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2_6-12


 【決壊する純情】



暗い中でも、日焼けを嫌うオーストリアの肌は抜けるように白い。
ハンガリーの目にははだけたシャツが薄く色づいてさえ見えて、このシャツは生成りだったかしらと、くすり、笑う。
豪奢な寝台の上、彫刻のような身体が身じろぎ、縄を軋ませた。華奢な手首に一層縄が食い込む。
縄の食い込んだ手首は薄赤く染まり、その先の掌と指は血がうまく通わないのか、色悪く鬱血している。
ハンガリーが目隠しに巻き付けた布の上からキスを落とすと瞼がぴくりと震えた。
「ん…」
「おはようございます、オーストリアさん。」
鈴を転がすような可憐な声。いつもより甘く擦れたそれが耳に吐息と共に流し込まれ、背筋をくすぐる。
「…ハンガリー、これ、は」
持ち上げようとすると締め付けられて鈍く痛む手首、光の入らない視界、腰の上にかかる体重。
うっすらと状況が飲み込めてくるが、敢えて相手に問うた。
痛いですか。ハンガリーは問いに答えず、縄の食い込んだ手首を持ち上げて、舌でなぞる。
桃色の舌が手首から掌、掌から指の付け根、指の付け根から爪先までをちろちろと舐めあげるとオーストリアは短く息を漏らした。
「っは…ぅ…」
ピアノの鍵盤を、バイオリンの弓を操る音楽家の指はハンガリーの舌にも敏感に反応した。
荒れを知らない手は白く滑らかで、それでいて女とは違う硬さを持ち骨ばっていて、このきれいなひとも確かに男なのだ、とハンガリーの胸を一層せつなく高鳴らせた。
果実のように柔らかく熟れた唇が耳たぶを食み、オーストリアの喉から高い声が上がる。
「え…っひ、ぁあ、…っ」
モーツァルト、ショパン、ベートーベン、リスト、バッハ、クラシックの調べを愛する耳にハンガリーの吐息が吹き込まれる。舌先で軟骨を探られ、耳たぶを噛まれ。
両の頬を包み込まれ、逃れられない快楽に鋭く短い嬌声が上がり、オーストリアの身体はぐったりと弛緩したり、びくりと跳ねたりを繰り返す。
「はっ…はぁ…っ、ん」
間隔の短くなった呼吸の合間にははっきりと喘ぎが混じり、腰に血液が集まって疼き出す。疼きの真上には布越しにハンガリーの熱。
仕立ての良いフリルシャツと下着だけにされ、両手を縛られ、目隠しをされたオーストリアに、
透ける程薄いベビードールを纏った、しなやかに柔らかく肉づきのいいハンガリーの身体が押し付けられる。
時にはオーストリアの為にかいがいしく家事をこなす手が、時にはオーストリアを守る為に勇ましく剣を振るう手が、
今はオーストリアを食らう為に、雌の匂いを纏わせて蛇の如く絡みつく。

「ふ…っく…ぁ…」
耳を離れた口唇が首筋を伝って這い下りていく。時折強く吸い付き、薔薇の花びらに似た痕を残しながら。
薄らと色づいた頂に辿り着くと、舌先でつつき吸いついた。固く芯を持ち始めたそれに軽く歯を立て、吸い上げ、もう片方も指の腹でこねる。
あ、あ、と覚束ない声がハンガリーの鼓膜を震わせ、触れてもいない女の器官を刺激する。それは美しい音楽が心を震わせるのにも似ていた。
「はぁ…あっ、ハン、ガリー…」
「オーストリア、さ…んあぁっ!」
下着越しに互いの一番敏感で、いやらしい部分が押し付けられる。固く勃ち上がったオーストリアと、熱く潤んだハンガリー。
堪らず腰を揺らすとくちゅくちゅと粘着質な水音がし、互いの脳髄までを痺れさせるような電流が走った。
「あ、あぁん、き、もち、いいっ…」
毎夜唇を噛み締めて声を殺し、オーストリアを想いながら枕で刺激したときのように、腰を振る。
「あぁっ、すご、ぃ…いい…」
「ぁ、っ…は、ぁあ…」
オーストリアの両手を掴み、胸に引き寄せる。不自由な両手の上から手を添え、豊かな膨らみを揉みしだき、淡く色づいて固くなった乳首を転がした。
どこか頼りない柔らかさを持った肉はオーストリアの手の中でたやすく形を変え、そのくせ離せばつんと上向く。
オーストリアの身体を使った、自慰のような情交。
枕と違い熱く固い芯を持ったそれは、愛おしい人の掌は、ハンガリーを直ぐさま高みに連れて行く。
「ふぁあっ…こんな…っ、すぐ、すぐっ…んんっ…んあぁ、あっぁ、オーストリアさんっ、ああぁ…!」
「ぁ、く、だめです、あ、っ、…ぁあ…ぁっ!」
身体をびくびくと震わせ、訪れた絶頂に気をやったハンガリーに一拍遅れてオーストリアも射精する。

