無題
デジタルカメラがシャッターをきって、その部屋をJPGに撮り残した。
千を超える画素に2ギガのSD、それは今日、彼女が買ったばかりのオモチャだった。
「さすが日本製ね。画像がきれい」
ハンガリーが嬉しそうに笑いながら、今度は無意味にホテルの椅子までも撮影する。その背
にかけられた日本のワイシャツも、確実に画面に映りこんだだろう。だが彼女は構わない。
淡々と脱いで上半身裸になった日本が、手を伸ばし、ハンガリーの片手を取り上げる。
「証拠が残るとまずいのでは?」
「証拠?仲良しの『記念』でしょ?」
抱きすくめられ、首にキスされながらも、彼女はとぼけたように笑った。
日本は苦笑したが、さらに制止することはなかった。
そもそも買い物に来たときから言っていたのだ。
(上等なカメラに面白い被写体。撮影するのが好きなら、どっちもほしいじゃない?)
(せっかくなら、日本がいいなあって)
(ちょっとだけ、撮ってもいいかしら?)
ええ構いませんと答えたのは間違いなく日本だ。
まさか、こういう意味の撮影だとは。
抱き合い、ディープキスをしている間も、シャッター音が響く。ホテルの部屋には二人以外
誰も居ないが、レンズが三人目の目になって二人の絡み合う舌をじっと見つめる。
唾液を交わして飲みあい、熱くて柔らかい唇の感触に夢中になる一方で、
カメラのつもりになって、冷静に二人の痴態を観察している客観さもあった。
覗かれていて、見せ付けてもいる。
ただでさえ不貞を働いているのに、写真に撮られているという意識が余計に性欲を煽った。
日本の手が、ハンガリーの背や腰を服の上からなぞる。体の前と前をぴったりくっつけたた
めに、思いっきり呼吸が出来ずに自然と浅くなる。
「ねえ、ズボン脱いで。さっきから私の足を触ってるのよ、あなたのおちんちん」
ハンガリーが日本の耳元で囁く。吐息が耳朶から奥にはいり、鼓膜だけじゃなく脳まで揺れるようだ。
眩暈のする熱情にうながされるまま、下半身も全て脱いだ。
ハンガリーもそれに続いて、シャツとジャンパースカートを床に落とす。ブラジャーを外すと、その豊かな胸がカップからこぼれてふるふる震える。
彼女はベッドにのぼって膝を立て、日本に下を譲った。
上半身をおこした姿勢の日本は、目の前にあるハンガリーの乳首にむしゃぶりつく。
すでに立ちあがっていたそれを甘噛みし、舌先でなぶる。
「はぁ…っ……ンンっ。ね、もう一個もして……」
希望にこたえると、ハンガリーはより甘い声で喘いだ。
乳肉は手に余るほどで、指に力を込めればどこまでも潜っていけそうなほど柔らかい。
上下にもみしだけば、存在感のある重さがさらに強調された。
「はぁ、はっ……。日本、こっち…笑って」
かすれた声に誘われて見上げると、頬を赤く染めた彼女は、微笑んだまま
デジカメのシャッターを押す。
腰のくびれから尻へ、性器へと手を移動していた日本は、愛撫を切り上げてそのデジカメをとりあげる。
「怒っちゃった?」
「いいえ。……交代です」
濡れた唇が、オレンジの光に照らされてなまめかしく動く。
「綺麗に撮ってね」
そういって屈むと、日本のペニスをためらいなく口に含んだ。
舌や上あごも使ってしごきたてられ、すぐに絶頂を迎えそうになる。
撮られた分を撮りかえす前に、日本は降参してしまった。
「年寄りには、ちょっ…と、刺激が、強すぎます、ね」
尿道口をたっぷり舌でいじめられた後で、根元まで一気に出し入れされる。
と、ふいにハンガリーが口から日本を出した。
そして狩人の目で囁く。
「いまここで出しても終わりにしても良いけど……
私が満足するまで付き合うって約束してくれるなら、ナカに出してもいいのよ」
扇情的な声だった。
この声が快楽に喘ぎ乱れるのを聞けるなら、一滴残らず精液を絞りつくされようが、満足できる気がする。
「もちろん、最後の最後までお付き合いしますよ」
日本はそう言って彼女の体を抱えなおし、太ももを伝ってシーツを濡らしていたものの源に、
その剛直を滑り込ませた。
*
「さすが日本、アフターフォローも完璧なのね」
後日、動かなくなったといってデジカメを持ってきたハンガリーは、
修理されて戻ってきた愛機に頬ずりした。
「五年の補償ですから、期間内ならいつでも無料で直しますよ」
「一応修理の代金も持ってきてたけど、いらなかったわね。
ねえ、これで一緒にご飯でも食べていかない? どこか美味しいところ」
日本が返事に窮した姿を見て、ハンガリーはふき出した。
「前みたいなのはしないわ」
「助かります。あの後しばらく足腰立ちませんでしたから……」
翌日の腰痛を思い返しながら、日本はほっとしてつぶやいた。
「そうね。私が血気盛んだった頃の血が騒いだときに、またね」
ハンガリーは内容とは逆におっとりと笑った。
あの夜の激しさなら、一人じゃ足りないのかもしれない。
恐る恐るそう言うと、彼女はしごく残念そうにうなずいた。
「そうね。
オーストリアさんも、忙しくなければ私が降参するまで付き合ってくれるんだけどね」
そして、「オーストリアさんにふるまえそうな」料理を出している店を探しに、彼女は先に歩き出した。
ハプスプルグってすごい。