心配かけるなんて、
最悪だよベラルーシ。最悪だ、最悪だ」
ああ、だけど――と彼は分厚い手袋で覆われた指先を口元に宛てて、
「やっぱり一番悪いのは、僕からベラルーシを奪っていった、ドイツ君かなぁ」
そう言って、口元に弧を描くロシアに、ドイツは戦慄が走る。
おぞましささえ感じる狂気じみた眼差しがドイツを捉えるよりも速く、
彼の背後に立つ冬将軍が、高らかな咆哮を上げた。
同時にロシアの威圧感に戦場は支配される。
「ロシアを怒らせたら、怖いよ?」
風が吹く。
今まで以上の風が、吹雪が、全てを奪うように吹き荒れる。
既に疲弊しきった兵達は、猛吹雪に膝を折り、倒れていった。
ドイツは吹雪に足下をすくわれながらも銃の照準をロシアに合わせ、打ち放つ。
なのに、程近くにいるはずの彼に銃弾はかすりもしない。
くそ、と悪態付いて弾を補充しようとした時になって、ドイツは自身の手の震えに
気付いた。
寒さは強靱な肉体を持つドイツの自由さえも蝕んでいたのだ。
それに気づけないほど思考が鈍くなっている自分も、衝撃だった。
「ナイフを」
そこで、抑揚のない声が聞こえる。
振り向いた先にはドイツが渡した毛布を肩に羽織り、この猛吹雪によろめく事もなく
真っ直ぐこちらに歩み寄ってくるベラルーシの姿があった。
「ベラルーシ!」
その姿に、歓喜の声を上げたのはロシアだった。
今までの狂気が嘘のように無邪気に喜んでいる。
まるで、何も知らない子供のように。
その表情にさえ寒気を感じながら、ドイツはこれまでか、と、ずっと肌身離さず
持ち歩いていたナイフを取り出した。
彼女のように怪しく輝く白銀のナイフ。
彼女がこのナイフを求めるとき、それは自分に見切りを付けたときだ。
最愛の者の出現には、天秤にかける必要もなかったのだろう。
そうじゃなくても、彼女がドイツを選ぶはずがない。
あれだけ激しく抱き続け、幾度と無く彼女の中に吐精した所で、彼女のもっと深い
場所に住み着いているロシアを消せるはずがないのだから。
ドイツがナイフを差し出せば、彼女が無言のままそれを受け取る。
前にロシア、後ろにベラルーシ。
深く吐いた息は真っ白な煙のように風にながれて消えていく。
これまでか、ともう一度心の中で呟いて、動かすのさえ億劫な凍り付いた瞼を伏せた。
しかし、ベラルーシは何を思ったのかドイツの横を通りすぎ、羽織っていた毛布を
ドイツの肩に乗せる。
ドイツは驚き顔を上げるが、彼女はもうすでに自分に背中を見せ、ロシアの方へと
手を伸ばしていた。
もし今、ドイツが銃を向け打ち放てば止めを刺せそうな程無防備な姿。
信頼されているようにも思えて、胸が痛かった。
「待っていました」
ベラルーシはロシアの胸にしなだれかかり、そっと呟く。
ロシアはそんな彼女の肩を片手で抱いて、
「すごく心配したんだよ。すごく、すっごく」
と涙を見せた。
この寒さでは凍り付いてしまいそうな涙をベラルーシは舐めようとする。
ロシアは膝を屈め、それを甘んじて受けた。
親しき者同士の感動の再会。
しかし、ロシアが零した言葉が、その空気を打ち破る。
「戻ったら、お仕置きだよ。
縛り上げて、君の白い肌を鞭で打って、
泣き叫んでも、許してと懇願しても、やめてあげない。
グチャグチャの、滅茶苦茶にしてやるんだ。
僕の可愛いベラルーシ。死ぬほど苦しませてやるから」
まるで死刑を宣告するように冷たい声色で、ロシアは彼女に囁きかける。
その言葉に、想像以上に血の気が引いて、ドイツは思わず銃を握りしめた。
しかしその銃にベラルーシのナイフが襲いかかる。
「……っ!!」
彼女のナイフはドイツの銃を弾き、遠くに飛ばしていった。
