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 『サボリの日』



ドアを開けたとたん、うなりをあげてフライパンが迫った。バックステップで避けると
「ちっ」
「いきなり全力攻撃とはご挨拶だな」
 プロイセンは引きつった表情でフライパンをかまえた少女――ハンガリーを見る。面倒くさいのに
会ってしまった。多分向こうも同じ気分だろう。
「なんの用? 今日は客室の使用はないはずだけど?」
「うるせえな。サボりだよ。ここで時間つぶそうと思ってな。そういうお前はなんだ?」
「私もサボリよ! 激務の毎日でたまに息抜かなきゃやってらんない」
 お互い同じ理由で同じ場所にきてしまったということか。
 二人で使用するとなると部屋の空気はおそろしく殺伐とするだろう。そんな場所で休めるわけがない。
別の部屋へ移動しようとドアを開けたとたん廊下の先から声が響いた。
「プロイセンを見ませんでしたか? 今日中に提出の書類がまだ出されてないんですよ!」
「ハンガリーも見当たらないのです。意見書をまとめてもらわなければならないのに」
 壁の向こうからいくつか、駆け足の音が響く。
 やばい!
 二人は反射的に物陰に隠れた。

 足音の主は勢いよく部屋の扉を開けた。
「いたか!?」
「いや……いない。が、ハンガリーのエプロンがある。この辺りにいるのかも!」
 一方、二人は。
 戦慣れしている二人である。ともに一番見つかりにくい場所を察知し、クローゼットに飛び込んだ。
狭い場所に強引に滑り込んだために絡み合った体勢で、飽満な胸がプロイセンの顔面を押しつぶして
いる。幸かと思いきや。
「ぶふ」
「音立てないで!見つかる」
「無茶言うな。息、できな」
 身をよじって空気を確保すると
「ふ、んぁ!………この!」
 この体制で唯一できるであろう頭突きを食らう。
 じんじんする痛みに耐えながらもプロイセンは別のことを考える。
 さっき聞こえたの、たしかに女の、メスの声じゃないか?
 プロイセンがハンガリーと聞いて頭に浮かぶのは、髪をなびかせ繰り出す必殺フライパンアタック。
次に幼い日の剣を振るう勇猛な姿。分かりやすく言うと漢前の塊。プロイセンも同じ戦いを運命付け
られた存在として勇猛さを認めているが、それは色気とは程遠い世界での話だ。
(あの気性こそがハンガリーだろ。……なんだいまの声は)
 闇の中、足の間に割り込んだ彼女の太ももが意図なく股間を刺激した。鼻腔をくすぐるのは甘さの
混じった女特有の匂い。髪と耳にかかるかすかな息がこそばい。首筋がぞわりとあわ立つ。
当然不快からくるものではない。
(何コイツ。すげ、柔らかい……)
 途端、急に顔周りの柔らかさを生々しく感じた。自分の鼓動が大きくなる。体の血がたぎった。密着
する肌や髪の匂いも手伝って、予期せずモノが硬く大きくなっていく。そこに触れているのはハンガリ
ーの足で、当然変化が分かってしまうわけで。
「ばかっ」
「不可抗りょ――がっ!」
 自由の利かぬ中、唯一できる頭突きで攻撃された。

 「なんか、物音しなかったか?」
 部屋からの声。慌てて息を殺した。
 状況として当然だろうがハンガリーが離れようともがいている。股間によい刺激。顔面でやわらかい
胸もぽあぽあ揺れている。
(逆にきもちいいんだよバカヤロー!)
 動きを止めるため何とか動かせる右手で彼女の腰の辺りを押さえる。触れた瞬間びくりと身じろき、
動きは止んだ。
 目が慣れてきて、闇にぼんやりとハンガリーの姿が浮かぶ。らしくもない困惑顔だ。女みたいだ。
ああ、女なのか。
 腰に手を置くだけで困惑するんだ。処女だろうか。ヤってる最中はどんな顔するだろうなどと考えた
所ではっと我に帰る。
(落ち着け、冷静になれ。相手はフライパンファイター、ハンガリーだぞ?)
 落ち着くために息を深く吐いた。腰に置いた手がかすかにずれる。
「んっ」
 耳元で小さな甘い声。背筋かぞくりとする。
 理性のタガが一個、ふっとんだ。 

