暗黒の執務室
にょたりあ注意
ドイツは、各収容所へ送った人数を上司に報告し終えた。
手帳に書き留めた人数を読み上げる声。ページをめくる手。プライドの高いドイツは、
それらが震えないよう、毎度懸命の努力をした。
後の歴史に忌まわしい記憶として留められる旗が、威圧的、かつ、麗々しく執務室を
飾っている。
目の前の机に座り組んだ両手に顎を乗せた上司が、ねっとりとした視線をドイツに送
る。
ドイツは、男物の軍服を着せられていた。大柄な肢体の持ち主だ。身長と肩幅はぴっ
たりと合っていたが、胸と腰が窮屈に軍服を張り切らせている。苦しかった。
報告を聞き終えた上司は、それらの人数分の血が流れたことを歯牙にもかけぬ様子で、
退屈したように「ふうん」と鼻を鳴らした。
「もうこんなことは止めてください」
思わず、唇から言葉が漏れた。
「ほぅ?」
上司が片眉を跳ね上げる。
「君が私を選んだ。そうではなかったかね?」
「こんなことになるなんて、私は望んでいなかった」
吐き捨てるように言い、ドイツは視線を背けた。上司はゆっくりと立ち上がり、どっ
しりとした机を回って、ドイツの前に立った。小男の上司はドイツと比べると随分小
さい。腕を伸ばしてドイツの白い顎を掴み、強引に自分のほうへ向けた。
「私は極めて民主的な方法で選ばれた正当なる国家元首なのだよ? 敬意を払いたまえ!」
拳がドイツの腹部を打ち、ドイツの美しい青い瞳が苦悶に歪んだ。
お仕置きと称して奉仕を要求された。
もっともらしい理由を付けようとする相手をドイツは心の中で嘲った。こんなことがなく
ても、最終的には奉仕させられるのだ。
ひざまずかされ、滑らかな頬にペニスが押し付けられる。しかめた柳眉。強情に閉じた唇。
一閃。鋭い音が響き、ドイツの口の端から血が流れた。
ドイツは諦め、軍服のボタンを外した。ゆっくりと。少しでも忌まわしい行為が先に延び
るように。上司は急かさなかった。その顔が浮かべる表情。屈辱、恥じらい、嫌悪、憎し
み。打った頬が紅く腫れるその色までも愛でた。
軍服の前を開け、上へたくし上げた黒いシャツの下から覗く豊満な胸が露わになった。
「いつ見ても、君の乳首はいやらしいねぇ」
笑いを含んだ声が頭上から降ってくる。すでに天を向いてツンと立っている乳首は、色素
の薄い体質のせいか、どれだけ嬲られても色が沈着せず、初々しい桃色を保っていた。
ドイツは上司を無視し、勃ち上がったペニスの先端に口付けるように唇を当てると、わず
かに開いて、唾液を絡ませ始めた。
充分な唾液を絡ませると、ドイツは大きな乳房の間にペニスを包み、先端を口にふくんだ。
柔らかくぬるつく谷間の間で、ペニスが更に膨張し、血管が浮き、先走りを滲ませる。苦
味が舌を刺す。それらの気色の悪さに肌が粟立つ。だが、それを悟られるのも嫌だった。
あくまでも、事務的に平然と処理を行っているように見せるのだ。こんな下衆な男に楽し
むための材料を与えてはならない。
(私は揺るがない。汚されない。)
乳房を寄せ、上下に動く。呼吸が乱れ、汗が滲む。体温が上がり、だが、鳥肌は止まない。
本当は、今すぐに突き飛ばして、この男を殺したい。目尻に涙が溜まり、ついにツ…と頬
を流れたのにドイツだけが気付かず、彼女を見下す上司が口の端を吊り上げて笑った。
いきなり両の手首を捻り上げられた。強い力でつかまれた痛みにドイツは顔をしかめた。
「う…っ!」
上司が呻き声を上げると同時に、ドイツのしかめた顔に白い精液が浴びせた。青臭い匂い
が鼻につく。まとわりつくベタつきは、潔癖症のドイツには耐え難いものだった。
上司は満足げに吐息を吐いた。