雪の中に埋もれた銃に手を伸ばそうとしたドイツに、ベラルーシが言葉を紡ぐ。
「ありがとう、さようなら」
親愛の情を感じたのは、吹雪に熱を奪われ思考が鈍くなったドイツの勝手な
願望だろうか。
幾度と無く体を汚し追いつめたドイツに向かって彼女は小さく微笑み、ロシアの胸に
顔を埋める。
ロシアはそんなベラルーシに頬ずりして、命令するように手を持ち上げた。
すると、冬将軍は両手を振り上げ、視界さえ奪うほどの吹雪を呼び寄せる。
「く……っ」
目を覆い吹雪をやり過ごし、何とか風の勢いが弱まったところで周囲を見渡せば、
もうそこにはロシアの姿もベラルーシの姿もなかった。
まるで、全てが夢幻のようで、ドイツは眉間を押さえつける。
しかし、側にはドイツの銃を弾いた彼女のナイフが落ちていて、ドイツはそれを
拾い上げると見えるはずもない彼女の姿を追うように、吹雪の先を見つめ続けた。
彼女がかけてくれた毛布から僅かに感じる温もりに、いつも肌を重ね合わせていた夜を
思い出しながら。
「楽しかったかな?」
「ええ、とても」
そんな2人の囁きなど、耳に入らぬまま。
それから、長い年月をかけドイツが国際社会に認められ、力を発揮し始めた頃、
世界会議の場でベラルーシの姿を見つけた。
(……ベラルーシ)
彼女は相変わらず何を考えているのかわからない無表情でロシアの側に佇んでいる。
しかし、その容貌は以前と変わらず美しかった。
まるで鋭利なナイフのような妖しい煌めきがある。
それは、彼女の乱れる姿を知っているドイツだからこそ感じる妖艶さかもしれない。
「ドイツードイツーどうしたのー?」
知らぬ内に、彼女を見つめ惚けていたのだろう。
横から無邪気に問いかけてきたイタリアに何でもないと慌てて答え、何とか彼女から
視線を外した。
会話がしたい、と思ったが、今更何を話すというのだ。
何より、話題が乏しい自分に女性の喜ぶ会話が出来るとは思えない。
今の段階で思いつくのはエコの話しくらいだ。
誰彼構わず口説きまくり強引に事を運ぼうとするフランスが、今初めて、ほんの
少しだけ羨ましいと思った。
彼女はどこに焦点を合わせているのかわからない表情で、他の国々からの会話も
拒絶している。
当人は気にしていないのだろうが、そんな、周囲の手を拒み1人孤立しようとする
姿勢がドイツの庇護欲をくすぐった。
くすぐられたところで、彼女を庇護するのはロシアだとわかっていたけど。
(ああ、ダメだ)
気になって仕方ない。
そんな、夜の事だった。
会議場のほど近くのホテルでシャワーを浴び、寝支度を済ませたドイツがベットに
横になったところで部屋のチャイムが鳴る。
こんな時間に一体誰がと思うと同時に思い浮かんだのはイタリアの姿だった。
また1人で眠れないから一緒に寝ろとせがみに来たのだろう。
しかし、今日はロマーノも一緒のはずなのにと疑問を抱きながらドアを開けば、
そこに立っていたのは。
「……!」
ドイツは驚きに足を引く。
「……」
ドアを開いた先で姿勢正しく佇んでいた人。
それは、世界会議で久し振りに顔を合わせた、ベラルーシだった。
ドイツは突然の彼女の出現に何度も瞬きをする。
まさか思い悩むあまり幻覚でも見たのだろうかと疑ったところで、彼女がすっと
手を伸ばした。
彼女の細い指先が、つ、とドイツの胸をなぞる。
それだけで昔の出来事が蘇り、ドイツの頭の中を駆け巡った。
「何で」
上擦った声にベラルーシは視線を上げる。
長い睫、零れる絹糸のような髪。
ベラルーシは無言のまま、押し付けるように手の平をドイツの胸に当て、ゆっくりと
持ち上げていった。
鎖骨を越え、首筋を撫で上げ、そして頬に到達する。