腰に置かれた手が、ゆるりと動いた。やわらかく触れてするりと脇をすべりランダムな円を描いて
いる。
(や、…なに、してんのよ!)
 訳がわからないハンガリーはあわてて頭突きをかました。が、手は止まらない。
 次第に触れられる部分がこそばゆくしびれていく。呼応するようにその部分が熱を帯びる。
プロイセンの息がかかる胸の辺りも同じ。肌にぞくぞくした未知の感覚が広がる。
(なに、これ……)
 下に目をやればプロイセンは自ら鼻先をハンガリーの胸に顔をうずめている。息があつい。
 ハンガリーは頭突きを繰り返した。
 だがセクハラ(?)は一向にとまることはなく。わき腹くすぐられるの苦手なのによりによってその
あたりをさわられている。嫌なはずなのに、肌の神経は敏感に撫で回す指の感触を拾っていく。
 普通なら背に腹変えられんと見つかるの承知でクローゼット破壊してでも状況打破しなければならな
いんだろう。だけど、本当のこというと……自分でもびっくりなのだがそんなに嫌な気がしないのだ。
オーストリアさんに(異性としては)眼中に入れてもらえない自分にも、いくばくか魅力があるのだと
認められたようで自尊心がくすぐられる。攻撃の無駄と……頭突きを止めた。
 途端、指の動きがいっそう派手になった。
「ふンっ……あ……」
 声が出た。押し留める暇なく自分の口から出た、えろい声が。
 歯を食いしばってこらえる。体がもったりと重くなってきた。頭だけでなく全身があつい。もう
耐えられないと、思ったとき
「この辺りにはいないようだ。向こうを探せ!」
 外の声。遠のいていく足音が完全に消えた後、ハンガリーの体当たりで二人はクローゼットから転が
り出た。
 外のすずしい空気が肺を満たす。
 だが、落ち着く間も無く。気づけば組み敷かれた形である。
 見上げればプロイセンの顔。紅い双眸がいつになく真剣に見下ろしている。

(え? なんかやば気?)
「このっ!」 ごい〜んっ
 本能的に繰り出したフライパンスマッシュが絵のような綺麗さで横っ面に決まった。
「ばか!すけべ!」
「……っ! お前だってその気になってただろうが! つかそれどこから出した!?」
「えろプロイセン! エロイセン!――ひあっ」
「やっぱり感じてる」
 体の上に手をすべらせながらプロイセンはニヤリと笑った。
「う、うるさいうるさい! んぐ」
 反抗的な言葉も唇をふさがれてしまえば出せない。クローゼットで触れられていない部分、首筋や
反対側の腰、服の中にも侵入し直に触られる。そのたびにぞくぞくとあま痒い何かが走り、身をよじる。
「声、出していいぞ」
「だって、見つかるッ」
「もう来ないだろ」
「察しなさいよ、恥ずかしいのよ馬鹿!」
「今更だろ。大きくなったらちんちん生えるとか言ってたやつが」
「っ。このッ」
「!!」
 硬くなったプロイセンのものが当たるふとももをもち上げて、ぎにぎに押して攻撃。プロイセンの
表情がゆがんだ。
 自分の挙動で相手が崩れるのがちょっと面白くて、いっそう攻撃してやる。 
 プロイセンも負けじと舌と手を駆使して反撃してくる。服をたくし上げ、あらわになった胸の先を
指で捏ねられもう片方を吸われた。力が抜ける。下着の上から指が這う。クリトリスをみつけられて
クリクリと押された。
「ひあっ……」
 思わず声が漏れる。ふふん、と鼻で笑う声。ムカつく。

(ていうか、なに状況に流されされてるんだろう?)
 今本気で抵抗すればこの男の腕からのがれることはできるだろう。けど、このままでも別に嫌じゃ
ないって思っている。
 例えばこれが良く知らない人や国だったら絶対気持ち悪いし、知っていても認めるところのない相手
なら虫唾が走るだけだ。逆に大好きなオーストリアさんだったら、羞恥で死にそうなのとアラを見せて
しまうのが怖くて逃げてしまうかもしれない。
 では、どうしてこの男だと大丈夫なのか?
 プロイセンは馬鹿ですけべでふてぶてしくて笑い方ヘンで自分の幼少黒歴史知っている殴りたい相手
だ。けど、顔は悪くはないし、なにより内在する強さがあるのを知っている。戦いの中育った自分で
さえうらやみ、男と男の約束を交わしてもいいと思うくらいの。いまでこそ殴りたさが勝っているが、あの頃のハンガリーは彼を認めていたはずだ。尊敬と好意でもって。
 今だって殴りたさが圧倒しているだけで嫌いじゃないのかもしれない。
 そんなこと考えてる間にもプロイセンは、はだけた服を本格的に剥いでいく。