倒れ込んできた柔らかな肉を、細やかな肌を感じる間も、快楽の余韻に浸る間も無く、脇腹を伝い下着に伸ばされた手に身体を固くした。
精液の染みた下着が脱がされ、触れた外気に産毛がぞわりと粟立つ。
「ひ…」
下腹部に零れた、どろりと濃い白濁をハンガリーの舌が掬い舐めとり始めた。
「いけませ、ん、ハンガリー、…あ、そん、な、はぁ…っ」
ぴちゃぴちゃとミルクを舐めるような音が、時折聞こえる喉の鳴る音がオーストリアの耳を苛む。
尿道に残った液も搾り出され、余さず飲み込まれた。苦く生臭いそれもハンガリーにとっては最上の媚薬となる。
もっと、と口には出さず、そうっと両手で包み込んだ力ないそれに舌を這わせた。
亀頭から裏筋を舌で擽り、陰嚢を唇で食む。いやいやをする足を開かせ、蟻の戸渡りまで唾液でぐっしょりと濡れそぼる程に舌で愛撫する。
「やめ、て、…やめて、くだ、さ…あぁあ…や…こんな…ぅ…ああっぁ!」
自由を奪われ、犯され、喘がされている…頼れる姉のようでいて、無邪気な少女のような顔も見せる女性に、かつて支配下に置いていた相手に。
「あ…あぁっ、ハン、ガリー、ぅあぁっ!」
とろとろと絶え間無く零れる先走りを啜りながら、再び勃ち上がった茎にハンガリーは満足気にうっとりと笑う。
年若い頃から仕え、守り、慈しんできた想い人が、自分の下で犯され泣きながら喘いでいる。
オーストリアの羞恥は、ハンガリーの倒錯は、興奮を掻き立て快楽と螺旋を描く。

「オーストリアさん、」
丸い腰の両脇で結ばれた紐を解く。するりと滑り落ちた、ハンガリーのとっておきの白い下着は愛液で重く湿り、秘部との間に粘っこく糸を引いた。
「ハンガリー…」
「…ごめんなさい、こんな…でも」
頬にひとつキスを落とし、ハンガリーは泣きそうに顔を歪めた。
「ひ…」
どちらともなく漏れた嬌声に続く言葉は掻き消された。
ずずっずずっと狭い肉襞を割り開いて、ハンガリーの中にオーストリアが入り込んでいく。
ハンガリーの膣内の、拒絶するようなそれではなく逃がさず食い尽くすような締め付けに溶ろかされそうになるのをオーストリアは必死に堪えた。
「ぁ…入って、くるっ、ぁああっ…」
ハンガリーの腰から首筋まで電流が走る。ゆっくりと腰を沈め、胎内で犯し犯される甘美に酔いしれるようにそのまま息をつく。
「っく…はぁ、ぁ…」
「んぅ、ふぁあ…あぁ、ん…」
ほんの少し身じろぐだけで潤んだ粘膜が淫猥な水音を立て、理性を剥ぎ取るような焦れったい快楽に苛まれる。
先に糸を切ったのはハンガリー。薄い腹にそうっと手をついたハンガリーが、堪らず腰を振り出す。

徐々に、などという生易しいものではない。抜け落ちそうになる寸前まで引き、子宮まで貫くように腰を落とす。
「あ、あぁっ、オーストリアさぁ、ん、あ、ひぅう!」
「はぁ、っあ…く、駄目、だめ、です…そん、な」
ざらついた内壁がきゅうきゅうと締め付ける。締め付ける内壁を無理矢理広げるように押し込める。
「駄目、です…ハンガリー、ぬ、あぁっ…抜い、て…」
「いや…嫌、です…は、ぁ…」
互いの身体を蝕んでいくような、至上の悦楽に、打ち付ける腰が一層速く強く激しくなる。
「いけません…この、ままで、はぁ…っ、」
「いいんです、なか、中にぃ…」
昴ぶりはより固く膨脹し、内壁はより収縮し、快楽を伝える神経以外を全て焼き切ってしまうように燃え上がる。
「妊娠、させ、て…もぅ、っく…駄、目…!」
「はふっ、ぁ、光栄、ですぅ…オーストリアさ、ぁあっ…中に出し、てぇ…!」
腰を引いて抜く事も叶わず、ハンガリーの膣内に精液をぶちまけ果ててしまう。
オーストリアを子宮内まで誘い込み、精液を一滴も余さず飲み込むように腰を押し付け、ハンガリーは淫らに喘いだ。
「あっぁ、出て、ます…オーストリアさんの…はぁ、あああぁあっ!」
最奥にほとばしる熱を貪りながら髪を振り乱し身体を痙攣させ絶頂に達する。
もうふたりは国でも人間でもなく。
ただのつがいの、雄と雌の、オーストリアとハンガリーだった。


 探り当てた結び目を歯で引き解き、やっと自由になった手で目隠しも取り去る。
身体に張り付いたシャツも脱ぎ捨ててやっとひとごこち付き、傍らで眠るハンガリーを見やる。
少し色褪せた花飾り、いつもと違う甘やかな香水、可愛らしい薄絹、逃げるのを恐れて縛りつけた両手、
「なぜ、私なんです…」
プロイセンと同じく戦う為に生まれたというのに、剣をとるより結婚して成り上がることを選んだ私を、何故。
そんな自分に必死にぶつかってきたハンガリーに、胸が締め付けられる。
(…ごめんなさい、こんな…)
(でも)
ハンガリーの言葉を反芻し、泣きそうに顔を歪ませた。

「ハンガリー、」
穢れきった私でいいのですか。
私でいいと言うのなら、どうぞ愛して下さいな。
骨の髄まで溶かして煤って、どうぞ喰らい尽くして下さいな。
私が差し出せるものはすべて、是非貴女に。

(愛してます)
「…ありがとうございます」
私も、愛しています。
強く気高く美しいひとの唇にひとつ、そっと愛を囁いてくちづけを落とした。




カテゴリー
[ハンガリー][オーストリア][オーストリア×ハンガリー]

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