彼女の親指が意図的にドイツの乾いた唇をなぞった。
「会いに来たの」
どうして、の言葉は今度は掠れて出てこなかった。
心臓は早鐘のように鳴り響き、沸騰した血液が体中を巡っていく。
「あなたみたいに激しい人、知らないから」
クスリと笑ったベラルーシ。
「好きなの。また抱いて?」
その言葉に何か枷が外れたように、ドイツは逞しい腕で彼女の腰を抱くと、自室に
彼女を連れ込んだ。
乱暴にドアを閉め彼女を抱え上げれば、抵抗することなくドイツの首に腕を回してくる。
彼女が言う「好き」は、世間一般の用途と違うかもしれない。
それでも。
ドイツはベットにベラルーシを押し倒す。
そのまま、彼女の上に覆い被さり、有無を言わせずキスをした。
彼女の柔らかな唇に、自身の唇を押し宛てて、即座に舌を入れ込む。
彼女の舌もまた同様にドイツの咥内に進入してくるのを感じながら、久し振りの事に
自分を御する事が出来ず、力の加減もせずに彼女の乳房を掴み上げた。
それにベラルーシが痛みではなく、快感の声を漏らす。
唾液が彼女の頬を伝い零れていくのを見て、ドイツはそれも舐め上げると、彼女の
服に手をかけた。
どうしようもなく気が急く。
しかし、抵抗することなくそれを受けて止めていると思ったベラルーシが何を思ったか
ゆっくり足を持ち上げ、まだ何もしていないというのに膨らみ始めたドイツの股間を
足先で触れた。
「……っ」
「先に私に奉仕させて……後になると、あなたの体力についていけなくなるから……」
ベラルーシは体を起こし、ドイツの体をとん、と押す。
それはきっと、彼女なりの気遣いだろう。
しかしドイツは今、自分の手で彼女に触れ、自分の思うままその感触を楽しみたかった。
だからこそ、口淫をされても焦らされているようにしか感じない気がする。
ベラルーシはドイツの葛藤に首を傾げ、それでも自分の任務を遂行するためかドイツの
手を引き、ベットの上に仰向けにした。
そして、そのままズボンに手をかけるのかと思えば、ドイツの眼前に腰を突き出し、
スカートをチラリとまくり上げる。
彼女の白い太股が至近距離で晒され、ドイツは生唾を飲み込んだ。
「触って良いわ……好きにして」
彼女は腰をドイツの正面に突き上げたまま、ようやくドイツのズボンに手をかける。
力を持ち始めた一物に吐息が掛かり、彼女の咥内へと飲み込まれていった。
「……っ……」
ドイツはその感触に思わず顔を背ける。
しかし、フルフルと震える彼女の尻が目に入って、怖々と手を伸ばした。
まずはスカートの上から手を乗せて、さするように上下に動かす。
形の良い尻の曲線。
彼女は「ん」と小さな呻き声を上げながらも、奉仕に没頭している。
ドイツは手に込める力を少しずつ強めて、ベラルーシの尻を撫でさすった。
柔らかな感触を確かめるように指先に力を込めれば、彼女の尻肉に指が食い込む。
ドイツは布越しに触れるのがもどかしくなって、彼女のスカートをまくり上げた。
彼女の程よく肉付いた白い太股、そして、その白さを際立たせるような黒いレースの
下着が晒される。
ドイツはその下着に手をかけると、勢いよくズリ落とした。
そして邪魔する物の無くなったベラルーシの尻を揉み上げる。
乳房の感触とはまた違う、それでも弾力があるその場所に口淫以上の興奮を得て、
ドイツはガブリと噛みついた。
「んぁっ……」
すると、彼女は悦びの声を上げる。
ドイツはうっすらと歯痕が残ったその場所を舐め、尻タブを揉みながら、茂みに隠れた
秘裂に唇を動かした。
「もう、溢れ出てる……」
すでに湿った彼女の秘裂。
味見をするように舌先で舐め上げてから、ずず、と愛液を啜り上げた。