「あっという間にイッてしまったよ…。君は何をやらせても器用で上首尾だ。それでこそ、
優秀なる我が民族…」
子供を褒めるように頭を撫で、顔に飛んだ精液を塗り広げる。そして、顔を背け息を詰め
て嫌がるドイツの様子を楽しんだ。
この男は国家元首になった後、自分の属する民族の至上主義を唱えだしたころから狂って
いった。金髪碧眼と白皙の肌に固執した。ドイツは格好の餌食だった。
上司はドイツの身体を机にもたせかけた。そして、今度は自分がひざまずき、ドイツの軍
服のベルトに手をかけた。上司の股間は再び勃ち上がっていた。はぁはぁといやらしい呼
吸を吐きながら、もどかしそうにドイツのベルトを外しズボンを引き下げる。
恥丘に額が触れんばかりに接近し、最後の砦である下着を下ろすと、凝視したそこ、淡い
金髪の茂みの奥と下着の布をつなぐ糸が引いた。透明なそれはさらに下着を下ろすと細く
伸び、さらに下ろすとふつりと切れた。
「もう濡れて…。準備は万端というわけかね…? それとも、君はベッドよりここのほう
が興奮するのかな…?」
見上げた上司の息が股間を嬲り、ドイツはびくりと身体を竦ませた。
嫌悪に苛まれながらも、身体が反応したのを悟られるのが悔しかった。
「早く…終わらせてください…。仕事が…詰まってるんです……」
「おお、おお、あの汚らわしい民族を浄化する仕事だね! 君は極めて真面目だ。良いこ
とだ。勤勉なのは我が民族の誇るべき美徳だ」
上司は一人、悦に入ってまくしたてた。ドイツはそれを冷めた気持ちで聞いていた。裏腹
に、身体の疼きを自覚しながら。
左足をズボンと下着から引き抜かれ、膝の後ろをつかまれて大きく足を広げられた。上司
目の前に濡れて光る媚肉をさらされた。指が一本無遠慮に入ってきた。一気に根元まで。
ドイツは息を詰め、わずかに背をそらした。だが、声は漏らさなかった。
上司はもう片方の手で媚肉を開き、包皮に包まれた肉芽をむき出した。ひくつく桃色の媚
肉と肉芽は、しとどに濡れていた。
「君はこんなところも美しい…。なんと清純でいやらしい色だ…!」
そう言うと上司は、媚肉にむしゃぶりついた。
片足だけで体重を支えていた。無理な体勢の中、舌で嘗め回され、膝ががくがくとくず折
れそうになる。
「あう…っ!」
思わず悲鳴が漏れた。上司が肉芽に歯を立てたのだ。激痛と紙一重の強烈な感覚が、下腹
部から這い上がって全身を貫き、媚肉から愛液があふれ、上司の顎を、ドイツの内股を滴
り落ちた。上司はじゅるじゅるとわざと音を響かせて啜り、ことさらに大きな音を立てて
飲み下す。
上半身を執務室の机の上に押し倒され、熱く熟れた媚肉にペニスが押し当てられる。ドイ
ツは目を閉じて、来るべき衝撃に備えた。
(ほんのわずかな時間だけ耐えれば…。私が生きてきた時間に比べれば、瞬きのようにわずかな…。)
そう考え、ドイツは自分を慰めた。
肉を割って侵入する異物。ペニスが最奥まで達すると、ドイツの膣はきゅんと締め付けた。
「おおぉ…、素晴らしい…! さすが優秀なるわが民族の……」
上司は歓喜の声を上げた。それから、我を忘れたようにがむしゃらに腰を振り続けた。熱
く濡れた複雑な襞がまとわりつき、締め付け、絞り取る。上司はすぐに達した。だが、一
度精液をドイツの膣にぶちまけても、猿のような獣じみた上司の腰の動きは止まらなかった。
ドイツは、その豊満な胸の谷間に沈むポマードで固めた男の黒髪を見下ろした。小男の上司
はドイツを犯すとき、顔がちょうどドイツの胸に埋まる位置に来る。それが彼の何よりのお
気に入りであり、それもドイツにはいまいましかった。表情を見られないことなど慰めにも
