普洪
「…う…?」
微かなうめきと共に、何故か"立ったまま"目を覚ましたハンガリーは、眉をひそめた。
殺風景な小部屋。見覚えのない光景。
慌てて辺りを見回そうとするが体が動かない。
背中にはなにかひやりとする金属の感触があり、手首足首、両肩までもが、どうやら
がっちりと皮のベルトで固定されている。
どう考えてもこれは異常事態。俗に言う「監禁・拘束されてます」というやつだった。
コンマ2秒で状況把握を済ませると、歴戦の元・女馬賊は普段の柔らかな瞳を鋭くして
叫ぶ。
「誰かいないの!!目的は何!!?」
とたんに、背後から聞き覚えのある高笑いがおこる。
「フフフハハハハ!!!ざまあねえな!!ハンガリー!」
「げえ!その声はプロイセン!?」
「げえって言うなコラちくしょー!!!
お前なんかな、お前なんかお貴族ぼっちゃんにのぼせあがって体なまらせきってるから
そんな目にあうんだぜバーカバーカ!」
「ということは、あんたの仕業なのね!?毎度毎度この卑怯者!!離しなさい!!」
「そりゃあ無理だな!
何故ならこの俺様もどういうわけか全身謎の機械にくくりつけられているのだ!」
「威張るなボケーー!!!」
声の方向からするとプロイセンは彼女の真後ろにいて、そしてどうやら同じように縛ら
れているらしい。
――同時刻、別の小部屋。
「さて、世界裏組織ニュースによると、某眉毛紳士と南国美少女のウッフン映像が各地で
高額取引され、とある組織がボロ儲けだということでだな」
「二匹めのドジョウを狙って我々もというわけですね、わかります!!」
「さすがはボス!!やることが素敵にせせこましいや!」
「アーッハッハッハ!照れるなあ!はい、とりあえずカンパーイ」
ここで黒服の男たち、手に手に持った杯をかかげ、あおる。
「ごっきゅごっきゅ、ぷはー。しかしなんだなー、こんだけ喧嘩の強い二人をよく揃って
生け捕れたなあ。凄いよお前ら〜」
「それがハンガリーちゃんは、何故か今日に限って隙だらけでして…。な、」
「ええ、薄っぺらい本を大量に詰め込んだカートを引いてニヨニヨしながら、なぜか日本
の海辺の道を歩いてたところをあっさりと」
おそらく有明近辺かと思われる。この際時代考証等は勘弁していただきたい。
「プロイセンの方は、まあオマケというか、ハンガリーさんの通る道端の植え込みとかを
探せばけっこうな確率で待ち伏せしてるんで」
「えっそれキモくね?なにあいつストーカーなの?」
「というか、偶然を装おって声をかける為の練習をひとりでブツブツ繰り返してました」
「ますます痛えよ!!なんか悲しくなってくるよ!」
「まあそんなしょっぱい裏事情は聞かなかったことにして!明るく前向きな感じで
そろそろ撮影行ってみますか!」
「2カメ3カメ共にスタンバイOK!」
「両人ご対面でーす。ぽちっとな」
ごうんごうんごうんごうん
「うお!!」
「何!?どうかしたの!?」
「いや、なんか俺様が縛られてる柱が動いて…回りだした」
「え?あ、私のも…ってイヤアアあああアンタなんて格好してんですかこの変態!!!」
縛り付けられたそれぞれの柱が回転することにより、背中合わせだったふたりは
向き合って立つ形になる。
そして目にした互いの姿は。
ハンガリーが悲鳴を上げるのも当然、プロイセンは裸で腰に今にも落ちそうな
薄っぺらい布一枚巻かれただけの姿だった。
戦場で鍛えあげられた身体は鋼を寄り合わせたようにしなやかで、いっそ色気すら
感じさせるが、ハンガリーに言わせれば「暑っくるしい」だけである。
彼女の好みからすればまあ当然だろう。
一方ハンガリーは薄くさらさらとした素材のスリップドレスのようなものを着せられている。
素っ裸でないのは幸いだったが…
いや、ひょっとすると素っ裸のほうがまだ良かったのかもしれない。
体にぴったりと張り付く薄い布は彼女の絶妙に柔らかな曲線を嫌がおうにも際立たせ、
真白くたわわな胸の頂きにある可憐な突起の位置すらもくっきりと示している。
さらにすんなり伸びた脚の奥、太ももにも吸い付くようにまとわりついていて――恐ら
く、下も穿かされていない、というのもなんとなく想像がついてしまう、という按配だった。
つまり正直、裸などよりよっぽどいやらしい。
目と鼻の先に突如出現した絶景に、プロイセンは数秒間、口を半開きにしたまま
固ったが、すぐに次の変化に気づいて目を剥いた。
「お、おい、まさか」
向きあった二人の体がさらにじりじりと近づけられてゆくのである。
「嫌ああああ寄らないで!こっち来んな感染る!なんか感染る」