この味を確かに知っている。
ベラルーシは口淫を途絶えさせないようにしていたが、直接的な刺激に何度も体を
震わせた。
自分の行動に彼女が翻弄されている、それがドイツの体を突き動かす。
なぞるだけだった指先は、ベラルーシの不意を突いて中へと忍び込んでいった。
「ああっ、あっ!」
熱く締め付けてくる彼女の内壁。
この心地よさもまた、ドイツは知っていた。
速く味わいたい、そう思った瞬間、ドイツの肉棒が暖かい感触に包まれる。
咥内とは違う感触に驚き覗き込めば、熱くはち切れんばかりの男根をベラルーシの
豊かな胸が包み込んでいた。
彼女は自身の乳房に手を添え押し付けながら、先端をちろちろと猫のように舐めている。
かと思えばまた口腔内に入れ込み、乳房で擦り上げて、ドイツにこれ以上ない快感を
与えてくるのだ。
思わず止まってしまったドイツの手を良い事に、彼女はどんどん自分のペースで事を
運び始める。
ドイツの陰嚢もマッサージするように揉み上げて、射精させようとしているようだ。
しかし、蜜を滴らせる秘裂を前に、彼女の中を楽しむことなく果てるのはあまりにも
惜しい。
しばらくグルグルと思考が回り、ベラルーシのなすがままだったドイツ。
だが、フッと糸が切れたように競り勝った本能がベラルーシの腰を掴み、そのまま
力任せに彼女をベットに押し付けた。
突然の事に驚いてこちらを見つめるベラルーシにキスをし、今の今まで自身を
包み込んでいた乳房を揉みながら、ドイツは今にも射精しそうな肉棒をベラルーシの
秘裂に押し当てる。
ヌメヌメと絡みつく愛液をたっぷりと擦りつけるように上下に動かせば、ベラルーシが
指を噛み喉をそらせた。
「ベラルーシ」
片方の手で肉棒を支え、もう片方の手で彼女の頬を撫でると、昔と変わらず、彼女は
体を起こして、ドイツの唇の優しいキスを送る。
もしかするとそれは、彼女を女にした男が教え込んだ手法かもしれない。
それでも、満足してしまう自分がいる以上、胸がチリ、と焦がされても文句を言う事は
出来なかった。
ドイツは腹筋に力を込めて、彼女の躰を押し開く。
ずぶずぶと抵抗することなく飲み込んでいく結合部を目に焼きつけながら根本まで
入れ込めば、ベラルーシの深い溜息が聞こえた。
普段であれば、寡黙で表情の変化を探す方が難しい彼女が、髪を振り乱し、頬を
上気させ、「ああ」と耐えきれずに嬌声を上げている。
ドイツもまた、最奥まで達した感覚に眉目を歪ませ息を付き、しばらくそのままでいた。
しかし、それもまた激しい疼きを巻き起こし、ドイツの体を動かせる。
ゆっくりと腰を引いていくと彼女の膣内は離れていくドイツを許さないとでも
言うように、しっかりと絡みついてきた。
誘い込まれるようにまた打ち込んで、それを何度か繰り返していく内に、次第に勢いを
増していく。
「あっあ、あ、ああっ!」
彼女の体はシーツに沈み、激しく上下していた。
ギシギシとベットのスプリングも悲鳴を上げる。
時折体を浮かして逃げようとするその腰をしっかりと抱えて、ドイツは種を植え
付けるようにピストンを繰り返した。
次第に頭の中が真っ白になり、快感に支配されていく。
久し振りの女の味にドイツは驚くほどの速さで絶頂へと呼び込まれていった。
「……っ、ベラルーシ……っ!」
ドイツは顎を引き息を飲み込む。
同時に、何かが弾けるような感覚が体全体を駆けめぐり、彼女の奥に自身を入れ
込んだままドイツは果てた。
大粒の汗が額からこぼれ落ちる。
解き放たれた精。
ドイツは彼女の両脇に手を付いて、項垂れるように肩を落とした。
ベラルーシもまた胸を上下に動かし、呼吸を繰り返している。