ならない。
寄せた乳房に挟まれる感触に、だらしなくゆるんだ表情。豊満でいて形良く整った白い乳房
は、揉まれ、吸われ、握られ、指の形に痣が残る。噛まれたところに歯型が残る。
敏感な乳首にむしゃぶりつかれ、なめくじのような舌が這い回る。
声は抑えた。呼吸が乱れるのだけは止めようがなかった。
乳房に顔を埋めていた上司が顔を上げた。
ドイツの膣は中に出された精液に溢れ、激しさを物語るように泡立っていた。
「君はまだ完全に満足していないのではないかね?」
「総統様がご満足されたなら、それが私の喜びです。終わったのでしたら、仕事に戻ります」
嫌な仕事であったが、口実に使ってでも、この場から逃げ出したかった。この男の目の前で
絶頂を迎える様など見せたくはないが、疼く身体をなんとか鎮めなければならない。
「その凛とした表情もそそるねぇ…。だからこそ、壊してやりたくなるというものだ」
上司は薄笑いを浮かべた。それから、その芋虫のような指をドイツの滑らかな尻の間に潜り
こませ、窄みをさぐった。
「なにを…!」
ドイツが静止する間を与えず、上司はその指を潜り込ませた。
「嫌っ! 嫌ああああああああああああああぁっ!」
痛みとむずがゆさ。なにより不浄の場所に侵入された事実が、潔癖症のドイツを叫ばせた。
「おぉっ! 締まる…、締まるぞ…!」
上司は嘆息した。己の行為の予想以上の効果に、出尽くしたと思われた精力が再び戻ってきた。
「だめっ! 抜いて、抜いてええええええええええっ!」
絶叫しながら懇願するドイツだったが、媚肉は新たな潤いを迸らせていた。
「あ、あぁっ! あぁ、ん、いやあああああああっ!」
快楽を認めたくないように首を振り、青い瞳から涙が零れた。内部で醜悪な物体が2つ、ドイ
ツを蝕み、そして悦びを迎えさせた。
「やはり君は最高だ…」
上司はうっとりとつぶやいた。ドイツは尻を弄られてイッてしまった事実を受け入れられず、
茫然と身体を投げ出していた。瞳に光はない。
「ご褒美をあげよう」
膣からペニスが抜かれ、それがわずかに下へ移動し、もうひとつの肉の穴にねじ込まれた。
「うっ! あっ! あ…はぁ、止めて、もう止めてぇ…」
未体験の快楽にドイツは戸惑った。それが不浄の場所からもたらされている事実にも。苦しか
った。身体の中がギチギチに広げられているような感覚。なのに、気持ちよかった。締め付け
る直腸の動きに合わせ、膣の中も収縮し、中に出された精液が押し出され、分泌される愛液と
混ざり合ってとめどなく溢れた。
「ひぃっ! …あ、また…!」
「イキそうなのかね? だが、まだだ」
そう言うと、上司はドイツの腰に腕を回し持ち上げた。そのまま執務室内のソファへ移動し、
ドイツとつながったまま、どっかりと腰掛ける。
体重がもろに結合部にかかり、ドイツは縋る物が欲しくて、憎んでいる男の頭をしょにむに
その腕に抱え、豊かな乳房に押し付けた。
「私に絶対の服従を誓え」
ドイツはぐったりと床にその肢体を横たえていた。喉は掠れ、何度も絶頂を迎えた身体はけだるい。
目の前には軍靴。
「二度と…かりそめにも逆らったりいたしません……」
ドイツは呟いた。絶望を噛み締めながら。
「あなたに…従います……」
それはつまり、罪に値しない人々から財産を奪い、収容所へ連行し死なせることだった。
これまでに流された血、現在流されている血、将来流されるであろう血。おびただしい血の
連想から、男の顔が映るドイツの視界が赤く染まった。
血の涙が流れるとしたら今しかないと、ドイツは思った。
だが、流れたのは、ドイツ自身の想いに反して、透明な、哀れな美しい涙だった。