「なにがだよ!バイ菌みたいに言うな!お、おおお前こそ寄ってくんなよ」
ハンガリーが身をよじらせるたび柔らかな白い乳房はふるふる震え、それは図らずも
目の前の男にかなり良くない効果をもたらしていた。
「…プロイセン!」
「うあ?…お、おう!なんだよ別に見てねーぞおまえのことなん、」
「ぼーっとしてないで、手、私より自由でしょ。どっかスイッチとか、探せないんですか」
確かに。手足共にがっちり革ベルトで柱に拘束されたハンガリーと違い、プロイセンの
両手を繋いでいるのはある程度長さのある鎖だった。
慌てて煩悩を振り払うと、彼は手探りで背後を調べる。
「だめだ…なにもとどかねえ」
「チッ使えない男!じゃあ私の手のこれ、はずせませんか」
「…」
いちいちひっかかるのは一旦横に置いておいて、プロイセンはハンガリーの両手を
縛めるベルトに手をかける。
ひきちぎれないか何度も試しながら、ふいに自分のポーズが、なんだか、壁に彼女を
押しつけている体勢に似ていると気付いてしまって思わず「うう、」と呻いた。
ときめいてる場合ではない、場合ではないのだが今や二人の距離は彼女の胸の先が時折
自分の胸板に触れるほどの近さだ。
この比較的自由な手で彼女のおとがいに手をかけ上をむかせれば口付けることだって
できるだろう。
そんな彼の思いには欠片も気付かず、触れるほど間近で身をよじらせているハンガリー。
必死に動いているせいで上気したミルク色の頬が愛らしい。
もし、もし目の前の男がこんなことを考えていると気付いたら一体彼女はなんと言うだろう。
…たぶん穢いものでも見るようなイヤーな顔をして一言「キモい」とか言うのだろう。
さてそんな無情なハンガリーさんだがじつはある異変を感じてそれどころではない状態だった。
さっきからベルトで固定された右足が、自分の意思ではなく動いている。
左足はそのまま、片足だけがゆっくりと開きながらもち上げられていくのだ。
機械によって無理矢理とらされたそのポーズが、目の前にいる男の、既にギンギンと
立ち上がって腰布から顔を覗かせたそれを受け入れる体勢なのだと悟るまでに時間はかからなかった。
「ちょ…嘘、冗談でしょう…」
残念ながら冗談ではない。
「ぷ、ぷろいせん、悪いんだけど今すぐ死んだりできない?」
「は?お前なに言って…」
本人たちも気付かれない程ゆっくりじわじわと結合へむけて近付けられていた体は…
とうとう、にゅち、と湿った音をたてて触れあった。
「ひいやあああ最悪!なんか当たる!堅いの当たってる!キモい!最低!そもそもなんで
勃ってんですか女なら誰でもいいの!?この犬野郎!畜生以下!」
「ちっ…違うっこれはその…これは…っ只の朝勃ちだー!!」
見え見えの苦しい嘘の後で、半泣きで喚くプロイセン。
「おい誰だか知らねえがこの機械止めやがれ殺すぞコラ!」
「そうよ!だいたいなんで私とプロイセンなんですか。貴方たちはカップリングという
ものを少しも分かってないです!!!」
「こ…この後に及んで出るセリフがそれか!お前色々ひどいだろ女として」
「うるさい黙れウジ虫野郎。その胸糞悪い肉塊とっとと萎ませなさいよ恥ずかしい」
「……っ」
「あ。傷ついてますねプロイセン。いかにもな鬼畜顔してるくせに、案外打たれ弱いですね」
「ていうか状況はとてつもなくエロいのに全然違う盛り上がり方してるんですけとこの人たち」
「…え〜と、おい、科学班。念のため聞くがもちろんアレは投与してあるんだよな?」
「は?アレとは?」
「だからーこういうエロシチュエーションものに必須不可欠のアレだよ『なんだか身体が
熱くてハアハアハア何アタシどうしちゃったのッ』ていうような薬だよ」
「無茶言わんでくださいよそんな便利なモン開発してたらとっくにそれ売りさばいて私ら
大儲けしてますよ」
「えええ!」
「あ、予定どおり先っぽイン状態で一旦機械とめますね」
「…ちょ、あのさ、大丈夫なのか。男の方とか、だいぶ、心折れかけてるっぽいんだけど」
「身体は一向に萎える気配がないので、まあいけるんじゃないですか。
なんとかシラフで頑張ってもらうしかないですよね」
「「「が、頑張ってプロイセン!」」」
そんな彼らの祈りむなしく「何か」に火がついちゃったらしいハンガリーは止まらない。
この場合の「何か」とは「同人だましい」というやつである
「そもそもね!!私とプロイセンだなんて、こんな何のフラグも立ちえない、あえて言うなら
雄と雌ってくらいしか接点がない二人、無理くりかけあわせるなんてお粗末すぎです!!