その、ふるふると震える乳房を見ている内に知らず手を添えて、ドイツはやわやわと、
今度は優しく揉みしだいた。
そして、頂きをペロペロと舐める。
既に芯が入ったその場所を柔く噛み、また舐めるを何度も繰り返していく内に、
腰の辺りに再び血液が集まっていくのがわかった。
ベラルーシはそれを待ち望むように、ドイツの愛撫を受けている。
その真っ直ぐな眼差しをドイツは見つめ返し、無意識の内に「何で」と問いかけた。
「他にも、いい男がいるんじゃないのか」
それは、みっともないヤキモチだったのかもしれない。
言ってから恥ずかしくなって「忘れてくれ」と早口で言った。
ベラルーシは軽く小首を傾げて、またやんわりと笑う。
普段無表情な分、ベラルーシの笑顔はドイツの目に焼き付いた。
「逞しい躰、枯れない性欲、それに、……優しい。あなたがその『いい男』だわ」
それは、聞いた事もない口説き文句で、ドイツはカッと頬を赤くする。
躯を繋ぎ合わせる以上の気恥ずかしさに視線を彷徨わせていると、ベラルーシの
指先がドイツの唇をなぞった。
「だけど、お前には」
ロシアがいるんじゃないか、そう尋ねるよりも速く、ベラルーシが言葉を発する。
「あなたも、イタリアと親しい」
「イタリア? それは、確かにそうだが……」
それはあらゆる意味で違うんじゃないかと思ったが、彼女からの戯れるようなキスに
一旦言葉が消えた。
「私じゃ、不満?」
「いや、そんな事はない、断じてない」
その切り返しには、ドイツは慌ててブンブンと大きく首を振る。
自分に彼女は十分すぎるほどだ。
だからこそ不安になっている。
この関係が、儚く脆い物にしか映らないから。
またいつロシアが襲来し、彼女が自分に背を向けてしまうのかと、不安で仕方ない。
あの時からもうすでに、情が移っていた自分は。
「また、俺に話しかけてくれるとは思わなかったから、驚いたんだ」
だけどそんな想い全てを口に出来るほどの器用さも大胆さもドイツにはなく、
やんわりとそれだけを伝える。
すると、その言葉にはベラルーシがきょとんとして、「わからない」といった表情を
作った。
そんな顔をされる意味がドイツもわからず困惑していると、彼女は、
「だってナイフを置いていったじゃない……」
「ナイフ。あの、ナイフの事か」
「そう……。武器を人に渡す事なんて、早々ないわ……。
あなたが好きだから、預けたのよ」
そのイコールはドイツにはわからなかった。
普通、想いを伝えるなら花や指輪じゃないのか。
しかし、それがベラルーシ流の恋愛作法なのかと勝手に解釈して、考えて。
「じゃあ、あれが俺の手元にある内は、会いに来てくれるのか」
怖々と尋ねた質問に、ベラルーシは何を当然の事をと言わんばかりの表情で頷き、
手を伸ばす。
その指先にはドイツの肉棒。
彼女は再び力を持ち始めたそれに触れ、雌豹のような目で、
「あなたがいないと、ぐっすり眠れないの……」
と躰をしならせ、ドイツに迫った。
「私を満たして」
それを皮切りに、2人は再びベットにもつれ込む。
細かい事はわからない。
人の感情の機微を察する事が出来るほど器用でもない。
しかし今自分は必要とされている、その事実だけで、もう良いような気がした。
(預けられた、と言うよりか……)
彼女の足を大きく開き秘裂を露わにして、再び屹立する男根を挿入しながら、
思い浮かべたの白銀のナイフ。
(見えないだけで、あのナイフはもうすでに、俺の心臓に突き立てられてしまったのかも
しれない)
随分と自分らしからぬロマンチックな発想に自嘲の笑みを浮かべながら、ドイツは再び
彼女の唇を求めた。
彼女からのキスが返ってくる事を、期待するように。