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 クリスマス撃墜のお知らせ 英→セー←仏



「いつまでセーシェルにくっついてる気だよこのヒゲ」
「それはこっちのセリフだなぁ。いつまで俺のセーシェルの後をつけ回す気だこの眉毛」
「だれがお前のセーシェルだ!」
「やるか? 今日こそお兄さんお前の眉毛をマロにしちゃうよ!」
「あばばばばばばばば」
 ばしばし牽制し合う二人を引きつれて旅館の廊下を歩くセーシェルは、実は大して慌てていない
口調で言った。
 自分を巡って、と言えば非常に聞こえがよろしかったりよろしくなかったりする喧嘩も、
何度も目の前で繰り返されていれば慣れる。
 大きな声では言えないが、彼女は後ろで喧嘩している双方と肉体的な関係を持っている。
 セーシェルに言わせればあくどい手管でモノにされちゃったしかも二回、って感じなのだが。
 彼女も女である。二人の男と同時に体の関係を持つことに悩んだこともある。悩み抜くところまで
悩み抜いて、ついにどうでも良くなった。今は二人が思っているほど細かいことは気にしていない。
 どーせどっちもほかの綺麗なお姉さんたちともあれやこれややってるのに違いないのである。
だったらセーシェルだってどっちも別に嫌いではないんだから、求めてくる以上応じたって
構わないだろう。
 むしろ二人は自分をダシにして角突き合わせている節があるので、もうほっといている。
喧嘩したい二人が喧嘩しているのにいちいち気を揉むのも面倒だ。
 こういうところに同宿する以上、どっちかと寝ることになることは既に覚悟しているが、
それがどっちかになるかは、本人同士に決めて頂きたい。
 困るのが――
「なぁ、セーシェル! お前だって俺のほうが好きだよな!?」
「下らないこと言うなって。セーシェルはお兄さんのほうが大好きなんだよ。な?セーシェル」
 これだ。
 セーシェルにどっちか決めさせようとする、のが一番困る。
 さすがに本人達を目の前にして
『どっちでもいいです』
 とは言えない。男というのは想像を遥かに超えてナイーブな生き物なのである。
 本心である以上嘘もつきたくはない。
「ははははは」
 笑ってごまかすのが一番だ。日本から伝授してもらったこのごまかし方は対この二人に便利に
使わせてもらっている。
 まず第一、力なく笑う。第二、意味深に頷く。第三、何も言わない。
「ほら! 見ただろうが、セーシェルは俺のがいいってよ!」
「どの節穴がそんな風に見えたんだ? 俺のほうを見ただろうが?」
「あははははははは」
「大体、酔っぱらってフラフラになったセーシェル、ホテルに連れ込んで無理矢理やっちまった
お前がなんで好かれるんだよ?」
「そりゃあ、お前に言われたくないなぁ。お兄さん無理強いなんかしてないし。お前なんか
ホテルに連れて行くまで腕引っ張って連れて行ったって」
「最後はいいかって確認したに決まってるだろ! なんて言われてもセーシェルの処っ……!」
 セーシェルは振り返って眉毛男の顔面に、ちまたでは『最後の楽園』と呼ばれている
右ストレートパンチを叩き込んだ。
「それ以上デカい声で喋り続けたら舌噛んで死にます」
 フランスが優越感たっぷりに、鼻血を出してのたうち回るイギリスに上から言う。
「最初にしたからなんだっていうんだ? セーシェルを初めてイかッ……!」
 その股間に左膝蹴り――通称『至上の楽園』――を放つ。
「次にそういうこと言ったら ホントに死にます」
「殺すの間違いじゃないのか……」
 イギリスが呻いた。
 仲居さんに用意してもらったお風呂セットを胸に抱き直して歩みを進めた。
「ついてこないで下さいね! ご飯の前に一回、全部木でできたお風呂って言うのにに入りたいんで!」
 彼女が先程から目指しており、現在かき分けようとするのれんには大きく『女湯』と書いてある。
「どうせだったら、混浴のほうに……」
 フランスの言葉を無視して、セーシェルはのれんの先へ消えた。
 混浴なんて行ったら、何が起こるかわかったものではない。



続き:831〜888: クリスマス撃墜のお知らせ 英→セー←仏



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