「あふ…ん…あぁ」
 ハンガリーの声と、くちゅくちゅという水音。自分がハンガリーの蜜壷を弄くる音だ。
「もうこんなグチョグチョだぜ、ここ」
「声に、出さないでよ」
 真っ赤な恥じらい顔にどきりとした。かわいい、とか思っている自分がいる。情欲で
おかしくなってるのかもしれない。
 もう一度そんな顔が見たくて、さらに内壁をこする。さっき触れたとき身もだえていた場所。
「は、ああぁあん!」
 いっそう大きな声で鳴く。ぞくぞくする。今までに無い感覚だ。
 あの勇猛なハンガリーが乱れて自分の腕の中にいる。
 自分が何かをする度に見せる知らない顔を覗かせ、それがいちいちツボにはまりやがる。
 いい娼婦を抱くのとは別の興奮。いいようのない昂ぶりに自分のモノは十分に血がめぐり
血管を浮き立たせている。痛い。ぶっちゃけ限界だ。
 プロイセンは余裕ぶるためニヤニヤ笑うと潤んだそこに自分自身をあてがった。
「もっといろいろしたかったが……入れるぞ」
 ゆっくりと腰を沈めた。肉壁が容赦なく吸い付いてくる。出そうになるのを息を詰めて耐えた。
「すげ、締め付けッ」
「ば、かぁ…あ、あぅん」
 目の前に上気しゆがんだハンガリの顔。もう、なんか、たまらなくなって軽く口付けた。腰を
ゆっくり動かす。
 次第に速度を速めていく。自分の着けた跡とともに豊満な胸が揺れる。耳に届く甘い声のリズムが
脳髄をくすぐる。
 しばらく部屋には水音と声と息遣いが続いた。


 どれだけの時間が経っただろうか。
 あんなに声を出すのが恥ずかしかったのにハンガリーの口からは当たり前のように嬌声が漏れている。
そんなの些細なことと言えるくらい我を忘れていた。あるのは敏感な肌で感じるプロイセンの硬い体と、
接合部から体の髄に響く波のような快楽。昇っていくような感覚。
 もっと……欲しい!
 気がつけば自分も腰を揺らしていた。プロイセンの顔がいっそうゆがむ。その顔がどうしようもなく
愛しくて体を強く引き寄せた。全身で相手を感じ、奥深い場所、子宮口を突かれさらに声を上げた。
限界が近くて知らぬうちに両手をまわしたたくましい背に爪を立てている。
近づいた顔が歯を食いしばらせてうめく。
「も、イくッ」
 ハンガリーは熱に浮かされたようにうなずいた。腰の打ちつけが早くなる。ハンガリーが高みから
突き落とされるような感覚に声を上げると同時に、耳元で低い呻きが漏れて腹の中に熱いものがはじけた。

 欲望を吐き終え、しばらくハンガリーの胸に伏してたプロイセンはだるい体を持ち上げた。いつまで
もこうしているわけにはいかない。
 ゆっくりと腰を引くとハンガリーからゴポリと泡立った精液があふれる。
「ちょ、あんまり見ないで」
 ハンガリーは重そうな身を起こしてそそくさと散乱している服を引き寄せた。恥ずかしそうに体を隠している。ヤった後に何を今更、突っ込みつつもへんな所に可愛げがあるんだなとぼんやり考えつつ、どうしても気になってならない謎を問うてみる。
「なんでお前逃げなかった?」
 顔をあわせれば毒づき殴ろうと凶器を放つ相手である。プロイセンのことは嫌いなはずだ。だから抵抗されて当然、下手すりゃ殺されると思っていた。ハンガリーは
 
「……殴りたいけど、嫌いじゃないから」
「あ? なんじゃそら」
「あ、アンタこそクローゼットの中でなんで触ってきたのよ?」
「それは……」
「どーせ女ならだれでもよかったんでしょ、ゲス!野蛮人!女の敵!」
「違う!お前が――」
 ごきっ!
 ぶん回されるフライパン。当たり所がわるくて見事に意識が吹っ飛んだ。

 ……以降、二人は今まで通りの殴り相手に戻ることとなる。
 ハンガリーがもう少し素直になっていたら、もしくは最後のプロイセンの言葉が言い切れていれば
変わったかもしれないが、『たられば』の話をしてもどうしょうもないことは本人たちが一番知って
いる。




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