誰が萌えると思ってるんですか!!」
「ああああ幼なじみで成長期の甘酸っぱいエピソードまであって今もつきまとわれ続け
てる男相手に何のフラグもないと言い切った!」
「駄目ですボス!プロイセンもう涙目です」
「ハンガリーちゃんそのへんで勘弁してあげてええ」
「第一こんな…っ拘束監禁なんて…もっと似合う人他にいくらでも…」
言いながらハンガリーの頬がみるみるぽーっと染まる。
同時に、さっきまで見ていられないほどショボくれていたプロイセンの肩がピクリと動いた。
「あ、やだ…私ったらいえ別に、誰、なんてそんな、口にできないですけど。でも貴方たちも
どうせ縛るならもっと、こう誇り高く日頃は髪一筋の乱れもなく、でも口元にはなんとも
危うい色気が漂うようようなお方のほうが…それで眼鏡の奥の涼しい目元をほんのり羞恥に
染めて『おやめなさい!』とか言ってくださったりなんかした日にはああもうハアはあはあ」
「すごい…ハンガリーさんの顔が見る間に蕩けていきます。言ってることはだいぶアレです
けど絵としてはめちゃくちゃ可愛いッス」
ハンガリーの表情を捉えた2カメを覗く手下1が魅いられたように呆然とつぶやく。
その隣で3カメの男が「ひッ」と息を飲んだ。
「ボス…ッ、なんか、なんかプロイセンが、見たこともないほど禍々しい悪鬼の表情に…ッ」
「やっぱりオーストリ…いえゲフンゲフン。知的で優美な男性を攻める際に注意して
頂きたいのはですね、…ってプロイセン顔近いんだけど。うっとおし…むぐっ」
ハンガリーの熱弁は突然強引に中断された。
目の前の、彼女が全く眼中に置いていなかった男に、唇をふさがれて。
「…ウジ虫以下の男にこんなことされる気分は、どうだよ」
すっかり人相が変わって本来の鬼畜顔を遺憾なく発揮しはじめたその男は、
もはや先ほどまでのプロイセンではなかった。
「あ、貴方やればできるんじゃない…なんでその力をオーストリアさんの前で出せな…っ痛…っ」
プロイセンの両手が彼女の髪を掴む。
「忌々しい名前だすんじゃねえ殺すぞ」
目を覗き込んで低く言い放ってから、もう一度噛みつくように口付ける。
「…だいたいさっきから耳障りなんだよその付け焼刃の糞お上品なエセ貴族口調。
お前がそんなタマか?笑わせんな」
「……っ」
途端にハンガリーの頬がかっと羞恥に染まった。
「あんたなんかに…関係、ないわ」
ただただ、その人に近づきたいが為に。
必死で改めた口調も、慣れないドレスも伸ばした髪も――プロイセンの言うとおり
傍から見れば滑稽だろう。
不自然なことも、柄ではないことも、自分が一番知っている。
恥じ入って黙ってしまったハンガリーを前に、プロイセンは吐き気がするほどの怒りが
こみ上げてくるのを感じた。
半分犯されかけたこの状況で強引に口付けられても頬ひとつ染めず睨み返す彼女。
それが、たったこれだけのことで痛々しいほど小さくなってしまう。
そしてつい先ほども――本人は気付いていないのだろうが、あの男の話を始めた途端、
それまでは乾いて異物を拒否していた彼女の内部は、微かに、潤みさえしはじめたのだ。
殺してやりたい、と
思った途端自分の体が熱く脈打つのをプロイセンは感じた。
腹の底からマグマのように吹き出す感情、怒り哀しみ嫉妬、そしてなお諦めきれず疼く
思いは坩堝のように渦巻いて歪つな形に凝る。
それは、憎しみの形に似ていた。
どこへ叩きつけるべきか、など、考えるまでもなかった。
ふっくりとした桃色の唇に、もう一度喰いついて、細い腰を掴む。
ぎょっと大きく瞳を見開く彼女の表情を見据えたまま、先ほどよりいっそう猛り狂い始め
た肉棒をハンガリーの奥へ深々と捩じ込んだ。
「――っっ!!!…て…ッめえ…」
くぐもった悲鳴の後、塞いだ唇からこぼれおちたのは、可憐な声音がつむぐ、罵声。
