露烏
一体どれくらい経っただろうか
窓も光も時間も何も分からない
自分が『何か』さえも分からなくなりそうな
「ウクライナ」
一筋、光が差し込む。ウクライナは微動だにせずその場に座り込んでいる。
「また残しちゃってる。リトアニアの料理は美味しいのにね」
彼女の正面にしゃがみ、その顔を見つめようとする。
しかし俯いたその瞳は、ロシアと同じ色の前髪が邪魔をして見えることがなかった。
ウクライナはとある日を境にロシアの許可が無い限り、部屋から出ることを禁じられていた。
最初こそその横暴さに反発をしたが、その度に力で捻じ伏せられ――手酷く犯された。
そしていつの間にか彼女は自ら動くことも食べることも喋ることも感情を表に出すこともしなくなっていた。
プレゼントの包装を解くようにロシアはブラウスのリボンを外した。
ウクライナはその間も恥らう様子を見せず、まるで一体の人形のようだった。
ボタンを外していくと、そこには薄暗い中でもはっきり分かる白い肌と胸が見える。
するりと肩からサスペンダーを落としながらロシアはそれを眺めた。
「ああ、やっぱり」
その胸にロシアの指が触れる。胸から肋骨へ、そしてウエストラインをなぞっていく。
吸い付くような弾力のある胸に何度も何度も触れ、ロシアは言葉を紡ぐ。
「少し痩せたね」
そのままシャツをはだけさせてその白い肌に噛み付く。
その動物のような行為に、ウクライナの指先はピクリと動く。
「こんな風にあばらは見えるけど……ここは柔らかいままなんだね」
口付けの跡と歯型の残る胸に触れる。彼女の胸の頂にも同じように跡をつけ、ロシアは微笑んだ。
ウクライナの頬は赤く染まり、眉は何かに耐えるように寄せられる。
それに気づいたロシアは素早くジーンズの最奥を暴き出す。
「……や……駄目」
少しだけ掠れた声でウクライナは反応する。小さく呟かれた否定の言葉はむしろロシアをかき立てる。
「ふぅん。そういうこと言うんだ」
下着を乱暴に外し、長い指でその中をかき回す。
「もうこんな風になっているのに?」
ロシアが発する淫卑な水音がウクライナの耳を犯す。
「乱暴にされて、少し触られただけなのに?」
ロシアが発する言葉の一つひとつにウクライナはきつく目を瞑る。
「ねえウクライナ」
ロシアはウクライナの顎を掴み、無理矢理自分の方へと向けさせた。そして微かに塗れた指を口の中に入れられる。
「綺麗にしてね。これはウクライナのせいなんだから」
ぐちゃぐちゃと口の中をかき回す仕草に、ウクライナの瞳からは涙が零れた。
それを空いている手で拭いながら、ロシアはいつものような笑顔を向ける。
「嬉しいのかな? それとも……悲しいの?」
「弟だと思っている男にこんなことされているしね」
「それともこれは自分が情けないと思って流す涙?」
「それってやっぱり僕に対する憎しみになるのかな?」
「ああ、快楽で零す涙なのかもしれないのか」
「貴方は淫乱だからね、姉さん」
ロシアに貫かれたウクライナは息を詰まらせた。
どれだけ嬲られてもこの瞬間だけは慣れることが無いのか、唇をかみ締めて耐えている。
「我慢しなくてもいいのに」
その様子が可笑しいのか、ロシアはクスリと笑う。
恋人が睦みあっているかのような穏やかな笑み。それを向けながらウクライナの体を揺り動かす。
「君がいやらしくて、弟にも腰を振るような女だっていうのは分かっているんだから」
穏やかな表情に似合わない言葉と肌同士がぶつかり合う音を聞き、ウクライナの頬には涙が伝う。
「……ロシア……ちゃん」
その表情に、ロシアは見覚えがあった。
穏やかな中にある憐憫。申し訳ないという気持ち。
かつて、一緒に暮らしていた幸せな時が壊れたあの時と同じ表情。
ただ黙って、知らない男の所へと行ってしまった時に似ていた。
「ねえ、ウクライナ」
ロシアの顔から笑顔が消えた。動きは止まり、ウクライナに縋るような視線を向ける。
「次は君から何を奪えばいいの? どうすれば、ずっと側に居てくれるの?」
その表情はまるで母親に置いていかれそうな子供のようだ。
「名前を奪っても君は『ウクライナ』になった。生活を奪っても無駄だった。
ねえ、次は目? 足? 腕? どこを奪えば、姉さんは俺のものになってくれるの!?」
ロシアに激しい感情をぶつけられ、ウクライナはただ黙って微笑んだ。そして、手を伸ばしてロシアの涙を拭う。
「――ごめんね」
そっと抱き寄せ、ウクライナはロシアにそう言った。
「ごめんね、ロシアちゃん」
ウクライナはそのまま触れるだけのキスをする。
「ずっと側に居てあげられなくて、もうすぐ離れちゃうから、ごめ……」
ロシアがその唇を塞いで、最後までウクライナな喋ることが出来なかった。
「駄目だよ、ウクライナ」
泣きそうな笑顔を浮かべ、ロシアは再び動き出した。
ウクライナに何も言わせないように、駄々をこねる子供のように。
最後、中に放った瞬間に全てが終わるのをロシアはどこかで感じていた。