今のプロイセンの耳にはどんなあえぎ声よりも甘く響いて、彼は唇の端をうっすら笑みに吊り上げる。
わざと音を立て、なぶるような口づけを繰り返しながら、もっちりと柔らかな乳房をわしづかむ。
びくりと震えたハンガリーの反応から、全身で拒絶されていることが伝わって、プロイセンはいっそう
興奮を強めた。肉棒が彼女の中で益々熱く膨らんだ。たまらずに擦りあわせた。微かに濡れた音が鳴る。
衝動のまま二度三度と大きく突き上げる。
「っく…ぅっ、あああああっ」
少しも甘さのない、戦場で聞くようなハンガリーの悲鳴。痛みをこらえる顔。
犯されながらなお、こぼれおちそうな翠の瞳に閃くのは怒りだ。凌辱に屈せず射殺すように睨み付けてくる。
まるで変えられてしまう前の、あの頃のままの彼女のようで。一瞬、彼女を、取り戻せたような気がして。
暴れる華奢な身体をきつくきつく抱きしめ、その胎内に思いきり欲望を吐き出した。
最後の一滴まで注ぎ終わるとプロイセンは荒い息のままギラギラ光る目で回りを見渡す。
「おい、ゲス共どっかで見てやがるんだろ?」
両の手で細い腰を掴み、結合部分が見えやすいようぐいと背をそらす。
彼の肉は一度放った程度では衰えず、硬くはりつめてぎちぎちと彼女の中を穿っている。
わざと見せつけるようにゆっくり途中まで引き抜きかき回した。溢れ出た精液で、くちゃ、と
濡れた音がなる。
「しっかり撮っておけよ。ひょっとしてあの坊っちゃんの目にも入るかもなあ?どうする?ハンガリー」
出された言葉に反応し、つながった部分の奥が震え波打ちはじめたのがわかって――プロイセンは、
絶望的に笑った。
――後日。
「…ご、ごめんなさいごめんなさい…あの本当、もう、ウチお金とかないんですすいません許してええ」
例の組織のみなさんは、ボコボコに殴りたおされ縛られて、ハンガリーさんの前に這いつくばっていた。
「要らねーですてめえらの薄汚ねえ金なんか。とにかく取ったテープ全部お出しなさい」
いつものメイド服で仁王立ちしニコニコ凄むハンガリーさんはラオウ様かと思うくらいに怖かった。
「そ、それが…昨日プロイセンの野郎が来て…うっうっ」
「処分してったんですか?さすが喧嘩しか能のないド外道絶倫サド野郎は仕事早いわ。
グッジョブですけどあーあ。死ねばいいのに」
どす黒い表情でつぶやいているところを見ると怒りはとけていないらしい。
あの後ぶっ通しで十数時間、ねちこく犯され続けた身としては当然だろう。
『こんなのもしオーストリアさんに見られちゃったらあああ』的な意味で、途中からちょっと
気持ちよくなって来ていたというのは無論乙女の秘密である。
そんな濃厚な十数時間の末、幼なじみ同士仲良くそろって気絶したところを、激しすぎるあれこれに
すっかり怯え怖じ気づいた組織の皆さんにコソコソ解放されたわけなのだが。
それから2日もおかずぴんぴんして殴りこんで来るあたりさすがにマジャールの女戦士は鍛え方が違う。
「えーと、じゃあとりあえずあなたたちは」
ハンガリーはメイド服には不似合いな鈍器を軽々と振り上げ天使のように微笑んだ。
「なぶり殺しの予定でしたけど半殺しにしといてあげますね」
「ひいやあああああ」
そして嵐が去った後。
「あの…ボス…生きてますか」
「うん、…なんとか」
「ハンガリーさんに言わなくてよかったんですか…プロイセンの野郎のこと」
「あのテープ、処分どころか全アングル大事そうに抱えてコソコソ持って帰ってた…ってか?
阿呆、殺されるだけじゃすまんわ…」
プロイセンがそのビデオをこの先どう使用するのか、それは、神のみぞ知るのであった――
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